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NL35巻1号 [2024.02]

第34回全国大会セッション報告(企画セッション)

企画セッション


[2C01] コンゴ盆地熱帯雨林における森林資源マネジメントの共創―住民がもつ在来知と科学知の統合から

  • 日時:2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-B104 (紀尾井坂ビルB104)
  • 聴講人数:11名
  • 座長:戸田美佳子(上智大学)
  • コメンテーター/ディスカッサント:佐藤仁(東京大学)、華井和代(東京大学)

第1発表:アフリカ熱帯林における経済開発と保全の両立を目指した非木材林産物の促進とその課題

戸田美佳子(上智大学)
四方 篝(京都大学)
平井將公(京都大学)
Ndo Eunice (IRAD Cameroon)

SATREPSプロジェクトの舞台となるコンゴ盆地熱帯雨林における自然保護と経済開発の変遷を辿ることで、地域住民の森林資源に根差した生活が近年困難となってきている現状が報告された。

そのうえで、「非木材林産物(NTFPs)」の利用を通じたアフリカ熱帯林における経済開発と保全の両立を目指すために、地域社会どのような課題を抱えているのかを議論した。

討論者からは、誰のどのような意識が変われば、問題解決につながるという本質的な問いがなされ、アフリカ諸国における政府の機能に関する懸念が示されるとともに、グローバルスチュアードシップという大きな議論と繋げることの可能性が提案された。

第2発表:カメルーン熱帯雨林の野生動物モニタリング法における在来知と科学の接合

本郷峻(京都大学)

アフリカの野生動物に対する資源管理においては、生態学的な観点から重視される資源量を推定できるような、住民主体のモニタリング方法が確立しておらず、住民主体型管理の成功例はいまだほとんどない。

そこで本プロジェクトでは、狩猟実践による「収獲に基づく野生動物資源モニタリング」を提案し、本報告ではその有用性を生態学的に実証した。

討論者からは、狩猟のやり方は変化していくが、それに対して対応できるのかという質問があったのに対して、報告者からは対応できる仕組みであるとの応答があり、加えてモニタリングによって計ることが住民の行動変容につながる可能性も示された。

第3発表:「住民主体の森林資源マネジメントへむけた試行と課題」および「在来知と科学知の統合による森林資源マネジメントモデルの共創」

安岡宏和(京都大学)
平井將公(京都大学)

狩猟に基づく新しいモニタリング手法がどのように考案されたのかを、報告者による狩猟採集民と生業活動をともに実践してきた生態人類学的フィールドワークの経験から具体的に報告された。

とくに、在来知と科学知の共創のプロセスにおいては、地域住民の経験・知識を生態学者が習得し、生態学の経験・知識を人類学者が習得するという交差する経験が不可欠であり、その柱として地域住民との協働があることが強調された。

討論者からは、在来知とはどのようなレベルのものであるのか、伝統的知識や知恵のものであるのかという質問があった。

それに対して、在来知は暗黙知であり、可視化することは困難であることと応答され、伝統的知識や知恵という断片的なものとして切り出せるものではなく、多面的な土地利用をみとめて重層的な機能をもつランドスケープのなかで生物多様性を保全する「ランド・シェアリング(Land Sharing)」の視点に立ち、人々の生き方として実践される生活知として再評価する仕組み作りが重要であるという議論となった。

【総括】

討論者からはこの問題のスタートは誰がスタートなのかという問いが投げかけられた。

総合議論では、まず地域住民の生計活動が厳しく制限されている一方で、環境破壊につながる大規模開発が推進されている現状をあること、保全機関においてもリソース不足があり、保全機関と地域住民の相互不信が問題として表面化していることが再確認された。

野生動物の利用(狩猟)はネガティブな資源利用とされいるが、本プロジェクトの成果によって、狩猟のうち地域住民による自給的な狩猟は資源マネジメントを強化できるという観点からはポジティブなものになりうること、そのうえで、外来ハンターや都市への獣肉流出といったネガティブな資源利用を抑制できる可能性をして評価された。

報告者:戸田美佳子(上智大学)、本郷峻(京都大学)、安岡宏和(京都大学)、佐藤仁(東京大学)、華井和代(東京大学)

[2I02] Emerging and Advocating Donors?: The cases of Venezuela, Colombia, and NGO(English)

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-112 (紀尾井坂ビル112)
  • 座長:
  • コメンテーター/ディスカッサント:

*岡部 恭宜1、*サバルセ カルロス1、*林 明仁3、*ゴメズ オスカル2、*北野 尚宏4 (1. 東北大学、2. 立命館アジア太平洋大学、3. 上智大学、4. 早稲田大学)

【総括】

報告者:

[2J02] 開発途上国におけるミクロ実証分析

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-115 (紀尾井坂ビル115)
  • 聴講人数:10名
  • 座長:島村靖治(神戸大学)
  • コメンテーター/ディスカッサント:倉田正充(上智大学)、會田剛史(一橋大学)、樋口 裕城(上智大学)

第1発表:母親の自助組織活動への参加による娘の婚姻に与える影響

佐藤希(愛知学院大学)

インド農村部における女性の婚姻時の問題に関する実証分析として、前半は婚姻時に花嫁の生家から花婿側に支払われるダウリーに関連する要因についての分析、後半は女性のエンパワーメントを目的として行われている女性自助組織活動への参加による婚姻年齢への影響についての分析が紹介された。

コメントとしては、用語の定義や推計方法に関する質問に加えて、推計結果のなかでも女性の婚姻年齢とダウリー支払いとの間の負の相関は既存研究の「花嫁が高齢になるにつれてダウリーの額が上昇する」と矛盾するのではとの指摘があった。

発表者からは用語や推計方法についての補足的な説明と共に、既存研究との違いとしてアウトカーストのような最貧層を主な対象とした調査であることが示された。

また、女性自助組織の活動自体の多様性を指摘するコメントも出され、自助組織活動の異質性を考慮に入れた分析も提案された。

第2発表:感染症予防のためのナッジ介入による医療ボランティアの行動変容

劉 子瑩(神戸大学)

インドネシア・ジョグジャカルタ郊外で活動する医療ボランティアへ感染症予防のための情報介入(ナッジ)を行い、彼らの感染症予防行動にどのような変化が生じたのかを検証した分析結果が紹介された。

コメントして、分析結果の解釈がとても難しい結果となっていることを指摘した上で、5時点の調査データで3回の介入を実施している研究で介入効果が時間を通じて一定という強い仮定を置いている点に疑問が投げかけられた。

そして、介入効果が時間と共にどのように変化していったかを検証するほうが妥当でないかとの意見も出された。発表者からは、今後、提案された分析を採用していきたい旨、回答があった。

第3発表:インドシナ半島諸国の村落医療施設における患者満足度の分析

島村靖治(神戸大学)

ラオスにおいて実施した独自調査データを用いて、特に患者と医療従事者のリスクおよび時間選好に着目し、患者が公的村落医療施設で受けた医療サービスに対する満足度について分析が紹介された。

コメントしては、調査や分析に関するいくつかの確認の質問と共に、政策的に変えることができないリスクおよび時間選好に着目する理由についての質問が出された。

発表者の回答としては、医療従事者のリスクおよび時間選好の違いによって提供されている医療サービスの違いを検証していくことが次のステップであると説明された。

また、患者満足度について行動経済的視点からの分析を行うことについての意義を問う質問も出された。

回答として、本研究は保健学分野の専門家と共同で実施しており、提供されている医療サービスの適切さについても研究しているとの説明がなされた。

加えて、分析結果を慢性的な国家的な予算不足の問題とどのように関連付けていくかについても考えるよう提案があった。

【総括】

参加人数は比較的少人数であったが、それぞれの分野に詳しい専門家からのコメントをもらえたことで、発表者にとっては、大変有益な研究発表の場となった。

それぞれの研究は未だプリミティブなものであり、コメンテーターおよびフロアーから出された貴重な意見を採り入れて、今後、それぞれの研究の完成度を高めていくことが期待される。

報告者:島村靖治(神戸大学)

[2E03] 危機への対応とジェンダーージェンダー関係はどう危機と関係したか?ー

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-B112 (紀尾井坂ビルB112)
  • 聴講人数:不明
  • 座長:
  • コメンテーター/ディスカッサント:高松香奈(国際基督教大学)

*本間 まり子1、*高松 香奈2、甲斐田 きよみ3、小野 道子4、岡野内 正5 (1. 早稲田大学、2. 国際基督教大学、3.文京学院大学、4. 東洋大学、5. 法政大学)

  • 本間まり子
    「コロナ禍におけるバングラデシュのマイクロファイナンス事業―二重の制約に対する女性の生存戦略に着目して―」
  • 甲斐田きよみ
    「農家のリスクと機会への対応におけるジェンダーによる違い」(ナイジェリア)
  • 小野道子
    「母子家庭の母親たちの生存戦略―カラーチー市の「路上」で働く「ベンガリー」の女の子の母親たちの語りから」
  • 岡野内正
    「北東シリア自治区の奇跡」

【総括】

本企画セッションでは、「危機への対応とジェンダー」という共通テーマを設定し、議論を行なった。

危機とは、新型コロナウィルス感染症の拡大や経済的なショックだけではなく、革命などの政治的混乱や貧困、ジェンダー差別的な構造によって生活が安定しない状況など幅広く捉えた。

まず、本間会員が、バングラデシュのマイクロファイナス事業の主な利用者である貧困女性たちが、ジェンダー規範による制約とコロナ禍の影響の中で、事業をどのように利用していたかについて論じた。

次に、甲斐田会員が、ナイジェリアを事例として、農家が直面する農業におけるリスク、経済活動におけるリスク、生活におけるリスクや機会と、それらのリスクや機会への対応に、どのようにジェンダーの違いがあるかについて論じた。

さらに、小野会員により、カラーチー市の「路上」で働く「ベンガリー」を事例として、市民権を持たない母子家庭という平時から危機的状況にある女性たちが、新型コロナウィルス感染症の拡大という危機に対して、どのような対応を取ったのか議論した。

最後に、岡野内会員により、保守的なイスラム教徒が多数を占める北東シリアにおいて、ジェンダー関係に大きなインパクトを与えているロジャヴァ革命について、ジェンダー主流化政策やWPS アジェンダの視点から議論した。

コメンテーターの高松会員からは、「何が危機なのか」という問いかけがなされ、「社会的に構築された危機」と「状況的な危機」に4人の発表者の語った危機を整理し、どの発表内容も「危機は複合的である」ことを明示していたというコメントがされた。

また、「状況的な危機」とは偶発的な危機で、この状況的な危機ばかりに着目していると、常態化した危機が「正常」と捉えられる可能性がある。

そうするとジェンダー構造は「問題のあるノーマル」となっているのではという疑問を、4人の発表は提示していたと言及した。

そして、ジェンダー構造そのものが個人の「危機」であり、個人(特に女性)がどのように危機から影響を受けたかを4人の発表内容を整理して指摘した。

さらに、危機への対応がどのようにジェンダー関係に影響を与えたのか、4人の発表者に質問を投げかけた。

本間会員に対しては「世帯内、社会でジェンダー規範は軟化したと言えるか?もしくは強化された側面はあるか?」、甲斐田会員に対しては「さらなる危機を発生させながらも、どのように世帯内のジェンダー関係が変化するのか?可能性はあるか?」、小野会員に対しては「生存戦略と『こども』について、女児・男児を取り巻く関係性と変化はどのようなものか?」、岡野内会員に対しては「ロジャヴァ革命はジェンダー主流化なのか?強固な規範の中で、女性スペースをプラスαとして構築したという見方もできるのではないだろうか?」という問いがなされ、4人の発表者が回答した。

さらに、フロアも交え、4人の発表者と質疑応答により30分程度、活発な議論が続けられた。

本企画セッションを通じて、危機がジェンダー関係に与える影響とジェンダー関係が危機に与える影響、両方向からの議論が必要であること、今回のような異なるフィールドの事例の蓄積が、その議論を発展させるために必要であることに気付かされた。

今後の本研究部会での研究に向けて、必要な点を明確にすることができた。

なお、本企画セッションの冒頭で、本研究部会の代表を務められ、2023年9月26日に急逝された田中由美子会員の功績を讃え、会場の参加者とともに黙祷を捧げた。

また、本研究大会のポスターセッション会場において、田中由美子会員の業績と研究部会からの追悼メッセージを提示した。

急なお願いにも関わらず、ポスター掲示の場をいただきましたこと、この場をお借りして大会実行委員会に感謝の意を表したい。

報告者:

[2I03] プラネタリー・ヘルスの観点からパラグアイの農村開発を考える

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-112 (紀尾井坂ビル112)
  • 兆候人数:2名
  • 座長:池上甲一(近畿大学)
  • コメンテーター/ディスカッサント:受田宏之(東京大学)、牧田りえ(学習院大学)

第1発表:プラネタリー・ヘルスの観点から考える六次産業とアグリツーリズムの可能性:パラグアイにおける「農村女性生活改善プロジェクト」と「アグリツーリズムプロジェクト」を事例として

藤掛洋子(横浜国立大学)

コメンテーターから、ラテンアメリカにおける環境保全を掲げる言説(ブエン・ビビール)や社会運動が古くからみられると同時に、第一次産品に依存する構造も強化されている点がふれられた。

その中で、JICA草の根技術協力事業:「パラグアイ農村女性生活改善プロジェクト」(第一フェーズ)と「アグリツーリズム」(第二フェーズ)が展開されており援助研究として興味深いというコメントがあった。

質問は、対象となる小農のスケールと対象地域の人々はプラネタリー・ヘルスという先進国主導の概念を本当に受容できているのか、という点であった。

報告者は、対象は2つの市域の農村であり、小農の農村女性がメインであること、また、想定外に農村女性たちがプラネタリー・ヘルスという概念を受容できたのは、すでにプラネタリー・ヘルス・ダイエット的な食生活(豆食など)を農村女性たちが営んできたからではないか推察していると応答した。

第2発表:プラネタリー・ヘルスと自然資源管理の在り方 :エリノア・オストロムのコモンズ論の視点から

松田葉月(東京大学)

The comments received from the discussants included questions on how can we apply the theory of E. Ostrom to manage the Common Pool Resources in the context of agritourism, considering the previous studies on fisheries management. The presenter explained that the theoretical framework based on the eight institutional principles designed by Ostrom has been a preliminary study to evaluate the possibility to apply them to the field of agritourism in Paraguay or other country of Latin America, taking into account their governance of CPR. We are in the process to select the field area to start the assessment and application of Ostrom’s theory.

第3発表:家庭菜園の持続性を人間関係の緊密性から考える:パラグアイ農村地域の事例から

小谷博光(人間環境大学)

コメンテーターから、従来存在する社会資本を活かす、ないしは参加者間に新たにつながりを創出することで、家庭菜園を続ける純便益を高めることはできないのかという質問があった。

報告者は、参加者にとって経済的・社会的利益や価値を得られる枠組みを作ることができれば、家庭菜園を続けることの純便益を高めることが可能であると考えられるが、その様な枠組み作りが容易でなないと応答した。

その理由の一つとして、農村地域の狭いコミュニティ内での家庭菜園の推進を支援する際、指導者が特定の参加者の畑を訪問しただけで、別の参加者が嫉妬に近い感情を持ち得る可能性があることから、参加者の複雑な関係性と感情に配慮する必要がある、と補足があった。

第4発表:地場産物を活用した学校給食から考えるプラネタリー・ヘルスの可能性:パラグアイ共和国南東部の事例より

橋口奈奈穂(横浜国立大学)

パラグアイ南東部の市において、地場産物を活用した学校給食導入の試みがあったものの、政府の支援と分権化、農業生産者の組織化と調整等に課題があることが報告された。

コメンテーターから、パラグアイには小農支援のための政府機関はあるのか、また公共調達に応じた小農世帯数あるいは割合はどの程度なのか質問があった。

報告者は、パラグアイの小農支援の政府機関として、農牧省農業普及局があり、農業改良や生活改善に取り組んでいること、報告者が調査を行った地域では、市役所が落札した委託会社を中心に学校給食経営がなされるが、市役所と農牧省農業普及局の連携が不十分であったことが地産地消の推進に至らなかった要因の一つであると考えられると応答があった。

報告者が調査している市域において小農公共調達に参加した小農は15世帯程度であるが、地場産物の活用は求められていることから、今後さらに調査を行うと応答された。

【総括】

四つの事例全てが国際開発援助に関わっており、援助論であることから、良い企画であるというコメントを頂いた。

同時に、①プラネタリー・ヘルスとワンヘルスの違いは何か、②プラネタリー・ヘルスという先進国主導で作り上げられた概念が、パラグアイの小農の人々どの程度受け入れられるのか、②ラテンアメリカに特徴的なブエン・ビビール(良い生活)との関係性をさらに明らかにすること、④オストロムの8つの原則を用いる場合、アグリツーリズムを展開する際のコモンズは何なのかを明確にしていく必要があるなどの貴重なコメントを頂いた。

これらのコメントを活かして、今後さらに研究を発展させていきたいと考えている。誠にありがとうございました。

報告者:藤掛洋子(横浜国立大学)

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