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NL32巻3号 [2021.08]

第22回 春季大会開催報告・総括

目次

第22回春季大会報告

第22回春季大会は2021年6月12日(土曜)に、文教大学・東京あだちキャンパスを開催校として実施されました。

当初、対面とオンラインの組み合わせによるハイブリッド方式で開催することを予定していましたが、4月下旬以降の新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言およびその延長等を勘案し、感染リスク軽減のため、全てオンライン(Zoom)で実施することに急遽変更をいたしました。251名の方に参加登録いただきました。

今回の大会は、格差の拡大や一国主義の蔓延、さらには新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限措置によって分断されてしまった世界につながりをとりもどすことを求めて、全体テーマを「ともに生きる:課題解決のために知識と経験を共有する Live together: Sharing Knowledge and Experience for better solution」としました。

海外からも含め、多くの皆様にご参加頂きましたことに感謝申し上げます。

大会実行委員長・林 薫(文教大学)


【セッション報告】

午前の部(9:30-11:30)Morning Session

A1: RT「研究×実践」をめぐる諸課題をあぶりだす: 研究×実践委員会主催セッション(日本語)

  • 企画責任者: 小林誉明(横浜国立大学)
  • 司会:小林誉明(横浜国立大学)
  • 討論者:志賀裕朗(国際協力機構)、ラミチャネ・カマル(筑波大学)、佐藤峰(横浜国立大学)、浜名弘明(デロイトトーマツコンサルティング合同会社)、狩野剛(ミシガン大学)、功能聡子(ARUN)

本セッションは、研究と実践との有機的な相互作用を生み出すメカニズムを構築することを目指して設立された「研究×実践委員会」が、その活動の方向性を定めるためのニーズや現状課題を把握することを目的として企画された。
朝一番のセッションであるにも拘わらず、報告者を含めて30人弱の会員の参加を集め、研究と実践との連携というテーマが、本学会の会員が常態的に抱えている潜在的な問題意識でもあることを裏付けるものであることを実感した。

まず、小林より、委員会の趣旨、ラウンドテーブル企画の背景、議論したいアジェンダについて説明し、委員各位より、それぞれが考える論点が提出された。

研究と実践にまつわるイシューは多岐にわたるため、一度のラウンドテーブルで答えが見つかることは望むべくものないため、今回は、そもそもどんな課題が存在しうるのか、今後、取り組むべき射程を明らかにすることを主眼とし、“おもちゃ箱をひっくり返す”事を敢えて狙った。結果、広範囲にわたる論点が提示され、あらためてテーマの外延の広さが確認された。

その後の全体討論の時間には、フロアから更に多様な意見が続出した。とりわけ、大きな収穫と感じたのは、「研究×実践」委員会の側で想定していた「前提そのもの」を問う議論の数々である。

  • そもそも「有用性」を前提とした議論なのではないか?役に立たない実践も研究もある。
  • そもそも実践は、JICAなどのODA等の現場だけではないはず。海外も含めた民間の実践をみるべき。
  • そもそも研究が実践に結びつくのが良いこという前提があるが、本当にそうか。
  • 実践と結びつく便益が明らかな場合であっても、そもそも研究者がコストと手間をかけられるのか?実務者の側が負担する構造になっているのではないか。

(報告:小林誉明)

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A2: 教育(日本語)

  • 座長:黒田一雄(早稲田大学)
  • 討論者:北村友人(東京大学)、大塲麻代(帝京大学)

発表者

  1. 吉田夏帆(高崎経済大学)
    「ミャンマーの初等教育における修学パターン分析―社会経済的地位(SES)に着目して―」
  2. 森下拓道(国際協力機構)
    「女子教育における出生順位効果:マリ共和国のケース」
  3. 加藤俊伸(国際協力機構)
    「オンライン海外体験学習の可能性―「国際協力フィールドワーク(インド)」の実践から―」
  4. 前田美子(大阪女学院大学)
    「カンボジアにおけるカンニング行為―開発援助の影響に着目して―」

本セッションでは、4名の会員により、発展途上国における教育開発の諸相に接近を図った研究発表が行われた。

最初の吉田夏帆会員(高崎経済大学)研究発表は「ミャンマーの初等教育における修学パターン分析 ―社会経済的地位(SES)に着目して― 」と題し、同国における、学校記録にもとづく縦断的研究手法による初等教育の修学実態の把握に基づき、教育課題の抽出と政策提言を行うものであった。本研究は、教育開発研究手法の革新にも貢献する研究となっていた。

二番目の発表は、森下拓道会員(国際協力機構) による「女子教育における出生順位効果:マリ共和国のケース」と題する研究発表であった。本研究は、出生順位、性別による教育達成度の違い、や達成度に差異が生じる教育段階などについて分析し、女子教育の推進に当たっての政策的インプリケーションを導くことを目的に、同国のDHSを基に行われた精緻な実証分析であった。


三番目の発表は加藤俊伸会員(国際協力機構)による 「オンライン海外体験学習の可能性ー『国際協力フィールドワーク(インド)』の実践からー」と題した発表で、コロナ禍においてほぼ不可能となった海外体験学習を、現地機関(インドのNGO)と協力し、オンラインにより実現した発表者の活動報告であった。参加学生の前向きなアンケート調査結果も紹介され、オンライン海外体験学習の開発教育における今後の可能性が示された。


四番目の発表は前田美子会員(大阪女学院大学)による 「カンボジアにおけるカンニング行為ー開発援助の影響に着目してー」というユニークなテーマの研究発表であった。同国において深刻な教育課題であるカンニング行為が、先進国における先行研究において指摘された要因のみならず、開発援助などの途上国特有の要因との連関で議論されている点が興味深かった。


いずれの発表も実証データの精緻な分析に基づく研究であり、教育開発分野の研究水準の向上が示唆された。

(報告:黒田一雄)

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A3: 企画「社会連携委員会企画セッション『民間企業にとってのSDGsを問い直す』」(日本語)

  • 企画責任者:川口純(筑波大学)
  • モデレーター:佐藤寛(アジア経済研究所)
  • 討論者:大橋正明(聖心女子大学)、黒田かをり(CSOネットワーク)

発表者

  1. 関正雄(損害保険ジャパン日本興亜株式会社 CSR室シニアアドバイザー・明治大学)
    「SDGsとこれからの企業の役割1」
  2. 有元伸一(株式会社ローソン 経営戦略本部SDGs推進部長)
    「SDGsとこれからの企業の役割2」

本企画セッションは、SDGsに取り組んでいる民間企業から2名の発表者を招聘し、ご発表を行って頂いた後、指定討論者からのコメント、質問に続き、全体議論を実施した。参加者は計40名程であった。

第一発表者として、本学会の会員でもある関正雄氏(損害保険ジャパン株式会社・明治大学)からご報告頂いた。2020年11月に経団連が発表した「新成長戦略」についてご説明頂き、SDGsの浸透で2030年がマイルストーンイヤーとして認識されるようになったが、それは文字通り一つの通過点でしかないことが確認された。そして、その先にめざす社会像への想像力と、長期的なビジョンを自身の戦略や行動に落とし込む構想力を持つする必要性を提示された。 

つぎに、有元伸一氏(株式会社ローソン 経営戦略本部SDGs推進部長)から具体的な社内の取り組みについてご発表頂いた。社内文化や利益との関係を含めて試行錯誤の様子をご報告頂いた。決して順風満帆に推進されてきたのではなく、課題も山積していている内部事情もご共有頂いた。

その後、本委員会の委員である大橋正明会員(聖心女子大学)、黒田かをり会員(CSOネットワーク)から上記2名の発表に対するコメント、質問を出して頂き、同じく委員の佐藤寛会員(ジェトロ・アジア経済研究所)をモデレーターとして議論が展開された。

議論としては「如何なる観点からSDGsを捉え直すのか」という点に焦点が当たり、「人権」、「企業利益」、「社会貢献」と言った従来からのテーマだけでなく、そもそも「持続可能な社会とは何か?」「今後、起こりうるトラブルは?」という様な幅広い議論が展開された。

本企画は継続的に議論を進めていく予定であり、最終的には議論を纏めた書籍を刊行する予定である。

(報告:川口純)

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A4: 企画「『多遍性』(pluriversality)実現への道筋」―地域コミュニティから近代的「普遍性」(universality)の超克を探る―(日本語)

  • 企画責任者:真崎 克彦(甲南大学)、藍澤 淑雄(拓殖大学)
  • 司会:真崎 克彦(甲南大学)
  • 討論者:藍澤 淑雄(拓殖大学)、 飯塚 明子(宇都宮大学)

発表者

  1. 真崎 克彦(甲南大学)
    「多遍性(pluriversality)研究の背景・意義―企画の趣旨」
  2. 藤枝 絢子(京都精華大学)
    「地域コミュニティのレジリエンスの多遍性(pluriversality)―バヌアツの離島における自然災害からの考査―」
  3. 斎藤 文彦(龍谷大学)
    「地域の取り組みから考える多遍的(pluriversal)な社会づくり―スペイン・バルセロナと日本・二本松との比較を通じて―」

国際開発学会「市場・国家との関わりから考える地域コミュニティ開発」研究部会の一環として行われた。最初の座長による趣旨説明(「多遍性研究の背景・意義―企画の趣旨」)では、西洋近代型の「普遍的」とされる進歩観と一線を画した「多遍的」な世界各地の社会づくりに関する研究動向が紹介された。

藤枝報告(「地域コミュニティのレジリエンスの多遍性―バヌアツの離島における自然災害からの考査」)では、バヌアツの離島村落にて、自然災害時にどのような被害軽減や復興が果たされるのかが検証された。その際、地域在来の生活様式(住居や農業の形態、共同体の紐帯など)で培われてきたレジリエンスが発揚される。一般的に「小」島嶼国が持つとされる脆弱性では測り切れない。

斎藤報告(「地域の取り組みから考える多遍的な社会づくり―スペイン・バルセロナと日本・二本松との比較を通じて」)によると、バルセロナでは資本主義経済から社会連帯経済への転換が進み、市民政党が生まれて意思決定過程に影響を与えている。福島県二本松市の東和地区では東日本大震災の後、多様な外部関係者との連携が推進されており、バルセロナと同じく、政治経済的な主体性復権がその成果の重要な鍵を握る。

藍澤会員と飯塚会員からは両報告を踏まえて、「普遍的」とされるレジリエンスや経済発展についての従来の見方から離れて、地域固有の「多遍性」からとらえ直す必要性が指摘された。そして、考察を今後も深めていくことへの期待が表明された。本セッションには常時18名前後の会員が参加され、活発な質疑応答が交わされた。

(報告:真崎克彦)

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A5: RT「途上国の産業人材、生産性、カイゼン」―『途上国の産業人材育成-SDGs時代の知識と技能』出版記念企画―(日本語)

  • 企画責任者: 山田肖子(名古屋大学)
  • 司会:大野泉(政策研究大学院大学)
  • 討論者:神公明(国際協力機構)、島田剛(明治大学)、山田肖子(名古屋大学)

発表者

  1. 高橋基樹(京都大学)
  2. クリスチャン・S・オチア(名古屋大学)
  3. 辻本温史(国際協力機構)

本ラウンドテーブルは、2021年2月に日本評論社より刊行された『途上国の産業人材育成:SDGs時代の知識と技能』の出版を記念して開催された。

産業人材育成には、国の経済発展や産業振興、企業の生産性向上といった経済開発に関わる目的だけでなく、個人のキャリア形成、雇用、貧困削減といった教育、社会政策に関わる目的も存在する。このように、対象者や視点によって、多面的な意味を持つ産業人材育成に関して、本セッションでは、学際的かつ実務と研究を架橋した議論を試みた。それにより、執筆者はもとより、参加者とも問題意識を共有し、継続的に議論が行われるためのプラットフォームを形成することが目指された。

話題提供者として、高橋基樹会員(京都大学)、クリスチャン・オチア会員(名古屋大学)、辻本温史会員(JICA緒方貞子平和研究所)が登壇し、カイゼンの途上国への選択的適応と企業の生産性向上を前提とした介入の課題、エチオピアを事例とした産業人材の就業前教育と卒業者の労働市場成果、日本の産業人材育成分野における開発協力の変遷について現状と諸課題が報告された。その後、ディスカッサントである島田剛会員(明治大学)、神公明会員(JICA緒方貞子平和研究所)、山田肖子会員(名古屋大学)からの問題提起も踏まえた議論が展開された。

とくに、企業の生産性向上と労働者の能力向上のための介入としてODA事業で展開されてきた日本型カイゼンの特徴を改めて見直す必要性が指摘されるとともに、フォーディズムと対比してボトムアップだとされる日本型カイゼンが、モデル普及を目指す中で、むしろモデルの固定化を起こしており、状況や個別特殊性に基づいた帰納的発想の再確認が必要との意見もあった。

最後に総括として大野泉会員より、途上国の産業人材育成に関する議論を深める為には、研究と実務を架橋する多面的な視点を取り入れる重要性を改めて確認し、本RTは閉幕した。

(報告:山田肖子)

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A6: 企画「防災と気候変動適応における投資の促進に向けて」―アジアの視点からのレビュー・事例研究―(日本語)

  • 企画責任者: 佐々木大輔(東北大学)
  • 司会: 石渡幹夫(東京大学/国際協力機構)
  • 討論者: 広田幸紀(埼玉大学)

発表者

  1. 佐々木大輔(東北大学災害科学国際研究所)
    「防災投資に関する文献レビュー―最近の文献からみた防災投資の現状―」
  2. 吉岡渚(笹川平和財団海洋政策研究所)
    「アジア太平洋における海洋・沿岸域レジリエンスと適応ファイナンス」
  3. 地引泰人(東北大学)、ペルペシ・ディッキー(インドネシア大学)、佐々木大輔(東北大学)、井内加奈子(東北大学)
    「災害後復興ニーズ評価調査(Post Disaster Needs Assessment: PDNA)が災害リスク削減と気候変動 適応対策への投資に重要な意味を持つのか ―文献調査にもとづくインドネシアとフィリピンの二国 間比較分析―」
  4. 坂本壮(東北大学)、佐々木大輔(東北大学)、石渡幹夫(東京大学)
    「日本の治水事業における費用対効果分析手法の変遷と進化―治水経済調査マニュアル(案)改定過 程に着目して―」

本企画セッションでは、防災と気候変動適応における投資の現状について、既往研究等の文献レビュー、及びアジアの複数の地域(日本、インドネシア、海洋・沿岸域等)を対象とした事例研究の成果について、座長である石渡幹夫客員教授(東京大学/JICA)の進行のもと、4篇の報告があった。

佐々木報告では、仙台防災枠組が採択された2015年以降に公刊された防災投資に関する文献等のレビューを通して、防災投資の現状について整理がなされるとともに、テキストマイニングによる計量分析を行うことで、文献において特徴的な語や発行主体による差異等が明らかにされた。

吉岡報告では、オープンデータベースを用いて過去10年間の援助プロジェクトの承認状況を把握することにより、アジア太平洋地域における海洋・沿岸域の適応策への援助の流れを俯瞰し、現状の資金ギャップの具体的な所在を明らかにした。地引報告では、災害後復興ニーズ評価調査(Post Disaster Needs Assessment: PDNA)と、災害リスク削減(Disaster Risk Reduction: DRR)及び気候変動適応対策(Climate Change Adaptation: CCA)への投資との関係性等について考察を行った。

坂本報告では、治水事業における費用対効果分析手法を適用する際の利点と限界を検証するために、治水経済調査マニュアル(案)の改定過程や海外ODAプロジェクトにおける治水事業の費用対効果分析の実施状況についてレビューを行った。

何れの報告に対しても、討論者の広田幸紀教授(埼玉大学)から的確なコメント・質問を頂き、聴講者との質疑応答を通じて議論が深まり、充実したセッションとなった。これらの成果報告を通して、防災及び気候変動適応への投資を拡大する際の課題や今後の研究の方向性がより明確になったものといえる。

今後、仙台防災枠組・持続可能な開発目標(SDGs)・パリ協定といった国際アジェンダの動向も踏まえながら、さらに研究を発展させることにより、強靭な社会の実現に向けた政策提言に繋げていくことが期待される。

(報告:佐々木大輔)

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A7: 企画「国際教育開発への挑戦」―これからの教育・社会・理論―(日本語)

  • 企画責任者:荻巣崇世(上智大学)
  • 司会:川口純(筑波大学)
  • 討論者:橋本憲幸(山梨県立大学)

発表者

1.小原優貴(お茶の水女子大学、日本学術振興会特別研究員)
「誰が教育するか―質をともなう教育普及の実現に向けて」
2.芦田明美(早稲田大学)
「どう具現化するか—新たな「連携」と「協働」の形の模索」
3.荻巣崇世(上智大学)
「いかに関わるか—国際教育開発に関わる「わたし」を考える」

本企画セッションでは、2021年1月に刊行した『国際教育開発への挑戦―これからの教育・社会・理論―』(荻巣崇世・橋本憲幸・川口純編、東信堂)の執筆陣を中心に、「誰が教育するか」「どう具現化するか」「どう関わるか」という3つの視点から、2030年およびその先に求められる国際教育開発の理論と実践について改めて検討しました。

川口純会員(筑波大学)による進行のもと、小原優貴会員(お茶の水女子大学/日本学術振興会)「誰が教育するか―質をともなう教育普及の実現に向けて」、芦田明美会員(早稲田大学)「どう具現化するか—新たな「連携」と「協働」の形の模索」、そして荻巣崇世(上智大学)「いかに関わるか—国際教育開発に関わる「わたし」を考える」の三つの発表がなされ、書籍で展開した議論を改めて交流することができました。

橋本憲幸会員(山梨県立大学)による指定討論では、例えば紛争下など、国家も市場も教育を提供できないような状況では誰が教育を担うのか、「連携」「協働」など水平的な国際教育開発に問題があるとすればどんなものか、また、自己耽溺に陥ることなく自己を問い開いていくために、国際教育開発論として何が求められているのか、など、三つの発表を貫く質問が提示され、参加者も交えて議論を交わしました。

後半は、参加者からのコメントおよび質問を受けました。国際教育開発の分野で実践・理論の両方に関わり活躍してきた参加者からは、これまでの経験を踏まえた励ましを頂き、国際教育開発がこれまでどのように紡がれてきたのかを再確認する機会となりました。

また、発表者らと同年代の参加者からは、発表に対する共感とともに「共創」「共育」など新しい概念も提示され、書籍で展開した議論をさらに深め、広げることができました。参加して下さった皆様に感謝申し上げます。

(報告:荻巣崇世)

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午後の部 I(12:30-14:30)(GMT +9)Afternoon Session I

B1: RT「若手による開発研究セッション:開発における研究と実践を越境する」(日本語)

  • 企画責任者: 石暁宇(横浜国立大学大学院)、須藤玲(東京大学大学院)
  • 司会: 須藤玲(東京大学大学院)
  • 討論者: 池見真由(札幌国際大学)、木山幸輔(筑波大学)、小林誉明(横浜国立大学)、松本悟(法政大学)

本セッションは、研究と実践の世界、またその両方を見渡してきた討論者をお招きし、討論者と若手の対話や、討論者同士の対話を通じて、研究と実践の越境という古くて新しい課題に向き合うために企画された。また、将来のキャリアを模索する本学会の若手の会員にとっては、登壇者との交流を通じて、開発に携わる選択肢の多様性を考える機会と位置付けた。

本セッションでは、多様なバックグランドを有する登壇者4名(池見真由先生、木山幸輔先生、小林誉明先生、松本悟先生)を交えて、主に以下の2点について焦点を当てて対話が行われた。

一つ目は、「研究の『意義』」についてである。研究の意義についてある種執拗に求められる昨今において、開発研究がどのように生かされているのか、という若手の疑問が背景にあり、対話の中で、「開発実践」が必ずしも途上国にあるとは限らず、多様な活かされ方があることが示唆された。

二つ目のトピックは、「実務者と研究者という職業の選択について」である。実務者の役割と研究者の役割に触れつつも、登壇者のご経験を交えた対話を通して、それぞれのキャリアパスが必ずしも計画通りに進んできたわけではなく、「縁」などの外的な要因も大きな変数としてあることが指摘された。その上で、自分の置かれている環境や時代と照らし合わせつつ、自分が面白いと思えることを突き詰めて考えていく重要性が示唆された。そしてセッションの最後には、4名の登壇者から若手へ向けたメッセージもいただき、セッションは終了した。

本セッションでは、終始和やかな雰囲気の中で、討論者と司会者そして質問者を交えて活発な対話が行われた。今後は、今回のセッションで得られたヒントや視座を、本学会「若手による研究部会」へ持ち帰り、共有することが求められると同時に、本部会にしかできない企画を考えていく上で、非常に意義深いセッションとなった。

(報告:須藤玲)

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B2: 「NGO・方法」(日本語)

  • 座長:大橋正明(聖心女子大学)、
  • 討論者:西野桂子(関西学院大学)、高柳彰夫(フェリス学院大学)

発表者

  1. 飛田麻也香(広島大学大学院、日本学術振興会特別研究員)
    「イスラエル・パレスチナ紛争とNGO―教育分野で平和構築活動を行うNGO団体の類型化―
  2. 熊谷圭知(お茶の水女子大学)
    「参与観察と参加型開発をつなぐ『場所』―40年のパプアニューギニア調査研究から―」
  3. 田中博((一社)参加型評価センター)、束村康文((特活)ピースウィンズ・ジャパン)
    「MSC(Most Significant Change)手法とログフレーム評価の併用の試み―ネパールNGO農業プロジェクトにおける参加型・質的評価とログフレームの相互補完関係―」
  4. 松隈俊佑(京都大学)福林良典(宮崎大学)木村亮(京都大学)
    「国際NGOの参画により実現した草の根無償支援を活用した小規模道路整備 ―タンザニア南部ムトワラ州における事例―」

本セッションでは、4名の会員の発表があり、2名の討論者がコメントを行い、それに発表者が答え、可能な場合には他の参加者からの口頭、あるいはチャットやQ&Aを通じた質疑応答が行われ、全体としては活発なセッションとなった。討論者の役割分担は、NGOに関連した二つの発表はフェリス学院大学の高柳会員が、方法論に関連した二つの発表は関西学院大学の西野会員がそれぞれ担当した。

最初は、広島大学大学院の飛田会員の「イスラエル・パレスチナ紛争とNGO―教育分野で平和構築活動を行うNGO団体の類型化」と題する発表で、イスラエルとパレスチナで平和構築に関連する教育活動に携わる諸NGOの情報を集め、類型化し、そこから得られた知見をまとめた興味深いものである。困難な状況下での情報収集を行ったことは評価に値する一方、これらのNGOの財源に関すること、あるいはそうした活動の成果に関しては、今後の研究の中で明らかにされることが期待される。

つぎは、お茶の水女子大学の熊谷会員の「参与観察と参加型開発をつなぐ『場所』―40年のパプアニューギニア調査研究から」という、会員の40年間に渡る研究・活動をまとめた興味深い発表である。参与観察者は開発といった変化を望まない場合が多いが、発表者は「場所」がもたらした相手との互酬的な関係から、参加型開発の活動に積極的に関与してきたことに注目が集まった。

続く報告は、(一社)参加型評価センターの田中会員による「Most Significant Change(MSC)手法とログフレーム評価の併用の試みーネパールNGO農業プロジェクトにおける参加型・質的評価とログフレームの相互補完関係」であった。今まで多くのJICAやNGOによって使われてきたログフレームに準拠したプロジェクト評価の長所と問題点、そしてMSC手法の評価の長所と問題点を列挙し、両者の相互補完性が強調されたが、残された課題も確認された。

最後は、京都大学の松隈会員から「国際NGOの参画により実現した草の根無償支援を活用した小規模道路整備―タンザニア南部ムラワラ州における事例」という発表者の経験に基づいた発表がなされた。いくつかの制約がある草の根無償支援のプロジェクトが、日本のNGOを関与して実施されたことは注目される。一方でこれが普遍化できる可能性について、関心が集まった。

(報告:大橋正明)

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B3: 企画「人が自ら動くための条件」(日本語)

  • 企画責任者: 佐藤峰(横浜国立大学)
  • 司会: 佐藤峰(横浜国立大学)
  • 討論者: 田中由美子(城西国際大学)

発表者

  • 佐藤峰(横浜国立大学)
  • 「他者との関係性において自己の経験を物語ること―日本における「ストーリーベースメソッド」の 比較検証ー」
  • 佐柳信男(山梨英和大学)
  • 「開発援助における主体性(agency)の心理測定の課題と展望」
  • 柳原透(拓殖大学)
  • 「主体能力形成・強化の段階の可視化ーチリの最貧困層プログラム (チリ・ソリダリオ) の設計と実績―」

本企画セッションでは、当事者主体の開発やエンパワーメントの前提となる、主体性醸成(Agency Development)のプロセスの「見える化(物語化・段階化・計量化)」の取り組みについての発表と討議が行われ、約20名の方々にご参加いただいた。

第一発表「他者との関係性において自己の経験を物語ること」においては、佐藤峰会員(開発人類学)が生活記録運動において、ライフストーリーの文章化プロセスが、当事者にもたらした変容と要因の検証がなされた。

第二発表「主体能力形成・強化の段階の可視化ーチリの最貧困層プログラム (チリ・ソリダリオ) の設計と実績ー」では、柳原透会員(開発経済学)により、チリ・ソリダリオにおけるソーシャルワーカーと対象者の関わりに見る、段階的変容の記録の政策分析がなされた。第三発表「開発援助における主体性(agency)の心理測定の課題と展望」では、佐柳信男会員(教育心理学)が、開発援助の分野における、自己決定理論に基づく、心理測定の現状と課題について論考した。

その後、田中由美子会員より、ジェンダーと開発を中心とした開発実践の立場から、それぞれの発表に対してコメントを頂戴した。そして、全ての発表に関連する今後の課題として「開発途上国における、主体能力涵養については、その具体的なプロセスに関しては、十分な量的・質的研究が少ない。」、「課題は明らかになっている部分はあるが、途上国においても(デジタルも含め)ストーリーテリングの手法を応用し、女性自身の視点から、女性自身が言葉を紡ぎだして、主体能力涵養をどのように可能ならしめるのか。」、「国際協力の観点からは、フロントワーカーの主体能力涵養についても、研究があると良い。」という3点をご指摘いただいた。

最後に、フロアより「事例における活動の地域的特性」や「事例における外部支援者への拒絶の有無」などの質問をいただきそれぞれに回答をした。本セッションで頂戴したコメントは、英語で執筆中の共著書への内容に反映させていただくとともに、実践への反映もできるように努めてまいりたい。

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B4: RT「人新世(アントロポセン)の開発協力論」(日本語)

  • 企画責任者: キム・ソヤン(ソガン大学)
  • 司会(Chair/Moderator): 佐藤寛(アジア経済研究所)
  • 討論者: 松岡俊二(早稲田大学)、花岡伸也(東京工業大学)

発表者

  1. キム・ソヤン(ソガン大学)
  2. 大山 貴稔 (九州工業大学)

本セッションではまず企画者の金会員より、新型コロナウイルスなどの人獣共通感染症がグローバルな野生動物違法取引の拡大によって加速されることを指摘した上で、人間の活動が生態系の健全性に大きな影響を与える「人新世」において、脆弱層が抱えるリスクはより悪化し、その結果過去様々な開発成果の逆戻りが深刻化する恐れがあると強調した。このように、人新世において、COVID-19コロナウイルス題を踏まえつつ、人間と生態系との関係を根本的に見直す「惑星の正義」とグローバル公共財という概念によって開発協力を基礎づける視点を提供した。

つづいて、大山貴稔会員(北九州工業大学)は人新世的課題をめぐる議論から「設計主義的な回復/自生的秩序の手入れ」という2つの類型を抽出し、後者の類型と開発協力の結びつき方についての問題提起を行った。

これらを受けて、松岡俊二会員(早稲田大学)からはトランスサイエンスの時代における科学者と市民の科学コミュニーションという視点から、人新世概念をめぐる動向に踏み込む視点を提供した。花岡伸也会員(東京工業大学)は、工学(とくに土木計画学とインフラの構築)における計画性と不可逆性という観点から、人新世概念のような世界認識を支える思想の重要性が指摘された。

その後、佐藤寛会員(ジェトロ・アジア経済研究所)の司会で、a) 人新世における開発的介入のあり方とは? b) 知的権力と専門家の傲慢さの結びつきをどのように飼い馴らすか? c) グローバル・ジャスティス(公共財と惑星正義)のローカル実践の難しさとその実践主体、d)脱成長は「非開発」なのか、といった論点について活発な質疑応答が繰り広げられた。これに対して「Just transition(公正な移行)」議論、またグローバル・ジャスティスのローカル実践に関連して、empathy(共感)と政治的意思の重要性も指摘された。 

参加者は20名程度であったが、参加者からもチャットで質問、コメントが寄せられ、今後ともこのテーマを巡る議論を活性化していく必要性が指摘された。

(報告:キム・ソヤン)

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B5: RT「子どもの安全保障」―南アジアの脆弱な子どもへの開発アプローチ―(日本語)

  • 企画責任者: 勝間 靖(早稲田大学)
  • 司会: 勝間 靖(早稲田大学)
  • 討論者: 勝間 靖(早稲田大学)

発表者

1.小野道子(東京大学大学院)
「パキスタンに住むベンガリー移民の子どもたち」
2.新井和雄(国際ロータリー)
「ネパールで自然災害を経験した子どもたち」
3.田中志歩(広島大学大学院)
「バングラデシュに住む少数民族の子どもたち」

本セッションでは,「子どもの安全保障への開発アプローチ」研究部会における研究活動に基づき、部会メンバーの研究領域における事例研究を発表した。事例研究を深め、政策提言にもつながるような理論的枠組みを構築することを目指している。

まず、研究部会代表者である勝間靖会員(早稲田大学)が、このラウンドテーブルの企画者として、事例研究を発表するうえでの共通の枠組みを提示した。それぞれの事例につき、(1)脆弱な子どもとは誰かを社会的文脈において明らかにしたのち、(2)どのような生存・生活・尊厳の課題やリスクがあるかという状況の把握、(3)それがどのような脅威やハザードに起因するものかという原因の分析、(4)そして安全や安心を保障するため、脅威やハザードによるリスクそのものの軽減へ向けて、どのような保護の政策が取られるべきなのか、(5)また脅威やハザードによるリスクへ適応すると同時に強靭性を高めるため、啓発や教育などをとおして、子どものエンパワーメントをいかに進めるべきか、について検討した。

最初に、小野道子会員(東京大学大学院)が「パキスタンに住むベンガリー移民の子どもたち」と題して発表した。パキスタンで「ベンガリー」と呼ばれる人びとは、1960~1990年代後半にかけてパキスタンに移住したベンガル人ムスリムとアラカン出身ムスリム(ロヒンギャ)であり、200万人以上がカラーチーにあるカッチー・アーバーディと呼ばれるスラム地区に居住している。「ベンガリー」の子どもたちの多くは、市民権(IDカード)を所持できない無国籍者で、移動の自由がなく、社会保障制度へのアクセスがないとのことである。

つぎに、田中志歩会員(広島大学大学院)が「バングラデシュに住む少数民族の子どもたち」と題して発表した。バングラデシュに暮らす少数民族のなかでも、とくに山岳少数民族(チッタゴン丘陵地帯系少数民族)の人びとが困難な立場にあると報告した。両親は子どもが学校に行かなくてもよいと考えていることがあったり、少数民族言語での母語による教育が限られていたり、生活に乖離したカリキュラムを実施している学校が多いことから、就学率が低かったり、ドロップアウト率が高かったりするとの報告があった。

最後に、新井和雄会員(国際ロータリー)が「自然災害と子どもの安全保障 ネパールで自然災害を経験した子どもたち」と題して発表した。比較的に裕福な世帯の子どもが通う私立学校と、貧しい世帯の子どもが通うコミュニティ学校とを対比しながら、地震による影響の違いを説明した。また、貧しい世帯の子どもが通うコミュニティ学校のなかでも、防災教育を実施していた学校とそうでない学校との間で、教育の再開に違いがあることを示した。

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B6: RT「デジタル技術は経済開発をリープフロッグさせうるのか?」

  • 企画責任者: 狩野剛(ミシガン大学)
  • 司会: 狩野剛(ミシガン大学)
  • 登壇者:竹内知成(監査法人トーマツ)、内藤智之(神戸情報大学院大学)、 綿貫竜史(名古屋大学)
  • 討論者:高田潤一(東京工業大学)、井上直美(東京外国語大学)

本セッションでは、国際開発におけるデジタル技術の可能性と課題を探るため、教育・研究・実務という異なる立場でデジタル技術と国際開発に関わる3名からの発表および、討論者・参加者を交えた議論が行われた。

冒頭、ミシガン大学の狩野剛会員から主旨説明と国際開発におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の現状と課題について紹介があった。また、ルワンダのIT立国を題材に、デジタル技術により経済開発のリープフロッグは起きうるのかという問題提起がなされた。

それを踏まえ、神戸情報大学院大学の内藤智之会員からは、コロナ禍があぶり出したデジタル適応力と社会的耐性の因果関係として、経済開発段階ごとのリープフロッグの可能性について言及。また、国家のデジタル化とコロナウイルスによる経済インパクトの分析が紹介された。

つづいて、名古屋大学の綿貫竜史会員からは、バングラデシュの縫製産業で働く女性たちをターゲットに、「女性の金融包摂を推進」という一見前向きに見える流れの裏で、家庭内立場に起因する、給与支払いのデジタル化がもたらす負のインパクトについての考察が紹介された。

また、(一社)ICT for Developmentの竹内知成会員からは、昨今の国際協力業界で増えているProof of Concept (PoC) の実情と抱える課題として、民間企業・被援助国など異なる立場からの視点で紹介があり、国際開発プロジェクトでのPoCのあるべき姿について問題提起がなされた。

その後、討論者である東京工業大学の高田潤一会員および東京外国語大学の井上直美会員を中心にコメントと議題提起が行われ、リープフロッグと人的資本の蓄積の関係、ICTサービスのローカリゼーション、PoC 導入と持続可能性、そしてビジネス開発における示唆などについて議論が行われた。また、参加者からもデジタル格差やDXと経済成長について質問が挙がり、活発な議論が行われた。

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B7: Industry / Agriculture (English/英語)

  • 座長(Chair):福西隆弘(アジア経済研究所)
  • 討論者(Discussant):後藤健太(関西大学)、新海尚子(津田塾大学)

発表者(Presenter)

  1. Khemmarath Parinya(Utsunomiya University)
    “Entrepreneurial Characteristics and the Production of Household Producers of Rice in Lao PDR―The  Case Study of Savannakhet Province’s Three Zones”
  2. Kiyoto Kurokawa (Ritsumeikan University)
    “How to identify the real value of the local treasures – A comparative study of old towns in Koka City, Shiga Prefecture, Japan -“
  3. Van-Truong Pham (Rikkyo University) and, Kataoka Mitsuhiko (Rikkyo University)
    “A non-parametric frontier analysis in Vietnamese garment firms (Preliminary study)”
  4. Inami Hiromi (Waseda University)
    “The Impact Analysis of Poverty Reduction by Hindustan Unilever―A Case Analysis of Shakti Project in India-”

The session B7 “Industry/Agriculture” consists of four presentations that explore research questions strongly reflecting the local context. The first presentation by Khemmarath Parinya is a unique study that investigates farmers’ characteristics from their entrepreneurial orientation in Laos. He shows that entrepreneurial orientation differs by regions and is associated with farming practice and other characteristics. Given the significant associations, the discussant encouraged to investigate more in detail, so that consistent interpretations can be drawn from the analysis. The second presentation by Kiyoto Kurokawa argues about marketing of the tourism in Koka city, suggesting Ninja for a symbol of the city among several local resources. It could be a common and important issue in Japan, where local towns may have lost their identity through the recent large-scale merger with neighboring towns. However, as discussed, process to select a symbol needs to be constructed based on the relevant literature and more comprehensive surveys to justify the author’s selection of Ninja.

The third presentation by Van-Trung Pham measured productivity of the Vietnamese garment firms, and found heterogeneity in production management by firm size. It has advantage over the existing studies in using census data, while the discussant indicated possibility of measurement errors in outputs. The study would be more meaningful if the productivity distribution is interpreted with good understanding of local industries including management, labor markets and input/output markets. The last presentation by Hiromi Inami critically evaluates the private company’s project for poverty reduction in India. She argues that the Unilever’s project that facilitates small business for poor women is a part of company’s BOP marketing activities, and likely to hurt future welfare of the poor. As suggested by the discussant, constructing analytical framework would help to clarify the problems and possibly strength of the private-driven project and to deliver effective policy recommendations.

Partly because of online format, few discussions were made with the audience unfortunately. However, attendance of audience motivated the presenters and the excellent comments by the discussants will help them to further develop their studies.

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B8: 企画「開発レジリエンスと新型コロナ時代のSDGs」―「誰一人取り残さない」のための人間の安全保障―(日本語)

  • 企画責任者:関谷雄一(東京大学)、野田真里(茨城大学)
  • 司会:関谷雄一(東京大学)
  • 討論者:大門毅(早稲田大学)

発表者

  1. 関谷雄一(東京大学)
    「開発レジリエンスとSDGs:震災復興から新型コロナ禍へ」
  2. 本田利器 (東京大学)
    「危機耐性」から考える社会的レジリエンス」
  3. 大谷順子(大阪大学)
    「女性と健康:コロナ禍のレジリエンス」
  4. 受田宏之(東京大学)
    「コロナ禍とインフォーマリティ、貧困」
  5. 野田真里(茨城大学)
    「新型コロナ時代のSDGsと『取り残される人々』」
  6. 乙部尚子(ジェンダ-、労働、開発コンサルタント)
    「ジェンダ-と労働の世界:コロナ感染危機の影響とレジリエンス」

本セッションは2021年度より新設の「開発レジリエンスとSDGs」研究部会によるラウンドテーブルで、同研究部会のキックオフミーティングでもあった。始めに関谷が企画・研究部会の主旨説明と、人類学の見地から議論されている開発及び新型コロナ禍以降の社会のレジリエンスに関して課題提供をした。

つづいて本田会員から、途上国の災害復興の在り方に見いだされる「危機耐性」における社会的レジリエンスの重要性を示唆する報告がなされた。大谷会員からは、開発レジリエンスに関わる様々な論考を踏まえつつ、新型コロナ禍における女性と子どもの健康にかかわる現状と課題の説明がなされた。受田会員からは、新型コロナ禍と向き合うメキシコ先住民のインフォーマリティ―を前提としたレジリエントな経済活動のありようが紹介された。そして野田会員からは、太平洋島嶼部と日本の離島を事例に、「取り残される人々」の開発レジリエンスに関する報告がなされた。最後に乙部会員からは、グローバルな視座からのコロナ危機下のジェンダーと労働の問題に関して報告がなされた。

各報告後に論点として、開発におけるレジリエンスとSDGs、レジリエンスの定義、「取り残される人々」の課題、「人間の安全保障」などを設定し、討論者に大門会員を迎え、来訪者も交えて議論が行われた。新型コロナ禍により改めてSDGsが途上国の問題ではなく私たち自身の問題であることが再確認され、SDGsを巡る言説の危うさも言及された。また、インフォーマリティ―(許容された違法性)や「取り残された人々」に着目することの重要性も再確認された。

(報告:関谷雄一)

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午後の部 II Afternoon Session II (14:40-16:40) (GMT+9)

C1: 政府系援助(日本語)

  • 座長:豊田利久
  • 討論者:北野尚宏(早稲田大学)、石田洋子(広島大学)

発表者

  1. 汪牧耘(東京大学)
    「途上国における中国の貧困削減経験の共有―対ラオスの援助事業からみる―」
  2. 李嘉悦(双日株式会社)
    「中国対外援助の基本構造と新たな展開」
  3. 藤城一雄(国際協力機構)
    「生活改善アプローチ研修の学びに影響を与える研修員属性の実証研究ー14年分の中米地域生活改善アプローチ研修データのテキストマイニング分析から―」
  4. 坂根徹(法政大学)
    「2004年スマトラ沖大地震・津波後のアチェにおけるインフラ復興と災害遺産の活用―日本の先行研究及び現地の現状分析を中心とした考察―」

全体として、良く練られた報告と討論がなされ、大いに盛り上がったセッションであった。参加者は、20~23名程度であった。

報告1、2は中国の援助政策に関する斬新で優れたものであるという評価を得た。しかし、その内容は対照的であり、討論も大いに盛り上がった。報告1は、中国政府が初めて行っている「村レベルでの貧困削減援助政策プロジェクト」のラオスでの事例を扱い、中国国内での貧困削減政策の経験が活かされているか、課題は何か、をめぐって討論された。報告2は、中国の援助の目的が国益重視(資源獲保、消費市場拡大)からDACを意識したソフト面への変貌が徐々にみえることをデータおよび制度改革によって示した。特に、商務部主体の援助事業に加えて新設された国家国際発展協力署の役割などが議論された。

報告3は、JICA研修を通じて蓄積されたデータを基に、「中南米での生活改善アプローチ」を根付かせ発展させるための研究成果である。インプリケーションとして、①適切な研修員の選抜、②帰国研修員との協働、③継続性、等が重要であると結論した。しかし、選抜方法と属性の関係など、より詳細な項目に関するデータ分析の必要性が指摘された。

報告4は、アチェにおける津波被害からの復興に関して、現地の視察とCiNii文献の検索を通じて行ったものである。報告者の視点は、インフラの公共資金調達の限界とそれを補完する災害遺産の活用である。文献検索の対象を拡大すればより多くのデータが扱える等の指摘があった。

(報告:豊田利久) 

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C2 政策・ガバナンス・開発(日本語)

  • 座長:絵所秀紀(法政大学)、
  • 討論者:笹岡雄一(明治大学)、松本悟(法政大学)

発表者

  1. 勝間靖(国立個億歳医療研究センター/早稲田大学)
    「世界的に公正なCOVID-19ワクチンへのアクセスをめぐる政治経済学― COVAXファシリティとワクチン外交―」
  2. 大塚健司(アジア経済研究所)
    「メコン流域の開発と環境をめぐる非対称な相互依存関係」
  3. 内田善久(東洋大学大学院)、松丸亮(東洋大学)
    「バングラデシュ気象局における日本政府の支援による気象レーダー観測網拡充の変遷と運用維持管理状況に関する考察」
  4. 岡野内正(法政大学)
    「SDGs達成危機において強まるベーシック・インカム政策要求―国連開発計画および世界銀行における政策思考の転換?―」

勝間靖「世界的に公正なCOVID-19ワクチンへのアクセスをめぐる政治経済学―COVAXファシリティとワクチン外交―」報告は、「世界的に公正なCOVID-19ワクチンへのアクセス」を進めるために何をするべきかという問題にアプローチするものであった。低所得国へのワクチン供与の国際協力枠組みとして設置されたCOVAX AMCに十分な資金が集まらず、二国間ワクチン外国が補完的な役割を果たしているが、外交のツールとして用いられないよう「国際公共財」としての位置づけが求められると結論づけている。


大塚健司「メコン流域の開発と環境をめぐる非対称な相互依存関係」報告は、2019年、2020年に開催されたメコン・ダイアログに参加した経験を踏まえた報告であった。メコン流域の開発と環境をめぐる中国と下流国、国家・科開発資本と地域住民との間には、根深い対立・相互不信がある。こうした非対称な相互依存関係の複雑な絡み合いについての共通認識を深めつつ、「越境的共創」に向けた流域ガバナンスを構築することが必要と提唱した。

内田善久「バングラデシュ気象局における日本政府の支援による気象レーダー観測網拡充の変遷及び技術官のモチベーションの向上に関する考察」報告の内容は表題通りであるが、気象レーダー塔施設の新設によって「技術官」の立場とモチベーションが高まり、気象観測能力の底上げに重要な役割を果たしたと結論づけた。


岡野内正「SGDs達成危機において強まるベーシック・インカム政策要求―国連開発計画および世界銀行における政策思考の転換?」報告は、国連諸機関は「労働に基づく所有」原則と抵触する懸念のあるベーシック・インカムを拒否しなくなり、これは経済成長主義からエコロジカル・ヒューマニズムへの開発パラダイムの歴史的転換であると評価した。


本セッションの討論者は、笹岡雄一会委員と松本悟会員であった。なお参加者数は最大で26名であった。

(報告:勝間靖)

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C3: Education/ Conflict (English)

  • 座長(Chair):澤村信英
  • 討論者(Discussant) 吉田和浩(広島大学)、小川啓一(神戸大学)

報告者/Presenters

  1. Yalei Zhai (Shinshu University)
    “Evacuation Decision-making During Armed Conflict: Evidence from Myanmar”
  2. Takao Maruyama (Hiroshima University), Kengo Igei (Metrics Work Consultants Inc.), Seiichi Kurokawa (JICA)
    “ Community-wide collaboration to improve basic reading and math: Empirical Evidence from Madagascar”
  3. Kazuro Shibuya (JICA)
    “Managing Conflicts within School Communities in Ghana: Focusing on Conviviality as a  
     Complementary Analytical Lens of Social Capital”
  4. Nakawa Nagisa (Kanto Gakuin University)
    “An episode leading to a linguistic issue in mathematics education in Zambia: A case study of teaching weight in an early childhood mathematic classroom”

本セッションでは、以下の4件の発表があった。参加者は25~30人、コメンテーターは小川啓一(神戸大学)および吉田和浩(広島大学)の各会員である。いずれの発表も本学会にとって重要な研究テーマであり、独創的な内容であった。

(1)「Evacuation decision-making during armed conflict: evidence from Myanmar」(信州大学 Yalei ZHAI)

ミャンマーを事例として、武力紛争時において世帯が避難を行う際の決定要因を明らかにし、避難行動における貧富の影響等を推定することを目的としている。紛争の影響を受けた6村、214世帯を対象として収集した量的データをもとに、3つの仮説を設定し、検証したものである。サンプリングの方法、指標の適否などについて意見が交わされた。

(2) 「Community-wide collaboration to improve basic reading and math: empirical evidence from Madagascar」(広島大学 丸山隆央ほか)

マダガスカルで行われているJICAプロジェクト(読み書き計算能力向上)の効果を実証的に検証しようとするものである。なぜ効果をあげたのかは、校長や学校運営委員会に対する情報共有の仕方(シンプルなフォーマットで)にあるという結論であった。分析結果の解釈、データ収集の時期(新学年始期とのタイミングなど)について質疑が行われた。

(3) 「Managing conflicts within school communities in Ghana: focusing on conviviality as a complementary analytical lens of social capital」(JICA 澁谷和朗)

ガーナの学校における生徒の規律をめぐる対立を抑制する方法として、「コンビビアリティ(共生的実践?)」が機能しているかを質的データから明らかにするものである。そして、コンビビアリティは、社会関係資本を補完する分析レンズとなり得る可能性を示唆した。社会関係資本とコンビビアリティの関係性やサンプリングに関する議論などが交わされた。

(4) 「An episode leading to a linguistic issue in mathematics education in Zambia: a case study of teaching weight in an early childhood mathematics classroom」(関東学院大学 中和渚)

ザンビアの算数授業における教授法の特徴を言語的な側面から明らかにするものである。言語は数学的理解に影響を与え、民族語と英語における数学的概念の微妙な違いを意識した授業づくりの大切さが示唆された。子どもの学習の様子、教師とのやり取りを丁寧に分析し、コロナ禍においても現地研究者の協力を得て研究が進められていることが印象的であった。

(報告:澤村信英)

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C4: 紛争・平和構築・移民(日本語)

  • 座長:穂坂光彦(日本福祉大学)
  • 討論者:華井和代(東京大学)、斉藤千宏(日本福祉大学)

発表者

  1. 明石留美子(明治学院大学)
    「日本で暮らすロヒンギャ女性の生活課題 ―多文化ソーシャルワークの視点からの考察―」
  2. 齋藤百合子(大東文化大学)
    「人身取引は現代の奴隷制か? ―<他者化>を超える社会開発の可能性―」
  3. 加藤丈太郎(早稲田大学)
    「技能実習制度による発展途上国への技能移転の課題と可能性―ベトナム人技能実習生の声から考える―」
  4. 黒川智恵美(広島大学大学院、日本学術振興会特別研究員)
    「意識的往還型人材の移住と帰還戦略―日本の高学歴スーダン移民の事例―」
  5. 小林かおり(椙山女学園大学)
    「『多文化共生』とポスト『留学生30万人計画』―別府市と福岡市の取組み事例から― 」

発表者5名の過密セッションであったが、いずれも入念に準備されたプレゼンとコメントにより、効率的で内容の濃い討論が行われた。参加者はピーク時で約25名。

明石留美子報告「日本で暮らすロヒンギャ女性の生活課題:多文化ソーシャルワークの視点からの考察」は、ロヒンギャ女性9名の身体・心理・社会に関わる実態調査に基づく欲求分析から、受け入れ側社会の課題を明らかにした。討論者の斎藤千宏会員は、マズローの欲求論を分析枠とすることの妥当性の検証と、ムスリムとしての特性を考慮する必要性を指摘した。

齋藤百合子報告「人身取引は現代奴隷制か? <他者化>を超える社会開発の可能性」は、人身取引議定書の採択(2000年)とそれ以降の言説を分析し、人身取引を「現代奴隷」としてみることが、「犠牲者」としての保護対象を拡大した一方、当事者の「他者化」を招くおそれがあると指摘した。斎藤千宏会員は、タイの人身売買事例が現代奴隷制言説の枠でどう分析できるのかを質問し、加えて座長の穂坂が、「他者の声を聴く」「社会開発」について補足説明を求めた。

加藤丈太郎報告「技能実習制度による発展途上国への技能移転の課題と可能性:ベトナム人技能実習生の声から考える」は、技能実習生、監理団体および送り出し機関からの聞き取りに基づき、日本で習得した「技能」と、帰国後に就業する業種や求められる技能とのミスマッチを明らかにした。そして移転を想定される「技能」の再定義が必要であると述べた。討論者の華井和代会員は、当報告の課題を「技能実習制度」全体の視野の中で位置づけ、「ミスマッチ」が制度自体の問題か制度運用の問題かを整理すべきこと、また「再定義」以前に現「定義」の分析が求められると指摘した。さらに明石会員は、実習生が被る人権侵害問題への言及を求めた。

黒川智恵美報告「意識的往還型人材の移住と帰還戦略:日本の高学歴スーダン移民の事例」は、頭脳流出・頭脳還元に関する独自の類型化を基に、スーダン出身の日本滞在者12名のオンラインインタビューから、母国貢献意識の生成を明らかにする試みであった。華井会員は、仮説と検証の構造を明瞭にする助言とともに、今後の展開として、「ABEイニシアティブ」などアフリカ青年向け往還型人材育成プログラムを枠組みのひとつに用いるヒントを与えた。

小林かおり報告「『多文化共生』とポスト『留学生 30 万人計画』:別府市と福岡市の取組み事例から」は、地域の「高度人材」として期待される留学生が、九州の二都市で実際にどのように受け入れられ、かれらのキャリア形成がどうなされているかを考察するものであった。華井会員は、留学生を労働力としてのみ期待する地域や、働き手としてのキャリアのみに注目する政策を越えて、全人的に受け入れられる「地域共生社会」の研究が社会や行政にフィードバックされる期待を述べた。

いずれの報告も、テーマ、アプローチ、データ等に新しさがみられ、扱われる社会課題の解決への道筋を感じさせるものであった。 

(報告:穂坂光彦)

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C5: 企画「アフリカ都市部における技能と雇用」(日本語)

  • 企画責任者:近藤菜月(名古屋大学)
  • 司会: 山田肖子(名古屋大学)
  • 討論者: 高橋基樹(京都大学)、町北朋洋(京都大学)

発表者

  1. 近藤菜月(名古屋大学)
    「<新しい能力>論への問い―アフリカでの調査から見えてくるもの―」
  2. 山崎裕次郎(名古屋大学)
    「ウガンダ都市零細金属加工業における学びの空間―正統的周辺参加の正統性とは何かー」
  3. 松原加奈(京都大学)
    「エチオピア都市部の革靴産業における民族間賃金格差―労働者の出身地と「再民族化現象」に着目して―」
  4. 水谷文(名古屋大学)
    「賃金と昇給の決定因子―エチオピア産業パークの若手労働者を対象として―」

本企画の報告者らは、アフリカをフィールドとして、労働者の属性及び能力と賃金の関係、具体的実践について、様々なアプローチで研究、考察を行ってきた。本セッションでは、アフリカ都市部における労働機会上の差異が生まれるメカニズムを、個々人の労働主体(の属性及び能力)と文脈/状況との相互作用に着目した。

近藤報告は、「不確実性」をキーワードに、<新しい能力>論と、アフリカの行為者の態度とを接合する理論的考察を行った。山崎報告はウガンダ都市インフォーマル金属加工の作業場における見習いの実践に焦点を当て、親方と見習いの関係について分析した。松原報告はエチオピア都市部の革靴産業における民族間賃金格差に注目し、民族的な扶助ネットワークの有無について論じた。水谷報告はエチオピア産業パークの企業と労働者を対象に、入社時と入社後の賃金決定因子についての分析結果を提示した。

高橋先生は、ご自分のインフォーマルセクターのご研究経験に基づき、主に近藤・山崎報告に対して、現地社会・共同体の性質に照らした質問をいただいた。町北先生からは、各報告へのコメントに加え、企画全体に対し、「急速な成長と目まぐるしい変化」を扱う上で、アジアの労働・組織史の研究蓄積から学ぶことの重要性を示唆して頂いた。

(報告:近藤菜月)

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C6: 経済開発(日本語)

  • 座長:梅村哲夫(名古屋大学)
  • 討論者:島田剛(明治大学)、栗田匡相(関西学院大学)、新海尚子(津田塾大学)

発表者

  1. 田村哲也(立命館大学)・大野敦(立命館大学)
    「AfT、不安定性、規範―GVCにおけるWTO体制―」
  2. 松本愛果(京都大学)・高橋基樹(京都大学)
    「ケニア・ナイロビにおけるインフォーマル経済活動へのCOVID-19の影響―教育の水準と種別に着目して―」
  3. 島根良枝(龍谷大学)
    「労働移動の経済社会的要因と教育投資への影響―インド全国標本調査を用いた実証分析―」

第一報告は、貿易のための援助(Aid for Trade, AfT)について、多くの研究で途上国の貿易コストを下げることが証明されている反面、途上国の貿易開放度の上昇と国際分業への編入によって、国内経済が不安定になり不遇な人々がより脆弱なる、これはAftの理念に反すると論じている。本報告は、ロールズの国際正義からAfTを論じたものであるが、結論としてAfTはいわゆる中所得国に対して相対的に集中しかつ効果的であったが、サブサハラ諸国などより援助を必要としている国に対しては、国内経済を不安定化させるなど負の影響についても考える必要がある、という新たな視点を提供したものであった。

第二報告は、ケニアの首都ナイロビにおいて、“COVID-19・移動制限によるインフォーマルな事業の収入変動や経営行動の変化に対して、事業主の最終学歴と教育種別(普通教育か職業教育かの別)がどのように影響しているのか”に関する分析である。結論としては、COVID-19によって引き起こされた経済ショックに対抗しうる抵抗力や回復力は、職業教育を受けた人々の方が基礎教育だけを受けた人々より高いことが実証分析で確認された。その理由として職業教育では、経営能力を修得しているからだという説明がなされた。

第三報告は、インドにおける人の移動に関して、①国内を移動するか、県内、州内、州外のどこに移動するかという選択に関して、世帯や移動する世帯構成員個人のどの経済社会的属性が影響しているのか、②労働移動によって子供の就学状況に影響が生じているかを検証したものである。結論としては、“より厳しい環境にある人々が労働移動していること、労働移動が子供の就学に中等教育の段階でマイナスになる一方、高等教育を受ける機会拡大につながっていること”が示された。

本セッションは経済開発となっているものの、国際貿易、COVID-19と教育・経済活動、労働移動という全く異なった研究発表となったが、それぞれ興味深く、また新たな視点を提供してもらった。また討論者による建設的なコメントをいただき、参加者の理解も深まったと思います。なお、今回キャンセルされた報告も含め、大会後も討論者の方々がコメントを交換するなど、極めて有意義なセッションであったと感じ、また報告者、討論者を含め、サポートの関係者に対して深くお礼を申し上げたいと思います。

(報告:梅村哲夫)

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C7: 企画「JASIDブックトーク」

  • 座長:佐藤寛(アジア経済研究所)・道中真紀(日本評論社)

1.「アフリカにおけるジェンダーと開発 女性の収入向上支援と世帯内意思決定」(甲斐田きよみ著 春風社 2000年)

  • 報告者:甲斐田きよみ(文京学院大学)・韓智仁(春風社)
  • 討論者:和田一哉(金沢大学)

2.「人類学者たちのフィールド教育――自己変容に向けた学びのデザイン」(箕曲在弘・二文字屋脩・小西公大編、ナカニシヤ出版2021年)

  • 報告者:箕曲在弘(東洋大学)
  • 討論者:小國和子(日本福祉大学)

3.「パプアニューギニアの「場所」の物語――動態地誌とフィールドワーク」(熊谷圭知、九州大学出版会2019年)

  • 報告者:熊谷圭知(お茶の水女子大学)
  • 討論者:小國和子(日本福祉大学)


4.「国際教育開発への挑戦――これからの教育・社会・理論」 (荻巣崇世・橋本憲幸・川口純/編著、東信堂2021年)

  • 報告者:荻巣崇世(上智大学)・橋本憲幸(山梨県立大学)・川口純(筑波大学)
  • 討論者:北村友人(東京大学)

5.「東日本大震災の教訓――復興におけるネットワークとガバナンスの意義」(D. P .アルドリッチ(著) 飯塚明子/石田祐(訳)、ミネルヴァ書房2021年)

  • 報告者:飯塚明子(宇都宮大学)
  • 討論者:斎藤文彦(龍谷大学)

6.「国際協力と想像力――イメージと「現場」のせめぎ合い」(松本悟・佐藤仁/編著、日本評論社2021年)

  • 報告者:松本悟(法政大学)
  • 討論者:山形辰史(立命館アジア太平洋大学)

JASIDブックトークは、会員が自著を担当編集者と共に紹介するセッションです。書籍の内容紹介に留まらず、企画から刊行、販売までの過程を含めて「出版」をトータルに語り、これから本を読む人/書く人の参考にしていただくことを目的に、2019年春季大会より継続的に行われています。今回は登壇者を含め最大46名にご参加いただき、充実した報告と討論が行われました。

(報告:佐藤寛)

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共通論題セッション 

  • 企画責任者:林薫(文教大学)
  • 司会:海津ゆりえ(文教大学)
  • 討論モデレーター:渡邊 暁子(文教大学)
  • 報告者:加賀大資(認定特定非営利活動法人カタリバ)
  • 報告者:Ashutosh Nema (Bachpan Bachao Andolan, India: インド・子ども時代を救え運動)
  • 討論者:勝間靖(早稲田大学)
  • モデレーター: 渡邉暁子(文教大学)

大会の全体のテーマ「ともに生きる:課題解決のために知識と経験を共有する Live together: Sharing Knowledge and Experience for better solution」の趣旨に沿い、新型コロナ感染症拡大以前から、困難な状況に置かれた子どもたちを対象として活動を行っている日本とインドの市民団体のパネリストに、特にコロナ禍における子どもへの支援活動について経験を共有することをセッションの目的とした。

第1報告はNPOカタリバの足立区拠点で活動する加賀大資氏にお話しいただいた。カタリバは2001年から「いかなる環境に生まれ育った子どもたちも、未来を自らつくりだす意欲と創造性を育める社会を目指し」活動を続けている。高校への出張授業プログラムから始まり、2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供してきた。

報告では子どもの貧困の連鎖が文化資本、社会関係資本、経済資本の欠如と連鎖で発生するメカニズムで生じているとし、この連鎖を断つために行っている「安全基地」づくりの活動についてまず紹介されたあと、コロナ禍でこれまでのつながりを維持することが困難になった状況を踏まえて、給食から弁当への変更などの食事提供手段の変更をしたり、コロナ禍に伴って困窮した家庭にPCとWi-Fiを無償貸与し学習支援を行う「キッカケプログラム」を開始したりするなど、子どもと親の双方に同時に「伴走支援」を行うことなどの取り組みについて報告がなされた。

第2報告はインドのNGO、Bachpan Bachao Andolan(BBA)で活動されているAshutosh Nema氏にインドのCovid-19の状況についてお話しいただいた。BBAは1980年から子どもたちが児童労働の搾取から解放され、質のよい教育を受けられる社会づくりをめざして活動おり、ニューデリーのほか、設置して、デリー、ラジャスターン州、ウッタル・プラデシュ州、ビハール州などで活動している。

設立者であるカイラシュ氏は、2014年にノーベル平和賞を受賞した。Neema氏はまずインドにおける感染の拡大により貧困層の状況が急速に悪化しており、その結果(親の)失業、貧困、児童労働の増加というスパイラルに陥り、また学校の閉鎖による教育格差の拡大、子どもの感染などが深刻化している。これらの困難な状況に対して、BBAなどのNGOと政府関係機関が協力して対処している状況について報告した。

討論者の勝間会員からは、①重症化しにくく危機感をあまり持たない若者がウイルスの拡散者になりうることから、どのようにすればマスクの着用、三密の回避などにむけた若者の行動変容をもたらすか、②学校における対面授業からオンライン授業への変換に際して、いかにデジタル・ディバイドを埋めていくか、③コロナに関連した知的所有権の公開に関して途上国と英国やドイツなどの先進国との利害が対立しているが、どのようにして子どもの権利の主張を知的所有権の公開に結び付けて行くか、などの課題が提起された。

つづくフロアディスカッションでは、コロナ禍によって最も大きな影響を受けているのは貧困層と子どもであり、どのような対応策が可能かなどについて活発な議論が行われた。

(報告:林薫)

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ポスターセッション

  1. 家族の食事と個人の栄養摂取ータンザニア3地域の家計食事日誌と個人インタビューからー/阪本公美子・大森玲子・津田勝憲(宇都宮大学)
  2. ミャンマー少数民族紛争とクーデター -日本企業による平和構築の展望ー/丸山隼人(早稲田大学)
  3. 森林・自然資源管理プロジェクトで適用する活動アプローチの方法論化ー研究による効果的な現場フィード
    バックに向けてー
    /久保英之(地球環境戦略研究機関)・山ノ下麻木乃(地球環境戦略研究機関)
  4. コロナ禍における国内のモスクの感染症対策と支援活動/田村 まり(東京大学)・小谷仁務(東京大学)・子島進(東洋大学)
  5. 明治期の唱歌による音楽教育の経験が開発途上国の音楽教育に与える示唆ー情操教育の劣後と音楽教 
    育の継続性・浸透性の観点からー
    /鈴木智良(JICA緒方研究所)
  6. 「アラブの春」とは何だったのか?ー革命10年後のチュニジアからー/大門(佐藤)毅(早稲田大学)
  7. サヤインゲンの契約農家における農家の収益と参加に関する考察ーケニア・ナクル県の事例からー/久保田ちひろ(京都大学)
  8. 重度障害者の生存の難しさーネパール地方都市とその周辺地域から見えてきたことー/白井恵花(聖心女子大学大学院2021年3月卒業)
  9. COVID-19禍におけるバングラデシュの教育現場の対応と課題ー山岳少数民族地域を事例にー/ 田中志歩(広島大学)
  10. Community and Parental Participation in Ugandan Primary Education: Cases of Bushenyi and Wakiso Districts/ Takumi Kobayashi (Kobe University)
  11. Descriptive Modelling of Intergenerational Persistence in Education and the Influence of Family Lineage Descent Systems in The Democratic Republic of Congo/ Bernard Yungu Loleka (Kobe University)
  12. Ensuring Equitable Access to Early Childhood Education in Lao PDR before and during the COVID-19 Pandemic/ Masaya Noguchi (Kobe University)
  13. School to work transition in rural Madagascar: exploring parents’ influence on children’s aspirations/ Fanantenana Rianasoa Andriariniaina (Osaka University)
  14. Exploring the place of global citizenship education in the local context of Madagascar: from the views and practices of rural school stakeholders/ Andriamanasina Rojoniaina Rasolonaivo (Osaka University)
  15. Smallholder Households Characteristics and Offspring’s Basic Education in Mozambiq/ Nelson Manhisse (Kobe University)
  16. Local Autonomy and the Challenge of Industrial-Firm Upgrading in Post-Reform Indonesia: A Study on the Impact of the 2009 Local Tax Law/ Bangkit A. Wiryawan (Nagoya University)
  17. Home Learning Environment for Early Childhood Development in Banglades/ Kexin Wang(Kobe University)
  18. A review on Vulnerabilities Posed by Tsunami in Coastal Areas of Pakistan/ Babar Ali (Toyo University) and Ryo Matsumaru (Toyo University)

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プレセッション 6月11日(金曜)18:30-20:00

「若手実務者、研究者のための特別企画:COVID-19下で世界とどのようにつながっていくか」

  • 司会:林 薫(文教大学)
  • 報告・討論者:池田 直人(難民を助ける会)
  • 報告・討論者:高柳 妙子(早稲田大学日本学術振興会博士特別研究員RPD)

海外に行くことができないこの時期に、国際開発学に関わる事業運営や研究をどのように行うか、また研究をまとめていくのかについて、知識や経験を交換、共有することを目的とした。2人の話題提供者から、それぞれの立場での実務、研究上の経験やアイデアを伝え、それをめぐって参加者とともに意見交換・交流を行う方式で行った。

高柳妙子会員は、「アフリカ・アジア地域:Covid-19下におけるケニア・マサイの村での調査およびタイ先住民を対象とした調査研究」というテーマで、2020年(Covid-19発生後)から2021年6月時点まで、どのように調査研究を進めているかについて話題提供をした。

具体的には、過去に収集した教育と開発に関するインタビューデータの公衆衛生の視点からの再分析(英文雑誌に査読付き論文を投稿)やケニア・マサイの村で現地アシスタントによる補足調査などである。フィールド調査に際しては、PCR検査受診、陰性証明書持参、感染対策のためのマスク、アルコール消毒液の持参を徹底して、データ収集を実施するよう依頼した。

現在、タイ北部における幼稚園調査を準備中で、チェンマイ大学の共同研究者たちと、先行研究のレビュー、研究枠組みの構築、インタビュー質問項目の作成を行い、大学内の倫理委員会の承認を受けるべく準備中であることや、オンラインで研究打合せを頻繁に行っている、などの取り組みを紹介した。

池田直人会員は「パキスタンにおけるインクルーシブ教育事業とJICA『障害と開発』関連事業」というテーマで報告を行った。パキスタンにおける国際開発事業では、新型コロナウイルス流行前から、遠隔業務を強いられることがあった。

日本人が現地に行けない、現地のカウンタパートが日本人のいるプロジェクト事務所に来てもらえない、もしくは、彼らに集まってもらえる機会が作れない、のような様々な制限がある中、最も力を入れていたのはスタッフ育成だった。

それと同時に、現場に入れないことで時間に余裕ができたため、プロジェクトとは関連性の低いと考えてきたパキスタンの政治・経済・社会・文化的な背景についてより深く調べるようになった。ピンチをチャンスに変えられた事例として、障害者社会参加促進を目的とした事業であったが、政府の優先課題となっていた環境や気候変動に関連する活動を行い、政府とのさらなる関係改善に成功したことを紹介した。


ディスカッションではジェンダー格差に対する配慮はどのように行ったか、チームワーク強化の具体的な方法はどのようなものであったか、新しい人材の遠隔での育成方法はどのように行われたかなど、それぞれの取り組みの詳しい内容や今後の方向性に関する議論が活発に行われた。

(報告:林薫、池田直人、高柳妙子)

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