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NL34巻4号 [2023.11]

『ジェンダーと開発』研究部会(2023年11月)

『ジェンダーと開発』研究部会

研究部会代表・田中由美子先生を追悼して

2023年9月26日、本研究部会の代表を務められた田中由美子先生が急逝されました。あまりにも突然の訃報に、未だに現実のこととは思えません。

9月15日に本研究部会の定例会をオンラインで行いましたが、3名の発表に対して田中先生がコメンテーターを務めてくださいました。

そのコメントは鋭く深く、そして温かみと優しさがあり、いつもの田中先生でした。そのわずか2週間後に、この悲しい知らせを受け取るとは誰も想像していませんでした。

田中先生はJICAにおいて社会開発部長、国際協力専門員(ジェンダーと開発分野)、シニア・ジェンダーアドバイザーを歴任され、城西国際大学(招聘教授)など多くの大学で教鞭をとられるとともに、国連女性の地位委員会の日本代表としても活躍され、日本におけるジェンダーと開発分野の先駆者として大きな足跡を国際開発分野に残されました。

JICAにおいてカンボジアやアフガニスタンをはじめ、アジア、アフリカ、中南米で女性省支援や女性のエンパワメントを目指した案件に関わられ、タイを中心に人身取引対策やジェンダーに基づく暴力への取り組みにもご尽力されました。

近年は災害とジェンダーの課題にも精力的に関わられていらっしゃいました。

田中先生のご功績は、この紙面にはとても書ききれないほどです。多くの関係者の方々が、様々な場で田中先生のご功績を語られることと思います。

そこで、もしかしたら私たちが最も詳しいかと思われる、田中先生のご功績の一つである後進の指導についてご紹介したいと思います。

田中先生は後輩の指導に熱心で、ジェンダーと開発分野の実務者・研究者を何人も育成してくださいました。

私たちは、田中先生より20歳くらい年下の世代ですが、30代前半に田中先生に仕事を通して出会い、以降、公私にわたり大変お世話になってきました。

いつも「大丈夫よ。あなたなら出来るから」と温かく励ましてくださり、時には厳しく指導してくださり、私たちの代わりに矢面に立ってくださり、私たちの成長を見守ってくださいました。

私たちは田中先生のジェンダーと開発に対する情熱と仕事に対する真摯な姿勢を側で拝見しながら切磋琢磨し、ジェンダーと開発分野の実務者・研究者として現在まで歩んできました。

本研究部会は2022年8月から活動を開始していますが、何年も前から、田中先生を中心に有志で集まり、ジェンダーと開発の企画セッションを行ったり、個別の発表を行ったりしてきました。

「国際開発学会からジェンダーと開発が消えてしまわないようにね」と、田中先生は常日頃おっしゃっていました。

そして「若手が代表をしなさい」と私たちを励ましてくれましたが、田中先生に頼っていた私たちは固辞し、結局、「仕方ないわね。最初だけよ」と、ご多忙な中で快く代表を引き受けてくださいました。

田中先生からたくさんのご指導と思い出をいただきました。これからは私たちが田中先生の築かれたジェンダーと開発分野を引き継いでいきたいと思います。

心よりご冥福をお祈り申し上げます

ジェンダーと開発研究部会を代表して
(甲斐田きよみ、高松香奈、本間まり子)


ジェンダーと開発研究部会の活動報告

「ジェンダーと開発」研究部会は、実務者と研究者が活動報告や情報共有、調査や啓発活動のためのアプローチなどを紹介することにより、ジェンダーと開発を考えるうえでの課題や可能性について検討することを目的に、2022年8月より活動をしてきました。

主な活動は、月例の勉強会の開催及び開発学会大会での企画セッションの開催です。特集号の作成に向けた準備も始めています。

2023年度は、月例の勉強会(第3金曜日にZoom開催)を開催し、メンバーの研究報告を通じて、研究部会の方向性と2年次以降の共通研究テーマを検討してきました。

横断的なテーマを持つメンバーの研究を共有するにあたり、「危機への対応 」という共通の視点を用いています。

月例勉強会の参加者は12人程度で、発表者、司会者、記録者を順番に担当し、質疑応答を含めた記録を残しています。

毎回1時間半程度ですが、毎月オンラインで集まることで、お互いの研究関心を知り、発表や質疑応答から刺激を受け、活発な月例勉強会となっています。

2023年度の勉強会のテーマ(実績)

  • 8月22日:キックオフミーティング
  • 9月16日:安全保障とジェンダー、開発
  • 10月21日:人類学とジェンダー(インドの事例)
  • 11月18日:企画セッションの準備(セッションでの報告内容の検討)
  • 12月16日:COVID-19による障害女性の日常生活への影響(バングラデシュの事例)
  • 1月20日:シリア内戦とジェンダー
  • 2月17日:無国籍女性の安全保障(パキスタンの事例)
  • 3月17日:研究部会の活動に関する検討会
  • 4月21日:月経と国際開発とグローバルな動向
  • 5月19日:EmpowermentとAgencyを考える
  • 6月16日:月経対処の実態とMHM支援(パプアニューギニアの事例)
  • 7月21日:前半は国立女性教育会館の活動、後半は2年次の活動内容の検討
  • 8月18日:Covid19パンデミックのジェンダー規範への影響(バングラデシュの事例)
  • 9月15日:ラウンドテーブル「研究・実務・実践者のキャリアパスとジェンダー」

2022年12月の第33回国際開発学会において、研究部会の有志による企画セッションを「ジェンダーと開発」のテーマで開催しました。

3名が次の報告を行いました。「バングラデシュにおけるマイクロファイナンスと女性のエンパワメント」、「南スーダンでの全国スポーツ大会を通じたスポーツとジェンダー」、「ネパールの家族農業における変化への対応」。

この企画セッションでは、家父長制下で制約を受けている女性に焦点をあて、研究部会の有志会員が関わってきた女性のエンパワメントの促進事例を紹介しました。

コロナ禍の影響を受ける女性たちを、受動的な弱者として位置付けるのではなく、変化を引き起こす主体として位置付けるために国際協力を通じ何が出来るのか検討しました。

2年次にあたる2024年度も、基本的には第3金曜日に開催するZoomでの勉強会を中心に、活動をしていく予定です。

また、2023年11月の第34回国際開発学会において、「危機への対応」というテーマでの企画セッションを申請しており、準備を進めています。

セッションの内容は、特集号の掲載に向けて深めていく予定です。招聘スピーカーによる公開セミナーの開催なども予定しています。

ご興味のある方は、事務局までご連絡ください。

『ジェンダーと開発』研究部会
事務局:本間まり子(早稲田大学)

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