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NL34巻4号 [2023.11]

『倫理的食農システムと農村発展』研究部会(2023年11月)

倫理的食農システムと農村発展 [FY2021-]

1. 研究部会概要

本研究部会は2021年度から活動している。目的は、いわゆるフェアトレードとエシカル消費を柱とする倫理的取引に基づく食農システム(これを倫理的食農システムとする)が生み出す農村発展の成果と課題を解明することにある。

その参照枠組みとして、「食への権利」や「食料主権」、オーガニックや地産地消といった食料運動の観点も利用することとしている。理論的研究と実践からの学びとを二本の柱にしている。

代表者は池上甲一(近畿大学名誉教授)、副代表は牧田りえ(学習院大学教授)で、25人ほどが賛同者リストに名を連ねている。

主な活動としてはオンラインによるオープン研究会(会員、一般)を行っている。副代表の牧田が研究代表者になっている科学研究費と合同で開催する場合もある。参加者は平均して20名程度であるが、テーマによっては50名を数えることもある。

2. 活動実績

2-1 ラウンド・テーブルの開催

秋季大会において研究部会として「倫理的食農システムの構築に向けて―アグロエコロジーの観点から―」と題したラウンド・テーブルを開催した。この準備会合として2回の内部研究会を設定し、コメンテーターを交えて議論を交わした。

まず、11月3日に座長として池上が企画の趣旨を説明し、座長解題の基本方針を報告した。ラウンド・テーブルの2つの柱になる倫理的食農システムとアグロエコロジーについての理解をめぐり、食農システムの上流から下流に向けた各段階、すなわち、種子、農業生産、流通、消費のそれぞれからテーマに迫ることを確認した。

ついで、11月23日に2回目の内部研究会をもち、それぞれの報告者が説明した報告のアウトラインと予定コメントについて議論を行った。

以上の準備会合を踏まえて、12月3日にラウンド・テーブルを開催した。

第1報告は西川芳昭「アグロエコロジー研究から見たタネをめぐる主体者の多様性」、第2報告は受田宏之「ミルパ、有機市、農民学校:メキシコにおけるアグロエコロジーの実践と課題」、第3報告は牧田りえ「有機とローカルはなぜ接近するのか」、第4報告は坂田裕輔「生産過程の倫理性に対する消費者の関心」せある。

報告の構成は、食農システムの流れに沿っている。これらの報告に対して、加藤珠比氏と妹尾裕彦氏がそれぞれコメントを行い、このコメントを中心に議論が行われた。
対面とオンラインのハイブリッド形式の開催だったので、全体としての参加者数は不明であるが、対面式の会場参加は20名強だった。

2-2 研究会

2023年度は、オンラインによる研究会を当初の計画通り4回開催した。そのうち、2回は公開、残りの2回はラウンド・テーブルに向けた打ち合わせ(前述)のためのクローズドとして開催した。以下、公開分についてまとめる。

第1回

本年度公開研究会第1回は、2022年10月14日に日本スローフード協会・代表理事の渡邉めぐみ氏を講師として、「スローフード運動の今」を報告してもらった(オンライン)。

まず、スローフード運動がイタリアで始まった背景と経緯を、運動創設者のカルロ・ペトリーニの考え方、伝統的な食を守る運動から検討された。ついで、食の総合性と食をめぐる諸問題がスローフードのミッション(おいしい、きれい、正しい)を生み出したことが説明された。

次に、「味の箱舟」プロジェクトなどの取組が紹介された。世界の動きが中心であるが、その中でも生物的・文化的多様性が強調されている点が示唆的であった。またガストロノミー大学の取組は、運動論と変革への実践を科学が媒介しているという点で、まさにアグロエコロジーの目指すところと共通している。

第2回

研究会第2回は7月1日に、大皿一寿 氏(株式会社ナチュラリズム 代表取締役)を講師として「神戸有機農家チームbio creatorsのCSA」をテーマに報告してもらった(オンライン)。

ナチュラリズムは有機野菜のCSAだけでなく、兼業しながらでもできる有機農家の育成やファーマーズマーケット、ケールの加工などさまざまな活動に取り組んでいる。

また仲間たちとつくったBio creatorsは、ピックアップ・ステーションを利用するCSA以外に、企業(職場)と連携するCSAの新たな可能性に挑戦している。また、耕作放棄地でお米をつくったり、都会の空き地を利用したアーバンファーミングを実施したりしている。

さらに、高齢化が進展して、コミュニティ機能が弱っている団地をCSAで活性化させる取り組みも始めている。消費者の安全な食料確保と有機農家の経営の視点からだけでなく、ネットワーキングや職場のつながり、コミュニティ再生など、CSAのもつさまざまな可能性を展望することができた。

2-3 視察ツアー

愛媛県今治市の有機農業と地産地消をおもな内容とする視察ツアーを実施した。2022年度に講師として招いた愛媛大学の胡柏氏の紹介により、2022年度に企画されたものがコロナで延期となっていたものを本年度に実施することができた。

期間は8月21日~23日、参加者は本研究部会の賛同者を中心に6人~8人(最終日に松山在住者が天候不順によるJR遅延のため参加できず)。

視察場所は今治市役所(地産地消・有機学校給食)、地産地消カフェ・地域振興グループ、JA越智今治農産物直売所、学校給食用有機農産物生産グループ、イノシシ活用隊、大三島自然農法グループなど。今治市のJA、自治体、有機農業グループ、新規就農受け入れ態勢などたいへん参考になる点が多かった。

『倫理的食農システムと農村発展』研究部会
代表:池上甲一(近畿大学名誉教授)

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