第36回・全国大会セッション報告:一般口頭発表・G,H
一般口頭発表
[G1] デジタル変革時代の開発:技術・制度・アイデンティティの再構築
Development in the Digital Transformation Era: Reconstructing Technology, Institutions, and Identity
- 日時:2025年11月29日 09:30 – 11:30
- 聴講人数:15名
- 座長:関谷 雄一(東京大学)
- コメンテーター:狩野 剛(金沢工業大学)/ 鄭 傚民(横浜国立大学)
第1発表:Artificial Intelligence Governance Architectures for Sustainable Development: The Cases of Brazil, Chile, and Uruguay
発表者
- Carlos David ZAVARCE VELASQUEZ(Tohoku University)
コメント・応答など
本発表は、ブラジル・チリ・ウルグアイのAIガバナンスを比較し、制度・理念・利害・組織の四側面から、各国が国家戦略や法制度整備、専任機関の設置を通じて持続可能な開発にAIを活用する体制を強化している点を明らかにした。これに対しコメンテーターは、AIガバナンスには米中企業がリードすることのリスクや、政策策定だけでは不十分であり実施まで見届ける必要がある点などについて、発表では十分に示されておらず、今後の研究として期待すると指摘した。また、地域的ネットワークや周辺国との政策連携についても、各国が何らかの取り組みを進めているはずだが発表での扱いが限定的であったと指摘した。しかし発表者は、研究のスコープや資料制約を説明した上で、今後の分析可能性を明確に示し、指摘を前向きに取り込む姿勢を示した。これにより議論は展開され、AIガバナンス研究の今後の方向性について有意義な議論が展開された。
第2発表:The Impact of Adoption of Climate-smart Practices on Horticulture Yield: Lessons from Smallholder Horticulture Empowerment and Promotion Approach in Ethiopia
発表者
- Asmiro Abeje FIKADU(Kyushu University)
コメント・応答など
気候変動対応策として気候スマート農業の導入が進む一方、園芸農家の収量への影響分析は不十分である。本発表はエチオピア・ジンマ地域の小規模農家409戸を対象に、SHEPアプローチ下での気候スマート園芸(CSH)の効果を検証したものである。分析の結果、CSH導入は収量を43%向上させ、病害抵抗性品種の採用も収量増加に寄与することが示された。また地域特性に応じたCSH推進と市場志向型支援の強化が園芸生産の底上げに不可欠であると指摘された。これに対しコメンテーターは、CSH導入農家と非導入農家の選択要因が未解明である点、SHEPが促す商品作物偏重が作物多様化と矛盾しうる可能性、さらに道路整備や農協といった制度・インフラの寄与が分析対象に含まれていない点を課題として提示した。発表者はこれらの指摘に的確に応答し、今後の研究展開を見据えた活発な議論が展開された。
第3発表:韓国のドナーとしてのアイデンティティ構築:途上国におけるAIを活用した博物館キュレーション
発表者
- キム スウォン (韓国外国語大学校)
コメント・応答など
報告者欠席により、発表は行われなかった。
第4発表:地域(農村)開発のイノベーションーWEB3.0 は限界を打ち破ることができるか?
発表者
- 林 薫 (1. 文教大学(2023年3月31日退職)2. グローバル・ラーニング・サポート・コンサルタンツ)
コメント・応答など
人口減少・高齢化対策の新機軸として、筆者は新潟県長岡市山古志で導入されたWEB3.0活用の地域ガバナンスに注目する。山古志ではNFTを「投票権」とみなし、住民と仮想住民が対等に地域運営に参加している。本研究はその仕組みの有効性と再現可能性を検討し、行政組織を介さない柔軟な意思決定、復興と錦鯉産業という明確なメッセージ、媒介者の存在、SNS等を活用した発信力が成功要件であると示した。コメントでは、山古志村の事例が、具体的個人の活躍によるところも多く、汎用性という観点からは疑問が残る点が指摘された。また、類似の事例への言及があまりなく、検証という意味からも課題が残されていることが指摘された。報告者はこれからも継続してこの事例を調査していくことを述べ、建設的な議論が展開された。
総括
本セッションでは、AIガバナンス、気候スマート農業、WEB3.0を通じた地域ガバナンスという、デジタル変革が開発現場にもたらす制度・主体・価値観の再編過程が、多面的に提示された。第一発表は南米3カ国のAI政策構造を比較し、国家戦略の制度化が進む一方で、国際ネットワークや企業の関与が分析課題として残されている点が示唆された。第二発表はエチオピア農村での気候スマート園芸の収量向上効果を実証しつつ、その普及条件には農家選択行動や制度・インフラ環境の分析が不可欠である点が浮き彫りとなった。第四発表はWEB3.0を活用した地域参画モデルの可能性を提示したが、特定事例依存を超える汎用化が課題として提示された。いずれの発表もデジタル技術が既存制度や主体構造を再構築する過程を描きつつ、その適用条件・倫理・制度設計が未確定であることを共有しており、今後の開発研究における重要な論点を提示する有意義な議論となった。
[H2] 経済発展の多様な局面:仲介者、金融、技術、文化の交差点
- 日時:2025年11月29日 12:40 -14:40
- 聴講人数:約20名
- 座長:北野 尚宏(早稲田大学)
- コメンテーター:池見 真由(札幌国際大学 )、麻田 玲(山口大学)
第1発表:Integrating the Socio-Spatial Culture of Street Vending into Urban Development and Smart City Initiatives: A Case Study of Dumaguete City
発表者
- Montesa Ma. Kinah Zildjian (Ateneo de Manila University)
コメント・応答など
This paper is a research proposal that aims to answer the question of how the socio-spatial culture of street vending can be integrated into urban development and smart city initiatives in Dumaguete City, the Philippines. Kitano suggested the use of 3D visualizations of the project’s future image, as well as other ICT tools, to support participatory planning and communication with vendors and citizens and noted that the smart sharing city concept could be applied in this case study. Comments and questions from the floor included the current relationship between street vendors and the local government, such as whether formal regulations are in place.
第2発表:Global value chain intermediation for export-oriented agriculture: Understanding the role of
innovation intermediaries in the Philippine mango industry
発表者
- Kevin Christopher Liao Go (Ateneo de Manila University)
コメント・応答など
This paper describes innovation intermediaries in the Philippine mango industry and maps their roles along the global value chain and the innovation system. Member Asada’s comments highlighted several areas for improvement: the definition of innovation needs to be clarified; stronger links are needed between intermediary roles and capabilities and concrete innovation or upgrading outcomes; and the methodology should more clearly explain who intermediates between whom and how. Comments and questions from the floor focused on the trading system used for fruit consolidation as a unique aspect of the mango industry, as well as on how ICT is applied in the mango industry.
第3発表:サービス産業主導の経済発展における金融部門の発展:フィリピン経済の事例
発表者
- 奥田 英信(帝京大学)
コメント・応答など
2000 年代以降の「サービス主導化」の進展は、フィリピンの金融セクターにどのような影響をもたらしているかについての分析結果が報告された。コメンテーターの池見会員からは、経済構造から金融発展を考察する逆向きの視点を提示している、フィリピンでは内需主導型経済にもかかわらず、低所得層の金融アクセス制限や現金主義、高付加価値金融商品の普及率低さにより非利息収入が増加していない、インフォーマルセクター(マイクロローンやエージェントバンキングなど)の役割も考慮が必要である、フィリピン特有の影響や課題を明らかにすることは、他の新興国への示唆にもなる、とった点が指摘された。フロアーからも多くの質問がよせられた。
第4発表:スリランカ市場に向けた改良クッキングストーブの製品ローカライズ
発表者
- 黒川 基裕(高崎経済大学)
コメント・応答など
スリランカをフィールドに、調理時の「煙害」防止のため、火力が抑制される一方燃焼時間が長い改良クッキングストーブを開発し、プロトタイプを用いた現地調査によってローカライズの効果を検証した結果が報告された。会員麻田よりは、改良かまどの健康効果や採用・継続利用は限定的であるとの文献、スリランカの長年の改良かまどプロジェクトの教訓に言及がないこと、調査方法について啓発プレゼンによる誘導や回答者の特定、評価の時間軸に懸念があること、ローカライズや循環経済モデルの概念は単純化されすぎており、調理文化やジェンダー、燃料調達、ペレット生産・配送の経済性を考慮する必要があることなどが指摘された。フロアからも質問がよせられた。
総括
本セッションには約20名が参加し、テーマのとおり、文化、仲介者、金融、技術といった多面的な観点からの、途上国の現場に根ざした興味深い研究が報告された。対象国は、フィリピンが3題、スリランカが1題で、フィリピンからの発表者2名は英語で発表した。発表者だけでなくコメンテーターも事前に資料を準備しており、スムーズな進行ができ、フロアとのディスカッションも活発に行われた。
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