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NL36巻2号 [2025.08]

『開発途上国における働きかたの質に関する研究部会』(2025年7月)

本研究部会は、2025年6月末までに以下の通り、3回の研究会を実施いたしました。各回とも、開発途上国における「働き方の質」に関わる多様な実証研究の成果をもとに活発な質疑応答・意見交換が行われ、参加者間で多様な視点や課題を共有する貴重な機会となりました。

第1回研究会

  • 開催日時:2025年2月22日(土) 15:00~18:30
  • 開催場所:京都大学稲盛財団記念館3階 中会議室
  • 開催方法:ハイブリッド開催(対面+Zoom)

プログラム

  • 報告
    報告者:新本万里子(広島市立大学)
    「パプアニューギニアのネットバッグ生産への国際開発の影響—アーティストを名のる女性の活動から—」
  • 懇談
    「開発途上国における働きかたの質に関する研究」の成果の出版について
    報告者:高橋基樹(京都大学)
    報告者:道中真紀(日本評論社)

概要:本研究会では、新本万里子会員が、パプアニューギニアにおけるネットバッグの生産と商品化に関する報告を行った。報告では、調査対象の女性が「アーティスト」として手工芸品の制作・販売に携わる実践に着目し、創造性や社会的評価、収入獲得などの観点から労働の意味づけが考察された。続いて、本研究部会代表の高橋基樹会員より、部会設立の趣旨が説明され、「働きかたの質」という視点が、これまでの開発研究において十分に扱われてこなかったことが指摘された。労働の主観的経験や意味づけに関する理論的課題が提起され、今後の議論の方向性が共有された。さらに、道中真紀氏より、学術書出版に向けた実務的な準備や執筆・編集の要点について説明があり、出版に向けた見通しが具体的に示された。

第2回研究会

  • 開催日時:2025年5月10日(土) 15:00~18:00
  • 開催場所:京都大学稲盛財団記念館3階 中会議室
  • 開催方法:ハイブリッド開催(対面+Zoom)

プログラム

  • 報告
    報告者:朴 聖恩(京都大学アフリカ地域研究資料センター 特任研究員)
    「排除を越えて―ウガンダ・カンパラの社会的遺児と職業訓練の経験から―」報告者:木山 幸輔(筑波大学人文社会系 助教)
    「労働と人権と尊厳と:主には旧稿をもとに」

概要:朴聖恩会員は、ウガンダにおける社会的遺児を対象とした職業訓練の実践に着目し、それが自己効力感の向上、他者への共感の醸成、さらには社会的関係性の再構築を促していることが、心理学等の理論的な根拠とともに示された。質疑応答では職業訓練と学校教育との役割の違いや接点、また心理学的知見を開発研究にどのように取り入れることができるか、といった学際的アプローチの可能性と限界についても議論が交わされた。木山幸輔会員は、自身の論考「労働と⼈権︓ある閉塞感へ応答する可能性の⼀素描」(『法学教室』534号)に基づき、労働を人権の観点から再考する報告を行った。報告では、現代社会における「ブルシット・ジョブ」とされる現象に焦点を当てながら、労働を「他者への貢献」という視点から捉え直し、その倫理的・人権的側面から考察した。質疑応答では、労働の質を指標化することの難しさや危うさに加えて、「尊厳(dignity)」概念に関する日英語間の意味の違いについても議論が及んだ。

第3回研究会

  • 開催日時:2025年7月12日(土) 15:00~17:00
  • 開催場所:京都大学稲盛財団記念館3階 中会議室
  • 開催方法:ハイブリッド開催(対面+Zoom)

プログラム

  • 報告
    報告者:久保田ちひろ(同志社大学)
    「ケニア都市近郊農村における生計と働きかたの意味づけ」

概要:久保田ちひろ会員は、ケニアの都市近郊農村における契約農業に着目し、それが地域に定着しなかった背景を、生計手段の多様化や商品作物の選択・構成の柔軟性といった観点から検討した。質疑応答では、「契約農業は働き方の質にどう影響するか」「アフリカの人びとの意識のなかで農耕(farming)は仕事(work)なのか否か」といった問いがなされ、農業が「仕事」ではなく「生活の基盤」として捉えられている実態を指摘し、現金収入の大小では捉えきれない働きかたの意味づけが示された。

以上


研究部会副代表:井手上和代(明治学院大学)

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