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NL34巻1号 [2023.02]

会長からの手紙(2023年2月)

第11期の2年目を振り返って

国際開発学会の皆様、こんにちは。今年も、昨年度と同じように学会活動の1年間を振り返ったハイライトをみなさんにお届けします。これは、各委員会の活動報告を行う総会にご参加いただけなかった会員のみなさんに対して、学会活動の要点をお知らせするものです。

昨年度の活動としてまずお伝えしたいのは、ロシアのウクライナ侵攻に対して学会として声明を発出し、日本と英語でHPに掲載したことです。学会として政治的な声明を出すことについては理事会の中でも賛否がございましたが、多くの皆様の賛同を得ることができたこと、そして何よりも、学会として世界のアクチュアルな問題への対応方法を常任理事の間で議論できたことが大きな収穫だったと思っています。今後も世界が難しい局面に入るごとに、学会としてどのように立ち居振る舞いをすべきなのか、議論してまいりたいと思います。


さて、第11期はvisible, inclusive, entertaining の旗印を掲げて、2年目を無事に終えることができました。総会を明治大学にて対面で実施できたことは何よりうれしいことでしたし、400名以上の参加登録があったことは、みなさんがこの大会を待ち望んでいたことの表れでもあると思います。発表の合間に廊下やホールで見かけたおしゃべりの環、学会賞受賞者のスピーチやそのあとの写真撮影と談笑、旧友との思いがけない再会など、対面開催ならではの偶発的な喜びに満ちた大会でした。実行委員長の島田剛先生とスタッフの皆様に改めて御礼申し上げます。

執行部の今年度の活動は、着手した活動をしっかりと定着させ、安定軌道に乗せることに力点をおきました。いくつか特筆すべき活動をあげるとすると、次のようなものがあります。

まず、Visibleについては、選挙管理委員会のイニシアチブにより、学生会員の主導によってYouTubeやツイッターの発信を実施しました。また、人材育成委員会では継続的に(学部生向け)論文コンテストを実施し、前年度より多くの10篇の応募をいただき、その中から3篇を学会誌に掲載しました。学部生の開拓は未来の開発研究者・実務者を育てるうえで大切な事業であります。

学会賞の方も、応募数が昨年度5件から、今年度13件と激増し、良質の作品を審査して3点に賞が出せたことは大きな成果でありました。社会連携委員会では、今年も外務省主催のグローバルフェスタにも出展し、「国際協力におけるキャリア形成」というセッションを設けて、若いみなさんを中心に100名の参加者を得ることができました。HPやメーリスを中心とする広報委員会の業務は、visibleであり続けるために重要な役割を果たしています。たとえば10月1ヶ月間のサイト全体のページ表示回数は約50,000回に上りました。

Inclusive については、まず地方展開委員会の活動をあげなくてはなりません。地方展開委員会では、2021年の全国大会、2022年の春季大会でラウンドテーブルセッション 「日本の地域から問い直す国際開発アジェンダ」 「日本の地域から問い直す国際開発アジェンダ(実践編)」 を企画し、 福岡、高知、岡山、岩手、秋田に拠点をおく学会員、地域づくりという関心を同じくする非学会員とのネットワーク構築に貢献しました。この委員会が縁となり、2022年春の福岡大会に続き、2023年春の秋田大会へと地方での学会開催の輪を広げることができました。

また、科研費(国際情報発信強化)を用いた特集号の編集体制の確立、原稿集め、査読、そして次号に向けた国際ワークショップ(@チュラロンコン大学)の段取りができたのも大きな成果でした。この科研費を利用した外国人会員のさらなる開拓、日本留学帰国組とのネットワーク化など、inclusive の範囲を海外に展開していきたいと考えています。

また、様々な障害をおもちの会員にできるだけ大会に参加してもらえるよう、ニーズの把握を務めたのもの今年の活動でした。次年度は、合理的な配慮に関するタスクフォースを設けて、アドホックではない配慮のあり方について議論し、その成果を実施したいと考えています。

最後にEntertaining については、引き続き学会誌の魅力を高めるための新たなデザインの検討を行いました。特に、次年度は英文特集号が加わる節目の年でもあります。表紙のデザインは会員の皆様に参加型で投票していただきました。3月には新しい表紙での最初の雑誌をお届けできると思います。どうかお楽しみに。


このほかにご報告すべき活動として、研究×実践委員会では2021年全国大会において、JICAが新たに推進しようとしている「クラスター・アプローチ」に対して研究者や委員会メンバーが意見を述べるラウンドテーブルを開催しました。この試みはJICA側からの評価も高く、その後2022年4月まで4回に渡って意見交換会を継続しました。こうした実務者と研究者との成熟した関係が構築できるようになったのは、両者が相まみえる「場」を本学会が長年提供し続けてきたことの帰結といえましょう。

こうした一連の事業を持続的なものにするためには、事務局が無理なく稼働できる体制が不可欠です。大会運営における特別ソフト confit の導入は、こうした省力化の努力の一環です。これらの着実な前進の背景には、多くの invisible な努力があります。各委員会の委員長や委員の皆さんはもちろんですが、事務局や広報委員会のスタッフは日常的な裏方として日々の業務をこなしてくれています。本当にありがとうございます。

明治大会でのプレナリーでは「グローバル危機にどう向き合うか―国際開発学の役割」と題して充実した議論を行いましたが、「危機と方向感覚」と題した私の講演に対する反応として、私の尊敬するあるシニアの会員から加藤周一の次のような引用が励ましの言葉と共に送られてきました。これは、加藤が1946年の雑誌『世代』(1946年3月号)に書いたエッセイの一部で、つい昨日まで好戦的だった日本の青年が良心の呵責もなく平和主義者に変わってしまうという日本青年の現状について書いている部分です。

「かなりの本を読み、相当洗練された感覚と論理を持ちながら、凡そ重大な歴史的社会的現象に対して新聞記事を繰り返す以外一片の批判もなしえない」

『世代』(1946年3月号)

論文を書くことは重要ですが、現実世界とのつながりに基づく方向感覚を失いたくないものです。学会は学問成果を取り交わすとこであると同時に、自分たちがどこに向かっているのかを確認する羅針盤のような機能を果たさなくてはいけないのかもしれません。引き続き、会員諸氏の叱咤激励をお願いする次第です。


第11期の最後となる2022年11月からの1年は、着手済みの変革をさらに開花させ、最終年にはさらによい報告ができるよう努力してまいります。会員の皆様の一層のご支援をお願いする次第です。

2023年1月
第11期会長 佐藤仁(東京大学)

Letter from the President
Reflecting on the Second Year as the 11th President

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