関西支部(2023年8月)
活動報告
関西支部では国際開発・国際協力に関するさまざまな分野の専門家を招聘し、世界的な問題となっているコロナ禍、また、コロナ後における国際開発・国際協力に関する議論を精力的に展開して若手人材育成を行うことを目的としている。
2023年6月には2回(第164回から第165回)の研究会を開催したため、その内容について以下の通り報告する。
第164回研究会
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- 日時:2023年6月22日(木曜)15:00-17:00
- 言語:英語
- 場所:神戸大学大学院国際協力研究科 1F大会議室(オンラインと併用)
- 参加人数:38名(うち学会員31名)
発表テーマ:
International Cooperation in Education Research: Insights from RISE-Ethiopia Research on Teacher Value-Added Analysis
発表者:
Dr. Moses Oketch, Professor, Institute of Education, University College London
討論者:
Dr. Nozomi Sakata, Assistant Professor, Hiroshima University
概要:
本研究会ではロンドン大学教育研究所(Institute of Education, University College London)のOketch教授を招聘し、「International Cooperation in Education Research: Insights from RISE-Ethiopia Research on Teacher Value-Added Analysis」と題した講演をしていただきました。
Oketch教授は、まず教育改革による教育の公平性(equity)の向上に着目し、その達成における教員の役割の重要性を述べました。生徒の学力レベルを問わず個々の学力を上げる教師こそが、公平性を高める良い教師(effective teacher)であるとの見解を述べました。また、そのように生徒の学力を高める教員の働きをTeacher Value-Addedと定義しました。
近年実施されたResearch on Improving Systems of Education (RISE)に基づく学力調査と、その前身であるYoung Livesの学力調査結果を用いて、エチオピアにおけるTeacher Value-Addedに焦点を当てた分析結果が報告されました。
まず、Young Livesのデータを用いて、エチオピアの初等教育に在籍する大多数の生徒が求められている学力に達していないという現状を示しました。
次に、Teacher Value-Addedの観点から、学力の高い生徒の学力向上に寄与する教員と、学力の低い生徒の学力の向上に寄与する教員、全ての学力レベルの生徒の学力向上する教員、学力向上にほとんど寄与しない教員がいることをグラフとともに示しました。
今後、Teacher Value-Addedの高い教員に着目し、それらの教員がどのような教員であるかをより詳細に探ることが教育の公平性を高めるうえで重要であるとし、更なる研究の必要があると締めくくりました。 講演後には、討論者の坂田会員(広島大学)をお招きし、教授法の観点から分析の限界や今後の期待を共有いただきました。
加えて、参加者からも積極的に質疑が挙がり、活発な議論を持つことができました。
本研究会はOketch教授の講演及びその後の議論を通じて教育の公平性を達成するための教員の重要性、とりわけ、Teacher Value-Addedの重要性を知る大変意義深い機会となりました。
第165回研究会
- 【日時:2023年6月30日(金)13:00-15:00】
- 【言語:英語】
- 場所:神戸大学大学院国際協力研究科 1F大会議室(オンラインと併用)
- 参加人数:28名 (うち学会員25名)
発表テーマ:
Examining the Technical Efficiency of Higher Education Institutions in China: A Multistage Dynamic Network DEA Approach
発表者:
Dr. Kok Fong See, Associate Professor, Economics Program, School of Distance Education, Universiti Sains Malaysia
概要:
本研究会ではUniversiti Sains Malaysiaの教授である See博士を招聘し、「Examining the Technical Efficiency of Higher Education Institutions in China: A Multistage Dynamic Network DEA Approach」と題した講演をしていただきました。
講演のはじめに、See博士は世界大学ランキングに代表されるように、高等教育機関の質を数値化・可視化することの重要性を述べました。高等教育機関の質は様々な尺度で測られますが、See博士は中でも特に大学の効率性に着目し、その効率性をTechnical Efficiencyと定義しました。
効率性を最大化する方法として、アウトプットに合わせたインプットの最小化、インプットに合わせたアウトプットの最大化の2つの方法があるが、高等教育機関においてインプットである教員や施設の縮小はできないことからアウトプットの最大化が命題であるとSee博士は説明をしました。
高等教育機関のアウトプットとなる指標としては、(1)Research(論文数、研究用施設数等)、(2)Education(教員数、教育用施設数等)、(3)Grant Application(研究費の申請・採択数)の3点を挙げられます。
See博士は、Data Envelopment Analysis (DEA) Approachを用いて3点を指標化し、中国の高等教育機関を事例に、比較可能な効率性の数値化を実現しました。
本研究結果から、効率性を高めるために各高等教育機関が注力すべきアウトプットの可視化に成功したとも言えます。
今後より多くの指標をTechnical Efficiencyとして組み入れられること、他の教育レベルでも適応可能であること、国内のみならず国際比較へも発展させられる可能性があること、高等教育機関のマネジメントや政策提言に利用可能であることを述べ、更なる研究の発展可能性と意義を共有しました。
本研究会はSee博士の講演及びその後の議論を通じて、高等教育機関の効率性を測るDEA Approachについて学び、高等教育機関の効率最大化について考える大変意義深い機会となりました。
関西支部
支部長:小川啓一(神戸大学)
副支部長:關谷武司(関西学院大学)