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NL36巻2号 [2025.08]

『移住と開発』研究部会(2025年8月)

活動報告

本研究部会では、2024年度において、全国大会でのラウンドテーブルと2回の研究会を開催した。研究部会設立2年目に入り、2年目は、アジアにおける「移住と開発」の研究枠組みの構築を目指した。回を重ねるごとに賛同人が増え、2025年7月末時点で37名になった。

全国大会ラウンドテーブル

アジアにおける「移住と開発」―自発的・非自発的移動から捉える

  • 日時:2024年11月2日(日)12:45-14:45
  • 形式:対面
  • 会場:法政大学市ヶ谷キャンパス
  • 参加者:約30名
報告1「Opening the Front Door: Foreign Blue-Collar Workers in a Changing Japan」

Francis Peddie(名古屋大学)・討論者 比留 間洋一(静岡大学)

報告2「タイで出会ったロヒンギャの人々」

大橋 正明(聖心女子大学グローバル共生研究所)・討論者 生方 史数(岡山大学)

研究枠組みの紹介

加藤丈太郎(武庫川女子大学)

モデレーター

佐藤 寛(開発社会学舎)

ラウンドテーブルは、アジアにおける2本の実証研究をもとに、研究枠組みを考え始める絶好の契機となった。

Peddie会員、大橋会員の2本の発表に続けて、ディスカッションが佐藤会員のモデレートで行われた。初めに企画責任者の加藤会員が「移住と開発」を捉える研究枠組みとして、アムステルダム大学教授のDe Haas(2021)によるthe aspirations-capabilities frameworkを紹介した。さらに、討論者の生方がコメント内で提示していた、世界銀行(2023)のMatch-Motive Matrixを再検討した。フロアからは、これらに加え「人間の安全保障」も「移住と開発」を捉える、より大きな枠組みとして考えられる旨が述べられた。

議論は研究枠組みと実証研究を往復する形で進んだ。大きく2つの論点に収斂した。

一つ目は、移民受け入れ国のキャパシティビルディングである。今回の2つの実証研究では、日本とタイが移民、難民の受け入れ国であった。いずれの国でも、移民・難民を労働力として捉えるだけでなく、どのように受け入れ国の人々の(受け入れへの)共感を引き出せるかが、移民(難民)の開発につながるという論点を得た。

二つ目は、研究枠組みにとらわれすぎずに、「移住と開発」の事象の検討を続ける点である。今回の2つの実証研究は、「移住と開発」には、研究枠組みでは捉えきれない、あるいはマトリクスの4象限には収まり切らないダイナミクスがある点を示した。

ディスカッションの冒頭で提示された、the aspirations-capabilities frameworkについては、これから実証研究を重ね、鍛えていく必要性が指摘された。the aspirations-capabilities frameworkは社会構造と個人をまとめて捉える研究枠組みであるが、構造(組織)と個人を一つのフレームワークの中で捉えられるのかという指摘について、今後検討する必要がある。一方で、「移住と開発」において、構造(組織)に加え、個人のエージェンシー(主体性)にも着目する必要性については、技能実習生、ロヒンギャ難民の具体的ナラティブから、一定程度共有されたのではないか。

第3回研究会:「移住と開発」研究レビュー:4つの視点から

  • 日時:2025年2月8日(土)16:30-19:30
  • 方法:対面を中心としたZoomとのハイブリット形式
  • 会場:静岡大学浜松キャンパス 工学部棟7号館1階7-11教室
  • 参加者数:対面15名、オンライン約30名

第I部 (進行:比留間洋一(静岡大学))

ゲストスピーカー「ベトナム農村部における自立支援型介護サービスの実現に向けて」
グエン ティ ビック チャン氏

第II部 (進行:加藤丈太郎(武庫川女子大学))

報告1「高畑幸『在日フィリピン人社会―1980~2020年代の結婚移民と日系人』を読む」

二階堂裕子(ノートルダム清心女子大学)

報告2「移住をめぐるミクロ—マクロ・ギャップ:大規模サンプルの幸福度調査を題材に」

生方史数(岡山大学)

報告3「「移住とケアと開発」:日本-ベトナム間の事例」

比留間洋一(静岡大学)

報告4「農業移住労働の出身地への影響: 欧州の事例から」

上野貴彦(都留文化大学)/佐藤寛(開発社会学舎)

第3回研究会では、「移住と開発」研究部会発起人らが、自らが興味のある「移住と開発」に関する先行研究を読み解くことで、参加者とともに「移住と開発」に関する引き出しを増やすことを目的とした。

第1部では、趣旨説明として、本企画担当の比留間が、「移住と開発」をめぐる「日本からの視点」を国内外の研究動向に位置づける必要性を問題提起した。次に日本のベトナム人介護福祉士チャンが、日本の介護福祉の専門性をベトナムの地方農村に活かす「専門的送金」の構想について紹介した。

第Ⅱ部では、二階堂が在日フィリピン人社会に関する最新の研究書を解題し、日比の開発課題との関係性等について示唆した。生方はマクロ(構造)とミクロ(エージェンシー)の接点とともに、フォーマル(正規)とインフォーマル(非正規)の関係性(サラワクではその境界は多様で流動的)への目配りが必要だと論じた。比留間は第1に「老い(Ageing)」と「移住と開発」とのつながりを、脆弱/アクティブ両面から評価する視点、第2に出身地のケアへの影響の視点を欠く移民政策(cf.オーストラリア政府のPacific Labour Scheme)への批判を紹介した。上野・佐藤は、東欧から西欧への「新しい」ゲストワーカー型の農業移住労働について紹介し、新楽観論に基づく政策ナラティブ(cf.トリプルウィン)を多角的に分析するための方法論的課題について話題提供した。

参加者アンケート(n=8)では、参加者に5段階評価で感想を問うた。「非常によかった」が5名(62.5%)、「よかった」が3名(37.5%)という結果であった。自由記述からは「新たな学びだらけで全く消化しきれませんでしたが、大変充実した3時間でした」、「遠隔から、非会員でも参加させていただける機会をいただきまして、どうもありがとうございました」、「大変勉強になりました。移住と開発研究の全体像をなんとなく掴むことができ、これからの自身の研究の方向性が少し見えた気がします」といった声が聞かれた。これらの声を今後の研究会に活かしていく。

第4回研究会:移民労働者の手数料をいかに削減できるか

  • 日時:2025年5月10日(土)15:00-17:00
  • 方法:対面を中心としたZoomとのハイブリット形式
  • 会場:明治学院大学白金キャンパス 本館3階
  • 参加者数:対面25名、オンライン約50名
報告1「手数料削減に向けた政策介入オプションの理論的枠組み、定義、政策提言」

野田さえ子(日本福祉大学大学院/人の森)(対面報告:日本語)

報告2「Malaysia’s Zero fee Policy on Migrant Workers」

Choo Chin Low(Ph.D.)(Universiti Sains Malaysia)(オンライン報告:英語)

報告3「日越 手数料削減に向けたVJ-FERI:取組、課題、展望」(オンライン:日本語)

江場日菜子((独)国際協力機構 マレーシア事務所、外国人材受入支援室 元担当)

モデレーター

佐藤 寛(開発社会学舎)

第4回研究会では、来日する移民労働者の手数料問題について考察を深めた。

手数料削減は、債務労働に伴う労働者の権利や人権侵害の防止、安定した収支に基づく本人のキャリア開発、送金/貯蓄額の増加による貧困削減や送出国への投資による経済発展等に寄与する要素となり、送出国の開発課題と強く関連している重要なテーマといえる。「移民労働者の手数料をいかに削減できるか」を大きなテーマとし、移民受け入れ国であるマレーシアと日本の取り組みについて、3名が報告をした。

野田は、手数料削減に向けた政策介入オプションの理論(Martin P.)、ミグテック(Mig Tech)、「ゼロ手数料」の定義を提示し、共通知を提供した。最後に、マレーシア・日本における手数料削減の取組報告を受けて、手数料削減に関する政策提言の骨子案を提示した。

Chooは、日本と同様にASEAN諸国からの移民労働者を受け入れるマレーシアでの手数料ゼロに向けた取り組み(①二国間協定による行動規範、②ミグテック:Migration and Technology, ③直接雇用)における現状、課題、展望を報告した。

江場は日本における手数料削減に向けた取り組みについて、JP-MIRAI/JICA実施の「ベトナムから日本への移住労働者に関する公正で倫理的なリクルート(VJ-FERI)」プログラムの現状と課題、展望を報告した。

参加者アンケート(n=15)では、参加者に5段階評価で感想を問うた。「非常によかった」が12名(80.0%)、「よかった」が3名(20.0%)という結果であった。自由記述からは「設計のしっかりした立派な調査で大変勉強になりました。技能実習や特定技能の適正な受け入れに注目が集まりがちですが、その人たちの出身国の変化や将来予測、受け入れ産業の変化や出身国の産業構造なども踏まえて考えていくことが重要だと学びました」「理論的な背景と仮説の議論をもっと強調してもいいのではないかと思った」といった声が聞かれた。これらの声を今後の研究会に活かしていく。


『移住と開発』研究部会
代表:加藤 丈太郎(武庫川女子大学)

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