関西支部(2024年8月)
関西支部:2024年度6月末活動報告
2024年度、関西支部ではハイブリットによる定期的な研究会の開催を計画しました。
本支部が開催する研究会では、国際開発・国際協力に関するさまざまな分野の専門家を招聘し、現在世界的な問題となっているコロナ禍、また、コロナ後における国際開発・国際協力に関する議論を精力的に展開していくことを目的としています。
上記活動に基づき、2023年11月から2024年6月までに実施された研究会についてご報告させていただきます。
【第168回研究会】2023年11月23日(木曜)9:30-10:30(英語)
発表テーマ:
EGRA/EGMA as an Initiative to Realize SDGs 4.2: Cambodian Case
発表者:
Dr. Sitha Chhinh, Senior Researcher, Education Research Council, MOEYS, Cambodia
討論者:
Dr. Sam Sideth Dy, Secretary-General of the National Committee for Life-Long Learning/Deputy Director-General for Education, Ministry of Education, Youth and Sport (MOEYS), Cambodia
参加人数:
36名(対面15名、オンライン21名)
概要:
本研究会では、カンボジア教育スポーツ省のSitha Chhinh博士を招聘し、「EGRA/EGMA as an Initiative to Realize SDGs 4.2: Cambodian Case」をテーマに講演をしていただいた。Sitha博士はカンボジアにおいて、初等教育をはじめとした各教育レベルへの就学率は上昇しているものの、それらに所属する生徒の90%近くがLearning Povertyの状態にあることを言及した。
そのうえで、教育の質の低さを問題提起し、その背景として資格を有した教員の不足、学習時間の不足、学習教材の不足等を挙げ、それらを解決する方法として、EGRA/EGMAの学習を義務付ける必要性があることを述べた。
その一方で、その学習教材の導入にはコストがかかること、教員が指導法を正しく学ぶ必要性があることを課題として指摘した。そして、EGRA/EGMAの実践には政府、教員、家庭すべての協力と理解が必要であると結論付けた。
また、今後の展望として、リモート学習の活用を中心とした生徒の学習の多様化が、場所や時間の制限を無くし、生徒の学習時間・学力の向上に有効であると述べた。講演後は、教育の質を中心に多岐にわたる論点について活発な議論が行われた。本研究会はSitha博士の講演並びにその後の議論を通じてカンボジアにおけるEGRA/EGMAの展望と課題について深い知見を得ることができた大変意義深い研究会となった。
【第169回研究会】2023年11月23日(木曜)8:30-9:30(英語)
発表テーマ:
Recent Reforms in Teacher Development in Cambodia
発表者:
Dr. Sam Sideth Dy, Secretary-General of the National Committee for Life-Long Learning/Deputy Director-General for Education, Ministry of Education, Youth and Sport (MOEYS), Cambodia
討論者:
Dr. Sitha Chhinh, Senior Researcher, Education Research Council, MOEYS, Cambodia
参加人数:
36名(対面15名、オンライン21名)
概要:
本研究会では、カンボジア教育スポーツ省次長のSam Sideth Dy博士を招聘し、「Recent Reforms in Teacher Development in Cambodia」をテーマに講演をしていただいた。Sideth博士は教員の質を向上させることは、学校教育におけるアクセスの改善だけでなく、教育内容の質的向上に資することを言及した。
一方で、基礎教育の普及が進みつつある中で、カンボジア中等教育レベルにおける修了率が低いことを挙げ、これらはカンボジアにおける学習成果向上を妨げてしまう可能性を示唆した。教員採用や教員養成に関する政府の政策や現状、教員配置や教員の給料などを中心に多岐にわたる論点について活発な議論が行われた。
本研究会はSideth博士の講演並びにその後の議論を通じてカンボジアにおける教員養成改革の展望と課題について深い知見を得ることができた大変意義深い研究会となった。
【第170回研究会】2024年1月30日(火曜)17:00-18:30(英語)
発表テーマ:
Changing Landscape of Aid and the World Bank
発表者:
Mr. Yasuaki Yoneyama, World Bank Special Representative, Japan, World Bank Tokyo Office
参加人数:
45名(対面25名、オンライン20名)
概要:
本研究会では、世界銀行東京事務所駐日特別代表の米山泰揚氏を招聘し、「Changing Landscape of Aid and the World Bank」をテーマに講演をしていただいた。米山氏はまず初めに公的資金の流れに関する動きや、過去数十年間の間に援助の流れがどのように変化してきたのかについて言及した。
加えて、こうした援助のあり方が変貌する中、世界銀行がどのように関与していくのか、ドナーや被援助国にとってどのような意味を持つのか、援助効率に与える影響についても示唆した。
日本の援助政策のあり方、中国の巨大経済圏の影響などを中心に多岐にわたる論点について活発な議論が行われた。本研究会は米山氏の講演並びにその後の議論を通じて変貌する援助の今後の展望と課題について深い知見を得ることができた大変意義深い研究会となった。
【第171回研究会】2024年2月1日(木曜)15:30-17:00(英語)
発表テーマ:
Emerging Country of “Global South” Bangladesh as a Model Case
発表者:
H.E. Mr. Kiminori Iwama, Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary, Bangladesh, Embassy of Japan in Bangladesh
参加人数:
48名(対面25名、オンライン23名)
概要:
本研究会では在バングラデシュ日本国大使館・岩間公典特命全権大使を招聘し、「Emerging Country of “Global South” Bangladesh as a Model Case」をテーマとした講演を行った。岩間大使は、「今回の講演ではバングラディシュと日本の二国間関係に焦点を当てる。途上国には共通する課題や事例が多いため、講演内容を自分の国に帰った時に生かしていただきたい。」と述べた。
初めに、バングラディッシュの背景として、基礎情報、経済状況、外交、過去10年に直面した課題についてお話頂いた。特筆すべき点として、バングラディシュは2022年まで毎年6~7パーセントの経済成長を続けており、グローバルサウスと西洋諸国との関係を繋ぐ国として、戦略的に外交関係を築いていることが挙げられた。
その後、日本との二国間関係と題し、二国間関係の開始、これまでの二国間関係、2023年の戦略的パートナーシップ、地域全体に影響を与える国の平和と持続性、2024年の総選挙、今日の経済状況、外交政策についてご説明いただいた。
日本は独立2年後というかなり早い段階でバングラディシュとの外交関係を開始し、開発援助としてJICA青年海外協力隊の派遣(JOCV)や政府開発援助(ODA)を通して50年以上開発援助を行ってきた歴史があるとした。
2023年からは戦略的パートナーシップとして、双方に有益な関係性を築くべく、あり得るべき経済連携協定(EPA)に向けた共同報告書を作成した。このように、本研究会は岩間大使の講演及びその後の議論を通じてバングラディッシュの情勢や日本とバングラディシュの二国間関係について知見を深める意義深い機会となった。
【第172回研究会】2024年4月12日(金曜)17:00-19:00(英語)
発表テーマ:
The Impact of Environmental Factors, Technological Access, Public Safety, and Public Health Outcomes in East Java Province, Indonesia: Methods of Moment Quantile Regression Analysis
発表者:
Ms. Yessi Rahmawati, Assistant Professor, Faculty of Business and Economics, Airlangga University
参加人数:
33名(対面28名、オンライン5名)
概要:
本研究会では、エアランガ大学のYessi Rahmawati助教授を招聘し、「The Impact of Environmental Factors, Technological Access, Public Safety, and Public Health Outcomes in East Java Province, Indonesia: Methods of Moment Quantile Regression Analysis」をテーマとした講演を行っていただいた。
Yessi Rahmawati助教はまず、気候変動や自然災害といった近年の環境問題についてどのような取り組みがなされているのかについて言及し、その中でも都市緑地化が環境問題の解決を考える上で重要な規定因であることを強調した。
次に、インドネシアのEast Java県の地理学的な特性や犯罪率の高さ、そして都市緑地化が比較的進んでいる現状を述べた上で、都市緑地化と保健分野の成果との関係性についてBiopsychosial Pathways theoryとMultiple Deprivation theoryの2つの理論の観点から議論を展開された。
実証的な分析結果では、都市緑地化、技術へのアクセス、犯罪率と保健分野の成果の関係性には統計的に有意な差があることを明らかにし、今後のインドネシアにおける保健分野における政策を示唆した。質疑応答ではインドネシアにおける都市緑地化の現状や今後の展望についてなどの多くの質問が挙がり、多くの知見を深める有意義な研究会となった。
【第173回研究会】2024年4月18日(木曜)17:00-19:00(英語)
発表テーマ:
Making externally funded reforms stick: Challenges and approaches of international cooperation agencies
発表者:
Professor Gita Steiner-Khamsi is the (designated) William Heard Kilpatrick Professor of Comparative Education at Teachers College, Columbia University, New York.
参加人数:
157名(対面52名、オンライン105名)
概要:
本研究会では、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジのGita Steiner-Khamsi教授を招聘し、「Making externally funded reforms stick: Challenges and approaches of international cooperation agencies」をテーマとした講演を行っていただいた。
Steiner-Khamsi教授はまず、教育改革の中でも教育財政、教育の分権化、学校レベルでの説明責任といった教育の質向上ための根幹となる改革の重要性について言及する一方、経年変化や段階的な廃止の観点からも課題が山積していることを強調された。
次に、ドナーや政府間での協力を通じた援助の有効性の向上と、それに伴う制度化・組織化の促進についての議論を展開し、アジア開発銀行(ADB)を事例とした政策転換のためのプロジェクト形成や教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)を例としたカリキュラム改革、政策の形成、遂行、評価のローカリゼーション化といったアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の事例など、国際協力に関係する援助主体の取り組みを正の側面と負の側面の両方の観点から述べられた。
最後に、質疑応答では援助主体の途上国に適した財政的支援のあり方、学校の権限委譲、国々間における教育政策の功績の共有や教育の地方分権化に関する今後の展望についてなどの多くの質問が挙がり、多くの知見を深める有意義な研究会となった。
【第174回研究会】2024年4月20日(土曜)13:00-15:00(英語)
発表テーマ:
Climate Change and Vulnerability Assessment in Bangladesh
発表者:
Professor Maksud Kamal, Vice Chancellor, University of Dhaka
参加人数:
105名(対面35名、オンライン70名)
概要:
本研究会では、ダッカ大学のMaksud Kamal学長を招聘し、「Climate Change and Vulnerability Assessment in Bangladesh」をテーマとした講演を行っていただいた。Maksud Kamal学長はまず気候変動と地球温暖化がそれぞれどのように定義され、どのようなメカニズムで関係しているのかについて言及した。
次に、気候変動に関する国際レベルの協定として、気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)について概説し、温室効果ガス排出国や産業別の排出量の実態に加え、海上レベルの上昇、異常気象、健康被害など地球温暖化が今後どのような影響をもたらすのか、科学的な知見から意見を述べられた。
続いて、バングラデシュを事例として、同国が直面している人口過密や食糧確保などの社会経済の課題と河野氾濫や干ばつなどの自然環境の問題を詳細に指摘し、こうした課題克服のための取り組みや事例を提示した。加えて、バングラデシュの国家戦略の一つであるデルタ計画を例に、環境問題と経済成長という二つの相反する状況をどのように維持していくのか中長期戦略や今後の国策のあり方、国際協調の重要性を述べられた。
最後に質疑応答では、先進国や途上国といった立場の異なる国々間の環境問題に対する考え方や取り組み方、バングラデシュと近隣諸国間の協調についての活発な議論が展開され、地球温暖化や気候変動について国際レベル、国家レベル、個人レベルで成すべきあり方に関する知見を得ることができた大変貴重な研究会となった。
【第175回研究会】2024年5月30日(木曜)15:00-17:00(英語)
発表テーマ:
Transition of Vietnam’s Water Governance toward Sustanability
発表者:
Dr. Seungho Lee, Professor, Graduate School of International Studies, Korea University
参加人数:
35名(対面30名、オンライン5名)
概要:
本研究会では、高麗大学のSeungho Lee教授を招聘し、「Transition of Vietnam’s Water Governance toward Sustanability」をテーマとした講演を行っていただいた。
Seungho Lee教授はまず研究対象国であるベトナムがドイ・モイ政策による経済成長を遂げた東南アジア諸国のうちの一国である一方、同国において気候変動問題が深刻化していることへの危惧を示し、同問題への対処法としてベトナムにおける各アクター間を通じた水資源管理のあり方の重要性を強調した。
実際に、ベトナムにおける韓国国際協力団(KOICA)の水資源情報管理に関するプロジェクトがどのような目標や戦略に基づいて行われてきたのかについて説明がなされた。
次に、ベトナムにおける水資源管理の現状と直面している課題を挙げ、これまで水資源管理に関する法律や規則がトップダウンによって導入されてきたことを指摘し、水資源管理の規律に関してどのような改革がなされてきたのか詳細に述べられた。
最後に、ベトナムにおける水資源管理の政策形成に加え、どのように政策を遂行していくのか、水資源についての情報担保のあり方や同分野への国家予算が不十分であること、さらには政策形成過程への市民関与がなされていないことを課題点として、今後の政策提言をなされた。
質疑応答では、水資源管理に関する喫緊の課題や近隣諸国との関係からみる水資源管理、民主主義体制と社会主義体制下の官民連携のあり方について活発的な議論が展開され、ベトナムにおける水資源管理の変遷についての知見を深めることができた大変貴重な研究会となった。
【第176回研究会】2024年6月20日(木曜)15:00-17:00(英語)
発表テーマ:
Global Development Challenges and the Role of the World Bank
発表者:
Mr. Hideaki Imamura, Dr. Keiko Inoue, Mr. Koichi Omori (World Bank)
参加人数:
67名(対面35名、オンライン32名)
概要:
本研究会では、世界銀行の今村英章氏(世界銀行本部 日本代表理事)、井上景子氏(世界銀行本部 南アジア地域総局 教育プラクティス・マネジャー)、大森功一氏(世界銀行 東京事務所 上級対外関係担当官)を招聘し、「Global Development Challenges and the Role of the World Bank」(グローバルな開発課題と世界銀行の役割)をテーマとしてご講演いただいた。
まず、今村理事がご登壇され、SDGsの17の目標の達成状況に触れながら、「極度の貧困を撲滅し、『繁栄の共有』を促進する」という目標のもと、世界銀行が財政的支援を必要とする途上国と財政市場とをどのように繋いでいるのか説明がなされた。
また、世界銀行の被援助国であった日本が重要なドナー国の一つとなった歴史に触れる一方、世界銀行における日本人職員の占める割合が低いことに対して危惧を示された。次に井上氏がご登壇され、「Why invest in people?」というテーマのもと、どのような子ども達に投資する必要があるのか、なぜ南アジアを支援することが重要なのか、なぜ教育に投資しなければならないのかということについて、人的資本の観点から論じられた。
その際、経済開発の推進力としての人的資本の影響力を強調されるとともに、自分自身の人生に投資することの重要性を説かれた。最後に大森氏がご登壇され、YPP (Young Professional Program) やJoint Japan/WB Graduate Scholarship program (JJ/WBGSP)など、世界銀行が提供する入行の機会をご紹介された。
参加学生へのメッセージとして、自身の経歴がTerms of References (ToR)に合致せずとも、早い段階でどのような募集があるのか、どのようなスキルが求められるのかを把握することの大切さを強調された。質疑応答では、開発協力における世界銀行の中立的な立場のあり方や、限りある資源の中での教育の量と質の両立の難しさ、魅力的なCurriculum Vitae (CV)の書き方について活発な議論が展開された。
国際社会における世界銀行の役割について知見を深め、世界銀行の職員として国際社会に貢献する将来を見据えることができた大変貴重な研究会となった。
【第177回研究会】2024年6月26日(水曜)17:00-19:00(英語)
発表テーマ:
Global Water Crisis – How to manage water better?
発表者:
Dr. Toru Konishi, Visiting Professor, Tokyo Metropolitan University/ Former Senior Water Resource Economist, World Bank
参加人数:
26名(対面21名、オンライン5名)
概要(日本語):
本研究会では、東京都立大学客員教授で元世界銀行シニア水資源エコノミストの小西徹博士を招聘し、「Global Water Crisis – How to manage water better?」という題目で世界の水資源をめぐる問題について講演を行っていただいた。
小西博士はまず、世界全体の水資源のうち飲料水として使用可能なのは僅か4%しか存在しないことを指摘し、水資源に関する基本的な情報についてデータを示しながら解説された。次に、水資源の問題と他の分野における開発問題との関係性について言及し、持続可能な開発目標(SDGs)達成のための喫緊の課題が水資源問題であることを強調した。
また、水資源に関する問題は分野横断的であり、経済学、工学、社会学、公共政策学などの複合的な観点から問題を捉えることの重要性を示唆した上で、パキスタンやラオスを事例とし、これらの国々が直面している洪水災害の現状や地域特有の問題について説明した。
さらに、小西博士自身の実務経験に基づいて、世界銀行が実施してきた水資源プロジェクトを紹介し、水資源に関連する問題は、世界銀行のような国際機関と草の根活動をしているNGOなどの他のアクターでは捉え方が全く異なることを指摘した。
講演後には参加者との活発な質疑応答が行われ、多岐にわたる学生の質問に対して、小西博士が豊富な知識と経験に基づきながら自身の見解を述べられた。世界全体で環境問題が深刻化する中、水資源問題が複数の国家間に共通する重要な課題であり、それらの問題を理解するためには分野横断的な知識や視点が必要であることを学ぶ大変貴重な研究会となった。
関西支部
支部長:小川啓一(神戸大学)
副支部長:關谷武司(関西学院大学)