関西支部:2021年度活動報告(2021年11月)
関西支部では、国際開発の課題克服に貢献しうる研究を展開していくことを目的に、2021年度は国際開発・国際協力に関するさまざまな分野の専門家を、国際機関、政府機関、学術機関から招聘して研究会を中心に活動を行った。
本支部が開催する研究会では、現在、世界的な問題となっているコロナ禍、また、コロナ後における国際開発・国際協力に関する議論も精力的に展開した。具体的には、第149~156回の研究会をオンライン(Zoom)で開催したので、その内容について、以下のとおり報告する。
第149回研究会
- 日時:2021年8月10日(火曜)17:00-19:00
- 発表テーマ:Innovation and New Partnerships in International Development after the Post-Covid World
- 発表者:Dr. Mariko Gakiya, Former Shine Advisory Board Member, Harvard T.H. Chan School of Public Health
- 参加人数:32名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、ハーバード大学の我喜屋まり子博士を招聘し、「Innovation and New Partnerships in International Development after the Post-Covid World」をテーマに講演をしていただいた。我喜屋博士はまず、グローバル社会においての重要課題である人的資源開発、国際開発、パートナーシップ強化に関する国際的動向について説明し、持続可能な開発と福祉をめざし「学習から技術革新・協調・パートナーシップ、そしてより質の高い公益財」にいたる社会システムが形成されつつあることについて言及した。
また、COVID-19感染拡大後の傾向として、オンラインによる多様な学習機会の整備、経済成長を見据えたニーズの高いスキルを習得できる学習環境の拡大、官民など多様なアクターの連携強化を挙げた。とくに、パートナーシップ強化に関してはSDG 17がパートナーシップの活性化を掲げている点、技術革新や国際開発は協調関係のなかで加速する点、加えて信頼関係構築の重要性を明らかにした最新の研究報告をふまえ、多様性・公正・インクルージョンを考慮した組織形成の必要性を強調した。
講演後には我喜屋博士と参加者とで多岐にわたる話題に関して活発な議論が行われただけでなく、我喜屋博士から若手研究者に対してグローバルに活躍するためのアドバイスが語られる場面もあり、参加者が新たなポスト・コロナ時代の技術革新、パートナーシップ、人的資源開発について深い知見を得た大変貴重な機会となった。
第150回研究会
- 日時:2021年8月17日(火曜)17:00-19:00
- 発表テーマ:Education Under the COVID-19 in Yemen
- 発表者:Dr. Hamound Al-Seyani, Advisor, Ministry of Education, Yemen
- 参加人数:34名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、イエメン教育省アドバイザーとして長年イエメンの教育発展に寄与されているHamound Al-Seyani博士を招聘し、「Education Under the COVID-19 in Yemen」をテーマに、イエメンにおける教育制度・状況について新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大以前・以後の両観点から講演をしていただいた。
冒頭では、同国における社会問題は、紛争を筆頭にCOVID-19感染拡大以前から中高等教育の就学率の低さや全教育段階での男女差、校舎の再建、教員のストライキなどといったかたちで教育にも大きく影響してきたことが説明された。
つづいて、コロナ感染拡大以後のイエメンについて言及し、第一波(2020年4月)、第二波(2021年2月)に続き、現在の第三波とイエメン全土で感染拡大しているCOVID-19が、国民の社会生活に深刻な打撃を与えていることは明らかにされているものの、政府発表の感染者数や死亡者数は実際の10%以下であるという指摘がなされた。
また、同国教育省もCOVID-19感染拡大による教育のアクセス・質への影響を問題視しており、サナとアデンにある南北両政府は共通したコロナ対策教育プランを策定し、コロナ禍においての教育改善に尽力していると強調した。とりわけ重要な課題として、学校閉鎖期間も教育環境を担保できるICT導入を挙げ、SDGs達成には多くの支援が必要であることを訴えた。
講演後にもイエメンの複数政府での政策遂行やout of school childrenの軍への入隊についてなど多岐にわたる参加者の質問に明快に回答がなされ、参加者がイエメンの教育現状について理解を深める意義の大きい研究会となった。
第151回研究会
- 日時:2021年8月24日(火曜)17:00-19:00
- 発表テーマ:Ugandan Journey to Achieve SDGs under the COVID-19
- 発表者:Dr. Albert Byamugisha, Senior Technical Advisor, Office of Prime Minister, Uganda
- 参加人数:32名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、ウガンダ内閣府のシニア・アドバイザーをされているAlbert Byamugisha博士を招聘し、「Ugandan Journey to Achieve SDGs under the COVID-19」をテーマに講演をしていただいた。
Byamugisha博士は、ウガンダ政府がこれまでにSDGs達成に焦点をおいて政策立案・実施を行ってきたことに触れ、政府組織の形成、国家・地方レベルでのリーダーシップ養成、国際機関や民間セクター・地域社会とのパートナーシップの強化などの多様な政策の結果、2030年までの達成目標の50%超を現時点で達成されており、アフリカ52か国中18位と評価されていることを強調した。
現在のCOVID-19感染拡大の影響としては、経済成長率の前年比3.9%減少に加えてロックダウンによるオンライン教育や在宅の推進、労働時間の減少、移動の減少などを挙げ、とくに社会の格差を深刻化させた点が憂慮されると指摘した。
一方で、COVID-19によるさまざまな社会変化は持続可能な社会やバランスの取れた経済成長の重要性を市民に訴えかけるものでもあったとし、今後も2030年の目標に向けてコロナ感染拡大からの復興プランの実施、SDGs関連政策のe-ガバナンスや地方分権を促進していく方針を示した。
関西支部が今年度のテーマとして掲げている「コロナ禍、また、コロナ後における国際開発・国際協力」について、ウガンダ政府の内閣府アドバイザーと実際に議論を交わすことができた本研究会は、参加者にとって大変意義深い場となった。
第152回研究会
- 日時:2021年8月27日(金曜)17:00-18:00
- 発表テーマ:SDG4 and National Policy Implementation under the COVID-19 in Cambodia
- 発表者:Mr. Sothea Lim, Director-General, Ministry of Education, Youth, and Sports, Cambodia
- 参加人数:28名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、カンボジア教育青少年スポーツ省政策計画局の総局長として長年にわたってカンボジアの教育政策と計画に携わっておられるSothea Lim氏を招聘し、「SDG4 and National Policy Implementation under the COVID-19 in Cambodia」と題する講演をしていただいた。
はじめに、MDGsからSDGsへの転換のなかで、カンボジアの国家戦略Vision 2030がどのようにSDGsの達成に寄与していくのかが説明された。とくに、教育セクターは、国家戦略において重要な人的資源開発に貢献する分野であり、カンボジアではSDG4達成に向けた教育戦略やロードマップが作成されていると紹介があった。
また、国家レベルの中長期目標を展開するだけでなく、地方・学校レベルでの短期の計画と連携しながら政策を進めていくことの重要性が指摘され、カンボジアにおける教育省と地方行政の繋がりが紹介された。
つづいて、Lim氏はそうしたビジョンの実現をめざすなかで、COVID-19に教育省としてどのように対応していくのかという展望について解説した。SDG4が掲げる公正なアクセスや質の高い教育を阻む課題に対して、テレビやラジオ、ウェブを通じた遠隔授業体制の拡充や学校・教員への積極的なサポートなどの実施策が挙げられた。
また、子どものワクチン接種の推進や健康を守るためのガイドラインを作成することで、コロナ禍が明けた後に子どもたちが安心して教室へと戻ってくることができるようにと準備が進められていることに言及された。
講演後にも参加者からの積極的な質問に対して一つ一つ丁寧に回答がなされ、参加者がカンボジアにおける教育戦略の動向に理解を深める意義深い研究会となった。
第153回研究会
- 日時:2021年9月7日(火曜)17:00-19:00
- 発表テーマ:Education in Emergencies: Education for Refugee and Migrant Children in Egypt
- 発表者:Ms. Marie Kunimatsu, Education Officer, UNICEF Sudan
- 討論者:Dr. Asayo Ohba, Associate Professor, Teikyo University
- 参加人数:43名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、現在ユニセフ・スーダン事務所で勤務されている國松茉梨絵氏を招聘し、「Education in Emergencies: Education for Refugee and Migrant Children in Egypt」をテーマに、國松氏のユニセフ・エジプト事務所での経験に基づいた緊急時の教育支援について講演をしていただいた。
講演ではまず、緊急時の教育や緊急事態に関する定義や背景について、またエジプトにおける難民の現状と緊急時の教育支援について説明がなされた。國松氏は、緊急援助には突発的なものと長期的なものの大きく2つがある点、ユニセフはその両援助を行っている点に触れ、援助時における他のセクターや機関、NGOとのパートナーシップの重要性についても強調した。
エジプトの場合、難民の約半数がシリア難民であり、エジプト政府はシリア難民の子どもたちの公教育システムへの統合に積極的な姿勢を見せているものの、シリア式の教育制度に基づくコミュニティ・スクールへのニーズも高い点を指摘し、緊急時の教育支援の課題と展望について参加者に多くの知見を与える講演となった。
講演後には討論者として大塲麻代博士を迎え、コミュニティ・スクール閉鎖の背景や國松氏自身のユニセフでの経験についてなどの質問・議論がなされた。今回の研究会は、参加者43名と多くの学会員にとって高い関心のある議題であり、アフリカにおける緊急支援、教育開発に携わるお2人を招聘した大変貴重な機会であった。
第154回研究会
- 日時:2021年9月14日(火曜)17:00-19:00
- 発表テーマ:Education in Myanmar under the COVID-19 and Military Coup
- 発表者:Dr. Natsuho Yoshida, Assistant Professor, Takasaki City University of Economics
- 討論者:Ms. Thet Mon Myat Myint Thu, Lecturer, Yangon University of Education
- 参加人数:26名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、高崎経済大学の吉田夏帆先生とヤンゴン教育大学のThet Mon Myat Myint Thu先生を招聘し、「Education in Myanmar under the COVID-19 and Military Coup」をテーマとした講演会を開催した。
吉田先生はまず、ミャンマーにおけるCOVID-19感染拡大の影響として、対面授業の中止と公立学校においてのオンライン授業の未実施について言及し、公立・私立・インターナショナル校での教育格差の拡大が問題視されていることを背景とした、子どもたちの学習に対するCOVID-19感染拡大と軍事クーデターの影響についての研究発表をされた。
吉田先生は本研究の結果として、社会経済的地位の低い家庭の子どもは高い家庭の子どもよりも初等中等学校を退学しやすく、貧困家庭であればあるほど子どもたちの教育機会へのCOVID-19感染拡大と軍事クーデターの影響が大きくなる可能性を示した。
また、Thet Mon Myat Myint Thu先生は、社会経済的地位の差による基礎教育の格差拡大についての吉田先生の議論に同意したうえで、児童労働の増加や早婚、ICT設備の不足などの課題も挙げた。また、市民の反軍事政権運動として、教職員・児童・生徒・学生が学校や大学への出勤・通学を拒否しているという状況についても強調した。
その後の質疑応答ではミャンマーにおける教育の現状や今後の展望についてなど多くの質問が挙がり、COVID-19感染拡大と軍事クーデターがいかに教育の機会と質に多大な影響を与えているか、多くの知見を深める有意義な研究会となった。
第155回研究会
- 日時:2021年9月23日(木曜)9:00-11:00
- 発表テーマ:World Bank Support under Covid-19 in Latin America
- 発表者:Dr. Marcelo Becerra, Senior Economist, World Bank
- 討論者:Mr. Danilo Leite, Former Director, Ministry of Education, Brazil
- 参加人数:31名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、世界銀行シニア・エコノミストのMarcelo Becerra博士を招聘し、「World Bank Support under Covid-19 in Latin America」をテーマとして講演をしていただいた。
まず、Becerra博士はラテンアメリカ・カリブ諸島におけるCOVID-19危機と学校閉鎖について言及し、ラテンアメリカは影響が多大だった地域の一つであり、学校閉鎖がニカラグアを除くすべての国で実施され、1億7千万人の子どもに影響があったことを述べた。
そのような多大な影響に対し、各国政府並びに国際機関などはラジオやその他媒体を用いて教育を継続させるため尽力してきたものの、インターネット環境が整った家庭は限られており、とりわけ脆弱な子どもたちの教育格差を拡大してしまう点を考慮すると、オンライン授業を対面授業の完全な置換として導入することは困難であると強調された。
講演後には討論者として、元ブラジル教育省局長のDanilo Leite氏を迎え、コロナ感染拡大下においていかにして子どもたちに質の高い平等な教育機会を提供できるのか、また世界銀行はこのコロナ感染拡大によるプロジェクト実施の困難性にどのように対応しているのかなど多岐にわたる議論が交わされた。
本研究会はラテンアメリカ及びカリブ諸国でのCOVID-19の教育への影響とそれに対する世界銀行の支援について理解を深める大変貴重な機会となった。
第156回研究会
- 日時:2021年9月30日(木曜)17:00-19:00
- 発表テーマ:Prospects and Challenges of Japanese FDI in Bangladesh
- 発表者:Dr. Abdullah Al Mamun, Assistant Professor, University of Dhaka
- 討論者:Dr. Shiro Nakata, Senior Economist, World Bank
- 参加人数:102名
- 言語:英語
概要:
本研究会では、ダッカ大学のAbdullah Al Mamun博士を招聘し、「Prospects and Challenges of Japanese FDI in Bangladesh」をテーマに講演をしていただいた。
Mamun博士は、バングラデシュにおいて拡大傾向にある日本の海外直接投資(FDI)がもたらす効果として、雇用の創出、インフラの開発、経済成長、貧困の軽減などを挙げ、これらはバングラデシュの持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与するという展望について言及した。
また、日本側にもたらされる効果として、東南アジア諸国連合諸国並びに南アジア地域協力連合諸国とベンガル湾産業成長地帯(BIG-B)の関係強化、公海や航空ルートの利用拡大、豊富な天然ガス・水・肥沃土の利用、巨大な労働市場を背景とする低コストによる生産、著大な消費者市場の存在を強調した。
日本によるFDIの課題としては、バングラデシュの低い「ビジネスのしやすさ指数」(世界銀行発表)、期待ギャップ、輸入時の電子送金の不可、銀行における海外企業への貸付制限、税制制度などがあるとした。
講演後には、世界銀行シニア・エコノミストとしてバングラデシュの支援に携わってこられた中田志郎博士を迎え、日本からバングラデシュへのFDIを中心に、多岐にわたる論点について活発な議論が行われた。本研究会はMamun博士の講演並びにその後の議論を通じ、てバングラデシュにおける日本のFDIの展望と課題について深い知見を得ることができた大変意義深い研究会となった。
関西支部
支部長・小川啓一(神戸大学)
副支部長・關谷武司(関西学院大学)