第36回・全国大会セッション報告:一般口頭発表・M
一般口頭発表
[M1] 平和構築の多次元的アプローチ:国家・地域・コミュニティレベルでの紛争対応(11月29日)
- 日時:2025年11月29日 09:30 – 11:30
- 聴講人数:25名
- 座長:栗田英幸(愛媛大学)
- コメンテーター:富樫マハバット(同志社大学)、栗田英幸(愛媛大学)、堀江正伸(青山学院大学)
第1発表:Social and Economic Factors behind Conflicts in the Kyrgyz-Tajikistan Border Region: Towards Peace and Stability in the Ferghana Valley
発表者
- 二瓶直樹(早稲田大学)/ Naoki NIHEI(Waseda University)
コメント・応答など
コメント・質問:ウズベキスタン、カジキスタン、キルギスタン3カ国による境界に関する画期的な政治的合意の重要性について興味深く希望の持てる報告がなされた。それをなし遂げるに至った要因、そして、実際にそれを現場レベルでの効果に落とし込むための要因について知りたい。
応答:中央アジア内部の要因に加え、ウクライナ戦争によるロシアの影響低下を含めた多くの外部要因の特殊なバランスによってなされた。しかし、これはマクロレベルでの動きでしかなく、キャパシティサポートや友情構築といった本報告で重視したミクロレベルでの活動があって可能となるものであり、継続的な国際的サポートが引き続き重要である。
第2発表:New dynamics of herder-farmer conflict in Africa
発表者
- FU Hoi Yee(専修大学)/ FU Hoi Yee(Senshu University)
コメント・応答など
コメント・質問:数多くのアクターと要因によって極度に複雑化したナイジェリアにおける農牧民紛争を、5つの因果関係にまとめ、相互の連関を明示し、問題を包括的、相互連関的に捉えようとする報告者の試みは、しばしば一つの因果関係の解決手段が他の因果関係を悪化させている現在の閉塞状況を打開するための大きな一歩となり得る。この研究に関係して報告者が現在注目している取り組みは何か、そして、国際支援なしには効果的な対応策を実施することが困難であると思われるがどのような国際的支援が効果的であると考えているのかを知りたい。
応答:環境と資源管理の一環として、現在政府によって進められている牧草保護地や移動ルートの確保が重要、土地権利システムの改善が決定的に重要。そこでは、農牧民両サイドの意見と慣習を取り入れ、透明性の高いものに統一化しなければならない。国際的な協力について、アフリカ最大の人口を抱えており、さらに石油の生産国であることから、ナイジェリアの安定が国際的に強く求められているという点から、農牧民紛争への国際社会のコミットメントが重要であり、期待できる。
第3発表:Traditional Justice Systems: Conflict Mediation in Mt. Province and Zamboanga
発表者
- Patria Luwalhati Garcia(Ateneo de Manila University)
- Haraya Marikit Mendoza(Ateneo de Manila University)
コメント・応答など
コメント・質問:ローカルおよびその文化を紛争の解決と結びつける試みは、非常に意義あるものである。しかし、この枠組みには曖昧さが残ってしまっている。それは、ローカルなコンテキストにおいてローカル・ジャスティスの定義が曖昧であり、その時々、扱う人々、置かれた状況によって大きく異なりうる不安定なものであるということ。それをどのように位置付けるのか。また、制度化、精緻化するともはや別物になってしまうのではないか。
応答:現場での認識の不安定さに関しては、私たちの調査が1960年代から行っている大規模なものであり、そのダイナミックな変化の中での変化・方向性を明らかにしようとするものであるため、研究として大きな問題ないものと考えている。しかし、不安定さ、多様さがローカル・ジャスティスの陥りやすい問題であることは間違いない。制度化に関しては、私の知る限り文書化、精緻化されるようなものにはなっていないので今のところ問題ないと考える。
第4発表:独立支援の成果と課題:東ティモール独立プロセスの事例研究
発表者
- 坂根 宏治(島根大学)/ Koji Sakane(Shimane University)
コメント・応答など
コメント・質問:東チモール独立成功話の背後に隠れていた現実に焦点が当たられたという点で意義のある研究。歴史や民族に関して捻じ曲げられきたこれまでの独立を支持する認識に、今一度目をむける必要がある。大統領を務めてきた2名のリーダーがいなくなった後、東チモールはどうなるのか、また、ASEAN加入の背景にある東チモール、ASEAN双方の思惑について教えてほしい。
応答:実際、今の古きリーダーの下で内政はほとんど動いていない。貧しいままで硬直してしまっている。30代はしっかりとした意見を持っているように見える。その人たちに期待したい。独立に対して批判的な人、がっかりしている国民の声もそれなりにある。しかし、多くの人はあまり気にしていないのも事実。ASEANとしては地政学的に中国等のことを念頭に入れているのだろう。東チモールとしては、何らかの利益が得られるとの漠然な期待を持っている程度かもしれない。ASEANの数多くの多様な会議についていける人材が国内いるのか不安が残る。
総括
紛争が世界各国に拡大し、国際的な支援の重要性が高まっている。しかし、今回の報告では、紛争の予防・解決のためのローカル知の重要性やその組み込みに焦点が当てられていた。
本セッションは、ローカル知とナショナル制度・政策、グローバル支援のベスト・ミックス、ベター・ミックスを見つけ出す、まさにグローカルな活動・対策の重要性を再確認し、深めるものであった。
[M2] 協同と共有の力学: 農業・労働・森林にみる地域ガバナンスの展開
- 日時:2025年11月29日 12:40 -14:55
- 聴講人数:15名
- 座長:佐藤仁(東京大学東洋文化研究所)
- コメンテーター:佐藤仁(東京大学東洋文化研究所)、池上甲一(近畿大学)
第1発表:Do Cooperatives Pay Off? Evidence from Wild Coffee Farmers in Zegie Peninsula, Northwest Ethiopia
発表者
- Nardos Mulatie Mekonnen et al.
コメント・応答など
The presentation highlighted the functions of cooperatives in the context of Northwest Ethiopia and analyze how inactive or partial functioning of cooperatives might affect their profitability. Questions were raised on the definition of inactive/partial functioning, and the role of middlemen. There was also some question on the impact of supply chain in determining the performance of cooperatives.
第2発表:ケニアにおける労働者協同組合の実践と課題-市場の要請と協同労働の狭間で-(日本語発表)
発表者
- 一栁 智子(徳島大学)
コメント・応答など
ケニア都市部ナイロビにおける廃棄物処理をめぐる労働組合の機能に関する研究で、特に開発援助の一環として形成された労働者共同組合の活動実態に関する報告が行われた。討論では、組合が制度がされる以前に存在した相互扶助組織の有無や機能、組合の収益と分配のメカニズム、「民主的管理」の実態などについての質問がなされた。
第3発表:ネパールにおけるコミュニティ森林管理の展開と課題について(日本語発表、オンライン)
発表者
- バタライ ビノド(東京外国語大学)
コメント・応答など
ネパールにおけるコミュニティ林政策の変遷と、それがネパールの森林環境に与える影響をサーベイした報告であった。討論では、日本の里山と比較する可能性、コミュニティー林に限らない森林制度全体とカーボンクレジットの関、著者自身の学術的貢献の所在などについての質問がなされた。
第4発表:共有林保全意識の社会経済的要因:エチオピアシダマ州の事例(日本語発表)
発表者
- 鬼木俊次(国際農林水産業センター)ほか。
コメント・応答など
エチオピアのシダマ州において共有林保全意識の実態調査に関する報告であった。特に、人々が森林を守る理由として、空気の浄化や酸素の共有といった公益的な理由を重視している点が注目され、そのことと功利主義的な考え方との対立が考察対象となった。討論では、森林の効用モデルと破壊モデルの関係、かつて著者らがおこなったモンゴルでの研究との関係、公共的倫理と功利主義とのより実態的な関係などについての質問があった。
総括
個別に応募されたセッションであったが、意外に報告同士の関連が顕著にみられるセッションとなった。他方で、英語と日本語が同じセッションに混ざっていたこともあり、会員同士の交流に制約があった点も指摘しなくてはならない。また、政策を表面的になぞるだけで学問的な貢献が不明確な報告が見られたのは残念であった。いずれの報告も、先行研究の渉猟を踏まえた明確な問いの設定をすることで、さらに研究の意義を打ち出せるのではないかと感じた。今後の研究の深化を期待している。
[M3] 難民教育の現実と展望:アクセス拡大から質の向上へ向けた多角的検討
- 日時:2025年11月29日 14:55 -16:55
- 聴講人数:16名
- 座長:内海 悠二(名古屋大学)
- コメンテーター:内海 悠二(名古屋大学)、坂口 真康(大阪大学)
第1発表:難民キャンプにおける熟議によるガバナンスは難民の「尊厳を持って生きる権利」をいかに実現するのか?
~パレスチナ難民キャンプの実践から導く、長期化する難民問題への示唆~
発表者
- 関口 正也 (株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバル)
コメント・応答など
関口報告は、パレスチナ難民キャンプのボトムアップ型住民参加プロジェクトを事例に、熟議民主主義理論を用いて参加プロセスを分析したものであった。長年の実践経験に基づく詳細な描写により、キャンプ改善フォーラム(CIF)の構造と意義が示された。質疑では、1.実践者として「成功」を示したいインセンティブと研究者としての批判的距離の取り方、2.CIFや熟議プロセスにおける「失敗」や「限界」の有無と内容、3.外部支援縮小後もCIFが自律的に機能し得るのかという持続可能性、4.熟議の質を測る指標や、一部の声の大きい参加者が議論を支配していないかの確認方法などが問われた。関口会員は、すべてのCIFで目的が達成されたわけではないが、住民の参加意識の向上という点で本プロジェクトには意義があったと応答し、今後の他地域への応用可能性や理論的示唆についても言及した。とりわけ、熟議民主主義の概念を現場実践と接続した点が、本報告の独自性として高く評価された。今後の追跡研究や比較研究の展開も期待される。
第2発表:長期化する難民状況下における成人学習-タイ国境のミャンマー難民キャンプの事例
発表者
- 三宅 隆史 (立教大学)
コメント・応答など
三宅報告は、ミャンマー=タイ国境地帯のミャンマー難民キャンプを事例に、キャンプ内の成人学習の現状を報告したものであった。現在、同キャンプでは識字教育、職業訓練、市民性教育、高等教育が組織的に展開されており、計19の組織が関与している。各プログラムには固有の課題があるものの、全体として成人学習は多層的な機能を果たしており、経済的機能としては職業訓練が小規模ビジネスや生計向上につながり、タイ語教育が就労機会の拡大に寄与している。また、社会的・心理的機能として、アイデンティティの維持や社会的つながりの形成、「自信」「希望」「社会貢献意識」の獲得が観察された。質疑では、1.識字は本来、職業訓練や市民性教育等の基盤となるはずだが、なぜ優先順位が相対的に低いのか、2.非識字状態が他の成人学習プログラムの効果を制約している可能性をどう評価するか、3.成人学習の経済的・社会的・心理的効果を測定する具体的指標や方法をどのように設計し得るか、4.キャンプ内の非識字率がミャンマー政府の公表する全国的な識字率と乖離する要因をどう解釈するか、といった点が問われた。
第3発表:マレーシア難民学習センターにおける教材選定の実態と課題-教師視点からみた教育の質
発表者
- SUN YAN (東洋大学)
コメント・応答など
Sun Yan報告は、マレーシアにおける難民学習センターを対象に、3校での授業観察と教員インタビューを通じて、使用教材の選定過程を分析したものであった。とりわけ、キリスト教系の教科書であるACEが、イスラム系組織が運営する学習センターにおいていかに採用され、現場レベルでどのように解釈・適用されていったのかが丁寧に描き出され、宗教的背景の異なる文脈における教材受容のダイナミクスを明らかにした点が印象的であった。質疑では、1.ボランティアとされる立場の者がどの程度教材選定に関与し得たのか、2.教育(teaching)と学習(learning)は概念的に異なるが、各センターの校長はその違いを理解したうえで運営していたのか、3.ロヒンギャ難民はマレーシアでの長期滞在を望んでいないのか、それとも望んでも叶わない状況に置かれているのか、4.キリスト教系列の教材がイスラム系組織で用いられることの意義と、その教材がデジタル化されることで世界各地の難民キャンプにおける教育実践を近接させうる可能性などが問われた。
第4発表:シリア政変後の難民教育の現状と課題-ヨルダン教員へのアンケート調査から
発表者
- 小松 太郎(上智大学)
- 宮内 繭子(ワールドビジョン・ジャパン)
- 池之谷 理恵(ワールドビジョン・ジャパン)
コメント・応答など
小松・宮内報告は、ヨルダンにおけるヨルダン人教員がシリア人難民児童への教育をどのように認識しているかについて、現地で実施した教員アンケートの分析を通じて明らかにしたものであった。アンケート結果を手掛かりに、教室内での関わりや負担感、支援の必要性など、受入社会側教員の視点から難民教育の現状と課題が整理された点に意義がある。質疑では、1.回答者の87%が女性であったことに関連して、ヨルダンの教員構成自体が女性に偏っているのかどうか、2.シリア人児童との接触を通じて約30%のヨルダン人教員の態度が変化したという結果を、多いと見るべきか少ないと見るべきか、その解釈の仕方、3.ヨルダンにおける心理的ケアの不足が指摘されるなかで、教員はどの範囲まで教育者として対応すべきか、あるいはソーシャルワーカー等との役割分担をどう考えるか、といった点が問われた。これに対し小松会員・宮内会員からは、小学校3年生まではヨルダンでは女性教員がもともと多いこと、態度の変化についてはアンケート設計に調整を加えたうえでも約3割という数字は一定程度大きいと評価できること、心理的ケアについては教員が軽微なケースには一次的に対応しつつ、より重度のケースを早期に発見し専門職につなぐ体制が理想的ではないかとの見解が示された。
総括
本セッションでは、会場設備の不具合により開始が約5分遅れた。また、本大会の最終時間帯に設定されていたこともあり、参加者数は当初の想定より多くはなかったものの、各報告はいずれも理論的検討と実践的知見の双方を重視したものであり、総じて意義深い内容であった。報告者およびコメンテーターが一部で規定時間をやや超過したため、フロアからの質疑を十分に拾い切れなかった点は課題として残ったが、他の報告者からも積極的に質問やコメントが寄せられ、セッション全体としては活発な議論が展開された。一方で、会場環境については改善の余地がある。当セッション会場は隣室との仕切りが簡易的なパーティションのみであったため、隣のセッションの音声が聞こえ、騒がしさを感じる場面があった。参加者の中には、報告者の声が聞き取りづらいとの声もあり、今後は音環境を含めた会場設定への配慮が望まれる。
「第36回全国大会」大会報告ページ
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