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NL37巻1号 [2026.02]

第36回全国大会セッション報告:ラウンドテーブル(D, E)

ラウンドテーブル


[D1]海外フィールドワーク・海外ボランティアと月経対処
―月経レンズを通じて観る現地と自分―

Menstrual Care while Doing Fieldwork and Volunteering Abroad:
Seeing the local area and ourselves through the lens of menstruation

  • 日時:2025年11月29日 9:30 - 11:30
  • 聴講人数:22名
  • 座長/企画責任者:杉田映理(大阪大学)
  • コメンテーター/討論者:岩佐光広(高知大学)

第1発表:趣旨説明:なぜ海外フィールドワーク・海外ボランティアと月経対処なのか?

Purpose & Background: Why Menstrual Management Matters in Overseas Fieldwork and Volunteering?

発表者

  • 杉田映理(大阪大学)/ Sugita, Elli W. (University of Osaka)

第2発表:月経レンズでフィールドを観る・フィールドワークを語る

Through the lens of menstruation, Observing the field and fieldworkers

発表者

  • 新本万里子 (広島市立大学)/ Shinmoto, Mariko (Hiroshima City University)

第3発表:「現地」と「わたし」の困りごとを つなぐ‘月経レンズ’という切り口
—JICA海外協力隊を対象とするアンケート結果を中心とする話題提供—

Connecting Local Challenges and Personal Struggles through the Lens of menstruation:
Insights from a Survey of JICA Overseas Cooperation Volunteers

発表者

  • 小國和子 (日本福祉大学)/ Oguni, Kazuko (Nihon Fukushi University)

第4発表:フィールドワーク中の月経対処:困りごとと配慮のありかた
—フィールド系学会会員を対象とするアンケート結果より−

Menstrual Management During Fieldwork: Challenges and Considerations:
Voices from a Survey of Members of Fieldwork-Oriented Academic Societies

発表者

  • 四方篝(京都大学)/ Shikata-Yasuoka, Kagari (Kyoto University)

総括

女性の研究者・学生・ボランティアが少なくない中で、海外フィールドワーク等の活動における安全の手引きはある一方で、ジェンダー別の項目は少なく、月経についてはほぼ触れられていない。月経について言及することが憚られる中、実は当事者の困りごとは多い。こうした状況について、ざっくばらんにラウンドテーブル形式で意見交換を行うことが本ラウンドテーブルの目的のひとつであった。さらに、「私たち」の月経だけでなく、月経という一つのレンズを通してフィールドを観ることで、あらたな現地の社会の理解やニーズの把握につなげることも目的とした。

話題提供として、パプアニューギニアのアベラムの社会で、いかに月経が生業の営みと深く関わってるのかが報告されるとともに、長年フィールドワークをしている者でもあえて月経対処に目を向けるまで見えていない文化があったことが示された。また、JICA海外協力隊を対象とするアンケート結果からも、自分たちが月経についての困りごとが多いことに比して、現地月経事情は把握していない状況が浮き彫りにされた。フィールド系学会会員を対象とするアンケート結果と共通していた困りごとの1位は、生理用品の廃棄の問題であった。さらに、アンケート結果から周りの配慮のあり方についても、トイレ休憩の確保、スケジュール調整、相談できる環境の確保など、具体的な糸口が示唆された。

唯一の男性参加者となった討論者からは、「生理で困っている」ことの前提を理解することの難しさが示された。特に月経対処の自己責任論から一歩踏む出すための、具体的な5W1Hの必要性が語られた。

参加者からは、大別すると、次のような質問や議論があった。①フィールドワーカー/ボランティアの月経対処の方法、特に、ピルの服用とその認識について。中には、あえてピルで月経の時期をずらすことをせず、現地の状況を自ら体験したという参加者もいた。つぎに、②フィールドワーク先と日本の月経教育・性教育について。外部者として月経教育や月経対処支援の介入をする際の継続性の課題や、「普通」の違いなどについても議論された。当初、論点の1つとして考えていた③他者からの月経への配慮については、参加者の構成もあってか議論が十分にできなかったが、日本国内での性教育の場で、性別を超えて相手のことを学ぶ理由として「知っていたら心配できるから」という男児の意見が紹介された。

報告者:杉田映理(大阪大学)

[D2] 「移住と開発」研究の架橋に向けてー東南アジアと日本をつなぐ移住者の例に学ぶ

Building Bridges between “Migration and Development” Research: Learning from Migrants Bridging Southeast Asia and Japan

  • 日時:2025年11月29日 12:40 - 14:40
  • 聴講人数:21名
  • 座長/企画責任者:加藤丈太郎(明治学院大学)
  • コメンテーター/討論者:佐藤寛(開発社会学舎)

第1発表:技能移転とケイパビリティの拡張を可能とするにはーベトナムに帰国した元技能実習生のケーススタディから

発表者

  • 加藤 丈太郎(明治学院大学)/ Kato Jotaro(Meiji Gakuin University)

コメント・応答など

討論者からはまず、技能実習制度の成果を評価することが制度の構造的問題を覆い隠す危険性への注意喚起が示された。他方で、本研究が技能に加え、ブルジューの資本概念を媒介にケイパビリティを可視化した点や、「職業経路表」が技能移転の成立条件や断絶を分析可能にした点は評価された。

フロアからは、カンボジア人技能実習生における、日本入国後の職業と将来の目標が乖離する事例が紹介され、これを踏まえ、ベトナム人技能実習生の事例では個人の動機、専門性、実習内容との産業的連続性が重要であることが確認された。また、リクルート段階で給与や勤務地のみならず「将来展望」「技能活用意図」「ケイパビリティに関連する要素」を含めたマッチングを行う必要性が指摘された。サンプリングに関する質問に対しては、複数の属性が異なる人を起点とすることで多様なケースを集めた旨が説明された。さらに、社会関係資本が研修施設、宗教施設、職場ネットワークなど複数の場を通じて培われている点が共有された。最後に、日本の自立支援・就労支援の知見が送り出し国でのリクルート段階にも応用可能であるとの示唆が得られた。

第2発表:帰国したベトナム人介護福祉士による祖母の介護に関する事例研究:ミクロな実践プロセスが映し出す「移住と開発」の可能性

発表者

  • 比留間洋一(静岡大学)/ Hiruma Yoichi (Shizuoka University)

コメント・応答など

コメンテーターから、事例研究として重要なのは「発見」であり、本報告の場合、心のケアの不足の「発見」等があった、とのコメントがあった。加えて、移転できる/できないの違いについて、ケアのありかた、器具、心構えなど項目ごとに分けられるとの指摘(整理)があった。フロアから本報告への質問はなかったが、RTD全体に対して、社会関係資本の蓄積に必要な条件についての質問があり、EPA介護福祉士候補者の場合は来日前1年間の全寮制の研修を通して仲間が形成される旨、応答した。

第3発表:技能実習生送出国の地方自治体による国際労働移動の推進―フィリピン・ベンゲット州の農業振興に向けた戦略

発表者

  • 二階堂裕子(ノートルダム清心女子大学)/ Nikaido Yuko (Notre Dame Seishin University)

コメント・応答など

「日本で働く外国人のウェルビーイングを規定する要因とは何か」という質問に対して、就労先社会の歴史的文化的背景の要素が、外国人労働者と地域住民の関係のありように影響をもたらす可能性があることを述べた。また、技能移転の実現を左右する要因として、就労先企業の関係者が「どのような技術・知識を身に付けて帰国することが技能実習生の送り出し社会にとって有益であるか」を理解しているか否かという点を指摘した。さらに、技能実習制度の運用にあたり、技能実習生の送り出し社会におけるニーズを十分把握したうえで、その情報を就労先企業と共有すべきであったのに、そうした対応が不在であったという問題点について言及した。

総括

本ラウンドテーブルでは、三つの報告を通じて、移住者の経験が送り出し社会でどのように再構築されるかが示された。いずれの報告も、サンプルは限定的で統計的代表性こそ持たないが、丹念に事例を追い要素を抽出することで、制度・地域・家族・主体性が交差する社会過程が可視化された点に大きな価値がある。すなわち、ケースは「例外」ではなく、分析によって社会構造を照らし出す入口となりうる。本ラウンドテーブルは、「移住と開発」研究において、東南アジアと日本をつなぐ新たな経験知を積み重ねる基盤となった。

報告者:加藤丈太郎(明治学院大学)

[D3] サステイナビリティの往還回路: 国際開発協力が生み出す内外接続のデザイン

Circuits of Sustainability: Designing Inside-Outside Linkages through Japan’s International Development Cooperation

  • 日時:2025年11月29日 14:55 - 16:55
  • 聴講人数:約10名
  • 座長/企画責任者:佐藤寛(開発社会学舎)
  • コメンテーター/討論者:大山貴稔(九州工業大学)

第1発表:サステイナビリティの往還回路: 国際開発協力が生み出す内外接続のデザイン

発表者

  • キム・ソヤン (企画者―韓国ソガン大学)

コメント・応答など

Sustainability for Development Cooperation(以下、DC。財源・制度・支持基盤など、国際開発協力そのもののレジリエンス)をめぐって、「もし1980年代末から1990年代初頭にかけて援助庁が設立されていたならば、Sustainability for DCを支える国内社会との連携は、より円滑に進められたのではないか」という論点が提示された。外務省とは異なる政策共同体や官僚組織として開発協力機関が形成されていれば、「外交」から切り離された形で、国内政策と統合した総合的な協力体制がつくられる可能性もあった。その場合、国内事業の比重や位置づけも現在とは異なるものになっていたのではないのか。欧州諸国が援助庁(例:DFIDやSIDAなど)的な組織を持ちながらも、国内事業に力を入れていない理由、またそれに関する研究がほとんど存在しない点について、欧州のドナー国と日本との「内」と「外」に対する捉え方の違いが、国際的に活動する人材に求められる役割や期待にどのように影響しているのか議論された。

第2発表:対外援助⾏政の「制度化」と「持続化」−対外援助における中央・地⽅関係に着⽬して

発表者

  • 松原直輝(東京大学)

コメント・応答など

「開発課題をどの程度汲み取っているのか」という点が主要な論点として提示された。SDGsと地方創生の相互浸透・融合が進む一方で、「地方創生」がしばしば地方における優秀な「人材」獲得を促す政策言語として機能することにより、実際の地方の開発課題との間に乖離が生じている。具体的には、老朽化したインフラ、医療アクセスの困難、公共交通機関の衰退、労働力不足、移民政策の現場化など、従来「開発途上国」に見られた課題が日本の地方でも異なる形で再浮上していることが指摘された。フロアからは、こうした「地方創生」と「地方の開発課題」とのズレに関して、地方創生政策の中で「国際人材」を国内の新たなフロンティアにどう活用できるか、また人材の「還流」は開発とどのように関連し得るのかという質問が出された。さらに、「開発協力」と「通常の国際交流」との違いについても議論が交わされ、地方創生の文脈における開発協力の意味と方向性が検討された。

第3発表:ストックテイキング調査のご紹介を通じて

発表者

  • 折田朋美(JICA緒方貞子平和開発研究所)

コメント・応答など

国内事業を通じてSustainability for DCを実現する上で、いかなる形の「環流(還流)」を構想・設計すべきか、という論点が提起された。「国際人材」の活用にとどまらず、日本的な標準・手法を途上国で展開することで、日本・パートナー国・受益国の産業・政策ネットワークが循環する仕組みなども可能である。こうした議論が「Sustainability for DC」および「Sustainability through DC」という双方の視点を統合的に捉えるための概念化に、どのような示唆を与えるのかについても議論が行われた。「人」の往来こそが還流の本質であり、国内外をつなぐ「専門家」の育成・プールが重要な論点である。例えば、国内の地域おこし人材が、青年海外協力隊として海外に関わることを望むのか。英語・フランス語圏など旧植民地との言語的親和性をもつ欧米ドナー国では専門職人材が国際・国内を自由に往来できる仕組み(還流)が既に機能しているのではないのか。日本の場合、言語障壁が大きな問題で、国内機関を活用しながら人材を募集・共有・還流させる制度設計の必要性があったのでは。何が還流し得るのか(イデオロギ、アプローチ、プロジェクト成果など)。

総括

上記以外にも議論された点をいくつか挙げておく。

(1)国内開発と国際開発のつながりについて:日本のdomesticな内なる問題と国際開発協力で携わる外なる問題を統合的に見ているまたは見ることが出来る人がほぼいない点が指摘された。また、社会が拡張していた過去の援助のあり方と社会が縮小していくときの援助の在り方の違いに開発協力業界はどのように(特に制度的に)向き合い・対応・変革していかなければならないのかについてもコメントがあった。

(2)援助庁が設置された場合について:内閣府(or 総理府)の下に援助庁が設置されていたら国益にぶら下がらない援助の領域が広がった可能性、そのかわり潰されやすくなっていたり、また国内事業に権限は与えられない可能性があったのではないか。(3)国内開発と国際開発の人材的連続性について: 欧州では人材面で国内外でうまく連続しているので援助機関が国内事業を行う必要がなかった。対して、日本でも、開発協力という枠組みを使わずとも、各省・地方自治体が自由に国際的な交流や連携を持てるような時代になった。

報告者:キム・ソヤン (韓国ソガン大学)

[E1] 未知の地域社会をどう紐解くか
—開発現場で立ち上がる問いを手がかりに

How Do We Approach an ‘Unfamiliar Local Society’?
— Field-Based Reflections on Emerging Questions in Development Practice

  • 日時:2025年11月29日 9:30 ー 11:30
  • 聴講人数:5名
  • 座長/企画責任者:秋吉 恵(立命館大学)

1. 問題提起:現場の実践から「地域社会のわからなさ」を考える

発表者

  • 伊藤 淳子(特定非営利活動法人パルシック)

2. 話題提供①:見知らぬ地域社会をどう捉えたか ― 組織反応分析法の試行

発表者

  • 重冨 真一(明治学院大学)

3. 話題提供②:現場での問いの具体化と調査設計の工夫

発表者

  • 秋吉 恵(立命館大学)

4. 若手研究者による応答と拡張的検討①:「本当に住民組織化は必要なのか」「組織化してもうまくいかない」組織反応分析法に関する書評にあった開発現場の悩みを考えたい

発表者

  • 一栁 智子(徳島大学・専門研究員、立命館大学)

5. 若手研究者による応答と拡張的検討②:インドネシアの地域母子保健活動(Posyandu)を通して地域社会を観るために、「組織反応分析法」をどう活用するか

発表者

    • 八田 早恵子(日本福祉大学・大学院生、名古屋学芸大学)

ラウンドテーブルでの報告まとめ

本ラウンドテーブル「未知の地域社会をどう紐解くか」では、外部者がフィールドに入り、限られた時間で地域社会の構造をどのように把握するかという根源的な問いが共有された。伊藤(パルシック)は、20年以上にわたる東ティモールでの農民組織化支援の実践を振り返り、コーヒー生産者協同組合を立ち上げる過程で直面した「地域社会の前提が見えない」という支援者側の“わからなさ”を率直に提示した。住民の意思決定や協働の背景にある慣習・歴史・権力構造への理解が欠けると、外部からの働きかけが機能しないことが繰り返し強調された。

続く重冨(明治学院大)は、初めて足を踏み入れた東ティモールで「組織反応分析法」を試み、支援介入に対する住民の反応を手がかりに、地域社会の組織力・動員構造・集団内部の分岐を読み解くプロセスを紹介した。伊藤の実践を“外側から”分析することで、「住民の自己組織化のメカニズム」を大づかみに把握するための視点が示された。

秋吉(立命館大)は、短期調査に同行した研究者の立場から、あらかじめ用意した質問だけでは捉えきれない「地域社会のわからなさ」に、現場でどのように向き合い、問いを具体化していったのかを報告した。共同行動の単位や担い手、歴史的経験、制度や規範といった論点が、住民の語りへの応答や追加質問を通じて連鎖的に立ち上がり、調査設計そのものが更新されていく過程が示された。そのうえで、地域社会を知るとは、固定的な問いによって情報を集めることではなく、調査の過程における現場との対話を通じて、調査者と地域がともに理解の枠組みを形づくっていく営みであると論じた。

さらに一栁(徳島大)・八田(日本福祉大)が、自身の研究現場と重ねながら議論を拡張し、「未知の地域社会を読み解く研究者の認知枠組みそのものを可視化する」重要性が強調された。

フロアとの議論

議論では、本ラウンドテーブルが「フィールドに入るとはどういうことか」を再考させる場として高く評価されていた。特に、外部者が地域社会に対して抱く「わからなさ」を出発点に据え、それを恥じるのではなく、問いを生成する源泉として捉え直す姿勢が参加者に強い示唆を与えていた。また、重冨の組織反応分析法に対しては、「開発介入をめぐる介入者/被介入者それぞれの視差を捉える有効な手法だ」とする意見が寄せられた。

短期調査の中で秋吉が提示した「問いが生成され、再編されていくプロセス」も関心を集め、参加者からは「自分が現場で何に着目しているのかを言語化できるようになった」「わからなさと向き合うための認知枠組みがクリアになった」といった声が多く上がった。全体として、テクニカルな調査手法の紹介にとどまらず、地域社会を理解しようとする認識そのものを揺さぶる対話の場として、学術的にも実践的にも価値あるセッションであったと評価される。

報告者:秋吉 恵(立命館大学)

[E2] 沖縄から開発学を紡ぎ直す —日本の内なるポストコロニアル空間を再訪する—

Reweaving Development studies through Okinawa: Epistemologies of internal Postcolonial Space

  • 日時:2025年11月29日 12:40 - 14:40
  • 聴講人数:5〜10名
  • 座長/企画責任者:汪 牧耘(東京大学)
  • コメンテーター/討論者:古波藏 契(東京科学大学)、崎濱 紗奈 (東京大学)、松原 直輝 (東京大学)

第1発表:趣旨説明:なぜ〈沖縄〉と「国際開発」なのか

発表者

  • 汪 牧耘(東京大学)

コメント・応答など

国際開発学会において沖縄は周縁化されてきた。『国際開発研究』誌に沖縄を扱う論文は皆無であり、『国際開発学事典』でも言及は九州・沖縄サミットのみであった。沖縄を主題とするセッションは過去に2回、沖縄大学と陸前高田という「特殊な場」でのみ開催された。本セッションの目的は、沖縄を単なる事例として追加するのではなく、日本の国際開発研究の「立脚点」として位置づけ直すことである。「日本的な対等なパートナーシップ」「近代化の成功経験」といった言説は、沖縄に立てばその恣意性ないし暴力性が露わになるからである。戦後80年の節目に広島で開催される本学会において、「平和・平和の手段としての開発とは何か」という問いを突きつける沖縄の声に耳を傾け、歴史社会学・沖縄思想史・援助行政学という異分野を接続する試みを行う。

第2発表:戦後の沖縄開発は住民心性をどう変えたか

発表者

  • 古波藏 契(東京科学大学)

コメント・応答など

米軍統治下の沖縄開発は「基地の自由使用」という目的に対する手段だった。住民には「近代化の恩恵」を語りながら、本国には「予算不足」を訴えるという二枚舌が用いられた。高度成長は、軍用地代や日本政府の沖縄産品に対する特恵措置、ベトナム特需など偶発的要因に依存している点で持続可能性を欠き、「人工栄養の経済」(大来佐武郎)とも呼ばれた。それでも経済成長は、住民の心性を確実に変容させた。伝統的共同体を失った人々は、「マイホーム」という新たな共同性を得ることで、近代化論者達が危惧した潜在的な革命の動因を失い、資本主義の枠内での個人主義的上昇に専心するようになった。復帰運動の指導者である屋良朝苗についても、米軍は「純粋な復帰主義者」と評しており、「穏健な民族主義」の育成というアメリカの当初目標は達成されたと言える。しかし今やマイホーム主義自体が失効しつつあり、安定的な体制維持の方策は見通せなくなっている。

第3発表:「申請する主体」としての沖縄:沖縄振興計画の系譜試論

発表者

  • 崎濱 紗奈(東京大学)

コメント・応答など

沖縄振興開発計画は、基地維持の「賄賂」として機能し、基地依存型経済を財政依存型経済へと構造転換させた。沖縄振興開発計画の原型は戦前の「ソテツ地獄」(1920年代の経済危機)にまで遡る。重要なのは、この危機を契機に「沖縄問題」が法的に構成され、国家が介入すべき問題として名指されたことである。それと同時に、沖縄は「申請する主体」として再設定された。救済を求めるだけでなく、「救済に値する存在か」を問われ、「立派な日本人であること」を証明することを強いられた。「基地経済を脱却できないのは沖縄が怠惰だから」という言説は、この戦前からの構造の延長線上にある。援助する側と申請する主体という非対称な関係を超える道筋を、国際開発研究の知見から学びたい。

第4発表:日本の援助行政と沖縄の位置付け――JICA沖縄の設立の前後史

発表者

  • 松原 直輝(東京大学)

コメント・応答など

日本国内に15箇所あるJICA国内機関は、全国総合開発計画と連動して設立されてきた。それぞれの拠点に、それぞれの設立過程がある。JICA沖縄は、沖縄県の保守政治家の稲嶺一郎・西銘順治による構想・誘致活動によって、1985年に設立された。稲嶺は、1960年代から「アジアをつなぐハブとしての沖縄」を構想し、その構想を沖縄の本土復帰以前から様々な計画に書き込み、西銘はJICA国内機関の誘致活動を行なった。しかし、開設されたJICA沖縄は、彼らが構想した国際交流拠点というよりも、日本のODAの一部を担う研修施設として稼働したのである(例えば、沖縄の地域特性を活かした研修という構想は消滅し、開設当初のJICA沖縄はIT研修施設と位置付けられた)。日本における、「地方」は行政区域としての性格が強い。そのため、中央・地方の政府間関係は、権利や権限をめぐる対立関係というよりも、資源の回収・分配の関係に近い。この枠組みの中で沖縄の特異性・普遍性をどう考えるべきか。基地の存在や歴史的経緯を踏まえた沖縄の特異性をどう説明し、今後どのような道を進むべきかが問われている。

総括

本セッションは、沖縄を国際開発研究の「立脚点」として位置づけ直す試みであった。沖縄は国内と国際の境界線上に立たされ、「申請する主体」として能力証明を強いられてきたことをはじめとし、この「自立/自律」の困難は多くのいわゆる「途上国」に通底する。日本の8割以上の自治体が財政的に自立できていない中で「オーナーシップ」を語ることの困難、援助する側と申請する側という非対称性からの離陸という問いは、国際開発研究全体への問題提起でもある。事業化しにくいという行政的制約や、場当たり的な「沖縄の資源化」だけでは解消できない思想的・精神的な閉塞感に対して、沖縄なりの国際開発・協力のあり方と脱植民地的な主体のあり方を見つけ、それを制度的に可能にする方法を学会を通して継続的に考える必要があると考える。

報告者:汪 牧耘(東京大学)

[E3]USAID解体後の社会は何を語りかけているのか
——行政、市場、市民社会、 そして学術界に求めるもの——

The Voices of Japan in a Post-USAID World: What We Expect from Japan’s Government, Private Sector, Civil Society, and the Academia

  • 日時:2025年11月29日 14:55 - 16:55
  • 聴講人数:30〜40名
  • 座長/企画責任者:松本悟(法政大学)
  • 趣旨説明:汪 牧耘 (東京大学)

第1発表:日本の開発協力を巡る環境について

発表者

  • 原昌平(国際協力機構)

コメント・応答など

日本を取り巻く国内外の環境が変わっている。2023年の開発協力大綱改定では、時限を切った0.7%目標達成のための財源確保の明記は実現しなかった一方、「新しい時代の人間の安全保障」を通底する指導理念と位置付けることができた。時代に合わせたODAの変革を形にすべく、2025年4月にはJICA法改正が成立し、民間資金動員の促進や現地市民社会を通じた支援が可能となった。欧州では労働党政権の英国がODAを0.3%に抑制するなど、伝統的な開発協力のアンカー役が後退しつつある。日本でもODAに対する関心・理解・支持の低下がみられており、欧米で起きていることは対岸の火事ではない。日本では極端なODA縮減はないと希望的にみているが、欧米の急激な落ち込みで、気づけば世界第2~3位のドナーになりうる状況にある。ホームタウン問題について、個人的見解ではあるが、多文化共生に取り組むNPOや当事者である外国人労働者に間接的な影響を与えた可能性があることについて反省がある。総合討論では、日本の開発協力の強みは「ディール型」ではなく、ヒトを介して信頼を積み重ねる、いわば「日本の国柄そのものを示す」アプローチにあると強調した。最後に、SNS上の言説がJICA/ODA批判にとどまらず、世界の国々との相互依存を否定し日本は世界と関係なく生きていけるという、根拠稀薄な孤立主義の方向に向かっていくことに対する深い懸念を述べた。

第2発表:国際協力(援助)と国民世論:開発コミュニティへの期待

発表者

  • 米山泰揚(元世界銀行、現国際協力銀行)

コメント・応答など

国際協力には民意による支持が不可欠な一方、民意の中身は自明ではない。内閣府調査によれば、国際協力への積極的支持は下落傾向にあり、特に20代で顕著である一方、従来支持が弱かった70歳以上が最も支持するという逆転現象が生じている。ロックフェラー財団の国際比較調査では、日本の支持率は先進国中最低の34%であったが、これは「反対」が多いためではなく、賛否を示さない層が多いことによる。また同調査では、自国への利益還元を求める声(76%)と国際社会全体の利益を求める声(75%)が拮抗しており、自国ファーストが絶対的優勢にあるわけではない。 経済界を代弁する経団連は途上国向け投資への補助金拡大を求めているが、JETROのアフリカ進出企業調査では、市場ポテンシャルへの期待が大きく、政府支援は必ずしも重視されていない。 国際協力推進には、単に重要性を説くだけでは不十分であり、地域文脈を踏まえた歴史の掘り起こし(戦後日本が世銀融資で新幹線や名神高速を建設した事実など)や、首都圏以外での国際会議開催といった工夫が必要である。総合討論では、国際協力の複雑化により全体像が見えにくくなっていること、援助のタイド化が特定企業への製品納入に留まる場合、国益に資するものとして国民に受け入れられるか疑問があることを指摘した。

第3発表:激変する国際関係で日本が果たすべき役割

発表者

  • 小池宏隆(持続社会連携推進機構アース・シェルパ)

コメント・応答など

排外主義の台頭、SNS上のエコーチェンバー化、日本の国力低下が相乗効果を生み、国際協力への逆風を強めている。NGO・市民社会による「もっと出せ」という従来型の主張は、拠出を発表するとSNS等で政府が叩かれるという関係において、限界を迎えている。開発資金ギャップは圧倒的であり、中国・中東産油国の不透明な資金が増加する中、日本は物量が出せないのであれば、これまで培った経験・スタンダードを活かしたマルチラテラルなアプローチを追求すべきであると指摘。考え方として、資金不足と透明性の問題という国際的課題に対し、小規模でのソリューションを工夫して実施してくことをあげた。例えば、TICADへの中東諸国の巻き込み、国際連帯税、デジタル課税での国際協調などだ。「国益を増やせばOK」というレトリックに乗り切ることは間違いであるし、非国家アクターによるアドボカシー強化のためには、日本を道具的に使う発想も必要だと主張した。

第4発表:米国の援助の再編成と 「自立・依存」をめぐって :米国の援助再開を含めた最新情報の整理

発表者

  • 稲場雅紀(アフリカ日本協議会)

コメント・応答など

トランプ政権は保健分野で援助再開の方向性を示し、「米国第一国際保健戦略」を発表した。これは「Make America Stronger/Safer/More Prosperous」の3章構成で、国務省主導の二者間ディールによる援助、宗教系団体の活用、米国製品(レナカパビル等)の積極的調達を柱とする。11月にはアフリカ13カ国に使節団を派遣し、5年間の援助パッケージと引き換えに25年間の保健情報アクセス協定を3日間で締結させた。グローバルファンドには46億ドルを拠出表明し、「やらないぞ」と脅してから出すことで影響力を確保する手法を取っている。TICAD9では社会セッションが20分も前に終了するなど社会課題が忘れられた一方、アフリカではZ世代の蜂起が各地で起きている。アフリカ市民社会が先進国主導の機関を「レガシーシステム」と呼ぶ現状に対し、日本は自己都合の認識から脱却し、率直に耳を傾ける必要があると指摘した。

総括

米国の「ディール型」援助復帰、欧州のアンカー役後退、国内世論の「どちらでもない」層の存在、アフリカにおける「自立」言説の両義性など、従来の「援助する/される」という二項対立では捉えきれない複雑な状況が浮き彫りになった。総合討論では、批判する側が構造を持たなくなった現状への危機感が共有され、行政論理に回収されない新しい言葉・論理の必要性、そして学術界・市民社会による制度・行政制度内部批判の空間を健全に保つ役割が確認された。日本における開発・援助・協力のエコシステムが、異なるアクター間の交流・連携・触れ合いの積み重ねを通じて、不穏・不確実な国際情勢と逆風に、強靭な対応力を発揮することを期待している。

報告者:汪 牧耘(東京大学)

「第36回全国大会」大会報告ページ

  1. 第36回・全国大会セッション報告:一般口頭発表・G,H
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  6. 第36回・全国大会セッション報告:一般口頭発表・M
  7. 第36回・全国大会セッション報告:企画セッション
  8. 第36回全国大会セッション報告:ラウンドテーブル(A,
    B, C)
  9. 第36回全国大会セッション報告:ラウンドテーブル(D, E)
  10. 第36回全国大会セッション報告:ラウンドテーブル(F,
    G, H)
  11. 第36回・全国大会セッション報告:ブックトーク
  12. 第36回・全国大会セッション報告:ポスターセッション

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