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NL36巻2号 [2025.08]

第26回春季大会報告:一般口頭発表-I

一般口頭発表

I1:教育成果の裏を覗く:技術・資金・制度の視点

  • 開催日時:6月21日9:00 - 11:00
  • 聴講人数:約15名
  • 座長山根友美(立命館アジア太平洋大学)
  • コメンテーター・討論者近藤菜月(名古屋大学)

【第一発表】Application of Counterfactual Explanations for Machine Learning Model Interpretability: Study focused on Teaching Quality and Student Learning Outcomes

発表者

  • Jean-Baptiste SANFO (University of Hyogo)

コメント・応答

First presenter, Jean-Baptiste M.B. Sanfo, examined PISA-D 2018 data from seven countries to test whether counterfactual explanations can make machine-learning analyses of teaching quality more transparent. While the study illustrates how counterfactuals can generate policy-relevant insights, I the author is encouraged to clarify why chosen model (OLS) outperformed more flexible models, explain the criteria for variable selection, and test robustness to multicollinearity (e.g., through Lasso or ridge regression). Addressing these points and exploring multilevel specifications would strengthen interpretability, lend greater confidence to the findings, and enhance their applicability for educators and policymakers.

【第二発表】マラウイにおける幼児教育研修の保育者および小学校教師の知識と技術習得への効果

発表者

  • 谷口京子 (広島大学)

コメント・応答

谷口会員は、マラウイにおける保育者および小学校教師を対象に、独自に開発した教材を用いて幼児教育研修を行い、その定着度を調査しました。定着度の調査では、研修前後の質問紙調査と半年後の訪問調査を実施し、短期的・長期的観点から分析がされました。その結果、研修前後の質問紙では知識や技能習得が全項目において大きく改善した一方、実践する自信は十分には醸成されませんでした。また、半年後の調査では、研修後の実践に施設間でばらつきがありました。このばらつきは、施設の差異だけでなく、それまでに受けた研修回数や地域住民の協力体制の有無と関わっていると分析され、継続的な支援体制の構築が不可欠と報告されました。質疑応答では、本研究で想定する「幼児教育の質」とマラウィの社会文化的文脈や、本研究で実施した研修自体の将来に向けた改善点について質問があり、研修の内容や方法について議論が深められました。

【第三発表】教育行財政とその成果の背景-小島しょ国モルディブ・ラーム環礁の事例から

発表者

  • 吉田和浩(広島大学)

コメント・応答

吉田会員は、小島しょ開発途上国(SIDS)であるモルディブにおける教育の質と公平性の担保という課題について、統計データと現地調査をもとに、3つの対象校の比較分析を行い、教育行財政の面から検討しました。モルディブでは近年、2015年のNCF制定、質保証局の設置、全国学力調査(NALO)の開始、学校改善計画制度(SIQAAF)といった様々な政策が施行されており、その進捗と課題が論じられました。モルディブでは、言語の成績の結果で地域間、言語間、男女間の差が大きく、特に英語に対して、国語のディベヒ語の成績低下が問題視されていることに焦点が当てられました。主要産業が観光産業と水産業であることが、国語に対する英語の重視や、学業成績が低くても収入が期待できるという状況を生んでいます。このことを踏まると今後は、教育の質と公平性について、一般市民の教育に対する認識に踏み込んだ議論が期待されます。

【第四発表】ケニアの高等教育段階の進学に与える教育資金支援の効果ー教育費の補填率に着目して

発表者

  • 島田健太郎 (創価大学)

コメント・応答

島田会員はケニアの家計調査を用いて、マッチング手法により教育資金支援が大学進学率に与える影響を検証しました。支援の有無自体には有意差が見られませんでしたが、高額支援は進学率を押し上げた一方、補填率を指標にした分析では効果が確認されなかった。高額支援と補填率という二つの切り口を併用して資金支援の閾値効果を可視化したことは、奨学金政策の設計に実践的な示唆を与えるという点で高く評価できます。今後は、授業料水準や家計負担比率を考慮した感度分析を追加し、学業成績や進学意欲など非観測要因を補正する手法を導入すれば、因果推論の信頼性がさらに向上し、より精緻な政策提言へとつながると期待されます。

総括

本セッションでは、機械学習による授業評価、マラウイの幼児教育研修、モルディブの島嶼部教育財政、ケニアの学費支援効果という四つの研究成果が報告されました。AIを活用した教育の質の改善から財政的インセンティブまで、多様な手法を横断的に検討し、教育成果向上に不可欠な複合要因を検討しました。質疑応答も活発で、参加者の高い関心と研究の実践的意義を共有する有意義な時間となりました。

報告者(所属):山根友美(立命館アジア太平洋大学)


I2:生計というプリズム:教育実態の再考

  • 開催日時:6月21日11:10 - 13:10
  • 聴講人数:約15名
  • 座長島田健太郎(創価大学)
  • コメンテーター・討論者島田健太郎(創価大学)、山口しのぶ(国連大学サステナビリティ高等研究所)

【第一発表】ブータンのSTEM教育~ファブラボコミュニティの実践現場からの考察

発表者

  • 山田浩司(武蔵野大学アジアAI研究所)

コメント・応答

ブータンは海外からの現地入りに制限があるため、大変重要な文献として関連分野に貢献することが大きく期待される。私(山口会員)自身、ブータンのEducation ICT Master Plan (iSherig)に関する支援のためUNESCO、ブータン教育省と連携して2018年に一か月ほど現地調査を行った経験がある。第一次マスタープランでは、教員の専門性の欠如、教育省による国家研修実施の難しさなどの課題があった。その状況を受け、iSherig-2 (2019-2023)では教員の人材育成に重点を置いたという背景がある。ブータンの学校配置の地理的な状況を考えると、今後益々地域に重点をおいた質の高い教育が望まれる。今回の発表では、コミュニティに根付いたLearning Center(CLC)の活用についての分析が詳細になされており、iSherig-2にて具現化された現地での取り組みについての発表は大変重要な研究成果として位置付けられる可能性がある。

また、国際機関やJICAによる二か国間援助がこの取り組みに貢献していることも、内容の質の向上および今後の予算調達も含めた持続可能性の面においても期待が持てる。今回の発表は大変丁寧な背景調査、現状分析に基づいており、今後も是非調査を継続していくべき研究である。

【第二発表】異なる学校教育が人びとの所得や雇用に与える影響:ケニア・ナイロビのTVETに焦点を当てて

発表者

  • 松本愛果(京都大学)

コメント・応答

グテーレス国連事務総長が昨年のSDGサミットで明言したSDGsの目標ターゲットの達成状況について、2024年の時点で各SDGsにおいて到達しているターゲットは17%に満たないとの報告を受けている中、各ゴールにおける到達の議論に加え、目標間のシナジーをどのように模索していくかが重要視されている。

その意味でも、SDG4(Quality education)にて常に課題となっているサブサハラ地方において、就学年数の延長による私的収益率が高いという結果は、今後SDG4、SDG8(Decent work and economic growth)、SDG10(Reduced inequalities)とのシナジー効果という意味でも大変有用であり、研究の方向性としては大変重要であると思う。その上で、この地域における研究調査がどのような独自性を持って本分野の研究に貢献できているかの考察がなされるとより良いと考える。ロジットモデルの説明変数については、文献整理によってモデルの有効性を説いた上で、文献調査・先行事例(自らの調査含む)に基づく仮説があればより説得力が増すと考えられる。

【第三発表】インドネシアの教員の副業:実態とその影響

発表者

  • 前田美子(大阪女学院大学)

コメント・応答

本報告は、インドネシア・メダン市の教員122名を対象とした調査から副業の形態が個人塾だけでなく、オンラインビジネスや小売業など多岐にわたり、収入も教員給与と同等以上である一方、その給与は不安定であることも判明した。「趣味」や「余裕のある生活のため」といった副業動機で勤務時間外に実施することが多く、一部の教員は副業で得たスキルや知識を本業に活かすといった、教職への肯定的な波及効果が示唆された。

 コメントや質疑応答では以下のような議論が交わされた。副業が今後の柔軟な勤務制度や報酬体系、「職業観」の再考に繋がり、教員研修の在り方を問い直す契機となるかもしれないこと、金銭的便益だけでなく「教員」という社会的威信故に副業選択に影響すること、メダン市は都市部である為、農村部だと結果が異なる可能性が示唆された。また、調査対象が副業実施者に限られ、副業をしていない教員の動機や、回答者の偏り(比較的余裕がある人が回答する可能性)についても建設的な議論が交わされた。

【第四発表】長期化する危機における成人学習

発表者

  • 三宅隆史(立教大学)

コメント・応答

本報告は、長期化する難民増加という背景のもと、見過ごされがちな危機状況下の成人教育・学習支援に焦点を当て、文献レビューを通じ、危機状況下にある成人の学習権は国際的に保障されるべき権利であることを示した。危機状況下の成人学習の役割は「保護とエンパワメント」「仕事、生計、ウェルビーイングへの貢献」「社会統合、和解、平和の促進」にある一方で、予算不足や政策上の優先度の低さが主要な課題として挙げられた。

コメントや質疑応答では、以下のような議論が交わされた。成人スキル強化プログラムやセカンドチャンスプログラムの運用を通じて、成人学習の優先度を高めるための政策的示唆を提示し、危機状況下における成人学習の重要性を強調した点が明らかになった一方で、難民状態にある成人に対して、避難国への統合をすることや平和を促進する学習プログラムの在り方(受け入れ国側を含め、双方向の対話を促進するプログラム)の重要性について意見交換がなされた。

総括

本セッション「生計というプリズム:教育実態の再考」では、ブータン、ケニア、インドネシアといった多様な地域における教育と生計、さらに危機下の成人学習という幅広いテーマのもと、4名による発表が行われた。各発表は、教育が個人の生計や社会全体の発展に与える影響を多角的に捉え、STEM教育や教員の副業といった具体的な事例を通じて、教育の現状と課題に関する多くの示唆を提供した。

具体的には、ブータンにおけるSTEM教育の地域密着型の実践、ケニア・ナイロビのTVET(職業技術教育訓練)が所得や雇用に与える影響、インドネシアの教員による副業の実態とその波及効果、そして長期化する危機状況下における成人学習の重要性が取り上げられた。これらの発表を通じて、教育が単なる知識の習得にとどまらず、社会経済的な文脈の中で人々の生活、キャリア、さらには社会の安定と発展に深く関与していることが明らかとなった。

また、地球規模で進行する危機的状況や、雇用・スキルの変容に対応するためには、教育の在り方そのものも変革が求められる。急速に変化する社会と教育との関係性を再考する上で、本セッションは非常に有意義な議論の場となった。

報告者(所属):島田健太郎(創価大学)


I3:日本の国際協力:インフラ、気候変動、人材育成

  • 開催日時:6月21日14:10 - 16:10
  • 聴講人数:約12名
  • 座長黒川基裕(高崎経済大学)
  • コメンテーター・討論者高橋基樹(京都大学)、黒川基裕(高崎経済大学)

【第一発表】The ABE Initiative: Impacts and Limitations in Improving Business Conditions and Good Governance in Egypt, Kenya, South Africa and Rwanda

発表者

  • James Kaizuka (Japan International Cooperation Agency)

コメント・応答

Kaizuka会員の報告は、安倍イニシアティブで日本での留学経験を得た学生が帰国後にどれだけ活躍しているのかを分析し、同プログラムの成果を明らかにしようとするものであった。報告では、アフリカ4カ国を分析対象として、研修生の個別ケースの検証を積み重ね、帰国後の活躍が国別、官・民別で異なっていることを検証していた。本研究は、「汚職ランキング」、「ビジネス環境ランキング」、「修士号取得者の対人口比」を軸としたGood Governanceの向上にどれだけのインパクトをもたらしているのかを解析しようとする挑戦的な内容であり、4カ国のうちルワンダ、ケニアでは高い貢献をもたらしているという結果が導き出されていた。

フロアからは、「人材育成の効果は、直ちに国レベルの成果に結びつけることが難しいため、段階的に効果を検証したほうがいいのではないか」、また「成果が顕在化されるまでの時間も長くなることがあるため、直ちに測定することも難しいのではないか」というコメントが寄せられた。今後の研究の展開では、「個人の能力向上」、「帰国後の行動変容(知識の共有)」そして「マクロレベルの貢献」というような段階的な分析が期待される。

【第二発表】インド工科大学ハイデラバード校における日本の大学との学術連携構築のための技術協力と持続性への課題

発表者

  • 中野恭子(有限会社ヒューマンリンク)

コメント・応答

中野会員の報告は、自身がコンサルタントとして関わっているJICA事業「インド工科大学ハイデラバード校(IITH)日印産学研究ネットワーク構築支援プロジェクト」の成果を検証するものであった。2021年から第2フェーズに差し掛かったプロジェクトでは、日本の研究室とIITHの「共同研究と博士人材の共同指導」が活発になっており、IITHの大学院生が日本の研究室運営に貢献しているなど、双方に有益な関係構築が進んでいることが示された。また、JSTによる「2024年度インド若手研究人材招聘プログラム」では、IITH を招聘先とする19 件のうち10件が同プロジェクトの共同研究ペアであったことから、頭脳循環を実現していることにも言及された。 

フロアからは、「インドから研究のために来日する大学院生が研究室運営に貢献しているなど、当該事業は日本の国益にかなっているかもしれないが、インドの開発課題に資するものになっているのか」という質問が寄せられた。これに対しては、「共同研究を通じて、日本の優れた研究室から最先端の技術・知識を吸収する機会になっている」という回答が示された。

【第三発表】カンボジア・つばさ橋及び国道1号線における事業実施の意思決定

発表者

  • 小泉 幸弘(独立行政法人国際協力機構)
  • 花岡 伸也(東京科学大学)

コメント・応答

小泉会員の報告は、カンボジアのつばさ橋とプノンペンとつばさ橋を結んでいる国道1号線の建設事業の実施手続きにおいて、当時本格導入された環境社会配慮の運用の難しさが手続きの長期化に深く関係していることを説明するものであった。報告者は、両国関係者へのヒアリングや公開資料の解析によって、「黎明期であった環境社会配慮の運用において、調査内容や審議過程に試行錯誤の形跡が確認された」としている。

フロアからは、当時の審議内容の詳細な分析を評価する一方、「同時期のプロジェクトを横断的に分析対象に加えることで、環境社会配慮ガイドラインの導入期に起きていたことを顕在化できるのでは」というコメントも寄せられた。また、「日本らしく慎重に進めた結果、2つの事業プロセスには時間がかかった。その後の援助方針に変化は生まれているのか」という質問もあったが、「基本的な方針は変わらず、JICAとしては、今後も援助の質を重視していくだろう」という回答が得られた。小泉会員からは、「今後はカンボジア側の関係者ヒアリングや資料解析を更に進めて、当時起きていたことを明らかにしていきたい」という研究計画が示された。

【第四発表】開発援助(ODA)の気候変動適応策におけるデュアルアプローチの分析:日本と東ティモールの事例比較による課題の検討

発表者

  • 槇田容子(茨城大学地球・地域環境共創機構(GLEC))

コメント・応答

槇田会員の報告は、「科学主導型アプローチ」と「地域主導型アプローチ」の2側面から地球環境変動に対応するデュアルアプローチの有効性を説明する研究成果であった。また、茨城大学の茨城県での取り組みとJICAによる東ティモールでの取り組みを事例として、地域主導型アプローチをこれまで以上に重視することが、よりよい対応策の提供につながるという考えが説明された。

分析枠組みに関しては、「2つのアプローチは併存してそれぞれ成果を挙げていくのか、どこかで結節点を持ってより有効的な一つの対応策が生み出されることになるのか」というコメントが寄せられた。また、フロアからは、分析枠組み以外にフィールドの状況にも関心が寄せられ、「東ティモールの農村では、政府の提言やアクションに懐疑的な態度をとる人も多く、そのことが科学主導型アプローチによる対応策の定着を難しくしているのでは」という質問に対しては、「そういう側面は確かにある、それでも先進的な考え方に関心を寄せる人は一定数いるので、そういった対象との関係構築に注力しながら取り組みを広げていく努力が必要」という回答が示された。

総括

4つの報告は、それぞれ異なる領域のものである一方、援助手法のさらなる向上につながる成果をもたらしている点で共通性があった。Kaizuka、中野報告は、人材育成関連のプログラムにおいて、これまで以上にシビアな要求を求められる援助効果をどのように高めていけばいいのかという課題に向き合っており、小泉、槇田報告は、他の援助国との競合・競争を意識しなければならない中、援助の効率性と質的向上のバランスを考えていくうえで重要な示唆をもたらす研究であった。今後、各研究の成果が標準化を経て、支援ツールの構築や政策提言につながっていくことを期待したい。

報告者(所属):黒川基裕(高崎経済大学)


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