『アフリカ・アジアにおけるものづくり』研究部会(2023年11月)
2023年度活動報告
活動2年目にあたる2023年度は、計4回の研究部会に加え、全国大会でのセッション開催を企画・実施しました。以下に、活動の詳細をご報告いたします。
毎回の研究部会を通じてアフリカ・アジアにおけるものづくりの多様性を再確認するとともに、両地域間の共通性や差異性を知ることが出来ました。
参加者は大学院生や若手研究者を含む大学に所属する研究者のほか、開発機関や民間企業の実務者など幅広く、毎回20名を超える参加者がありました。
また、今年度は、研究会を通じて得られた繋がりを活かして、日本を代表するものづくりのまちとして知られる東大阪市を一部の会員とともに訪問し(市役所のモノづくり支援室/三和鋲螺製作所)、ものづくりに関する知見を深めました。
以上の取り組みを通じて、研究者間の交流に繋がるとともに、ものづくり研究のすそ野が着実に広がってることを実感しています。
第4回研究会
- 開催日時:2022年10月22日(土曜)15:00~17:30
- 実施方法・場所:Zoomとオンサイト(対面)のハイブリッド
プログラム
15:00-15:05
開会
高橋基樹(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授)
15:05-15:10
自己紹介
15:10-16:10
「モザンビーク都市部における小規模金属加工業の動態:南部マトラ市の金属建具製造に着目して(仮)」
畔柳理(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程、オンライン参加)
16:10-16:20
休憩
16:20-17:20
「鉄鋼産業の技術移転研究:韓国ポスコの技術導入からインドネシア移転まで」
辺成祐(近畿大学経営学部准教授)
17:20-17:30
閉会、次回の予定
第5回研究会
- 開催日時:2023年3月18日(土曜)15:00~17:30
- 実施方法・場所:Zoomとオンサイト(対面)のハイブリッド
プログラム
15:00-15:05
開会
高橋基樹(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授)
15:05-15:10
自己紹介
15:10-16:10
「デジタル・グローバル時代の人材育成:アジア・アフリカの現場から考える」
栗田匡相 会員(関西学院大学経済学部教授)
16:10-16:20
休憩
16:20-17:20
「ケニア西部グシイ地方におけるソープストーン彫刻産業の現状」
板久梓織(東京都立大学大学院人文科学研究科博士後期課程)
17:20-17:30
閉会、次回の予定
第6回研究会
- 開催日時:2023年4月22日(土曜)15:00~17:30
- 実施方法・場所:Zoomとオンサイト(対面)のハイブリッド
プログラム
15:00-15:05
開会
高橋基樹(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授)
15:05-15:10
自己紹介
15:10-16:10
「ケニアにおける小規模農家のアグリプラットフォーム利用状況の検討」
井上直美 会員(東京外国語大学大学院博士後期課程、アジ研連携研究員)
16:10-16:20
休憩
16:20-17:20
「ナイロビの都市インフォーマルセクターにおけるオンライン・マーケティングの利用」
福西隆弘 会員(アジア経済研究所 開発研究センター/開発スクール)
17:20-17:30
閉会、次回の予定
第7回研究会 (共催:京滋支部)
- 開催日時:2023年6月24日(土曜)15:00~17:30
- 実施方法・場所:Zoomとオンサイト(対面)のハイブリッド
プログラム
15:00-15:05
開会
高橋基樹(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科教授)
15:05-15:10
自己紹介
15:10-16:10
「南アフリカに進出した中国系製造業企業における人事管理の現状(仮)」
シ ゲンギン(立教大学異文化コミュニケーション学部助教)
16:10-16:20
休憩
16:20-17:20
「ガーナにおけるブラックソープの製法とオペレーション改善」
尾崎隼人(江崎グリコ株式会社)
17:20-17:30
閉会、次回の予定
国際開発学会第33回全国大会企画セッション
「包摂的な産業開発は可能か―アフリカにおけるものづくりの現場から」
- 開催日時:2022年12月4日(日曜) 12:45 〜 14:45
- 場所:明治大学駿河台キャンパス・リバティタワー 9F 1093
企画の背景:
アフリカにおける製造業・ものづくりについては、少数の大企業と大多数の小規模零細企業からなる二重構造、また、政府と小規模零細企業の断絶などが議論されてきた。
しかし、これらの議論では把握できない状況も指摘されており、ものづくりの現場に立ち返り、担い手の課題や営為の詳細を理解しておく必要がある。本セッションでは、実証調査に基づく研究成果を報告し、既往の議論の問い直しを図る。
報告者
- 高橋基樹(京都大学)
「アフリカにおける製造業の「失われた中間」を問い直す―ソファ製造の多系的発展の事例から」 - 井手上和代(明治学院大学)
「ケニアの小規模零細金属加工業者のものづくりと資金調達―企業者的能力に着目して」 - 松原加奈(東京理科大学)
「支援を渡る―政府と国際援助機関によるエチオピア皮革産業の現地企業への影響」 - 日下部美佳(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
「ザンビア・ルサカにおける障害者団体の技能訓練と生産活動―技能形成に着目して」
座長報告:高橋基樹(京都大学)
本セッションには、対面で11名、オンラインで11名の参加があった。本セッションは、「アフリカ・アジアにおけるものづくり」研究部会の活動を踏まえ、その成果を学会に還元することを念頭に置いて企画したものである。
アフリカ諸国が21世紀初頭からの高度成長を経てかえって強まった資源・一次産品への依存からの構造転換のために、ものづくり・製造業の現状を、実証研究を通じて考察することが要請されている。そこで必要なことは、多くの人が経済活動の担い手として参加する包摂的な開発が実現されてゆくことである。
最初の報告「アフリカにおける製造業の『失われた中間』を問い直す―ソファ製造の多系的発展の事例から―」(高橋基樹会員・京都大学)では、ケニア・ナイロビのソファ製造の複数のクラスターを取り上げ、製品について生じた革新的な知識が異なる業者の間で容易に共有される開放的なケースと知識が秘匿される閉鎖的なケースがあることが指摘された。
それは従来の「失われた中間」=二重構造論では捉えきれない多系的な発展とそれに応じた包摂が生じている可能性を示唆するものである。
続く「ケニアの小規模零細金属加工業者のものづくりと資金調達 ―企業者的能力に着目して―」(井手上和代会員・明治学院大学)では、ナイロビの金属加工業の資金調達と企業者能力について、製品と技術(機械化の程度)が異なる二つの地区の業者への聞き取り調査に基づき論じた。
長期資金需要の相対的多さにもかかわらず、金融市場における機会が狭められており、機械化の進んだ事業者も自己資金への依存率が高く、金融機関からの借り入れが限られていることが分かった。
事業者の企業者能力はそうした生産環境の負の要因を補うために発揮されている。
「支援を渡る―政府と国際援助機関によるエチオピア皮革産業の現地企業への影響―」(松原加奈会員・東京理科大学)は、最初にエチオピアの革靴産業と産業政策の歴史を跡付けた。
それを踏まえて、異なる3つの規模の企業が受けてきた支援を詳述し、小企業にも政府による外国援助を活用した支援が及んでいることを指摘する。
各企業は異なる複数の支援を渡りつつ恩恵を受けるものの、逆に支援を渡ることができずに廃業に追い込まれる場合があり、包摂が不均等なかたちで生じていることが示された。
「ザンビア・ルサカにおける障害者団体の技能訓練と生産活動―技能形成に着目して―」(日下部美佳会員・京都大学博士課程)は、福祉用具に携わる障害者団体の活動に着目し、個々人の技能の熟練及び多能工化と活動参加前の教育や技能の習得とがどのように関わっているかについて考察した。技能形成とものづくりという障害者の開発への主体的な参加が団体の存在によって可能となっている。
各報告に対して黒川基裕会員(高崎経済大学)、渡邉松男会員(立命館大学)から、理論的枠組みを踏まえた議論の陶冶に向けた助言や、考察をさらに深めるための問題の提起がなされた。これらは上記研究部会での議論を進展させるために非常に有益なものであり、本セッションを開催した意義を確認することができた。
2024年度活動計画
今年度はアフリカのものづくりに関する研究成果の発表が多かったため、次年度はアジアのものづくりの事例についても取り上げたいと考えています。
また、2024年度は最終年度にあたるため、ものづくりに関する議論を体系的に整理し、研究成果をまとめていきたいと考えています。
今後の研究会の予定として、ものづくり研究のインド編として2023年12月16日(土曜)に京都大学にて研究会の開催を企画しており、準備を進めています。
詳細については、改めてメーリングリストを通じて皆様にご案内を差し上げます。
『アフリカ・アジアにおけるものづくり』研究部会
副代表 井手上和代(明治学院大学)