『アグロエコロジーと食農システム』研究部会(2026年2月)
アグロエコロジーと食農システム
- 代表者:池上甲一(近畿大学名誉教授)
- 副代表:牧田りえ(学習院大学)
研究部会概要
本研究部会は、「倫理的食農システムと農村発展」研究部会(2021年~2024年度)を発展的に継承し、アグロエコロジーによる食農システムの変革に向けた課題と方向性を探求することを目的とする。具体的には、①アグロエコロジー的食農システムへの変革の具体的実践と実現条件、②貧困削減を含む農村の総合的な発展に結びつく食農システムのあり方、③アグロエコロジー的食農システムにおける連帯経済の役割の3点を追求している。
アグロエコロジーとは、連帯経済やサーキュラーエコノミーなど10の要素からなるFAOの定義やアグロエコロジストの共通理解から分かるように、単に農業の技術的側面を表すものではない。長年アグロエコロジー研究に携わってきたグリースマンは、アグロエコロジーをフードシステムに⽣態学的、経済的、社会的な永続可能性をもたらすための科学、実践、社会運動の統合として位置づけている(グリースマン『アグロエコロジー』農文協、2023年参照)。
食農システムは農業と食を全体的に結び付けて把握しようとする。したがって、アグロエコロジーによるその変革とは生産、流通、消費はもとより、この過程における労働や分配、食農システムを成り立たせている制度、科学(ファンデルプルーフのいう「食の帝国」)までを射程に取り込むことになる。この点で、前身の研究部会が追究してきた貧困削減や環境保全に結びつく倫理的食農システムの構築と関連している。
代表者は池上甲一(近畿大学名誉教授)、副代表は牧田りえ(学習院大学教授)で、20人ほどが賛同者リストに名を連ねている。主な活動としてはオンラインによるオープン研究会を行っている。申請時点での計画に従って、ラウンドテーブルも企画開催した。それ以外にも、副代表の牧田が研究代表者になっている科学研究費との合同・連携や賛同者からの提案による連携で研究会開催や調査も実施している。オンライン(+対面)の参加者は平均して20名強である。
活動実績
(1)2025年春季大会でのラウンドテーブル
春季大会(北海道大学)においてラウンドテーブルを開催した(6月21日(土))。テーマは「アグロエコロジーから開発を再考する」。座長による基本概念の整理に続いて4つの報告が行われた。第1報告は西川芳昭(龍谷大学)「アグロエコロジーを参照軸とした国際農業農村開発におけるタネのシステム研究」、第2報告は牧田りえ(学習院大学)「『参加型』有機認証とアグロエコロジー:先行研究のレビューより」、第3報告は小谷博光(人間環境大学)「アグロエコロジー的開発から組織運営を考える:フェアトレード商品を扱う農協に着目して」、第4報告は受田宏之(東京大学)「地元リーダーの育成:アグロエコロジーの貢献とは」。本ラウンドテーブルは本研究部会のメンバーを中心に企画したため、座長と報告者がそれぞれ相互にコメントを行った。研究部会賛同者以外からも多数の参加があり、かなり突っ込んだ議論を行うことができ、研究の深化と新しい研究課題の発見があり、有意義なラウンドテーブルとなった。参加者のうち、数名が翌日のフィールドツアーに参加したので、引き続いて議論を行うことができたのも良かった。
(2)研究会
2025年度第1回目の研究会は静岡文化芸術大学(武田淳・研究室)を会場とし、「フェアトレード再考」というテーマで開催した。なおオンラインも併用した。参加者は対面式が12名、オンラインが16名だった。報告1:池上甲一(近畿大学名誉教授)「浜松視察から得られたフェアトレードを考える新しい視点とフェアトレードからの『卒業』」、報告2:河村能夫(龍谷大学名誉教授)「大学運営の視点を入れたフェアトレード」、報告3:佐藤寛(開発社会学舎)「フェアトレード認証の三段階仮説:自己認証はフェアを担保できるか」の3本。報告の終了後に、武田淳氏(静岡文化芸術大学准教授)と三室千菜美氏(浜松フェアトレードタウン・ネットワーク代表)からそれぞれ研究者の視点と実務者の視点からコメントがあった。オンライン参加者を含めた活発な議論が行われた。この研究会をひとつのきっかけとして、フェアトレードに関する書籍の出版企画が実現され、現在執筆段階にある。研究部会の成果として取り上げておきたい。
第2回目の研究会は、3月4日(火)に第1回目と同じく、対面とオンラインのハイブリッドで開催した。対面式の会場は龍谷大学・深草キャンパス。会場出席者は13名、オンライン出席者は12名。報告1は、北野収(獨協大学)「私たちの脱植民化と小さな農的連帯ー開発原論の視点からアグロエコロジーを捉えるー」、報告2は、西川芳昭(龍谷大学)「天地有情の思想と生命誌論ー農学原論の視点からアグロエコロジーを捉えるー」。討論者として登壇した池上甲一(近畿大学)は、「国家農学と民間農学の視点から考える」、同じく古沢広祐(國學院大學)は「発展とは何か?人類史(人新世)の視点から」、それぞれの見解を披瀝した。報告とコメントを踏まえて、有意義な討論が行われた。
第3回目の研究会は、3月31日(月)にオンラインで開催した。報告者は、「オーガニック雫石」の加藤淳氏(広報担当)で、報告タイトルは「オーガニック雫石のPGS活動」。「オーガニック雫石」は、日本で唯一の世界有機農業連盟(IFOAM)による参加型認証(PGS)認証団体である。その実情について学ぶことができた。出席者は19名。
第4回目の研究会として、7月19日(日)にオンライン方式による研究会を開催した。この研究会は、春季大会参加者からセッションが重なったため参加できなかったので、聴取する機会を設けてほしいとの要望を受けて、ラウンドテーブルの補足版として開催された。出席者は14名。発表者は小谷博光(人間環境大学)「アグロエコロジー的開発から組織運営を考える-フェアトレード商品を扱う農協に着目して」。アグロエコロジー的開発という、本研究部会の課題に正面から挑む報告で、有意義な議論を行うことができた。
(3)その他
岩手県雫石町の調査
2025年8月2日(土)・3日(日)の2日間にわたって、オーガニック雫石(国際有機農業運動連盟により参加型有機認証として認定された生産者グループ)による、年一回の「参加型」圃場検査に同行し、その運営を学んだほか、同グループメンバーとの長時間にわたる意見交換をおこなった。同時に、オーガニック雫石に所属する生産者の販売先を視察した。オーガニック雫石は本年3月の研究会で報告してもらったグループであり、その縁で実態調査が実現した。参加者は代表と副代表の2人。
『アグロエコロジーと食農システム』研究部会
池上甲一(近畿大学名誉教授)



