活動報告『開発と栄養改善』研究部会(2021年11月)
去る8月に、以下のとおり第8回「開発と栄養改善」研究部会を実施した。マルチセクターによる栄養改善が国際的に推進されるなか、本部会ではJICAの平岡専門員を迎え、おもに農業セクターが栄養改善において果たす役割について発表いただいた。
- 日時:2021年8月27日(金曜)17:30-19:30
- 場所:Zoom(オンライン)開催
- 発表テーマ:「農業セクターに必要なパラダイムシフトとJICAの案件形成」
- 発表者:平岡洋 氏(JICA経済開発部・国際協力専門員)
部会当日は、学会員を中心に大学関係者から開発実務者まで15名の参加があり、活発な議論がなされた。
発表概要
「パラダイムシフトとは」
従来、農業セクターにとっての目的は、食料不安を解決するためカロリーの摂取量を増やすことだったが、栄養改善において微量栄養素欠乏も含むあらゆる形態の栄養不良を解決するため、どの栄養素摂取のために何を生産するか、が問われるようになってきた。
栄養改善を達成するためには食料安全だけでなく、補完食や完全母乳等の適切なケアと保健サービス・衛生環境の改善が必要であるため、マルチセクターによる取り組みが求められる。
「食料システムとは」
- 食料の生産、加工、流通、調理、消費、そして、それを通して生じる社会経済的・環境的な結果に関する、すべての要素を含む。栄養改善の実現のためには生産だけでなく、各個人の口に食料が届くまでの経緯が保障される必要があり、農業セクターはその経緯を支援する役割をもつ。
- 母子などの特定の裨益者に必要な栄養素を供給することで、農業セクターが効果的に栄養改善に貢献できる。
- 栄養素の需給ギャップを埋めるため、JICAではIFNAを通じて、アフリカ諸国をはじめとしてセクターを超えた栄養改善のための事業を進めている。
おもな議論点
食料を食べる前に、何を食べるかを選ぶ消費者としての行為があると考えられるが、民間企業はどのように位置づけられるのか。マーケティングに関するアクターも含むことが重要なのではないか。
民間企業にとっては、従来の不健康な食物からヘルシーフードを提供するビジネスチャンスとも言える。マーケティングにおいて、栄養改善に貢献する食料を流通させるためのセンシタイゼーションも必要となる。
農業生産に関する政策やプロジェクトのもとで、どのように栄養改善コンポーネントを組み合わせられるのか。また、生産者や流通業者にとって特定の栄養素の推進が可能なのか。
昨今、パームオイルがWHOにより規制させるという働きかけもあり、規制や補助金を通じて消費者や流通業者が応じることが考えられる。食生活や習慣を変える消費者側の意識変容には時間がかかるが、戦後日本で学校給食を通じて食習慣が浸透していったように不可能ではない。農家にとっても、同じ栽培面積で栽培する作物の栄養価と、市場価値が変わるというのはインセンティブがあるのでは。
セクターを超えた栄養素を通じた栄養改善への理解とは。
栄養素を通じた栄養改善に反応するのはむしろ保健セクターで、農業セクターの活用方法として良い反応がある。実際、保健セクターが行なう栄養サプリメントの配分システムは未発達な部分があり、食物で不足した栄養素を補える根拠は十分あるのではないか。
農業セクターとして新たな食物を推進しようとしているのではなく、日ごろ市場で入手できるものをベースとしている。アクセスできる食は同じだが、その構成・分量を変えていくことで、栄養改善に貢献することができるのでは。
『開発と栄養改善』研究部会
代表:樽本(服部)朋子(NTCインターナショナル株式会社)