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NL37巻1号 [2026.02]

第36回・全国大会セッション報告:一般口頭発表・K

一般口頭発表


[K1] 包摂の約束と現実:社会保障・労働市場・環境ガバナンスに潜む格差

  • 日時:2025年11月29日 09:30 – 10:30
  • 聴講人数:20名
  • 座長:小原 篤次(長崎県立大学)
  • コメンテーター:小原 篤次(長崎県立大学)、斎藤 文彦(龍谷大学)

第1発表:Mobilizing Community-based Health Workers for Responsive Health and Social Protection Systems for Inclusive Development

発表者

  • CLAUDIO JESSICA SANDRA(Carbaja Rosselle Trishia)

コメント・応答など

本発表は、都市化が進むフィリピン・パシッグ市を事例に、地域保健ワーカー(PHAs)をデジタル保健情報システム(MuPLoMT)に統合することで、健康と社会保護を接続する実践を分析した。PHAsはNCDのリスク評価やデータ入力にとどまらず、受診中断(LTFU)患者の追跡や脆弱層の把握を通じ、データを実際の介入へと転換する「人的接点」として機能している点が示された。他方、紙媒体併用、通信環境、個人情報保護、研修体制といった制度・運用上の課題も明らかとなり、デジタル化の成否は技術そのものではなく、人材育成と現場運用の設計に大きく依存することが確認された。

第2発表:Formal and Informal Social Protection in Urban Informal Settlements in Pasig City, Metro Manila

発表者

  • Jessica Sandra R. Claudio(Ateneo de Manila University)

コメント・応答など

本報告は、パシッグ市の都市インフォーマル居住地における社会保障を、制度(SSS・PhilHealth等)と非制度(家族・近隣、政治家・行政からの直接支援等)の「ハイブリッド」として捉え、200人調査で実態を示した。COVID期のSAP受給は78.5%。制度は加入と給付の間にギャップがあり、現金給付型(4Ps、TUPAD)の評価が相対的に高い。非制度はアクセス容易だが互酬性ゆえ脆弱。最優先ニーズは住宅(54.8%)で、参加意欲も中程度(公聴会参加や資金配分の監視等)。制度の包摂性と参加の仕組み改善が課題と指摘。質疑応答では、フィリピンの社会保障制度であるSSS(Social Security System)について追加の説明があった。

第3発表:Why Informality Persists: Understanding Job Choices in Vietnam’s Dual Labor Market

発表者

  • Insik Min(Kyunng Hee University)

コメント・応答など

本報告は、ベトナムにおいてインフォーマル雇用が持続する要因を、労働者の「選好」に着目して分析した。賃金とディーセント・ワーク(社会保険、契約、休暇)のトレードオフを、全国家計調査データと条件付きロジットモデルで検証した結果、平均的には賃金が職業選択を強く左右する一方、ディーセント・ワークの効果は一様ではないことが示された。女性や高学歴層は安定性や社会保障を高く評価するのに対し、低学歴の男性労働者は手取り所得や柔軟性を重視し、形式化をコストと捉える傾向が強い。インフォーマル雇用の持続は排除の結果ではなく、異質な選好に基づく合理的選択であり、画一的政策ではなく層別化された制度設計の必要性が示唆された。

第4発表:Economic and environmental transitions: Exploring dynamics in Indian districts through Markov chains

発表者

  • Cesar Diego ECHEVARRIA BARRIGA(Nagoya University)

コメント・応答など

本報告は、インドの地区(district)を対象に、1998–2019年の所得(夜間光等を用いた推計)と大気汚染(PM2.5推計)を組み合わせ、マルコフ連鎖(周辺・結合)で「成長と汚染の連動」が持続的かを検証した。所得は高い持続性、汚染は相対的に移動性が高い。結合マルコフでは所得×汚染の移動に有意な依存関係がある一方、長期(エルゴード分布)では「高所得=低汚染」が支配的にならず、高所得でも高汚染に留まる確率が無視できない。成長だけに自動的な改善を期待せず、SDG8.3達成には意図的な環境介入が不可欠だと示す。

総括

4本の報告はいずれも英語による発表であり、聴講者の人数および国籍・専門分野の多様性に恵まれた。その結果、日本と途上国との比較にとどまらず、途上国相互の経験や課題をめぐる意見交換が活発に行われた点が特に印象的であった。こうした国際的かつ重層的な議論の場が成立した背景には、本学会および国内大学院における長年にわたる研究・教育活動の蓄積があると考えられる。

報告者:小原 篤次(長崎県立大学)

[K2] 資源化の光と影:文化遺産・観光・環境をめぐるグローバルとローカル

  • 日時:2025年11月29日 12:40 -14:40
  • 聴講人数:17名
  • 座長:寺内 大左(筑波大学)
  • コメンテーター:寺内 大左(筑波大学)、関根 久雄(筑波大学)

第1発表:Institutions for resource conservation and sustainable regional development: the case of recreational fisheries in Patagonia.

発表者

  • Hazuki MATSUDA(The University of Tokyo)

コメント・応答など

パタゴニアにおけるレクリエーション漁業(釣り)を対象とする資源保全制度の現状と形成過程について発表がなされた。質問として、発表者が重要と考える州レベルの制度設計において、誰とどのような交渉が行われているのか、共同管理における困難の有無、制度遵守の監視がどのように実施されているのか、などが尋ねられた。発表者からは、行政と漁業者が会議に参加し意見交換を行っていること、行政の提案が漁業現場の状況に合わない場合には漁業者との合意形成が難しくなること、また予算不足により監視を十分に行えないことがある、との応答があった。さらに、本発表の事例がコモンズ論(共用資源管理論)にどのような理論的貢献をもたらしうるかという質問に対しては、マルチ・レベル・ガバナンスの体制をとる一方で、漁業者自らが資源維持のためキャッチ・アンド・リリースを導入している点が興味深いとの説明があった。

第2発表:Factors affecting a cultural heritage village’s resilience in Central Vietnam to withstand the pressure of flooding

発表者

  • HUYNH BAO CHAU TRAN(Okayama University)
  • FUMIKAZU UBUKATA(Okayama University)

コメント・応答など

本発表は、既存研究が提示した複数のレジリエンス・フレームワークを統合し、その統合したフレームワークを用いて、ベトナム中部の文化遺産村における世帯の洪水リスクに対するレジリエンス能力を報告したものである。質問として、地域伝統知がレジリエンス構築において重要であると説明されたが、その地域伝統知がどのように村人をより適応的なグループ(absorptive group から adaptive group、あるいは transformative group)へと転換させるのか、という点が問われた。これに対して発表者からは、例えば地域伝統知が収入の多様化を促し、人々をより適応的な状態へ導く可能性があるとの回答があった。また、結論では社会的弱者の現金へのアクセスや市場へのアクセスの確保など複数の提案が示されていたが、それらが理想主義的で実現可能性が低いのではないか、とのコメントも寄せられた。

第3発表:『負の遺産』を活用した観光開発の功罪―ベナン共和国の現状と課題

発表者

  • 関谷 雄一(東京大学)

コメント・応答など

本発表は、西アフリカのベナン共和国における奴隷貿易の歴史を「負の遺産」として活用する観光開発の現状を分析し、その功罪を文化人類学的視点から考察するものであった。質問として、①「記憶」と「歴史」という用語をどのように区別しているのか、②奴隷商人の子孫、非奴隷民の子孫、さらにそのいずれでもない国民に対して、政府は奴隷貿易という負の記憶(歴史)をどのように扱っているのか、③奴隷貿易という「負の記憶」は観光開発以外の文脈でも現代に喚起されることはないのか、の三点が問われた。これに対し発表者からは、①記憶と歴史という語の使い分けが混在していた点を認めた上で、②国民の背景は一様ではないものの、政府は観光開発を一律に推進しており、それが各層にどのような影響をもたらすかを今後調査したい、③各人にとって奴隷貿易がどのような意味を持つのかを今後明らかにしたい、との回答があった。

第4発表:動的沿岸漁業資源利用をめぐる対話:コミュニケーションと社会関係資本

発表者

  • 東条 斉興(北海道大学)

コメント・応答など

本発表は、水産資源利用における個人間・共同体間の対話(コミュニケーション)と社会関係資本が、資源の持続可能性および資源利用にどのような影響を与えうるのかを検討するものであった。インドネシアの漁民と北海道大学の学生を対象としたゲーム実験の結果と考察が報告された。コメントとして、社会関係資本が強固であれば共用資源の管理ルールは遵守されると一般的に考えられているが、森林管理の現場では逆に作用することがあること、また資源利用の利害が衝突する場面ではコミュニケーションが密に行われると想定されがちだが、実際には衝突を避けるために意図的に曖昧なコミュニケーションがとられる場合があること、などが指摘された。これに対し発表者からは、これらの指摘は参考になるものの、資源が見える森林と、資源が見えにくい水産資源では、コミュニケーションの様態や社会関係資本の作用が異なる可能性があるとの返答があった。。

総括

学会発表として、現地調査の深度や調査結果の分析・考察、さらには学術的・社会的インプリケーションの提示という点で、やや物足りなさを感じる発表もあった。しかし、コメンテータが発表要旨を事前に丁寧に読み込み、踏み込んだ質問やコメントを提示したことで、議論が引き締まったと感じている。一方、フロアからの質疑応答の時間を十分に確保できなかった点については、座長の反省点だと感じている。

報告者:寺内 大左(筑波大学)

[K3] 仕事・生活・地域から捉える発展のかたち:アジア・アフリカ・ヨーロッパの事例から

  • 日時:2025年11月29日 14:55 -16:55
  • 聴講人数:約20名
  • 座長:重田康博(宇都宮大学)
  • コメンテーター:澤村信英(大阪大学)

第1発表:Beyond Status: Conjoint Analysis of Job Preferences and Perceptions of Success in Indonesia

発表者

  • Tomomi YAMANE (Ritsumeikan Asia Pacific University(APU))
  • Takamichi Asakura (Hiroshima University)
  • Tatsuya Kusakabe (Hiroshima University)

コメント・応答など

本発表はインドネシアにおける職業選好と成功認識についての世代間変化について、オンラインで比較的効率的に収集可能な国レベルの量的データを用いて推計しようとするものである。近年の仕事に対する認識の変化を世代間で捕えようとするもので興味深い。主な論点としては、①分析対象のデータ自体は世代別の横断的データであり、これをベースにいかに世代間のライフコースの違いを推定するのか、および②扱われている指標の中で「仕事の満足度(job satisfaction)」の定義が明確ではなく、他の要素の影響も受けやすいことが想像され、回答者の理解が一定していない可能性はないかというコメントがなされた。

第2発表:A Comparative Study on Regional Revitalization Policy
– Utilization and revitalization of traditional old houses in Shiga, Gifu, Akita and Iwate prefecture, in Japan and Cotswold in the UK-

発表者

  • Kiyoto KUROKAWA (Ritsumeikan University)

コメント・応答など

報告に対するコメントと質問は以下の通り。第1に、空き家問題は解決可能か?は、リノベーション使用での成功は飛騨金山、コッツウォルズで、岩手県雫石町は欧風のコテージを新築して若者の呼び込みに成功した。11月末の大分大火災は空き家問題が要因にもなり、その他の地域で不適切な木造住宅のリノベーションの横行が指摘された。第2に、人口減少問題は、新規住民、外国人移住者を受け入れない限り、解決不可能であり、秋田県美郷町の芸術家の行動による活性化の成功例が紹介される。第3に、若者の定着のために自由度を高めるとは、若者の参加は地域住民が気付かなかった新しい地域の発見を提供してくれる。飛騨金山町を含む下呂市で、空き家を改装、若者の自由な出店を認めている。飛騨金山での地域おこし協力隊の活躍では、若者自身によるバードウォッチングの価値がInstagram等で発信されている。一方、ある地域では既存の旅館組合の規制意識が強く、地域おこし協力隊の若者が去ってしまった事例も紹介された。

第3発表:バングラデシュにおける社会的連帯経済の実践の探索
― 初期的調査から見えてきたこと

発表者

  • 高須 直子 (駒沢女子大学)

コメント・応答など

社会的連帯経済(SSE)は成長を目指すのか、それとも低成長、脱成長を目指すのかという質問について。発表者はいわゆる途上国において経済成長がなくても貧困削減や格差是正ができる方法を模索している中でSSEに出合ったので、SSEは経済成長を目指していないという立場である。ただしSSEは幅広い考え方があるため、異なる立場の研究者や実践者もいるであろう。5団体に共通する特徴は再分配という経済原理を使っていることである。社会課題に対応する団体が再分配原理を使うことは目新しいことではないかもしれないが、SSE研究の文脈では、ラヴィルが「再分配的連帯」を「国家による格差是正の試み」と位置付けているものの、バングラデシュの事例から「市民社会組織による格差是正の試み」でもあると言える点が重要だと考える。SSEはデジタル・IT・AI時代にどのように向き合って対処していくのかという質問は、発表者はこれまで考えていなかったので、今後の課題としたいという回答であった。

総括

本セッションでは、「仕事・生活・地域から捉える発展のかたち」をテーマに、インドネシア、日本、英国、日本、バングラデシュの事例が紹介された。職業選好と成功認識、伝統的家屋の再活用と再活性化、連帯経済と再分配などが全体のキーワードとして考えられる。発展のかたちは、さまざまであり、先進国と発展途上国、アジアとヨーロッパ、都市と農村で抱える課題も違うが、職業選択と収入格差、高齢化社会と人口減少、経済成長と分配のバランスなどの問題は、地域を問わず世界の共通である。今後、人間にとって善き(Well-being)社会を求める発展のかたちとは何か、を問い続けることの重要性をこのセッションに参加して考えさせられた。

報告者:重田康博(宇都宮大学)

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