『国際教育開発における実務と研究の架橋』研究部会(2025年8月)

2025年度活動実践期報告書
1. 研究部会の目的
本研究部会では、国際教育開発における実務と研究を架橋し、双方向から国際教育開発という分野を捉え直すことを目的として、①若手を中心とする実務者と研究者の対話の機会を設けて相互理解を深めること、また、②実務者と研究者の協働によって、これからの国際教育開発の構想を提示すること、の2点の取り組みを行う。
本研究部会の立ち上げに先立ち、主にJICAを中心とする実務者と、途上国の教育研究をしている研究者による勉強会を2022年度より実施してきた。そこでの対話を通して、研究者側はJICAを単体のアクターと捉える傾向があり、その中で実務に携わる実務者の想いや葛藤に十分に目を向けて来なかったことや、逆に、実務者側は、研究者が生み出す知見や批判的検討を実務の中で十分に活かしきれていないことなど、実務(者)と研究(者)の間には「すれ違い」があることが明らかになってきた。
そこで、本研究部会を立ち上げ、より広く実務・研究に携わる会員を巻き込みながら、なぜ・どのように実務(者)と研究(者)がすれ違ってきたのか、また、そもそもこの「すれ違い」は克服すべきものであるのか、という点も含めて、国際教育開発における実務と研究の架橋を実務(者)と研究(者)の双方の視点から検討することによって、これからの国際教育開発という分野のあり方・関わり方を構想したい。議論の成果は書籍として整理し、広く世に問う。
2. 2025年度の活動
2024年11月:全国大会(法政大学)にてラウンドテーブルを実施
「教育開発における実務と研究の架橋」と題し、ラウンドテーブルを実施した。『国際開発研究』で特集号を組むことを目指して、研究者・実務者による5組の小グループが、それぞれの論文の構想について報告し、参加者を交えて議論した。
2024年11月〜3月:JICA共創枠にてカンボジアで事業を実施
本研究部会のメンバーが中心となり協働で提案した事業がJICA共創枠で採択され、カンボジアで「子ども達の、子ども達による地域の課題解決に向けた探究学習プロジェクト~これからの社会を生き抜くために~」と題する事業を実施した。本事業は、プロジェクトで使用する教員用ガイドやワークシート等の作成をはじめ、現地コンサルタントとの定期ミーティング、現地視察、データの分析、報告書の執筆等、研究者と実務者の協働によって実施した。
2025年2月:JICA本部にてデータ検討会を実施
2月12日に、上述の共創枠事業について、報告書の執筆に向けたデータ検討会・振り返り会を実施した。JICA側から3名、研究者側から4名が参加し、報告書の方向性を検討した。
2025年3月:共創枠のオンライン報告会を実施
3月26日、主にJICA関係者を対象に共創枠事業の報告会をオンラインで実施した。40名以上の参加者を得て、本研究部会を通した実務者と研究者の協働によるプロジェクトの形成・実施について広く共有し、その意義を多角的に議論することができた。
また、3月31日には東京大学で開催された研究会において、主に研究者を対象に共創枠事業についての報告をおこなった。対面・オンライン併用で約40名の参加があり、研究者と実務者の協働の持つ学術的意義や、探究学習のあり方についてなど、多方面から議論することができた。
2025年6月:帝京大学にて研究会を実施
6月27日に、研究者3名、実務者2名が参加して研究会を実施した。この間、『国際開発研究』の特集号に向けて各グループが論文を執筆し、オンラインでの検討会を数回重ねてきた。今回の研究会では、研究者と実務者の協働について、①プロジェクトの実施、②論文執筆という2つの取り組みを通して得られた知見を整理し、議論する。
2025年6月:『国際開発研究』に特集論文5本を掲載
6月に刊行された『国際開発研究』第34巻1号において、ここまでの本研究部会の成果をまとめた特集「教育開発における実務と研究の架橋」を組み、5つの小グループのそれぞれが共同で執筆した論文5本が掲載に至った。川口による巻頭言に加えて、掲載された論文のタイトルは以下のとおり。
- 坂口真康・澤茉莉・泉川みなみ「国際教育開発における実務と研究の架橋に関する教育社会学的探索―『国際開発研究』を事例として―」
- 林研吾・山縣弘照・川口純「実証研究の成果を以下に国際教育協力の実務に活かすか―JICAの教育協力事業を事例に―」
- 荻巣崇世・山上莉奈「教師教育分野における研究と実務の関係―JICAによるカンボジアの教師教育協力を対象に―」
- 関口洋平・田村尚也「ベトナムにおける国際共同大学の特質と土着化への可能性―国際高等教育協力への比較教育学的アプローチ―」
- 橋本憲幸・村田良太「脱植民地主義は国際教育開発の倫理か―多言世界論とボリビア―」
2025年9月:研究会の実施(予定)
9月5日・6日に、本研究部会におけるこれまでの架橋の取り組みを振り返るとともに、今後の活動の方向性について議論することを目的として、東京にて研究会を実施する。
『国際教育開発における実務と研究の架橋』研究部会
代表:荻巣 崇世(上智大学)