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NL35巻2号 [2024.08]

『開発論の系譜』研究部会(2024年8月)

活動報告「開発論の系譜」研究部会

「開発論の系譜」研究部会では、おおむね2か月に1回の頻度でオンライン研究会を行ってきた。活動1年目ということで部会設置時の賛同者による話題提供を中心としながらも、時には部会の外からも話題提供者を招いて問題の所在を具体化するための議論を重ねてきた。これまでの活動状況及び今後の予定は以下の通りである。

第1回研究会(2023年12月3日 14:00~17:00)

大山貴稔「『日本の開発学』をめぐる政治的風景——北岡伸一JICA理事長による近代化論の復権」と汪牧耘さんの「『開発論の系譜』をどう辿るか——これまでの(私の)試行錯誤」という2つの話題提供をもとに議論を行った。

「日本の開発学」の現在地を踏まえつつ、そこに連ならない系譜も含めて跡づける意義を意識化するようなやりとりがあり、国際開発学会の設立前から継承されてきた開発知の所在についての情報交換も行われた。

第2回研究会(2024年3月3日 14:00~17:00)

キム・ソヤンさんの「英国(を中心とした「西欧」)開発論に視る(幾つかの)認識論的な変化とそれらの現実的問題点について」と木山幸輔さんの「歴史学、人権、開発——ごく断片的に」という2つの話題提供をもとに議論を行った。

日本だけでなくイギリスやドイツなどでも開発研究を取り巻く認識論的な変化が進んでいる状況を確認しつつ、国際開発に関わる知識生産/実践におけるデコロニアルのあり方や、人権という概念を題材にして歴史的分析から規範的構想へと橋渡しする道筋などについて考察する回となった。

第3回研究会(2024年5月4日 14:00~17:00)

大橋正明さんの「インドとバングラデシュは私の先生」という話題提供をもとに議論を行った。学生運動やインド滞在といった大学時代の活動にはじまり、NGOシャプラニールにおけるバングラデシュ駐在員や事務局長などの活動、そのほか日本赤十字社駐在員や大学教員時代に重ねられた経験など、大橋さんのライフヒストリーを通して国際開発との関わりを深めていく一つの歴史的経路について考察する回となった。

第4回研究会(2024年7月21日 14:00~17:00)

松本悟さんの「開発学の『もうひとつの系譜』の試行/思考」という話題提供をもとに議論を行った。

家庭環境にはじまり管理教育に違和感を抱いた高校時代までの来歴や、日本学生協会(ISA)やAsian Student Association(ASA)、東南アジア青年の船などの大学時代の活動、日本国際ボランティアセンター(JVC)でラオスに駐在した時期に感じた違和感など、松本さんのライフヒストリーを示していただいた上で、ISA大阪や大学外の自主ゼミなど国際開発の現在につらなる人や知識のネットワークの一端について考察する回となった。

第5回研究会(2024年9月に実施予定)

北野収さんに話題提供をしていただく予定。

 

上述した部会活動を通して、国際開発と名指されてきたものを捉えるにあたっていくつかの共通の足場が見えてきた。

ひとつは、開発論というときに政府や国際機関などを主軸とした「大きな物語」や、個人の動機や創意工夫などを主軸とした「小さな物語」に焦点が当たりがちな状況に対し、その中間に広がる人間関係のネットワークや資金の流れなどに目を向けて開発論が生み出されたコンテクストを丁寧に読み解いていくことの重要性である。

これに加えて、国際開発学会の設立前から今でいうところの国際開発に携わってきた方々の話題提供の機会を設けられたことにより、それらの人々のなかで当時広く読まれた文献や大きな役割を担ったキーパーソン、学知に汲み取られてこなかった系譜なども見えてきた。

これらの手がかりを活かしながら、国際開発という歴史性を帯びた概念ないし実践の存立基盤を探り当てるような議論を次年度も続けていきたい。


『開発論の系譜』研究部会
代表:大山 貴稔(九州工業大学)

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