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NL36巻2号 [2025.08]

第26回春季大会報告:一般口頭発表-J

一般口頭発表

J1:制約下の選択:インフラ整備、投資と資源配分の最適化

  • 開催日時:6月21日9:00 - 11:00
  • 聴講人数:約35名
  • 座長坂田裕輔(近畿大学)
  • コメンテーター・討論者徳永達⼰(拓殖大学)

【第一発表】Operational Efficiency of Vietnamese Banks Before, During, and After the Pandemic: A Two-Stage DEA Approach with Directional Distance Function

発表者

  • Ton Anh Pham
  • 片岡光彦

コメント・応答

DDFを用いた二段階DEAの利用は銀行の操業の実態にあった効率性を推定することが可能と思われ、非常に有用な手法であると考える。また、ブートストラップ法を用いて推定の安定性を検証している点も少サンプルによる推計のバイアスを縮小するうえで有効である。

銀行の非効率性として不良債権額を導入している点は理解できるが、コロナ禍で融資先を支えるという使命も銀行にはあると考える。今後より長期のサンプルを取得して、推定を実施することで、不良債権処理については、銀行の特性による違いがはっきりとしてくるかもしれない。

【第二発表】開発途上国における上水供給と汚水処理施設整備の最適投資手法に関する研究

発表者

  • 富原崇之
  • 北脇秀敏
  • 荒巻俊

コメント・応答

資金が限られる状況下でフィリピンの上下水道システムの最適な投資配分を環境負荷等の観点から分析した。インフラ投資を進める際に、様々な諸条件/前提を変化させることにより、賢い投資方策を判断するうえで明快なで分かり易いモデル/アプローチの事例を示している。EBPMなどの観点からも事業評価に向けた重要な研究である。

上水の供給とそれに伴う汚水の処理といった様々な技術および財源などの要因が、いわばトレードオフの状態で絡み合うなど、適切な技術手法の選択および投資方策のあり方を考えるうえで実務的であり、有益である。

配管の耐久性、維持管理について、上下水道の配管作業を一斉実施すると、更新時期の問題がでるのではないか?という質問に対しては、費用面の問題は生じない旨の回答があった。

【第三発表】Improvement of the Baruni Landfill through the Application of Semi-Aerobic Landfill in Papua New Guinea

発表者

  • Walter Greamah AUKLEYA,
  • Hidetoshi KITAWAKI

コメント・応答

日本であまり情報のないパプアニューギニアの埋立処分場に関するケーススタディは貴重な情報である。当該処分場の調査により、(1)不十分な施設(2)雨量推定の甘さ(3)オペレーションの不備が明らかになっている。また、排水池に流れ込む水量のコントロール、排水処理設備の整備という2つのアプローチを提示して、現実的な改善に向けた提案を行っている。

提示された課題は、日本の場合事前に想定できる問題に思える。施設の整備状況・管理体制はパプアニューギニアの他の処分場と比較したばあいにどう評価できるのか?という質問に対して、パプアニューギニアには十分に整備された処分場がないため、当該処分場のパフォーマンスを比較することはできないとの回答であった。

国内で先行事例・比較対象がない中での調査・評価を実施し提言をうまくまとめられていた。

【第四発表】Review of Quality Control Management Practices on Road Construction Projects in Kenya

発表者

  • Wendy Awuor Aduma
  • 松丸亮

コメント・応答

ケニヤの道路整備に対して人的要因が与える影響について分析した。研究は、道路行政に関わる人々に対する構造化インタビュー調査と既存文書の精査からなる。特に構造化インタビューは100を超えるサンプルであり、貴重な資料と評価できる。本研究はケニヤ以外の道路整備が不十分でないアフリカ地域にも適用できるテーマであり、有用性は高い。

 ケニヤの道路は建設は進んでいるものの、不十分な施工やメンテナンス不足により、当初の機能を発揮できない場所が散見される。このような問題について、単に行政の責任と指摘するのではなく、道路行政に限界があることを指摘し、具体的に分析を行っている。

 調査の結果からは、不十分な研修・監視体制、予算不足、先進事例に対する情報不足が主要な問題として挙げられている。新技術を用いたモニタリング体制の構築などについても提言されていた。

総括

途上国のインフラ整備を中心にしたセッションであった。いずれの研究も現地と深いコネクションがなければ入手しにくいデータを用いて分析を行っている。途上国開発においては、基本となる社会意識・技術状況が日本とは大きく異なることを痛感した。開発の対象となる国の事情を意識した適正技術の重要性を改めて実感した。

特に第三報告と第四報告は、現地調査を含む調査により、貴重な一次データを収集し、提供してくれている。

 第1報告については、コロナの影響を分析したものであるが、今後、コロナ以降のデータが蓄積するにつれて、分野は異なるものの類似の問題意識の研究はふえると予想される。その意味で、今後のベンチマークとなりうる。

 第2報告は統計データを用いたシミュレーション分析であり、データの制約が常に想起される途上国についてもこれだけの研究ができるということを示したという意味ででも意義深い。

報告者(所属):坂田裕輔(近畿大学)


J2:開発援助の政治性:ドナーの論理と受け手の応答からの再考

  • 開催日時:6月21日11:10-13:10
  • 聴講人数:約20名
  • 座長稲田十一(専修大学)
  • コメンテーター・討論者:片柳真理(広島大学)、稲田十一(専修大学)、小林誉明(横浜国⽴⼤学)

【第一発表】アメリカ帝国主義への抵抗と反平和部隊運動

発表者

  • 河内久実子(横浜国⽴⼤学)

コメント・応答

本報告は、1960年代を中心に、米国の政府系ボランティア組織である平和部隊(US Peace Corps)がホスト国(任国)において米国帝国主義のシンボルとされ標的となった事象に着目したもの。片柳会員から、平和部隊は具体的にどのような活動をおこない、どのような成果があったのか、また、本事例は今回取り上げたラテンアメリカ地域に特殊なものか、より一般的に言えることなのか、等の質問・コメントがあった。

【第二発表】ドナー・モデルとレシピエント・モデルが整合しているか?〜日本、アメリカ、中国のフィリピンに対する開発協力を事例として検討する〜

発表者

  • 石 暁宇(中国農業大学)

コメント・応答

本報告は、「DモデルとRモデルとの間にどれほどの整合性が存在しているか?」というリサーチクエスチョンを提出し、この問いを答えるために、2000年頃以降のフィリピン、日本、アメリカ、中国の国家開発(援助)計画を検討し、より具体的には「ガバナンス改革」「経済成長」などの視点から、RモデルとDモデルの整合性を検討したもの。討論者の稲田会員より、支援国側(D)の支援方針と支援される側(R)の開発計画の重点が全く異なることはなく、R側の開発計画のうちのある特定の分野にD側が重点を置くということは普通のことではないか,米・日・中のガバナンスや経済開発に関する考え方・政策が異なるのは自然なことで、それぞれのドナーの得意分野の違いであって、どちらも比の開発ニーズの一部ではないか。等のコメントがあった。

【第三発表】拡大期の新興ドナー-いかなるロジックで援助を拡大するのか

発表者

  • 近藤久洋(埼玉大学)

コメント・応答

本報告は「新興ドナーが援助を拡大する時期にいかなるロジックで正当化してきたか」という問いを比較分析するもので、韓国・台湾・南アフリカ・タイ・湾岸ドナー・トルコなどの新興ドナーのそれぞれを、時代毎の環境変化と連動させながら具体的に説明した。討論者の小林会員からは、それぞれの新興ドナーの援助の意図についての質問があったほか、全体としての共通性や含意のついてのコメントがあった。

【第四発表】Follow the Rice: The Impact of the Belt and Road Initiative on Pakistan and Cambodia’s Rice Industries

発表者

  • Toufic SARIEDDINE

コメント・応答

本報告は、カンボジアとパキスタンという中国の一帯一路政策の影響を強く受けている国の農業:特に米の生産や中国との輸出入の動向などについてろんじたもの。討論者の小林会員からは、全体として分析がマクロな経済データに依存しており、よいミクロな具体的エビデンスに欠けるのではないか、分析枠組みとして世界システム論を持ち出しているが、それをもってくる論理がよくわからない、等のコメントがあった。

総括

2時間のセッションに四つの報告であったため、1報告に付き30分の持ち時間で報告・コメント進めたが、フロアからの質問時間を十分にとることができなかった。また、各報告のテーマはそれぞれに異なる上、各報告とも多くの論点を含んでおり、議論を十分に行うことができたとは言い難い。運営上は1セッション3名の報告が限度ではないだろうか。

報告者(所属):稲田十一(専修大学)


J3:不確かさと共に生きる:フィールドから考える希望・倫理・連帯

  • 開催日時:6月21日14:10 - 16:10
  • 聴講人数:約20名
  • 座長:山﨑瑛莉
  • コメンテーター・討論者:林玲子、山﨑瑛莉

【第一発表】移住労働者の手数料削減オプションと政策提言 ―移民受入国マレーシアと日本の取組比較から―

発表者

  • 野田 さえ子(日本福祉大学/人の森)
  • Low Choo Chin(マレーシア科学大学)
  • 江場日菜子(国際協力機構(マレーシア))

【第二発表】開発研究における研究倫理

発表者

  • 下田 恭美 (早稲田大学)

【第三発表】Well-Being調査から見るミャンマー国民の声

発表者

  • 吉田鈴香 (千葉大学大学院博士後期課程)

【第四発表】Practices of Citizenship Education in Madagascar: Exploring Living Together in Multi-ethnic University Dormitoriesies

発表者

  • Andriamanasina Rojoniaina RASOLONAIVO (Osaka University)


第26回春季大会報告ページ

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