関西支部(2026年2月)
関西支部 2025 年度末活動報告書
2025 年度、関西支部ではハイブリット形式またはオンライン形式による定期的な研究会の開催を実施しました。本支部が開催する研究会では、国際開発・国際協力に関するさまざまな分野の専門家を招聘し、教育開発、災害対策、水の保障、環境保全、海外投資などを含むグローバルな開発問題に関連した多様なテーマに関する議論を精力的に展開していくことで、国際開発の課題克服に貢献しうる研究を展開していくこを目的としています。
上記活動目標に基づき、2024 年 10 月から 2025 年 8 月までに実施された研究会についてご報告させていただきます。
第 179 回研究会【日時:2024 年 10 月 29 日(火)17:00-19:00】【言語:英語】
発表テーマ:Preparing Thai Teachers for Diverse Classrooms: National Efforts and Global Implications
発 表 者 : Assistant Professor Nannaphat Saenghong, Faculty of Education, Chiang Mai University / Visiting Professor, Graduate School of International Cooperation Studies (GSICS), Kobe University
参加人数:44 名(対面 38 名、オンライン 6 名)
概要:本研究会では、チェンマイ大学助教授・神戸大学客員教授の Nannaphat Saenghong 氏を招聘し、「Preparing Thai Teachers for Diverse Classrooms: National Efforts and Global Implications」を題目とした講演が行われた。Nannaphat 氏はまず、タイにおける教師教育制度の基礎情報として、教師教育のカリキュラムの内訳や教育政策、現在の課題などについて言及された。次に、タイが抱える文化的背景として、およそ 62 を超える民族集団が定住していることを指摘し、多様な民族的背景の下、公教育はどのように運営されるべきなのか、教師はどのように訓練されるべきなのかについて解説された。特に、多様な民族的文化のもとでタイの教師が直面している困難として、言語的障壁や文化的感受性を例に挙げ、その上で多様な子どもたちを包摂する学校の実現には、多文化主義の考え(Multiculturalism)や多文化教育(Multicultural Education)が鍵となることを強調された。また、多文化教育の実現に向けて教師教育が果たすべき役割として、教師の多文化理解の促進や教室での多様性に向けた実践的訓練についても述べられた。さらに、タイ政府の多文化共生への政策的変遷についても概観され、2017 年の憲法改定を経て、タイ政府が多文化共生実現に向けての前向きな姿勢を正式に表明したことについても触れた。しかしながら、依然として多文化共生に向けての困難は続いており、多文化共生の内容を含む教師教育のカリキュラム開発の難しさ、憲法や法律レベルで多文化共生を提言する文言が限られていることなどが挙げられた。研究会の終盤では、多文化共生に向けた教師教育と持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals=SDGs)との関係について、目標4「質の高い教育をみんなに」、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」、目標10「人や国の不平等をなくそう」の観点から解説された。ここでも、多文化共生な社会の実現に向けた重要な鍵として教師教育が挙げられた。喫緊の開発課題に立ち向かい、「誰ひとり取り残さない」包摂的な社会の実現に向け、教師教育の重要性について学ぶ大変貴重な研究会となった。
第 180 回研究会【日時:2024 年 12 月 20 日(金)14:15-15:30】【言語:英語】
発表テーマ:The Role of Socio-economic Development Planning in Lao PDR
発表者:H.E. Phonevanh Havong. Vice Minister, Department of Planning, Ministry of Planning and Investment of Lao PDR参加人数:68 名(対面 51 名、オンライン 17 名)
概要:本研究会では、ラオス計画投資副大臣の H.E. Phonevanh Havong 氏を招聘し、「The Role of Socio-economic Development Planning in Lao PDR」をテーマとした講演を行っていただいた。H.E. Phonevanh Havong 氏は、講演の冒頭でラオス人民民主共和国における国家社会経済開発計画の歴史を振り返り、これまでの進捗状況や成果について述べられた。そして、近年直面している喫緊の課題として、経済成長の減速、インフラの未整備、地域間格差、そして外部経済環境の変化への対応など、具体的な問題点を列挙し、その背景について詳しく説明された。続いて、H.E. Phonevanh Havong 氏は今後 5 年間にわたる国家社会経済開発計画の方向性について概観された。特に、持続可能な経済成長の実現、人材育成、投資促進、貧困削減、デジタル化の推進など、重点分野を挙げ、具体的な政策目標と実行計画について言及された。さらに、講演後の討論セッションでは、本学の名誉教授である豊田敏久先生が討論者として登壇し、ラオス人民民主共和国の今後の展望についてコメントされた。豊田先生は、ラオスが直面する課題に対する解決策や今後の発展の可能性について見解を述べ、ラオス経済の持続的発展には戦略的な財政金融政策が不可欠であることを強調された。本研究会は、ラオスの発展計画に対する理解を深めるとともに、国際協力の重要性を再認識する貴重な機会となった。
第 181 回研究会【日時:2025 年 7 月 26 日(土)9:00-10:30】【言語:英語】
発表テーマ: Bangladesh as a Land of Hope and Opportunities
発表者:Dr. Dilruba Sharmin, Associate Professor, University of Dhaka
参加人数:オンライン 32 名
概要:本研究会では、ダッカ大学の Dilruba Sharmin 准教授をお迎えし、「Bangladesh as a Land of Hope and Opportunities」をテーマにご講演いただいた。Sharmin 准教授はまず、バングラデシュの基本的な社会経済状況を概説した上で、同国が近年取り組んでいる貧困削減、教育の普及、ジェンダー平等といった課題への対応について、政府や企業、市民社会の役割に触れながら紹介された。とりわけ、日本とバングラデシュの外交関係に焦点を当て、開発援助や人材交流、経済協力の進展を通じた二国間パートナーシップの重要性と今後の展望について、具体的な事例とともに議論がなされた。また、バングラデシュにおける日本研究の現状についても紹介され、とりわけダッカ大学における日本語教育や日本研究教育の発展、学生・教員の交流活動などが取り上げられた。質疑応答では、日本とバングラデシュの外交関係の今後の方向性、若者の雇用状況、高等教育制度の課題と改革といったテーマについて多くの質問が寄せられ、参加者にとってバングラデシュの可能性と課題を多面的に理解する有意義な機会となった。
第 182 回研究会【日時:2025 年 7 月 26 日(土)11:00-12:30】【言語:英語】
発表テーマ:Developing Green Finance Curriculum at Vietnamese Universities
発表者:Dr. Truõng Thu Hà, Lecturer, Vietnam National University at Hanoi
参加人数:オンライン 27 名
概要:本研究会では、ベトナム国家大学ハノイ校の Truõng Thu Hà 講師を招聘し、「Developing Green Finance Curriculum at Vietnamese Universities」をテーマとした講演を行っていただいた。Truõng Thu Hà 講師はまず、気候変動により金融システムの変革が急務となっている現状を指摘し、持続可能な社会に向けた「グリーンファイナンス教育」の重要性を強調した。講演では、大学が次世代の金融専門家や政策立案者の育成に果たす役割に着目し、経済・ビジネス・金融のカリキュラムに ESG(環境・社会・ガバナンス)の視点を取り入れる必要性が説かれた。続いて、ベトナムの大学における現状把握と課題把握を目的として実施された学生および教員への調査結果が紹介された。学生調査では、グリーンファイナンスに関する基本的な知識が不足していること、リスク管理や政策・制度設計などの実践的知識を求めており、実務経験やインターンシップの機会拡充も望まれていることが分かった。一方、教員調査では、教育現場におけるグリーンファイナンスの導入は未整備であり、教員の能力開発における制度的支援や産業界との連携が不足しているという課題が指摘された。加えて、教員からは、高校段階からの環境教育の強化や、既存の経済・金融科目への統合、あるいは独立科目としての設置の必要性が挙げられた。最後に、グリーンファイナンス教育の拡充に向けた機会と課題を整理し、今後の教育改革の方向性を示唆した。質疑応答では、制度設計や教育現場での実践、企業との協働の在り方に関して活発な議論が交わされ、参加者にとって多くの学びと刺激のある研究会となった。
第 183 回研究会【日時:2025 年 8 月 2 日(土)13:00-15:00】【言語:英語】
発表テーマ:Education for Every Child: UNICEF’s Mission in Laos and the Pacific Islands
発表者:Ms. Akina Ueno, Foundational Learning and Skills Development Consultant, UNICEF Lao PDR
討論者:Mr. Anoupheng Keovongsa, Deputy Director-General, Ministry of Education and Sports, Lao PDR
参加人数:オンライン 40 名
概要:本研究会では、UNICEF ラオス事務所の上野明菜氏を講師として、また、ラオス教育・スポーツ省の Anoupheng Keovongsa 氏を討論者として招聘し、「Education for Every Child:UNICEF’s Mission in Laos and the Pacific Islands」をテーマに講演が行われた。まず、上野氏は、国際教育分野における自身のキャリアを紹介した後、UNICEF ラオス事務所の教育支援の全体像について説明した。上野氏は、子どもの権利条約や持続可能な開発目標(SDGs)、ラオス政府との 5 ヵ年プログラムに基づいた協働の枠組みが示した。具体的には、就学前教育における教員研修や教材整備、初等教育における教員の能力開発、教育のデジタル化、気候変動を組み込んだ教育計画の策定支援など、多岐にわたる取組が紹介した。また、保護者向けのプログラムや COVID-19 による学習遅滞への補習支援など、家庭や地域を巻き込んだ包括的なアプローチに関してより詳細に説明した。後半では、上野氏が太平洋地域事務所に在籍していた際の経験をもとに、文化的背景の異なる 14 ヵ国における教育支援の多様性について紹介した。トンガの文化的特徴を考慮した歌や物語による啓発活動、先住民族の土着の知識を活かした指導法、ICT 活用など、各国のニーズに即した柔軟なアプローチの重要性を強調した。質疑応答では、UNICEF と政府の協働体制、成果測定の枠組み、支援予算の縮小による影響などに関して活発な意見交換が行われ、参加者にとって UNICEF の教育支援の実践と課題を現場から学ぶ貴重な機会となった。
第 184 回研究会【日時:2025 年 8 月 28 日(木)17:00-19:00】【言語:英語】
発表テーマ:Foreign Direct Investment in Developing Economies: Navigating Innovation, Inefficiency Traps, Labor Dynamics, and Trade Spillovers
発表者:Dr. Miguel Angel Esquivias, Researcher, Airlangga University
討論者:Dr. Rossanto Dwi Handoyo, Professor, Airlangga University, Indonesia
参加人数:オンライン 28 名
概要:本研究会では、インドネシア・アイルランガ大学の Miguel Angel Esquivias 博士を講師に迎え、「Foreign Direct Investment in Developing Economies: Navigating Innovation, Inefficiency Traps, Labor Dynamics, and Trade Spillovers」をテーマに講演が行われた。博士はまず、外国直接投資(FDI)の世界的動向を概観し、投資が減少傾向にあり、低所得国に十分届いていない現状を指摘した。その上で、貿易統合や投資協定、制度の強化、マクロ経済の安定、人的資本の充実とインフォーマル部門の縮小などが FDI 誘致の鍵となると述べ、制度整備や包摂的投資、気候変動対策と連動した FDI 推進の必要性を強調した。続いて博士は、自身の研究を引用しながら、インドネシアにおける FDI の展開とその影響を説明した。1980 年代以降 FDI 流入が大幅に拡大した一方、その効果は企業の研究開発能力や地域によって不均衡であると指摘した。FDI は革新や効率改善を促進するが、国内企業の依存や地域格差、賃金格差を拡大させるリスクもある。特に大企業や輸出企業は恩恵を受けやすいが、中小企業や地方企業には効果が限定的であることが示された。また、ジェンダーの観点からは、女性労働者が知識移転の媒介として重要な役割を果たしている一方、外国企業進出によって雇用喪失の可能性もあると述べた。博士は最後に、FDI が「Friend or Foe(友か敵か)」の両面を持つことを強調し、包摂的政策、地域格差是正、国内外企業の協力推進などの政策的方向性を提示して講演を締めくくった。質疑応答では、インドネシアの FDI 政策、国際的な投資動向、職業教育との関連性などに関して活発な意見交換が行われ、参加者にとって FDI の実態と課題をインドネシアにおける実証研究から学ぶ貴重な機会となった。
関西支部
支部長:小川啓一(神戸大学)
副支部長:關谷武司(関西学院大学)



