第36回・全国大会セッション報告:一般口頭発表・I
一般口頭発表
[I1] アジア・アフリカにおける平和と社会の再建:「民」の視点を中心
- 日時:2025年11月29日 09:30 – 11:30
- 聴講人数:20名
- 座長:林 裕(福岡大学)
- コメンテーター:林 裕(福岡大学)、 太田 和宏(神戸大学)、 榎木 美樹(甲南大学)
第1発表:下からの適応型平和構築:南スーダン・北部バーハル・エル・ガザルにおける市民の政府と生計に関する紛争の認識
発表者
- 古川 光明(獨協大学)
コメント・応答など
報告者より南スーダンの紛争後復興に関して、従来型の上からの「リベラル・ピース・ビルディング」を主軸に実施されてきたものの、十分な成果を上げることができなかったという指摘がなされた。そこで、ボトムアップ的枠組みをアプローチとする、現地社会の主体的関与と適応的学習に基づく「適応的平和構築」の視点の重要性が報告された。本報告では、南スーダン北部バーハル・エル・ガザル州について、2つのデータセットを活用して実証的に分析し、その有効性を論じた。研究の限界としては、全土では無く、特定地域に焦点を当てていること、データに関する更なる質の向上の必要性、そして適応的平和構築の更なる理論深化があげられていた。
コメンテータおよび会場からは、データセットの詳細に関する質疑や、地域への視点と同時に、脆弱な中央政府とその収税能力という点に関して、政府機能の改善に関する議論が行われた。
第2発表:「被害者」はいかにして「加害者」に転化するかーウガンダにおける紛争当事者の事例からー
発表者
- 八郷 真理愛(横浜国立大学大学院)
コメント・応答など
報告者は、紛争や暴力の「被害者」が、あらたな「加害者」へと転化し、敵意が連鎖する視点を提示し、その事例として、「神の抵抗軍」と政府軍との戦闘が継続するウガンダ北部を事例として分析した。ウガンダ北部の受刑者に対するインタビュー調査を実施したが、ウガンダの受刑者への直接インタビューそのものの希少性についても高く評価できるものであった。現地調査からは、「加害者」が回復期の社会への信頼や信頼できる人に出会う機会が低く、心の傷が癒される経験が不足しているとしている。
コメンテータおよび会場からは、受刑者へのアプローチ方法や、インタビューを踏まえての仮設の政策提言、先進国の理論を果たしてウガンダに適用できるかという点などについて、質疑が行われ、既存の社会構築の比較研究などに言及した議論が行われた。
第3発表:Philippine Civil-Military Relations and Public Trust
発表者
- Maria Sabrina Erica Carlos(Ateneo de Manila University)
コメント・応答など
The presentation depicted the long-term trend of public trust forward Philippine military and argued that the trust is the main driving force for a stable national political environment. Although having a notorious “War on Drug” under former Duterte administration, public trust for Philippine military was high because the main law-enforcement force was comprised by Philippine police for the War on Drug.
From the commentator and audience, there were several questions regarding the reason why people trusts military, the effectiveness and advantages of expanding military operation when disaster happens, and the images of former President Duterte etc. The presenter responded that the efforts of military to win hearts and minds of people are working well and military can contribute to the disasters by the use of the access for the well-equipped military resources. At the same time, the negative memories of Duterte administration are characterized by the human rights violation and corruption.
第4発表:インド、ラダックにおける連邦直轄領移行後の開発の現状
発表者
- 林 加奈子(桜美林大学)
コメント・応答など
報告者からは、パキスタンや中国との国境係争地を含むカシミール州ラダック地方に焦点を当てて、報告者が実施した現地調査の結果報告と今後の研究課題の提示がなされた。現地調査は、チベット仏教、イスラム教、ヒンドゥー教、キリスト教(モラヴィア教)が混在する地域が、ラダック特有の伝統文化や暮らし、多元的世界観を後世まで残すことを狙いとして、現地の開発状況とその影響を報告した。現地では、急速な経済開発が進展する中、開発に関する世代的な違いも生まれつつあることが報告された。コメンテータおよび会場からは、ラダックにおけるcross marriageと「文化変容」、政府予算の配分の公正性等に関して、現地の実情の確認と、研究の方向性等、活発な議論が行われた。
総括
『アジア・アフリカにおける平和と社会の再建:「民」の視点を中心にして』というテーマで行われた一般口頭発表セッションでは、4名の報告者より、南スーダン、ウガンダ、フィリピン、そしてインドの事例を基にした発表が行われた。報告それぞれが、現地で生活を営む紛争影響下の人々、受刑者、軍と市民、多宗教地域の人々と、焦点は違えど、そこに暮らす、権力や影響力の小さい「名もなき人々」の視点を汲み取り、それを開発の文脈で考察しようとする発表であった。また、コメンテータおよび会場との質疑応答も活発で、考察をより深めるための議論が行われた。
[I2] 危機下の持続可能な開発:災害・紛争影響地域における生計再建と農業復興
- 日時:2025年11月29日 12:40 -14:40
- 聴講人数:
- 座長:豊田 利久(神戸大学)
- コメンテーター:豊田 利久(神戸大学)、永見 光三(東北大学)
第1発表:Livelihood Vulnerability and Resilience in the Torrential Floodplain of Dadu Sindh.
発表者
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Muhammad Amir Akram Rao (Toyo university)
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第2発表:ミャンマー国インレー湖湖上集落における2025年3月地震被害と生計再建
発表者
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松丸 亮 (東洋大学)
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第3発表:災害時の緊急現金給付が貧困層のフード・セキュリティに与える影響―バングラデシュにおける自然実験分析―
発表者
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倉田 正充 (上智大学)
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第4発表:パレスチナ西岸地区における農業技術普及の実証分析―農家の技術採用行動と分離壁・イスラエル入植地による障壁
発表者
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中村 友紀 (日本工営株式会社)
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[I3] 複合危機下の開発戦略:平和・包摂・レジリエンスの構築に向けて
- 日時:2025年11月29日 14:55 -16:25
- 聴講人数:15名
- 座長:勝間 靖(早稲田大学)
- コメンテーター:勝間 靖(早稲田大学)、関山 健(京都大学)
第1発表:Gender, poverty and work under multiple crises: Key challenges and policies
発表者
- 乙部 尚子(なし)
コメント・応答など
労働におけるジェンダー不平等について、主に国際労働機関(ILO)のデータを用いて、地域ごとの傾向を報告した。サブサハラ・アフリカ、南部アジア、東南アジアと太平洋地域、ラテンアメリカとカリブ地域について、ILOのグラフを用いて、男性の失業率、女性の失業率、失業率における男女格差を示した。また、同様に、若年層のニート(not in employment, education or training: NEET)についても傾向が示された。コメントとしては、以下があった。記述統計が示されたが、研究としてのオリジナリティはどこにあるのか? 失業率におけるジェンダー格差を論じようとしているが、実際には、2%を超える格差はラテンアメリカとカリブ地域のみとなっている。教育指標では女子の方が男子よりも高い地域として知られているが、そこでなぜ女性の失業率が高くなっているのか? NEETにおいては、どの地域でも女性のNEET率が高くなっているが、その理由は何か? といった質問があった。
第2発表:The new political economy of international development: Peace, the anthropocene, and global fragmentation
発表者
- Haja RAJAONARISON(Yamanashi Gakuin University)
コメント・応答など
当日に発表された内容と、提出された論文の内容とが大きく違っていた。いずれも、非常に哲学的または俯瞰的な報告者の独自な見解が展開された。また、特に当日の発表では、先行研究をあまり踏まえず、発表者の独自の見解が個性的なグラフなどで説明されたが、その根拠が十分に示されなかったので、理解することが困難であった。ここでは、提出された論文に基づいて、理解できた範囲で報告する。「平和」「人新世」「世界の分断」をつなげて、国際開発における新しい政治経済学を提示しようとしていたのではないかと想像する。しかし、アフガニスタンの事例などは、その野心的な試みのなかでどのように位置づけられるのかはよく理解できなかった。また、気になったこととして、論文の共著者との役割分担が不明であった。
第3発表:インドネシアにおける地方気候変動適応政策に対する援助プロジェクトの比較研究
発表者
- 森本 佳月(法政大学)
コメント・応答など
気候変動への適応策について、これまで国家レベルで議論されることが多かったが、地方や都市レベルでの事例が十分に報告されてこなかった。そこで、この報告では、インドネシアの東ジャワ州で実施された気候変動適応策を支援する2つのプロジェクトが説明された。つまり、米国国際開発庁(USAID)が支援するものと、日本の環境省が支援するものについての報告、と双方の比較であった。コメントとしては、以下があった。地方レベルでの気候変動適応策については十分に知られていないので、貴重な報告であった。他方、プロジェクトの説明の域を十分に超えていないので、学術的な研究になるようもう少し工夫してはどうか。そのためには、この2つの事例を選んだ理由や、その意義について論じた方がいいのでは。USAIDの「解体」と報道されているが、いまだにプロジェクトは続いているのか?
総括
当初は4つの報告が予定されていたが、1つキャンセルされたので、3つの報告となった。時間的に余裕ができて、議論の時間が十分に取れた。英語での報告が2つ、日本語の報告が1つと、報告や議論の言語が英語から日本語に途中で変更したが、そのタイミングで退出者が出るなど、出席者の中には不便に感じた方もいたかもしれない。1つのセッションでは、日本語か英語のどちらかで統一した方がいいかもしれない。さらに、3つはまったく違う内容の報告であった。1つ目は世界の地域ごとの労働におけるジェンダー格差、2つ目は国際開発に関する哲学的な試論、3つ目は気候変動への適応策の東ジャワ州の事例であった。セッションのテーマである「複合危機下の開発戦略:平和・包摂・レジリエンスの構築に向けて」には収まりきらない内容であった。
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