院生レポート:第20回春季大会

野口雅哉(神戸大学国際協力研究科)

セッション:国際協力の質

2015年の国連総会にて採択された「持続可能な開発目標:SDGs」にて示された17の目標を通じて目指される“誰一人残さない世界”には、質の高い国際協力が必要不可欠である。

本セッションでは、国際協力の質について4名の会員から研究報告が行われた。座長として近藤久洋会員(埼玉大学)、コメンテーターとして飯島聰会員(埼玉大学)と土橋喜人会員(宇都宮大学)が各発表に対してコメントを行なった。


報告1「高等教育機関における地球環境問題に関連した行動インサイトの分析に関する一考察」榎本直子会員(法政大学環境センター)

榎本会員による報告では、法政大学で実施されている環境マネジメントプログラムに関する学生と教員の意識に関するアンケート調査結果を分析し、学生の地球環境問題に対する行動パターンに影響を及ぼす行動インサイトについて考察がなされた。

本研究の背景として、日本における2030年までの温室効果ガスの2013年度比26%削減目標に向けて、教育研究活動及び学生生活が地球環境問題に与える効果への期待がある。

アンケート分析の結果、9割以上の学生が地球温暖化対策の必要性を実感しながらも環境マネジメントプログラムに認知度が低く、温暖化対策における「廃棄物」や「化学物質」への関心も低いことが明らかになった。

費用対効果の観点からも、温室効果ガスへの数値目標には学生の参画の拡大が重要であり、認識と行動のギャップを埋めプログラムの有効性を高められるかが今後の課題として指摘された。


報告2「事後評価におけるODAプロジェクトの持続性」 笹尾隆二郎会員(ICNet株式会社)

笹尾会員による報告では、援助の3スキーム内の技術協力プロジェクトに注目し、援助関係者の中で重視されている持続性の評価について分析がなされた。問題設定として技術協力では、有効性・インパクト評価の平均点が高い一方で、持続性が低い傾向にあるという課題が挙げられた。

技術協力プロジェクトの事後評価は、持続性は組織・制度面、技術面、財務面の3つの視点から総合的にされており、技術協力においては特に技術面との関連が大きいという。

技術面の評価点が向上すれば、持続性全体の向上にも繋がると期待された。有効性・インパクト評価と技術力評価を行なった結果、両者の間に正の相関関係は見つからず、有効性・インパクト評価が高く、技術力評価が低い場合と、有効性・インパクト評価が低く、技術力評価が低い場合の2つのパターンがあることが指摘された。

前者の場合、プロジェクト目標が日本側専門家の尽力で達成可能であり、現地人材の育成度の不十分さが総合評価に反映されていないことが影響しており、プロジェクト目標に現地人材の育成を反映するよう設定を工夫する必要性があるという。

また、後者の場合、組織・制度面の評価が適切ではなかったことによることが多く、特にプロジェクトで生み出された成果の普及体制の整備・強化の必要性が示された。両者の対策を通じて、相当数の技術力プロジェクトの今後のパフォーマンスが改善される可能性が高いと述べられた。


報告3「国際データベースにおける信頼性の検証 ―ASEAN-Japan Transport Partnershipにおけるデータベース整備を例として」 武田晋一会員(拓殖大学)

武田会員による報告では、2004年に国土交通省主導で立ちあげられたASEAN-Japan Partnershipを事例にASEAN地域のインフラ関連データ整備についての検証が行われた。

多くの途上国ではインフラ関連データの整備環境が貧弱である一方で、分析者はデータ自体の吟味に多くの時間を割くことが出来ずデータを信頼して利用する他ないというのが現状だという。

特に問題として指摘されたのは、①統計上のデータの欠落、②異なる統計間におけるデータの乖離、③信頼性への疑問、である。データの収集者と利用者が違いに役割を認識していないことで起こる課題については、データ整備担当者は「使い方」を、政策策定担当者は「データ整備のされ方」を相互に理解する必要があると述べた。


報告4「フィリピンにおける障害者の法的能力―障害者条約との関連からー」森壮也会員(ジェトロ・アジア経済研究所)

森会員による報告においては、アジアの中でも障害者関連法の整備が比較的早い段階で進んだフィリピンを事例として、肢体・視覚・聴覚障害以外の障害への取り組みについての検証が行われた。

障害関連法の中では肢体不自由や視覚障害といった伝統的障害に加え、精神障害者の権利にも言及した法整備は進んでいる。一方で、現行民法や裁判所規則の中では、障害者に対して等しく認めてられていない法的権利が多く、差別的な条項について国内の当事者団体や国連の権利委員会からの見直しが迫られている。

このような状況に対して、フィリピンの障害者の法的能力を保証していくためには法体系全体の見直しが必要であるが、そのためには当事者と法曹関係者が協力して取り組んでいく必要があるという。


本セッションでの4つの報告を通じて、国際協力の質についての理解を深められた。国際協力の担い手というと国際機関やODA機関がまず挙げられるが、私たちの日々の行動の積み重ねの重要性や当事者を巻き込んだ施策の検討の必要性が榎本会員と森会員の報告から感じられた。

また、私自身研究を行う際に国際機関や政府の発行したデータを利用してきたが、データ整備には不備があることが多くあることを武田会員の報告から学べたので、今後のそのような二次データを用いる際には意識していきたい。

そして、国際協力の質を測るプロジェクトの事後評価の際には、笹尾会員が述べられたような評価の特性を理解して、質の改善を目指していく必要性を感じた。

本セッションに参加して得られた国際協力の質の向上に向けた新しい視座を、今後の自身の研究や国際協力への参画に活かしていきたい。

院生レポーター:野口雅哉(神戸大学国際協力研究科)




2020年度学会賞

加治佐敬

『経済発展における共同体・国家・市場―アジア農村の近代化にみる役割の変化』日本評論社2020年.


奨励賞

谷口美代子

『平和構築を支援する―ミンダナオ紛争と和平への道』名古屋大学出版会 2020年.

高柳妙子

『Informal Learning and Literacy among Maasai Women: Education, Emancipation and Empowerment』Routledge、2020年.


賞選考委員会特別賞

萱島信子・黒田一雄

『日本の国際教育協力―歴史と展望』東京大学出版会 2019年.

応募くださった皆様、誠にありがとうございました。選考委員一同、応募作を拝読し、本当に沢山のことを学ばせていただきました。

2020年度・賞選考委員長 伊東早苗




優秀ポスター発表賞(2020年全国大会)

優秀賞

近藤加奈子

『利用からみる住民の水の選好―モザンビーク農村における水源の多様性と選択に着目して―』


奨励賞

隅田姿

『日本教育における持続可能な開発のための教育(ESD)とグローバル市民教育(GCED)-学習指導要領の内容分析―』




2019年学会賞受賞作品

奨励賞

橋本憲幸

『教育と他者―非対称性の倫理に向けて―』春風社  2018年.


特別賞

岡部恭宜編

『青年海外協力隊は何をもたらしたか―開発協力とグローバル人材育成50年の成果―』ミネルヴァ書房  2018年.




優秀ポスター発表賞(2019年春季大会)

山口(上舘)美緒里

初等教育におけるICTを活用した遠隔教員研修の成果と課題―バングラデシュのNGO校におけるe-learning研修を事例として―


田中志歩(奨励賞)

バングラデシュ丘陵地帯の少数民族における教育開発の可能性と課題―小規模少数民族クミによるノンフォーマル教育学校運営の事例より

太田美帆(奨励賞)

陸前高田とゼミ活動の8年間―変わりゆくニーズとの試行錯誤の軌跡―




優秀ポスター発表賞(2019年全国大会)

Wang Kexin

Household Financing on Secondary Education in Cambodia: An Analysis of Household Over-indebtedness on Public Schooling and Supplementary Tutoring

Thomas Kloepfer

大麻草産業化による貧困削減のための規制と政策:西ネパール山岳コミュニティーの事例


羽間久美子(奨励賞)

タイにおけるSufficiency Economy Philosophyに基づいた教育の効果と課題




2018年学会賞受賞作品

奨励賞

芦田明美 

The Actual Effect on Enrollment of “Education for All”: Analysis Using Longitudinal Individual Data, Union Press, 2018


奨励賞

内海悠二

「生徒の紛争経験を考慮した教育効果に対する学校要因の分析―東ティモールにおける紛争と全国学力試験を事例として―」『国際開発研究』第26巻・第1号 2017年6月


特別賞

(会員執筆者:湖中真哉・内海成治・島田剛他)

湖中真哉・太田至・孫暁剛編『地域研究からみた人道支援―アフリカ遊牧民の現場から問い直す―』昭和堂 2018年




優秀ポスター発表賞(2018年全国大会)

Yiqiong Mai

”The Influence of Interactive Learning Materials on Self-Regulated Learning Processes and Outcomes of Primary School Teachers in Mongolia.”


奨励賞

飛田八千代

『セネガルにおける食料消費の傾向について―サンルイ市の女性消費者調査より―』

薗畠ひとみ

『熱帯地域における廃棄物起因のベクター発生対策に関する研究―パナマのデング熱とジカウィルス感染症を中心に―』

畑杏奈

“Examining the Relationship between Parent Characteristics and Parent Involvement in Early Childhood Education in Cambodia.”




優秀ポスター発表賞(2018年全国大会)

Yiqiong Mai

The Influence of Interactive Learning Materials on Self-Regulated Learning Processes and Outcomes of Primary School Teachers in Mongolia.


飛田八千代(奨励賞)

セネガルにおける食料消費の傾向について―サンルイ市の女性消費者調査より―

薗畠ひとみ(奨励賞)

熱帯地域における廃棄物起因のベクター発生対策に関する研究―パナマのデング熱とジカウィルス感染症を中心に―

畑杏奈(奨励賞)

Examining the Relationship between Parent Characteristics and Parent Involvement in Early Childhood Education in Cambodia.




優秀ポスター発表賞(2018年春季大会)

木村文哉(奨励賞)

性別の違いと競争的環境の関係に関する比較実験―ミャンマーインレー湖上の住民を対象として―




2017年学会賞受賞作品

奨励賞

林 裕

『紛争下における地方の自己統治と平和構築―アフガニスタンの農村社会メカニズム―』ミネルヴァ書房 2017年

鈴木弥生

『バングラデシュ農村に見る外国援助と社会開発』日本評論社 2016年


特別賞

Shoko Yamada (ed.),

Post-Education-for-All and Sustainable Development Paradigm: Structural Changes with Diversifying Actors and Norms, Emerald, 2016.




優秀ポスター発表賞(2017年全国大会)

松原加奈(奨励賞)

エチオピアにおける革靴製造企業―従業員の技術の形成に着目して―

Seonkyung CHOI(奨励賞)

Impact of Education Paths in Secondary and Tertiary Education on Labor Market Performance in South Korea: Focusing on TVET High School Graduates.




優秀ポスター発表賞(2017年春季大会)

三好友良(奨励賞)

タイにおける地域包括ケアシステムの構築に向けた動き―LTOPプロジェクトサイトの事例を中心に―

孟暁東:Xiaodong MENG(奨励賞)

Parental Involvement in Early Childhood Education in Lao PDR: Case of Vientiane Province.




2016年学会賞受賞作品

奨励賞

Kamal Lamichhane,

Disability, Education and Employment in Developing Countries: From Charity to Investment, Cambridge University Press, 2015.


特別賞

北村友人

『国際教育開発の研究射程:「持続可能な社会」のための比較教育学の最前線』東信堂 2015年




優秀ポスター発表賞(2016年全国大会)

牧貴愛

タイにおける優秀教師群像(2)―『Prawat Khru(教師列伝)』の内容分析―




優秀ポスター発表賞(2016年春季大会)

高橋香名 (奨励賞)

Impact of Groundwater Development Project on Child Schooling in Rural Zambia.




2015年学会賞受賞作品

学会賞

箕曲在弘

『フェアトレードの人類学―ラオス南部ボーラヴェーン高原におけるコーヒー栽培農村の生活と協同組合』めこん 2014年.




優秀ポスター発表賞(2015年全国大会)

金子佳世(奨励賞)

『ブルンジ共和国看護師に求められるCompetency』

共著者:Juma NDARAYE; Illuminée NAHABAGANWA; Fabrice KAKUNZE; 古川佳恵


入江憲史(奨励賞)

『世界遺産における湿地帯保全に対する人々の態度研究:ラオス国ルアンパバーンの事例を用いて』

共著者:山口しのぶ、高田潤一




優秀ポスター発表賞(2015年春季大会)

清野佳奈絵(奨励賞)

『イタリアにおけるバングラデシュ人移民の社会経済状況:ローマ市に暮らすバングラデシュ人移民を事例に』




2014年学会賞受賞作品

奨励賞

真崎克彦

「『<対話>論的シティズンシップ』をブータン村落で考える―民主的な<対話>実現に向けて―」『国際開発研究』第22巻 第1号 2013年 55-66ページ.


特別賞

北脇秀敏・池田誠・稲生信男・高林陽展編

『国際開発と環境:アジアの内発的発展のために』朝倉書店 2012年.




優秀ポスター発表賞(2014年全国大会)

中村洋

牧畜民のレジリエンスを分ける要因とは?:モンゴル国ドンドゴビ県で2009年から2010年に発生した災害後の牧民の資産回復過程の分析


朝隈芽生(奨励賞)

イランにおけるアフガニスタン難民の教育:若者のアイデンティティ形成に着目して




優秀ポスター発表賞(2014年春季大会)

山口健介・渡辺俊平(奨励賞)

産業地域の「適応」:集積論の分析視角




2013年学会賞受賞作品

奨励賞

Jin Sato, Hiroaki Shiga, Takaaki Kobayashi and Hisahiro Kondoh,

“Emerging Donors from a Recipient Perspective: An Institutional Analysis of Foreign Aid in Cambodia,” World Development, Vol. 39, No. 12, pp. 2091-2104.

佐藤裕

「グローバル化と慢性的貧困―開発社会学の視点から」『国際開発研究』第21巻第1/2号 2012年 31-44ページ.


特別賞

加藤篤史

『経済発展論』中央経済社 2012年.




優秀ポスター発表賞(2013年全国大会)

大谷順子・張玉梅

中国四川大地震による中国の社会変容に関する考察:2008年汶川地震と2013年雅安地震


山本香(奨励賞)

シリア難民による学校運営と教員の役割:トルコ共和国アンタキヤ市の事例から




優秀ポスター発表賞(2013年春季大会)

田中樹・伊ヶ崎健大

作物収量の向上と風食抑制を同時成立させる砂漠化対処技術とその普及


佐々木夕子・田中樹(奨励賞)

西アフリカ・サヘル地域の村落における社会ネットワーク構造と女性世帯の生存戦略




2012年学会賞受賞作品

奨励賞

山田肖子

「『住民参加』を決定づける社会要因―エチオピア国オロミア州における住民の教育関与の伝統と学校運営委員会」『国際開発研究』第20巻・第2号 2011年 107-125ページ.


特別賞

加藤真紀

「学術論文の分析から見る途上国の研究活動」『国際開発研究』第20巻・第1号 2011年 15-30ページ.


特別賞

宇田川光弘

「日本の「経験」とODAアプローチの再検討―主権の二重性の観点から 」『国際開発研究』第20巻・第1号 2011年 1-14ページ.




優秀ポスター発表賞(2012年全国大会)

奨励賞

篠原亜絵

東ティモールにおけるコーヒー生産者協同組合のパフォーマンスと家計への影響


野村理絵

ケニアにおけるマサイ女子生徒の学習動機に対する教師の影響


吉田綾

アジアの途上国におけるE-waste インフォーマルリサイクラーの社会・経済状況




優秀ポスター発表賞(2012年春季大会)

奨励賞

佐藤希 

女性組織が女性のジェンダー意識変容に及ぼす影響:ネパール、パタン市を事例に(奨励賞)


日向淳

災害時における「外部者」の役割:内発的発展論の視点から


山田悦子

国際連合安全保障理事会決議1325 :平和構築における国連による女性への政策に関する考察




2010年学会賞受賞作品

奨励賞

中村雄祐

『生きるための読み書き―発展途上国のリテラシー問題』みすず書房 2009年.


特別賞

大坪滋・木村宏恒・伊東早苗編

『国際開発学入門』勁草書房 2009年.




2008年学会賞受賞作品

奨励賞

石井洋子

『開発フロンティアの民族誌―東アフリカ・灌漑計画の中に生きる人々』お茶の水書房 2007年.