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NL35巻2号 [2024.08]

第4回「国際開発論文コンテスト」選考結果(2024年8月)

人材育成委員会

国際開発に関心を持つ学部生の人材育成を目的とする「第4回国際開発論文コンテスト」について報告致します。

募集概要

募集期間

2024年3月1日~24日(前年秋の学会誌及び学会メーリングリストで広報)

応募状況

応募論文13編(2編が英文)。

2024年3月時点の所属大学は、国際基督教大学(ICU)、大阪大学、お茶の水女子大学、関西学院大学、上智大学、津田塾大学、早稲田大学。

審査結果

それぞれの応募論文を複数の委員で審査した結果、以下の通りとなった。

最優秀論文賞

該当者なし

優秀論文賞

4編(順不同)

伊藤凪沙・安戸乃彩・泥谷結友(早稲田大学)

“Does Health-Related ODA Help Improve Health Outcomes in Developing Countries?”

保健分野におけるODAの効果について、乳児死亡率、HIV有病率、マラリア発症率、結核という4つの指標を視野に入れ、実証的な検証が困難とされてきたODA効果の計量分析(二元配置固定効果推定法や二段階最小二乗法)を用いて作業した意欲的な論文である。

分析結果として、ODAは乳児死亡率とマラリア発症率を減少させる可能性が高く、また、HIV有病率に対して有意な正の相関関係を持ち、さらにODA効果は、国の所得水準やガバナンスレベルにより異なることを明らかにした。

本論文での問題意識の明確さ、多くの先行研究を渉猟している点、そして自身の研究の限界を認識し今後の課題を提示している点など評価された。他方、審査委員からは議論や結論が一般的な考察にとどまっているとの指摘もあった。

大岩祐生・坂下純平他(関西学院大学)

「マダガスカル農村における農業開発:農業技術普及とネットワークの役割」

途上国の農業開発における“持続可能な援助体制”の整備を推進するため、マダガスカル農村地における世帯間の繋がりを表す“社会的ネットワーク”が果たす役割に焦点を当て、19村1073世帯を対象に調査研究を行い、調査結果に基づき今後の援助体制のありかたを検討している。

調査の結果、ネットワーク中心性が高い世帯ほど、①米の農業生産性が向上、②JICAプロジェクトであるPAPRIZ 導入の意思により積極的、③信用制約が存在しない世帯はマイクロセービング加入により積極的、といったことを明らかにしている。

本研究の着眼点は社会的ネットワークであり、世帯主と配偶者での方向性の違いや動態的なネットワーク変遷等、ネットワークの異質性を用いた分析を行っていないことは課題として挙げられるものの、調査結果を基に、援助の効果と既存の援助体制に対する検討作業を行う精力的な論文となっている。他方、審査委員からはリサーチクエスチョンが不明瞭、ネットワーク中心性等の重要概念の定義がわかりにくいなどの指摘があった。

大谷理香(お茶の水女子大学)

「タイにおける都市難民が直面する貧困:バンコクのモン難民コミュニティの事例から」

難民条約未批准国に居住する都市難民(タイのモン難民)に焦点を当て、彼らが直面している貧困の実態を明らかにした上で、就業機会・食・住環境・教育・医療の5つの観点から都市難民の実像を明らかにし、不公平な労働待遇、語学の壁や日常生活の不備の中、彼らが日々葛藤している姿を描き出している。

同時に彼らの持つレジリエンス、すなわち「自助」や「共助」の様相も説明しており、その中において国際社会こそが「公助」の責任を果たし、排斥されてきた都市難民たちを包摂していくべきことを強調しており、賛同できる論文となっている。

審査委員からは、5つの観点からの調査はそれぞれ重要な項目であり、すべてを本論文で詳細に掘り下げることは難しく、分野を絞っての議論の必要性や当事者からみた観点も考慮するのも一案であるという意見もでた。

難民条約未批准国はどのように難民を受け入れ許容しているか、そしてそのような国に住む都市難民はどのような生活を余技なくされているのか、バンコクのモン難民に焦点をあてることにより、彼らの直面するさまざまな不平等や困難性を明らかにした意味は大きく、評価できる内容である。

太田朝弓(お茶の水女子大学)

「カンボジアの社会的養護における脱施設化政策のこれから:「教育環境孤児」の突付ける問題」

カンボジアにおける児童養護施設における脱施設化政策の課題を先行研究のレビューとオンラインでのアンケートによって浮き彫りにし、政策によって生じてしまう教育環境孤児への対応の困難性を適切に指摘した論文である。

脱施設化として、既存の資源と地域コミュニティを重視する支援のあり方を提案し、「教育環境孤児」の問題を国際協力において数値に翻弄されない姿勢の重要性を訴えている。

問題の社会的意義はもちろんのこと、学部学生の執筆する論考として、サンプルの偏りやインタビュー調査人数の少なさは否めないが、実情の把握と議論の充実がはかれていることは高く評価された。定性的な分析のみならず、教育環境孤児となってしまった子ども達の認知・非認知能力などの調査を同時に子ども達へ行うことで、より多角的な検証が可能となるであろう。

表彰等

春季大会での表彰は実施せず、受賞者には賞状と記念品を郵送し、規定の基づく研究奨励金を授与する。

受賞者の声については、次号のニュースレターで掲載する予定。

人材育成委員会
委員長:小山田英治(同志社大学)

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