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NL33巻4号 [2022.11]

2022年度・活動報告『倫理的食農システムと農村発展』研究部会(2022年11月)

倫理的食農システムと農村発展 [FY2021-]

2022年度の活動実績

2022年度は、オンラインによる研究会を5回開催した。第1回は、2021年10月10日にオイシックス・ラ・大地株式会社ソーシャル・コミュニケーション室の秋元浩治さんほか1名を講師として、「倫理的生産者と倫理的消費者をつなぐ試み」を報告してもらった。オイシックス・ラ・大地は、有機農産物を中心にその配送や加工品の販売を通じて、日本で倫理的食農システムの構築を実践してきたトップランナーに位置づけられる。その歴史と業務内容、ポリシーなどについて学んだ。

第2回は1月8日に愛媛大学農学部教授の胡 柏さんを講師として、「愛媛県今治市の食と農のまちづくりが示唆するもの」というテーマの下に、今治市の取組について学んだ。今治市は学校給食、有機農業、食育などで著名だが、胡 柏さんは長年にわたって、今治市食と農のまちづくり委員会会長を務めているので、内側の事情についても興味深い報告をしていただいた。地産地消と有機農業(農産物)、地域内での経済循環、多様な主体の関与と分担(マルチステークホルダー)といった研究部会に関わる論点が浮き彫りになった。

第3回は6月11日に東京大学教授の受田宏之さんが「ミルパとプルケー、メリポナ蜂:メキシコの小農とアグロエコロジー」について報告した。ミルパ(トウモロコシとマメ類を中心に混作するメキシコの在来農法)もプルケー(多年草マゲイから作られる地酒)もメリポナ蜂(マヤの人びとが神からの贈り物とする針のないミツバチ)も小農世界を構成する不可欠のパーツであり、そこに地域の生態系を重視するアグロエコロジー(AE)との接点がありうる。ただし、有機農業の位置づけが高いのは輸出用のコーヒー、アボガド部門であって、小農部門ではごく一部にとどまる。とはいえ、参加型認証を用いる有機市の事例とAEの重要な要素である農民の主体性を育てようとする農民学校の事例から判断すると、小農部門における有機農業の主流化には相当の努力が必要だが、コミュニティの形成・強化には大きな役割を果たし得るといえる。

第4回は7月2日に三重大学名誉教授・CSA研究会代表の波夛野豪さんが「CSAの現段階とTEIKEIの展開過程」について報告した。波夛野氏は、日本はもとより世界各地のCSAを訪問・調査してきた。その結果によると、CSAは「地域が支える農業」「地域支援型農業」と和訳されることが多いが、実態はCommunityが支える農業であり、そのCommunityの性格によってCSAのあり方が決まってくる。運営のポイントは会員制で、会費(農産物の対価とは限らない)の前払いによって農家・農場を支援する点にある。不作でも会員に対する保証がないので、CSAは農産物とともにリスクを共有する仕組みだと見ることもできる。会費の設定方式として、所得格差に応じて差を設けるスライディング方式は、倫理的食農システムの観点からたいへん興味深い。

第5回目は、7月10日に米沢女子短期大学准教授の中川恵さんが「宮城県・鳴子の米プロジェクトがめざす農と食のコミュニティ―日本版CSAの特徴をどうとらえるか?―」について報告した。鳴子の米プロジェクトは、鳴子町の水田・稲作が荒廃しかねないと、民族研究家の結城登美雄氏が危機感を持ったことで始まった。結城氏はその際に地元の温泉街・こけし業者に対して、地元産の米を食べることで共有財産としての鳴子町の水田を守ろうと呼びかけた。その象徴として、日本でも知ら始めた「地域支援型農業」の呼称を持ち込んだものと思われる。鳴子では宮城県が開発した高冷地向け品種「ゆきむすび」の栽培と自然乾燥米をその要件とした。現在は都心のおにぎり業者との契約栽培に重点が移っている。このCSAは中山間地における離農の速度を遅らせるという効果を持った。

2022年度の研究会では有機農業とCSAによる農村発展のあり方がひとつの共通テーマとして浮かび上がった。必ずしも、明確に議論されたわけではないが、有機認証やCSAによる前払い制、リスクの共有といった特徴は倫理的食農システムを考える上での論点となりうるだろう。

2022年度秋季大会には、「倫理的食農システム:アグロエコロジーの視点から」というテーマでラウンドテーブルを開催する予定で準備を進めている。

『倫理的食農システムと農村発展』研究部会
代表:池上甲一(近畿大学名誉教授)

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