『移住と開発』研究部会(2024年8月)
『移住と開発』研究部会:活動報告
本研究部会は2024年度において、全国大会でのラウンドテーブルと2回の研究会を開催した。
回を重ねるごとに賛同人が増え、2024年7月8日時点で27名になった。
全国大会ラウンドテーブル
『外国人技能実習制度を通じた技能移転をめぐる課題と可能性:ベトナムにおける社会的ニーズと技能実習生の生活戦略』
- 日時:2023年11月12日(日曜)15:00-17:00
- 形式:対面
- 会場:上智大学四谷キャンパス紀尾井坂ビルB104
- 参加者:約30名
プログラム
司会:生方 史数(岡山大学)
趣旨説明
二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)
報告1:「ベトナム⼈元技能実習⽣における技能移転と将来設計」
加藤 丈太郎(武庫川女子大学)
報告2:「ベトナムの農業をめぐる社会的ニーズと技能実習生の生活戦略としての技能移転」
二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)
報告3:「介護分野におけるベトナムへの技能移転の課題と可能性――『移民力』の視点から」
比留間 洋一(静岡大学)
討論:
佐藤 寛(開発社会学舎)
本ラウンドテーブルのねらいは、①日本が、過疎地域が「選ばれ続ける」ために、「技能移転」による魅力増進の可能性を探ること、②技能実習生の最大の送出国であるベトナムに着目し、当該国社会や技能実習生当人のニーズを検討すること、および③「技能移転」の実現に向けたプロセスや現状をふまえつつ、今後の課題を考察することにあった。報告者3人は、ベトナムにおける調査をもとに、その成果をそれぞれ論じた。
この全国大会が開催されたころ、政府の有識者会議より、近日中に、技能実習制度に代わる新しい外国人労働者の受け入れ制度の概要が示される予定であることが発表されたばかりであった。そうしたタイミングでもあったことから、活発な議論が展開され、多くの示唆を得ることになった。
とりわけ、「技能移転を考える際に、技能実習生の送り出し社会のコミュニティ開発を視野に入れるべきではないか」という指摘は貴重であり、本研究会がこれから取り組むべきテーマのひとつとなった。今後、新制度の方向性を睨みつつ、日本社会が外国人労働者から「選ばれ続ける」ための道筋を検討していきたい。
第1回研究会
日本への移住経験は発展途上国社会にどのような影響を及ぼす(した)のか
- 日時:2024年2月12日(月・祝)14:00-16:30
- 方法:対面を中心としたZoomとのハイブリット形式
- 会場:武庫川女子大学 中央キャンパス 中央図書館棟6階 C601教室
- 参加者数:対面23名、オンライン約50名
プログラム
「移住と開発」研究部会 研究会の始動にあたって
生方 史数(岡山大学)
報告1:「『失踪』からのベトナムへの帰還―元技能実習生における主体性」
加藤 丈太郎(武庫川女子大学)
報告2:「介護労働に従事する移住女性の生活戦略」
二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)
モデレーター:
佐藤 寛(開発社会学舎)
ベトナム人技能実習生の「失踪」が社会課題として盛んに報道されている。しかし、「失踪」者がいかなる「主体性」をもって日本で生きていたのか、また、ベトナムに帰国後、どのように生活を営んでいるのかは十分に明らかにされていない。加藤報告は、2023年8-9月にベトナムで行ったインタビューの結果を元に、元ベトナム人技能実習生がたどった軌跡を「主体性」の観点から検討した。
再生産労働の国際分業とともに国際移動の女性化が進行するなか、日本国内の急速な少子高齢化と労働力不足の深刻化を背景に、介護施設で就労する外国人女性が増加の一途を辿っている。
二階堂報告では、中国地方の介護施設で働くミャンマー人女性に焦点を当てて、彼女たちがどのような動機から日本での就労を選択したのか、また、この経験をどのように捉え、いかなる将来展望を抱いているのかについて検討した。
参加者アンケート(n=18)では、参加者に5段階評価で感想を問うた。非常によかった(11名)、よかった(6名)、ふつう(1名)という結果であった。自由記述からは「いろんな角度からものを見ることの大切さと面白さと可能性を感じました」、「『開発』そのものについても考えて良いのではないか」といった声が聞かれた。後者の声について、今後の研究に活かしていく。
第2回研究会
中国から日本への労働移動の教訓を探る
- 日時:2024年6月2日(日曜)14:30-16:30
- 方法:対面を中心としたZoomとのハイブリット形式
- 会場:JICA東京
- 参加者数:対面20名、オンライン約25名
プログラム
概要紹介
石丸大輝(国際協力機構 東・中央アジア部 東アジア課)
結果報告
荒木 憲(アイ・シー・ネット株式会社)
モデレーター
佐藤 寛(開発社会学舎)
中国から日本への労働移動には長年の蓄積があり、就業形態の中心は技能実習から技人国等に移行し、定住化が進むなど多様化している。ベトナム等からの受入れにも、同様の変化の兆しが見られる。そこで、中国から日本への労働移動の変遷や現状、好事例を収集し、他国からの人材受入れ支援に資する教訓の抽出を試みた。
なお、諸外国(韓国、ベトナム、フィリピン等)から中国への労働移動についても調べており、中国の受入国としての側面についても併せて紹介した。
参加者アンケート(n=15)では、参加者に5段階評価で感想を問うた。非常によかった(12名)、よかった(3名)という結果であった。参加者からは「設計のしっかりした立派な調査で大変勉強になりました」、「理論的な背景と仮説の議論をもっと強調してもいいのではないか」という声も聞かれた。後者の声は、当初、私たちが研究部会2年目(2024年10月から)に計画している内容とも合致しており、方向性を確認する機会ともなった。
『移住と開発』研究部会
代表:加藤 丈太郎(武庫川女子大学)