企画運営委員会:合理的配慮WGからのおしらせ(2024年2月)

国際開発学会第12 期:委員会の構成および幹事の委嘱

委員長

山田肖子(名古屋大学)

委員

副会長、常任理事、本部事務局長、本部事務局次長

企画運営委員会 合理的配慮WG

WG長

山形辰史(立命館アジア太平洋大学)

委員

小國和子(日本福祉大学)
川口 純(筑波大学)

幹事

土橋喜人(金沢工業大学)
森 壮也(アジア経済研究所)

2024年度活動計画

  • タスクフォースの立ち上げ
  • 問い合わせ窓口の準備と試験運用
  • 大会参加者が希望する合理的配慮にかんする相談対応

企画運営委員会
合理的配慮WGグループ長:山形辰史
(立命館アジア太平洋大学)




グローバル連携委員会からのお知らせ(2024年2月)

グローバル連携委員会では、以下の3つの活動を行いました。

1.北東アジア開発協力フォーラムへの代表者派遣

2023年11月27日(月)にタイのバンコク市で開催された北東アジア開発協力フォーラム(North-East Asia Development Cooperation Forum 2023)に、国際開発学会の代表として高田潤一会員(東京工業大学)と狩野剛会員(金沢工業大学)にご参加いただきました。

中国、韓国、ロシアの国際開発学会と連携し、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)がホストとして毎年開催している同フォーラムでは、各国の開発援助・国際協力のトレンドについて情報交換すると共に、特定のテーマについて議論を交わしています。

今回のフォーラムでは、国際協力と技術的イノベーションというテーマのもと、活発な議論が交わされました。高田会員(情報通信と国際開発)と狩野会員(デジタル技術と国際開発)は、それぞれの専門分野における知見・経験を踏まえて、会議での議論に重要な貢献をしていただきました。

2.学会年次大会における韓国国際開発学会との合同セッションの開催

2023年11月12日(日曜)に上智大学で開催された国際開発学会・年次大会において、韓国国際開発学会(KAIDEC)との合同セッションを開催しました。

「日本と韓国による国際開発協力の展望」と題した同セッションでは、KAIDECから招聘したDr. Han Seung-Heon(Korea Institute of Public Administration)による講演「Global emerging issues and context shifts in the era of complex crisis: Integrated perspectives on the field of public administration in Korea」と、Dr. Kang Woo Chul(Korea EXIM Bank)による講演「Solidarity between Korea and Japan in the era of complex crises」があり、ディスカッサントして鄭傚民会員(京都大学)にご参加いただきました。

韓国の国際開発研究ならびに開発援助実務の潮流を踏まえつつ、いかにして複合的な危機が起きている途上国の現状に対して支援を行うことができるのかについて、多様な視点から刺激的な議論が交わされました。とくに、ディスカッサントの鄭会員には、韓国と日本の両国の状況を踏まえた視点から非常に示唆的なコメントをしていただきました。

3.韓国国際開発学会の冬季大会への代表者派遣

2023年12月8日(金曜)に韓国のソウル市で開かれた韓国国際開発学会(KAIDEC)の冬季大会に、国際開発学会の代表として近藤久洋会員(埼玉大学)と牛久晴香会員(北海学園大学)にご参加いただきました。

同大会において、近藤会員は「How Should Politics Be Positioned in International Development?: Implications from International Development in Japan」と題した講演を行い、牛久会員は「Beyond Pride and Prejudice: International Development Studies and African Area Studies in Japan」と題した講演を行いました。

どちらの講演も韓国の国際開発研究者たちから高い評価を得たとのメッセージが、後日、KAIDECの国際交流委員長からJASIDグローバル連携委員長宛てに送られてきたことを申し添えます。

このように、秋から冬にかけて開かれた国際的な議論の場に、積極的に会員の方々にご参加いただいてきました。いずれの会員も、非常にご多忙なスケジュールの中にもかかわらずご快諾くださり、とても貴重なご貢献をしていただきました。グローバル連携委員会として、心よりお礼申し上げます。

また、これらの国際会議等への派遣にあたり、今期新たに立ち上がった人材推薦ワーキンググループの先生方から多大なご支援を賜りました。この場をお借りしてお礼申し上げます。

なお、こうした国際的な場への代表派遣を検討する際には、会議のテーマと合致した専門分野の方々にお願いをしておりますが、できるだけ若手の会員にもご参加いただけるようにしたいと考えております。引き続き、会員の皆さまのご理解とご協力を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

グローバル連携委員会
委員長:北村友人(東京大学)




社会共創委員会からのお知らせ(2024年2月)

2024年度より、以下の3委員会を統合し、新たに「社会共創委員会」を設置することとなった。

統合前の各委員会の昨年度の活動報告は以下のとおり。

2023年度活動報告

社会連携委員会(委員長:川口純)

  1. 市民社会との連携企画:「開発協力大綱の改定とその主要論点ー市民社会の主張とはどのようなものか?」を開催した。国際協力系NGO のスタッフ4名が登壇し、前回の改定時のふりかえり、今回の改定にあたって開発協力の理念や実施原則等について議論を実施した。
  2. グローバルフェスタにおいて「国際開発キャリアセミナー」を開催した。佐藤会長、大橋委員、荻巣会員がご登壇し、多数の若手参加者を得た。院生の参加者が主であり、闊達な質疑応答がなされた。

研究×実践委員会(委員長:小林誉明)

第34 回全国大会にて委員会主催(共催も含む)のラウンドテーブルを三つ企画しました。それぞれのセッションは委員会のメンバーがイニシアティブをとり、学会内外からリソースパーソンを巻き込んで企画を進めているものとなります。

1.「ソーシャルビジネスにおける研究の貢献可能性:インドの離島エリアにおけるe-Health ビジネスの事例から」
登壇者:狩野剛、功能聡子、岡崎善朗、佐藤峰、内藤智之

2.「国際開発(学)の「埋葬」と「再生」―世代を超えた、グローバルなサステナビリティの確保を射程に入れて―」(地方展開委員会との共催)
登壇者:佐藤峰、小林誉明、木全洋一郎、梶英樹

3.「大国間競争の時代にODA で「普遍的価値」を促進することの意味を問う」
登壇者:志賀裕朗、福岡杏里紗、荒井真紀子、小林誉明

地方展開委員会(委員長:佐野麻由子)

  • 2023 年6 月10 日の第24 回春季大会(国際教養大学)で「地方展開委員会RT 地方からみた『内なる国際化』と協働の可能性」を主催、参加者と内なる国際化を中長期的、短期的どのように位置づけるのか、移民社会にむけて検討すべき課題は何かについて意見交換を行った。
  • 国際開発学会出前講座の今後の運営について考えるために登録して下さった会員にアンケートを実施、今後の在り方について検討した。

国際開発学会第12期:委員会の構成および幹事の委嘱

共同委員長

  • 木全洋一郎(JICA)
  • 工藤尚悟(国際教養大学)
  • 杉田映理(大阪大学)

委員

  • 坂上勝基(神戸大学)
  • 佐藤 寛(開発社会学舎)
  • 藤山真由美(NTC インターナショナル)

幹事

  • 梶 英樹(高知大学)
  • 河野敬子(ECFA)
  • 小林誉明(横浜国立大学)

2024年度活動計画

◆設置目的

日本・先進国を含めたグローバルな観点から時代に合った国際開発学の再定義、学会から日本社会への貢献、新たな学会・パートナーの獲得のため、国際開発学会の内外の多様な団体・個人と連携した事業の企画・形成をし、広く学会員に呼び掛けてその実施展開を先導・調整・支援する。

◆活動計画

以下の3 つの柱において、具体的な企画を検討していく。

(1)連携・協働

  • 地方、企業・団体、他学会との共同セミナー・研究プロジェクトを実施
  • 海外の学会・団体、国際機関との連携 ※グローバル連携委員会との連携

(2)発信

  • 学部生、高校生等若者向け発信 ※人材育成委員会との連携
  • 各種イベント(グローバルフェスタ等)での発信

(3)支援・協働

  • 地方大会におけるプレナリーやエクスカーションプログラム

社会共創委員会・共同委員長:
木全洋一郎(JICA)
工藤尚悟(国際教養大学)
杉田映理(大阪大学)




第34回全国大会(上智大学)開催のお知らせ

現在、11月の大会に向けて準備を進めております。久しぶりの対面による全国大会であり、遠い昔のように思える過去の対面開催を思い出しながら進めています。

コロナやインフルエンザが流行していますが、健康にご留意頂き、ご参加下さいますようお願い申し上げます。

以下のページに情報を掲載していきますので、ご覧いただければ幸いです。

第34回全国大会・実行委員会
実行委員長:小松太郎(上智大学)




企画運営委員会:人材推薦WGからのおしらせ(2024年2月)

国際開発学会第12 期:委員会の構成および幹事の委嘱

委員長

山田肖子(名古屋大学)

委員

副会長、常任理事、本部事務局長、本部事務局次長

企画運営委員会 人材推薦WG

WG 長

伊東早苗(名古屋大学)

委員

高橋基樹(京都大学)
山形辰史(立命館アジア太平洋大学)

2024年度活動計画

各委員長の依頼に基づき、学会間交流事業や大会座長・コメンテーター等、学会の重要事業を担う人材の推薦を行う


企画運営委員会
人材推薦WGグループ長:伊東早苗(名古屋大学)




第34回全国大会のお知らせ

今年の全国大会は、11月11日(土曜)・12日(日曜)に上智大学四ツ谷キャンパスで開催します。

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1.テーマ

大会のテーマは「複合的危機下における連帯と共創」です。

近年、グローバル化に伴う格差の拡大と権威主義、暴力的過激主義の台頭や民主主義の後退とそれに伴う市民社会スペースの縮小、新型コロナ感染症の蔓延、ロシアによる軍事侵攻と世界規模の食糧危機、政治的危機下にある社会での自然災害など、未曽有の困難が次々と訪れています。

これらは複合的に絡み合い、状況を悪化させ、脆弱な立場の人々をさらに困難な状況に追い込んでいます。

開発協力と人道支援の連携が一層求められる中、国際開発協力は、この複合的危機にいかに対処していけば良いのでしょうか。

今大会では、複合的危機下において、多様なアクターがいかに「連帯」し、共通課題に取り組むために新たな価値を「共創」できるのかを議論します。

異なる立場のアクターが、利害を超えて、どのように共通認識を作っていけばよいのでしょうか。

Business as usual(これまでのやり方を踏襲)を越える挑戦に向けて、皆様の活発な議論を楽しみにしております。

2. 開催形態

今大会は、対面を基本とします。

ただし、パラレルセッションのうち、1つはオンラインで終日実施し、プレナリーセッションは、対面と同時配信のハイフレックス対応を予定しています。

3.会員の交流について

大会初日(11日)には、懇親会を予定しています。久しぶりの会ですので、奮ってご参加ください。

狭いキャンパスではありますが、以下の体制で皆様をお迎えできるよう準備をしております。皆さまとお会いできることを楽しみにしております。

大会実行委員長
小松太郎(上智大学)


第34回全国大会・概要

  • 日程:2023年11月11日(土曜)・12日(日曜)
  • ・会場:上智大学四ツ谷キャンパス
  • ・テーマ:「複合的危機下における連帯と共創」

大会実行委員会

(委員の並び順は50音順)

大会実行委員長

小松 太郎(上智大学)

事務局長(全体調整)

田中 雅子 (上智大学)

委員(オンライン)

阿部 直也 (東京工業大学)

委員(会場運営)

  • 岩崎 えり奈(上智大学)
  • 梅宮 直樹(上智大学)

委員(会計)

岡本 菜穂子(上智大学)

委員(プログラム)

荻巣 崇世 (上智大学)

委員(会場運営)

金澤 真実 (上智大学)

委員(大会サイト)

倉田 正充 (上智大学)

委員(広報)

  • 杉浦 未希子(上智大学)
  • 山崎 瑛莉(上智大学)

委員(プレナリー)

  • 戸田 美佳子(上智大学)
  • 林 明仁(上智大学)

委員補助

  • Taymour Bouran (上智大学大学院生)
  • Van Nguyen (上智大学大学院生)

第34回全国大会・実行委員会
実行委員長:小松太郎(上智大学)

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第34回全国大会を終えて

第34回全国大会を終えて コロナ禍を経て、数年ぶりの全面対面の全国大会となりました。コロナ以前の大会がどうだったのか思い出しながら準備を進めました。

コロナ禍は我々の活動に多くの制限をもたらしましたが、遠く離れた人々とも連帯してグローバルな課題の解決に取り組む必要があることを改めて認識する機会ともなりました。危機は何かを生み出すチャンスにもなります。

このようなことから、今回の大会テーマは「複合的危機下における連帯と共創」としました。プレナリーでは日本の開発援助の行方を議論し、各セッションにおいても大会テーマに即した内容が多くあったように思います。

大会運営においては、参加者の皆様にとって安全で、持続可能な、そして包摂的な方法を模索しながら進めました。懇親会での個々盛弁当の提供やプレナリーでの情報保障(同時通訳、要約筆記など)などはその試みの例です。今後の大会運営の参考にして頂ければと思います。

2日間の大会では、450名ほどの参加者にご来校頂きました。当日は複数の他のイベントが学内で開催されており、やや狭い建物での開催になりましたが、逆にコンパクトに実施出来て良かったと思っています。

大会期間中、特に大きな問題も無く、円滑に実施することが出来ました。参加者の皆さま、運営に関わって下さった皆さまに深く御礼申し上げます。

第34回全国大会・実行委員会
委員長:小松太郎(上智大学)




第4回・国際開発論文コンテストのお知らせ

第4回・国際開発論文コンテスト

国際開発及び国際協力に関心を持つ学生の人材育成という観点から、学部生の研究を奨励し、研究成果の顕彰を目的として、国際開発学会では本コンテストを実施する。

対象は2024年3月時点で学部生が書いた論文で、応募には国際開発学会員の推薦が必要。

2023年 6月開催予定の国際開発学会春季大会で公表・表彰の予定。

応募受付期間

  • 2024年3月1~24日

詳細は、以下のページをご参照ください。

人材育成委員会
委員長:松本悟(法政大学)




追悼:内海成治先生(本会元副会長)

JASID名誉会員で、2011年から14年まで副会長としても活躍された内海成治先生(大阪大学名誉教授)が2023年9月16日に急逝されました。

JICAの国際協力専門員(教育分野)、アフガニスタン教育大臣のアドバイザー、大阪大学、お茶の水女子大学、京都女子大学等で教授を歴任され、日本の国際開発分野で大きな足跡を残されました。ここに生前の内海先生のご貢献に感謝し、安らかな眠りをお祈りいたします。 

佐藤仁


アフリカでの教育開発研究を先導された内海先生との思い出

1998年から始まった私のケニア通いにフィールド調査の要素が加味されたのは、内海先生が2000年にJSPSナイロビ連絡センターに赴任されことが契機になっています。

広島大学に着任したのが1997年で、その前にJICAに勤めていたこともあり、少なくないお付き合いはありました。大学で働くことになったものの、私にはフィールドでの調査経験が圧倒的に不足していました。

今のように大学が忙しくない時、先生が泊まる場所もあるというので、2000年9~10月の3週間ほどケニアへ行くことにしました。これが、今につながるケニアでのフィールド研究の始まりです。基本的に学生を含めた合宿調査でしたので、研究のことや世間話、朝から晩まで、話が尽きることはありませんでした。

この初期の頃、アフリカの教育研究と言えば、日本では援助に関わる研究者の一部が細々と行っていました。学会で発表すると珍しがられたぐらいです。今日のようにアフリカの分科会が立ち上がるなど、考えられないことでした。

内海先生は、当時、センターのニュースレター「ふくたーな」(2000年6月発行)の編集後記に、「アフリカ研究の中では教育は非常にマイナーな分野ですが、国際協力では非常に重要な分野です」と書かれています。

時代は移り変わり、教育開発研究の中で、アフリカはメジャーな地域になりました。そのようなフィールド経験を経て、多くの学生が巣立っていきました。

2000年から2010年代前半までは、マサイの人々の暮らすナロック県の小学校をベースに調査をしてきました。2006年には「ケニア教育開発研究合宿」と称して、8名ほどの本学会会員の参加も得て(今では皆さん50代以上になっています)、1週間ほどの調査を合同で行いました。

ナイロビでの合宿生活に加え、平原にポツリとある小学校の寄宿舎に1泊した経験は、特に忘れがたい思い出です。シマウマやキリンが近くで見られることもありました。その後、イスラム圏のラム島や難民キャンプのあるカクマにもフィールドを広げていきました。

内海先生の訃報に接したのは、ちょうどナイロビで定宿としているアパートに滞在していた時でした。そこには、様々な調査用具に加え、一緒に購入した洗濯用のバケツや炊飯器もあります。

ケニアのご友人たちも一様に驚き、深く悲しまれていました。20年以上にわたるケニアでの調査生活を思い出すと寂しくてなりません。私自身を研究者として育ててくれたのも先生とのこの生活があったからこそです。

内海先生のまかれた種は、立派に成長しています。これからも私たちを温かく見守って下さい。本当にありがとうございました。

澤村信英




【会員限定】第2号理事決定会合議事録

  • 日時:2023年6月10日 19時30分~20時30分
  • 方法:対面(第24回春季大会会場近隣の会議場)およびオンラインの併用による開催

  • 出席者(敬称略):佐藤仁(会長)、高田、山田(以上、副会長)、池上、川口、北村、小林、佐野、島田、杉田、松本(以上、常任理事)、志賀(事務局長)、伊東、池見、小川、黒田、佐藤(寛)、澤村、高橋、鍋島、藤掛、藤倉、山形(以上、現理事)、坂上、樹神(以上、次期1号理事)

議事

志賀事務局長より、本年5月に実施された第12期第1号理事選挙の結果選出された次期第1号理事の属性(所属・性別・専門分野等)についての説明が行われた。これを踏まえ、第12期第2号理事候補者についての議論が行われ、15名の会員を次期第2号理事候補者として選出した。

本部事務局
事務局長:志賀裕朗(横浜国立大学)




第34回全国大会セッション報告(プレナリー、ブックトーク、ポスター発表)


プレナリー(対面・オンライン)


日本の開発援助はどこに向かうのか―開発協力大綱の改定を受けて—

  • 2023年11月11日(土曜)13:30 〜 16:30
  • 2-1702 (2号館1702)

【司会】小松 太郎:上智大学総合人間科学部教育学科教授、国際開発学会大会実行委員長

【モデレーター】田中 雅子:上智大学総合グローバル学部教授、国際開発学会大会実行委員会事務局長

基調講演「国益、地政学、人間の安全保障―開発協力はどこへ行く?」

峯 陽一:国際協力機構(JICA)緒方貞子平和開発研究所所長、同志社大学グローバル・スタディーズ研究科教授、開発協力大綱の改定に関する有識者懇談会委員、国際開発学会員

コメンテーター

  • 伊豆山 真理:防衛研究所理論研究部長、専門分野:南アジアの政治・外交・安全保障
  • 佐藤 仁:東京大学東洋文化研究所教授、国際開発学会 会長
  • 松本 悟:法政大学国際文化学部教授、外務省開発協力適正会議委員、国際協力機構(JICA)環境社会配慮助言委員、国際開発学会 常任理事

前半は、峯陽一(同志社大学、JICA緒方貞子平和開発研究所所長)による基調講演「国益、地政学、人間の安全保障―開発協力はどこへ行く?」に続いて、伊豆山真理(防衛研究所)、佐藤仁(東京大学)、松本悟(法政大学)がコメントを述べた。

また、バングラデシュとフィリピンの研究者、ならびにケニアの市民社会組織のオピニオンリーダーからのビデオレターを上映した。

後半は、会場からの質問をもとに、政府開発援助(ODA)と政府安全補償能力強化支援(OSA)の区別、それらのモニタリング過程への相手国政府や市民社会の関与、国際協力に関わる人材を増やすための大学教育のあり方、開発援助の新たな価値の創造に学会や研究者はどう関わっていくかという点などについて、コメンテーターによる討論を行った。

司会は大会実行委員長の小松太郎が、モデレーターは大会実行委員会事務局長の田中雅子(ともに上智大学)が務めた。

上智大学国連WEEKSのポスト企画として実施し、日英同時通訳と日本語字幕による情報保障を行った。上智大学国際協力人材育成センター(SHRIC)からも協力を得た。

大会参加者の他、上智大学国連WEEKSの申込者あわせて約200名が対面で、100名以上がオンラインで参加した。

第34回全国大会・実行委員会
委員長:小松太郎(上智大学)


ブックトーク

  • 日時:2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-112 (紀尾井坂ビル112)
  • 聴講人数:50名
  • 企画責任者・モデレーター:佐藤寛(開発社会学舎)、島田剛(明治大学)、道中真紀(日本評論社)芦田明美(名古屋大学)

報告書籍(1)『争わない社会――「開かれた依存関係」をつくる』

  • 発表者:佐藤 仁(東京大学東洋文化研究所)
  • 担当編集者:倉園 哲(NHK出版)
  • 討論者:志賀裕朗(横浜国立大学)

コメント・応答

国家間の戦争、社会の分断、個人同士やネット上の諍(いさか)いなど、豊かになり余裕ができた時代にも争いが絶えないのはなぜか?国からは「自助」を、市場からは「競争に勝ち残ること」を求められて、個人が孤立無援となってしまうのはなぜか?

本書は、その原因が近代人の「自立」への欲求にあったと見て、その陰で見落とされてきた「依存」の可能性を問う試みである。

誤読された進化論、支援国の利益になる対外援助、明治から100年近く闘われた入会権闘争、社会問題の発見を通じて居住地域への帰属意識を育んだ生活綴方までを分析。機能的な中間集団への依存が争いの芽を摘む可能性を示す。領域を横断する考察が切りひらく、社会科学からの挑戦の書。

報告書籍(2)『未来へ繋ぐ災害対策:科学と政治と社会の協働のために』

  • 発表者:松岡俊二(早稲田大学)
  • 担当編集者:渡部一樹(有斐閣)
  • 討論者:木全洋一郎(JICA)

コメント・応答

従来の災害対策では有効に対応できない災害が多発し、従来のやり方では「未来へ繋ぐ災害対策」にならないのではないかという深く本質的な「問い」を踏まえ、どのようにすれば「未来へ繋ぐ災害対策」を創ることができるのかという「問い」に「応えたい」と思い、本書「未来へ繋ぐ災害対策」を編集した。

しかし、本書は「未来へ繋ぐ災害対策」とは何かという「問い」に対する「答え」を提示しない。より正確に言えば、「問い」への唯一の正解や最適解はないし、正解は幾つもあるというのが本書の基本的な立場である。

幾つも存在する正解から、科学と政治と社会は協働して「対話の場」=「学びの場」を形成し、社会的に納得可能な解決策を共創することが必要であり重要だというのが、本書の一貫したメッセージである。

さらに言えば、「学びの場」とはLearning Communityであり、災害対策の新しい知識を創造するという目的をもったコミュニティである。

科学と政治と社会による「対話の場」=「学びの場」が有効に機能するには、参加者のエンパシー能力の形成や境界知作業者の役割が決定的である。

こうした点も、本書の重要なメッセージとして終章で詳しく述べている。

報告書籍(3)『入管の解体と移民庁の創設ー出入国在留管理から多文化共生への転換』

  • 発表者:加藤丈太郎(武庫川女子大学)
  • 担当編集者:黒田貴史(明石書店)
  • 討論者:齋藤百合子(大東文化大学)

コメント・応答

法務省入国管理局は入管法の執行者として自らをあらゆる権力の上位に置いてきた。

2019年4月に、出入国在留管理庁へと格上げされる中、スリランカ人女性の死亡事件が起きた。入管は現在のまま存続して良いのであろうか。

入管を一度解体し、新たに移民庁を創設するアイディアを本書では構想した。第1章から第16章まで16 名の著者(監修者を含む)による論考を収録した。

第1部は「人権無視の外国人管理」と題し、出入国在留管理庁において人権が守られていない状況を主に実務家が事例をもとに示した。

第2部は、「元入管職員の『中の視点』から」と題し、実際に入管に務めた経験を有する元職員が出入国在留管理庁における問題点を「中の視点」から述べた。

特に元東京入国管理局長からは、「交流共生庁」の創設という具体的な案が示された。

第3部は戦後から21 世紀にかけての「入管の歴史」を4名の研究者の論考をつないで追いかけた。

第4部「移民庁の創設に向けて」では、3名の研究者の論考から「民族」概念を問い直し、入管に存在する「レイシズム」を明らかにし、「諸外国の入管・統合政策担当機関」のあり方を整理した。

報告書籍(4)『SDGs時代の評価:価値を引き出し、変容を促す営み』

  • 発表者:米原あき(東洋大学)
  • 担当編集者:鶴見治彦(筑波書房)
  • 討論者:山田肖子(名古屋大学)

コメント・応答

SDGsの取り組みは評価が難しいと言われる。それは、SDGsがこれまでの国際開発目標とは異なる次元で問題提起をしているのに対し、その取り組みを評価する方法や思考が旧次元に留まっているからではないか。

本書では、「評価evaluation」という活動を価値(value)を引き出す(ex-)ための営みと捉えて、SDGs時代に求められる評価の在り方を検討している。

「不確実性のなかで多様な個人や集団が協働して持続可能な社会を構築することが求められる時代」であるSDGs時代の評価には、ふたつのシフトが求められる。

それらは、①評価をPDCAの「C」という一点でとらえる「点の視点」から、PDCAという一連の流れやそのサイクルの積み重ねという「線や面の視点」へのシフトと、②評価を与えられた指標に基づく測定と前提して「いかに測るべきか」(measurability)を問う姿勢から、そもそも評価したい/すべき価値は何なのかという大前提からの問い直し(evaluability)を前提とする姿勢へのシフトである。

本書の各章では、これらのシフトにかかる事例や、これらのシフトに関連する新たな評価理論を紹介している。

報告書籍(5)『SDGsを問い直す ポスト/ウィズ・コロナと人間の安全保障』

  • 発表者:野田真里(茨城大学)
  • 担当編集者:舟木和久(法律文化社)
  • 討論者:山形辰史(立命館アジア太平洋大学)

コメント・応答

SDGs(2016~2030年)の中間年にあたる2023年、SDGsを問い直す野心的研究として、人間の安全保障上の危機であるコロナ禍の教訓を踏まえ、ポスト/ウィズ・コロナを展望しています。

本書はSDGsの17目標に因んで17の論稿から構成されています。SDGsのゴールの達成状況の分析とともに、今回のコロナ禍によってもたらされた課題を2つの角度から分析しています。

1つは、「取り残される人々」やレジリエンス(強靭性、回復力)の観点です。もう1つは、「ポスト/ウィズ・コロナ」の観点です。

「取り残された人々」が具体的にどのような危機的状況におかれているのか、また、SDGsの観点からどのように取り組んでいくべきなのかを詳細に描いています。

本書では、これまでSDGsについて充分論じられてこなかったテーマ(高齢者、障害者等)やSDGsへの批判的観点を含めて、踏み込んだ検討を行っています。

また本書は国際開発学会員のSDGsに関する2016年からの2つの研究部会(「持続可能な開発とSDGs」、「開発のレジリエンスとSDGs」)の成果でもあり、多くの学会員が執筆しています。

【総括】

本ブックトークセッションでは会員による近刊5冊の書籍についての紹介が、著者および出版社の編集担当者よりなされ、出版に至ったきっかけや経緯、苦労等が共有された。

討論者からは、内容を踏まえての貴重なコメントが提供された。参加者は常時50名にのぼり、活発な質疑応答となった。

報告者:芦田明美(名古屋大学)

ポスター発表

  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 13:00(コアタイム11:45-12:45)
  • 2号館5階学生食堂
  1. [1R01] 僧院が担う新たな社会的包摂機能
    ―ブータン王国における仏教とウェルビーイング―

    *佐藤 美奈子(京都大学)
  2. [1R02] Space-Time Analysis of East-West Inequality of Economic Development and Digital Financial Inclusion: Province-level Evidence from China
    *Jiaqi LI(Nagoya University)
  3. [1R03] ミャンマーとバングラデシュにおける SDGsの達成状況
    ー目標1を中心にー
    *頼藤 瑠璃子、*エイチャン プイン(熊本学園大学)
  4. [1R04] ポストコロナにおけるスマートツーリズム:ヨーロッパとアジアの事例比較分析
    *ZHU Ningxin(立命館大学大学院)
  5. [1R05] 高校生は SDGsから何を考えイメージするのか~イメージマップテストを用いた分析~
    *坂根 咲花(関西学院大学大学院)
  6. [1R06] 気候変動の影響が武力紛争を招く社会の脆弱性条件
    *長野 貴斗(京都大学大学院)
  7. [1R07] ガーナにおける就学前教育が与えるスクールレディネスへの影響の分析
    *内山 かおり(神戸大学大学院)
  8. [1R08] Influence of Maternal Decision-Making on Children’ s Years of Schooling in Malawi
    *Yudai ISHII(Kobe University)
  9. [1R09] Analysis of Demand-Side and Supply-Side Factors on Learning Outcomes in Myanmar
    *Htet Myet Aung(Graduate School of International Cooperation Studies, Kobe University)
  10. [1R10] 地域 SDGsプロジェクト共創を促進するオープンソーシャルイノベーションプラットフォーム事業の実証研究 – 石川県金沢市 IMAGINE KANAZAWA2030パートナーズ事業の分析から-
    *津田 祐也1、*富田 揚子2 ( 無所属、2. 国連大学サステイナビリティ高等研究所)
  11. [1R11] An Assessment of Digital Competence of Freshmen at Top Ranked Public Universities in Bangladesh
    *Rakibul HASSAN(Kobe University)
  12. [1R12] Analysis of Parental Involvement and Secondary School Students’ Academic Achievement in Cambodia
    *SARA Thavrith(Kobe University)
  13. [1R13] 太平洋島嶼国パラオに見る開発の多元性
    ー援助ドナーとの相互依存関係と地域社会に着目してー
    *井川 摩耶(東京大学大学院)
  14. [1R14] Perception of Students with Disability on Inclusivity in Higher Educational Institutes of Bangladesh *Sheikh Rashid Bin ISLAM(Kobe University)
  15. [1R15] 発達障害のつくられ方−個性と障害の境界線をめぐる人々の認識と国際的診断基準のギャップ−
    *八郷 真理愛(横浜国立大学大学院)
  16. [1R16] An Analysis of the Factors Influencing Primary School Students Learning Achievements in Burundi
    *Deo KABANGA(Kobe University)
  17. [1R18] Analysis of Influence of Student and Family Factors on Learning Achievements in the Philippines.
    *Minghao Wang(Kobe Univ.)
  18. [1R17] An Analysis of Teacher Quality and Primary School Students’ Learning Achievement in Cambodia
    *Sreymech HOEUN(Kobe University)
  19. [1R19] フィリピンの若者が困難な状況を乗り越えるためのパターン・ランゲージの作成
    *金井 貴佳子、太田 深月、井庭 崇(慶應義塾大学)
  20. [1R20] バングラデシュにおける普遍的就学前教育政策下での就学前学校の種類の決定要因
    *宇野 耕平(神戸大学大学院国際協力研究科)
  21. [1R21] Assessment of community ICT access and connectivity for development of an intangible cultural heritage digital repository in Luang Prabang
    *Jerome SILLA1, Jun-ichi Takada2, Shinobu Yamaguchi1, Sengthong Lueyang3, Souvalith Phompadith3, Xaykone Phonesavath3 ( United Nations University, 2. Tokyo Institute of Technology, 3. Luang Prabang World Heritage Office)
  22. [1R22] グローバル企業経営戦略・ GVCMとの連携による産業発展に関する「発展経営論」試論
    *竹野 忠弘(名古屋工業大学)

その他

  • 一般口頭発表
  • 企画セッション
  • ラウンドテーブル
  • プレナリー、ブックトーク、ポスター発表



2023年度「国際開発学会賞」選考結果と受賞者からのことば

池田真也会員、杉江あい会員の2著書に、2023年度学会賞を授与

第34回全国大会(上智大学:2023年11月11・12日)において、池田真也会員の著書『商人が絆す市場―インドネシアの流通革命に交わる伝統的な農産物流通』(京都大学学術出版会)と、杉江あい会員の著書『カースト再考―バングラデシュのヒンドゥーとムスリム』(名古屋大学出版会)に奨励賞を授与しました。

今年度も本事業にたくさんの応募がありました。 その中で惜しくも受賞に至らなかったものの最終選考に残った作品としては、湖中真哉会員の編書Reconsidering Resilience in African Pastoralism (Trans Pacific Press, 2022)、 一柳智子会員の著書『社会的企業の挫折―途上国開発と持続的エンパワーメント―』(名古屋大学出版会2023)、杉田映理会員・新本万里子会員の編書『月経の人類学―女子生徒の「生理」と開発支援』(世界思想社2022)の3つがありました。

応募くださった皆様、誠にありがとうございます。選考委員一同、応募作から多くのことを学ばせていただきました。学会賞の趣旨は、会員の研究を励ますことにあります。会員の皆様には、ご自身の研究を、さらに磨き高めていくための機会として、ご活用いただけましたら幸いです。

賞選考委員会
委員長:三重野文晴(京都大学)


選評


奨励賞:池田真也

『商人が絆す市場―インドネシアの流通革命に交わる伝統的な農産物流通』(京都大学学術出版会 2022)

本作品は、インドネシアにおける農産物の生産・流通市場についての多角的な分析によって、農産物流通の変容と、そこにおける伝統的な取引慣行がどのように変容し、その機能をどのように変えてきたのかを考察するものである。

現地調査と個票データ分析という実証分析によって、スーパーマーケットを代表とした近代的な農産物流通システムの導入がインドネシア(ジャワ)の伝統的な農産物流通システムを完全に代替するのではなく、そうした環境変化の下で伝統的な流通システムの方も進化し、場合によっては近代的なシステムを補完っているという実態を明らかにしている。

本作品は課題設定が先行研究の中によく位置付けられている。ギアツに代表される人類学・農村研究的なインドネシア農村の伝統構造についての問題提起を踏まえ、それを実証的な農業経済研究によって解明するという研究スタンスは、多くの研究者が関心を持ちながらも容易には実現できずにきたものであり、その意味で大きな貢献をなしている。

各章のテーマと分析アプローチの統一性・統合性や、一部の分析において設問と分析結果・解釈の間の一貫性に不明確さが残るといった課題が残るにせよ、国際開発研究として新しい知見を提出していることは間違いない。長期にわたる現地調査を踏まえて完成された本書をもとに、著者が今後一層の活躍によって本学会に貢献してくれる期待をこめて奨励賞に選出された。(三重野文晴)

奨励賞:杉江あい

『カースト再考―バングラデシュのヒンドゥーとムスリム』(名古屋大学出版会 2023)

本書は、カーストを属性的に捉える還元主義を批判的に捉える立場から、バングラデッシュにおけるヒンドゥーとムスリムの関係性というテーマについて、農村の調査を通じて住民の交流や関係性の現状を明らかにしようとしている。

インド・南アジアのカースト制度に関わる膨大な既存研究を整理した上で、バングラデシュ人の家族をもつ著者のポジショナリティをうまく利用しながら、複数の村の全数調査という丹念なフィールド調査をおこなっている。

綿密で精度の高いデータから、複数の宗教的背景をもつ人びとが空間を共有する中で、人々は必ずしもカーストに規定された捉えられ方をしておらず、多様な相互行為が行われている実態を析出する。それによって、植民地主義的、還元主義的な見方を乗り越えようとする、良質の地域研究の成果である。

提示するデータの完成度に改善の余地があること、社会空間の変動と動態に目を向けるアプローチがポストモダニズム的解釈の視点を克服するという結論が若干不明確なことなど、いくつかの課題が残ってはいるが、本書が南アジア社会の研究において一石を投じるものであることは間違いなく、国際開発研究とその周辺分野への貢献は大変大きい。今後の一層の活躍への期待もこめて、奨励賞に選出された。(三重野文晴)


学会賞(奨励賞)受賞の言葉


奨励賞・池田真也

『商人が絆す市場―インドネシアの流通革命に交わる伝統的な農産物流通』(京都大学学術出版会 2022)

このたびは、国際開発学会奨励賞を頂戴し、誠に光栄に思います。選考委員の先生方、これまでご指導いただきました先生方に厚く御礼申し上げます。また、出版にあたりご尽力いただいた京都大学学術出版会の方々にも改めて御礼申し上げます。

この本では、インドネシア・ジャワ島の伝統的な野菜流通に着目してその発展経路を明らかにしようとしました。具体的には、新興国のインドネシアでは伝統的な流通が今後も残り続けるのか、それとも2000年代以降に台頭したスーパーマーケットが形成する近代的な流通に代替されるのかという問題です。2008年1月に初めてインドネシアを訪問して以来、生産地から消費地までの各地の商人を追って得た結果をまとめました。

その回答を簡潔にまとめれば、伝統的な流通はスーパーの台頭に適応して残り続けるとしました。具体例を1つ挙げると、スーパーが農作物を集荷する段階で、自ら集荷するのではなく地場商人に委託することが多いです。農家を監視・モニタリングする費用が高いので、それを地場商人が担っており、伝統的な流通と近代的な流通が補完的に機能していると言えます。

国際開発への直接的な貢献という点でこの本には不十分な点もあります。そうした反省もあって、ここ数年ほど野菜流通に関する技術協力プロジェクトに関わっています。開発の現場では、伝統的な流通の商人は農家を買い叩き搾取していると認識されることもあり、伝統的な流通を近代的な流通に代替させるための戦略が注目されがちです。

この本から言えることは、伝統的な流通を所与としたうえでの近代化戦略が必要ということになります。では具体的にどうすればいいのかという点を今開発の現場を視野に入れつつ考えています。

今回の受賞を励みとして、研究をさらに発展させていきたいと思います。今後とも皆様からのご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いいたします。このたびは、誠にありがとうございました。


奨励賞・杉江あい

『カースト再考―バングラデシュのヒンドゥーとムスリム』(名古屋大学出版会 2023)

このたびは国際開発学会奨励賞という栄誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。

賞をいただきました拙著は、調査に協力してくださったフィールドの方がた、指導してくださった先生方、度重なる改稿に根気強くお付き合いくださった出版社の方がた、そしていつも見守り、支えてくれる家族なしには出版できませんでした。

このたびの賞は、私だけでなく、本書に関わるこれらのすべての方がたにいただいたものと思っております。改めて心から感謝いたします。

拙著はフランスの社会地理学者であるアンリ・ルフェーヴルの理論的枠組みに拠っており、一見すると理屈っぽく見えるかもしれませんが、フィールドの現状をいかに理解できるのかを追究する中で生まれたものです。

私のもともとの関心は地域社会の実態から開発援助を捉え直すことにあります。拙著のもととなったバングラデシュ農村でのフィールドワークも、はじめはこの開発援助に対する関心から、はじめたものでした。

しかし、私がフィールドで目の当たりにしたのは、一部の集落の人びとだけが、近年の目覚ましい経済発展や社会開発から取り残され、多くの人が物乞いをして暮らし、近隣の村の人びとから差別されている状態でした。もともとの開発援助に対する関心にもとづく研究をする前に、まずはこのような状況がどのように生みだされたのかを明らかにしなければ、と思いました。

そして、この疑問に答えるには、従来の研究で使われてきたカーストという概念や、「ヒンドゥー社会」「ムスリム社会」という枠組みを再検討する必要がありました。未熟な私がそのような大仕事をするのはとても勇気がいることで、拙著は処刑台に乗せるような気持ちで出版したものです。それがこのような形で評価されたことは、望外の喜びです。

私の研究はまだまだ途上の段階にありますが、このたびの受賞を励みに、いっそう研鑽を積んでまいりたいと思います。ありがとうございました。




第34回全国大会「優秀ポスター発表賞」選考結果

第34回全国大会において、八郷真理愛会員に優秀ポスター発表賞を、佐藤美奈子会員と井川摩耶会員に優秀ポスター発表奨励賞を授与

第34回全国大会において、八郷真理愛会員(報告タイトル:発達障害のつくられ方-個性と障害の境界線をめぐる人々の認識と国際的診断基準のギャップ-)に優秀ポスター発表賞、佐藤美奈子会員(報告タイトル:僧院が担う新たな社会的包摂機能-ブータン王国における仏教とウェルビーイング-)と、井川摩耶会員(報告タイトル:太平洋島嶼国パラオに見る開発の多元性-援助ドナーとの相互依存関係と地域社会に着目して-)に優秀ポスター発表奨励賞を授与しました。

優秀ポスター発表賞

八郷真理愛 会員

『発達障害のつくられ方-個性と障害の境界線をめぐる人々の認識と国際的診断基準のギャップ-』

優秀ポスター発表 奨励賞

佐藤美奈子 会員

『僧院が担う新たな社会的包摂機能-ブータン王国における仏教とウェルビーイング-』

井川摩耶 会員

『太平洋島嶼国パラオに見る開発の多元性-援助ドナーとの相互依存関係と地域社会に着目して-』

今大会のポスターセッションでは、22件の意欲的な研究報告がありました。

大会の対面開催再開以降、報告者数は顕著に増加しています(2023年度春大会:17件、2022年度全国大会:9件)。報告内容は教育開発分野を中心に、幅広い分野からの発表で構成されました。

若手研究者に留まらず、大学教員、社会人会員の報告も多く、引き続きポスターセッションの裾野の広がりが感じられます。3人の受賞者は賞選考委員会による審査の結果、主題の独創性などが評価され、選出されました。

ポスター発表セッションの参加してくださった皆さま、誠にありがとうございました。

賞選考委員会
委員長 三重野文晴(京都大学)




2024年度第25回春季大会(宇都宮大学)開催のお知らせ

The 25th JASID Spring Conference

地域発! 国際協力と共創の実践
グローバル・グローカルな人材育成

Realizing International Cooperation and Interactive Co-creation in Local Context: Global & Glocal Human Resource Development
  • 日時:2024年6月15日(土曜)春季大会、16日(日曜)エクスカーション予定
  • 場所:宇都宮大学 峰キャンパス、足尾・宇都宮(予定)
  • 方式:対面(一部オンライン)

この度、上記の概要にて栃木県の宇都宮大学にて春季大会を開催します!

宇都宮大学では、教育・研究・地域貢献を有機的に活かした国内外における国際協力や共創にかかわるグローバル・グローカル人材育成を実践しており、プレナリーでもその一部をご紹介します。

また栃木県には、公害の原点ともいえる足尾銅山があり、国際開発を議論するにあたって伝えるべき日本の経験である公害について学ぶ場としてエクスカーションの訪問先として計画中です。

宇都宮(エクスカーションの可能性もあり)のLRTや餃子や、日光や那須などの栃木県内のご観光などもあわせて是非ご堪能ください。

第25回春季大会・実行委員会
委員長:阪本公美子(宇都宮大学)


スケジュール

  • 2月 1日:HP公開予定()
  • 2月 1日:発表申込開始予定
    [2月下旬:発表希望者の学会入会申請期限※]
  • 3月18 日:発表申込締め切り
  • 4月初旬:参加登録開始
  • 4月下旬:採否結果通知
  • 5月上旬:報告論文(ショートペーパー4頁、フルペーパー16頁)提出締め切り

発表申込要項

1)口頭発表・ポスター発表(日本語、英語)

  • 発表者は、会員であることが必要
学会入会申請・会費支払サイト:
  • 1名につき、1論文・1発表まで(ファーストオーサーとして)可
  • 提出論文はファーストオーサーではなく登壇をしない場合は2本の提出可
  • 共同研究者・共著者は学会員であることが望ましい
  • 学生会員は応募時に指導教員の推薦状が必要
  • 要旨は、A4 – 1枚、日本語の発表の場合は、日本語(400〜800字)で、英語の場合は英語(200〜300 Words)で作成すること
※ 発表者は、申し込み時点で会員であり、かつ会費を未納していないこと。なお、新規の会員申し込みをしてから学会として諾否を審議するのに2週間を要するため、申込期限の遅くとも2週間前には会員申し込みを完了していること。
※ また会費未納の方は、ご発表予定の場合、早めに納入の完了をお願いいたします。

2)企画セッション・ラウンドテーブル(日本語、英語)

  • どちらも代表者は、会員であることが必要
  • 代表者は、司会・コメンテーター・報告者・登壇者の了承を事前に得ること
  • 代表者以外は非会員の登壇も可能だが、学会への入会を強く推奨する

企画セッション:

各発表者の発表要旨に加え、企画全体のタイトル、趣旨や司会、コメンテーター、報告者等を要旨と合わせて1つのファイルにし、代表者が応募すること

ラウンドテーブル:

企画セッション同様、企画全体のタイトル、趣旨や登壇者を1つのファイルに取りまとめ、代表者が申し込むこと

発表申込

  • 申込期間:2024年2月1日~3月18日まで(予定)
  • 申込方法:大会ホームページ(近日申し込み用ページを公開予定)

国際開発学会・第25回春季大会実行委員会

実行委員長:

阪本公美子(宇都宮大学国際学部・教授)

事務局長:

  • 藤井広重(宇都宮大学国際学部・准教授)
  • 飯塚明子(宇都宮大学留学生国際交流センター・准教授)

実行委員:

  • Arjon Sugit(宇都宮大学国際学部・助教)
  • 重田康博(宇都宮大学国際学部・客員教授)
  • 松尾昌樹(宇都宮大学国際学部・教授)
  • 高橋若菜(宇都宮大学国際学部・教授)
  • 栗原俊輔(宇都宮大学国際学部・教授)
  • 丸山剛史(宇都宮大学教育学部・教授)
  • 大森玲子(宇都宮大学地域デザイン学部・教授)

学生実行委員:

  • 匂坂宏枝(宇都宮大学国際学研究科・博士課程)
  • 菊池翔(宇都宮大学地域創生科学研究科・博士前期課程)
  • 福原玲於奈(宇都宮大学地域創生科学研究科・博士前期課程)
  • Frimpong Andrew Charles(宇都宮大学地域創生科学研究科・博士前期課程)
  • Polgahagedara Don Pubudu Sanjeewa(宇都宮大学地域創生科学研究科・博士前期課程)

第25回春季大会にかんするお問い合わせ先

  • jasid2024spring [at] (* [at] の部分を@に修正してご使用ください)



企画運営委員会からのおしらせ(2024年2月)

企画運営委員会は、国でいえば、内閣官房のような存在です。つまり、学会活動を活性化し、よりよい研究交流を行うための方針や仕組みを企画立案したり、そのために必要な情報や知恵を集めたりするところです。また、各委員会(国の場合は省庁)が所管するほど業務が恒常的にまとまっていなくても、試験的に制度導入をすることもあります。

従来から、企画運営委員会では、研究部会・支部の申請受付や運営サポートを行ってきました。今12期では、研究部会・支部が裾野の広い学会員の参加と交流を従来にも増して促進するよう、規定や制度の見直しに着手しています。

また、企画運営委員会内の目的特化型の機動チームとして、合理的配慮ワーキンググループ(WG)と人材推薦WGが活動しています。合理的配慮WGは、山形辰史会員を中心に、障がいを持った会員の方の参加促進を担ってくれています。また、人材推薦WGは、伊東早苗会員を中心に、学術大会のセッション司会や国内外の外部組織との交流活動に学会を代表して関わる人材などを幅広く求め、依頼する役割を担っています。

このほか、学術大会での託児サービスのルール作りによって、子育て中の会員が研究発表を続けやすい環境を作ることも検討中です。

学会の魅力を上げ、多くの人が参加したくなるためのアイディアをお持ちの方は、企画運営委員会にお寄せください。

企画運営委員会
委員長:山田肖子(名古屋大学)




会長からの手紙(2023年2月)

第11期の2年目を振り返って

国際開発学会の皆様、こんにちは。今年も、昨年度と同じように学会活動の1年間を振り返ったハイライトをみなさんにお届けします。これは、各委員会の活動報告を行う総会にご参加いただけなかった会員のみなさんに対して、学会活動の要点をお知らせするものです。

昨年度の活動としてまずお伝えしたいのは、ロシアのウクライナ侵攻に対して学会として声明を発出し、日本と英語でHPに掲載したことです。学会として政治的な声明を出すことについては理事会の中でも賛否がございましたが、多くの皆様の賛同を得ることができたこと、そして何よりも、学会として世界のアクチュアルな問題への対応方法を常任理事の間で議論できたことが大きな収穫だったと思っています。今後も世界が難しい局面に入るごとに、学会としてどのように立ち居振る舞いをすべきなのか、議論してまいりたいと思います。


さて、第11期はvisible, inclusive, entertaining の旗印を掲げて、2年目を無事に終えることができました。総会を明治大学にて対面で実施できたことは何よりうれしいことでしたし、400名以上の参加登録があったことは、みなさんがこの大会を待ち望んでいたことの表れでもあると思います。発表の合間に廊下やホールで見かけたおしゃべりの環、学会賞受賞者のスピーチやそのあとの写真撮影と談笑、旧友との思いがけない再会など、対面開催ならではの偶発的な喜びに満ちた大会でした。実行委員長の島田剛先生とスタッフの皆様に改めて御礼申し上げます。

執行部の今年度の活動は、着手した活動をしっかりと定着させ、安定軌道に乗せることに力点をおきました。いくつか特筆すべき活動をあげるとすると、次のようなものがあります。

まず、Visibleについては、選挙管理委員会のイニシアチブにより、学生会員の主導によってYouTubeやツイッターの発信を実施しました。また、人材育成委員会では継続的に(学部生向け)論文コンテストを実施し、前年度より多くの10篇の応募をいただき、その中から3篇を学会誌に掲載しました。学部生の開拓は未来の開発研究者・実務者を育てるうえで大切な事業であります。

学会賞の方も、応募数が昨年度5件から、今年度13件と激増し、良質の作品を審査して3点に賞が出せたことは大きな成果でありました。社会連携委員会では、今年も外務省主催のグローバルフェスタにも出展し、「国際協力におけるキャリア形成」というセッションを設けて、若いみなさんを中心に100名の参加者を得ることができました。HPやメーリスを中心とする広報委員会の業務は、visibleであり続けるために重要な役割を果たしています。たとえば10月1ヶ月間のサイト全体のページ表示回数は約50,000回に上りました。

Inclusive については、まず地方展開委員会の活動をあげなくてはなりません。地方展開委員会では、2021年の全国大会、2022年の春季大会でラウンドテーブルセッション 「日本の地域から問い直す国際開発アジェンダ」 「日本の地域から問い直す国際開発アジェンダ(実践編)」 を企画し、 福岡、高知、岡山、岩手、秋田に拠点をおく学会員、地域づくりという関心を同じくする非学会員とのネットワーク構築に貢献しました。この委員会が縁となり、2022年春の福岡大会に続き、2023年春の秋田大会へと地方での学会開催の輪を広げることができました。

また、科研費(国際情報発信強化)を用いた特集号の編集体制の確立、原稿集め、査読、そして次号に向けた国際ワークショップ(@チュラロンコン大学)の段取りができたのも大きな成果でした。この科研費を利用した外国人会員のさらなる開拓、日本留学帰国組とのネットワーク化など、inclusive の範囲を海外に展開していきたいと考えています。

また、様々な障害をおもちの会員にできるだけ大会に参加してもらえるよう、ニーズの把握を務めたのもの今年の活動でした。次年度は、合理的な配慮に関するタスクフォースを設けて、アドホックではない配慮のあり方について議論し、その成果を実施したいと考えています。

最後にEntertaining については、引き続き学会誌の魅力を高めるための新たなデザインの検討を行いました。特に、次年度は英文特集号が加わる節目の年でもあります。表紙のデザインは会員の皆様に参加型で投票していただきました。3月には新しい表紙での最初の雑誌をお届けできると思います。どうかお楽しみに。


このほかにご報告すべき活動として、研究×実践委員会では2021年全国大会において、JICAが新たに推進しようとしている「クラスター・アプローチ」に対して研究者や委員会メンバーが意見を述べるラウンドテーブルを開催しました。この試みはJICA側からの評価も高く、その後2022年4月まで4回に渡って意見交換会を継続しました。こうした実務者と研究者との成熟した関係が構築できるようになったのは、両者が相まみえる「場」を本学会が長年提供し続けてきたことの帰結といえましょう。

こうした一連の事業を持続的なものにするためには、事務局が無理なく稼働できる体制が不可欠です。大会運営における特別ソフト confit の導入は、こうした省力化の努力の一環です。これらの着実な前進の背景には、多くの invisible な努力があります。各委員会の委員長や委員の皆さんはもちろんですが、事務局や広報委員会のスタッフは日常的な裏方として日々の業務をこなしてくれています。本当にありがとうございます。

明治大会でのプレナリーでは「グローバル危機にどう向き合うか―国際開発学の役割」と題して充実した議論を行いましたが、「危機と方向感覚」と題した私の講演に対する反応として、私の尊敬するあるシニアの会員から加藤周一の次のような引用が励ましの言葉と共に送られてきました。これは、加藤が1946年の雑誌『世代』(1946年3月号)に書いたエッセイの一部で、つい昨日まで好戦的だった日本の青年が良心の呵責もなく平和主義者に変わってしまうという日本青年の現状について書いている部分です。

「かなりの本を読み、相当洗練された感覚と論理を持ちながら、凡そ重大な歴史的社会的現象に対して新聞記事を繰り返す以外一片の批判もなしえない」

『世代』(1946年3月号)

論文を書くことは重要ですが、現実世界とのつながりに基づく方向感覚を失いたくないものです。学会は学問成果を取り交わすとこであると同時に、自分たちがどこに向かっているのかを確認する羅針盤のような機能を果たさなくてはいけないのかもしれません。引き続き、会員諸氏の叱咤激励をお願いする次第です。


第11期の最後となる2022年11月からの1年は、着手済みの変革をさらに開花させ、最終年にはさらによい報告ができるよう努力してまいります。会員の皆様の一層のご支援をお願いする次第です。

2023年1月
第11期会長 佐藤仁(東京大学)

Letter from the President
Reflecting on the Second Year as the 11th President




会長からの手紙(2023年11月)

あっという間の3年間でした。Visible, Inclusive, Entertaining をスローガンに、常任理事の皆さんと事務局スタッフに助けられながら、ここまで来られたことに感謝の気持ちで一杯です。

特に、任期前半の大会がすべてオンラインになってしまったために、Entertaining な側面を十分に展開できなかったことは心残りでした。それでもHPの全面改訂や学会管理システムの導入、学会誌のデザインとコンテンツの刷新、学部生論文コンテストの導入、若手による選管PR動画の配信、学会費の割引制度、学会としての科研費の獲得や英文ジャーナルの充実など、それなりに visible な成果を出すことができました。

「学会」と呼ばれる集団の多くが会員数を減らしている中で、どうにか会員数を維持できた背景には、3年会費未納で自動退会になりそうな人に声をかけて踏みとどまらせるという、きわめて地味な活動もありました。

どれほど visible な活動にも、このように、それを下支えしてくれた皆さんの invisible な貢献があります。日々の理事会の日程調整や議題の整理なども、事務局長、総務委員長をはじめとするスタッフの献身的な努力があったからこそ円滑に進められました。

とかくアイディア先行で、実施となると周りを振り回しがちな私をサポートし、着実に成果に結びつけてくれた常任理事、理事の皆様にも厚く御礼申し上げます。

これまでの大会実行委員の先生方、そして大会に参加してくれて活動を盛り上げてくださった会員のみなさんにも厚く御礼を申し上げます。

次の会長が山田肖子さんになったことは本当に喜ばしいことです。彼女は、大会組織委員長として大会のホスト校を口説くという、まさに invisible 仕事をやってきた学会の大黒柱です。

山田さんのつくる新しいチームの下、学会が新しい時代を切り開く推進力になることを祈って、私の退任のあいさつとさせていただきます。本当にありがとうございました!

2023年11月
第11期会長 佐藤仁(東京大学)




会長挨拶(2024年2月)

2023年11月の総会で12期会長を拝命しました名古屋大学の山田肖子と申します。

2026年総会まで、約3年間、皆様に気持ちよく、やりがいを持って関わっていただける学会になるよう、努めて参りたいと思っております。前任の佐藤仁会長をはじめ、この学会をこれまで作り上げてきた常任理事、理事経験者の礎と志を継ぎつつ、国際開発や学術を取り巻く今日の状況にみあった改革も進めていきたいと思っています。

今期の方針は

  1. 国際開発学の再定義
  2. 多様性からのシナジー
  3. ワクワクの創造

です。

まず1点目の “国際開発学の再定義” は、変化の節目を、この学問分野の発展に活かす発想です。

1990年に学会が設立されて30年以上が経ち、国際開発を取り巻く環境も大きく変わっています。今年(2023年)に改定された開発協力大綱をみると、援助国-被援助国の垂直的な関係が多極化し、開発の主要アクターとしての国家の在り方が揺らぐなか、日本社会でのODAの捉え方も大きく変わっていることが分かります。

また、持続可能な開発が標ぼうされ、「国際開発」が目指す人道的で公共の利益の実現についても、誰にとって何が望ましい状態なのかが一元的に語れなくなりました。昨今の地政学的な危機やコロナ禍を経て、「国際開発」が国内や先進国と切り離された途上国の課題だという発想も陳腐化しているように思われます。

そうした変化の局面で、研究がどんな役割を果たすのか、実務者と研究者が集うこの学会がどんな場になっていくのか、皆さんと一緒に創り、考えていけたらと思っています。

2点目の “多様性からのシナジー” は、学問分野や職業、属性の違いを尊重しながら、相乗効果を生むことです。

私自身は、この学会では初めての女性の会長です。しかし、性別に限らず、世界の様々な状況での人々と関わってきたこの学会の会員の皆さんは、きっと何かしらの属性においてマイノリティになった経験や、そうなる人々に関わったことがあるでしょう。他者との違いをいかに尊重するかは、国や社会の違いを超えて国際開発学の本質を問う姿勢にもつながると思います。学問の再定義をするためには、まず我々の活動の場である大会や研究部会、学会誌などが、多様性から前向きな化学反応を生む場でありたいと思います。

12期では、障がいを持った学会員への合理的配慮を進めるべく、以前から準備を進めていた山形辰史元会長をはじめとするメンバーが、ワーキンググループを立ち上げています。

また、研究面では、学際的なこの学会にふさわしく、様々なディシプリン、研究テーマ、手法、研究対象地域、所属機関の人々が、いつも同じ顔ぶれとだけ交流するのでなく、越境し、協働してくことが重要です。

どうすればそのようなシナジーが生まれるのか。それは、まずこの学会が、会員の皆さんにとって、「あそこに行けば、いつもとは違う学問的刺激がもらえる、新しい発想が得られる、面白い人に出会える」、そういう期待感を抱き、しかもそれを裏切らない経験をできる場になることだと思います。

ですから、この3年間、私を含め、12期の役員たちは、ここをワクワクする場にするために全力を尽くしたいと思います。

学術大会が、その開催を引き受けてくれる開催校にとって、作業負担の多さに圧倒されるのでなく、自分たちならではの魅力や研究、地域社会との関わりなどを発信できる機会となるよう、サポートしていきます。

また、良い研究をしている若手や、国際開発学会では従来あまり紹介されてこなかったような分野やその研究者にも注目が当たるよう、学会賞、学生論文コンクールなどを選考に注力するとともに、広報メディアを通じた受賞者の紹介や学会内外の活動への参加奨励なども進めたいと思います。

萌芽的、実験的な研究アイディアを持った会員が本学会の研究部会を立ち上げ、学術大会での企画セッションや学会誌での論文発表につながるような道筋も積極的に示していきたいと思っています。

学会で既に活動している人だけでなく、国際開発や地域の開発課題に取り組んでいる潜在的な関心層にリーチしていくイベントや仕組みも検討しています。

こうした盛りだくさんの活動をどこまで実現できるか?それは、我々役員自身がその活動を楽しみ、それが会員の皆さんにどこまで伝播していくかに依るかもしれません。

学会の運営は大いなるボランティアである、と佐藤前会長がよく言っておられました。我々は、直接的対価のためではなく、自分たちを育ててくれたこの学会が、今後も会員にとって自らの研究を発信し、先輩や他の会員からコメントをもらったり意見を交わしたりする中で成長する場であり続けるために貢献したいという思いでやっています。

会員の皆さんにワクワクしてもらう場をつくるために、まず我々役員が、「次は何をしよう、こうなったらもっといいんじゃないか?」と提案し、アクションを取る、そんな12期でありたいと思います。そしてそんな役員に対して、会員の皆さんからもアイディアを寄せていただければ幸いです。

第12期国際開発学会
会長 山田 肖子




第33回全国大会を終えて

多くの先生方の協力を得て、第33回全国大会を明治大学において実施することができました(対面とオンラインを併せた参加者総数431名)。ご協力いただいた先生方、ご参加いただいた皆さまにこの場を借りて感謝申し上げたいと思います。

対面とオンラインの両方で対応できるように準備しましたが、当日、複数のアルバイト学生が濃厚接触者になるなどして勤務できなくなるなど、予想以上に大変で十分に対応できていない部分があったのではないかと思います。それにもかかわらず温かい言葉をかけていただいた先生方の言葉は胸にしみました。ありがとうございます。

課題などについては今後の大会実行委員会に引き継ぎ活かしていきたいと思います。ご協力いただいた先生方、大学院生の皆さん、本当にありがとうございました。

第33回全国大会・実行委員会
委員長:島田剛(明治大学)


A. 一般口頭発表

B. 企画セッション

C. ラウンドテーブル

D. ブックトーク、プレナリーほか




第34回全国大会セッション報告(一般口頭発表)

一般口頭発表


1C:教育(日本語)

  • 座長:小川 啓一(神戸大学) 
  • コメンテーター:坂上 勝基(神戸大学)、黒田 一雄(早稲田大学)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-B104 (紀尾井坂ビルB104)
  • 聴講人数:32名

第1発表:[1C01] ケニア農村部の初等教育の公正性と包摂性―公立と私立の二項対立分析の再考

西村 幹子(国際基督教大学)

西村会員は、ケニア農村部の初等教育において、それぞれの学校を率いる校長やシニア教員が公正性や包摂性をどのように捉えているかについて発表した。

学校の公正性と包摂性は、校長や教員の背景にある考え方や経験、マサイ族の文化、地域との関係性に依っており、必ずしも私立校、公立校という二項対立軸で捉えられるものではないことを明らかにした。

これに対して、コメンテーターの黒田会員から、私立-公立という二項対立軸ではなく、それぞれの学校運営を支えるコミュニティや民族の文化、校長や教員のこれまでの経験に関するインタビュー調査の分析に基づく、本発表のユニークネスについての評価がなされた。

第2発表:[1C02] 授業形態別にみた教育効果の検証:バリ島における環境教育を事例に

栗田 匡相(関西学院大学)

第二発表では栗田会員から、バリ島における環境教育を事例にして、授業形態別による教育効果の差について検証した研究成果の報告が行われた。

座学のみと比べて、地域における体験型の環境学習を組み合わせた形態によって授業を提供する方が、教育効果が中長期間継続することを示した。

これに対し、コメンテーターの坂上会員は、環境教育の効果を実証した本研究のSDGs時代における重要性を強調した上で、対照群と処置群の選定方法について確認する質問を行った。

また、環境問題に関する児童の認知能力向上のみならず、介入が環境保全状況の改善に与える効果まで検討する、今後の研究の展開の可能性についての指摘がなされた。

第3発表:[1C03] 現状に見るミャンマー連邦共和国の基礎・高等教育の課題 

牟田 博光(国際開発センター)

第三発表で牟田会員は、新型コロナウイルスと軍事政権の成立という二重のショックを受けたミャンマー連邦共和国の基礎・高等教育における現状と課題について、発表した。

教員研修の重要性、学力低下の危惧、人的資源蓄積の滞り、混乱収束後の課題が示された。

これに対して、コメンテーターの黒田会員は、日本が長年援助してきたミャンマーにおいて、教育システムが不安定になっている状況について言及した。

また、本発表で使用されたデータの貴重性を強調した上で、今後学術論文として世に公開されることへの期待を述べられた。

第4発表:[1C04] コートジボワールの初等教育における非認知能力の視点からみた教育の質

小松 勇輝(大阪大学大学院)

第四発表では小松会員から、コートジボワールの初等学校に通う児童の非認知能力、特に自己効力感と教育の質に関する報告がなされた。

学校内の児童-教師間のインタラクションと職業教育における徒弟制が、児童の自己効力感の涵養プロセスに関与していることが、主に参与観察を用いた長期間のフィールド調査によって明らかになった。

これに対してコメンテーターの坂上会員は、初等教育を対象とする研究の中で、公立校とインフォーマルセクターである職業教育の事例のみ取り出して、並列にして分析をすることの妥当性について質問した。

また、学術的蓄積が比較的乏しい西アフリカにおける、本研究の意義の大きさについても言及した。

【総括】

本セッションでは、ケニア、インドネシア、ミャンマー、コートジボワールにおける教育の現状や課題、最新の動向についての研究成果が報告された。

コメンテーターからのコメント・質問はもとより、フロアからも積極的に質問やコメントが挙がり活発な議論が行われ、発表者・参加者の双方にとって有意義なセッションとなった。

報告者:小川 啓一(神戸大学)

1D:若者と雇用(日本語)

  • 座長:吉田 和浩(広島大学) 
  • コメンテーター:狩野 剛(金沢工業大学)、谷口 京子(広島大学)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:00
  • 会場:紀-B108 (紀尾井坂ビルB108)
  • 聴講人数:00名
  1. [1D01] ウガンダにおける社会的遺児の強いられた自立と職業訓練
    *朴 聖恩(京都大学大学院)
  2. [1D02] アフリカによるアフリカのための研修-ケニアの気候変動の脅威に対する第三国研修の実施を通じたサブサハラアフリカ諸国への貢献-
    *本庄 由紀(ケニア国技術協力プロジェクト)
  3. [1D03] ケニアにおけるコンピテンシーにもとづくカリキュラム改革-導入の背景と新たな課題-
    *大塲 麻代(帝京大学)

【総括】

報告者:吉田 和浩(広島大学)

1E:経済(日本語)

  • 座長:西浦 昭雄(創価大学) 
  • コメンテーター:山形 辰史(立命館アジア太平洋大学)、會田 剛史(一橋大学)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:00
  • 会場:紀-B112 (紀尾井坂ビルB112)
  • 聴講人数:16名

第1発表:[1E01] 中国における地域の教育格差: CHFSに基づくジニ係数の分解分析

李 鋒(中央大学大学院)

コメンテーターの會田会員より、質の高い研究であり、都市・農村内の教育格差が都市と農村間の教育格差より大きいことを示した点がユニークである一方で、①どのような仮説を検証したいのか、なぜそれが重要なのか、先行研究の中でどのような貢献があるのか、といった研究課題を明らかにすべき点、②都市・農村内での教育格差が拡大した理由まで掘り下げる点、③2014年度の制度改革による教育格差の是正に関する効果を分析する点、のコメントがあった。

これに対して、李会員より、先行研究では都市に住んでいる農村出身の人々の格差までは計測できていないと回答した。

フロアからの質疑応答では、修学年数をジニ係数で計測した先行研究の存在や格差を示す値の目安、農村戸籍から都市戸籍にコンバージョンするプロセスについての質問があった。

第2発表:[1E02] 生成系 AIの勃興がもたらす開発途上国への影響の考察:機会と脅威

内藤 智之(神戸情報大学院大学)

コメンテーターの山形会員より、生成系AIがアフリカの労働者・農民にとって脅威なのか、それとも機会なのかという議論を経済学の代替性と補完性に分けて考えると、新技術が一般的労働者の補完的になったバングラデシュ縫製業による事例からも、一般的労働力(非熟練労働)が生成系AIによって補完的になることがアフリカ貧困削減につながることになるとのコメントがあった。

これに対し、内藤会員からは、過去のインターネットの経験から考察すると、アフリカの雇用とAIをトレードオフではなく、ポジティブな関係だと捉えていること、補完的になれるよう今後の20年を考えるための政策提言を考えていきたい、そのため農業の中では小作農のリテラシー教育が重要性をもつのではないかと、いう回答があった。

次にフロアより、大規模言語モデルではマイナー言語の蓄積が少なくなるので言語による格差が広がるのではないかという質問があった。

第3発表:[1E03] 農産品サプライチェーンにおける多様な連帯:グローバルノースとグローバルサウスの歯車

楊 殿閣(ソリダリダード・ジャパン)

コメンテーターの山形会員より、発表では社会的連帯経済を形成するために、インドネシアのパーム油とインドのコットンを事例に国際NGOであるソリダリダードの役割について考察しているが、その役割は研究や技術協力であり、買い付けや販売組織をもっているわけではなく、ユニリーバやサラヤといった買い付けを行う企業にとってソリダリダードはどのように評価されているかを視点に加えていくべきではないかというコメントがあった。

これに対し、楊会員より、植物油を使用する企業は人権や環境保護の観点からサプライヤーとの関係に注力しているが、農業生産を専門にしているわけではないため、農業が持続可能性を保つために小農、農法支援の面で市民社会と企業のパートナーシップをとる事例が増えているとの回答があった。

フロアからの、消費者の行動変容の視点、現地政府主導の認証システム、開発途上国発の加工企業の場合のグローバルノースとグローバルサウスの立て分けについてのコメント・質問があった。

【総括】

経済分野のセッションとして、中国の都市・農村の教育格差、生成系AIによるアフリカ雇用への影響、グローバルノースとサウスの社会的連帯経済の形成など広い観点から発表され、活発なコメントならびに質疑応答があった。

そこでは国際開発を考える上での新しい視点が多く提起されるなど、有意義なセッションであったと総括できる。このセッションを萌芽としてこれらの議論が発展することを願っている。

報告者:西浦 昭雄(創価大学)

1H:水と衛生(日本語)

  • 座長:杉田 映理(大阪大学) 
  • コメンテーター:西野 桂子(関西学院大学)、緒方 隆二(国際協力機構)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-108 (紀尾井坂ビル108)
  • 聴講人数:20名

第1発表:[1H01] バングラデシュ南西沿岸部における世帯単位の給水サービスの可能性-ポンド・サンド・フィルターと逆浸透膜給水装置の比較から-

山田 翔太(立教大学)

バングラデシュ沿岸部の水源管理および支払い意思に関しての研究であり、今後の現場での国際協力の方法を考える際に有用な研究発表であった。その点を評価したうえで、コメンテーターからは次のコメントがあった。

1)給水施設の区分に関して、公共の水源(コミュニティ型水源)、個人単位で設置や運営できる水源、ビジネスを通じた給水サービスの3区分に分けるべきではないか?また、その上で先行研究をもとにそれぞれの長所、短所をまとめると分かり易い。

2)結論に関して、一般化しすぎているようにも見える。例えば、PSFでもうまくいっている事例もあるはずであり、ビジネスを通じたサービスでもうまくいっていない事例もあるのではないか(もしくは収入によって支払い意思が低い層の存在もあるだろう)。

3)コミュニティ型水源にもPSF以外に深井戸や小規模水道もあり、今回の1カ所のPSFを通じた調査結果や教訓をすべての公共の水源に適用できるかは疑問が残る。

第2発表:[1H02] 住民は手押しポンプをどのように用いるのかーモザンビーク北部農村における水源の多様性と季節性に着目してー

近藤 加奈子(京都大学大学院)

コメンテーターからは、モザンビーク農村住民の複数水源の利用状況、季節による水源利用の違いを明らかにしようとしている興味深い研究であったと評価された。

一方で、次の点が指摘された。分析の方法を多少改良する必要があること。まず、いくつかの種類の水源を調査対象としているが、水源の客観的なカテゴリーを明らかにした上で比較検討する必要がある(JMPによるカテゴライズ:Improved or Unimproved もしくはSafely managed, Basic, Limited, Unimproved)。

住民が複数の水源を使う場合は、水源によって使い方(例えば飲料用、料理用、その他)が異なるはずであり、データがあれば具体的使い方も含めて分析すべきではないか。また、提言は具体的な例を入れた方が良い(従来の水源の改良が望ましい→例えばどのような改良?)。

さらに、用語に関しても、「手押しポンプ」→「深井戸」もしくは「手押しポンプ式深井戸」、水源は「メイン、サブ」ではなく、「飲料用、料理用、その他」で分けた方が良いのではとの助言があった。

第3発表:[1H03] ベトナム農村部における浄水需要:個別家庭型アプローチの有効性

黒川 基裕(高崎経済大学)

コメンテーターから、ヒ素除去が可能となる小型浄水ボトルの商品企画・開発」を通じて、ハノイ近郊農家のヒ素問題が解決できるかの実証実験を試みた意欲的な研究であると評価したいこと、また、援助ではなく、BOPビジネスを検討している点が経済発展が著しいベトナムに適していると考えられることが示された。

サブスクリプション形式とし、ラテライトのフィルターを回収するところまで寛がられており、今後に対して示唆が多いとのコメントもフロアからもあった。

第4発表:[1H04] 市民参加と情報公開を通じた統合水資源管理、環境管理分野の協力アプローチの可能性

大塚 高弘(独立行政法人国際協力機構)

「参加型の取り組みを効果的に活用する協力アプローチとは?」という問い、すなわち、「JICA・カウンターパート・住民(社会)の三方よしの協力アプローチが作れないか?」という問いに対する実践的な研究であるとコメンテーターから評価された。

また、行政から市民への情報公開の重要性は明らかである一方、タイとボリビアの2案件において参加のはしごの参加のレベルをどのように評価できるのか、質疑応答がなされた。

【総括】

個人発表枠で「水と衛生」というセッションが組めたのは、国際開発学会では久しぶりであり、非常に中身の濃い、有益なセッションとなった。

安全な水の確保を目的としながら、給水のしくみとしは、ポンド・サンド・フィルター、逆浸透膜給水装置、手押しポンプ付き深井戸、小型浄水ボトルと多様であり、水分野研究の奥行きを示すセッションであった。

また、すべての発表に共通して、住民が、それぞれの活動にどのように参加する(サブスクも含め)のかが議論されており、重要課題であることが確認された。

報告者:杉田 映理(大阪大学)

1L:海洋文化・先住民族(日本語)

  • 座長:関根 久雄(筑波大学) 
  • コメンテーター:佐藤 敦郎(九州大学)、東方 孝之(アジア経済研究所)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:00
  • 会場:紀-404 (紀尾井坂ビル404)
  • 聴講人数:13名

第1発表:[1L01] 開発に直面する先住民族の協議・ FPICに関する国際比較研究プロジェクトの構想

寺内 大左(筑波大学)
小坂田 裕子(中央大学)
深山 直子(東京都立大学)

コメンテーターから、インドネシアの一民族であるダヤックを事例として取り上げた分析からはどの程度の一般化が可能なのか、多民族国家インドネシアに注目することにより分析を拡張できる可能性、そして地方政府の特徴に注意する必要性、といった指摘や質問があった。

これらに対して、事例研究としてダヤックに注目する(インドネシアの代表例として位置付けることは重視していない)ことや、アクターとしての地方政府についても注目する予定であることなどの回答があった。

また、「国連宣言の中には『継続的な協議』という文言がなく、FPICにおける『同意』が『契約』に近いことから、将来、予想外の悪影響が生じても『同意』が縛りとなり、先住民族に悪影響を強いる危険性がある」という発表内容について、フロアから国連宣言やFree Prior and Informed Consent((FRIC)の中に”Continuous”という文言を加える方法は取れないのか、という質問があり、それに対して、すでに採択された文言なに改良を行うことは非現実的であり、目の前で生じている事態に対する短期的・即効的な方策を考える必要がある、という応答があった。

第2発表:[1L02] コミュニティベース海洋環境教材の国際ネットワーク化に関する研究

小林 かおり(椙山女学園大学)

里海とは人が環境にアクセスすることであり、利活用が必然だとすれば、ゴミの海洋投棄は必要悪とも言える現象ではないのか。

「そういうもの」という発想に立脚して里海のあり方、環境教育のあり方、漂着ゴミ問題を考えることはできないか、という質問に対し、自然と人間との関係性の観点からそういう見方はありうるが、現状はすでに必要悪の次元を超えていて、改善すべき課題として直視しなければならないところまで来ており、その意味からも環境教育の必要性は待ったなしの状態にある、という趣旨の応答があった。

また、「海外と日本」の海洋環境教育といった具合に対象を二項対立的に捉えているのではないかという質問があり、それに対し、「先行研究において(海洋に限らず)環境保護は欧米と日本の捉え方は異なっていて二項対立的に捉えられ書かれる傾向があるものの、海洋環境教材はそのような発想で書かれているわけではない。

なぜなら、台湾の場合も日本と同様に「海洋環境の持続可能性」に焦点を当てた海洋環境教材が主流であるから」という回答であった。

第3発表:[1L03] 諫早湾干拓の開発史

松原 直輝(東京大学)

発表者が諫早湾干拓事業に関して、官の役割に着目していることに対して、コメンテーターは、事業主体としては官ではあるが、その中にも公共の論理と民間の論理が混在しているとの問題意識から、漁民、農民(半農半漁)、自然環境保護活動家、ディベロッパー、国(食糧増産、防災)、裁判所の立場で公共と民間の論理を指摘した。

また、歴史分析の反実仮想的な発想から、干拓事業を見るとどのように考えられるか、質問した。

コメントに対して、発表者からは、公共の論理と民間の論理について、前者について時代を越えて一貫したものが存在せず、後者が前者の中に吸収されている印象があること、また、反実仮想的な発想からの分析は今後の課題である、という回答があった。

また、諫早湾の事例について、第2発表者に対するものと同様に、発表者は「行政/市民」と二項対立的に対象を捉えているのではないかという質問が出されたが、過去の事例を踏まえると二項対立的に解釈せざるを得ない、という応答であった。

【総括】

3事例ともに外的要因に基づく開発行為が当該地域住民の暮らしに重大な影響を及ぼし、かつ彼らの生活域内における自然環境と地域住民との関係のあり方に懸念が生じたり、その関係性のあり方に変更を迫ったりするような事態を対象にした研究であった。

いずれも発表者の視点は地域住民の側に注目し、微視的に対象を捉えながら、自然環境と住民を取り巻くマクロな動きとミクロの現実との接合を試みる意欲的な研究内容であった。

報告者:関根 久雄(筑波大学)

1M:Development theory and practice (English)

  • 座長:新海 尚子(津田塾大学) 
  • コメンテーター:後藤 健太(関西大学)、島田 剛(明治大学)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 12:00
  • 会場:紀-407 (紀尾井坂ビル407)
  • 聴講人数:00名
  1. [1M01] Dragon Rouge Redux: Assessing China’s Economic Hegemony in Cambodia
    *Toufic SARIEDDINE(Nagoya University)
  2. [1M02] CDMモデルから考察した途上国におけるイノベーションと外資系企業の役割ーベトナムの製造業企業を事例に
    *TranThi Hue(神戸女子大学)
  3. [1M03] Digital Currency and Development: Exploring the Potential Contribution and Challenges of Central Bank Digital Currency, “ Bakong,” for Development in Cambodia
    *Hisako KOBAYASHI(Oriental Consultants Global Co., Ltd.)
  4. [1M04] The Role of Private Sector toward Poverty Reduction – Analysis of Case Study in India –
    *伊波 浩美(JDI)
  5. [1M05] Regional decline and structural change in Northeast China: An exploratory space-time approach
    *Chen Yilin(Nagoya University, Graduate School of International Development)

【総括】

報告者:新海 尚子(津田塾大学)

1N:オンライン(日本語)

  • 座長:高柳 彰夫(フェリス女学院大学)
  • コメンテーター:戸田 隆夫(明治大学)、高橋 基樹(京都大学)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 12:00
  • 会場:紀-409 (紀尾井坂ビル409)
  • 聴講人数:00名
  1. [1N01] インドネシア・リアウ州における泥炭火災予防:現状・課題・対応案 *久保 英之1、Albar Israr2、Kurniawan Anung 2 (1. JICA専門家、2. インドネシア国環境林業省)
  2. [1N02] ASEAN諸国におけるデジタル経済促進分析:課題と戦略
    *原 正敏1、*橋 徹2 (1. ビジネス・ブレークスルー大学大学院、2. 早稲田大学)
  3. [1N03] 障害者権利条約に基づく国際協力を巡る論点及び概念整理の課題に関する一考察一各国への総括所見及び建設的対話の分析から
    *福地 健太郎(国際協力機構)
  4. [1N04] 島嶼は日本の縮図たるか?——離島及び日本における水・エネルギーの対外依存状況に着目した一考察
    *關谷 武司1、*吉田 夏帆2、*芦田 明美3 (1. 関西学院大学、2. 兵庫教育大学、3. 名古屋大学)
  5. [1N05] エジプト日本科学技術大学における教育研究機器導入、および活用プログラム開発
    *松下 慶寿(エジプト日本科学技術大学)

【総括】

報告者:高柳 彰夫(フェリス女学院大学)

1O:援助機関と現場(日本語)

  • 座長:林 薫(グローバル・ラーニング・サポート・コンサルタンツ代表/元文教大学教授)
  • コメンテーター:小林 誉明(横浜国立大学)、志賀 裕朗(横浜国立大学)
  • 2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:00
  • 会場:紀-412 (紀尾井坂ビル412)
  • 聴講人数:20名

第1発表:[1O01] 日本の政府開発援助の効率性とコンサルタントの関係

*大須賀 誠(法政大学大学院 公共政策研究科 博士後期課程)

本報告は日本のODA の技術協力に関して、ODA 大綱の変遷、経済団体と政府の関与、援助体制とコンサルタントの役割などについて概観し、日本の援助実施体制が欧米に比較して弱体であること、このギャップを埋めているのがコンサルタントであるが、ODA予算の減少によって、コンサルタントの雇用が減少したり単価が引き下げられたりしていることなどが、ODAの実施体制を更に困難に陥れていることを説明しようとした報告である。

報告ではコンサルタントは相手国の要望に合わせた機材を国際的な経験によって把握しているので、助言や専門的知識を提供することで技術協力が効果的に推進できるであろうが、残念ながら、コンサルタントの知見が政策立案に十分反映される条件になっているとは言えない。

さらに、個々のコンサルタントの処遇も十分ではなく、何らかの育成策が必要であると結論づけている。

本報告に対しては、「日本のODAの効率性とコンサルタントの関係」がリサーチ・クエスチョンであり「コンサルタントを活用すること」がその答えなのだとすると、新聞報道、ODA大綱、経済団体の要望書、日本の援助体制の未整備(職員数の少なさ)はエビデンスとして不十分ではないかという疑問が提起された。

むしろ、人数で「効率性」を測っているのであるとすれば、現在すでに日本のODAは極めて効率的と判断することもできるわけであるから、そもそもODAの効率性とは何かという概念定義からしっかりと行う必要がある点も指摘された。

座長からも、ODAの規模の指標として予算額は必ずしも適切ではなく、事業規模も見るべきであること、コンサルタントの雇用形態や役割は多様であり、さらなる分析と考察が必要であることを指摘した。

第2発表:[1O02] バングラデシュ郡自治体円借款事業によるガバナンス改善:ガバナンス借款の可能性

*宗像 朗1、*杉山 卓2 (1. 独立行政法人国際協力機構、2.株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング)

本報告は、バングラデシュの郡自治体借款事業(UGDP)1を事例にガバナンス借款の可能性を検討したものである。

この事業では①バングラデシュ全郡(約500 郡)を対象に実施した行政評価、②行政評価に基づいた開発資金の郡への供与、③研修とファシリテーターによる基本行政実施支援、の三つを柱にする約147 億円の円借款事業である。

このPDCAとインセンティブを組み合わせた仕組みにより、群自治体関係者のオーナーシップが高まり、説明責任の向上や適正な手続きの確保など実際にガバナンス改善が見られたとし、ガバナンス借款には大きな可能性があるとした報告である。

本報告に対しては、円借款によって全国的・広域的にガバナンス改革を促進する可能性を検討した興味深い論考であること、またその経緯を丹念に記録しデータを採った上でシンプルな記述統計を使って効果の発現を示した実証分析であることから、極めて高い評価がなされた。

一方、「日本の援助機関によるバングラデシュという特定の国に対する一事例」の紹介(アネクドート)にとどまっている嫌いがあるため、比較事例研究とするなどして、一国事例を超えた普遍的な教訓を引き出すことを検討してほしいとのコメントがなされた。

座長からは、これは日本の国際協力におけるプログラム支援の成功例であり、円借款という資金規模が大きい仕組みを使って全国をカバーできたことが、指摘されたような効果を生んだと考えられ、特筆すべきであるが、ガバナンス改善効果についてはより客観的なデータで評価する必要があること、インパクト評価を実施すれば教訓を一般化できることなどを指摘した。

第3発表:[1O03] 技術協力プロジェクトにおける効果的な実施・監理手法に関する考察~パキスタン国パンジャブ州上下水道管理能力強化プロジェクト(フェーズ1、フェーズ2)の事例における非技術的要素の検討~

*佐藤 伸幸(日本テクノ株式会社)

本報告は、技術協力のプロジェクト・マネジメントの一要素としてペタゴジー(Pedagogy;子供を教える技術と科学)に対するアンドラゴジー(Andragogy:成人の学習を援助する技術と科学)に焦点を当てた。

前者では知識を教えることに重点が置かれるが、後者では気づきと学びが重要である。

アンドラゴジーの要素を検討の結果、報告では、効果的なプロジェクト・マネジメントは、①どのような考え方でプロジェクトのカウンター・パートに対応してゆくのか、② どのような視点・問題意識とプロセスで協力を進めてゆくのか、③技術協力専門家の役割と立ち位置はどのようなものかの3点が重要であると結論づけた。

本報告に対しては、技術協力プロジェクトの成功要因の概念化に取り組んだ興味深い論考であり、見えにくく注目されにくい「非技術的要素」にも光を当てている点は意義深いとの評価がなされた。

そして、単一事例研究に終わらせずにより広い普遍的なrelevanceを持つものに発展させるためには、他国・他機関の事例との比較研究を行って理論的な精緻化を進めてほしいとの提案がなされた。

その一方で、「アンドラゴジー」という概念の有効性を証明するための事例分析をしているようなきらいがみられるため、既存のドグマに囚われすぎる必要はなく、むしろ現場の経験に基づいて既往理論に修正を加えるくらいの姿勢があっても良いのではないかという指摘もなされた。

座長からは、教育で「気づきと学び」を重視するアプローチは、現在ではアクティブ・ラーニングのように小中学校の学習でも重視されるようになってきており、ペダゴジーとアンドラゴジーの対比はやや古いパラダイムになりつつあるのではないかという指摘を行った。

【総括】

総じて、本セッションはODAを通じた人材育成の重要性に焦点が当てられ、その最適な手法についての議論が行われたセッションになった。

日本のODAの強みは人材育成であり、これが日本の国際的な役割として重要であること、ODA政策において人材育成がもっと重視されるべきであることを座長から指摘して、セッションを終わった。

報告者:林 薫(グローバル・ラーニング・サポート・コンサルタンツ代表/元文教大学教授)

2L:Health, gender, family (English)

  • 座長:松山 章子(津田塾大学)
  • コメンテーター:高松 香奈(国際基督教大学)、宇井 志緒利(明治学院大学)
  • 2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-404 (紀尾井坂ビル404)
  • 聴講人数:20名

第1発表:[2L01] Scalable and Sustainable Adaptive Solutions to COVID-19 Disruptions in Family Planning (FP) Health Service Delivery in the Philippines

Leslie Advincula LOPEZ
Jessica Sandra Claudio
Haraya Marikit Mendoza
(Ateneo de Manila University)

The presentation was on a policy advocacy-oriented research on family planning health service delivery in the Philippines based on the experiences during the COVID-19 pandemic. Dr. Shiori Ui, the discussant, acknowledged its academic and practical significance in flexibility and innovative adaptation experiences of the project activities during normal time which can be utilized for the pandemic time. She, however, raised some important inquiries including the needs of detailed analysis of BARMM (Bangsamoro Autonomous Region in Muslim Mindanao). She also emphasized the importance of further analysis on its role of the identified Health Care Provider Network. Exploring how it contributes to UHC (Universal Health Care) would be very much insightful for us.

第2発表:[2L02] Caring through a Pandemic: Filipino transnational families’ survival of disrupted mobility during the COVID-19 crisis

Derrace Garfield MCCALLUM(Aichi University)

The presentation was on the study exploring the impact of digital technology on Filipino transnational families, focusing on how ICT (Information and Communication Technology) ’s influence the (re)creation and maintenance of family bonds during the COVID-19 pandemic. The discussant, Dr. Kana Takamatsu, appreciated that the paper was convincing and well organized. Acknowledging its nique feature which challenged the existing notion, she inquired some important methodological and analytical approaches. She asked if the results would be different by age and gender. It was also pointed out by her the term, “care”, should be clarified and defined since care is an ambiguous word, could mean emotional and/or financial spheres. Moreover, she raised interesting question that intimate relationships of ICTs could become possible “possessive relationship”.

第3発表:[2L03] Gender dimensions of the world of work under crises: Trends and challenges

Naoko OTOBE

The presenter reported, using the existing panel data of world of work, how these multiple crises have impacted women and men differently in the arena of work. Dr. Kana Takamatsu acknowledged that it was an informative paper to enhance the understanding of the impact of COVID-19 on work/ employment by gender perspective. She raised several questions, however, including accuracy of analysis period. Although the paper covered the crises such as COVID-19, climate change, and Ukraine and Russia conflict, the framework of the analysis period for the study was not very clear. Moreover, “intersectionality” is an important notion in gender analysis and she suggested discussion on the point would be useful for further study.

第4発表:[2L04] カンボジアにおける紛争と信頼ー2021年カンボジア社会経済調査を用いた実証分析ー

大貫 真友子(早稲田大学)
小暮 克夫(会津大学)
高崎 善人(東京大学)

This was the presentation on the study on impact of conflict exposure on social trust in Cambodia, using Cambodia Socio-Economic Survey (CSES) 2021. The data on social trust was collected through informally added questions by one of the study collaborators who was a part of the CSES 2021 team. The significance of the research topic, how conflicts may affect attitude and feelings in relation to social trust of people and community is well taken at this time of violent conflict around the world. However, Dr. Shiori Ui, the discussant, who are familiar to Cambodian society, raised an important issue regarding relevance of the questions used to measure social trust. Additionally, validity of the study topic, whether the lack of trust in non-kin-based networks is attributable to violent conflict (genocide) in Cambodia, was questioned. Rather, Dr. Ui said, a deeper-rooted problem in Cambodian society may be that trust among close kin members such as family members, relatives, and friends has been affected by violent conflict. Finally, further study prospects were discussed.

【総括】

The session offered wide variety of topics ranging from health, gender, care among family through ICT, to social trust in relation to conflict. The first three presentations, although different in topic, were all related to the impact of the COVID-19 pandemic. The last presentation, which explored the relationship between historical conflict and people’s social trust, is a very timely and important topic in light of the current global situation. I believe that those who attended the session learned a lot from these presentations. The comments by the discussants and discussion followed were also insightful and thought-provoking which would contribute to the prospect of future research.

報告者:松山 章子(津田塾大学)

2M:Sustainability (English)

  • 座長:高田 潤一(東京工業大学)
  • コメンテーター:藤倉 良(法政大学)、道田 悦代(アジア経済研究所)
  • 2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-407 (紀尾井坂ビル407)
  • 聴講人数:00名
  1. [2M01] Sustainability Reporting: Quality Concerns of Third-Party Tools and A Call for High-Quality Third-Party Tools to Avoid Greenwashing
    *Vivek Anand ASOKAN(Institute for Global Environmental Strategies)
  2. [2M02] 生物多様性条約の「 DSI」の国際開発への影響
    *渡邊 幹彦(山梨大学)
  3. [2M03] 太平洋島嶼地域における環境意識調査~ミクロネシア連邦の事例研究~
    *高木 冬太(立命館大学)
  4. [2M04] Global RCE Network: Action-oriented Education for Sustainable Development
    *Jongwhi Park2, *Sawaros Thanapornsangsuth1,2, *Shengru Li2, Fred Emmanuel Sato2(1. Tokyo Institute of Technology, 2. Institute of Advanced Studies, United Nations University)

【総括】

報告者:高田 潤一(東京工業大学)

2N:Online (English)

  • 座長:西村 幹子(国際基督教大学)
  • コメンテーター:マエムラユウ・オリバー(東京大学)、内海 悠二(名古屋大学)
  • 2023年11月12日(日曜)09:30 〜 10:30
  • 会場:紀-409 (紀尾井坂ビル409)
  • 聴講人数:00名
  1. [2N01] 観光と環境のネクサス:ラグーナ州パグサンハン、カビンティにおける地元の認識に対する多面的な検証
    *ALINSUNURIN Maria Kristina2、*新海 尚子1 (1. 津田塾大学、2. フィリピン大学ロスバニョス校)
  2. [2N02] インドネシアにおける職業教育と非認知能力が労働成果に与える影響
    *崔 善鏡(広島大学)

【総括】

報告者:西村 幹子(国際基督教大学)

2O:社会開発、コミュニティ(日本語)

  • 座長:小早川 裕子(東洋大学) 
  • コメンテーター:藤掛 洋子(横浜国立大学)、松丸 亮(東洋大学)
  • 2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-412 (紀尾井坂ビル412)
  • 聴講人数:18名

第1発表:[2O01] 通域的な学びの実践 – Africa-Asia Business Forumにおける学び合いを媒介とした地域間のつながり

工藤 尚悟(国際教養大学)

本研究では、国際協力や開発学の地域研究に従来の研究者や実務者による知見共有から直線的に課題解決が設計される方法ではなく、具体的な現場を持つ全く異なる地域の実践者たちが共同フィールドワークを通して得られる視点や気づきのリフレクションを基に、習慣的な思考パターンへの気づきや新しい視点の獲得といった自己変容を促す「通域的な学び」に関する調査が行われた。

コメンテーターからの課題解決型ではないプログラムの成果をどう評価できるのか、との質問に対し、工藤会員は、課題の出口として、方法論を提供する発展的評価になる回答した。

第2発表:[2O02] 開発学における表情解析の応用可能性:マダガスカル農村の女性における事例

山田 浩之(慶應義塾大学)

開発研究における調査では、回答者の設問理解度の把握の難しさ、考えずに回答している可能性、主観的で要因が多様な幸福感の測定が難点であるため、客観的調査が可能な顔を認識するソフト、FaceReader (FR)を起用した。

マダガスカル農村女性の笑顔をデータ化したものと記述調査を照合し、幸福感と個人や世帯の特性との関連性が調査された。

コメンテーターからは、FRをマダガスカルで使う有効性、調査結果が従来の調査結果と変わらなかった事から、FRを開発学で利用する意義の説明が必要ではないかとの指摘があった。

第3発表:[2O03] ブータン東部におけるアブラナ科野菜の普及の実態とその要因-タシガン県バルツァム郡を事例に-

生駒 忠大(京都大学/日本学術振興会)

本研究は、ブータンにおける新たな換金作物の普及は単に高換金性が引き金になっているのではなく、農業実践や地域文化の変容が普及の要因となっている可能性を調査した。

その結果、アブラナ科野菜が普及していった要因として、若者の離村と労働力確保の難しい村において、長期間の栽培適期と栽培の簡便性、副次的栽培、労働集約性の低さと高い生産性が村の現状に適合していたこと、アブラナ科野菜の食文化への浸透、牛の飼料としての有用性などが明らかにされた。

第4発表:[2O04] 潜在的に田園回帰志向を持つ人の要因分析 -地方に関心のある大学生に魅力的な地方自治体の施策とは-

戸川 椋太(立命館大学大学院)

田園回帰志向を持つ学生の実態を把握し、地方自治体への政策提言を目的に、潜在的に回帰思考のある大学生の特徴を明らかにする目的の研究である。

追跡調査も予定されているが、本発表では、コメンテーターから、田園回帰の定義の明確化の必要性、アンケート調査の対象が立命館大学の学生に限定されていた事による一般化の難しさ、田園回帰志向分析の設問内容が、都市でも可能な活動ではないかとの指摘があった。

【総括】

各発表は時間通りに進んだ。どれも興味深い研究発表だったため、フロアーからの質疑がたくさんあるように見受けたが、時間が限られていたため、1名の質問しか受けられなかったのが残念だった。

報告者:小早川 裕子(東洋大学)

2L:Rural development (English)

  • 座長:澤田 康幸(東京大学) 
  • コメンテーター:髙橋 和志(政策研究大学院大学)、米倉 雪子(昭和女子大学)
  • 2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-404 (紀尾井坂ビル404)
  • 聴講人数:不明

第1発表:[2L05] 「園芸の商品化と家庭の意思決定が小規模農家の収入に及ぼす不均一な影響:エチオピアのジマ地帯における準実験研究の証拠」

*FIKADU ASMIRO ABEJE、*Nomura Hisako(Kyushu University)

本論文はエチオピアでJICAが進めているSHEP(市場志向型農業振興)アプローチが農家所得の向上に寄与しているか、寄与している場合、それが所得レベルや男女間でどのような違いがあるか、定量分析したものである。

データは2022-23年に集めたクロスセクショナルデータで、610の農家から集めた。

推定には、マッチングとQuantile regressionを用いている。

推定の結果からは、SHEPは全体として農家所得を有意に増やしているが、その効果はもともとの高所得家庭、また男性の意思決定力が強い農家でより大きくなることが判明した。

本論文は潜在的に重要なイシューを扱っているものの、以下のような点を改訂することが望ましい。

  • アウトカムである園芸作物所得と、説明変数である園芸作物指数の間には強い相関があるため、これを説明変数に使わない方がよい。
  • アウトカムをレベルのまま使っていると、ほぼ必然的に高所得家計の方に強い影響が出がちなので、ログを採った方がよい。
  • 推定式の説明の際にいくつかの誤りが見られた。
  • マッチングの方法をもう少し丁寧に説明した方がよい。

第2発表:[2L06] Empowerment Mechanisms of the ‘ SHEP Approach’ on Horticultural Behaviour Change of Smallholder Farmers. A Case of Kenya

Peter Nyamwaya ORANGI,
Hisako Nomura
(KYUSHU UNIVERSITY)

本論文はケニアでJICAが進めているSHEP(市場志向型農業振興)アプローチ農家のビジネスや農業スキルに寄与しているか、またそれらのスキル向上を通じてエンパワメントに役立っているか、定量分析したものである。

データは4058家計によるパネルデータで。推定には、差の差の分析とOLSが用いられている。推定の結果からは、SHEPは全体としてスキル向上に寄与し、それにより、生産やマーケティング面におけるエンパワメントに繋がっていることが判明した。

本論文はSHEPのプロジェクト目標が満たされているか定量的に検証した点で意義深いものの、以下のような点を改訂することが望ましい。

  • スキルのカテゴリーづくりややや恣意的なだめ、どのような理論的背景があるのか示せるとなおよい。
  • データがどのようにとられたのか、また4058はバランスパネルなのかそうでないのかなど、詳しい説明が必要。
  • DIDよりも近年はANCOVAが好まれる傾向にあるため、DIDを使うメリットを丁寧に説明してほしい。
  • エンパワメントの分析にはOLSが使われているが、スキル変数は内生なので、その点を考慮した推定方法に改善する必要がある。

第3発表:[2L07] Economic Analysis of Income Generation Through Creation of Dairy Farmers Union. A Case Study on Balkh Dairy Union, Afghanistan

Hamed ARIF SAFI(Kyushu University)
Nomura HISAKO(Kyushu University)
Shoichi ITO(Kyushu University)
Hiroshi ISODA(Kyushu University)

Key Points
  • 7 interviewers conducted semi-structured interview in 8 villages in Dehdadi District, Balkh province in Aug 2014. 355 milk producers, 192 Balkh Livestock Development Union (BLDU) members and 163 dairy farmers not BLDU members.
  • Examination of the impact of dairy union membership on the productivity of dairy farmers and the net annual milk income of households using the propensity score matching method (PSM).
  • Union membership significantly reverberates impacts critical economic outcomes of dairy farming dynamics.
  • It recommends stakeholders in the dairy farming sector, including policymakers and farm management, to recognize the positive aspects of union participation on production and income.

Questions to understand the situation further to promote union

  1. The amounts of income and dairy production. How many cows do they have. Is the size of farmers relevant to the result?
  2. Why/how the farmers became union members: Did anybody suggest them to become members? What are the merits that they recognise? ie) info, training, funds, etc from the union.
  3. Why non-members do not join unions? What prevents them? ie) In Cambodia, people were traumatised by their experience of forced labor during communist/socialist era.
  4. How many days did 7 researchers interview 355 farmers in 8 villages. Did they simply ask their annual income and production or had farmers recorded the amounts?

第4発表:[2L08] 高価値な換金作物の導入後の農村移住と民族間の格差における変遷:ベトナム中央高地の台湾から導入されたウーロン茶産業の事例

呉 昀熹(京都大学)

Key Points
  • Semi-structured questionnaires targeting Kinh migrants for April-June 2019, and the minority settlements for Oct-Nov 2019 in D and L Communes, hubs for oolong tea enterprises, in Lam Dong province in the Central Highlands, Vietnam. Sites included oolong tea factories, farms, and various households. A total of 123 households heads: 96 Kinh, 10 ethnic minority migrants (Muong, Cham), 16 indigenous minorities (Kohor, Ma), 1 Vietnamese Chinese individual.
  • geographical access to employment, Kinh has easier access, Muong have relatively comparable access to Kinh, able to reach oolong tea enterprises within a half-hour walk, Ma and Kohor at more remote locations.
  • 2 categories of spontaneous migrants: Early migrants, dependent on network, organised migrants; Late migrants. less-dependent on network.
  • Ma, traditionally engaged in shifting agri, adapted themselves to the tea industry, changed gender roles. Kohor, traditionally nomadic lifestyle, limited engagement with industry.

Questions to understand the Discussion further

  1.  Describing “3 key attractions of the tea system included higher income, varied job chances, and accommodation” regarding each ethnic group may show the differences clearer. How it becomes as “a stepping stone to cash crop farming. As migrants’ farms become sustainable, their dependency on the system decreases”?
  2.  About Gender role, Ma has seen the changes while Kohor did not. How about other ethnic groups?
  3.  Explain more in section “3 Findings” about the socio economic impact including health risks and loss of personal time.
  4.  About “the indirect marginalization of indigenous groups”, may be discuss about Ma and Kohor separately? How about Muong and Cham?

【総括】

Rural Developmentセッションの名にふさわしい意欲的な論文が4本報告された。

特に、JICAが進めているSHEP(市場志向型農業振興)アプローチやアフガニスタンにおける酪農組合プロジェクトの評価など、厳密なエビデンス(科学的根拠)が求められている研究対象について、ミクロデータを用い、マッチング(matching)、差の差分析(difference in differences)、分位点回帰(quantile regression)など緻密な手法を用いた研究につき、計量分析を洗練化することのみならず、ドメイン知識に基づいて研究をさらに深化させるという観点から、コメンテータの高橋和志教授(政策研究大学院大学)、米倉雪子教授(昭和女子大学)より多数の建設的なコメントがなされ、活発な議論が行われた。

座長としては、今後も国際水準の開発研究・教育の成果が日本発で期待でき、国際開発学会のあるべき姿を示す有意義なセッションとなった、と感じた。

報告者:澤田 康幸(東京大学)

2M:国際開発援助(日本語)

  • 座長:伊東 早苗(名古屋大学) 
  • コメンテーター:大門(佐藤) 毅(早稲田大学)、宗像 朗(国際協力機構)
  • 2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-407 (紀尾井坂ビル407)
  • 聴講人数:00名
  1. [2M05] 政府開発援助が海外直接投資に与えた影響―援助形態別の分析―
    *大野 沙織(京都大学)
  2. [2M06] 現地主導の開発(locally-led development)とCSOの南北パートナーシップの再検討
    *高柳 彰夫(フェリス女学院大学)
  3. [2M07] 日本政府の支援がパキスタン気象局の能力向上に果たした役割に関する考察
    *内田 善久(株式会社国際気象コンサルタント)
  4. [2M08] 国際協力における Co-Financeの「全体像」をどう捉えるか~中国と DACドナー間の取り組みを事例に~
    *石丸 大輝1、*土居 健市2、*汪 牧耘3、*林 薫4 (1. 独立行政法人国際協力機構、2. 早稲田大学、3. 東京大学、4.元 文教大学)

【総括】

報告者:伊東 早苗(名古屋大学) 

2N:環境、サスティナビリティ(日本語)

  • 座長:松岡 俊二(早稲田大学)
  • コメンテーター:佐々木 大輔(東北大学)、古沢 広祐(國學院大学)
  • 2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:15
  • 会場:紀-409 (紀尾井坂ビル409)
  • 聴講人数:25名

第1発表:[2N03] インドネシア国アッパーチソカン揚水発電所建設に関わる原石山の補償問題

筒井 勝治(株式会社ニュージェック)
冨岡 健一(Global Utility Development Co., Ltd)

インドネシア国アッパーチソカン揚水発電所周辺の地域住民に対する補償の法制度とその運用のあり方をめぐって議論をした。

第2発表:[2N04] 環境知識の移転をめぐる地政学的ダイナミクス:中国の環境協力機関の比較分析

WU Jingyuan(東京大学大学院)

中国における環境協力機関の展開について、リアリズムの視点、リベラリズムの視点、コンストラクティビズムの視点から議論を行った。

第3発表:[2N05] 生産国の実情から考える持続可能なパーム油-インドネシアとマレーシアの事例に着目して-

吉田 秀美(一般社団法人持続可能なサプライチェーン研究所)
楊 殿閣(一般社団法人ソリダリダード・ジャパン)

持続可能なパーム油の国際的認証と各国のナショナルな認証制度との関係のマーケット・企業の動向について議論を行った。

【総括】

インドネシアの発電所建設に伴う住民補償、中国の環境協力機関の歴史的展開、インドネシアとマレーシアの持続可能なパーム油の認証制度をめぐって議論を行い、東アジアの環境問題と環境協力のあり方について、深く考える機会となった。

報告者:松岡 俊二(早稲田大学)

2L:Education (English)

  • 座長:澤村 信英(大阪大学) 
  • コメンテーター:劉 靖(東北大学)、川口純(筑波大学)
  • 2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-404 (紀尾井坂ビル404)
  • 聴講人数:20名

第1発表:[2L09] Inclusion in Higher Education: Exploring the Experiences of Nepalese College Students with Disabilities

Bhuwan Shankar BHATT(International Christian University, Tokyo)

障害を有するネパール人大学生の経験をもとに、高等教育におけるインクルージョンのあり方を多面的に検討するものである。

高等教育におけるインクルージョンに関する実証研究は貴重であり意義があり、その重要性はますます大きくなっている。

それゆえに、研究のスコープを発展させれば(例えば、学部生と大学院生、学生の専攻を分けるなど)、さらに学術的・実践的な示唆が得られるだろう。

集団的相互作用の概念枠組みに、なぜ財政上の視点を入れていないのか、あるいは今後の研究として制度的なインクルージョンに対する考え方について質疑応答があった。

第2発表:[2L10] Case studies of a positive outlier and a negative outlier municipal education departments in supporting primary schools in Brazil

Danilo LEITE DALMON(Kobe University)

ブラジルの同一州にある人口規模や経済指標が類似する市を対象として、初等学校を管轄する教育局の中で最も効果的な教育行政が行われている市と、反対にそうでない市を選別し、両者を比較検討、要因の分析を行おうとするものである。

ブラジルを対象とする希少性はあるが、これに類似する効果的学校研究に関わる蓄積は膨大にあるので、さらなる文献レビューを進めてほしい。

また、サンプリングをいかに行ったかのプロセスが不明であり、その妥当性を明確にする必要がある。対象とする国、地域、学校の状況がわかる基礎データを示してほしい。

オリジナルのファインディングが何なのか、従来の効果的学校研究に対していかなる貢献があるのかなど、質疑が行われた。

第3発表:[2L11] Citizenship education and Malagasy philosophy: An analysis of the upper secondary school curriculum

Andriamanasina Rojoniaina RASOLONAIVO(Osaka University)

マダガスカルの後期中等学校のカリキュラムを分析することにより、グローバルなシティズンシップ教育の中でいかなる価値観が育成されるのか、されようとしているのかを探索するものである。

脱植民地化やグローバル・シティズンシップ教育の議論の中で、学校のカリキュラムがいかなる影響を受けつつ内在化していくかを検討することは重要なことである。

一方で、シティズンシップ教育やマダガスカルのフィロソフィーがそれぞれ何を意味するかは、丁寧に記述する必要がある。リサーチクエスチョンに対する結果の提示にやや齟齬があるように思えるとの意見も出された。

第4発表:[2L12] Parental Involvement in Malagasy Students’ Career Planning: the Case of Public High Schools in Urban and Suburban Settings

Fanantenana Rianasoa ANDRIARINIAINA(Osaka University)

マダガスカルの都市部の公立高校を事例として、生徒のキャリア計画にいかに親が関わっているかを考察するものである。

このようなテーマ設定自体は、教育を受けた後の就業に関わることで興味深く、重要なテーマである。

ただし、キャリア計画の定義がやや不明瞭で、どのように親が子どものキャリア計画に関わっているのか、さらなる丁寧な分析と解釈がなされることが期待される。

現在の結論は、親が何を考えているか、何を行っているかに留まっており、いかに関わっているかが十分に探索できていないように思える。

【総括】

ネパール、ブラジル、マダガスカルと、発表者は日本の大学に属しながら、それぞれの母国を研究対象としている。

このような多様な対象国の研究発表が本学会の場で行われることは、少なくない影響を日本人研究者にも与えてくれているように思う。

今後もこのような学術面での国際交流が展開され、将来的に国際共同研究などに進展することを期待したい。

報告者:澤村信英(大阪大学)

2M:事業評価・分析(日本語)

  • 座長:大橋 正明(聖心女子大学) 
  • コメンテーター:石田 洋子(広島大学)、桑島 京子(青山学院大学)
  • 2023年11月12日(日曜)15:00 〜 16:00
  • 会場:紀-407 (紀尾井坂ビル407)
  • 聴講人数:8名

第1発表:女性自助組織を通した母親の資源獲得と子どもの教育への影響―インド Rajasthan州の Rajeevikaプログラムを事例に―[2M09] 

水島 侑香(東京大学)

この発表は、本年の3月に行ったインド西部の州の3県(District)の3つの郡(Block)で政府が進める女性の自助組織(Self-Help Group、以下SHGs)の15名のメンバーに、半構造化インタビューを行った結果を軸に分析したものである。

報告者によると、多くのメンバーがSHGのマイクロファイナンスにより事業やSHGs組織の役職報酬よる収入向上、情報や人間関係といった形での資源を獲得し、結果的に子どもの教育にポジティブな影響を与えることを示した。

この発表に対してコメンテーターである広島大学の石田洋子会員は、SHGsの活動によってその本人だけでなく、その夫、女性の両親、子ども、教員、上位機関メンバー等がどう変化して、結果的に子どもたちの教育における変化につながっているのかを、セオリー・オブ・チェンジ(Theory of Change)といった形で把握すること、SHGプログラムの全容や対象地域の教育事情などが不明である、といった指摘をした。

第2発表:カンボジア・つばさ橋建設をめぐる環境社会配慮と事業化検討プロセス[2M10] 

小泉 幸弘(独立行政法人国際協力機構)
花岡 伸也(東京工業大学)

小泉会員の報告は、カンボジアにおける同様な橋梁プロジェクトと比較して、本案件がカンボジア側からの要請から無償資金協力実施の意思決定に至るまでに、10年ほどの時間を費やしたことの要因として、2004年改定のJICA環境社会配慮ガイドラインを適用した経緯をもとにしたものであった。

結果として、早期開通を希望していたカンボジア側の声には応えられなかったことが提起された。

これに対して青山学院大学の桑島会員からは、改定後の環境社会配慮ガイドラインの画期性、外務省・JICAの権限関係の「今」、カンボジアの運輸交通開発における環境社会配慮の「今」などのより幅広い検討の必要が指摘された。

また会場から相次いだ質問を通じて、こうした配慮がなされることでより丁寧な検討がされたことを評価するという指摘や、他の新興ドナーとの対抗を意識する日本政府はこうした配慮の適用範囲を限定しようとする動きがあるという懸念などが示された。

【総括】

このセッションでは、二人のコメンテーターからのコメントと発表者による応答、そして会場の参加者との興味深いやり取りが行われた。

四人の発表者を前提にした時間枠に二人の発表だったため、時間的に余裕があったので、しっかりしたやり取りをすることができた。それでも16時半に終了した。

報告者:大橋 正明(聖心女子大学)

2N:平和構築、レジリエンス(日本語)

  • 座長:湖中 真哉(静岡県立大学) 
  • コメンテーター:松本 悟(法政大学)、桑名 恵(近畿大学)
  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-409 (紀尾井坂ビル409)
  • 聴講人数:約40名

第1発表:[2N06] 特定地域における民族間の勢力均衡論(ドミノ式)についての一考察ー勢力均衡のパターン分析を中心にー

安部 雅人(東北大学)

安倍会員による最初の報告では、民族間の勢力均衡論として3つの類型が提示され、中国新疆ウイグル自治区の紛争、パレスチナ紛争、ルワンダのジェノサイド等の事例が、その3つの類型の観点から検討された。

これに対して、松本会員によるコメントでは、リサーチクエスチョンの所在、先行研究に対する位置づけ等に関する質問が投げかけられた。

また、フロアからは、なぜインクルーシブな国家を形成できなかったのかという問題意識からの再検討の可能性等の論点が提出され、報告された類型が多角的に検討された。

第2発表:[2N07] 中国の都市におけるコミュニティレジリエンスの構築に関する質的研究—ソーシャル・キャピタルの視点から

王 藝璇(大阪大学大学院)

つづく王会員による報告では、2021年の中国河南省洪水災害で被災したコミュニティを対象とするインタビュー調査結果がおもに報告された。

同会員は被災コミュニティを都市・農村の移行期コミュニティの脆弱性に注目しながら3つに類型化し、各コミュニティのレジリエンスをソーシャルキャピタルの類型の観点から分析した。

松本会員によるコメントでは、ソーシャルキャピタルの有効性を論じるに当たっての基準設定の問題、比較の前提となる影響要因の評価の問題、調査対象者の選定上の問題等が質問された。

王会員は質問に回答しながら、今後の研究にコメントをフィードバックしていく見通しを述べた。

第3発表:[2N08] エルサルバドル共和国帰国研修員によるパイロット事業の形成過程と実施に関する要因分析:
ポストコンフリクトにおける地域住民の主体的生活改善活動に着目して

藤城 一雄 (独立行政法人国際協力機構)

その後の藤城会員他の報告では、研究対象地はエルサルバドルに移り、長期内戦後のポストコンフリクト状況において、JICA本邦研修による中米地域生活改善研修を事例として、パイロット事業実施5年後の現地調査の分析結果が報告され、おもにインタビュー結果から、パイロット事業参加者の幸福感が変容した成果等が示された。

コメンテーターの桑名会員によるコメントでは、過去の教訓を踏まえている点等が評価され、今後の展望が質問された。

また、フロアからは、事業に対するネガティブな反応がなかったのかという点が質問された。藤城会員は、その後エルサルバドルで政権交代があったため、組織全体が消滅したこと等、その後の事業の経緯を踏まえつつ、これらの質問に回答した。

第4発表:[2N09] グローバル・ナレッジとしての東日本大震災とそこからの復興(途上国に役に立つ知識とするために何が必要か?)

林 薫 (グローバル・ラーニング・サポート・コンサルタンツ代表、元文教大学教授)

最後の林会員による報告は、東日本大震災の震災以降に着目し、震災伝承施設をグローバルなレッジの観点からどのように評価できるかを探究し、その調査成果が豊富な事例とともに示された。

コミュニティ防災の軽視や失敗学の不在等の課題を示しつつ、最後に何が世界に発信すべきコアなナラティブになり得るかという展望が示された。桑名会員はこれに対して調査の方法や協働知の双方向性について質問を投げかけた。

林会員は震災伝承施設の展示方針の硬直性の問題により、双方向性が現状では困難であること等を回答した。

【総括】

本セッションでは各報告が時間を超過しなかったため、充実した討議を行うことでき、多角的に報告を検討することができた。

なかでも林会員は報告を通じて、本セッションの他の報告やプレナリーセッションにも言及され、本大会の最後を締めくくるに相応しい報告となった。

報告者:湖中 真哉(静岡県立大学)

その他

  • 一般口頭発表
  • 企画セッション
  • ラウンドテーブル
  • プレナリー、ブックトーク、ポスター発表



第33回全国大会セッション報告(一般口頭発表)

A. 一般口頭発表

A-1. 教育

  • 2022年12月3日(土曜)09:45ー11:45(アカデミーコモン8F 308F1E)
  • 座長:山田 肖子(名古屋大学)
  • ディスカッサント:荻巣 崇世(上智大学)、川口 純(筑波大学)

発表題目と発表者

(報告:山田 肖子)


A-2. Community

  • 2022年12月3日(土曜)13:20ー14:50(リバティタワー7F 10751B)
  • 座長:佐藤 峰(横浜国立大学)
  • ディスカッサント:野田 真里(茨城大学)、近藤 菜月(名古屋大学)

このセッションには対面で20名、オンラインで14名の参加を得て行われた。座長は佐藤峰(横浜国立大学)、コメンテーターは野田真理(茨城大学)と近藤菜月(名古屋大学)、佐藤峰が担当した。

まず、第一発表 “Youth Safeguarding Intangible Cultural Heritage in Luang Prabang through Community-centered Innovations”では、ラオスの古都ルアンプラバンにおける、コミュニティを中心とした若者の無形文化資産(ICH)保護の試みについての発表がなされた。野田会員からは、本研究の核となるコミュニティの示すものが明確ではないとの指摘がなされた。

続いて、SDGsの観点から、「持続可能な開発の第4の柱」としての開発リソースとしてのICHの在り方、経済・社会・環境の持続可能性との関係、ラオスの文化の基盤である仏教との関係について質問がなされた。

第二発表 “Group Identity and Self-Accountability with Autoethnography: A Privileged Mestizo amidst an Indigenous Community in Mexico”では、研究する側がオートエスノグラフィーを実施することで、より調査される側に対してより倫理的でアカウンタブルでいられるのではないかと言うアイディアが共有された。

佐藤会員からは、アイディア自体は優れているが、何故オートエスノグラフィーなのか、これがある調査とない調査での比較検討があったほうがより説得力があるのではないかと言う質問と共に、先住民およびメスチーソとしてのアイデンティティの流動性についてなどの指摘もあった。

第三発表 “Transdisciplinary Community Practice (TDCOP) for Rural Women’ s Empowerment: A Case Study in Gorontalo Province, Indonesia”では、伝統的な手工芸カラウォへの支援を通じて、女性の経済的エンパワーメントや、男性の人力小規模金採掘への参加率低下を目指すプロジェクトが紹介された。

近藤会員からは、プロジェクトが机やライトなどの物質的支援や技術的側面に焦点を当てているのに対し、伝統的手工芸や人力小規模金採掘に男女が従事する文化的社会的構造の調査とそれに基づくアプローチが必要ではないかという質問などが出された。

セッション自体はコメンテーターと発表者の対話があり有意義だったが、発表時間を5分短くしてフロアからの質問を受け付けられるとよりよいという印象を得た。

(報告:佐藤 峰)


A-3. 平和構築、レジリエンス

  • 2022年12月3日(土曜)15:10ー16:40(リバティタワー7F 10731A)
  • 座長:志賀 裕朗(横浜国立大学)
  • ディスカッサント:湖中 真哉(静岡県立大学)、関谷 雄一(東京大学)

発表題目と発表者

  1. 「人道・開発・平和構築のポケットと人道的開発支援の可能性-ティモール島の国境をめぐる考察」
    堀江正伸(青山学院大学)
  2. 「自然資源管理におけるレジリエンス概念の役割について-東アフリカを事例として」
    久保英之(地球環境戦略研究機関)、三浦真理(国際協力機構)
  3. 「複合的災害下におけるパタンに居住するネワール民族の女性自助組織の果たす役割-2015年ネパール大地震と新型コロナウイルスパンデミック以後のコミュニティ復興の事例から」
    竹内愛(南山大学)

堀江会員は、東ティモールの独立に伴って東西に分断されたティモール島では、東ティモールへは国際社会の注目が集まる一方、東側からの難民も多い西側が話題に上ることはなかったとしたうえで、分断後20年を経て、両地域の人々が国境を越えた新たな経済社会的相互依存関係を生み出していると指摘し、そうした国境を越えた連帯を促す支援のあり方について検討した。

これに対して、討論者の湖中会員は、「人道的開発」とは、当事者以外の周辺住民等を含むアクターを対象とした社会集団の拡がりを想定した開発のあり方なのか、それとも緊急/平時の二分法に囚われず、時間的な拡がりを想定して、慢性的問題に取り組むことを主張する開発のあり方なのかといった点等を質問した。

また同じく討論者の関谷会員は、ティモールの事例は、欧米列強が画定した国境に沿って独立国として歩まざるを得なくなったアフリカ諸国の国境線沿いの人々を彷彿させると指摘したうえで、このような歴史を持つ人々にとって、持続的な開発の未来にはどのような落としどころがありうるのだろうか、との問いを提起した。

続いて、竹内愛会員は、ネパールのパタンにおける女性自助組織である「ミサ・プツァ」が2015年の大地震や新型コロナ感染爆発に際して実施したコミュニティ復興支援活動について報告し、彼女たちが20年にわたる活動を通じて地域行政組織やコミュニティの男性と信頼関係を構築した結果、災害等の緊急状態下で迅速かつ効果的な活動を展開することができたと主張した。

これに対して、討論者の関谷会員は、カースト制度や男性優位の伝統が根強いネパール社会において、「ミサ・プツァ」は女性が持続的な社会的役割を営むようになる突破口になりうるのか、その活動がネパール社会に根付き、ジェンダーバランスを是正したり、カーストを超えた女性の繋がりに発展したりする可能性があるのか、等の問いを投げかけた。

最後に、久保英之会員と三浦真理会員は、気候変動の影響を被りやすい乾燥・半乾燥地帯を抱えるエチオピアとケニアを事例として、気候変動レジリエンス概念の政策実施への反映状況を分析し、自然資源管理におけるレジリエンス概念の効果的な活用のあり方について検討した。

これに対して討論者の湖中会員は、そもそもレジリエンス概念は開発学にどんな新規性をもたらしうるのかを考える必要性を指摘したうえで、気候変動の影響を受ける社会生態システムの内部と外部が連動しながら変化するというシステムの変容可能性を考慮してレジリエンスをどのように定義すべきか、コンテクストが変化しうる状況下において、攪乱要因と社会生態システムの脆弱性を特定することはできるのか、といった問いを提起した。

このように、本セッションは、ティモール、ネパール、アフリカという多様な地域を対象とした観察結果をもとに、多様な人々が変化する自然社会環境の中で共存していく道筋を考えるうえで根本的に重要な「国境」「レジリエンス」「ジェンダー」等の概念について熟考する貴重な機会となった。座長の時間管理が不適切だったためにフロアとの質疑応答の時間が取れなかったことが悔やまれる。

(報告:志賀 裕朗)


A-4. 教育、子ども

  • 2022年12月3日(土曜)15:10 ー 16:40(リバティタワー7F 10751B)
  • 座長:黒田 一雄(早稲田大学)
  • ディスカッサント:山﨑 泉(学習院大学)、小川 未空(大阪大学)

本セッションは、会場とオンライン併用によるハイブリッド形式で行われ、日本語による2発表により構成された。

第一に、追手門学院大学の平井華代会員により、「Southから Northへ:フィリピンのNGOの支援事例から得る日本の子ども食堂への示唆」と題した発表が行われた。本研究は、岩手県の子ども食堂の活動と、フィリピン・セブにおける貧困な子ども・家庭を支援するNGOの活動を、インタビューを中心とした質的研究手法により比較する研究であった。

この研究の独自性は、貧困な子ども支援に先進的なフィリピンから、日本に対する教訓抽出を目的とするというユニークな問題意識から出発していることであり、その試みは発表で示された具体的な提言により、十分に達成されていると見受けられた。途上国の教育を対象とした比較研究の新しいあり方を提示しており、挑戦的な取り組みとなっていた。

第二の発表は、東洋大学の金子(藤本)聖子会員による、「マレーシアにおける難民の学習環境-クアラルンプール近郊のコミュニティセンターの多様性-」と題する報告であった。マレーシアは難民条約を批准していないながら東南アジア最大の難民受け入れ国となっており、その多くがミャンマーからのロヒンギャ難民である。

本研究では、クアラルンプール近郊の難民が集中する地域において、難民を対象とした4つのコミュニティスクールでの調査を基にして、難民にとっての教育の役割・重要性を考察しながら、各校に潜む多様な課題が明らかにされた。難民の教育は、世界的な政策課題としてはその重要性を認識されながらも、学術的な研究の乏しい分野であり、今後の一層の展開が期待される。

この2報告に次いで、学習院大学の山﨑泉会員、大阪大学の小川未空会員(名古屋大学)両指定討論者によるコメントが行われ、それぞれの学術研究としての方法論について活発な議論が行われた。

(報告:黒田 一雄)


A-5. 教育

  • 2022年12月3日(土曜)15:10ー16:40(リバティタワー7F 10761C)
  • 座長:日下部 達哉(広島大学)
  • ディスカッサント:佐野 麻由子(福岡県立大学)、坂上 勝基(神戸大学)

発表題目と発表者

(報告:日下部 達哉)


A-6. Gender, Education

  • 2022年12月3日(土曜)15:10ー16:40(アカデミーコモン8F 308E1D)
  • 座長:石田 洋子(広島大学)
  • ディスカッサント:島津 侑希(愛知淑徳大学)、崔 善鏡(広島大学)

本一般口頭発表では、教育開発における重要な課題の一つであるジェンダー平等について、各国における現状とそうした不平等を生み出す要因、或いはCOVID-19の感染拡大による影響などに関する研究発表が行われた。座長は石田洋子氏(広島大学)が、ディスカッサントは島津侑希氏(愛知淑徳大学)及び崔善鏡氏(広島大学)が務めた。

Jean-Baptiste SANFO氏(滋賀県立大学)の発表、“Factors Explaining Gender Inequalities in Learning Outcomes in Francophone Sab-Saharan African Primary Education”では、サブサハラアフリカ諸国の基礎教育の成果におけるジェンダー不平等について、教育制度や所得の影響に加えて、社会や家族など客観的な測定が難しい要因が影響していることを解明するため、PASECの結果を用いて分析の進捗について報告が行われた。

Naoko Otobe氏(Gender, Work and Development Expert)の発表、“The Socioeconomic impact of multiple global crisis: Gender dimensions”では、日本国内におけるCOVID-19感染拡大による社会・経済的影響によってより明確になったジェンダー不平等について、政府発表の国内データの分析やOECDデータを用いた国際比較を通して課題を示し、日本政府による対応策と今後の課題について報告が行われた。

本一般口頭発表には対面・オンラインを併せて約30名が参加した。両発表ともジェンダー平等についてタイムリーで重要な課題を扱っているが、現時点では二次データを用いた分析であり、今後は一次データを用いたより詳細な分析が期待されることなど、活発な議論が行なわれた。

(報告:石田 洋子)


A-7. 社会開発

  • 2022年12月3日(土曜)15:10ー16:40(大学会館3F 第1会議室1F)
  • 座長:木全 洋一郎(JICA)
  • ディスカッサント:松岡 俊二(早稲田大学)、関根 久雄(筑波大学)

発表題目と発表者

  1. 「潜在的に田園回帰志向を持つ人の要因分析」
    戸川 椋太(立命館大学)
  2. 「人口減少に関する要因研究–マーシャル諸島共和国を事例として–」
    野原 稔和(マーシャル諸島海洋資源局)
  3. 「米国社会における差別問題と負のスパイラル—トランプ政権における国民の分断を中心に—」
    安部 雅人(東北大学)

本セッションでは、3本の研究発表が行われ、会場16名、オンライン14名の計30名による議論が行われた。

第1の戸川報告では、日本の大都市圏から地方への移住(田園回帰)を志向する要因として、一軒家の購入や車の所有、農業体験の参加経験、勉強に意欲的の3点を挙げ、若い移住者向けの居住意欲のわく住宅を用意すること、農業体験を通じて特産品の魅力を印象付けることを提言した。

戸川報告に対し、討論者の松岡会員からは、世界的に人口減少社会になっていく中で社会や家族の在り方が問い直されており、その中で地方移住促進策を捉え直す重要性が指摘された。

第2の野原報告では、マーシャル諸島共和国で2011年から2021年に人口減少に転じた要因として、平均余命、人口移動、出生率の観点から分析し、0歳代から10歳代の人口が大幅に減少しており、特に0歳代は0歳代から10歳代の人口よりもさらに下回っていることから、出生率が人口減少の一因と結論づけた。

野原報告に対し、討論者の松岡会員からは、出生率が減少した要因は何か、他の島嶼国の人口動態はどうなっているか、島嶼地域社会の持続性の阻害要因を考えるにはどういった問いを立てるのかといったコメントが出された。

第3の安部報告では、米国の差別問題の背景として歴史的な白人男性優位社会やコロナ禍による白人低所得者層の失業を挙げ、抗議運動の高まりが更なる警察の治安対策強化や民間人による銃の重武装化につながるとする負のスパイラルを指摘した。これに対し、黒人・アフリカ系の若年層からの教育・就業機会の充実化を提言した。

安部報告に対し、討論者の関根会員からは、差別問題の構造的問題は教育や収入向上の視点を超越しており、差別する側の視点から、なぜ差別をするのか、そもそも平等とは何なのかを問い直す必要性が指摘された。

3報告ともこれまでの国際開発学会ではあまり見られない課題設定をしている点に将来性を感じる一方で、必ずしも研究精度の高くない発表もあった。特に学生会員においては、大会での門戸を広げる意味でポスターセッションでの発表を奨励しているが、あえてセッション発表とするには、一定の質を確保すべく指導教官の監督指導の徹底をお願いしたい。

(報告:木全 洋一郎)


A-8. 経済と環境

  • 2022年12月3日(土曜)15:10ー16:40(大学会館3F 第2会議室1G)
  • 座長:豊田 利久(神戸大学)
  • ディスカッサント:黒川 清登(立命館大学)、渡邉 松男(立命館大学)

このセッションでは、途上国の経済と開発援助資金に関する3つの発表がなされた。その報告と討論の概要は次の通りである。なお、参加者は約20名であった。

(1) 「中国の国際協力資金が各国のIMFの金融支援プログラム参加に与える影響の検討」

大森佐和(国際基督教大学)

最近の中国の開発資金増大がIMFプログラムへの参加に影響するか否かを計量分析した。特に、中国の開発資金がIMFプログラムを短期的にはクラウドアウトしていること、中国と選好(国連投票行動)が離れている国では長期的にIMFプログラムに参加する傾向があること、などが示された。

討論者から、中国資金の長期的な影響の有無や異なった基準での選好の把握などを分析する必要性が指摘された。

(2) 「カンボジア銀行業の資本構成:高度ドル化経済における銀行業の計量分析」

奥田英信(帝京大学)

銀行経営の健全性を資本構成(資本金の体操資産比率)の決定要因によって解明することを試みた。2011年から7年間のデータを用いた計量分析により、ドル化経済の下で中央銀行の最後の貸手機能に制約があるにもかかわらず、商業銀行がリスクに十分な注意を払っていない可能性を見出した。討論では、ドル化経済と商業銀行の資本構成との関係に関する仮説のより明白な叙述の必要性が指摘された。

(3)「政府開発援助が直接投資に与える影響-VAR モデルによる検証」

大野沙織(京都大学)

主要5カ国のODAが海外直接投資(FDI)に及ぼす効果を2003年-2020年のデータによって計量分析した。主な結果は、ODAは必ずしもFDIに影響を及ぼしていないこと、1990年代のデータで実証されてきた日本のODAの先兵効果は見いだされないことである。討論では、日本の先兵効果が1990年代に終わったとされる理由のさらなる検討や分析手法再考の必要性が指摘された。

(報告:豊田 利久)


A-9. 教育

  • 2022年12月3日(土曜)16:50 ー 18:50(リバティタワー7F 10731A)
  • 座長:内海 成治(大阪大学)
  • ディスカッサント:澤田 康幸(東京大学)、平山 恵(明治学院大学)

12月3日16:50から行われた教育分科会には、会場に25人Zoom参加者約25人と合わせて約50人の参加があり、教育分野への関心の高さが感じられた。

本分科会では4つの発表が行われた。コメンテーターは澤田康幸先生(東京大学)、平山恵先生(明治学院大学)で、初めの2つの発表を澤田先生、後の2つの発表を平山先生に初めのコメントをいただいた。

最初の発表は内海悠二(名古屋大学)会員の「アフガニスタンにおける教育に対するコミュニティレジリエンス」であった。これは2014年の社会調査を利用したマルチ分析である。教育に対するコミュニティの役割を女性、児童労働、紛争状況等から分析したものである。澤田先生からは統計分性に関する指摘等があった。現在アフガニスタンは再びタリバン政権となり教女子教育は厳しい状況にあるが、こうしたコミュニティの意向は重要な意味を有すると思われる。

2つ目の発表は狩野豪(金沢工業大学)・石川健太(マンチェスター大学)会員の「日本のGIGAスクール構想はOne Laptop per Childと同じ道を歩むのか?」で、狩野会員が発表した。2005年から開始されたOLPCの経験から、現在日本で展開されているGIGAスクール構想の課題を分析したものである。標準仕様、教員研修、子どもの学習機会、性別や地域の格差等に考慮する必要性が明らかになった。澤田先生からはOLPCとGIGA構想とは状況が大きく変わっているので、比較対象の正当性への指摘があった。GIGA構想はOLPCのみならず、国際的な比較の中で検討されるべき重要な課題と思われる。

3番目は藤枝詢子(京都精華大学)会員の「フィジーにおける伝統的住居の建築技術継承の可能性」とい非常にユニークな教育課題である。フィジーのブレという伝統的な茅葺住居は全住居の1%と危機的状況にあり、その建築技術の継承には教育機関による技術教育の役割が重要であり、そのための課題を抽出したものである。平山先生からはこの発表がまとまりのある発表であるため、ご自身の経験した伝統的事業の継承に関する例が紹介された。ネパールの伝統医療、フィリピンの薬草事業、奈良正倉院の校倉津造りの継承の例である。

伝統技術の継承は国際的な課題であり、国際協力において注目する必要性が高いことが分かった。

4つ目の発表は、近藤葉月(名古屋大学)会員の「『いずれ自営業者のなりたい』若者たち:ガーナ農村部の学卒者のschool to work transition調査から」で、質問票調査とFG調査からの報告である。学卒者が政府セクターあるいはNGOへの就職を希望しながらも、将来的には自営業を目指していることが明らかになった。ガーナの雇用状況の不安定さが起業家精神を育んでいる状況が示された。平山先生からは、FGインタビューの採用、大学の教員の能力、雇用者側の問題等が指摘された。

熱心な発表と丁寧なコメントで非常に有意義な分科会になった。座長のミスで会場からのコメント・質問の時間がとれず申し訳なかった。今回の分科会は幅白い教育分野の各地の調査の報告であり、教育開発分野の広がりと深まりを感じた次第である。

(報告:内海 成治)


A-10. African Economy

  • 2022年12月3日(土曜)16:50 ー 18:20(リバティタワー7F 1075 1B)
  • 座長:笹岡 雄一(明治大学)
  • ディスカッサント:武内 進一(東京外国語大学)、福西 隆弘(ジェトロ・アジア経済研究所)

African Economyのセッションでは、Joseph Enoch Garcon氏が「TICADとアフリカの米セクターの参加型政策形成」Christian Otchia氏が「経済特別区(SEZ)の意味と構造変容」Hoi Yee Regina氏が「アフリカ地方の環境リスク認識」の3つの発表を行った。コメンテーターは武内進一氏、福西隆弘氏であった。

最初のTICADの発表ではTICADの経緯、米生産についてはアジアの緑の革命や日本の経済モデルとの関係、TICAD型開発理念の意義が語られたが、オーナーシップとパートナーシップの原則が反映されている特徴は首肯されるものの、日本の農業の実績とCARD実施体制に有意な関係はないのではないか、アフリカが力を注ぐべきは米なのかメイズなのかといったコメントがあった。

SEZについてはアジアやラ米では経済的な効果をもたらしたが、アフリカでは顕著な効果がなかった、ないしその効果は特定地域に限定されていたとの発表であった。なぜアフリカでは効果がなかったのかについてはlocal captureの問題があり、効果のスピルオーバーがアフリカでは低く、従ってマクロの産業構造も工業化などの変化に乏しかったという説明であった。発表趣旨は明確であったが、産業構造の変化はSEZだけで捉えられるのかといった問いや回帰分析で適切な変数について注意を払うべきとのコメントがあった。

環境リスクはナイジェリア中部の人々の認識について長年のデータ分析から行ったもので、降雨量や時期の集中化による洪水の発生や、気温の変化なども相まって牧畜民の移動や生活の変化をもたらす認識の変化が現れているという趣旨であった。これがフラニ族の移動や周囲の人々との紛争にもたらす影響については今後の課題とのことであった。

3つの発表とも内容の濃い力作であったが、最初の2つはやや当初の想定に思い込みもあった気がした。最後の発表は降雨量などの物理的なデータと遊牧民の意識とを組み合わせた長期の調査を反映したもので、構想の大きさにとても感心させられた。

(報告:笹岡 雄一)


A-11. 援助、環境

  • 2022年12月3日(土曜)16:50 ー 18:50(リバティタワー7F 1076 1C)
  • 座長:大塚 健司(ジェトロ・アジア経済研究所)
  • ディスカッサント:小林 尚朗(明治大学)、山口 健介(東京大学)

本セッションでは4本の報告があった。

まず槇田容子(国立環境研究所)会員から「開発援助における気候変動適応主流化―ボトムアップアプローチの普及について」というタイトルで報告があり、気候変動適応策の策定には、科学主導型のトップダウンアプローチに加えてコミュニティ主導型のボトムアップアプローチを組み合わせたデュアルアプローチが有効であることを指摘し、JICAのプロジェクトを事例にその課題と解決策を明らかにした。

次に侯テイ玉(お茶の水女子大学)会員から「市民社会の視点から見たミャンマーの経済特区における日本のODA政策と中国の『一帯一路』構想の実践に対する比較について」というタイトルで報告があり、ミャンマーにおける日本、中国それぞれの経済特区に対する開発援助のアプローチの同異を検討し、いずれも市民社会サイドから批判を受けてきたものの、その背景にある政策意図、リーダーシップと人的コネクションなどに違いがあることを指摘した。

続いて榎本直子(法政大学)会員から「健康的に、地球環境問題の解決を目指した『行動変容』モデルに関する一考察」というタイルとで報告があり、法政大学環境センターによる独自の環境マネジメントシステム「EMS」に注目して、学生アンケート調査を基に行動変容の実態を明らかにしつつ、さらなる行動変容を促す企画を行ったことを紹介した。

最後に高柳彰夫(フェリス女学院大学)会員から「DAC市民社会勧告の実施:南の市民社会の支援をめぐって」というタイトルで報告があり、DAC勧告を概観した上で勧告採択後に策定中の南の市民社会組織支援のためのツールキットのプロセスを紹介し、日本社会へのインプリケーションについて論じた。

槇田会員と榎本会員の報告に対しては小林尚朗会員(明治大学)から、侯会員と高柳会員の報告に対しては山口健介会員(東京大学)からコメントがあり、フロアからの質問やコメントも含めて報告者との間で質疑応答が活発に行われた。

(報告:大塚 健司)


A-12. Economy and Environment

  • 2022年12月3日(土曜)16:50 ー 18:20(大学会館3F 第2会議室1G)
  • 座長:小島 道一(ジェトロ・アジア経済研究所)
  • ディスカッサント:柳原 透(拓殖大学)、岡本 由美子(同志社大学)

発表題目と発表者

  • “Overseas Employment as Means to Sustain Economic Growth and Development: The Case of Overseas Filipino Workers”
    Armand Rolla
  • “Future Estimation of the Amount of Solid Waste in Fiji -Empirical analysis based on quantitative and qualitative analysis”
    高木 冬太(立命館大学)
  • “Addressing the Japanese elderly mobility problems with autonomous vehicle”
    PANDYASWARGO Andante Hadi (Waseda University)

Three presentations were delivered in the session on “Economy and Environment”.

Ms. Armand Rola made presentation on “Overseas Employment as Means to Sustain Economic Growth and Development: The Case of Overseas Filipino Workers“. This paper seeks to illustrate how the overseas employment of Filipinos can be both beneficial to the host country and to the Philippines by looking at the various host countries’ demand for labor and the overseas remittances’ contributions to the Philippines’ Gross National Product. Based on historical secondary data, the remittance contributions to the country’s GNP were valued at % in 1984 and grew to as much as % in 2006. In addition, there were only 350,982 Filipinos deployed in 1984 which grew to almost 2.3 million in 2018. Dr. Yumiko Okamoto, a commentor of the session, recommended to compare the magnitude and the role of remittances and foreign aid (grant portion) in the economy of the Philippines, because both of them appear in the current transfer balance of the current account of BOP.

Mr. Tota Takagi presented “Future Estimation of the Amount of Solid Waste in Fiji -Empirical analysis based on quantitative and qualitative analysis”. The paper estimated future generation of waste in Fiji, using Input-output Table with some assumption on consumption expenditure per tourist, and the number of tourists. It is estimated that waste generation would increase by 20,000 tons per year in 2030, at least compared to the amount in 2018. Mr. Michikazu Kojima, the chair of the session, suggested some further research such as impact of mismanaged waste in Fiji to tourism, comparing economic ripple effect and cost of waste management, and financing mechanism on waste management such as tourist tax.

Third speaker, Ms. PANDYASWARGO Andante Hadi, made a presentation titled “Addressing the Japanese elderly mobility problems with autonomous vehicle.” The study analyzed the Japanese Study of Aging and Retirement (JSTAR) data and gained insights through multiple correspondence analyses and nonparametric tests. The study found that technology adjustments, such as universal designs, may help ease the use of autonomous vehicles by drivers with lower cognitive and physical functions. However, the steep price of the technology must be aided with innovative business models. Dr. Toru Yanagihara, the commentator, pointed out that regarding transportation modes, it is necessary to consider not only the two extremes, personal vehicle and public transportation, but also various methods in between personal and public transportation. He also pointed out that autonomous driving was a major technological innovation, with maintaining the status quo in daily life and with reducing the psychological resistance.

(報告:小島 道一)


A-13. Disasters, Infrastructure, Education

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:00(リバティタワー8F 1085)
  • 座長:本田 利器(東京大学)
  • ディスカッサント:松丸 亮(東洋大学)、桜井 愛子(東洋英和女学院大学)

Disasters, Infrastructure, Educationのセッションでは、災害を軸に多岐にわたる発表がなされた。

“Preparedness of the Coastal Inhabitants of Pakistan towards Natural Hazards”では、パキスタンの4地区を対象とした住民の災害意識や災害情報の入手経路などの調査報告がなされた。当日はそれに加え、脆弱性および災害対応力に対する分析も報告された。会場から全国的な傾向との比較について質問があり、それを含めた分析を進める予定であることが報告された。

“Barriers to education and lifelong learning of the climate change displaced persons: a case study in Indonesia”においては、インドネシアの教育環境について女子の教育に課題があること等が報告された。また、気候変動対策の政策に対して教育制度が十分に対応できていない現状等が報告された。会場からのコメントとの議論の中では、行政が人々の移動等のデータを収集管理することや高度教育への支援の必要性も言及された。

“Case study of Biomass Clearance in Dam Reservoir related to Nam Ngiep 1 Hydropower Project in Lao PDR”では、ダム建設に伴うリスクとその対応として、不発弾処理の課題や地方行政の対応の遅さ、地元建設企業への技術指導の課題が紹介された。会場との議論で、これらがラオスだけではなく一般性のある課題であること等が言及された。いずれの発表も時宜を得た発展性のあるものであり、議論も有意義なものであった。

(報告:本田 利器)


A-14. Education and Culture

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30(リバティタワー9F 1096)
  • 座長:工藤 尚悟(国際教養大学)
  • ディスカッサント:小川 啓一(神戸大学)、汪 牧耘(東京大学)

発表題目と発表者

  1. 「留学生・日本人学生の個人的体験と教科書をつなげる試み」
    吉田秀美(法政大学)
  2. “Measurement of the level of intangible cultural heritage awareness and knowledge among the local community of Luang Prabang in Lao People’s Democratic Republic”
    Jerome Silla (United Nations University)
  3. ”China’s Belt and Road Initiative and Reshaping Internationalization of Local Higher Education Institutions”
    劉靖(東北大学)
  4. “The factors influencing the diffusion process of the teacher portal use among lower secondary school teachers in Mongolia”
    Yuji Hirai (Tokyo Institute of Technology)

本セッションでは、以下の4件の発表があり、参加者は10名ほどであった。コメンテーターは、小川啓一(神戸大学)および、汪 牧耘(東京大学)の各会員であった。いずれの報告も国際化や新型コロナ感染症の拡大などで多様化する教育現場のダイナミズムを捉える、重要な研究テーマであった。

“留学生・日本人学生の個人的体験と教科書をつなげる試み”

吉田秀美(法政大学)

アジアからの留学生が増加していくなか、大学教育の現場でサステイナビリティを議論するとき、その背景となる条件に対する異なる意見があることによって、議論の深化が生まれるという内容であった。発表者はこれまで自身の担当する科目にて学生が用いた発表スライドを見せながら、学生の持つ多様性を示した。会場からは、豊富なデータに対するコメントや、一科目のデータからどのようにESD全体への提言につなげていくのかなどの質問が出された。

“Measurement of the level of intangible cultural heritage awareness and knowledge among the local community of Luang Prabang in Lao People’s Democratic Republic”

Jerome Silla (United Nations University)

ラオス・Luang Prabangにて、コミュニティの無形文化財(ICH: intangible cultural heritage)に対するawarenessとknowledgeの理解度を定量的に調査した内容が報告された。具体的にはICHに関する12項目を網羅するアンケートを作成し、Luang Prabangにある29村において435人に対して実施した内容が示された。会場からは、発表者が実施した大規模調査に対するコメントと共に、ICHに関わる政策の意思決定に誰がどのように関わるのかなどの質問が出された。

”China’s Belt and Road Initiative and Reshaping Internationalization of Local Higher Education Institutions”

劉靖(東北大学)

中国の一帯一路政策における高等教育の国際化について、ドキュメント分析手法を用いて調査した内容が報告された。一帯一路政策は中国の地方大学においても国際化を起こすカタリストとしての役割が期待されているという内容に対して、興味深いという会場からのコメントが多くあった。

“The factors influencing the diffusion process of the teacher portal use among lower secondary school teachers in Mongolia”

Yuji Hirai (Tokyo Institute of Technology)

新型コロナ感染症の拡大によって学校教師の研修制度が実施できなくなるなか、モンゴルではインターネットを介した研修プログラムの普及が進んでいる。本発表は、モンゴルの中学校教師の間でオンライン研修プログラムの普及プロセスを、ウランバートル内の4地区で実施したアンケート調査(835件)のデータを用いて分析した内容が報告された。会場からはクラスター分析の内容に対する質問の他、現地での大規模調査に対するコメントなどが出された。

(報告:工藤 尚悟)


A-15. Aid Organization, Economic Growth and Poverty

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:00(リバティタワー10F 1105)
  • 座長:岡部 正義(共立女子大学)
  • ディスカッサント:高橋 基樹(京都大学)、伊東 早苗(名古屋大学)

本セッションは2名の会員による報告が行われ、参加者は対面8名・オンライン2名、進行は全て英語で行われた。

第一報告は、伏見勝利会員(JICA緒方貞子平和開発研究所)による”Ceremonial Implementations at Overseas Locations: A Multi-Case Study of a Bilateral Development Cooperation Agency”

報告者はまず、様々な事業体が海外展開し、海外子会社や現地海外事務所(OO)を展開する中で、HQから下された事業がOOの実施局面では、“ceremonial implementations”(儀礼的な実施、CI)にとどまっていることの功罪に問題意識を示し、二国間開発協力機関(BDCA)にも該当すると問題提起があった。

そして、報告者自身の豊富なこれまでの情報の蓄積に加え、OOに勤務する現地スタッフへのインタビュー調査を用いて一次データを構築し、CIが行われる背景やその性格、メカニズムを丹念に分析。HQや本国との関係に緊張性をはらむなかで、CIはセーフガードとしての機能を果たしていることをBDCAの事例でも立証したとする結論が報告された。

第二報告は、原正敏会員(ビジネスブレークスルー大学)による“A Development Strategy on Middle-Income Trap and Startups Promotion in the Philippines”

報告者は、高所得国や上位中所得国に移行した域内近隣国の台頭と対照的に、フィリピンが過去三十年にわたり低位中所得国から抜け出せない「中所得国の罠(MIT)」に問題関心を設定する。そして、MITから抜け出せない原因のひとつに、同国ではスタートアップにかかる取引費用・初期コスト等が高いという仮説を開発計画や先行研究から示した。

世銀のWorld Development Indicatorsから「ビジネスのしやすさ(EDB)」尺度という変数を集計・構築してこれを関心ある独立変数とし、経済成長の尺度として一人当たりGDPに回帰する線形回帰分析を行った。さらに政府文書等の丹念な解釈に基づく定性的分析も実施した。主たる結果はEDBの説明力を示す結果となったとする結論が報告された。

各報告後、第一報告には伊東早苗会員(名古屋大学)、第二報告には高橋基樹会員(京都大学)がディスカッサントとなって質問や提案事項を議論し、さらにフロア参加者の質問も活発に寄せられ、所期の時間を超えて活発に報告者との間に議論を展開することができ、たいへん有意義なセッションとなった。

(報告:岡部 正義)


A-16. 援助機関と現場

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:00(リバティタワー10F 1106)
  • 座長:源 由理子(明治大学)
  • ディスカッサント:松本 悟(法政大学)、北野 収(獨協大学)

本セッションの第一報告は、隅田姿(広島修道大学)会員による「開発援助における現地実務者の役割~境界連結者としての貢献~」である。現地に派遣された援助実務者の働き方に焦点をあて、境界連結者(boundary spanner)の概念を使い、現地実務者が果たす役割について検討したものである。報告に対しコメンテーターの松本悟(法政大学)会員から、境界線の両側の視点から見る必要性や現地実務者の役職による違いなどについてコメントがあった。

続く第二報告は、松原直輝(東京大学)会員による「現場主義の理想と現実~JICAの本部・現地事務所関係から見た組織経営~」である。JICA独立行政法人化にともなう「現場主義」の組織改革プロセスで組織改革の巻き戻しが起きた背景を、地方分権化の議論を分析の枠組みとして考察したものである。

松本会員からは、効率性に重きをおく地方分権化の枠組みで「現場主義」を検討することの是非、現場を理解した中堅職員の増加との関係性、緒方貞子氏の存在の影響についてコメントがあった。また、隅田報告と松原報告をつなぎ、境界連結者分析と「現場主義」双方から考えるとどうなるのかという問いかけがあり、両者の継続的・発展的な研究への期待が述べられた。

最後に、第三報告である若林基治(JICA)会員による「開発途上におけるソーシャルイノベーションの実現にかかる開発協力機関の役割について」は、開発途上国のソーシャルイノベーションのためには開発協力機関が一定の役割を果たすという仮説のもと、日本の高専がアフリカにおいて企業、大学等と協力して行ったプロジェクトを事例として仮説検証を行ったものである。

コメンテーターの北野収(獨協大学)会員からは、かつての技術移転論・普及教育論との違い、語法としてのイノベーションの整理上の課題、イノベーションの目的が成長に限定されることへの懸念、イノベーションにおける市民社会の位置づけなどのコメントがあった。

フロアからの質問・コメントも含め、3人の報告者ともに可能な範囲でのフィードバックを行いつつ、今後の研究上の課題として捉えていくことが表明された。援助の現場と理論を架橋する研究の更なる発展を期待したい。

(報告:源 由理子)


A-17. 経済

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45(リバティタワー8F 1083)
  • 座長:後藤 健太(関西大学)
  • ディスカッサント:受田 宏之(東京大学)、會田 剛史(ジェトロ・アジア経済研究所)

第一報告:「インドネシアにおける労働市場の構造変化と賃金格差」

  • 報告者:本台進会員(神戸大学)
  • 討論者:會田剛史会員(ジェトロ・アジア経済研究所)

本報告は、通貨危機後のインドネシアの労働市場に起きた構造変化の分析にフォーカスをあて、その賃金格差への影響を分析したものであった。討論者からは、非常に多くの示唆に富む報告であるというコメントとともに、現在の分析が労働供給側の観点に限定されていることから、ミクロレベルでの賃金の決定要因や、男女間・都市農村間の賃金格差の決定要因の推定など、労働需要側の分析の可能性が示された。

第二報告:「GVCと自律共生的発展との連携:日系自動車メーカーのASEAN地域活動史の検討」

  • 報告者:竹野忠弘会員(名古屋工業大学)
  • 討論者:受田宏之会員

本報告は、東南アジアにおける日系自動車メーカーの事業展開を、多国籍企業とローカル企業・産業間連携におけるメリットを、製品・製造設計の観点から検討し、地場企業にとっての「経営発展」の可能性に関してするものであった。討論者からは、東南アジア地域の多様性をどのように考えるのか、さらにグローバル・バリューチェーンの開発的な側面をどのように扱うのか、といった質問があった。

第三報告:「メキシコにおけるトランジット移民―法整備と現実のはざまで」

  • 報告者:柴田修子会員(同志社大学)
  • 討論者:受田宏之会員

本報告では、最近の米墨国境における非正規な越境者の急増と、そこにおける非メキシコ人(トランジット移民)の比率の急増という背景の下、メキシコにおける移民・難民に関する法整備の状況と、これとの整合性な政策実践に焦点を当てていた。そこでは、移民をプロセスととらえる視点の重要性や、最終目的地として考えられてきた米国に向けて、トランジット移民が必ずしも直線的な移動経路を取らない多様な実態を、詳細な現地調査でえられた知見に基づいた報告がなされた。討論者からは、こうした、データの取りにくい課題に対して、NGOからアクセスした点に対する評価があった。また、プッシュ・プル要因の中でも、近年高まりを見せているプッシュ要因の重要性、さらにはNGOのアドボカシー活動の影響などに関する質問があった。

第四報告:「ラオス日系企業工場労働者の生産性改善とピア効果―作業グループにおける性格特性の異質性に着目したミクロ計量分析―」

  • 報告者:栗田匡相会員(関西学院大学)
  • 討論者:會田剛史会員

本研究は、途上国(ラオス)の工場労働者を対象に、観測不能な「能力」を性格特性(性格五⼤因⼦)で代用とし、こうした能力のグループ内の異質性の労働生産性への影響を推計することで、そのピア効果を検証しようとしたものである。討論者からは、本研究のユニークで意欲的な側面への言及があった。また、理論モデルおよびデータ収集(実験)にいける作業環境に関するにいくつかの重要なコメントがなされた。

4つの全ての研究発表が、それぞれ大変興味深いものだった。二人の討論者の的を射た建設的なコメントもあり、新たな研究の視点を提供するような有意義なセッションだった。なお、本セッションでは4つの報告があり、それぞれ20分の発表、討論者による5分のコメント、その後の討論者の回答とフロアからの質問を合わせて5分という時間配分となっていたが、やや時間不足な印象があったのが若干残念であった。

(報告:後藤 健太)


A-18. 思想、人類学、文化

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45(リバティタワー10F 1103)
  • 座長:重田 康博(宇都宮大学)
  • ディスカッサント:橋本 憲幸(山梨県立大学)、木山 幸輔(筑波大学)

本報告は、一般口頭発表「思想、人類学、文化」セッションについてである。参加者は、4名の発表者、2名の討論者など事務局関係者を含めて約20名であった。

最初の清水大地(筑波大学大学院)会員の「多元世界におけるアフリカの開発論:ウブントゥ的開発論への展望」は、エスコバルの多元的世界観におけるアフリカのウブントゥ的開発論を ILO、マラウィの事例に考察し、その本質が他者との関係性にあるとした。

討論者の橋本憲幸(山梨県立大学)会員からは、「ウブントゥ」概念が表象の政治のなかで利用されてきたことを清水会員自身はどう評価しているのかといった質問が出された。

次の浅田直規(筑波大学)会員の「人類学と開発(学)の交点としての『開発予後』を考える―ルーマニアの児童福祉制度を事例に」は、開発プロジェクト終了後の影響を「開発予後」として、ルーマニアの児童福祉制度/国際援助を事例に調査し、その歴史、児童養護施設の長所と課題を取り上げ、ポスト共産主義の文化からどのように持続するのかが重要だと述べた。橋本会員からは、ルーマニアへの児童福祉制度に対する国際援助が共産主義の文化とどのように結びついているのかという質問があった。

三番目の宮澤尚里(早稲田大学)会員の「伝統文化の現代的役割―インドネシア・バリ島の事例から」は、インドネシアのガムラン音楽活動は参加者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)にどのような影響を与えているかのアンケート調査を行い考察した。討論者の木山幸輔会員(筑波大学)からは、QOL 増進を目指す「政策提言」の位置付け、ガムランの営みと QOL の因果関係などの質問があった。

最後の岡野内正(法政大学)会員の「SDGs 思想の歴史的起源―トーマス・スペンス(1750-1814)の自由移民・土地総有・全員参加・住民管理原則に基づくグローバルなベーシックインカム資本主義発展構想」は、総有制法人によるオーナーシップの確立構想を提案しベーシックインカム理念の創設者スペンスの著作などをテキスト分析しグローバル資本主義発展と普遍的人権保障が両立できるかを検討している。木山会員からはスペンスの総有制法人とSDGs や人権の概念との関係、SDGs や人権の「何に」寄与するのかといった質問があった。

(報告:重田 康博)


A-19. 保健衛生

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:15(リバティタワー10F 1106)
  • 座長:杉田 映理(大阪大学)
  • ディスカッサント:松山 章子(津田塾大学)、福林 良典(宮崎大学)

発表題目と発表者

(報告:杉田 映理)


A-20. 社会開発、コミュニティ

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45(リバティタワー11F 1113)
  • 座長:長畑 誠(明治大学)
  • ディスカッサント:大橋 正明(聖心女子大学)、秋吉 恵(立命館大学)

発表題目と発表者

(報告:長畑 誠)


B. 企画セッション

C. ラウンドテーブル

D. ブックトーク、プレナリーほか

第33回全国大会を終えて




第24回春季大会セッション報告(一般口頭発表)

一般口頭発表

[A1] Education(個人・英語)

  • 9:30 〜 11:30
  • 座長: Kazuhiro Yoshida(Hiroshima University)
  • コメンテーター: Hideki Maruyama(Sophia University), Mikiko Nishimura(International Christian University)
    1. [A1-01] CLASSROOM STRATEGIES OF MULTIGRADE TEACHING IN PRIMARY SCHOOLS IN LAO PDR
      Souksamay INTHAVONGSA (Hiroshima University)
    2. [A1-02] Community Participation in School Management Contributing to Promotion Rate: A Case of Kampong Thom Province in Cambodia
      Sokunpharoth SAY (Hirohsima University)
    3. [A1-03] Parental Involvement in Secondary School Students’ Career Planning in Low-Income Areas of Kenya: Focusing on a Low-Fee Private School and a Public Day School
      Fanantenana Rianasoa ANDRIARINIAINA (Osaka University)
    4. [A1-04] Global citizenship education in Madagascar: How do students identify themselves within the global world?Andriamanasina Rojoniaina RASOLONAIVO (Osaka University)
    5. [A1-05] Research on the Effect of the Improvisation of Teaching Materials in Angola: Focus on the Secondary School Chemistry Teachers
      Manuel Jordão, Satoshi KUSAKA (Naruto University of Education)

[A1-01] CLASSROOM STRATEGIES OF MULTIGRADE TEACHING IN PRIMARY SCHOOLS IN LAO PDR

Ms. Inthavongsa, reported that in Lao PDR teachers used numerous strategies for managing a multi-grade class, but had challenges in preparing individual tasks, using assessment rubrics, and coping with ethnic minority’s language, for which teachers need more training and experiences. Prof. Nishimura commented that further explanation were needed on teachers’ perception on their challenges, their experiences and skills.

[A1-02] Community Participation in School Management Contributing to Promotion Rate: A Case of Kampong Thom Province in Cambodia

Mr. Sokunpharoth reported that community’s roles of fund raising, children’s attendance, infrastructure development, and monitoring students’ progress help improving promotion rate of students in Cambodia. Prof. Maruyama asked about his sampling method, the membership and functions of the school management committee, and differences in the local dynamism.

[A1-03] Parental Involvement in Secondary School Students’ Career Planning in Low-Income Areas of Kenya: Focusing on a Low-Fee Private School and a Public Day School

Mr. Andriariniaina presented both parents in the slum areas in Nairobi, Kenya and parents, relatives and guardians in the pastoral area where women have no assets, are trying hard to help their children go to secondary school for a better prospect for future employability. Prof. Nishimura commented on the sample size, generalizability, and need to consider the diversity of the study area.

[A1-04] Global citizenship education in Madagascar: How do students identify themselves within the global world?

Ms. Rasolonaivo discussed that high school students in Madagascar were exposed to the COVID-19 pandemic and the global economic crises which gave them knowledge and awareness of global issues, helped by the new curriculum on the citizenship education that has more commonalities with global citizenship education. Prof. Maruyama suggested that the background and diversity of students, communities and schools need to be explained further.

[A1-05] Research on the Effect of the Improvisation of Teaching Materials in Angola: Focus on the Secondary School Chemistry Teachers

Mr. Manuel reported that a carefully designed workshop/training can strengthen teachers’ scientific knowledge and their attitude toward improvisation of teaching material in the secondary schools of Angola. Prof. Nishimura questioned about the particulars of the workshop, whether the presenter observed the classes, and changes in the motivation of teachers after the workshop.

総括

The five presenters of this session covered education challenges ranging from multi-grade teaching, community’s roles in school management, parental perspectives on children’s career planning, global citizenship education, and the improvisation of teaching materials, in African and Asian countries. The analytical methods also varied from qualitative, quantitative and mixed methods.

There were constantly some 30 participants many of whom joined and left during the session, and rich Q and A interactions.

報告者:Kazuhiro Yoshida(Hiroshima University)


[A2] 教育(個人・日本語)

  • 12:30 〜 14:30
  • 座長:小川 啓一(神戸大学)
  • コメンテーター:山田 肖子(名古屋大学)、小松 太郎(上智大学)
  1. [A2-01] 開発途上国における継続的な学力測定のためのテスト開発 ―マラウイ・ガーナ・ウガンダの事例―
    谷口 京子(広島大学)
  2. [A2-02] モザンビーク教育大学学生の教職志望動機に関する一考察-FIT-Choice 尺度を活用して-
    谷川 夏菜子、脇田 祐輔、Simbine Alberto、日下 智志(鳴門教育大学)
  3. [A2-03] 東ティモールにおける大規模縦断 EMISデータとGIS情報を用いた学生の教育進級履歴の決定要因に関する分析
    内海 悠二(名古屋大学)
  4. [A2-04] ケニアにおける教育改革の進捗と問題点―Competency-Based Curriculumの導入と教育制度の変更をめぐって―
    澤村 信英(大阪大学)
  5. [A2-05] 東ティモールにおける「母語を基礎とした多言語教育(MTB-MLE)」の適用可能性の検討-初等教育学校と前期中等教育学校の連携に着目して-
    須藤 玲(東京大学大学院)

コメント・応答など

谷口会員は、サブサハラ・アフリカ地域における生徒の学力を、各国のカリキュラムに照らし合わせて分析することの重要性を指摘し、マラウイ・ウガンダ・ガーナの3カ国におけるテスト開発および学力調査の結果を報告した。学力調査の結果からは、作成したテストの信頼性や3カ国間での学力比較を共有した。

これに対して、コメンテーターの小松会員から、各国のカリキュラムに照らしたテスト開発を進める上で3カ国を比較することの意義についての質問がなされた。また、選択国の代表性や他国への適応可能性などの観点から、3カ国を選定した理由等が問われた。

谷川会員らの第2発表では、モザンビークにおける教員の離職率の高さに関連して、教員の早期離職の原因を調査した結果が共有された。教員志望の大学生が教職を選択する理由に焦点を当て、現職教員に対する調査とは異なる視点からの考察を提示した。

コメンテーターの山田会員からは、分析における説明・被説明変数が離職率の要因を明らかにする上で妥当な選択であるのか指摘がなされた。また、分析結果について山田会員の視点による考察も加えられた。

内海会員による第3発表では、複雑な社会構造を有する東ティモールにおける生徒の就学生存率を、地理情報データを活用して空間的に把握する試みが共有された。

地理的に就学生存率が高い(低い)学校が密集するホット(コールド)スポットの存在を指摘するとともに、マルチレベル・ロジスティック回帰分析による要因の検討を行った。

小松会員からは、経年的に結果を見た際に一時的にホットスポットとなる地域の存在について質問が挙げられた。また、スポットが生じる要因の分析において十分に検討されていなかった社会的な要因としていくつかの可能性を提示した。

第4発表では澤村会員から、ケニアにおいて2018年から導入され始めた教育改革の進捗や課題について、教育改革の歴史を踏まえた報告がなされた。Competency-based Curriculumの推進が、学習者の能力を公正に伸ばすと期待されていながらも、実態としては不公正な社会に向かっているのではないかと評した。

山田会員は、Competencyとして求められる能力は、各時代における社会の在り方によって異なるのではないかと指摘し、ケニアの教育改革の歴史の中でCompetencyの在り方がどのように変化してきたのか等の質問を投げかけた。

須藤会員による第5発表では、多言語社会において推進されている「母語を基礎とした多言語教育(MTB-MLE)」の東ティモールにおける適用可能性について、教員側からの受容と反発に焦点を当てた考察が行われた。

前期中等教育学校において教員がMTB-MLE校に対して反発を示したことを踏まえ、初等教育段階と前期中等教育段階の連携における課題を指摘した。

小松会員は発表を受け、多言語教育における教育者の重要性を再確認した上で、彼らの声だけを「MTB-MLEへの社会的反発」と捉えることについて疑問を投げかけた。

また、MTB-MLEの試験的導入から彼らの受容と反発に至るまでのプロセスに目を向けることの意義を指摘した。

総括

コメンテーターからのコメント・質問はもとより、フロアからも積極的に質疑が挙がり、活発な議論が行われた。発表者・参加者の双方にとって有意義なセッションとなった。

報告者:小川 啓一(神戸大学)


[A3] 産業(個人・日本語)

  • 14:45 〜 16:45
  • 座長:高橋 基樹(京都大学)
  • コメンテーター:島田 剛(明治大学)、池上 寛(大阪経済法科大学)
  • 聴講人数:22名
  1. [A3-01] 南アフリカ小規模食品加工企業の存続と BEE政策の影響
    西浦 昭雄(創価大学)
  2. [A3-02] 職業教育の効果:ケニアの首都ナイロビを例として
    松本 愛果(京都大学)
  3. [A3-03] インドネシア西部における無煙クッキングストーブの潜在需要
    黒川 基裕(高崎経済大学)

コメント・応答など

同セッションの報告者は、西浦昭雄、松本愛果、黒川基裕の3会員、また討論者は池上寛、島田剛の両会員であった。また、22人ほどの参加者があった。

西浦報告「南アフリカ小規模食品加工企業の存続とBEE政策の影響」では、報告者から、アフリカの小規模企業がどのように、産業の二重構造を越えようとしているかという問題意識に立ち、個別の企業の成長の軌跡に注目することを念頭に置きつつ、南アフリカの小規模食品加工業に注目したことが説明された。

そのうえで、南アの企業に関する最も網羅的なデータベースであるWOWEBを利用し、HPも参照して、5年以上成長の軌跡をたどることのできる企業を絞り込み、その軌跡においてBlack Economic Empowerment(BEE)による調達面の優遇や、資金やエネルギーの調達、市場の開拓の問題などの影響を検討したことが説明され、企業の継続には段階的な規模拡大、需要の獲得、事業継承の容易さなどがカギとなっているとの知見が紹介された。

討論者から、BEEが経営者の属性(「人種」)によって受ける影響、業種による規模の違いなどを考慮すること、また企業者の経営能力、輸出の成否、また事業継続の失敗例とその要因などを検討に含めることなどの必要性の指摘があった。また参加者から行政の衛生管理をクリアするかどうかで大きな違いが生じることやノウハウを伝えやすいなどの食品加工の業種としての特殊性への注意喚起があった。

松本報告「職業教育の効果:ケニアの首都ナイロビを例として」は、大学と中等学校の中間に置かれた職業教育校が、労働者の技能、賃金・所得に与えている影響について、ケニアでの実証調査を踏まえて論じた。調査では、フォーマル及びインフォーマルな企業の採用担当者、官民の職業訓練校の製造業関連職種の現役生・卒業生が対象となった。

調査研究の結果、職業訓練修了者の賃金は大学と中等教育の間であるが、企業採用担当者からすると、スキルや学力は中等教育より上で、また大卒よりも労働市場で必要とされる適正なスキルと知識を備えているために雇用機会は高く、より確実に仕事を得ることができ、その点において職業教育は相対的に人材養成において優位である可能性が示された。

討論者からは、対象の職種の選定理由を明示すること、労働者や使用者の賃金の認識のしかた(短期か、それとも終身まで視野に入れた長期か)を考慮すること、企業による職業訓練の成果の活用について検討すること、また世界銀行による職業訓練校への批判について念頭に置いた議論を展開することなどの必要性が指摘された。

黒川報告「インドネシア西部における無煙クッキングストーブの潜在需要」は、途上国に広く見られる、調理の際の排煙によって健康被害をもたらしかねないかまどに代わるものとして、報告者自身が開発・普及に携わっている「無煙クッキングストーブ」の事例についての報告であった。

報告者の研究においては、開発された無煙ストーブをインドネシア西部バンテン州の農家に貸与し、その潜在需要をCVMとWTP(willingness to pay)の手法を使って検証する方法が採用された。

WTPを通じて農家の側に、比較的低いながらも市場価格を支払う意欲があり、あるいは無煙の燃焼に必要なペレット、商用のための長時間燃焼可能なモデルへのニーズが存在することが確認されたこと、また、環境性能と収益性能の間のトレードオフやストーブ・ペレットの改善上の課題が指摘された。

討論者からは、潜在需要と農家の生存水準及び健康問題への関心との相関性を検討すること、また採算性を考える際に、ストーブ自体の製造やペレットの生産のための固定費用まで計算に入れることなどの必要性の指摘があった。

総括

製造業・ものづくりについての研究は国際開発研究において大きな潜在的な重要性と発展可能性を持つものであり、このようなセッションが今後も継続的に開催されることが期待される。

報告者:高橋 基樹(京都大学)


[B1] Economy(個人・英語)

  • 9:30 〜 11:30
  • 座長/ Chairman: Akio Nishiura (Soka University)
  • コメンテーター/ Commentator: Yukimi Shimoda (Waseda University), Takeshi Daimon (Waseda University)
  • 聴講人数/ Number of the audience: 15
  1. [B1-01] Visits of Chinese Officials and Chinese Investments in Africa
    Christian OTCHIA (Nagoya University)
  2. [B1-02] Are Lifestyle Enterprises growth-averse? Kindling the Entrepreneurial Fire within 
    Sanjeewa POLGAHAGEDARA DON PUBUDU (University of Utsunomiya)
  3. [B1-04] Regional Educational Disparities in China: A Shapley Decomposition Analysis
    Feng LI (Chuo University)

コメント・応答など

[B1-01] Visits of Chinese Officials and Chinese Investments in Africa

Christian OTCHIA conducted an empirical analysis examining the impact of Chinese Officials’ visits, including the Foreign Minister, on the increase in direct investments from China into Africa. In response, Takeshi Daimon, acting as the discussant, commended the study’s geopolitical approach in exploring the determinants of private investment, and its adept utilization of propensity score matching methods (PSM) to correcting for endogeneity. Daimon also sought information concerning the influence of Russia as an invisible actor and its role in conflicts, as well as insights on the case of Tunisia, the host country of TICAD VIII, in the context of Japanese investments in Africa.

Furthermore, Yukimi Shimoda, another discussant, raised a query concerning whether China’s increasing economic influence, beyond the visits of Chinese diplomatic envoys, was responsible for the upsurge in private investments. In response, OTCHIA emphasized the significance of political backing for Chinas investments to Africa and suggested conducting an analysis with a dedicated focus on this aspect.

[B1-02] Are Lifestyle Enterprises growth-averse? Kindling the Entrepreneurial Fire within

Sanjeewa POLGAHAGEDARA DON PUBUDU conducted a thematic analysis based on qualitative research, which involved surveys conducted with 54 Owner-Managers of Lifestyle Enterprises (OME) and 8 experts in Sri Lanka, aimed at investigating whether Lifestyle Enterprises exhibit a tendency to be growth averse. In response to the presentation, Shimoda, the discussant, acknowledged the study’s significance in contributing to policy formation, particularly regarding the formalization of the informal sector, and praised the ample sample size. Furthermore, Shimoda suggested that a more comprehensive analysis could be achieved by providing insights related to various aspects of owner-managers, such as age, gender, education, life stage, and other relevant factors, considering Sri Lanka’s specific context, and encompassing various types of lifestyle enterprises, including street vendors, manufacturer and distributors.

Shimoda also raised questions, seeking clarification on the definition of lifestyle enterprises, exploring the relationship between the informal sector and lifestyle enterprises, and inquiring about the perspectives of the 10% of respondents who expressed a growth-oriented outlook. Additionally, questions from the audience addressed the motivations behind OMEs’ business establishment, the targeted company sizes, and the educational levels of the samples.

[B1-04] Regional Educational Disparities in China: A Shapley Decomposition Analysis

Feng LI conducted an analysis using Shapley decomposition to examine regional and educational disparities caused by China’s Hukou (household registration) system. The results reported improvements in educational access in China due to economic development, particularly for the younger generation. The study also found that the Hukou influenced educational disparities between 2010 and 2018, while regional disparities were smaller than initially anticipated.

In response to the presentation, participant Daimon acknowledged the significance of the research and proceeded to inquire about the relationship between “sent down” policy and urban status. Daimon also raised questions regarding polarization and the feasibility of obtaining data at the village level. Additionally, comments from the floor suggested the need for analysis at the local level and explored the possibility of comparative studies with other regions.

総括

The session offered a fresh perspective on the multifaceted nature of “economy.” I was impressed by the innovative and original viewpoints presented in each presentation. Overall, the lively exchange of opinions made it a meaningful session. I would like to express my heartfelt appreciation to the presenters for their insightful papers and well-prepared presentation slides, and to the discussants for their meticulous comments and questions while preparing their slides. I also extend my gratitude to all the participants who actively participated in the question and answer sessions.

Reporter: Akio Nishiura (Soka University)


[B2] 国際協力(個人・英語)

  • 12:30 〜 14:30
  • 座長:佐藤 寛(開発社会学舎)
  • コメンテーター:西川 芳昭(龍谷大学)、高田 潤一(東京工業大学)
  1. [B2-01] Local Resilience in agricultural globalization: A Study of the Oolong Tea Industry in Vietnam
    Yunxi WU (Kyoto University)
  2. [B2-02] A study on the verification of the educational support project in Kumamoto Laos Friendship Association
    Hanami SAKAI (Kumamoto University)
  3. [B2-03] Significance of DSI in the Arena of the Convention on Biological Diversity for International Development
    Mikihiko WATANABE (University of Yamanashi)

コメント・応答など

本セッションでは英語による三本の報告があった。

第一報告は京都大学のYunxi Wu会員がLocal Resilience in agricultural globalization: A Study of the Oolong Tea Industry in Vietnamとして、台湾のビジネスも関与しているベトナム高地における輸出志向型ウーロン茶生産と地元の起業家の関係に関するケーススタディに基づいた報告があった。

コメンテーターの高田潤一会員らは、なぜこれらケースが選ばれているのか、事例の代表性、他地域への応用可能性などについて質問があった後、Wu会員がプレゼン資料に用いたAI絵画の妥当性について指摘があった。

聴衆に現地をイメージしてもらうための架空の風景をプレゼンの背景に使用することの、事実誤認誘導や虚偽性などについて興味深い議論があった。

第二報告は熊本大学のHanami SAKAI会員よりA study on the verification of the educational support project in Kumamoto Lao Friendship Associationと題して、熊本出身で元駐ラオス大使の坂井弘臣氏が立ち上げた熊本の市民団体の活動を取り上げ、ラオスの農村部の学生に奨学金を送る活動の評価とその将来的な持続可能性についての考察を行った。

高田会員からは、組織の内部資料等の情報をどのように収集したのか、本研究で用いた評価手法は地方のNGOに適しているのか等のコメントがあった。

1990年代から2000年代頃に日本各地で立ち上がった有志による特定途上国への支援NGOは、その多くが現在世代交代の時期を迎えており、当初のミッションの喪失や創設者の影響力の低下などで持続可能性の危機に瀕している。

本研究はこうした他の事例との比較の糸口になると有意義であろう。

第三報告は山梨大学のMikihiko WATANABE会員による、Significance of DSI in the Arena of the Convention on Biological Diversity for International Developmentと題する報告で、Digital Sequence Information の活用に関するやや専門的な内容であったが、コメンテーターの西川芳昭会員が生物多様性に関する国際条約の流れなどを整理したうえで、データの共有のメリットとコストについての議論があった。

三報告を通じて参加者は10人弱であったが、それぞれの報告に即した議論を行えたことは有意義であった。

報告者:佐藤 寛(開発社会学舎)


[B3] 移民・難民(個人・日本語)

  • 14:45 〜 16:45
  • 座長:内海 悠二(名古屋大学)
  • コメンテーター:林 裕(福岡大学)、小林 誉明(横浜国立大学)
  1. [B3-01] 難民の教育:人間の安全保障の観点からの検討
    小松 太郎(上智大学)
  2. [B3-02] 往来する外国ルーツの子どもの母語・継承語教育― 在日ネパール人が運営する母語教室の事例から―
    田中 雅子(上智大学)
  3. [B3-03] ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるマイグレーションの変遷:人口流入、人口流出と平和構築
    片柳 真理(広島大学)

コメント・応答など

本セッションでは3つの報告がなされた。

一つ目の報告は小松太郎会員(上智大学)による「難民の教育:人間の安全保障の観点からの検討」であった。教育セクターに対する人間の安全保障における理論的枠組みとして「保護とエンパワーメント」、「学びの継続」、「国際社会の責任分担」という3つの側面が説明され、これらの側面からヨルダン補習教育プログラムにおける意味と課題が報告された。

コメンテーターの林裕会員から、ホスト国(第一次庇護国)における負担やホスト国への国際支援の重要性が説明され、ホスト国への支援の重要性が国際社会で認識されているにも関わらず、実際には継続的な支援が実施されていない理由について質問・コメントが挙げられた。

二つ目の報告は、田中雅子会員(上智大学)による「往来する外国ルーツの子どもの母語・継承語教育-在日ネパール人が運営する母語教室の事例から-」であった。日本に在住する外国ルーツの子供たちに開放される母語教育を持続的に運営するための課題と努力について、複数の母語教室を事例として運営者とのインタビュー結果と運営形態に関する詳細な結果が報告された。

コメンテーターの林裕会員から、母語・母文化修得よりも日本社会への統合・日本語教育が優先されている社会や、家族滞在者よりも永住者が優先される現状について説明があり、詳細なフィールドワークの実施を評価すると同時に、ネパール人を取り上げる意味やインタビューで得た関係者の生の声をより深く知りたいといったコメントが挙げられた。

三つ目の報告は、片柳真理会員(広島大学)による「ボスニア・ヘルツェゴビナにおけるマイグレーションの変遷:人口流入、人口流出と平和構築」であった。ボスニア・ヘルツェゴビナを事例として、マイグレーション理論をもとに紛争中から紛争後にかけて人々が移動する理由や移動の是非を決める選択(願望・能力)に関する理論的考察が説明された。コメンテーターの小林誉明会員(横浜国立大学)からはマイグレーション理論が他国の事例に適用される場合にどのような課題があるのかが説明されるとともに、移動の是非を決める選択は願望の前に選択を入れることでさらに詳細なモデル(選択・願望・能力)とすることも可能である等のコメントが挙げられた。

総括

会場の参加者が多いというわけではなかったが、セッション時間を通して終始アットホームな雰囲気があり、会場からも様々な質問が挙げられるなど、とても活発な意見交換の場となった。報告会員によるしっかりとした理論に基づく考察や説明がなされたことや、地に足のついた長年のフィールドワークによる知見が報告されたこともあり、質問やコメントに対する更なるコメントが挙げられるなど、質問者と回答者だけではない議論が行われてたことが印象的であった。

報告者:内海 悠二(名古屋大学)


[D2] 環境(個人・日本語)

  • 12:30 〜 14:30
  • 座長:大塚 健司(ジェトロ・アジア経済研究所)
  • コメンテーター:佐々木 大輔(東北大学)、日下部 尚徳(立教大学)
  • 聴講人数:20名
  1. [D2-01] バヌアツ離島集落のおけるコミュニティベースのサイクロン対応
    藤枝 絢子(京都精華大学)
  2. [D2-02] インドネシア都市スラムのサニテーションを取り巻く人びとの係り合いと開発協力
    池見 真由(札幌国際大学)
  3. [D2-03] バングラデシュ南西沿岸部における NGOによる給水施設の設置-地域の有力者の役割に着目して-
    山田 翔太(立教大学)

コメント・応答など

藤枝会員報告は災害頻発国バヌアツでのフィールドワークを踏まえたコミュニティレベルでの災害対応についての報告であった。

質疑応答では防災教育のあり方、SNSの活用方法、災害対応の課題、行政と住民の関係など多岐にわたる議論が行われた。災害対応組織の役割など国家とコミュニティの関係についてさらに深められるとよいと感じた。

池見会員報告は総合地球環境学研究所のプロジェクトで行われてきた研究者と現地の人びと(非研究者)とのトランスディシプリナリー研究のプロセスやその成果に関するものであった。

多様なステークホルダーの協働による取り組みにおけるインセンティブや価値、イニシャルコストや維持管理コスト、公共私の空間認識など幅広い議論が行われた。本報告で提起されたサニタリーバリューチェーンというコンセプトがどのように研究者と現地住民の間で共有されてきたのかというプロセスが興味深いところであった。

山田会員報告はバングラデシュで大規模に実施されている村落小規模水道の設置にあたって、地域の有力者の利害が大きな要因であることを指摘したものであった。

ヒ素汚染に比べて塩水化は直接知覚できることから住民の関心が高いこと、管理においてはケアテーカーが担っていること、NGOが請け負った事業であるが前身は外国援助機関によるプロジェクトに由来するものであることなどが質疑応答の中で明らかにされた。

集落単位ではなく個人単位での水道敷設が望ましいという結論についてはさらなる検討が必要と感じた。

総括

テーマは災害、衛生、水道、国はバヌアツ、インドネシア、バングラデシュといずれも異なる対象を扱った報告であったが、現地調査を踏まえた具体的な事例をもとにした考察は大変興味深く、参加者からの質問やコメントも活発で集まった参加者の間での関心の高さをうかがうことができた。

今後、各事例研究を広く先行研究の中で位置づけることによって学術的かつ社会的な貢献をより明確にして、論文発表がなされることを期待したい。

報告者:大塚 健司(ジェトロ・アジア経済研究所)


[D3] 保健・福祉(個人・日本語)

  • 14:45 〜 16:45
  • 座長:杉田 映理(大阪大学)
  • コメンテーター:松山 章子(津田塾大学)、西野 桂子(関西学院大学)
  • 聴講人数:20名
  1. [D3-01] ノンフォーマル教育をエントリー・ポイントとする女性たちの社会参加と自己実現-ブータン農村部における地域保健医療とビレッジ・ヘルスワーカー-
    佐藤 美奈子(京都大学)
  2. [D3-02] サブサハラアフリカの出生率低下は持続するか?
    大橋 慶太(国連人口基金)
  3. [D3-03] 社会的に構築された障害への批判と社会的実践によるその変革ータイ障害者の経験と語りを通じて
    横山 明子(大阪大学人間科学研究科)

コメント・応答など

第1報告者の佐藤美奈子会員の報告に対し、ブータン王国での調査の経験を持つ西野会員からコメントがなされた。ブータンでの現地調査はかなり困難が伴うと推察され、それを乗り越えて調査を実施していることがまず評価された。

さらに、本研究は、ノンフォーマル教育(NFE)を通してリテラシーを得た農村の女性たちがVillage Health Workerとして地域保健医療活動に参与する道を拓くことを目的とした、多角的な調査結果に基づく政策提言を主とする研究であると評された。

一方、グローバリセーションの影響を鑑みて、政府だけではなく、女性たちの自己実現を促すには民間の力も視野にいれて研究する必要性が指摘された。佐藤会員からは、能力をつけた人がオーストラリアに移住してしまう事例も見られることが報告された。

第2報告はサブサハラアフリカの出生率低下について、大橋慶太会員からの報告であり、松山会員からは、本研究はプロダクティブヘルスの観点からも、またアフリカにおいても既に議論され始めている今後の高齢化社会の課題を考える上でも、重要なテーマで学術的意義が高いと評価された。

一方で、セネガルとケニアを比較し、文化・社会的要因に着目しながらも、出生率の近成要因モデルを用いた分析方法を利用することや、国単位で分析することの妥当性について問われた。

中絶に関する信頼性の高いデータ収集は難しいが、例えばGuttmacher Instituteなどが出しているデータを検討することの助言があった。

第3報告の横山明子会員の発表に対するコメントは、再び西野会員が行った。

本研究は、タイ障害者への現地語でのインタビューを通じて、障害者への差別構造と変革主体・アプローチの分析を試みる意欲的な研究であると評価された。

研究対象のタイは、経済発展が著しい反面、政治的な混乱が続いており、加えて「前世の行い」という宗教的思想も差別や偏見につながっていることが指摘された。

また、3つの用語Impairment (a problem with a structure or organ of the body), Disability (a functional limitation with regard to a particular activity), Handicap (a disadvantage in filling a role in life relative to a peer group) のタイ語におけるニュアンスについて質問がなされた。

総括

3つの報告は、それぞれ異なる地域、異なる切り口での研究内容であったが、広くヘルスの課題を地域の視点からとらえようという共通性があったと言える。

それぞれが意欲的な研究であった。また、会場が普段の学会ではあまり利用経験のない横長の形状であったが、結果的に、参加者(オーディエンス)と発表者の距離が近く、質疑応答も活発に行うことができた。

報告者:杉田 映理(大阪大学)


[E2] 国際協力(個人・日本語)

  • 12:30 〜 14:30
  • 座長:山形 辰史(立命館アジア太平洋大学)
  • コメンテーター:林薫(グローバル・ラーニング・サポート・コンサルタンツ)、志賀裕朗(横浜国立大学)
  • 聴講人数:30名
  1. [E2-01] ナレッジマネジメントから見た国際協力の有効性
    河田 卓(株式会社ナレッジノード)、林 俊行(Nyika Energy Consultant)、佐藤 伸幸(日本テクノ株式会社)
  2. [E2-02] 新型コロナウィルス感染症拡大と国際ボランティアの一斉帰国一 JICA海外協力隊を事例としてー
    河内 久実子(横浜国立大学)
  3. [E2-03] 現代社会における「流通」の役割と社会経済システムへの影響
    安部 雅人(東北大学)

コメント・応答など

E2「国際協力」セッションは多様な3つの報告に関して議論が行われた。

第一報告の河田卓・林俊行・佐藤伸幸「ナレッジマネジメントから見た国際協力の有効性」は、技術協力を行うに際し、(1)コメンスメント、(2)アダプティブ、(3)インクルーシブ、(4)インサイドアウト、という4つの要素を満たすことで、プロジェクトが有効に実施されると主張した。

それを示すに際し、バングラデシュにおけるクリーンダッカ・プロジェクト、パキスタン・パンジャブ州における上下水道管理能力強化プロジェクト、日本の学校法人アジア学院の研修プロジェクトの円滑な実施が、これらの4つの要素を基準として確認することの有効性を示した。

第二報告の河内久実子「新型コロナウィルス感染症拡大と国際ボランティアの一斉帰国―JICA海外協力隊を事例として―」は、新型コロナ感染拡大のために一時帰国を余儀なくされた青年海外協力隊員、シニア隊員、計17名に対してインタビューを行い、突然の帰国に関する効果を分析したものである。

帰国した隊員の感情は大きく分けて「落胆型」と「安堵型」に分けられることが検出された。「同じ境遇の人と情報共有や気持ちの共有をする場があれば、隊員の不安を和らげることができる」ということが一つの結論である。

第三報告の安部雅人「現代社会における「流通」の役割と社会経済システムへの影響」は、SDGsにおいても一定の役割を果たす「流通」を分析対象として取り上げた研究である。

流通の対象をモノ、ヒト、カネとし、モノは「ビジネス」、「商社」、「公共」、「輸送」(中単元)にさらに分割した。それぞれの中単元ごとに4つの様態を指定し、6×4の「流通マトリックス」を定義する。各セル(モノ×4,ヒト、カネ)×4の現状を詳述したことで研究成果とした。

3報告の間の共通性は小さい。それぞれの議論の妥当性、他の事例への適用可能性が課題として討論者から示された。

2時間のセッションを通じて、30人程度の聴衆が参加した。

報告者:山形 辰史(立命館アジア太平洋大学)


[E3] 文化と開発(個人・日本語)

  • 14:45 〜 16:45
  • 座長: 真崎 克彦(甲南大学)
  • 討論者: 関根 久雄(筑波大学)、佐野 麻由子(福岡県立大学)
  • 聴講人数:30名
  1. [E3-01] インドネシアにおける食料消費の現状と変化:西ジャワ農村の事例
    伊藤 紀子(拓殖大学)
  2. [E3-02] 小規模支援のインパクト分析 -ソーラーランタン支援事業の事例より
    柏﨑 梢(関東学院大学)
  3. [E3-03] 頭脳流出から頭脳流入へ:スーダン人高度人材の母国貢献意識に着目して
    黒川 智恵美(上智大学)

コメント・応答など

本セッションでは関根久雄会員と佐野麻由子会員をコメンテーターとして迎え、以下の3名の会員による報告があった。

最初は伊藤紀子会員による「インドネシアにおける食料消費の現状と変化:西ジャワの事例」であった。西ジャワ州タシクラヤ県の稲作地帯で、近代食が身近になるにつれていかに伝統食をめぐる考えや摂取行為が変わってきたのかについての現地調査の成果である。

双方を摂る食習慣が根づくようになった今日でも、調査対象の女性の間では自覚的かつ主体的に伝統食に価値を見出されていることが分かった。

コメンテーターからは、「近代食」と「伝統食」という二項対立に関して次の課題が指摘された。第一に、たとえば伝統食の要素が入った近代食、または近代知によってリアレンジされた伝統食など、食の現状は「近代なのか、伝統なのか」という二分法だけでは把握できないはずであり、住民の視線に沿った理解が欠かせない。

第二に、「伝統食は健康に良い」と考えているという住民の認識自体も、近代知に拠るものであろうから、同じく「近代なのか、伝統なのか」という分類では説明し尽くされない。

続く柏﨑梢会員の「小規模のインパクト分析―ソーラーランタン支援事業の事例より」では、ベトナム山間民族集落のための活動が紹介された。国際協力事業のもと、ソーラーランタンが学校を通して子供に供給され、学校と家庭の連携が強まり、また保護者の教育意識も高まるとともに子供の自己肯定感が向上した。

こうした支援活動は身の丈に合ったものであったため、在来の生活様式に大きな影響は与えていないことも分かった。限定的な光源であることから文化面や慣習面における影響はほとんどみられない。

コメンテーターからは、今後の課題として次の点が指摘された。ランタンの文化的な影響の有無や程度について論じる際、住民が限定的な光源をどのように捉えているのかについて、さらに深く検証されるべきではないのか。

また、ランタンによって勉強の習慣がついて子どもの自己肯定感が醸成された、という指摘があったが、それらはランタンだけでもたらされたことなのだろうか。1つの事象が単一の要素だけで構成されることはほとんどなく、他の種々の要素も併せて考察することが欠かせない。

最後に黒川智恵美会員による「頭脳流出から頭脳流入へ:スーダン人高度人材の母国貢献意識に着目して」が報告された。エジプトと日本への移民や難民、帰還民の間では、母国への貢献の意志は、イスラム社会の価値観や個人の母国や移住先との関係に左右されている。

母国貢献の思いは身近な人との互助共同体の構築に表れている。現在進行中の紛争を解決することで、そうした「私の国への恩義は身近な人への貢献として返還したい」という気持ちが活かせるようにすべきである。

コメンテーターからは今後の課題として次が挙げられた。第一に、家族、親族、コミュニティというものがクローズアップされておらず、国家という抽象的存在が前景化されている。

最後の「国への恩義は身近な人への貢献として返還したい」という部分をもっと具体的に説明すべきである。第二に、報告者は頭脳流出の類型化を行ったが、1人の人間は複数の型にまたがったり、状況に応じて往還したりするものではないか。そうである場合、1人の人間が型を変えるときの文脈も注目すべき点になるのではないか。

総括

3名の会員による報告は、それぞれが「文化と開発」を考える上で有用な事例であった。セッション全体としても、コメンテーターのインプットで「文化と開発」について主要論点が浮き彫りにされた。

報告者:真崎克彦(甲南大学)


[G1] オンラインセッション

  • [オンライン口頭発表]
  • 座長:川口純(筑波大学)
  • コメンテーター:戸田隆夫(明治大学特別招聘教授)、新海尚子(津田塾大学)
  • 参加者:約12名
  • [G1-01] A Making of Cambodian Teacher Education: Competition and Coordination among Donors, Ministry, Teacher Educators, and Future Teachers
    Takayo OGISU (Sophia University)
  • [G1-03] 農村における気候変動適応活動のアプローチ:エチオピア国の事例より
    久保 英之(地球環境戦略研究機関)三浦 真理(国際協力機構)

コメント・応答など

本セッションはオンラインにて、2名の会員(荻巣崇世会員、久保英之・三浦真理会員)のご発表が行われ、各発表に対して1名ずつの指定討論者がコメントを付した。参加者は累計で12名程であった。

まず荻巣会員のご発表では、カンボジアの教員養成について、特に2013年の改革以降のドナー間の国際協調や競争の実態について報告がなされた。多種多様なドナーが各々のプロジェクトを進行させていく中で、カンボジア教育省のオーナーシップの重要性や学校現場の教員の教育観にも焦点化された示唆に富む発表であった。

荻巣会員の発表に対しては、戸田隆夫会員より、カンボジアの凄惨な歴史とその中でも教育関係者たちが“より良い教育”を実施すべく尽力してきた経緯を踏まえつつ、未来志向の建設的な研究を実施するよう、熱いコメントがなされた。

次に、久保会員らの発表では、エチオピアの農村を対象に気候変動に対応する活動について、その妥当性を検討する報告がなされた。特に、新しいコンセプト(適応、レジリエンス)を導入することで現場がどう変わり得るのかについて議論がなされた。

久保会員らのご発表に対しては、新海尚子会員から、水関連の災害が気候変動の中でも貧困層により大きな影響がある中で、影響、評価についてもコンテクストに応じて考えることが重要とのコメントがなされた。また対象者についても、女性、子供、高齢者、障害者等、気候変動の影響力を受けやすい人々に寄り添う重要性も指摘された。

報告者:川口純(筑波大学)


その他の座長報告




第33回全国大会セッション報告(企画セッション)

企画セッション


B-2.ウクライナ紛争と中東・北アフリカ地域の食糧不安・危機
――レバノン・エジプト・チュニジアの事例より

  • 2022年12月3日(土曜)09:45 ー 11:45
  • 企画責任者:井堂有子(日本国際問題研究所)
  • 司会:佐藤寛(アジア経済研究所)
  • 討論者:河村有介(神戸大学)

発表題目と発表者

  1. 「中東・北アフリカ地域における食糧安全保障の共通課題―構造的脆弱性の背景―」
    井堂有子(日本国際問題研究所)
  2. 「レバノンの食料不安―金融危機と難民流入―」
    土屋一樹(アジア経済研究所)
  3. 「エジプトにおける食糧『危機』が直撃する脆弱層」
    岩崎えり奈(上智大学)、井堂有子(日本国際問題研究所)
  4. 「チュニジアにおける食料安全保障の構造的課題と食料主権」
    山中達也(駒澤大学)

第33回大会全体テーマ「グローバル危機にどう立ち向かうべきか―紛争、食料高騰、飢餓」に呼応する形で、本企画は「ウクライナ紛争と中東・北アフリカ地域の食糧不安・危機」というテーマで4つの報告を行った。

2022年2月に発生したロシアのウクライナ侵攻と黒海封鎖、さらに対ロシア経済制裁は、サプライチェーンを通じて相互依存を深めてきた世界全体に衝撃を与えたが、特に主要穀物を両国からの輸入に大きく依存してきていた中東・アフリカ地域は直接的打撃を受けた。

本企画セッションでは、中東・北アフリカ(MENA)地域の共通課題とともに、特に注目されるレバノン、エジプト、チュニジアの個々の構造的課題を掘り下げることを目的とした。

ウクライナ戦争以前から、同地域は2010-11年以降の幾度かの「アラブの春」、広範囲な抗議行動、世界的感染拡大、金融危機、極度のインフレ、気候変動による異常気象といった複合危機にすでに見舞われてきていた。こうした中での黒海封鎖は、この地域の食糧不安をさらに深刻化させ、政治危機を招く要因になりうる。

第一の発表は、企画の趣旨説明として、約6億の人口を擁するMENA地域に共通する構造的課題の論点整理(気候変動への脆弱性、穀物輸入依存、「社会契約」としての食糧補助金、食糧援助)を行った。この地域では主要穀物(小麦)を国内生産でではなく海外輸入に依存する傾向が強まってきたが、この背景として、農業生産向上を阻む気候・地理条件に加え、広く実施されてきた食糧補助金制度、外部要因としての食糧援助の影響を指摘した。

第二の発表では、ウクライナ危機以前、レバノンが既に深刻な金融危機(世界ワースト3位内)や政治的混乱、財政破綻等、度重なる危機に直面していたことが解説された。この背景として、脆弱な経済構造(送金・観光経由の外貨頼み、対外債務高)に加え、レバノン人380万~500万人に対してシリア難民150万人とパレスチナ難民1.6万人の受入れ等、元々厳しい状況にあったところ、低い小麦自給率(20%)もあり、黒海封鎖で市民と難民双方の食糧不安がさらに深刻化したことが報告された。

第三の発表では、小麦輸入大国エジプトの家計調査データ(2010年代後半)の分析から、食糧不安に最も脆弱な層と彼らの生存戦略の詳細が明らかにされた。エジプトの小麦輸入相手先は米国一辺倒から多角化の時代を経て、2020年頃にロシア・ウクライナに集中するようになっていた。食糧補助金の大半を占める小麦のパン配給制度は同国の「社会契約」を象徴してきたが、危機の際には脆弱層の命の綱となってきたことが報告された。

第四の発表では、革命期チュニジアの政治経済危機に関して、経済構造の諸課題が詳細に解説された。「アラブの春」唯一の成功例とされたチュニジアであっても、残存する縁故資本主義で硬直化した市場とFDIの停滞、30%もの高学歴失業者、インフォーマル部門の肥大化、財政赤字と対外債務の増大、低生産で脆弱な農業部門の現状により、コロナ禍以前において国民の4人に一人が中程度以上の食糧難に直面していた。こうした構造的悪循環を脱するため、国内穀物の半分を生産する小規模農民を中心としたチュニジアの市民社会による食料主権の樹立を求める動きが紹介された。

討論者からは、地域の共通課題に対して、ロシア・ウクライナ産穀物への過度な輸入依存には経済的要因だけでなく政治的要因もあるのか、なぜ一般的な社会保障制度よりMENA地域では食糧補助金が大きな役割を果たしているのか、との質問がなされた。

個別発表に対しては、(1) レバノンでのシリア難民受入れ、パン価格引き上げへの国民の反応、国連の支援スキームの多くが現金給付であるのはなぜか、(2) ウクライナ危機がエジプトの社会保障改革に与える影響、(3) チュニジアにおける食料主権の主体は誰なのか、あるべき農業政策(戦略)とはどのようなものか、といった質問がなされ、発表者との議論が続いた。

初日午前の時間帯であったにもかかわらず、対面・オンライン併せて40名程度の参加を得た。

(報告:井堂有子)


B-3.中東における『障害と開発』

  • 2022年12月3日(土曜)12:50 ー 14:50
  • 企画責任者:森 壮也(ジェトロ・アジア経済研究所)
  • 討論者:小林 昌之(ジェトロ・アジア経済研究所)、長田 こずえ(名古屋学院大学)、細谷 幸子(国際医療福祉大学)、小村 優太(早稲田大学)、長沢 栄治(東京大学)、戸田隆夫(明治大学)

発表題目と発表者

(報告:森 壮也)


B-4.信頼と開発協力:研究の到達点と今後の課題

  • 2022年12月3日(土曜) 12:50 ー 14:50
  • 企画責任者:石塚 史暁(東京大学)
  • 座長:佐藤仁(東京大学)
  • 討論者:佐藤 寛(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

発表題目と発表者

  • 大塚 高弘(独立行政法人国際協力機構)
  • 林 伸江(独立行政法人国際協力機構)
  • 大友 彩加(独立行政法人国際協力機構)

冒頭、座長より本テーマの意義について触れた後、事例分析の結果についての結果について3名(林:留学生受入事業、大塚:ボリビア国水資源管理技術協力、大友:フィリピン鉄道マスタープラン。いずれも所属は国際協力機構)より発表した。

発表では、いずれも信頼と開発協力に係る問題を、過去の事例分析を通じて扱った。林は関係者間の信頼関係が留学生の満足度に与えた影響、大塚はカウンターパートが頻繁に交代する国・地域における信頼の引継ぎ、大友は過去の実績の蓄積による信頼と案件実施中に新たに構築される信頼の構築過程を統合的に分析した。

これに対し、討論者(佐藤寛・アジア経済研究所)より、日本の地方部における外国人に対する信頼の問題や、ODAの技術協力スキームにおける信頼の位置づけ、開発協力における信頼の構成要素などについてコメントがあった。加えて、フロアの参加者からも以下のような質問・コメントがあり、座長・発表者を交えて活発な意見交換を行った。

「信頼」は「安心」や「信用」と区別して議論すべきではないか。

(留学生の)満足度と信頼はかならず相関するものといえるのか。

(モノなど)非人間的な要素に対する信頼はありえるか(信頼はどこまで属人的か)。

日本企業以外が受注するアンタイド案件における日本への信頼はどう考えられるか。

時代の変化に伴って開発協力における信頼の役割はどのように変化してきたか。

個人・組織・国という信頼の主体を区別して議論すべきではないか。

信頼は開発の目的になりえるのか(現場としては違和感あり)。

信頼の効果を捉えるため信頼が得られなかった案件との比較をしてはどうか。

セッションで提示された問いの幅は、開発研究における信頼というテーマがさらに深堀すべき要素を多く含んでいることの証左である。今後も、研究を継続したいという気持ちを強くした。なお、セッション参加者は約60名(会場:約15名、オンライン:約45名)で、議論は大変活発であり、この分野に対する高い関心が感じられた。

(報告:佐藤仁)


B-5.The ‘Easternisation’ of Development: The politics of East Asia’s Developmentalist Cooperation

  • 2022年12月3日(土曜)16:50 ー 18:50
  • 企画責任者:伊東 早苗(名古屋大学)
  • 司会:藤川 清史(愛知学院大学)
  • 討論者:佐藤 仁(東京大学)、KIM Soyeun(Sogang University)

発表題目と発表者

  1. ”The Easternization of Development: The Politics of East Asia’s Developmentalist Cooperation”
    伊東 早苗(名古屋大学)
  2. ”The Politics of East Asian Developmentalism: Paradigms, Practices and Prospects of Foreign Development Assistance”
    von Luebke Christian(コンスタンツ応用科学大学)
  3. Huan Meibo(上海対外経貿大学)
  4. Wang Zhao(上海対外経貿大学)

本企画セッションは、対面とオンライン合わせて約30名ほどの参加者があり、盛況であった。藤川清史会員(愛知学院大学)による司会のもと、4名による研究報告を予定していたが、大会直前になって、急遽、上海対外経貿大学の報告者2名(Meibo Huan氏 およびWang Zhao氏)が不参加となった。

彼らの報告を期待して参加くださった会員の皆様には、深くお詫びしたい。一方で、報告者2名(Sanae Ito, ”The Easternization of Development: The Politics of East Asia’s Developmentalist Cooperation”およびChristian von Lübke, ”The Politics of East Asian Developmentalism: Paradigms, Practices and Prospects of Foreign Development Assistance”)の報告後、討論者2名(佐藤仁会長/東京大学、およびSoeun Kim会員/Sogang University)およびフロア全体を巻き込む諸議論に十分な時間を費やすことができ、その意味で、大変有意義なセッションであった。

2名の報告内容は、ポスト2015時代における開発協力のパラダイムシフトと、近年の、日本、韓国、中国による国益重視型開発協力をめぐる政治的力学を「開発主義国家」概念と合わせて論じるものであった。

報告者によると、国益重視の開発協力は、「持続可能な開発目標SDGs」を推進する国際社会が民間セクターとの協働を促進する動きと連動している。また、それぞれの東アジア諸国が「非欧米型開発モデル」という言説を掲げ、欧米先進国が先導する開発アプローチに代わる「オータナティブ」を標榜しがちな状況とも連動しているとする。

具体的な事例として、日本政府による「質の高いインフラ事業」がとりあげられ、日本企業によるインフラ投資を促進するためにODAが戦略的に使われていることを「開発主義国家的な産業政策の復活」として議論した。

討論者からは「開発の東洋化」という概念にどのような意味があるか、また、国内産業の振興を目的とする産業政策が外交面で開発協力政策と接続する場合の距離感等についてコメントおよび質問があった。さらに、「開発の南化」や「Blended Finance」といった概念に関わる研究と実践上の動向について、知見の共有がなされた。

フロアからは、グローバル社会の動向と東アジアの動向を区別できるか、開発実践の現場における民間企業の本音はどこにあるか、といった論点が指摘された。また、開発主義国家の定義や、その多様な側面について当該分野の専門家からコメントがあり、学びの多い議論につながった。

(報告:   )


B-6.包摂的な産業開発は可能か―アフリカにおけるものづくりの現場から

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:井手上 和代(明治学院大学)
  • 討論者:黒川 基裕(高崎経済大学)、渡邉 松男(立命館大学)

発表題目と発表者

  1. 「アフリカにおける製造業の『失われた中間』を問い直す―ソファ製造の多系的発展の事例から―」
    高橋 基樹(京都大学)
  2. 「ケニアの小規模零細金属加工業者のものづくりと資金調達 ―企業者的能力に着目して―」
    井手上和代(明治学院大学)
  3. 「支援を渡る―政府と国際援助機関によるエチオピア皮革産業の現地企業への影響―」
    松原加奈(東京理科大学)
  4. 「ザンビア・ルサカにおける障害者団体の技能訓練と生産活動―技能形成に着目して―」
    日下部 美佳(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

本セッションには、対面で11名、オンラインで11名の参加があった。本セッションは、「アフリカ・アジアにおけるものづくり」研究部会の活動を踏まえ、その成果を学会に還元することを念頭に置いて企画したものである。

アフリカ諸国が21世紀初頭からの高度成長を経てかえって強まった資源・一次産品への依存からの構造転換のために、ものづくり・製造業の現状を、実証研究を通じて考察することが要請されている。そこで必要なことは、多くの人が経済活動の担い手として参加する包摂的な開発が実現されてゆくことである。

最初の報告「アフリカにおける製造業の『失われた中間』を問い直す―ソファ製造の多系的発展の事例から―」(高橋基樹会員・京都大学)では、ケニア・ナイロビのソファ製造の複数のクラスターを取り上げ、製品について生じた革新的な知識が異なる業者の間で容易に共有される開放的なケースと知識が秘匿される閉鎖的なケースがあることが指摘された。それは従来の「失われた中間」=二重構造論では捉えきれない多系的な発展とそれに応じた包摂が生じている可能性を示唆するものである。

続く「ケニアの小規模零細金属加工業者のものづくりと資金調達 ―企業者的能力に着目して―」(井手上和代会員・明治学院大学)では、ナイロビの金属加工業の資金調達と企業者能力について、製品と技術(機械化の程度)が異なる二つの地区の業者への聞き取り調査に基づき論じた。長期資金需要の相対的多さにもかかわらず、金融市場における機会が狭められており、機械化の進んだ事業者も自己資金への依存率が高く、金融機関からの借り入れが限られていることが分かった。事業者の企業者能力はそうした生産環境の負の要因を補うために発揮されている。

「支援を渡る―政府と国際援助機関によるエチオピア皮革産業の現地企業への影響―」(松原加奈会員・東京理科大学)は、最初にエチオピアの革靴産業と産業政策の歴史を跡付けた。それを踏まえて、異なる3つの規模の企業が受けてきた支援を詳述し、小企業にも政府による外国援助を活用した支援が及んでいることを指摘する。各企業は異なる複数の支援を渡りつつ恩恵を受けるものの、逆に支援を渡ることができずに廃業に追い込まれる場合があり、包摂が不均等なかたちで生じていることが示された。

「ザンビア・ルサカにおける障害者団体の技能訓練と生産活動―技能形成に着目して―」(日下部美佳会員・京都大学博士課程)は、福祉用具に携わる障害者団体の活動に着目し、個々人の技能の熟練及び多能工化と活動参加前の教育や技能の習得とがどのように関わっているかについて考察した。技能形成とものづくりという障害者の開発への主体的な参加が団体の存在によって可能となっている。

各報告に対して黒川基裕会員(高崎経済大学)、渡邉松男会員(立命館大学)から、理論的枠組みを踏まえた議論の陶冶に向けた助言や、考察をさらに深めるための問題の提起がなされた。これらは上記研究部会での議論を進展させるために非常に有益なものであり、本セッションを開催した意義を確認することができた。

(報告:井手上 和代)


B-7.開発途上国におけるミクロ実証分析

  • 2022年12月3日(土曜)09:45 ー 11:45(オンライン発表)
  • 企画責任者:島村 靖治(神戸大学)
  • 討論者:樋口 裕城(上智大学)、倉田 正充(上智大学)、會田 剛史(アジア経済研究所)

発表題目と発表者

  1. 「女性自助組織活動と公的雇用保証政策は女性の民間での雇用にどのような影響を及ぼしたのか?―インド・アーンドラ・プラデーシュ州農村部の事例―」
    佐藤 希(愛知学院大学)
  2. 「地域内における資源配分と消費水準との関係の探求―マラウイの農業用投入資材補助金政策を事例としてー」
    藤田 茜(神戸大学)
  3. 「インドネシア医療ボランティアの活動報酬に対する選好―離散選択実験による実証分析―」
  4. 劉 子瑩(神戸大学)
  5. 「ベトナム中部の村落医療施設における医療従事者の利他性の分析」
    島村 靖治(神戸大学)

本セッションでは開発途上国におけるミクロデータを用いた実証分析に関する4つの報告が行われた。

第1の発表では、インド、アーンドラ・プラデーシュ州農村部の女性の自助組織活動と全国農村雇用保障法(NREGA)による雇用保証事業との関係、ならびにNERGAの民間雇用への影響に関する分析結果が報告された。そして、コメントとして、自助組織活動への参加によってNREGAの効果に違いがみられる理由をより丁寧に分析し議論すべきとの指摘があった。

第2の発表では、マラウイの農業投入資材補助金政策を題材に地域内における資源配分と地域全体の平均的な一人あたり消費水準との関係に関する分析結果が報告された。コメントとしては、地域や地域内における資源配分の捉え方の手法を再検討した上で結論についてもより丁寧に議論すべきとの指摘があった。

第3の発表では、インドネシア、ジョグジャカルタ郊外で活動する医療ボランティアの活動報酬に対する選好がボランティアの利他性により異なることを見出した分析結果が報告された。一方で、コメントとして、結果の解釈にあたっては純粋利他性と不純利他性の違いを考慮に入れて行うべきとの指摘があった。

第4の発表では、ベトナム中部の村落医療施設(CHC)で働く医療従事者の利他性の分析を行い、医療従事者の利他性は同じCHCで働く同僚の利他性と強い相関関係があることが報告された。他方、コメントとして、そうした相関が生じる理由がピア効果なのか、社会における職業的なソーティングなのかを峻別すべきとの指摘があった。加えて、医療従事者の人数が増えたCHCほどその効果が大きくなるメカニズムについても探求すべきとの指摘もあった。

そして最後に、4つの発表すべてについての質疑応答の時間があり、それぞれの研究の今後の発展可能性について活発な議論が行われた。

(報告:島村 靖治)


B-8.ジェンダーと開発

  • 2022年12月4日(日曜) 09:30 ー 11:30
  • 司会:高松香奈(国際基督教大学)
  • コメンテーター:菅野美佐子(青山学院大学)

発表題目と発表者

  1. 「バングラデシュにおけるマイクロファイナンスと女性のエンパワメント」
    本間まり子(早稲田大学)
  2. 「ネパールの家族農業における変化への対応」
    甲斐田きよみ(文京学院大学)
  3. 「南スーダンでの全国スポーツ大会を通じたスポーツとジェンダー」
    古川光明(静岡県立大学)

ジェンダー平等と女性のエンパワメントの推進は、持続可能な開発目標(SDGs)をはじめ、開発における重要な取り組み課題として認識されている。しかし、SDGsの達成度やジェンダー格差指数が示すように、これらの課題を解決するための取り組みは、未だに十分であるとは言えない。

こうした状況において、実務者と研究者が活動報告や情報共有、調査や啓発活動のためのアプローチなどを紹介することにより、ジェンダーと開発を考えるうえでの課題や可能性について検討することを目的に「ジェンダーと開発」研究部会が、2022年8月に設立された。

本企画セッションでは、家父長制下で制約を受けている女性に焦点をあて、研究部会の有志会員が関わってきた事例を紹介した。コロナ禍において、女性は以前より増して不利な状況におかれている。しかし、受動的な弱者として位置付けるのではなく、変化を引き起こす主体として位置付けるために、国際協力を通じ何が出来るのか検討した。

セッションの冒頭で、司会の高松会員より、研究部会の目的や活動内容の紹介をおこなった。続いて本間会員の発表では、バングラデシュのマイクロファイナンス事業の参加女性たちの融資金の利用について、コロナ禍の影響と関連した現状及び今後の調査計画が共有された。

甲斐田会員の発表では、ネパールの先住少数民族で最貧困層のダヌワールを対象にした聞き取り調査結果に基づいて、様々な社会経済状況の変化に対する農民の対応を、ジェンダー視点で分析し、性別役割分業やジェンダー規範の影響が報告された。

古川会員の発表では、南スーダンのジェンダーとスポーツに関連して、スポーツ大会がジュバ女性市民のスポーツ参加やスポーツを継続することの認識への与える効果について、質問票調査を通じた検証がなされた。

コメンテーターの菅野会員からは、各研究報告に対してより理解を深めるとともに、今後、研究を更に発展させるためのヒントとなるような質問やコメントが行なわれた。セッション参加者のうち、研究部会の新規登録者が数名あり、今後の活動に繋がった。

(報告:高松香奈)


A. 一般口頭発表

C. ラウンドテーブル

D. ブックトーク、プレナリーほか

第33回全国大会を終えて




第24回春季大会セッション報告(企画セッション)

企画セッション

[C1-01] ブックトーク

企画責任者・モデレーター
学会誌編集委員会・ブックトーク担当:佐藤 寛(開発社会学舎)、島田 剛(明治大学)、芦田 明美(名古屋大学)、道中 真紀(日本評論社)

本ブックトークセッションでは会員による近刊4冊の書籍についての紹介が、著者および出版社の編集担当者よりなされ、出版にいたったきっかけや経緯、苦労等が共有された。

討論者からは、内容を踏まえての貴重なコメントが提供された。参加者は常時30名にのぼり、活発な質疑応答となった。

1. 報告者: 山形 辰史(立命館アジア太平洋大学)

  • 担当編集者: 酒井 孝博(中央公論新社)
  • 報告書籍: 「入門 開発経済学:グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション」(2023年3月、新書判、288ページ、990円)
  • 討論者: 島田 剛(明治大学)

SDGsにおいて実質上の国際開発離れが進み、日本の国際協力は「開発協力」の名の下に、安全保障の一部に組み入れられようとしている。そんな現況において、(1)貧困削減は多くの国・地域で進んだが、いまだに「理不尽な悲惨さ」は残っていること、(2)開発途上国独自の技術革新が、一定程度進んでいて、今後も期待されること、を中心にして本書をまとめた。

開発経済学の入門書ということで企画を開始したが、経済学を学んでいない読者層を念頭に置いて執筆した。立命館アジア太平洋大学(APU)において「開発学入門」、「開発経済学」といった授業で教えた内容から、本書をまとめた。

2. 報告者: 山口 健介(東京大学公共政策大学院)

  • 担当編集者:倉園 哲(株式会社NHK出版)
  • 報告書籍:「ミャンマー『民主化』を問い直す ――ポピュリズムを越えて」
    (2022年5月、B6版、288ページ、1,650円)
  • 討論者:折山 光俊(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会)

アウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)によってようやくめどが立ちはじめていたミャンマーの民主化は、2021年、軍部のクーデターでリセットされてしまった。

では、ふたたびNLDが政権の座に戻ればそれでよいのか?本書は、それでは再度のクーデターを防げないとする立場から、軍部・民主派が共有する「ビルマ民族中心主義」の克服に向けて、経済的再分配を通じた新しいナショナリズムの形成に照準する。

当地の政治家と官僚の懐で開発政策を担った経験を踏まえ、イデオロギーに頼らない国民国家建設を提言する「希望」の書。

3. 報告者:吉田 鈴香(前千葉大学)

  • 担当編集者:福島 延好(フリーランス)
  • 報告書籍:「ミャンマー クーデターの謎ーカギは中国にありー」
    (三恵社、2022年3月、B6版、218ページ、2,035円)
  • 討論者: 石戸 光(千葉大学)

20年間ミャンマーが起きていることをと歴史を追いかけてきたが、ミャンマー国軍の強さと政策の不可解さをきちんと解説する研究所はなかった。既存の定説は整合性がなくミャンマーの歴史の全容を理解する壁ですらあった。

星雲状態だった疑問を5つの「謎」に絞り込み、定説の記述→非整合性の指摘→関連文献の記述→仮説→当事者にインタビューを繰り返しながら追求した。特に中国との関係から理解を進めた。

学術研究者・地域研究者に向けてその過程を書き著すことで、既存の研究書の誤解を解きたく思った。2020年から本書を執筆し始めた途中の2021年2月、クーデターが起きた。

ミャンマーの建国の歴史について定説を覆す謎の解明を終えていた故、クーデターの背景を理解することができた。国境画定未達成を前提に開発、内政、外交、国防を同時に進める平和構築に協力できるか、学術研究者に問いたい。

4. 報告者:山田 肖子(名古屋大学)

  • 担当編集者:下田 勝司(東信堂)
  • 報告書籍:「『持続可能性』の言説分析」(2023年6月、A5判、128ページ、1,980円)
  • 討論者:西川 芳昭(龍谷大学)

人々は「持続可能性」をどのようなものと認識し、その言葉を用いて何を議論し、それを社会制度や行為に反映させようとするのか。そして、そうした認識や行為は、人々の社会的立場や帰属する組織・集団、専門性によってどのように異なるのか。

本書では、持続可能な社会を思い描く際に、人々の思考の根底にある基底価値をマッピングするとともに、その基底価値をもとに、個々人がどのように持続可能性を脅かす可能性のある課題とその解決策を認識するかを定量的・定性的な言説分析の手法を用いてときほぐそうとしている。

第1章で、持続可能性の概念史、さらにSDGsという国際目標が作られ、合意された過程について概観する。

第2章では、1990年代以降、「持続可能性」を主題とする学術論文が理系に傾倒していき、思想的、社会的、文化的な考察がほとんどなされていないことを示す。そのうえで、第3章は「教育」と「持続可能性」を検索語としてウェブからダウンロードした文書の定量テキスト分析、第4章では、「経済」「教育」「持続可能性」に関する新聞分析、第5章は、「持続可能性」への貢献を謳っている企業広告に対する消費者の反応についての質問票調査の結果を示している。

報告者:芦田 明美(名古屋大学)


[C2-02] ポスト資本主義時代における経済振興のあり方を考える―地域主義の観点より

Examining how best to advance economic promotion in the post-capitalist era: From a local community-based perspective

  • 12:30~14:30
  • 企画責任者:真崎 克彦(甲南大学)、藍澤 淑雄(拓殖大学)
  • 司会者:真崎 克彦 (甲南大学)
  • 討論者: 藍澤 淑雄(拓殖大学)、高須 直子(神田外語学院)
  • 聴講人数:約20名
  1. 地域主義の意義と可能性―ポスト資本主義時代における価値創造
    真崎 克彦(甲南大学)
  2. 加工業者・グループの発展とローカル経済の関わり―タンザニア・モロゴロ州における「混合粥の素」の生産
    加藤(山内)珠比(京都大学)
  3. 地域から掘り起こす新しい「豊かさ」―東日本大震災を経験した福島県二本松市の取り組みから
    斎藤 文彦(龍谷大学)

コメント・応答など

本企画セッションは、国際開発学会「市場・国家との関わりから考える地域コミュニティ開発」研究部会の成果に基づく。

最初の座長による趣旨説明では、地域主義(地域住民の一体感を基盤として地域の経済循環を推進)の今日的意義とそれを取り巻く課題について説明があった。その上で加藤会員と斎藤会員の報告について、質疑応答やディスカッションを行う形で進められた。

加藤報告では、在来食材に栄養価の高い食材を混ぜた粥の加工に従事する女性グループの事例として、女性どうしの加工技術や市場情報の相互共有を原動力としてコミュニティ経済を振興する可能性が例証された。

コメンテーターの藍澤会員と高須会員からは、加工業者・グループが在来粥を商品に発展せしめた過程や、経済効果に関わる数値データを明示することで、今後の研究でグループの地域の経済への貢献度をより明らかにすることへの期待が表明された。

また、コミュニティ経済の成功を地域在来の文化や価値がどのように後押ししたのか、成功の結果、どのような社会変化がもたらされたのかについての質問が出された。

加藤会員からは、タンザニア固有のウジャマ―の価値観がグループメンバー間の互助につながったのではないか、またグループ活動の結果、グループ内での助け合いが強まった、またグループ外では食の安全性に対する意識やそれを満たす標準品を作ろうと言う動きにつながったと回答があった。

斎藤報告では二本松市の事例を通して、三重運動の視点より「豊かさ」の鍵が主体の自律性、セーフティネット、平等や公平性の実現にあることが論じられた。そうした「豊かさ」と現状の乖離を解消していく上で、ケアの倫理を基盤としたポジティブサムの関係性が大切となる。

コメンテーターの藍澤会員と高須会員からは、二本松市の社会連帯経済の関係者に共有されている「価値あるもの」とはどういうものなのかについて、さらに明快な言語化を進めることへの期待が表明された。また、行政主導による「オーガニックビレッジ構想」が地域の「豊かさ」につながり難い理由と対処法について質問が出された。

この質問に対して、これまでのさまざまな取り組みの積み重ねが複雑に絡み合って影響している旨、回答された。同時に、例えば農家民宿を営む宿は増えつつあり、必ずしも先発組が利益を独占せずに後発組とも客を分け合い、地域全体として目に見える利益も見えない利益も分かち合おうとするポジティブサムの関係性が見られる、と説明された。

総括

2篇の事例報告を通して、人どうしの顔が見えやすい地域において、地元の風土に基づく一体感を活かした経済振興を進めれば、より「実質的な意味」(人間の生存・生活との関わり)に即した経済振興を進めることができることが明らかにされた。

同様の地域実践を広めていくことで、経済を「形式的な意味」(経済合理性や効率性の観点)でとらえがちな時勢を改めていく契機を手繰り寄せることができよう。

報告者:真崎克彦(甲南大学)/ 藍澤淑雄(拓殖大学)


[G3-01] Learning from Current Practices in Sustainable Society

  • [オンライン]  14:45~16:45
  • Organizer: Naoko Shinkai (Tsuda University)
  • Chair/Moderator: Naoko Shinkai (Tsuda University)
  • Discussant: Shirantha Heenkenda (University of Sri Jayewardenepura)
  1. “Using reflective methods to develop the indigenous seasonal calendar.” 
    Pei-Hsin Hsu (Taiwan Forestry Research Institute)
  2. “Sustainability of Community Tourism in Cambodia.” 
    Rido That (CamEd Business School/Royal University of Phnom Penh)
  3. “Micro and Small Enterprise Practices in the Philippines: Navigating Resilience and Sustainability Challenges Amidst the COVID-19 Pandemic-A Case of Eco-tourism Sites-.”
    Maria Kristina Alinsunurin (University of the Philippines Los Baños) and Naoko Shinkai (Tsuda University)
  4. “The role of innovation and entrepreneurial spirit on sustainable SME growth amidst Covid-19 pandemics.”
    Bangkit A. Wiryawan (Diponegoro University) and Esther Sri Astuti (Diponegoro University)

コメント・応答など

This session on “Learning from Current Practices in Sustainable Society” aimed to share practices and issues encountered when developing a sustainable society in Asia.

This session was organized by the research group on IDSSP (Innovation and Development for Solving Social Problems) of JASID to reassure the direction of research on innovation and development.

Four presenters were invited to give their experiences in the fields.

First, Dr. Pei-Hsin Hsu from Taiwan Forestry Research Institute presented on “Using reflective methods to develop the indigenous seasonal calendar“ and shared the results in the research on preserved traditional local knowledge and resource management system in one of the indigenous communities in Taiwan, Kalibuan.

As a research method, a participatory seasonal calendar approach was employed to detect farming activities of traditional crops, beans, in the community.

She suggested the use of this calendar for educational purposes to prepare for the loss of cultivation of traditional crops.

Second, Dr. Rido THATH at Royal University of Phnom Penh, presented on “Sustainability of Community-Based Tourism in Cambodia” and talked about tourism, which is one of the main contributors to economic growth in Cambodia, and the prospect of community-based tourism as a driver of local economic growth.

Through his literature survey and analysis, promising tourism communities, environmental resources, and intrusive factors were identified.

Third, Dr. Maria Kristina G. Alinsunurin at the University of the Philippines, Los Baños, presented on “Micro and Small Enterprise Practices in the Philippines: Navigating Resilience and Sustainability Challenges Amidst the COVID-19 Pandemic-A Case of Eco-tourism Sites-“, which is co-authored by Dr. Naoko Shinkai at Tsuda University.

She demonstrated the impact of COVID-19 in the tourism sector, remaining effects, and coping methods, based on the findings from key informant interviews in the tourism sector at selected ecotourism sites in Laguna province, along with the research framework.

The stakeholder analysis was applied and the strategies and innovation of MSEs in the tourism sector for resilience and sustainability were identified as well as policies to consolidate those activities.

Lastly, Dr. Bangkit A. Wiryawan at Diponegoro University presented on “The role of innovation and entrepreneurial spirit on sustainable SME growth amidst Covid-19 pandemics”, on which Dr. Esther Sri Astuti at Diponegoro University is a co-author, and illustrated the findings from the research on the relationships among three variables, entrepreneurship, innovation, and SME development in the third year of the COVID-19 pandemic in Indonesia.

Regression analyses with sectoral and provincial dummies were made with the primary data on SMEs, collected recently in thirteen provinces in Indonesia.

The positive relationship between entrepreneurship and sales was found, whereas the relationship between innovation and sales was negative.

Comments for all four presentations were provided by Dr. Shirantha Heenkenda, Dean of the Faculty of Humanities and Social Sciences at the University of Sri Jayewardenepura.

The points addressed were the existing initiative of the indigenous community on traditional knowledge and local resource management, the strategy for ownership creation in community-based tourism, the mechanism to connect stakeholders in tourism, and the role of seed capital in entrepreneurship and SME development.

Most of the participants of this session joined from various parts of the world and the efforts to enable this session are very much appreciated.

I am also thankful to JASID and JASID Conference organizers, conference participants, for having established the online venue and provided support.

Naoko Shinkai at Tsuda University,
the Chair of the IDSSP, served as a facilitator.


その他の座長報告




第34回全国大会セッション報告(企画セッション)

企画セッション


[2C01] コンゴ盆地熱帯雨林における森林資源マネジメントの共創―住民がもつ在来知と科学知の統合から

  • 日時:2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-B104 (紀尾井坂ビルB104)
  • 聴講人数:11名
  • 座長:戸田美佳子(上智大学)
  • コメンテーター/ディスカッサント:佐藤仁(東京大学)、華井和代(東京大学)

第1発表:アフリカ熱帯林における経済開発と保全の両立を目指した非木材林産物の促進とその課題

戸田美佳子(上智大学)
四方 篝(京都大学)
平井將公(京都大学)
Ndo Eunice (IRAD Cameroon)

SATREPSプロジェクトの舞台となるコンゴ盆地熱帯雨林における自然保護と経済開発の変遷を辿ることで、地域住民の森林資源に根差した生活が近年困難となってきている現状が報告された。

そのうえで、「非木材林産物(NTFPs)」の利用を通じたアフリカ熱帯林における経済開発と保全の両立を目指すために、地域社会どのような課題を抱えているのかを議論した。

討論者からは、誰のどのような意識が変われば、問題解決につながるという本質的な問いがなされ、アフリカ諸国における政府の機能に関する懸念が示されるとともに、グローバルスチュアードシップという大きな議論と繋げることの可能性が提案された。

第2発表:カメルーン熱帯雨林の野生動物モニタリング法における在来知と科学の接合

本郷峻(京都大学)

アフリカの野生動物に対する資源管理においては、生態学的な観点から重視される資源量を推定できるような、住民主体のモニタリング方法が確立しておらず、住民主体型管理の成功例はいまだほとんどない。

そこで本プロジェクトでは、狩猟実践による「収獲に基づく野生動物資源モニタリング」を提案し、本報告ではその有用性を生態学的に実証した。

討論者からは、狩猟のやり方は変化していくが、それに対して対応できるのかという質問があったのに対して、報告者からは対応できる仕組みであるとの応答があり、加えてモニタリングによって計ることが住民の行動変容につながる可能性も示された。

第3発表:「住民主体の森林資源マネジメントへむけた試行と課題」および「在来知と科学知の統合による森林資源マネジメントモデルの共創」

安岡宏和(京都大学)
平井將公(京都大学)

狩猟に基づく新しいモニタリング手法がどのように考案されたのかを、報告者による狩猟採集民と生業活動をともに実践してきた生態人類学的フィールドワークの経験から具体的に報告された。

とくに、在来知と科学知の共創のプロセスにおいては、地域住民の経験・知識を生態学者が習得し、生態学の経験・知識を人類学者が習得するという交差する経験が不可欠であり、その柱として地域住民との協働があることが強調された。

討論者からは、在来知とはどのようなレベルのものであるのか、伝統的知識や知恵のものであるのかという質問があった。

それに対して、在来知は暗黙知であり、可視化することは困難であることと応答され、伝統的知識や知恵という断片的なものとして切り出せるものではなく、多面的な土地利用をみとめて重層的な機能をもつランドスケープのなかで生物多様性を保全する「ランド・シェアリング(Land Sharing)」の視点に立ち、人々の生き方として実践される生活知として再評価する仕組み作りが重要であるという議論となった。

【総括】

討論者からはこの問題のスタートは誰がスタートなのかという問いが投げかけられた。

総合議論では、まず地域住民の生計活動が厳しく制限されている一方で、環境破壊につながる大規模開発が推進されている現状をあること、保全機関においてもリソース不足があり、保全機関と地域住民の相互不信が問題として表面化していることが再確認された。

野生動物の利用(狩猟)はネガティブな資源利用とされいるが、本プロジェクトの成果によって、狩猟のうち地域住民による自給的な狩猟は資源マネジメントを強化できるという観点からはポジティブなものになりうること、そのうえで、外来ハンターや都市への獣肉流出といったネガティブな資源利用を抑制できる可能性をして評価された。

報告者:戸田美佳子(上智大学)、本郷峻(京都大学)、安岡宏和(京都大学)、佐藤仁(東京大学)、華井和代(東京大学)

[2I02] Emerging and Advocating Donors?: The cases of Venezuela, Colombia, and NGO(English)

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-112 (紀尾井坂ビル112)
  • 座長:
  • コメンテーター/ディスカッサント:

*岡部 恭宜1、*サバルセ カルロス1、*林 明仁3、*ゴメズ オスカル2、*北野 尚宏4 (1. 東北大学、2. 立命館アジア太平洋大学、3. 上智大学、4. 早稲田大学)

【総括】

報告者:

[2J02] 開発途上国におけるミクロ実証分析

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-115 (紀尾井坂ビル115)
  • 聴講人数:10名
  • 座長:島村靖治(神戸大学)
  • コメンテーター/ディスカッサント:倉田正充(上智大学)、會田剛史(一橋大学)、樋口 裕城(上智大学)

第1発表:母親の自助組織活動への参加による娘の婚姻に与える影響

佐藤希(愛知学院大学)

インド農村部における女性の婚姻時の問題に関する実証分析として、前半は婚姻時に花嫁の生家から花婿側に支払われるダウリーに関連する要因についての分析、後半は女性のエンパワーメントを目的として行われている女性自助組織活動への参加による婚姻年齢への影響についての分析が紹介された。

コメントとしては、用語の定義や推計方法に関する質問に加えて、推計結果のなかでも女性の婚姻年齢とダウリー支払いとの間の負の相関は既存研究の「花嫁が高齢になるにつれてダウリーの額が上昇する」と矛盾するのではとの指摘があった。

発表者からは用語や推計方法についての補足的な説明と共に、既存研究との違いとしてアウトカーストのような最貧層を主な対象とした調査であることが示された。

また、女性自助組織の活動自体の多様性を指摘するコメントも出され、自助組織活動の異質性を考慮に入れた分析も提案された。

第2発表:感染症予防のためのナッジ介入による医療ボランティアの行動変容

劉 子瑩(神戸大学)

インドネシア・ジョグジャカルタ郊外で活動する医療ボランティアへ感染症予防のための情報介入(ナッジ)を行い、彼らの感染症予防行動にどのような変化が生じたのかを検証した分析結果が紹介された。

コメントして、分析結果の解釈がとても難しい結果となっていることを指摘した上で、5時点の調査データで3回の介入を実施している研究で介入効果が時間を通じて一定という強い仮定を置いている点に疑問が投げかけられた。

そして、介入効果が時間と共にどのように変化していったかを検証するほうが妥当でないかとの意見も出された。発表者からは、今後、提案された分析を採用していきたい旨、回答があった。

第3発表:インドシナ半島諸国の村落医療施設における患者満足度の分析

島村靖治(神戸大学)

ラオスにおいて実施した独自調査データを用いて、特に患者と医療従事者のリスクおよび時間選好に着目し、患者が公的村落医療施設で受けた医療サービスに対する満足度について分析が紹介された。

コメントしては、調査や分析に関するいくつかの確認の質問と共に、政策的に変えることができないリスクおよび時間選好に着目する理由についての質問が出された。

発表者の回答としては、医療従事者のリスクおよび時間選好の違いによって提供されている医療サービスの違いを検証していくことが次のステップであると説明された。

また、患者満足度について行動経済的視点からの分析を行うことについての意義を問う質問も出された。

回答として、本研究は保健学分野の専門家と共同で実施しており、提供されている医療サービスの適切さについても研究しているとの説明がなされた。

加えて、分析結果を慢性的な国家的な予算不足の問題とどのように関連付けていくかについても考えるよう提案があった。

【総括】

参加人数は比較的少人数であったが、それぞれの分野に詳しい専門家からのコメントをもらえたことで、発表者にとっては、大変有益な研究発表の場となった。

それぞれの研究は未だプリミティブなものであり、コメンテーターおよびフロアーから出された貴重な意見を採り入れて、今後、それぞれの研究の完成度を高めていくことが期待される。

報告者:島村靖治(神戸大学)

[2E03] 危機への対応とジェンダーージェンダー関係はどう危機と関係したか?ー

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-B112 (紀尾井坂ビルB112)
  • 聴講人数:不明
  • 座長:
  • コメンテーター/ディスカッサント:高松香奈(国際基督教大学)

*本間 まり子1、*高松 香奈2、甲斐田 きよみ3、小野 道子4、岡野内 正5 (1. 早稲田大学、2. 国際基督教大学、3.文京学院大学、4. 東洋大学、5. 法政大学)

  • 本間まり子
    「コロナ禍におけるバングラデシュのマイクロファイナンス事業―二重の制約に対する女性の生存戦略に着目して―」
  • 甲斐田きよみ
    「農家のリスクと機会への対応におけるジェンダーによる違い」(ナイジェリア)
  • 小野道子
    「母子家庭の母親たちの生存戦略―カラーチー市の「路上」で働く「ベンガリー」の女の子の母親たちの語りから」
  • 岡野内正
    「北東シリア自治区の奇跡」

【総括】

本企画セッションでは、「危機への対応とジェンダー」という共通テーマを設定し、議論を行なった。

危機とは、新型コロナウィルス感染症の拡大や経済的なショックだけではなく、革命などの政治的混乱や貧困、ジェンダー差別的な構造によって生活が安定しない状況など幅広く捉えた。

まず、本間会員が、バングラデシュのマイクロファイナス事業の主な利用者である貧困女性たちが、ジェンダー規範による制約とコロナ禍の影響の中で、事業をどのように利用していたかについて論じた。

次に、甲斐田会員が、ナイジェリアを事例として、農家が直面する農業におけるリスク、経済活動におけるリスク、生活におけるリスクや機会と、それらのリスクや機会への対応に、どのようにジェンダーの違いがあるかについて論じた。

さらに、小野会員により、カラーチー市の「路上」で働く「ベンガリー」を事例として、市民権を持たない母子家庭という平時から危機的状況にある女性たちが、新型コロナウィルス感染症の拡大という危機に対して、どのような対応を取ったのか議論した。

最後に、岡野内会員により、保守的なイスラム教徒が多数を占める北東シリアにおいて、ジェンダー関係に大きなインパクトを与えているロジャヴァ革命について、ジェンダー主流化政策やWPS アジェンダの視点から議論した。

コメンテーターの高松会員からは、「何が危機なのか」という問いかけがなされ、「社会的に構築された危機」と「状況的な危機」に4人の発表者の語った危機を整理し、どの発表内容も「危機は複合的である」ことを明示していたというコメントがされた。

また、「状況的な危機」とは偶発的な危機で、この状況的な危機ばかりに着目していると、常態化した危機が「正常」と捉えられる可能性がある。

そうするとジェンダー構造は「問題のあるノーマル」となっているのではという疑問を、4人の発表は提示していたと言及した。

そして、ジェンダー構造そのものが個人の「危機」であり、個人(特に女性)がどのように危機から影響を受けたかを4人の発表内容を整理して指摘した。

さらに、危機への対応がどのようにジェンダー関係に影響を与えたのか、4人の発表者に質問を投げかけた。

本間会員に対しては「世帯内、社会でジェンダー規範は軟化したと言えるか?もしくは強化された側面はあるか?」、甲斐田会員に対しては「さらなる危機を発生させながらも、どのように世帯内のジェンダー関係が変化するのか?可能性はあるか?」、小野会員に対しては「生存戦略と『こども』について、女児・男児を取り巻く関係性と変化はどのようなものか?」、岡野内会員に対しては「ロジャヴァ革命はジェンダー主流化なのか?強固な規範の中で、女性スペースをプラスαとして構築したという見方もできるのではないだろうか?」という問いがなされ、4人の発表者が回答した。

さらに、フロアも交え、4人の発表者と質疑応答により30分程度、活発な議論が続けられた。

本企画セッションを通じて、危機がジェンダー関係に与える影響とジェンダー関係が危機に与える影響、両方向からの議論が必要であること、今回のような異なるフィールドの事例の蓄積が、その議論を発展させるために必要であることに気付かされた。

今後の本研究部会での研究に向けて、必要な点を明確にすることができた。

なお、本企画セッションの冒頭で、本研究部会の代表を務められ、2023年9月26日に急逝された田中由美子会員の功績を讃え、会場の参加者とともに黙祷を捧げた。

また、本研究大会のポスターセッション会場において、田中由美子会員の業績と研究部会からの追悼メッセージを提示した。

急なお願いにも関わらず、ポスター掲示の場をいただきましたこと、この場をお借りして大会実行委員会に感謝の意を表したい。

報告者:

[2I03] プラネタリー・ヘルスの観点からパラグアイの農村開発を考える

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-112 (紀尾井坂ビル112)
  • 兆候人数:2名
  • 座長:池上甲一(近畿大学)
  • コメンテーター/ディスカッサント:受田宏之(東京大学)、牧田りえ(学習院大学)

第1発表:プラネタリー・ヘルスの観点から考える六次産業とアグリツーリズムの可能性:パラグアイにおける「農村女性生活改善プロジェクト」と「アグリツーリズムプロジェクト」を事例として

藤掛洋子(横浜国立大学)

コメンテーターから、ラテンアメリカにおける環境保全を掲げる言説(ブエン・ビビール)や社会運動が古くからみられると同時に、第一次産品に依存する構造も強化されている点がふれられた。

その中で、JICA草の根技術協力事業:「パラグアイ農村女性生活改善プロジェクト」(第一フェーズ)と「アグリツーリズム」(第二フェーズ)が展開されており援助研究として興味深いというコメントがあった。

質問は、対象となる小農のスケールと対象地域の人々はプラネタリー・ヘルスという先進国主導の概念を本当に受容できているのか、という点であった。

報告者は、対象は2つの市域の農村であり、小農の農村女性がメインであること、また、想定外に農村女性たちがプラネタリー・ヘルスという概念を受容できたのは、すでにプラネタリー・ヘルス・ダイエット的な食生活(豆食など)を農村女性たちが営んできたからではないか推察していると応答した。

第2発表:プラネタリー・ヘルスと自然資源管理の在り方 :エリノア・オストロムのコモンズ論の視点から

松田葉月(東京大学)

The comments received from the discussants included questions on how can we apply the theory of E. Ostrom to manage the Common Pool Resources in the context of agritourism, considering the previous studies on fisheries management. The presenter explained that the theoretical framework based on the eight institutional principles designed by Ostrom has been a preliminary study to evaluate the possibility to apply them to the field of agritourism in Paraguay or other country of Latin America, taking into account their governance of CPR. We are in the process to select the field area to start the assessment and application of Ostrom’s theory.

第3発表:家庭菜園の持続性を人間関係の緊密性から考える:パラグアイ農村地域の事例から

小谷博光(人間環境大学)

コメンテーターから、従来存在する社会資本を活かす、ないしは参加者間に新たにつながりを創出することで、家庭菜園を続ける純便益を高めることはできないのかという質問があった。

報告者は、参加者にとって経済的・社会的利益や価値を得られる枠組みを作ることができれば、家庭菜園を続けることの純便益を高めることが可能であると考えられるが、その様な枠組み作りが容易でなないと応答した。

その理由の一つとして、農村地域の狭いコミュニティ内での家庭菜園の推進を支援する際、指導者が特定の参加者の畑を訪問しただけで、別の参加者が嫉妬に近い感情を持ち得る可能性があることから、参加者の複雑な関係性と感情に配慮する必要がある、と補足があった。

第4発表:地場産物を活用した学校給食から考えるプラネタリー・ヘルスの可能性:パラグアイ共和国南東部の事例より

橋口奈奈穂(横浜国立大学)

パラグアイ南東部の市において、地場産物を活用した学校給食導入の試みがあったものの、政府の支援と分権化、農業生産者の組織化と調整等に課題があることが報告された。

コメンテーターから、パラグアイには小農支援のための政府機関はあるのか、また公共調達に応じた小農世帯数あるいは割合はどの程度なのか質問があった。

報告者は、パラグアイの小農支援の政府機関として、農牧省農業普及局があり、農業改良や生活改善に取り組んでいること、報告者が調査を行った地域では、市役所が落札した委託会社を中心に学校給食経営がなされるが、市役所と農牧省農業普及局の連携が不十分であったことが地産地消の推進に至らなかった要因の一つであると考えられると応答があった。

報告者が調査している市域において小農公共調達に参加した小農は15世帯程度であるが、地場産物の活用は求められていることから、今後さらに調査を行うと応答された。

【総括】

四つの事例全てが国際開発援助に関わっており、援助論であることから、良い企画であるというコメントを頂いた。

同時に、①プラネタリー・ヘルスとワンヘルスの違いは何か、②プラネタリー・ヘルスという先進国主導で作り上げられた概念が、パラグアイの小農の人々どの程度受け入れられるのか、②ラテンアメリカに特徴的なブエン・ビビール(良い生活)との関係性をさらに明らかにすること、④オストロムの8つの原則を用いる場合、アグリツーリズムを展開する際のコモンズは何なのかを明確にしていく必要があるなどの貴重なコメントを頂いた。

これらのコメントを活かして、今後さらに研究を発展させていきたいと考えている。誠にありがとうございました。

報告者:藤掛洋子(横浜国立大学)

その他

  • 一般口頭発表
  • 企画セッション
  • ラウンドテーブル
  • プレナリー、ブックトーク、ポスター発表



第24回春季大会セッション報告(ラウンドテーブル)

ラウンドテーブル

[C2-01] 人口減少社会と地域社会の持続性:知識創造の社会的仕組みを考える

  • 12:30 ~ 14:30
  • 企画責任者:松岡 俊二(早稲田大学)
  • 司会:戸川 卓哉(国立環境研究所福島地域協働研究拠点)、辻 岳史(国立環境研究所福島地域協働研究拠点)、島田 剛(明治大学)
  • 発表者:木全 洋一郎(JICA北海道帯広)、工藤 尚悟(国際教養大学)、中村 勝則(秋田県立大学)
  • 聴講人数:25名

コメント・応答など

ラウンドテーブル「人口減少社会と地域社会の持続性:知識創造の社会的仕組みを考える」は、(1)人口減少社会における地域社会の持続性という社会的課題の特性・特質は、トランス・サイエンス的課題や厄介な問題の研究を踏まえ、どのように考えたらよいのか、(2)人口減少社会へ対応した社会イノベーションへ向けた知識創造の社会的仕組みとはどのようなものか、(3)ミクロとマクロの制度変化(社会イノベーション)の動態的関係をどのように考えたらよいのか、という3つの問いを立てて議論を行なった。

戸川報告は人口減少社会における協働の地域づくりについて、岩手県紫波町の事例などを報告した。

島田報告は、原発立地の地域振興効果について、福島を事例に報告した。辻報告は、縮小社会における災害復興を、中越地震と東日本大震災を事例に報告した。

以上の報告を踏まえ、上記の3つの問いに関する議論を行い、問いの(2)や(3)については、さらに議論する必要を感じた。

報告者:松岡 俊二(早稲田大学)


[C3-01] メコン地域のマルチステークホルダー・ナリッジ・プラットフォームをどう共創するか?

  • 14:45 ~ 16:45
  • 企画責任者:大塚 健司(ジェトロ・アジア経済研究所)
  • 司会:大塚 健司(ジェトロ・アジア経済研究所)
  • 発表者:永田 謙二(国際協力機構)、大塚 高弘(国際協力機構)、松本 悟(法政大学)
  • 討論者:佐藤 仁(東京大学)、濱崎 宏則(長崎大学)

コメント・応答など

本RTでは個別報告とコメントを踏まえて、主に以下のテーマについてパネルディスカッションを行った。

まず対話と協働における研究者の役割については、(1)人びとがどのように情報を得てどのように行動をしているか(適応)を研究する必要があり、その際にJust in time scienceの考え方が求められる(佐藤)、(2)異なるステークホルダー間で知識を翻訳する役割が重要(濱崎)であるとのコメントがなされた。

次に信頼醸成については、(1)継続してそこに居続ける(コミットし続ける)ことが重要であり、メコン・サイエンス・プラットフォームも小さく始めて継続していくといい(永田)、(2)日本のアクターはメコン地域では外部者として関わるわけであるが、もともとつながりのあるところに成果をもたらすとか、研究者間で信頼関係があるところで社会実装を試みるなどを考えていきたい(大塚・JICA)、(3)政府機関、NGOに関わらず、開発協力の現場ではドナー・支援者側の都合で様々な事業が行われることがよくあることから、自分たちが相談した時に現れるのであれば信頼が得られるのではないか、またプラットフォームを作るのであれば、作る側ができること、やるべきことにフォーカスを当てることが信頼醸成につながるのではないか(松本)などのレスポンスが登壇者からあった。

最後にプラットフォームの共創をめぐっては、(1)多くはピュアサイエンスに関心があるような研究者のそうしたインセンティブ構造にメスを入れる必要がある(佐藤)、(2)オール・ステークホルダーではなく、目的ごと、機能ごとのプラットフォームを作っていくのがいいのではないか(濱崎)、(3)現地のために、と考えないで、日本がどうするか、を第一に考えること、また個別のネットワークとのつながりを考えていく必要があるだろう(松本)、(4)組織単位ではなく個人単位で集まるほうがよい効果があらわれるのではないか(複数)、などの意見が登壇者から出された。

総括

今回のRTを踏まえてメコン地域のマルチステークホルダー・ナリッジ・プラットフォームは、一つの大きなプラットフォームを作るのではなく、多様で小さなプラットフォームが重なりながら、相互に「バウンダリースパナー」のような役割を持つ複数の個人がつないでいくようなイメージで作るのがよいかもしれない。

「サイエンス・プラットフォーム」や「メコン・ダイアログ」もそうした多様なプラットフォームの一つとして、それぞれのアドバンテージや期待される役割を踏まえて位置付けていくことが求められていると考えられる。

報告者:大塚 健司(ジェトロ・アジア経済研究所)

[D1-01] 開発と文学:テキストに開かれる経験の可能性

  • 9:30 ~ 11:30
  • 企画責任者:汪 牧耘(東京大学)
  • 司会:大山 貴稔(九州工業大学)
  • 発表者:汪 牧耘(東京大学)、松本 悟(法政大学)、 崎濱 紗奈(東京大学)、渡邊 英理(大阪大学)
  • 討論者: キム キョンチェ(慶應義塾大学)、 木山 幸輔(筑波大学)、キム ソヤン(韓国西江大学)

コメント・応答など

本RTは、開発研究による狭義的な文学の一方的利用ではなく、より広い意味で「開発」と「文学」の関係性を問い直す議論を試みるものである。当日は、次のような3つの発表が行われた。

まず、松本氏は「開発研究者はどのように文学(フィクション)を読むのか——開発と文学(フィクション)の接点」というテーマで、文学作品を通して開発を学ぶ可能性に焦点を絞り発表を行なった。

開発研究者は、どのような文学を読んでおり、いかなる角度でそれらを教育に活かしているのか。松本氏は、大学生時代に南北問題を考える際に読んだ作品、自分が担当する授業で使った作品、NHK記者時代に自身が取材し作成した作品を踏まえながら、「フィクション」を作る・使うことの特徴を分析した。文学作品は論文と異なり、問い・調査方法・根拠・結論を明確にすることが強いられていない。

「ありえること」をより自由に提示できるため、考える材料を与えてくれる。一方で、こうした文学の道具化、すなわち開発関連の部分だけを切り取るという読み方の問題や、「フィクション」を具体的な行動・実践に繋げようとする際の限界も感じたという。

最後に松本氏は、「開発のための文学」、「開発に関する文学」、「開発を考える文学」という3つの分類を示し、本RTへの問題提起を示した。

崎濱氏の発表は、「文学者による開発とは何か——近代日本の「文学」実践と「新しき村」」というテーマで行われた。

日本の「近代文学」は、「文明開化」に伴う政治的・経済的変革や生産・生活様式の変容の中で誕生したものだといえる。

社会との一定の距離を取りつつも、社会が経験する様々な葛藤を記述する方法であった。近代が抱える諸矛盾をどのように克服するかという問いに端を発する実践として、文学者による共同体建設の試みが多く展開されてきた。

白樺派の文豪・武者小路実篤(1885-1976)による農村開発の実践・「新しき村」はその一つであり、規模や形態が変わりながらも1918年から今日まで存続している。

その批評性に対する疑念が指摘されながらも、「新しき村」が目指してきた個を尊重しながら自然や他者と共生するという理想像は、図らずも一時期の中国や沖縄にも影響を及ぼした。

「事実」と「真実」の間に揺さぶりながら批評精神を鍛えてきた文学は、社会に一石を投じる力を持ってきたことが伺える。

最後、著書『中上健次論』(インスクリプト、2022年)において「(再)開発文学」という方法を打ち出してきた渡邉氏は、「開発文学は可能か」を題名に、中上健次の生い立ちを振り返りながら、その文学作品から(再)開発を読み取る自らの試みと所感を述べた。

(再)開発とは、中心/周縁、都市/地方、北/南などの二元的な秩序に依拠する近代的「開発」と、越境的な資本が先導し、「中心/周縁・都市/地方・北/南」等の相互嵌入やグローバルな位相で投資的消費的に展開される現代的な「再開発」を同時に意味する。

中上は、和歌山県新宮市の被差別部落を背景としながら、「路地」という空間の開発をめぐって重層的な書き込みを行なった。

(再)開発という「コンテキスト」と文学という「テクスト」に批判的な視点を投げかけ、それを持続的に自己嫌悪・自己言及的に問い続けることは、「開発と文学」を論じる出発点だと考えられる。「開発と文学」は合わせ鏡のようになることで、両分野における「フィクション」をより広義的考察し、「現実」と「虚構」の互換性・可変性に注目する必要がある。

上記の発表終了後、ラウンドテーブルの司会者として大山氏が場を取り仕切り、金氏、木山氏とキム氏がそれぞれ朝鮮文学・植民地文学研究、ハンナ・アーレントの論述と文学地理学の蓄積から、多様な視点を共有した。

出版資本主義の産物や開発を推し進める道具でもあった文学が、なぜ国家・資本を批判する媒体となり、さらに人間性・人文の素養を担う使命を負うようになったのか。統計的含意への抵抗としての文学の可能性とは何か。

文学を生み出す「空間・時間」はどのような力学で地理的に展開してきたか。多岐にわたるコメントから、学問分野の蛸壺化によって見過ごされてきた「開発と文学」の関係性を回復させるヒントをいくつか得ることができた。

「開発と文学」の議論を2時間に抑えることは至難であった。RTが終了した後も、会場からは多くのコメント・質問が届いた。

例えば、「開発(development)と文学」があるなら、「発展(development)と文学」もあるか。地域における開発の「発達度」と文学の「発達度」の関係性をどう考えうるか。

開発には「正解」が求められているだけではなく、入試試験に見られるように、「正解がない」文学にも「正解」が求められる。「開発と文学」から、「正解がない」中で理解・実践を試み続けるヒントがないか。

RTのオーディエンスのほとんどは開発関連の専門家や研究者であるが、それぞれの文学への想いや文学的体験に関して、情熱を込めて語っている様子は印象深かった。

総括

本RTは、異なる分野の研究者同士が同題をめぐる問題意識を共有し、言葉やテキストという経験伝達の媒体が持つ可能性について議論を交わした場となった。

国際開発学会においても、「文学」というものを正面から取り扱おうとしたのは本RTが最初であり、分野間の対話に踏み出した第一歩として大きな意義を有していると考える。

報告者:汪牧耘(東京大学)

[E1-01] 地方展開委員会主催ラウンドテーブル「地方からみた『内なる国際化』と協働の可能性」

  • 9:30 ~ 11:30
  • 企画責任者:生方 史数(岡山大学)
  • 司会:生方 史数(岡山大学)
  • 発表者:生方 史数(岡山大学)、堀 美幸(JICA 九州)、二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)
  • 討論者:木全 洋一郎(JICA)

コメント・応答など

本ラウンドテーブル(以下RT)は、日本の地域から国際開発アジェンダを問い直すために行った過去2回の地方展開委員会主催RTを継承発展させた企画である。

地方の地域社会で軽視されがちな在住外国人を「通域的な地域づくり」を担いうる主体と位置づけた上で、地方における「内なる国際化」の現状・課題・可能性について議論した。

生方報告では、本RTの趣旨説明に加え、地方大学の国際化と留学生受け入れの課題について議論した。

生き残り対策として国際化に取り組まざるを得ない地方大学の現状、留学生の生活面における外国人ネットワークへの依存、就職活動での地方の仕事とのミスマッチなどが報告され、日本社会への接続や多様な依存関係構築の必要性が指摘された。

堀報告では、大学や自治体での外国人支援の経験から、地方の国際化の現場で感じた違和感が吐露された。日本人を前提として情報網や制度ができているため、外国人のニーズとのギャップを埋める必要がある。

中間支援の重要性が指摘され、静岡大学のインターンシップ活動などの先進事例が紹介された。

二階堂報告では、地方における外国人技能実習生(以下実習生)の受け入れ体制について議論された。

技能実習制度には人権擁護の見地からの批判が多い一方で、実習生への依存がすすむ地方の現状や、実習生の主体性に関する論点は軽視されている。

このギャップを埋める先進事例として、自治体が受け入れを先導する岡山県美作市や、実習内容の技術移転がみられた香川県の農家の事例が紹介された。

今後も実習生から選ばれ続け、日本(人)と送出国がwin-winとなるために、企業、自治体、市民団体等が顔の見える関係をつくることで、送出国のニーズを把握しながら受け入れ体制を整備する必要性が指摘された。

これらの報告に対し、東北・北海道の実情に精通する討論者の木全氏から、1)外国人を日本の構造的問題を埋める存在として捉えることをどう考えるか、2)技能実習制度の理念と本音の違いをふまえた上で、地方の課題にどうアプローチすべきか、3)地方に寄り添う多文化共生のために何ができるか、というコメントが提出された。

報告者からは、企業、大学、自治体に受け入れニーズがそれぞれあるが、背景には都市と地方の格差構造があること、地方でも建前と本音とのギャップがあり、国際化や多文化共生へのモチベーションが低いこと、外国人は日本社会のセーフティネットをうつす鏡であり、外国人を含む全ての社会的弱者が包摂される社会が理想であること、外国人あっての地域という認識ができている地域もあり、地域産業の発展には外国人支援が必要だという発想を自治体ができるかが重要であるなどの反応があった。

フロアからは、コロナ禍の影響、地場産業の海外進出と外国人との関係、外国人に選ばれるための条件、包摂のための日常的交流の可能性、外国人が日本社会を理解することの困難さなどに関する質問があった。

総括

本学会では比較的新しいテーマだったようで、聴講人数も多く、フロアからも切れ目なく質問が続いた。

時間が足りず、終了後に報告者に質問が続出するほどの盛況となった。外国人の問題を鏡に自分たちの社会をどのようによくしていくのか、国際開発学を専攻する者が貢献できる可能性を再認識する会となった。

報告者:生方 史数(岡山大学)

[G2-01] SDGsを問い直す

  • [オンライン] 12:30 ~ 14:30
  • 企画責任者:野田 真里(茨城大学)
  • 司会:野田 真里(茨城大学)
  • 発表者:大門(佐藤)毅(早稲田大学)、関谷 雄一(東京大学)、大谷 順子(大阪大学)、 野田 真里(茨城大学)

コメント・応答など

本学会「開発のレジリエンスとSDGs」研究部会では、通算5回の全国大会・春季大会のセッションを開催、その最後を締めくくるにふさわしい充実したセッションとなった。

発表者をはじめ、多くの学会員が執筆した『SDGsを問い直す―ポスト/ウィズ・コロナと人間の安全保障』(2023年5月刊行、法律文化社)の研究成果をベースに、新型コロナ危機を踏まえてSDGsを問い直す意義、新型コロナ危機が資本主義経済そして、「取り残される」脆弱な人々とされる災害弱者や女性・女子にもたらす影響とレジリエンス、SDGsの加速化にむけた人間の安全保障の再考、そしてSDGsとポスト/ウィズ・コロナへの展望について、多角的な議論がなされた。

特に2023年はSDGsの中間年にあたり、目標年である2030年そして、ポストSDGsにむけて、如何にSDGsを問い直し、人類共通の地球規模課題に取り組むか等について議論がなされた。

総括

本セッションおよびそのベースとなった『SDGsを問い直す』をさらに発展させ、英語による出版や発信等を目指すことが提案された。また、「持続可能な開発とSDGs」研究部会を嚆矢とする、本学会の2016年度からのSDGs研究を持続可能な形で深化させるため、後継となる新たなSDGsに研究部会を申請することが提案された。

報告者:野田真里(茨城大学)


その他の座長報告




第33回全国大会セッション報告(ラウンドテーブル)

ラウンドテーブル

C-1.授業という開発実践
ー わたしたちはどんな「人材」を「育成」するのか

  • 2022年12月3日(土曜)09:45 ー 11:45
  • 企画責任者:池見 真由(札幌国際大学)
  • 討論者:

発表者

  • 大山 貴稔(九州工業大学)
  • 松本 悟(法政大学)
  • 栗田 匡相(関西学院大学)
  • 汪 牧耘(東京大学)

(報告:池見 真由)


C-2.Adaptive Peacebuilding: A New Approach to Sustaining Peace in the 21st Century

適応的平和構築:21世紀における持続的な平和への新しいアプローチ

  • 2022年12月3日(土曜)09:45 ー 11:45
  • 企画責任者:伏見勝利(JICA緒方研究所)

発表者

  1. 武藤亜子(JICA緒方研究所)
  2. 立山良司(防衛大学校名誉教授)
  3. 田中(坂部)有佳子(一橋大学森有礼高等教育国際流動化機構グローバル・オンライン教育センター)
  4. ルイ・サライヴァ(JICA緒方研究所)

本ラウンドテーブルは、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討」の最終成果である学術書籍”Adaptive Peacebuilding: A New Approach to Sustaining Peace in the 21st Century”の発刊前に、研究成果の一部を発表したものである。

ノルウェー国際問題研究所のデ・コニング博士が主導する概念である適応的平和構築とは、紛争の影響を受けた国の内部で、地元が主導する平和構築を推進するアプローチである。平和構築に関わる外部者は、人々自らが平和を維持するための社会全体のシステムを再構築するプロセスを、促進することが推奨される。ラウンドテーブルでは、次の適応的平和構築の事例を紹介した。

  1. シリア紛争にて、市民が紛争後の復興計画を作成したり国連主導の調停に関わったりした事例(武藤)
  2. パレスチナで、現地の人々との幅広い交流や協力関係を通じ、地元に配慮した治安維持に貢献したヘブロン国際監視団の事例(立山)
  3. 紛争後の東ティモールの「村(スコ)」という場が、退役軍人と人々の間の緊張緩和に貢献した事例(田中(坂部))
  4. モザンビーク紛争に際し、外部ではなく現地の人々が主導した平和構築の事例(サライヴァ)

適応的平和構築が紛争終結や紛争後の平和の維持に大きく貢献していることや、紛争が続く場合でも、紛争の負の影響の軽減や市民ネットワークの構築に有意義な貢献をしていることが明らかになった。窪田、伏見が討論者を務め、平和構築の多様な道筋、また現地の主体や社会経済的な文脈を考慮に入れる必要性を明らかにした研究成果には、多くの関心が寄せられた。

(報告:伏見勝利)


C-3.国際教育開発における専門知
ー実践の経験値と研究の専門性の架橋を中心にー

  • 2022年12月3日(土曜)12:50 ー 14:50
  • 企画責任者:川口 純(筑波大学)
  • 司会:坂田のぞみ会員(広島大学)

本セッションは、国際教育開発の研究と実践の架橋をテーマに開催された。背景には、本分野において実践と研究が十分に架橋されていないとの問題意識があった。従来、研究者から実践家に対しては、「実証的な研究成果を活かした実践になっているのか」、「教育の専門性を持たない専門家が多く、国際協力の専門性の方が教育の専門性よりも優先されてきたのではないか」などの指摘がなされてきた。

また、実践家から研究者に対しては、「日本の教育開発研究者は何をしているのか分からない」、「日本から国際潮流を作ることはあるのか」といった批判がなされてきた。

この様な相互の批判を踏まえて、本セッションでは若手研究者を中心に国際教育開発の研究と実践の架橋について議論が展開された。企画者は川口純会員(筑波大学)、登壇者は 荻巣崇世会員(上智大学)、橋本憲幸会員(山梨県立大学)、非会員の坂口真康氏(兵庫教育大学)と関口洋平氏(畿央大学)の4名で、司会は坂田のぞみ会員(広島大学)が務めた。

その他、10名程の参加者があり、幅広い角度から闊達な議論が展開された。その中で架橋の質を問う必要性や架橋の目的と方向性についてとりわけ活発に意見が交わされた。また、研究の枠組みを設定するにあたり、実践と研究が置かれてきた時代状況の違いを踏まえながら、個人としての架橋と総体としての架橋のずれに関する丁寧な議論の必要性への言及もあった。

本分野においては、以前より個人としては実践と研究の架橋が成されていたが、総体としては徐々に希薄化している状況が問題として認識され、実践の経験値の蓄積に対し研究の専門知が果たしうる役割について今後も議論を継続することが重要であるという結論が導かれた。

具体的な今後の研究の方向性としては、本研究自体に実践家を巻き込みつつ、事実(データ)に基づいたより実証的な研究を展開する必要性が確認された。

(報告:川口 純)


C-4.倫理理的食農システムの構築に向けて:
アグロエコロジーの観点から

「倫理的食農システムと農村発展」研究部会

  • 2022年12月3日(土曜)12:50 ー 14:50
  • 企画責任者:池上甲一(近畿大学名誉教授)
  • 討論者:加藤(山内)珠比(京都大学)、妹尾裕彦(千葉大学)

本ラウンドテーブル(RT)は「倫理的食農システムと農村発展」研究部会の成果を議論する場として代表の池上が企画した。本RTの意図は、現行の食農システムの抱える諸矛盾を乗り越えるために、アグロエコロジーの観点から倫理的食農システムの構築可能性を論じることだった。

食農システムを対象とする以上、資材、農業生産、流通、消費というそれぞれの段階が社会的・環境的・経済的公正をおもな要素とする倫理性とどう関連しているのかが主要な論点となる。本RTではこうした趣旨を説明する座長解題と食農システムの各段階に対応する4報告が行われた。

第1報告・西川芳昭(龍谷大学)「アグロエコロジー研究から見たタネをめぐる主体者の多様性」は、最も基本的な資材である種子の参加型開発を可能にする農業研究のあり方を議論した。

第2報告・受田宏之(東京大学)「ミルパ、有機市、農民学校:メキシコにおけるアグロエコロジーの実践と課題」は、変革の主体やメカニズムと併せ、政治との関係を焦点とした。

第3報告・牧田りえ(学習院大学)「有機とローカルはなぜ接近するのか」は、原理的には異なる2つの動きが重なり合う9つの要因を文献研究から解明した。

第4報告・坂田裕輔(近畿大学)「生産過程の倫理性に対する消費者の関心」は、支払意思額に基づく分析結果から、消費者は商品のこだわりを意識して選択を行うが、一定の社会階層に対するエシカルマーケティングは成立しないと結論づけた。

討論者の加藤(山内)珠比(京都大学)は第1報告に対して、在来種による人口増への対処可能性と農民による種子選抜の可能性が疑問として提示された。また第2報告について「戦線の拡大」に伴う農民の異質性増大と「集合的な理想」の関連如何を問うた。

同じく討論者の妹尾裕彦(千葉大学)は第3報告に対して、アグロエコロジーの観点からはローカルの重要性がポイントだとコメントした。第4報告については解析を前提とした改善方向についての示唆があった。最後にRT全体にかかわる論点としてアグロエコロジーを拡げる(べき)範域と有機農業への転換による食料確保への懸念への対応の必要性が提起された。

(報告:池上甲一)


C-5.日本型援助理念と政策を問い直す

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 佐藤仁(東京大学)

本ラウンドテーブルではODAにかかわる理念、原則、政策手段についての3つの視点から、日本に特有の援助理念の再検討を行った。具体的には、自助努力支援(マエムラ会員/東京大学)、要請主義(佐藤会員/東京大学)、開発輸入(キム会員/韓国・西江大学)が報告を行い、これに志賀裕朗会員(横浜国立大学)が討論の口火を切る形でセッションを運営した。

マエムラ会員は、OECD-DACの議事録分析などを基礎にして、自助努力支援の発想が欧米から斡旋された考え方である可能性が高いことを資料に基づいて提示し、自助努力支援がいつの間にか「国産化」した過程を跡付けた。

佐藤会員は、相手国からの要請という援助プロセスにおける当たり前の手続きが、日本のODAの原則になった経緯を戦後賠償の手続き論にたどって論じた。

最後に、キム会員が「開発輸入」という日本独特の援助方式を議題にとりあげ、この方式の「もの珍しさ」が外国人の研究者に発見された点や、中国が同じ方式で援助供与を行うようになったことなど、日本式の政策手段が諸外国に波及した事例を紹介した。

これらの3報告に対して、討論者の志賀会員からは日本の援助が欧米の aid の理念に翻弄されてきた歴史があったのではないかという興味深い指摘があった。欧米の aid はキリスト教の教えに共鳴する「施し」のニュアンスがあり、それが民間主導でおこなわれた経済協力とは相いれなかった可能性の指摘である。

日本は賠償に始まる独自の論理と手続きを構築した一方で、DACドナーとしてaid コミュニティーに理解を得る形で援助理念を形成せざるをえなくなった。日本型援助理念とは、援助の定義をめぐる西欧と自国の論理の板挟みになった結果として生み出された産物といえるかもしれない。フロアからは国民の援助理念の受け入れをどう考えるか、現場での援助実践と理念の関係などについて鋭い質問が相次ぎ、議論は大いに盛り上がった。参加者は現地とオンラインを合わせて30名程度であった。

(報告:佐藤仁)


C-6.地域の課題解決における国際協力人材の役割

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 企画責任者:矢向禎人(JICA)
  • 司会:河野敬子(一般社団法人海外コンサルタンツ協会:ECFA)
  • 討論者:岸磨貴子(明治大学)室岡直道(JICA)

発表者

  • 大下凪歩(下関市立大学)
  • 金崎 真衣(環太平洋大学)
  • 井川真理子(株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング)
  • 永田友和(高山市海外戦略課)
  • 塗木陽平(JICA)
  • 荻野光司(JICA)

実務者からの情報発信強化及び、研究者との交流によるODAの質的改善を目的としたECFAとJICA共同セッションは2018年より開始し、今年度で5年目を迎えた。

本ラウンドテーブルでは、(1) JICA中国主催の地域の多文化共生の課題に大学生等が取り組む「因島フィールドワーク合宿(学生主体で企画を立案。外国人材を多く受け入れている因島にて外国人材と地元の方との結びつき、異文化理解の促進に向けた取り組みを試行)」および、(2)「ルアンパバ-ン世界遺産の持続可能な管理保全能力向上プロジェクト(世界遺産の管理・保全のための協力を岐阜県高山市の協力を得て実施)」を事例とし、国際協力人材と日本の地域との関り方、地域の課題解決に果たしうる役割について議論を行った。

両事例は取り組み内容や目指す成果は異なるが、異文化理解の機会創出という共通性があり、国際協力を活用した異文化理解・多文化共生を育んでいく場の提供の重要性と可能性が見受けられた。一方、両事例による機会創出は時限的で連続性や持続性に留意すべきとの指摘もあり、このような機会をどのように繋げていくかは今後の検討課題である。

また、両事例に留まらず、各参加者の経験に基づく異文化理解・多文化共生の難しさについても議論が行われた。議論において、国際協力人材が持つ国内外の経験、特に多様な国や人々との交流経験は、「共生」を具体化し進めるための場や機会を提供に活かせるとともに、共に悩むことが出来るという点も国際協力人材の優位性や役割との意見が出された。

さらに、ラウンドテーブル全体の議論を振り返る中で国際協力という言葉についてもコメントがあり、求められる役割や環境を踏まえ、国際協力は「変化し続けるAgency」として捉え進めていくことの重要性についても意見交換がなされ、今後の国際協力を検討する上で有益なセッションとなった。

最後に本ラウンドテーブルの開催にご参加、ご支援頂いた皆様にお礼を申し上げます。

(報告:矢向禎人)


C-7.食のレジリエンスとSDGs

第4回「開発のレジリエンスとSDGs」研究部会ラウンドテーブル

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30(オンライン発表)
  • 企画責任者:関谷雄一(東京大学)
  • 討論者:野田真里(茨城大学)

発表者

  1. 基調講演:菊地良一(和法薬膳研究所) 
  2. 中西徹(東京大学)
  3. 西川芳昭(龍谷大学)
  4. 安藤由香里(大阪大学)

開発のレジリエンスとSDGs研究部会の第4 回目のラウンドテーブルは、食の問題を取り上げた。SDGs17 の目標の1つが2030年までに「飢餓をゼロに」することであるが、昨今の世界情勢、例えば新型コロナウィルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻に伴う食糧供給危機や物価高騰などの諸問題を踏まえ改めて食のレジリエンスとSDGs を様々な角度から検討してみた。

基調講演として、山形県高畠町の和法薬膳研究所主宰の菊地良一氏から、主としてミネラル濃度の高い食品の重要性と普及に関する実践と重要性に関する報告を頂いた後、中西徹氏からは国際社会における、グローバル金融資本がもたらす食の格差拡大を是正するための有機農業の意義に関する報告がなされた。

次いで西川芳昭会員からは、農業の産業化と近代化による種子システムの脆弱化に関して現状に関する具体的な説明とともにその持続性を保つために必要な管理の在り方について報告がなされた。さらに、安藤由香里氏からはフードロスをめぐり、フランスおよびイタリアで適用されている社会連帯経済関連法・食品廃棄禁止法の効力、日本への適用可能性について報告がなされた。

討論者の野田真里会員からは各報告者に対し、それぞれのテーマに関して新型コロナ禍との関係やポスト/ウィズコロナを見据えた展望について問いがなされ、各報告者による応答があった。課題として、複合的なグローバル危機と食のレジリエンスに関し、さらに各テーマに関する追究が必要だという認識が共有された。

(報告:関谷雄一)


C-8.「一般化」の多様性 ー事例を巡る対話を通してー

「若手による開発研究」研究部会セッション

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 企画責任者・司会:松原優華(東京外国語大学大学院)

発表者

  • 松原優華(東京外国語大学大学院)
  • 神正光
  • 山田翔太(立教大学/日本学術振興会特別研究員PD)
  • 吉田篤史(京都大学大学院)
  • 森泰紀(同志社大学大学院)
  • 須山聡也(東京大学大学院)

本ラウンドテーブルは、「若手による開発研究」部会による企画セッションである。本セッションでは、研究における「一般化」への向き合い方という多くの研究者が抱える問題をテーマとし、ディシプリンや研究者個人間での「一般化」の多様性を捉え直し、その中で研究の価値を再考する機会の提供を目的とした。

本セッションは発表と討論の2部で構成された。前半は、専門分野、対象地域が異なる6人の若手研究者が、(1)それぞれが捉える「一般化」、(2)「普遍性の追求-地域の固有性の追求×個人-世界の一般化のレベル感」から成る4象限で自身の研究スタンスを提示した。これにより、研究者個人間の「一般化」の捉え方の多様性、それゆえの研究スタンスの多様性を示した。

後半では(1)“良い”「一般化」とは何か、(2)「一般化」の捉え方が異なる中でどのように研究の価値を見出していくのか、15人ほどの参加者による討論を行った。

討論では、フロアからの「誰に向けての、何のための「一般化」なのか」との指摘から、「一般化」の意義について議論が展開された。その中で、事例から導出できる特殊性を広い文脈に位置づけることが他地域や他分野へと議論を広げる可能性が指摘された。その上で、この作業こそ研究者がすべきことなのではないのかという意見もでた。

また、「どのように「一般化」するのか」についても活発な議論が行われた。「一般化」の局地である「普遍性の追求」については、事例の特殊性を追及した結果として、偶発的に「普遍性」に近いものが発見される可能性に言及された。この指摘は、事例から意識的に「一般化」する方向が強調されてきたこれまでの研究法の議論とは異なる新たな事例と「一般化」の関係の捉え方といえよう。

本セッションでは、これまで曖昧なままにされてきた「一般化」の捉えにくさを正面から議論したことで、研究の意義を再考する機会となった。本セッションを皮切りに、「一般化」の考え方の違いから時に生じてきた分野、研究者間の対立を乗り越え、「一般化」の捉え方の議論が活発化することを望む。

(報告:松原優華)


C-9.開発における「ビジネス実践と研究」の連携可能性

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 企画責任者:小林 誉明(横浜国立大学)
  • 狩野 剛、功能 聡子、佐藤 峰(横浜国立大学)浜名 弘明

(報告:小林 誉明)


C-10.大学におけるアフガニスタン、ウクライナからの避難民受入れ支援と課題

国際開発関係大学院 研究科長会議 企画ラウンドテーブル

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:岡田 亜弥(名古屋大学)
  • 討論者:

発表者

  • 神馬 征峰(東京大学)
  • 小正 裕佳子(独協医科大学)
  • 小林 誉明(横浜国立大学)
  • 赤井 伸郎(大阪大学)
  • 金子 慎治(広島大学)
  • 市橋 勝(広島大学)
  • 木島 陽子(政策研究大学院大学)
  • 北 潔(長崎大学)

(報告:岡田 亜弥)


C-11.人口減少へ向かう人類社会とサステナビリティ研究

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45
  • 司会:松岡俊二(早稲田大学)
  • 討論者:佐藤寛(アジア経済研究所)、石井雅章(神田外語大学)、島田剛(明治大学)

ラウンドテーブル(RT)「人口減少へ向かう人類社会とサステナビリティ研究」は、司会:松岡俊二(早稲田大学)、話題提供者:浜島直子(千葉商科大学、環境省)、工藤尚悟(国際教養大学)、討論者:佐藤寛(アジア経済研究所)、石井雅章(神田外語大学)、島田剛(明治大学)という構成で、2022年12月4日(日)12:45-14:45、明治大学リバティタワー1F1012教室にて開催した。参加者は20名程度であった。

日本の人口は2008年の1億2,808万人がピークで、その後は減少プロセスに入り、コロナ禍もあって、 2021年10月1日には、前年比64.4万人減となった。64.4万人という減少数は、鳥取県人口(55万人)を上回り、ほぼ島根県人口(66万人)に匹敵する規模となっている。

少子高齢化を特徴とする人口減少は日本だけではなく、中国や韓国などの東アジア諸国でも起きている。2022年7月に発表された『国連人口推計』は、中国の人口は2021年に14億2000万人でピークを迎え、2022年からは人口減少プロセスへ入り、2052年に13億人を割り込み、半世紀後の2078年には10億人を下回ると推定されている。また韓国は、2021年に合計特殊出生率が世界最低のとなり、人口減少が深刻化している。

人口減少問題は日本や東アジア地域にみられる個別的あるいは特殊的な社会的課題ではない。いま起きている人口減少は人類史的現象であり、人類史の大きな転換点であることが、近年の世界の人口研究によって明確になってきた。

ワシントン大学の研究グループは、2020年に医学雑誌Lancetに発表した論文で、2064年に世界人口は97億3千万人でピークを迎え、その後は減少へ転換するとした。ホモ・サピエンス登場から30万年、永く続いてきた人類の膨張が終わりにさしかかっている。人口増加を前提につくられた経済社会システムの限界が明らかになり、新たな社会のデザインが問われている。

本RTでは、人類社会が人口減少・縮小社会へ転換することが、サステナビリティ研究や国際開発協力にとって何を意味し、どのような転換への「備え」が必要なのかを論じた。特に、途上国の開発問題や気候変動などの長期的課題への影響や日本の地域社会の持続性について議論した。

(報告:松岡俊二)


C-12.開発経験は共有可能か
——日中韓にみる「セマウル運動」を事例に

「ODAの歴史と未来」研究部会

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:汪牧耘(東京大学)

本企画は「ODAの歴史と未来」研究部会の一環として、開発・援助研究の暗黙的な前提である「経験共有の可能性」を問い直すものである。具体的には、1970年代に始まった「セマウル運動」の経験がどのように日中韓で論じられてきたかを検討し、「経験共有の不可能性」を踏まえた知識生産のあり方を考察した。

当日、発表者の3人(チョン・ヒョミン氏・近江加奈子氏・汪牧耘氏)は、「セマウル運動」の展開とそれをめぐる日中韓における議論の系譜を共有し、開発経験の価値化・知識化とその共有は常に一種の政治性が伴うことを再確認した。

援助供与国が自国の開発経験を体系的にまとめる過程で起きる経験の取捨選択を批判・評価するのではなく、さらに「自らの経験をどう共有するか」を思考するのみならず、「自らの経験に対する他の見方をどう発掘するか」という問いに学問的な光を与えることが重要ではないかと提案した。

討論者(キム・ソヤン氏・志賀裕朗氏)のコメントは議論をさらに前進させた。特に、「知識実践」と「知識共有」の違い、外部者の眼差しと経験の相互作用や、欧米的な開発知の「匿名性」を踏まえたアジア・アフリカという枠の有効性などといった論点は、本企画の思考を精緻化していくための足場となりうる。

ディスカッションにおいて、松本悟氏、佐藤仁氏、柳原透氏から貴重なコメントを頂いた。特に、経験を(「外部」も含めて多様な視点で」)蓄積し、そして「経験を持つ側」と「その経験を欲しがる側」を結ぶ必要性を示した実践的な視点は示唆に富む。

また、経験共有の役割が“inspiration”を通して果す可能性に関する指摘も目に鱗であった。今後は、経験の受け止め方をより多くの事例から検討し、開発を推し進めてきた人びとの知性と感情を理解するための観測点となる研究へと、本企画を発展していきたい。

(報告:汪牧耘)


C-13.社会的連帯経済(SSE)の国際動向と日本の動き

「社会的連帯経済」研究部会

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:古沢広祐(國學院大學)

本RTは、前々日に開催された公開プレ企画の内容を共有するかたちで進められた。報告3名、(1)「ILO総会における社会的連帯経済の動向について」(高崎真一・ILO駐日代表)、(2)「社会的連帯経済の国内動向とILOとの連携について」(伊丹謙太郎・法政大学)、(3)「国際動向との関連で研究部会の研究会取り組み(中間総括)」(古沢広祐・國學院大學)、討論者(池上甲一・近畿大学)とともに、SSEの現状と今後について議論した。

ここでは、プレ企画内容について中心的に紹介したい。 「SSEの役割と可能性を議論」公開イベント概要が、ILO駐日事務所ニュース記事(2023/01/04)でよくまとまっているので以下紹介する。

・・・・「社会的連帯経済(SSE)と国際労働機関(ILO)の最近の動き」が12月2日にあり、ILO企業局プログラム・マネジャーのシメル・エシムが基調報告を行いました。学界や協同組合・政府の関係者、労働組合などからおよそ100人が参加しました。

イベントは、貧困、危機、不平等などの世界的な課題に取り組む手段として、SSEが世界で注目を集める中、日本でさらにSSEを認知してもらい、その可能性を話し合うために開催されました。

基調報告に立ったエシムは、2022年6月の第110回ILO総会で採択されたディーセント・ワークとSSEに関する決議 を紹介しつつ、アジア太平洋地域にはSSEに関する法的枠組みがほとんどないものの、SSEの価値や原則は各地域の文化に根差していると指摘。コミュニティー型の自助グループや協同組合、アソシエーション、相互扶助組織など同地域のSSEに触れつつ、過去20年間にインド、インドネシア、日本、タイ、韓国などで発展してきた社会的企業の役割についても強調しました。  

連合の西野ゆかり氏は、フリーランスや配達などを単発で請け負う「ギグ・ワーカー」、個人事業主を含む全ての労働者を支援する連合の取り組み「Wor-Q(ワーク)」を紹介。団体生命共済や総合医療共済など共済制度を通じた支援について説明しました。

ILO駐日代表の高﨑真一は、「SSEが目指す『社会正義の実現』はILOの設立理念に合致する」と話し、駐日事務所の長年の取り組みとして、アフリカの協同組合のリーダーを日本に招へいする研修プログラム を紹介しました。今回のイベントは12月3日、4日に開かれた国際開発学会第33回全国大会の一環で、オンラインと会場参加を組み合わせて開催されました。・・・・

–ja/

関連情報

  • –ja/

(報告:古沢広祐)


C-14.水産協力におけるブルーエコノミーの有効性

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:河野敬子(一般社団法人海外コンサルタンツ協会:ECFA)
  • 司会:本田勝(JICA)
  • 討論者:松丸亮(東洋大学)

発表者

  • 三国成晃(JICA) 
  • 世古明也(アイ・シー・ネット株式会社)
  • 寺島裕晃(アイ・シー・ネット株式会社) 
  • 馬場治(東京海洋大学)

実務者からの情報発信強化及び、研究者との交流によるODAの質的改善を目的としたECFAとJICA共同セッションは2018年より開始し5年目を迎えた。

三国氏は「ブルーエコノミーとその推進に向けたJICAの戦略」について発表した。JICAでは、グローバルアジェンダの協力方針の一つに水産資源/沿岸生態系、漁村/沿岸コミュニティ及び地場産業のそれぞれの便益を同時に創出するコベネフィット型の協力アプローチである「島嶼国の水産ブルーエコノミー振興」を掲げている。

これまでのJICA技術協力プロジェクト、パイロット活動、本邦研修などの経験を「ツールボックス」に入れて共有することでより効率的・効果的な支援ができるのではないかとの提案があった。

世古氏は「バヌアツ国豊かな前浜プロジェクト」について発表した。資源管理方策とコミュニティ支援方策を連動させる連結方策を含めた総合的なアプローチにより、活動のバランスをとることで、住民による自主的な資源管理と経済活動の多様化、それを支援する行政を目指した。

寺島氏は、「カリブ島嶼国での重要魚介類のナーサリーグラウンド造成と観光サイトとしての利用」について発表した。重要水産物あるロブスターを安価に増殖させ且つ観光資源にも貢献する試行が行われているが、コミュニティ組織強化や安価な人工魚礁の制作、観光業との連携など課題が山積している。

馬場氏は、日本の取組みとして「水産業普及指導員とその役割」について発表した。指導員制度は、直接漁業現場に出向いて漁業者と対話をすることで現場の課題を行政ルートでくみ上げる役割を担っており、内発的優良事例の発掘と普及に貢献している。開発援助でも、そのような事例を探し出す能力・行政システムとして本制度の移転に意義があるのではないかと紹介した。

ラウンドテーブルでは、知見共有のための「ツールボックス」等のアイデアや、現地の方にとってのプロジェクト参加のインセンティブ作りや巻き込み方法等コミュニティ開発に関わること、魚礁の設置や漁船が増えることのデメリットといった環境保全に関わること等、幅広いテーマでのディスカッションを行った。

(報告:河野敬子)


C-15.JICA国際協力事業における評価の枠組みとプロセスへの着目について

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45 1114(オンライン発表)
  • 企画責任者/司会:佐藤真司(国際協力機構)
  • 討論者:伊藤晋(新潟県立大学)

発表題目と発表者

  1. 「JICA事業評価の概況と最新課題~プロセスの視点を中心に~」
    古田成樹(国際協力機構)
  2. 「新事業マネジメント方式(クラスター事業戦略)の導入及び評価の枠組み検討について」
    丸山真司・山岡麻美(国際協力機構)
  3. 「ザンビア国現職教員研修制度支援を通じたキャパシティ・ディベロップメントにかかるプロセスの分析」
    伊藤治夫(株式会社アイコンズ)・山口恵里佳(国際協力機構)

本セッションでは、JICA国際協力事業評価における評価の今後の方向性及びあるべき姿に関する議論を深めるため、プロセスへの着目をキーワードに3つのテーマについて5名の報告者からの話題提供を受け、討論者・参加者を交えた議論が行われた。

冒頭、本ラウンドテーブルの企画者である佐藤より、ラウンドテーブル企画の背景、目的について説明した。最初の発表として、古田成樹氏より、JICA事業評価の昨今の取り組みを俯瞰する報告がなされた。

特にJICA事業評価基準の改訂(2021年度)に関し、新たに、事業実施中の対応過程等の視点を取り入れるなど、新規・類似案件の計画・実施に向け、より良い教訓の抽出・活用の促進に取り組んでいる状況について概観が共有された。

つづいて、丸山真司氏、山岡麻美氏より、グローバル・アジェンダ、クラスター事業戦略と呼ばれる目的・目標及び重点取組の設定を通じた包括的な事業マネジメントの最新状況と、当該戦略事業の評価手法の検討にかかる論点が報告された。

その後、伊藤治夫氏、山口恵里佳氏より、ザンビアにおける現職教員研修制度支援を通じたキャパシティ・ディベロップメントについて、DAC評価項目とは異なる視点で、事業のプロセスを当事者の語りから振り返りながら、今後の類似事業の形成・実施に向けての教訓が報告された。

報告の後、参加者からJICAにおけるインパクト評価の実施状況やクラスター事業戦略におけるシナリオのモデル化と受益国における開発計画の関係性に関する質問が寄せられ、指定討論者である新潟県立大学の伊藤晋会員からは、プロセスにも焦点を当てた評価をしていきたいとの点は評価できるとしつつ、事業評価に投入できる資源は限定的なため評価の合理化が必要だろうとのコメントがなされるなど活発な議論が展開された。

(報告:佐藤真司)


A. 一般口頭発表

B. 企画セッション

D. ブックトーク、プレナリーほか

第33回全国大会を終えて




第34回全国大会セッション報告(ラウンドテーブル)

ラウンドテーブル


[1I01] 国際教育開発のシングル・ストーリーを乗り越える:実務者と研究者の出会い直しに向けて

  • 日時:2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-112 (紀尾井坂ビル112)
  • 聴講人数:20名
  • 座長:荻巣崇世
  • 司会:川口純
  • ディスカッサント/コメンテーター:林研吾(国際協力機構)、泉川みなみ(国際協力機構)、坂口真康(兵庫教育大学)、関口洋平(畿央大学)
  • 第1発表:国際教育開発の哲学̶背景と展開̶
    橋本憲幸(山梨県立大学)
  • 第2発表:国際教育開発のシングル・ストーリーを乗り越える:実務者と研究者の出会い直しに向けて〜ニカラグア〜
    吉村美弥(国際協力機構)
  • 第3発表:国際教育開発のシングル・ストーリーを乗り越える:実務者と研究者の出会い直しに向けて〜マダガスカル〜
    山縣弘照(国際協力機構)
  • 第4発表:ともに「学び」・「学び直す」関係へ
    興津妙子(大妻女子大学)
  • 第5発表:国際教育開発のシングル・ストーリーを乗り越える:実務者と研究者の出会い直しに向けて〜ヨルダン〜
    山上莉奈(国際協力機構)
  • 第6発表:国際教育開発のシングル・ストーリーを乗り越える:実務者と研究者の出会い直しに向けて〜ガーナ〜
    村田良太(国際協力機構)

【総括】

本企画は、国際教育開発における実務と研究を架橋し、双方向から国際教育開発という分野を捉え直すことを目的として、特に、若手を中心とする実務者と研究者の相互理解を深めるための対話の機会として企画するものである。

2022年度から実施してきた勉強会での議論を通して、研究者側はJICAを単体のアクターと捉える傾向があり、その中で実務に携わる実務者個人の想いや葛藤に十分に目を向けて来なかったことや、逆に、実務者側は、研究者が生み出す知見や批判的検討を実務の中で十分に活かしきれていないことなど、実務(者)と研究(者)の間には「すれ違い」があることが明らかになってきた。

そこで、本企画では、この「すれ違い」の背景に、国際教育開発に関わる人々の葛藤や戸惑い、願いなどの個人的な語りが覆い隠されてきたことがあるのではないかとの仮説に基づき、これへの反省から議論を進めた。

特に、国際教育開発の中で「研究(者)」と「実務(者)」のそれぞれについて生み出されてきた、一方的で固定的なイメージ(シングル・ストーリー)を批判的に捉え、国際教育開発の語りを具体化・複数化するところから始める必要があること、また、「語られること」だけでなく「語られないこと」にも注意を払い、シングル・ストーリーが何を可能にし、何を不可視化してきたのか、議論を深めることに留意し、いわゆる研究者と実務者双方から計6名が登壇し、討論者も双方から計4名が登壇して、議論を進めた。

発表者からは、実務や研究に携わることになった背景・想いに加えて、それぞれが抱える葛藤や喜びが共有され、双方の顔を見ながら、想いをも含めて「出会う」「出会い直す」ことの重要性が確認された。

また、コメンテーターからは、やっていることの中身からは、実務(者)と研究(者)の境界は極めて曖昧なものであるにもかかわらず、それぞれが敢えて立場性を意識する/させる関係の中ですれ違いが起きているのではないかとの指摘があった。

会場からは、国際教育開発の「現場」をどう捉えていけば良いかとの指摘や、教育は明確なゴールがない(あるべきでないとも言える)分野だからこそ、「良い教育とは何か」についての対話を継続的に行なっていかなければならないのではないか、との指摘があった。

今年度より、本ラウンドテーブルのメンバーが中心となって研究部会「国際教育開発」を発足させることから、実務者・研究者の出合い直しや自分自身との出会い直しを促すために、引き続き対話を続けていきたい。

報告者:荻巣崇世(上智大学)

[1J01] 地方展開委員会主催ラウンドテーブル 地方大会から何が見えたのか?ー改めて「地方」から国際開発を考えるー

  • 日時:2023年11月11日(土曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-115 (紀尾井坂ビル115)
  • 聴講人数:00名
  • 座長:
  • ディスカッサント/コメンテーター:
*木全 洋一郎1、*佐野 麻由子2、*工藤 尚吾3、*梶 英樹4、*生方 史数5、*辰己 佳寿子6 (1. 独立行政法人国際協力機構、2. 福岡県立大学、3. 国際教養大学、4. 高知大学、5.岡山大学、6. 福岡大学)

【総括】

報告者:

[2D01] なぜ日本で「国際開発」を学ぶのか——韓国・中国の(元)留学生の経験から紡ぎ出すその答え

  • 日時:2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-B108 (紀尾井坂ビルB108)
  • 聴講人数:25名
  • 座長:汪 牧耘(東京大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:大山 貴稔(九州工業大学)・松本 悟(法政大学)・劉 靖(東北大学)・キム ソヤン(ソガン大学(韓国))・Wu Jingyuan(東京大学大学院)

第1発表:留学生は「国益」になるか:行政・研究・教育現場からの考察

松本 悟(法政大学)

松本氏は、日本政府が無償資金協力で実施している人材育成奨学計画(JDS)を中心に、国際開発の日本留学が持つ特殊性と本RTの意義を述べた。

JDSは開発途上国の若手行政官が日本の大学院で英語学位を取得するのを支援し、帰国後、その国のリーダーとして開発課題の解決に寄与することを目的としている。

過去20年間で5千人以上がJDSで日本に留学した。

こうした「開発奨学生」の中心は行政官であり、修了後に帰国して開発行政と日本との橋渡しという外交的な役割が期待されている。

JDSに見受けられる「意図的な国益」に比べて、本RTは私費留学生や非行政官に登壇してもらい、留学生が自ら感じ取った日本留学の価値をその個々人のストーリーから理解する場である。

松本氏は、このような背景の違いを踏まえて、本RTにおける登壇者の語りが持つ意味を際立たせた。

第2発表:“Made in China, Recycle in Japan?”:留学の「成功例」とは何か——教育で世界を変えよう

劉 靖(東北大学)

本発表では、劉氏が「教育で世界を変えよう」という信念を持つようになった過程を振り返った。

小・中学校から、「正解」や「特権」に塗られた教育に感じた不平と違和感が、その問題関心の原点だという。

来日してから、大切な日本人の方や先生との出会いが積み重なっているなかで、劉氏は国際開発学の教育・研究活動に踏み出した。

「教育の公平」を実現するため、批判的かつ建設的な学問のあり方を国内外の機関、大学や教育現場で思索してきた。

こうした経験を踏まえて、劉氏は「国際開発に関する知の借用」から「国際開発に関する知の共有・共創」への転換が、日本で国際開発を学ぶ意味として挙げた。

その転換を引き起こす主体は、「個人」だけではなく、「地域」でもある。アジアの諸国・諸社会が互いの参照点となることで、自己理解が変容し、主体性が再構築されていく試みは、劉氏の現在進行中の研究である。

第3発表:越境者[境界人]の思い[lived experience]:イギリスと韓国から日本を包み直す[reflecting upon Japanese development studies]

キム ソヤン(ソガン大学(韓国))

本発表の冒頭で、キム氏は本RTで用いる方法論である「オートエスノグラフィ(自伝的民族誌)」の系譜を概説し、個人が自らの多面的・流動的なアイデンティティと経験を再帰的に考察・表象・構築するという行いが持つ学問的意味を浮き彫りにした。

その上で、キム氏は、1990年代から今に至り、韓国、日本やイギリスの国境を超えてきた勉強・留学・研究の経験を、その時々の時代背景と変動をかい摘みながら共有した。

日本で出会った政治生態学の面白さや地域研究者の素晴らしさ、イギリスで受けた理論・議論・研究倫理の厳しい訓練などといった越境による光の部分だけではない。深刻な人種差別と他者排除をはじめとする影もまだ境界人の心身を洗練するものとなった。

キム氏は、30年にわたって見えてきた日本の国際開発研究の可能性を踏まえながら、批判的思考の欠如や議論の断片化などとった現状に対する危機感と変革の必要性を訴えた。

【総括】

これほどまでに人を笑わせたり、泣かせたりした学会のRTはあっただろうか。発表が終わっても、会場における議論が終わらなかった。

「人材をどう育成するか」を考える前に、まずは図らずも日本に来た留学生が見てきた世界に向き合ってみることの大切さを忘れないこと。

オートエスノグラフィという一見「小さな物語」がもつ力を丁寧に用いながら、日本における国際開発研究を批判的に再構築すること。

JASIDをより多くの人が他者との共創の中で自らの足場を見つめ直す場になること。

これらの貴重な課題を示してくださった発表者、コメンテーター、司会と参加者の皆様に深く御礼申し上げたい。

報告者:汪 牧耘 (東京大学) 

[2E01] Well-being, Economics Policy Making and Sustainable Development Goals (SDGs) (English)

  • 日時:2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-B112 (紀尾井坂ビルB112)
  • 聴講人数:15名
  • 座長:石戸 光(千葉大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:Arthur Grimes(Victoria University)、小林 正弥(千葉大学)

第1発表:Using wellbeing concepts to enhance international development

Arthur Grimes (Victoria University of Wellington)

千葉大学の研究プロジェクト「公正社会研究の新展開-ポストコロナ時代の価値意識と公共的ビジョン」(代表:水島治郎・千葉大学大学院社会科学研究院教授)の招聘および共催により、ウェルビーイングと経済政策策定の分野における世界的な経済学者(アーサー・グライムス博士、Motu Economic and Public Policy Research Trustシニアフェロー、ビクトリア大学ウェリントン校経済学部非常勤教授、ニュージーランド・ワイカト大学経済学部名誉教授)を招聘し、主観的幸福度、客観的経済政策(国家予算として財政的価値が配分される)、持続可能な開発目標(SDGs)の相互関係について、ウェルビーイングを考察した哲学・経済学者の系譜や、ウェルビーイング指標の低下が米国におけるトランプ政権の誕生や英国のEU離脱をある意味で予測できる指標であったこと(ただしこの分析自体は事後的なものであるが)、ウェールズを含む各国のウェルビーイング関連政策の有効性、などの側面から学際的に発題していただいた。

第2発表:Comment on “Using wellbeing concepts to enhance international development”

小林正弥(千葉大学)

アーサー・グライムズ教授からの発題を受けて、開発における新たなアプローチとして、どのような「開発」を先進国においても目指すべきか、センのケイパビリティアプローチの特質、客観・主観指標、悲惨や貧困と比較してのウェルビーイング研究の特質、政治哲学およびコミュニタリアニズム、といった概念の差異および関連性について質疑がなされた。

また「多次元的アプローチ」が有益である点、将来世代に関する目配りを行うウェールズの幸福度・公共政策を評価する点についての質疑応答が行われた。

特に多次元的なウェルビーイングを考慮していくことは、低所得のみならず、高所得国においても、生活の質の観点から重要な「開発」の課題である点が提起された。

第3発表:ウェルビーイング、公共政策およびSDGsの関連性

石戸 光(千葉大学)

出席の方々も交えてラウンドテーブル(双方向的な討論)を発表者(石戸)の司会進行により行った。

フロアからの質疑やコメントとして、「経済研究者の方がウェルビーイングを主眼として研究されていることに、研究分野の広がりを感じた」、「韓国は所得的には上がったが、幸福度はむしろ下がっているのが体感であり、この種の研究は目の開かれるものであった」「アフリカではパンとバターなどの物質的な充足が依然として重要であるが、やはりウェルビーイングの低さもあって、両者は相関している」「南米の所得水準とウェルビーイングには、また独特の特徴があるようにも思われる」など種々のコメントが寄せられた。ウェルビーイングへの文化的影響と開発の関連なども重要な論点であることが討議された。

【総括】

冒頭にて、アーサー・グライムズ博士が、公共政策に関する実務との結びつきが強い著名なエコノミストであり、2003年から2013年までニュージーランド準備銀行総裁を務めたことに言及し、その後、同氏の研究テーマがウェルビーイングおよび公共政策についてのものになっていった点を紹介した。

この経歴の変遷が参加者にとって斬新なもので、ラウンドテーブルにおける発題では、開発を問題意識の根底に持ちつつも、主観的指標と客観的指標の相互関係について議論がなされ、続く質疑も活発で有意義なものであった。

報告者:石戸 光(千葉大学)

[2H01] アジアにおける子どもの教育と健康

  • 日時:2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-108 (紀尾井坂ビル108)
  • 聴講人数:00名
  • 座長:
  • ディスカッサント/コメンテーター:
*高柳 妙子1、*日下部 達哉2、*藤崎 竜一3 (1. 早稲田大学、2. 広島大学、3. 帝京大学)

【総括】

報告者:

[2J01] ソーシャルビジネスにおける研究の貢献可能性:インドの離島エリアにおける e-Healthビジネスの事例から

  • 日時:2023年11月12日(日曜)09:30 〜 11:30
  • 会場:紀-115 (紀尾井坂ビル115)
  • 聴講人数:20名
  • 座長:狩野剛(金沢工業大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:佐藤峰(横浜国立大学)・内藤智之(神戸情報大学院大学)

第1発表:ソーシャルビジネスにおける研究の貢献可能性

功能聡子(ARUN合同会社)・岡崎善朗(早稲田大学)・狩野剛(金沢工業大学)

発表者の3名から、インドのiKure社の概要、共同研究の概要といった背景説明があった。

そのあと、引き続き発表者より、インドにおける医療機器の現状や新興国・途上国での医療機器ビジネスの難しさなどについて解説があった。

そして、ソーシャルビジネスにおける研究の貢献可能性として、工学系研究者・民間企業・投資家・社会科学系研究者・現地大学・住民という各ステークホルダーの視点から見える共同研究における貢献可能性について説明があった。

【総括】

発表の後、討論者や会場の参加者からの活発なコメント・質問が行われた。今後の共同研究推進に向けた主な助言は以下の通り。

  • 現地の視点として医療サービスを提供するiKureからの情報を主としているようだが、エンドユーザの声をきちんと拾い上げるべき。例えば、遠隔医療への抵抗感、医者・看護師による信頼の違い、文化・宗教的なハードルなどについてきちんと情報を集めるべき。
  • 研究による外国人・外国資金の介入によって、ソーシャルビジネスの持続性に悪影響が出ないように気をつけた方が良い。特にこの共同研究の出口はどうなるのかと言った点は事前に先方とも意識合わせをしておく必要があると考えられる。
報告者:狩野剛(金沢工業大学)

[2C02]「持続可能性」の多義性を問う-言説分析、認識調査、評価の先に何を見るか

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-B104 (紀尾井坂ビルB104)
  • 聴講人数:30名
  • 座長:山田肖子(名古屋大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:木山幸輔(筑波大学)・工藤尚悟(国際教養大学)
Questioning the polysemy of “sustainability”: What to Look For Based on Discourse Analysis, Perception Surveys, and Evaluations

第1発表:「持続可能な開発」は誰にとってのどのような課題なのか:フィリピン、ガーナでのオンライン質問票調査からの試論

山田肖子(名古屋大学)・島津侑希(愛知淑徳大学)

この報告に先立つ、山田による本セッションに関する説明においては、質問紙調査による演繹的モデル作りと、学校や農村でのフィールドワークによる帰納的知見とを用いて、「持続可能性」言説をめぐる多様なリアリティを明らかにするという本セッション参加者が今後目指す目的と、国際開発学との接合という課題が示された。

その後、山田・島津報告においては、質問調査をもとに「持続可能性」概念を基軸として行われた批判的言説分析の報告がなされた。

そこでは、持続可能性に関する人々の認識において、いくつかの指向が存在することが報告された。

フロアとの議論では、本研究が持ちうる意義として、持続可能性言説がトップダウン的政治性をもちつつ同時に拡散し定着していく動態との関係を明らかにしうること、西欧近代的な認識論・存在論を問い直しうることなどが指摘された。

第2発表:「持続可能な開発」を評価するとはどういうことなのか

米原あき(東洋大学)

米原報告と次の西川報告は、帰納的知見を用いるものである。米原報告は、持続可能性と関連し実施される評価について考察を行う。

すなわち、タイにおけるコミュニティ開発評価と日本のESDに関する評価である。

報告では、そうした評価において用いられる説明責任・エビデンス・合理性について、現場の当事者とともに協創される評価指標にもとづくそれらの像の可能性が指摘された。

こうした協創においては、共通認識をどのように、いかなる主体が形づくっていくことができるのか、コメント・質問がなされた。

これは、当事者の観点が、同じ人間であっても、地球市民、学校の生徒等、多様なものでありうることとも関係する。

第3発表:食と農のシステムの持続性のなにが厄介な問題か?

西川芳昭(龍谷大学)

西川報告では、食と農をめぐる持続性に関する議論において、人間中心主義が前景にあったことが指摘された。

そして、むしろ多様なアクターとの萃点の中で、むしろ評価になじまない当事者のまなざし、例えば「種をあやす」といった農業従事者の言葉をどのように位置付けるか、といった課題が提起された。

こうした議論について、例えば当事者の視点をむしろ規範的に固定化してしまうおそれについて提起がなさたり、研究者による価値判断が機能を果たす位置等について、質問がなされたりした。

【総括】

セッション全体に共通するコメントとして、「共創/協創/対話」といったモデルにおいて、研究者と調査対象者の望ましい関係のあり方、あるいは持続可能性概念に対する研究者のポジショナリティが問われた。

あるいは、研究によって明らかとなる人々の持続可能性をめぐる認識・世界観と、研究者の価値に関する探究の関係が問われた。

セッションでは、多様な学術領域および実務家からの本研究への観点が示されるとともに、参加者がもつ持続可能性の言葉に対する態度についても言葉が示された。

こうしたことを通じ、本研究の意義について考察が深められ、今後の研究の進展に大きな意義があったと思われる。

報告者:木山幸輔(筑波大学)

[2D02] 国際開発(学)の「埋葬」と「再生」―世代を超えた、グローバルなサステナビリティの確保を射程に入れて―

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-B108 (紀尾井坂ビルB108)
  • 聴講人数:00名
  • 座長:
  • ディスカッサント/コメンテーター:
*佐藤 峰1、*小林 誉明1、*木全 洋一郎2 (1. 横浜国立大学、2. 国際協力機構)

【総括】

報告者:

[2E02] 国際協力NGOの組織基盤強化支援におけるマッチ・ミスマッチ

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-B112 (紀尾井坂ビルB112)
  • 聴講人数:不明
  • 座長:中山雅之(国士舘大学大学院)
  • ディスカッサント/コメンテーター:東郷 琴子(パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社)、松元 秀亮(国際協力機構)、篠原 大作(特定非営利活動法人日本ハビタット協会)、田口 由紀絵(合同会社 コドソシ)、楯 晃次(株式会社EMA)

国際協力NGOの組織基盤強化支援について、表面的には見えないマッチ・ミスマッチが存在するのではないかと、支援組織、支援を受ける組織、評価・伴走者の3者の視点から議論をする企画であった。

まずコーディネーターの中山が組織とは何か、組織基盤強化とは何かについて、経営学の視点で整理した。

その後、報告、パネルディスカッション、フロアからのコメントの3パートで進められた。

報告

楯が、これまで行われてきた支援制度を研修型、助成金型の2つに分け、年表に沿い、その変遷を報告した。

研修型は1987年前後から開始されたが、組織基盤強化に直接資する組織マネジメント研修やリーダーシップ研修などは、2004年からの開始となり、2011年頃までに多く行われ、その後はファンドレイジング研修に変化した。

助成金型では、1993年に初めて助成制度を設けた組織が出たものの、その後助成金制度は増えず、数団体にとどまっている現状を報告した。

こうした変遷の中で、支援を行う組織として、パナソニック オペレーショナルエクセレンスの東郷、国際協力機構の松元が、支援を受ける組織として日本ハビタット協会の篠原が、評価・伴走者コドソシの田口が、 (1)組織基盤強化/支援に関する取組、(2)支援をする組織/支援を受ける組織への要望、(3)感じ考えていること、の3点について報告した。

支援を行う組織として東郷は、社会変革における組織基盤強化の重要性、また組織基盤強化の取り組みが組織文化として定着していくことの意義、そしてそれらノウハウが業界全体に共有・浸透されることの重要性を報告した。

一方で、セクター全体の成長を促進するために、どの層を応援することが効果的かまだ定まっていないとの課題を提示した。

続いて松元は、JICAとしての支援制度を説明した後、支援を受ける組織に対して、組織同士の繋がりと学び合いによって他組織と自組織との比較を通じた気付きの重要性を述べた。

制度を整えるだけでなく、組織自らが組織基盤強化の必要性・重要性を感じて取り組むモチベーションがなければ、制度があっても組織基盤強化に資さないのではといった問いを提示した。

支援を受ける組織として篠原は、支援を行う組織に対して、より効果的なものにする為には、結果だけでなく強化プロセスを重要視すべきであることを強調した。その為強化のための組織再構築のモデルケースを提示することが望ましいと述べた。

最後に評価・伴走者の田口からは、支援を行う組織に対しては、業界の現状と外部環境の変化を把握し、業界がどうなれば世界が良くなるのかという視点をプログラムに反映することの重要性が述べられた。

支援を受ける組織には、環境が変化する中で、組織変革に取り組むことに対して組織全体で合意形成をとることが、組織基盤強化の一歩目であると報告をした。

パネルディスカッション

報告を踏まえ、中山がコーディネーターとして、報告者が討論者となり、パネルディスカッションを行った。

特に組織基盤を強化するにあたって、組織内部での合意形成と組織基盤強化に関わる三者の緊密な連携について多くの議論がなされた。

組織内部での合意形成については、組織の根幹に関わる課題と向き合うため、多くの困難や痛みを伴うこともあり、その認識を組織全体が事前に共有・合意し、取り組まなければ、本質的な組織基盤強化への取り組みは難しいことが強調された。

また三者の連携は支援制度への申請前からコミュニケーションを図るべきであり、また実施前・中・後が有機的に連結された一連モデルケースを整備することが重要であることが合意された。

フロアからのコメント

組織基盤強化を考える上でも資金調達の重要性を感じたといった感想が述べられた。

そして組織の活動分野や特徴に合わせた強化方法や成長の特徴を整理する必要があるのではないか、さらに、組織の核となるミッション・ビジョンといったアイデンティティを明確化し継承することが組織の基盤強化には不可欠であり、具体的にどのように取り組むべきか改めて考えるきっかけとなったというコメントがなされた。

【総括】

組織基盤強化に関して、支援を行う組織、支援を受ける組織、評価・伴走者という異なる立場である者が一堂に会するということが、大きな意味をもった。

そして、今後NGOが継続して組織基盤を強化していく上で必要となる視点や支援制度の在り方について、率直な意見が開示され、開かれた議論が成されたことは、今後の支援制度設計、そして本業界の成長に大きな意義を見出すことが出来る成果となった。

報告者:楯晃次(株式会社EMA)

[2H02] メイキング・オブ・開発協力大綱:大綱はどう作られ、どこに向かうのか

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-108 (紀尾井坂ビル108)
  • 聴講人数:00名
  • 座長:
  • ディスカッサント/コメンテーター:
*山形 辰史1、*河野 敬子2、*原 昌平3、*井川 真理子4、*鈴木 千花5 (1. 立命館アジア太平洋大学、2. (一社)海外コンサルタンツ協会、3. 国際協力機構、4.(株)コーエイリサーチ&コンサルティング、5. 持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム)

【総括】

報告者:

[2O05] JICA国際協力事業における評価の枠組みとグローバル危機について

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-412 (紀尾井坂ビル412)
  • 聴講人数:00名
  • 座長:佐藤 真司(独立行政法人国際協力機構)
  • 指定討論者:伊藤  晋(新潟県立大学)

第1発表:JICA事業評価の概況と最新課題-紛争影響国の事業評価の視点-

阿部 俊哉(独立行政法人国際協力機構)
山口 みちの(独立行政法人国際協力機構)

南スーダン、フィリピン(ミンダナオ)の事例を交え、紛争影響国の事業での評価の難しさとともに、「紛争影響国・地域に留意した事後評価の視点」を整理・公開していることを紹介した。また、外部要因の考え方の整理が重要であることを報告した。

指定討論者から、①感染症、経済危機、政権交代等で事業に影響が生じた際の評価での対応、②騒乱等の影響が事業実施段階に発生し、事業計画と異なる対応が生じた場合の評価の考え方について質問があった。

JICAから、①事業形成時には想定困難で事業期間中に対応困難な事象が発生した場合、外部要因と整理するが、一律の判断基準を設けることは困難なため、事業が受けた影響の記録を残すことが重要であること、②紛争影響国での事業は、案件計画当時に治安悪化等のリスク想定及びその対策の実施内容、計画時の想定を超える治安悪化等が事業に与えた影響、事業継続に向けた対応等を事後評価時に確認することを説明した。

第2発表:新事業マネジメント(クラスター事業戦略)でのモニタリング・評価の枠組み検討について

宮城  兼輔(独立行政法人国際協力機構)
菅原  貴之(独立行政法人国際協力機構)

JICAグローバル・アジェンダ(JGA)・クラスターの概要と、クラスター単位でのモニタリング・評価の試行案を紹介した。また、クラスター導入を踏まえたJICAの評価6項目の適用項目、確認時の重みの分散案を説明した。

指定討論者から、①クラスター外の技術協力への評価6項目の適用方針、②技術協力と資金協力の取扱が異なる理由、③クラスター単位での成果検証方法について質問があった。

JICAから、①評価6項目の適用項目や重みの分散は試行対象クラスター及び事業のみ、試行結果ではクラスター外の事業に適用する可能性がある、②技術協力は活動の過程でアウトプット、アウトカムが発現するが、資金協力は事業完了時にアウトプットが生成され、事業完了の一定期間後にアウトカムが発現するのが主流という違いを踏まえている、③クラスターは、技術協力以外に資金協力や民間連携事業、他機関とのプラットフォーム活動の成果も確認対象になること、を説明した。

【総括】

以下のような質問・コメントがあった。JICAからは、JGAとクラスターが目指す方向性は、今次大会のテーマである「複合的危機下における連帯と共創」とも通ずるものであり、指摘の点も踏まえ、試行プロセスを通じてよりよい制度設計をしていきたい旨回答。

  • 多様なステークホルダーを巻き込むクラスターは、JICA単体で事業監理が可能なのか。
  • EBPMならぬPBEM (Policy Based Evidence Making)にならぬようすべき。
  • IMM(Impact Measurement and Management)の発想が重要である。
報告者:佐藤 真司(独立行政法人国際協力機構)

[2P01] 2023 JASID 世銀協議―世界銀行 ・ 日本政府 ・ 住民を繋ぐ者たち―

  • 日時:2023年11月12日(日曜)12:45 〜 14:45
  • 会場:紀-413 (紀尾井坂ビル413)
  • 聴講人数:15名
  • 座長:玉村優奈(東京大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:大芝亮(広島市立大学広島平和研究所)、松本悟(法政大学)

第1発表:文化運動としての愛知用水ー仲介者「久野庄太郎」を中心にー

柴田 英知(歩く仲間)

2021年9月30日に通水60周年を迎えた愛知用水は、第二次世界大戦後の、日本初の地域総合開発事業ともいわれ、また世界銀行の借款事業としても知られている。

愛知用水の事業推進の内部構造を、ソーシャル・イノベーション論の枠組みで読み解き、「文化運動としての愛知用水」という観点から、発願者であり篤農家の「久野庄太郎」の開発思想、久野らを支えた官民、皇室にまで及ぶネットワークを中心に、地域開発事業をめぐる仲介者の協働ととらえる視点を提示した。

愛知用水の事例で何がなかったら失敗していたか、成功と失敗を決める事業評価の根本的な在り方(松本)、開発コミュニティはどのようにつくられるか(大芝)がコメントされ、愛知用水が他の対日融資と比べても特異な事例であることを柴田氏は強調した。

第2発表:日本のNGOと世界銀行・財務省との対話と課題

田辺 有輝(JACSES)

田辺氏は、世界銀行と融資事業地の住民らとの仲介的な存在である「財務省・NGO定期協議」について報告した。その中で、大芝氏による過去の外部評価が紹介され、信頼関係の醸成が財務省とNGOの双方にとっての成果として挙げられた。

その後の20年間の考察として、財務省内の人事異動による知識の蓄積や逐次議事録の公開が協議を発展させたと自己評価した。

また、愛知用水の比較事例として、世界銀行が1960年から1970年に「緑の革命」として推進したパキスタンの灌漑事業が深刻な塩害を引き起こした問題を取り上げた。塩害対策の事業が新たな環境社会被害を引き起こし、それが世界銀行のインスペクションパネルにかけられ、5つの政策違反が指摘された。

愛知用水という「図らずも」成功した農業事業がある一方で、「図らずも」問題の連鎖を引き起こした農業事業もあった。

コメンテーターからは、対日融資と現在の世銀事業との異同(松本)や、協議に参加するNGOとそうでないNGOとの線引き(大芝)などについてコメントがなされた。

第3発表:2023 JASID – 世界銀行協議―世界銀行・日本政府・住民を繋ぐ者たち―

米山 泰揚(世界銀行)

米山氏は、愛知用水を主管する農林省が3省と共管し、基本計画を5省庁と協議し、さらに実施計画は3県と協議したうえに農民の意見提出権が明記されていることは当時としては極めて珍しいと指摘した。

また、米山氏が財務省職員として関わったNGOとの定期協議の意義を評価し、住民等の関係者の視点を通じて事業の多面性を認識したこと、開発政策を巡る自由闊達な議論によって「開発コミュニティ」が形成されたこと、国際開発に携わる行政官の「教育」になったことを挙げた。

世界銀行の最新の動向として、気候変動・パンデミック・政情不安な脆弱国などに対処する国際公共財の供与を強化し、環境・社会配慮原則を緩めることなく案件組成に要する時間の大幅短縮を目指すこと、今後10年で1,500億ドルの融資を積み増すことなどを説明した。

コメンテーターからは、世界銀行の予算増額・時間短縮とAIIBや中国との繋がり(大芝)や市民社会と世界銀行の間を財務省が仲介することの煩雑さ(松本)について質問が出され、米山氏からは、AIIBは競争相手ではない点や、市民社会が国会を通じて問題提起するのと同時に、財務省との定期協議の場において掘り下げた議論を行うことで、実質的な改善に繋がるなどの認識が示された。

【総括】

世界銀行の対日融資である愛知用水と、1990年代以降の日本の財務省とNGO間の世銀に関する協議を取り上げ、仲介者の役割と組織を超えた知の蓄積の重要性を浮き彫りにした。

現在、世界銀行は融資額を増加する一方で、融資審査の期間を短縮する方針を打ち出している。

本RTが、現場と世銀を繋ぐ仲介者の活動をどのように活性化できるか、新たな制度的枠組みづくりと過去の経験の援用の限界と可能性といった新たな課題を提起したといえる。

さらに、本RTが今後の国際開発学会で、世界銀行を筆頭に国際開発金融機関への議論と関心が高まるきっかけとなることを期待する。

報告者:玉村 優奈(東京大学)

[2C03] 外国人技能実習制度を通じた技能移転をめぐる課題と可能性ーベトナムにおける社会的ニーズと技能実習生の生活戦略

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-B104 (紀尾井坂ビルB104)
  • 聴講人数:20名
  • 座長:生方史数(岡山大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:佐藤寛(開発社会学舎)

第1発表:ベトナム人元技能実習生における技能移転と将来設計

加藤丈太郎(武庫川女子大学)

コメント:「技能移転」を研究することは技能実習制度を擁護することにもつながるのではないか。

応答:本研究は、制度の是非を超えて、移民個人に制度がどのような影響を及ぼしたのか、その内実を明らかにすることを目指している。

コメント:分析枠組みにcapabilityを用いているが、移住と開発の研究分野ではaspirationも合わせて議論されている。元技能実習生のaspirationも考える必要があるのではないか。

応答:たしかにaspirationによって事象を説明し得る可能性がある。今後ぜひ取り入れていきたい。

コメント:研究方法は、31名へのインタビューとあるが、どのように調査対象者を確保したのか。

応答:データの偏りを防ぐために、在ベトナムの日本語通訳者、日本のベトナム寺院の住職、カトリック教会のシスター、自らの前の研究の調査対象者への再コンタクトなど、複数のルートをたどり調査対象者を集めた。結果的に相当数の方へのインタビューの実現につながった。

第2発表:ベトナムの農業をめぐる社会的ニーズと技能実習生の生活戦略としての技能移転

二階堂裕子(ノートルダム清心女子大学)

コメント:日本の農業分野で就労し、農業の技術を学んだとしても、技能実習生の母国の自然条件や地理的条件が異なるため、必ずしもその技術を活用することができるわけではないのではないか。

応答:狭い意味での技術ではなく、作業遂行のための能力、たとえば、農業経営の考え方や方法を身につけることで、それを母国で活用することは可能であると思う。

ただし、日本社会がもつ知識や技能を、技能実習生の母国のそれらよりも「優れたもの」と安易に位置づけ、「修得するに値するもの」として一方的に「押し付ける」といった姿勢があるとすれば、おおいに検討の余地があると考える。

そのためにも、送出国でどのようなニーズがあるのか、そのニーズに応えうる技能とは何かを吟味する必要がある。

第3発表:介護分野におけるベトナムへの技能移転の課題と可能性:「移民力」の視点から

比留間洋一(静岡大学)

コメント:Cさん(将来故郷で介護サービスを提供すべく、現在、日本在住ベトナム人高齢者に介護ボランティアを試行)は、ベトナムでは大卒、日本では(技能実習生ではなく)留学生(現在、介護福祉士)。

ここからも示唆されるように、調査対象者を技能実習生に限定しないほうがよいでは。また、(コミュニティのチェーンマイグレーションではなく)一人の個人によるものなので、故郷のコミュニティ開発への影響は限定的になるのではないか。

応答:確かにCさんのような介護職者はまだ少ない。しかし、介護ボランティアにはCさんの同僚のベトナム人介護職者(元技能実習生を含む)が自ら進んで参加している点で可能性が感じられる。

「上からの」日本式介護の輸出ではなく、「移民力」(故郷への思いと実践)を基盤としたベトナム人による「下からの」試みのほうが持続性の面で期待できるのでは。以上から、このような事例に今後とも注視していく必要がある。

【総括】

政府の有識者会議より、近日中に、技能実習制度に代わる新しい外国人労働者の制度が示される見込みである。

今年10月に立ち上がった「移住と開発」研究会では、こうした動向をふまえつつ、日本社会が外国人労働者から「選ばれ続ける」ための道筋を検討していきたい。

報告者:二階堂裕子(ノートルダム清心女子大学)

[2D03] SDGsを追い風とした国際協力人材の確保とキャリア形成~RiskとOpportunity~

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-B108 (紀尾井坂ビルB108)
  • 聴講人数:30名
  • 座長:佐藤仁(東京大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:山田肖子(名古屋大学)・末森満(国際開発ジャーナル社)

第1発表:国内外の社会課題解決を結ぶ国際協力キャリア

江崎千絵(JICA)

  • JICAを取り巻く国際協力人材の現状と課題
  • JICA内外の開発協力人材の養成・確保に向けたビジョン
    (多様化・複雑化・変化する世界規模の(開発途上国の)課題に、機動的・革新的に対応するために、活力ある魅力的な開発協力人材市場を実現する)
  • 職業としての国際協力の認知向上
  • 越境支援、人材の還流
  • 個人にとっての魅力的なキャリアアップと業界全体での共創促進の方策とは?

本当に優秀な人を、国際協力人材として活躍してもらえる状態にしておくかが大事なのではないか、そのためにも待遇の工夫や地位向上への努力も必要だろう。

第2発表:「開発コンサルティング人材の確保とキャリア形成」

河野敬子(ECFA)

  • 開発コンサルタントの年代構成
    (20代と70代の増加、30代の減少)
  • 高齢化と中堅層の確保
  • 70代のプロジェクトマネジャーの増加
  • 課題と対応
    (ジェネレーションギャップ、働きやすさ、報酬、魅力発信、参入障壁対策)

開発コンサルタントは新規マーケットを目指しているのか?日本のコンサルがグローバル競争に入っていけるのか?などの質問があった。

第3発表:国際協力人材育成における大学の役割」

須藤智徳(立命館アジア太平洋大学)

  • 国際開発に関する学生アンケート結果
  • サステナビリティ学科の学生8割が国際開発に関心あり
    (ほとんどが授業をきっかけに関心)
  • 将来仕事として関わりたい人は6割
    (JICA等政府機関が人気)
  • 高校までの動機付けをどう作るか
  • 大学で国際開発教育の動機付けをどう強化するか

国際開発の仕事に関心がある学生に対して、新卒採用の門徒が狭いといった受け入れ側の課題も多く、学生からはハードルが高い印象。専門性や経験も具体的に何をといった提示があるとキャリア形成に役立つといった学生側からの声も聞かれた。

【総括】

江崎氏、河野氏、須藤氏の順にそれぞれの立場で感じている国際協力人材についての現状や課題について発表を行った後、討論者末森氏からは、①国際協力とは何かを明確にする、➁国際協力の担い手(国際協力人材)はグローバル人材である、③働く環境を改善する、④人材確保に対しターゲットを大学生に加えて中高生に拡大するといった指摘があった。

討論者山田氏からは、「国際開発学」「国際開発業界」という言葉が暗黙のうちに作ってしまっている職業上の参入障壁と″業界人”の思考枠組みをいかに変えるか?テーマとしては関心がある、既に関わっているという層といかにつながるか?といった点について、有機的につながり続けるための仕掛けにイノベーションが必要との指摘があった。

今後、学生を含めた20代、30代をターゲットとしたイベント等を検討していくべく、学生に協力を呼び掛けた。

報告者:河野敬子(ECFA)

[2H03] SDGs Reexamined-Lessons Learned from Afrian Experience (English)

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-108 (紀尾井坂ビル108)
  • 聴講人数:45名
  • 座長:Masato Noda (Ibaraki University)
  • ディスカッサント/コメンテーター:Woury M. Diallo (ex. World Bank)

第1発表:Aid Complementarity: Theory and Practice in Africa

Takeshi Daimon-Sato (Waseda University)

In this presentation, the author presented on aid complementarity in Africa. Main message can be summarized as follows: 1) competition is good, but coordination failure often results in costs for all parties. 2) there is a case for grand coalition for Win-Win-Win case, 3) It may be difficult to find a convergence for the Belt and Road Initiative (BRI) and Free and Open Indo-Pacific (FOIP) – but there exists a more realistic possibility for collaboration between FOCAC and TICAD for targeted topics. 4) in selected fields such as medical-public health/educational fields (example in Mauritania), there are some good practices in support of complementarity thesis, while transportation/energy infrastructure – there seems to be most difficult challenge to overcome. It is important to grasp the concept of complementarity with some gradation on the basis of a) Reciprocal Complementarities – South-South Cooperation, Equal Partner Cooperation / Interdependence, b) One-Sided Complementarities – Center-Periphery Relations (Growth Center vs Supplier Countries) / Dependence.  Further, the analysis could be broken into sectoral level (input-output inter-industry, or intra-industry) complementarities.  Also, multidimensionality of complementarities could apply to resources (skilled labor, capital), institutions, hardware and software (infrastructure and management system).

第2発表:Halfway of SDGs to 2030

Masato Noda(Ibaraki University)

SDGs are the global development goals 2016-2030. They are on halfway in 2023. They are required to reexamine based on the COVID-19 pandemic. Analysis of its impacts on SDGs requires multidimensional approach regarding to the three dimensions of sustainable development; economy, society and environment. The pandemic highlights vulnerability, especially people and are that left behind. COVID-19 pandemic is a global thread and crisis of human security. It is necessary to “rebuild our economies sustainably and inclusively.” “Remember, we are in this together,” “No one will ever be truly safe until everyone is safe” (Mohamed, A.J). SDGs motto, “No one left behind” is not just ideal but should be in practice. For post/with Corona society, it necessary to accelerate SDGs through human security approach in Anthropocene.

第3発表:Rely on China? Africa’s Path to SDG 10

Christian S. Otchia (Nagoya University)

This research explores the influence of Foreign Direct Investment (FDI) on regional inequality in Ghana, addressing the spatially imbalanced distribution of FDI, particularly in urban areas. Using a regional inequality index derived from predicted GDP, the study employs a panel data fixed effect model spanning 1994 to 2020 across ten regions, providing a nuanced regional-level analysis. Notably, FDI is found to significantly reduce regional inequality, highlighting the role of Ghana’s absorptive capacity. The study underscores the positive impact of FDI in the manufacturing sector, advocating for tailored policies to attract such investments to foster equitable regional development. Moreover, Chinese FDI is identified as a key contributor to reducing regional disparities, aligning with policies emphasizing infrastructure and employment. The research offers policy recommendations to optimize FDI distribution, strengthen bilateral relations with positive contributors like China, and align strategies with SDG 10. Emphasizing the non-linear relationship between FDI and regional inequality, the study calls for an adaptive approach to maximize benefits while mitigating potential disparities, emphasizing the manufacturing sector’s potential and aligning strategies with the African Continental Free Trade Area.

第4発表:China-Africa Cooperation and SDGs

Naohiro Kitano (Waseda University)

In this presentation, the author presented on the recent China-Africa relations and China’s efforts to make use of the SDGs to expand its influence, as well as challenges on the African side. China has been hosting the Forum of China Africa Cooperation (FOCAC) as a platform for enhancing relations with Africa. In 2021, for the first time, the ministerial conference adopted the long-term plan for FOCAC. The three-year plan shifted its focus from infrastructure to health, the digital economy, and human resource development. As for infrastructure, China has become more cautious about providing new loans as the debt problems of developing countries, including African countries, have worsened. A new initiative emerged in 2021: the Global Development Initiative (GDI), which provides a global platform hosted by China to accelerate the achievement of the SDGs. the GDI seems to be more of a foreign policy to increase the influence on global south rather than a development policy. Chinese government announced funding for the GDI, but not on the scale of the Belt and Road Initiative (BRI). From the developing countries’ perspective, taking Zambia as an example, good leadership and governance is the key to managing relations with China.

第5発表:China’s Party-State Relations in Africa

Takashi Nagatsuji (Waseda University)

How does the Communist Party of China (CPC) interact with the Chinese Ministry of Foreign Affairs (MFA)? Previous studies on party-state cooperation of China point out a clear division of work between the party and the state. However, in reality the divisional cooperation between the CPC and the MFA is blurry. My research untangles China’s party-state relations in Africa by constructing and analyzing original datasets covering the activities of both the International Department of the CPC Central Committee (IDCPC) and the MFA. The IDCPC is an organ in charge of the CPC’s external work. On the one hand, my research shows that party-state cooperation is not strong in terms of geographically selecting their partners and that their cooperation is weak even in the Belt and Road Initiative (BRI). On the other hand, my research shows that the IDCPC aligns with the MFA in their main activities, illustrating two types of party-state cooperation: Party-Led Cooperation and State-Led Cooperation. My research implies that China does not have one overarching Africa Strategy and the IDCPC and the MFA has its own Africa Strategy. This research contributes to the literature on China-Africa relations and advances understanding of the relations between political parties and state organizations.

【総括】

This round table is the kickoff session of new JASID ‘SDGs Re-examined’ Research Group. It aims to develop the research on SDGs post/with Corona era toward 2030, as the successor of precedent SDGs research groups of JASID: on ‘Sustainable Development and SDGs’ and ‘Resilience of Development and SDGs’. The book, Noda, M. ed. (2023) ‘SDGs Re-examined: Post/With Corona and Human Security’ is a fruit of them. Based on these, the research group plans to 1) conduct case studies of the regions, such as Africa, Asia and Pacific, and Latin America, 2) organize academic sessions and publish articles and books in English.

報告者:Masato Noda (Ibaraki University)

[2J03] 大国間競争の時代に ODAで「普遍的価値」を促進することの意味を問う

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-115 (紀尾井坂ビル115)
  • 聴講人数:00名
  • 座長:
  • ディスカッサント/コメンテーター:
*志賀 裕朗1、*福岡 杏里紗3、*荒井 真紀子2、*小林 誉明1(1. 横浜国立大学、2. JICA研究所、3. デロイトトーマツコンサルティング)

【総括】

報告者:

[2O06] 人口減少社会における創造的復興とは何か?

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-412 (紀尾井坂ビル412)
  • 聴講人数:20名
  • 座長:松岡俊二(早稲田大学)
  • ディスカッサント/コメンテーター:中村勝則(秋田県立大学)、工藤尚悟(国際教養大学)

第1発表:東日本大震災からの「ポスト復興」のまちづくり:岩手県陸前高田市の事例

木全洋一郎(JICA北海道帯広)

木全さんの陸前高田市の事例報告、戸川さんの紫波町オガールプロジェクトの事例報告、島田さん・辻さん・松岡の福島浜通り復興の事例報告は、まちづくりのビジョンやコンセプトの形成プロセス、公民連携(PPP)のプロセス、よそ者(外部者)と地域社会内の人々との関係、社会イノベーション創造のための知識創造や資源動員のあり方、政策形成と「対話の場」=「学びの場」の関係(科学と政治と社会の協働)のあり方など、さらに幾つかの基本的な評価軸で比較研究すると一層興味深い研究成果が生まれ、実践への教訓が明確になるように思います。

引き続き調査研究を続けたいと思います。

第2発表:多様な主体が地域で学習する場の形成を通じた地域再生に関する一考察:紫波町オガールプロジェクトの事例

戸川卓哉(国立環境研究所福島地域協働研究拠点)

中村さんのコメントの研究者・専門家としてのまちづくりや地域再生への関与(参与)のあり方は、大学に籍を置く研究者・学者として深く考える必要を感じました。

12年半前の東日本大震災・福島原発事故は日本の大学と政治や社会のあり方を考える大きな機会だったのですが、今になって思うと、持続的な大学改革への努力が根本的に不足していたように思います。

ある意味で、そうした自主的な持続的な努力の不足が、「失われた30年」の日本の科学技術力や日本の大学の国際的な地位低下の大きな要因の一つであるように思います。

第3発表:人口減少社会における原子力災害からの福島再生を考える:福島再生塾の設立に向けて

松岡俊二(早稲田大学)
島田剛(明治大学)
辻岳史(国立環境研究所福島地域協働研究拠点)

工藤さんが最後の方でコメントいただいた以下の指摘は、福島の復興や廃炉の研究をする者として大変重く心に響きました。

「この12年半、福島へボランティアや視察などで訪れた人は私の周りにも多くいる。しかし、そうした多くの人々の福島の復興や廃炉への関心は持続せず、福島県浜通り地域の関係人口とはなっていない。このことは、福島県のホープツーリズムなどが提供する福島復興のメッセージやコンセプトと日本社会や世界の福島への想いが乖離していることを示しているのではないか。『福島の問題は日本の問題であり、福島の問題は世界の問題である』ということを明確なメッセージやコンセプトとして示していくことが必要ではないか」。

【総括】

11月12日(日曜)15:00-17:00、上智大学で開催されました国際開発学会・第34回全国大会・企画セッション「人口減少社会における創造的復興とは何か?」では、創造的復興、まちづくり、地域再生などをめぐり、地域社会内外の多様なアクターによる「場」づくりのあり方や知識創造・イノベーション創出のあり方など、大変充実した議論が出来ました。

報告者の方々、秋田からご参加いただいた討論者の中村さん、工藤さん、福島(富岡町)から参加いただいた穂積さんなど、参加された皆さんに心から感謝申し上げます。

報告者:松岡俊二(早稲田大学)

[2P02] テストと学力改善

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00 〜 17:00
  • 会場:紀-413 (紀尾井坂ビル413)
  • 聴講人数:00名
  • 座長:
  • ディスカッサント/コメンテーター:
*谷口 京子1、*光永 悠彦2、*渡邊 耕二3、*丸山 隆央4、*石井 洋5 (1. 広島大学、2. 名古屋大学、3. 宮崎国際大学、4. JICA緒方研究所、5. 北海道教育大学)

【総括】

報告者:

その他

  • 一般口頭発表
  • 企画セッション
  • ラウンドテーブル
  • プレナリー、ブックトーク、ポスター発表



第33回全国大会セッション報告(前夜祭、ブックトーク、プレナリーほか)

P. 前夜祭

現代アフリカの開発における課題
―危機下の市民生活から

  • 2022年12月2日(金曜)18:00 ー 20:00
  • 企画責任者:林 愛美(日本学術振興会/大阪公立大学)
  • 討論者:佐藤 光(明治大学)、山崎 暢子(京都大学・ハーバード大学)、笹岡 雄一(明治大学)、佐久間 寛(明治大学)

前夜祭の趣旨は以下の通りである。サハラ以南アフリカの多くの地域では、独立を経験してから60年以上が経った。近年、アフリカ社会は民主化やグローバルな資本主義経済化、そして開発プロジェクトの影響を受けて急激な変化を経験してきた。

また、現在はCOVID-19という世界的な感染症の危機の只中にある。こうした環境の変化や危機において、開発途上であるアフリカ社会では、支援と開発が必要とされている。しかしそのためには、アフリカの人びとがどのような危機に置かれており、どのような支援が必要であるかをまず明らかにする必要がある。したがって本企画では、現代のアフリカにおける開発と市民生活の課題について、それぞれの研究者のフィールドから報告を行った。

まず第1発表者の佐藤は、COVID-19の危機に際して生活困窮者が増加する中、アフリカ諸国で社会保障制度の強化が急速に進められている状況に着目し、非民主主義国が多いサハラ以南アフリカにおいて社会保障を整備する上での課題についてジンバブエの事例を取り上げ、民主化が進んだ南アフリカと比較しながら考察を行った。

第2発表者の山崎は、ウガンダの地方都市において交通インフラ整備といった開発事業が労働移動の契機となって地方の都市化を推し進めた一方、地方住民の生活に大きな影響を与えている点を指摘し、現代の地方都市住民の就労上の課題について論じた。

第3発表者の林は、ケニア西部の村落部において女性器切除という慣習を廃絶しようとする運動が市民社会組織によって展開されているものの、相互扶助的な地域社会においては両者の間でコンフリクトが生じていることを報告した。  

以上の発表に対して第1コメンテーターの笹岡からは、特に佐藤に対して民主化過程が社会保障制度の形成にどのようにつながっていくのか、また、外部からの財政的支援とはどのようなものかという質問がなされた。一方、外部支援に頼ることは、アフリカの社会保障制度の構築につながることになるのかという指摘も行われた。さらに、3名の発表の接合がうまく見出されていない点が企画の課題として挙げられた。

第2コメンテーターの佐久間は、本企画においてアフリカが「危機の大陸」として漠然と想像されているが、研究者はそれが誰にとって、どのような危機であるのかをより具体的に明らかにする必要があると指摘した。そうした作業の先にそれぞれの研究の接合が見出される可能性があるとした。各発表に対してはフロアからも多数の質問が寄せられ活発な議論が交わされた。発表者は新たな課題を得ることができ、充実したセッションとなった。

(報告:林 愛美)


D. ブックトーク

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30(リバティタワー1F 1011)
  • 企画責任者・モデレーター(学会誌編集委員会、ブックトーク担当):芦田明美(名古屋大学)、佐藤寛(アジア経済研究所)、道中真紀(日本評論社)

本ブックトークセッションでは会員による近刊4冊の書籍についての紹介が、著者および出版社の編集担当者よりなされ、出版にいたったきっかけや経緯、苦労等が共有された。討論者からは、内容を踏まえての貴重なコメントが提供された。参加者はオンライン・対面双方含め30名以上にのぼり、活発な質疑応答となった。

D-1.月経の人類学―女子生徒の「生理」と開発支援

  • 2022年6月、A5版、304ページ、3,850円
  • 報告者:杉田映理(大阪大学)、新本万里子(広島市立大学)
  • 担当編集者:大道玲子(世界思想社)
  • 討論者:佐藤寛(アジア経済研究所)

月経は、いまやグローバルな課題となっている。国際開発の現場では、女子教育の向上、ジェンダー平等、水衛生分野における女性への配慮、女性のリプロダクティブ・ライツ/ヘルスなどの観点から2010年代前半から月経衛生対処が開発支援の対象とされた。

月経衛生対処(略称MHM)とは、生理用品へのアクセス、生理用品を取り替えやすいトイレや水回り、生理用品の廃棄設備が整備されており、月経に関する「適切な」知識へのアクセスがある状態を指す。一方、月経はそれぞれの文化に深く根差した慣習やタブーが存在する。MHM支援が広がる潮流のなかで、地域に固有の文化的慣習や月経観は、いま揺らいでいる。 

本書では、第1部で、月経をめぐる国際開発の動向を整理する。第2部では、世界8か国における女子生徒の月経対処について、ローカルな月経対処の文脈と実態を明らかにする。各地で実施したフィールドワークに基づく情報をもとに、月経対処の「今」を同時期にとらえる。第3部では、第2部でとらえた各地の実態を比較検討することで、国際開発による支援を月経対処に及ぼすときに何を検討する必要があるのか、その示唆を抽出する。


D-2.紛争後の東ティモールの環境管理:平和構築・国際協力におけるコミュニティの役割

  • 2020年2月、A5版、208ページ、4,450円
  • 報告者:宮澤尚里(早稲田大学)
  • 担当編集者:大江道雅(明石書店)
  • 討論者:石塚勝美(共栄大学)

紛争直後の東ティモールにおける、3年半のフィールド調査に基づく実証的研究の成果である。紛争後の国家が紛争状態に後戻りしない「平和と安定の国造り」を目指すにあたり、紛争後の環境資源問題に取り組むことの重要性を喚起する。そして、紛争後の平和構築プロセスにおける環境管理の具体的政策の検証結果を考察した。


D-3.Millennial Generation in Bangladesh: Their Life Strategies, Movement, and Identity Politics

  • 2022年3月、A5版、222ページ、USD 21
  • 報告者:南出和余(神戸女学院大学)
  • 担当編集者:Mahrukh Mohiuddin(The University Press Limited, Dhaka, Bangladesh)
  • 討論者:村山真弓(アジア経済研究所)

1990年代生まれの現在の若者世代は、バングラデシュ人口の最多世代を占め、同国の政治経済社会の大きな変化を経験している。彼らは1971年のバングラデシュ独立から20年後に生まれ、誕生以来、絶えず開発の取り組みの対象となり、国際援助、グローバル経済、イスラーム化などの直接的影響を受けながら育ってきた。さらに、グローバルな文脈では「ミレニアルズ」と呼ばれる世代である。グローバル化の傾向の中で、彼らは移住や職業の変化を通じて、社会を変革する大きな可能性を占めている。

本書は、現代バングラデシュの、特に都市部の若者の生活戦略、社会運動、アイデンティティ・ポリティクスについて論じる。グローバル化の様相は社会階層ごとにあまりにも多様であるが、どの階層もその影響を受けている。グローバル化時代における同世代の共通性と多様性こそが同世代の特徴であり、本書はそれを詳細に把握する。

1990年代生まれの若者世代に焦点を当てることは、バングラデシュ研究のみならず、グローカルな環境における「若者と社会」研究に重要な議論をもたらす。またその民族誌的記述は、バングラデシュの若者のダイナミックな実態を理解する上で読者を惹きつけるだろう。


D-4.国際協力NGOによる持続可能な開発のための教育: SDGsのための社会的実践を通じた学び

  • 2022年7月、B5判、168ページ、1,892円
  • 報告者:三宅隆史(シャンティ国際ボランティア会)
  • 担当編集者:なし(デザインエッグ社)
  • 討論者:小松太郎(上智大学)

本書は第一に、日本の国際協力NGOは、多様な 国内事業(教育、広報、情報伝達、社会的実践)を通じていかにして持続可能な開発のための教育(ESD)を推進しているのかを明らかにした。一方、NGOはESDを推進する上での人材・資金・専門性の不足といった課題を抱えている。

そこで本書は第二に、NGOによるESDの課題を克服するための方策は何かを検討した。これらの研究課題に取り組むことで、学術面においてはESD学習論に新たな知見を提供し、政策・実践面ではNGOのESD活動の質的・量的な強化に貢献することを目指した。


E. プレナリー

E-1. 「対話型」プレナリーパネル「グローバル危機にどう向き合うか – 国際開発学の役割」

  • 2022年12月4日(日曜)15:00 ー 16:30(オンライン/リバティタワー1F 1011)
  • 挨拶:源由理子(明治大学)
  • プレナリーパネル:佐藤仁(東京大学)、長畑誠(明治大学)、牛久晴香(北海学園大学)、島田剛(明治大学)

(報告:源由理子)


E-2. JASID-KAIDEC Session: Prospects for New Approaches to Promote International Development Cooperation

JASID/KAIDEC共同セッション「国際開発協力を促進する新たなアプローチの展望」

  • 2022年12月4日(日曜)15:00 ー 16:30
  • 北村友人(グローバル連携委員長)

国際開発学会(JASID)と韓国国際開発協力学会(KAIDEC)は、これまでお互いの学会年次大会において共同セッションを開催したり、毎年韓国の済州で開催される学術フォーラムに参加するなど、積極的に学術交流を深めてきた。

しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、オンラインでの交流は継続しつつも、過去2年間にわたり対面での交流を一時中断せざるを得なかった。それが、今年度のJASID秋季大会で、3年ぶりに対面での交流が可能になったことを関係者一同、何よりも嬉しく感じた。

今回の学会大会では、JASIDとKAIDECの共同セッション「国際開発協力を促進する新たなアプローチの展望(Prospects for New Approaches to Promote International Development Cooperation)」を開催した。なお、このセッションでは英語が使用され、対面とオンラインのハイブリッド形式で実施された。

まず、KAIDECのSung-gyu Kim会長(高麗大学)による開会の挨拶が行われ、JASIDとKAIDECの間で築き上げられてきた交流の実績を踏まえつつ、先を見通すことが難しい時代において2つの組織が協力し合いながら国際開発協力のあり方を検討していくことの重要性が強調された。

Kim会長の挨拶に続き、JASIDとKAIDECからそれぞれ新進気鋭の若手研究者たちによる講演が行われた。まず、KAIDECの国際委員会でChairを務めるKyung Ryul Park博士(KAIST)が登壇し、「Digital Transformation and Sustainable Development Cooperation: the Case of Artificial Intelligence」と題した講演を行った。

この報告では、これからの国際開発協力において「データ」がいままで以上に重要な役割を果たすと共に、そうした「データ」を分析し、その結果を実践に反映させるうえで、人口知能をはじめとする多様な技術の活用が不可欠であることが指摘された。とりわけ、国際機関によるデータ収集の現状や、国際開発協力の現場におけるデータ活用の具体例など、興味深い事例がいくつも紹介された。

続いて、JASIDからはグローバル連携委員の荻巣崇世会員(上智大学)が「Education and Sustainable Development Cooperation: Japanese experiences」と題した講演を行った。

まず、日本の若者たちが国際開発協力をどのように認識しているのかについての分析を踏まえたうえで、とくに教育開発分野を例として日本の国際開発協力がいかに現地との多様なアクターたちとのパートナーシップを大切にしているかが指摘された。

そのうえで、若者たちの視点を取り入れつつ、国際開発協力における「Global Knowledge Commons」を構築していくことの重要性が強調された。

これらの講演に続き、聴衆との間で活発な質疑応答のやりとりがなされた。そして、今後も、JASIDとKAIDECの間で学術交流を深めていくなかで、これからの国際開発協力のあり方についてアジアからいままで以上に積極的な発信を行っていくことが大切であることが確認された。

(報告:北村友人)


F. 第33回会員総会

  • 2022年12月4日(日曜)16:40 ー 18:10(リバティホール1F)

※会員総会のページを参照(要パスワード)


G. ポスター発表

  • 李 鋒(中央大学大学院)
    「中国における地域の教育格差:ジニ係数の分解分析」
  • 小林 匠(神戸大学)
    「ウガンダの初等教育におけるコミュニティと親の参加が教育の質に与える影響:ブシェニ県とワキソ県の事例から」
  • 宇野 耕平(神戸大学)
    「バングラデシュにおける需要側に着目した就学前教育へのアクセスの分析」
  • 石井 あゆ美(青山学院大学)
    「日本における多様な教育ニーズに即した「包摂的かつ公正で質の高い教育」の実現に向けた課題—神奈川県における外国につながる子どものノンフォーマルな学び場と学校教育との関係性の考察から—」
  • 石井 雄大(神戸大学大学院)
    「セネガル初等教育における学習達成に対する自律的学校運営の影響分析」
  • DAAS Yousuf(Kobe University)
    ”The Influence of Mothers’ Education, Childs Labour and Family Income on Expected Education Attainment in Bangladesh”
  • Danilo LEITE DALMON(Kobe University)
    “Factors Influencing the Effectiveness of Municipal Governments in Primary Education Student Achievement in Brazil”
  • 内山 かおり(神戸大学)
    「就学前教育とウガンダ初等教育における学習達成度の関係」
  • 枝元 美帆(立命館大学院)
    「自然災害に対する防災意識を維持する要因 ―滋賀県の意識調査を事例としてー」

A. 一般口頭発表

B. 企画セッション

C. ラウンドテーブル

第33回全国大会を終えて




第24回春季大会セッション報告(プレナリー、ポスター発表)

[PL] プレナリーセッション

[PL-01] 世代間のつながりとサステイナビリティ – 何を引き継ぎ、何を見直し、次世代に何を手渡していくのか

登壇者1

工藤尚悟(国際教養大学国際教養学部グローバルスタディズ領域・准教授)

“Role of Intergenerational Ties in Sustainability: What to Sustain, What to Revise, and What to Pass Across Generations?”

登壇者2

Divine Fuh(Director of Institute of Humanities in Africa, Associate Professor at the Department of Anthropology, University of Cape Town)

“Making New Dances: Sustainability Thinking and the Opportunity for Decolonial Japanese Thought”

登壇者3

千葉加恵子(国際教養大学国際教養学部グローバルコネクティビティ領域・准教授)

“What Should We Sustain? Voices from Local Women”

登壇者4

丸山英樹(上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科・教授)

“The Role of Non-formal Education in Enhancing Sustainability”

  • ファシリテーター:近江加奈子(国際基督教大学アーツ・サイエンス研究科博士課程)

セッションサマリー

1987年に持続可能な開発が提唱され、一世代ほどの時間がこの概念を軸とした開発パラダイムとして経過してきている。本セッションは、持続可能な開発概念の中心にある、世代間のつながり(intergenerational ties)に焦点を当て、開催地である秋田の風土、アフリカにおける脱植民地化の動きと日本文化、農村社会における女性の声、そしてノンフォーマル教育の枠組みにおけるサステイナビリティについて、各登壇者より報告があった。

はじめに工藤より、グローバルに語られる持続可能な開発概念において目標とされる項目がローカルの文脈で解釈されるとき、そもそも人と自然の関係性が個別の地域性に依拠しており、そのときに風土という自然感に注意を払う必要があるという問題提起をした。

その上で、先行世代から何を継承し、現行世代において何を見直し、将来世代に何を手渡していくべきなのかについて、専門や拠点とする場所の異なる3名の登壇者より報告をしてもらった。

ケープタウン大学のFuh准教授は、アフリカにおける脱植民地化の議論を日本の文脈に当てはめ、日本文化に固有な表現の中に見出しながら、サステイナビリティを批判的に検討する必要性を主張した。

特にある部族においてあらゆる種類のダンスの模倣が得意だった女性の話を紹介し、その部族において誰も彼女自身のダンスを見たものがいなかったという比喩を用いて、自らの文化に固有な言葉を用いることの重要性を挙げた。

千葉准教授は、秋田の民俗や女性の暮らしに焦点を当てた文化人類学的なフィールドワークを元に、国内地方の農山村において女性の声が如何に文化的に隠されたものとされてきたのかを示した。

伝統的な社会におけるジェンダーロールの再考を論じると同時に、先行世代から現行世代への民俗文化の継承の重要性と困難さを指摘した。

丸山教授は、教育におけるフォーマル・インフォーマル・ノンフォーマルの違いを明確にしつつ、それぞれのフォーマットの教育スタイルがどのようにサステイナビリティに貢献しうるのかについて論じた。そのなかでもノンフォーマル教育の視点からの考察を共有してもらった。

会場からは、異なる専門性を持つ研究者が協働するときに、どのように個々の持つ認識論の違いを乗り越えていくのかや、農村社会において隠された声(hidden voice)とされてしまいがちな女性の意見を拾い上げる仕組みをどのように構築しうるのか、国内大学院に固有な研究室文化における先輩と後輩の間における世代間のつながりについての指摘など、世代間とサステイナビリティに限らず、国内外の文脈を広く捉えた質問が出された。

今大会の開催地である秋田は、人口減少と高齢化が全国で最も早いペースで進んでおり、世代間のつながりを通じた資源や文化の継承が重要な課題となっており、こうしたテーマを、普段は途上国の現場を飛び回る研究者や実践者の方々と議論する機会を当地の秋田で持つことができた意味は大きい。

途上国においても出生率の低下と長寿化の傾向はすでに確認されており、人口減少と高齢化が将来的に国際協力や開発学においても重要なテーマとなると予測される。

こうした国内地方が抱える課題への解決策を見出す手続きのなかで、途上国とつながりながら論点を整理し、双方向に学び合いながら対応を模索していくような、新たな関係性の構築が示唆されるセッションとなった。

報告者:工藤尚悟(国際教養大学)


[P1] ポスター発表

    [P1-01] 国際協力における社会的インパクト評価のあり方検討〜財源基盤のない組織が評価を実践するために〜

    佐藤 夢乃(関西学院大学大学院)

    [P1-02] 自治体ネットワークによる持続的な能力向上と技術の普及をめざす開発協力のマネジメント~「タイ国の自治体ネットワークによるコミュニティベース統合型高齢者ケア普及プロジェクト」の事例整理~

    鈴木 知世(国際教養大学学部生、タイ国の自治体ネットワークによるコミュニティベース統合型高齢者ケアプロジェクトコーディネーター)、山口 佳小里(国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部主任研究官)、沖浦 文彦(東京都市大学都市生活学部教授)

    [P1-03] 怒りと情熱—世界銀行内部に残された知恵—

    玉村 優奈(東京大学)

    [P1-04] ショックを用いる貧困表象の道徳的・政治的悪性に関する一考察:貧困表象への留意のために

    木山幸輔(筑波大学)

    [P1-05] 「愛知用水の久野庄太郎」の地域総合開発思想-愛知用水と愛知海道の関係性に着目して

    柴田 英知(歩く仲間)

    [P1-06] 開発途上国における課題解決能力向上に着目した教育支援に関する研究-ネパール公立学校の中学生を対象として-

    三笘 源(九州大学大学院)

    [P1-07] Exploring Teacher’ s Perception of Play-Based Learning in ECE: A Case Study of Bangladesh

    Kohei UNO(Graduate School of International Cooperation Studies)

    [P1-08] An Analysis of Home-based Discipline on Children’ s Foundational Learning Skills in Malawi

    Chang SUN(Kobe Univ.)

    [P1-09] An Analysis of the Effect of a School Violence on Learning Achievement in Primary Education in Colombia

    Rika SUGIURA(Kobe University)

    [P1-10] An Analysis of Community Participation and Learning Achievement: A Case of Kenyan Primary Education

    Yuka FURUTANI(Kobe University)

    [P1-11] Analysis of Household Educational Expenditure under Free Pre-primary Education Policy in Kenya

    Ayumu YAGI(Graduate School of International Cooperation Studies, Kobe University)

    [P1-12] Analysis of Short-term and Mid-term Association between Early Childhood Education and Academic Achievement in Uganda

    Kaori Uchiyama(Kobe University)

    [P1-13] Influence of School Autonomy on Learning Achievement in Senegal: Multilevel Analyses Using PASEC Surveys

    Yudai ISHII(Kobe University)

    [P1-14] タンザニアの学童の野生食物・食品群摂取と健康―中部・南東部内陸/海岸沿い3村の事例から

    阪本 公美子(宇都宮大学国際学部)、人見 俊輝(宇都宮大学国際学部)

    [P1-15] 里地里山の多面的な評価基準に関する一考察~中山間地で実践される維持・管理の取り組み事例を通じて~

    根岸 宏旭、徳永 達己(拓殖大学)

    [P1-16] 東アジアにおける環境大気モニタリングネットワークの比較評価

    竹内 友規、藤江 幸一、迫田 章義(放送大学)

    [P1-17] ベトナム北部・中部・南部の持続可能なライフスタイルに関する定性調査

    吉田 綾(国立研究開発法人国立環境研究所)


    その他の座長報告