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NL34巻1号 [2023.02]

第33回全国大会セッション報告(ラウンドテーブル)

ラウンドテーブル

C-1.授業という開発実践
ー わたしたちはどんな「人材」を「育成」するのか

  • 2022年12月3日(土曜)09:45 ー 11:45
  • 企画責任者:池見 真由(札幌国際大学)
  • 討論者:

発表者

  • 大山 貴稔(九州工業大学)
  • 松本 悟(法政大学)
  • 栗田 匡相(関西学院大学)
  • 汪 牧耘(東京大学)

(報告:池見 真由)


C-2.Adaptive Peacebuilding: A New Approach to Sustaining Peace in the 21st Century

適応的平和構築:21世紀における持続的な平和への新しいアプローチ

  • 2022年12月3日(土曜)09:45 ー 11:45
  • 企画責任者:伏見勝利(JICA緒方研究所)

発表者

  1. 武藤亜子(JICA緒方研究所)
  2. 立山良司(防衛大学校名誉教授)
  3. 田中(坂部)有佳子(一橋大学森有礼高等教育国際流動化機構グローバル・オンライン教育センター)
  4. ルイ・サライヴァ(JICA緒方研究所)

本ラウンドテーブルは、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討」の最終成果である学術書籍”Adaptive Peacebuilding: A New Approach to Sustaining Peace in the 21st Century”の発刊前に、研究成果の一部を発表したものである。

ノルウェー国際問題研究所のデ・コニング博士が主導する概念である適応的平和構築とは、紛争の影響を受けた国の内部で、地元が主導する平和構築を推進するアプローチである。平和構築に関わる外部者は、人々自らが平和を維持するための社会全体のシステムを再構築するプロセスを、促進することが推奨される。ラウンドテーブルでは、次の適応的平和構築の事例を紹介した。

  1. シリア紛争にて、市民が紛争後の復興計画を作成したり国連主導の調停に関わったりした事例(武藤)
  2. パレスチナで、現地の人々との幅広い交流や協力関係を通じ、地元に配慮した治安維持に貢献したヘブロン国際監視団の事例(立山)
  3. 紛争後の東ティモールの「村(スコ)」という場が、退役軍人と人々の間の緊張緩和に貢献した事例(田中(坂部))
  4. モザンビーク紛争に際し、外部ではなく現地の人々が主導した平和構築の事例(サライヴァ)

適応的平和構築が紛争終結や紛争後の平和の維持に大きく貢献していることや、紛争が続く場合でも、紛争の負の影響の軽減や市民ネットワークの構築に有意義な貢献をしていることが明らかになった。窪田、伏見が討論者を務め、平和構築の多様な道筋、また現地の主体や社会経済的な文脈を考慮に入れる必要性を明らかにした研究成果には、多くの関心が寄せられた。

(報告:伏見勝利)


C-3.国際教育開発における専門知
ー実践の経験値と研究の専門性の架橋を中心にー

  • 2022年12月3日(土曜)12:50 ー 14:50
  • 企画責任者:川口 純(筑波大学)
  • 司会:坂田のぞみ会員(広島大学)

本セッションは、国際教育開発の研究と実践の架橋をテーマに開催された。背景には、本分野において実践と研究が十分に架橋されていないとの問題意識があった。従来、研究者から実践家に対しては、「実証的な研究成果を活かした実践になっているのか」、「教育の専門性を持たない専門家が多く、国際協力の専門性の方が教育の専門性よりも優先されてきたのではないか」などの指摘がなされてきた。

また、実践家から研究者に対しては、「日本の教育開発研究者は何をしているのか分からない」、「日本から国際潮流を作ることはあるのか」といった批判がなされてきた。

この様な相互の批判を踏まえて、本セッションでは若手研究者を中心に国際教育開発の研究と実践の架橋について議論が展開された。企画者は川口純会員(筑波大学)、登壇者は 荻巣崇世会員(上智大学)、橋本憲幸会員(山梨県立大学)、非会員の坂口真康氏(兵庫教育大学)と関口洋平氏(畿央大学)の4名で、司会は坂田のぞみ会員(広島大学)が務めた。

その他、10名程の参加者があり、幅広い角度から闊達な議論が展開された。その中で架橋の質を問う必要性や架橋の目的と方向性についてとりわけ活発に意見が交わされた。また、研究の枠組みを設定するにあたり、実践と研究が置かれてきた時代状況の違いを踏まえながら、個人としての架橋と総体としての架橋のずれに関する丁寧な議論の必要性への言及もあった。

本分野においては、以前より個人としては実践と研究の架橋が成されていたが、総体としては徐々に希薄化している状況が問題として認識され、実践の経験値の蓄積に対し研究の専門知が果たしうる役割について今後も議論を継続することが重要であるという結論が導かれた。

具体的な今後の研究の方向性としては、本研究自体に実践家を巻き込みつつ、事実(データ)に基づいたより実証的な研究を展開する必要性が確認された。

(報告:川口 純)


C-4.倫理理的食農システムの構築に向けて:
アグロエコロジーの観点から

「倫理的食農システムと農村発展」研究部会

  • 2022年12月3日(土曜)12:50 ー 14:50
  • 企画責任者:池上甲一(近畿大学名誉教授)
  • 討論者:加藤(山内)珠比(京都大学)、妹尾裕彦(千葉大学)

本ラウンドテーブル(RT)は「倫理的食農システムと農村発展」研究部会の成果を議論する場として代表の池上が企画した。本RTの意図は、現行の食農システムの抱える諸矛盾を乗り越えるために、アグロエコロジーの観点から倫理的食農システムの構築可能性を論じることだった。

食農システムを対象とする以上、資材、農業生産、流通、消費というそれぞれの段階が社会的・環境的・経済的公正をおもな要素とする倫理性とどう関連しているのかが主要な論点となる。本RTではこうした趣旨を説明する座長解題と食農システムの各段階に対応する4報告が行われた。

第1報告・西川芳昭(龍谷大学)「アグロエコロジー研究から見たタネをめぐる主体者の多様性」は、最も基本的な資材である種子の参加型開発を可能にする農業研究のあり方を議論した。

第2報告・受田宏之(東京大学)「ミルパ、有機市、農民学校:メキシコにおけるアグロエコロジーの実践と課題」は、変革の主体やメカニズムと併せ、政治との関係を焦点とした。

第3報告・牧田りえ(学習院大学)「有機とローカルはなぜ接近するのか」は、原理的には異なる2つの動きが重なり合う9つの要因を文献研究から解明した。

第4報告・坂田裕輔(近畿大学)「生産過程の倫理性に対する消費者の関心」は、支払意思額に基づく分析結果から、消費者は商品のこだわりを意識して選択を行うが、一定の社会階層に対するエシカルマーケティングは成立しないと結論づけた。

討論者の加藤(山内)珠比(京都大学)は第1報告に対して、在来種による人口増への対処可能性と農民による種子選抜の可能性が疑問として提示された。また第2報告について「戦線の拡大」に伴う農民の異質性増大と「集合的な理想」の関連如何を問うた。

同じく討論者の妹尾裕彦(千葉大学)は第3報告に対して、アグロエコロジーの観点からはローカルの重要性がポイントだとコメントした。第4報告については解析を前提とした改善方向についての示唆があった。最後にRT全体にかかわる論点としてアグロエコロジーを拡げる(べき)範域と有機農業への転換による食料確保への懸念への対応の必要性が提起された。

(報告:池上甲一)


C-5.日本型援助理念と政策を問い直す

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 佐藤仁(東京大学)

本ラウンドテーブルではODAにかかわる理念、原則、政策手段についての3つの視点から、日本に特有の援助理念の再検討を行った。具体的には、自助努力支援(マエムラ会員/東京大学)、要請主義(佐藤会員/東京大学)、開発輸入(キム会員/韓国・西江大学)が報告を行い、これに志賀裕朗会員(横浜国立大学)が討論の口火を切る形でセッションを運営した。

マエムラ会員は、OECD-DACの議事録分析などを基礎にして、自助努力支援の発想が欧米から斡旋された考え方である可能性が高いことを資料に基づいて提示し、自助努力支援がいつの間にか「国産化」した過程を跡付けた。

佐藤会員は、相手国からの要請という援助プロセスにおける当たり前の手続きが、日本のODAの原則になった経緯を戦後賠償の手続き論にたどって論じた。

最後に、キム会員が「開発輸入」という日本独特の援助方式を議題にとりあげ、この方式の「もの珍しさ」が外国人の研究者に発見された点や、中国が同じ方式で援助供与を行うようになったことなど、日本式の政策手段が諸外国に波及した事例を紹介した。

これらの3報告に対して、討論者の志賀会員からは日本の援助が欧米の aid の理念に翻弄されてきた歴史があったのではないかという興味深い指摘があった。欧米の aid はキリスト教の教えに共鳴する「施し」のニュアンスがあり、それが民間主導でおこなわれた経済協力とは相いれなかった可能性の指摘である。

日本は賠償に始まる独自の論理と手続きを構築した一方で、DACドナーとしてaid コミュニティーに理解を得る形で援助理念を形成せざるをえなくなった。日本型援助理念とは、援助の定義をめぐる西欧と自国の論理の板挟みになった結果として生み出された産物といえるかもしれない。フロアからは国民の援助理念の受け入れをどう考えるか、現場での援助実践と理念の関係などについて鋭い質問が相次ぎ、議論は大いに盛り上がった。参加者は現地とオンラインを合わせて30名程度であった。

(報告:佐藤仁)


C-6.地域の課題解決における国際協力人材の役割

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 企画責任者:矢向禎人(JICA)
  • 司会:河野敬子(一般社団法人海外コンサルタンツ協会:ECFA)
  • 討論者:岸磨貴子(明治大学)室岡直道(JICA)

発表者

  • 大下凪歩(下関市立大学)
  • 金崎 真衣(環太平洋大学)
  • 井川真理子(株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング)
  • 永田友和(高山市海外戦略課)
  • 塗木陽平(JICA)
  • 荻野光司(JICA)

実務者からの情報発信強化及び、研究者との交流によるODAの質的改善を目的としたECFAとJICA共同セッションは2018年より開始し、今年度で5年目を迎えた。

本ラウンドテーブルでは、(1) JICA中国主催の地域の多文化共生の課題に大学生等が取り組む「因島フィールドワーク合宿(学生主体で企画を立案。外国人材を多く受け入れている因島にて外国人材と地元の方との結びつき、異文化理解の促進に向けた取り組みを試行)」および、(2)「ルアンパバ-ン世界遺産の持続可能な管理保全能力向上プロジェクト(世界遺産の管理・保全のための協力を岐阜県高山市の協力を得て実施)」を事例とし、国際協力人材と日本の地域との関り方、地域の課題解決に果たしうる役割について議論を行った。

両事例は取り組み内容や目指す成果は異なるが、異文化理解の機会創出という共通性があり、国際協力を活用した異文化理解・多文化共生を育んでいく場の提供の重要性と可能性が見受けられた。一方、両事例による機会創出は時限的で連続性や持続性に留意すべきとの指摘もあり、このような機会をどのように繋げていくかは今後の検討課題である。

また、両事例に留まらず、各参加者の経験に基づく異文化理解・多文化共生の難しさについても議論が行われた。議論において、国際協力人材が持つ国内外の経験、特に多様な国や人々との交流経験は、「共生」を具体化し進めるための場や機会を提供に活かせるとともに、共に悩むことが出来るという点も国際協力人材の優位性や役割との意見が出された。

さらに、ラウンドテーブル全体の議論を振り返る中で国際協力という言葉についてもコメントがあり、求められる役割や環境を踏まえ、国際協力は「変化し続けるAgency」として捉え進めていくことの重要性についても意見交換がなされ、今後の国際協力を検討する上で有益なセッションとなった。

最後に本ラウンドテーブルの開催にご参加、ご支援頂いた皆様にお礼を申し上げます。

(報告:矢向禎人)


C-7.食のレジリエンスとSDGs

第4回「開発のレジリエンスとSDGs」研究部会ラウンドテーブル

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30(オンライン発表)
  • 企画責任者:関谷雄一(東京大学)
  • 討論者:野田真里(茨城大学)

発表者

  1. 基調講演:菊地良一(和法薬膳研究所) 
  2. 中西徹(東京大学)
  3. 西川芳昭(龍谷大学)
  4. 安藤由香里(大阪大学)

開発のレジリエンスとSDGs研究部会の第4 回目のラウンドテーブルは、食の問題を取り上げた。SDGs17 の目標の1つが2030年までに「飢餓をゼロに」することであるが、昨今の世界情勢、例えば新型コロナウィルスのパンデミックやロシアのウクライナ侵攻に伴う食糧供給危機や物価高騰などの諸問題を踏まえ改めて食のレジリエンスとSDGs を様々な角度から検討してみた。

基調講演として、山形県高畠町の和法薬膳研究所主宰の菊地良一氏から、主としてミネラル濃度の高い食品の重要性と普及に関する実践と重要性に関する報告を頂いた後、中西徹氏からは国際社会における、グローバル金融資本がもたらす食の格差拡大を是正するための有機農業の意義に関する報告がなされた。

次いで西川芳昭会員からは、農業の産業化と近代化による種子システムの脆弱化に関して現状に関する具体的な説明とともにその持続性を保つために必要な管理の在り方について報告がなされた。さらに、安藤由香里氏からはフードロスをめぐり、フランスおよびイタリアで適用されている社会連帯経済関連法・食品廃棄禁止法の効力、日本への適用可能性について報告がなされた。

討論者の野田真里会員からは各報告者に対し、それぞれのテーマに関して新型コロナ禍との関係やポスト/ウィズコロナを見据えた展望について問いがなされ、各報告者による応答があった。課題として、複合的なグローバル危機と食のレジリエンスに関し、さらに各テーマに関する追究が必要だという認識が共有された。

(報告:関谷雄一)


C-8.「一般化」の多様性 ー事例を巡る対話を通してー

「若手による開発研究」研究部会セッション

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 企画責任者・司会:松原優華(東京外国語大学大学院)

発表者

  • 松原優華(東京外国語大学大学院)
  • 神正光
  • 山田翔太(立教大学/日本学術振興会特別研究員PD)
  • 吉田篤史(京都大学大学院)
  • 森泰紀(同志社大学大学院)
  • 須山聡也(東京大学大学院)

本ラウンドテーブルは、「若手による開発研究」部会による企画セッションである。本セッションでは、研究における「一般化」への向き合い方という多くの研究者が抱える問題をテーマとし、ディシプリンや研究者個人間での「一般化」の多様性を捉え直し、その中で研究の価値を再考する機会の提供を目的とした。

本セッションは発表と討論の2部で構成された。前半は、専門分野、対象地域が異なる6人の若手研究者が、(1)それぞれが捉える「一般化」、(2)「普遍性の追求-地域の固有性の追求×個人-世界の一般化のレベル感」から成る4象限で自身の研究スタンスを提示した。これにより、研究者個人間の「一般化」の捉え方の多様性、それゆえの研究スタンスの多様性を示した。

後半では(1)“良い”「一般化」とは何か、(2)「一般化」の捉え方が異なる中でどのように研究の価値を見出していくのか、15人ほどの参加者による討論を行った。

討論では、フロアからの「誰に向けての、何のための「一般化」なのか」との指摘から、「一般化」の意義について議論が展開された。その中で、事例から導出できる特殊性を広い文脈に位置づけることが他地域や他分野へと議論を広げる可能性が指摘された。その上で、この作業こそ研究者がすべきことなのではないのかという意見もでた。

また、「どのように「一般化」するのか」についても活発な議論が行われた。「一般化」の局地である「普遍性の追求」については、事例の特殊性を追及した結果として、偶発的に「普遍性」に近いものが発見される可能性に言及された。この指摘は、事例から意識的に「一般化」する方向が強調されてきたこれまでの研究法の議論とは異なる新たな事例と「一般化」の関係の捉え方といえよう。

本セッションでは、これまで曖昧なままにされてきた「一般化」の捉えにくさを正面から議論したことで、研究の意義を再考する機会となった。本セッションを皮切りに、「一般化」の考え方の違いから時に生じてきた分野、研究者間の対立を乗り越え、「一般化」の捉え方の議論が活発化することを望む。

(報告:松原優華)


C-9.開発における「ビジネス実践と研究」の連携可能性

  • 2022年12月4日(日曜)09:30 ー 11:30
  • 企画責任者:小林 誉明(横浜国立大学)
  • 狩野 剛、功能 聡子、佐藤 峰(横浜国立大学)浜名 弘明

(報告:小林 誉明)


C-10.大学におけるアフガニスタン、ウクライナからの避難民受入れ支援と課題

国際開発関係大学院 研究科長会議 企画ラウンドテーブル

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:岡田 亜弥(名古屋大学)
  • 討論者:

発表者

  • 神馬 征峰(東京大学)
  • 小正 裕佳子(独協医科大学)
  • 小林 誉明(横浜国立大学)
  • 赤井 伸郎(大阪大学)
  • 金子 慎治(広島大学)
  • 市橋 勝(広島大学)
  • 木島 陽子(政策研究大学院大学)
  • 北 潔(長崎大学)

(報告:岡田 亜弥)


C-11.人口減少へ向かう人類社会とサステナビリティ研究

  • 2022年12月4日(日曜)12:45 ー 14:45
  • 司会:松岡俊二(早稲田大学)
  • 討論者:佐藤寛(アジア経済研究所)、石井雅章(神田外語大学)、島田剛(明治大学)

ラウンドテーブル(RT)「人口減少へ向かう人類社会とサステナビリティ研究」は、司会:松岡俊二(早稲田大学)、話題提供者:浜島直子(千葉商科大学、環境省)、工藤尚悟(国際教養大学)、討論者:佐藤寛(アジア経済研究所)、石井雅章(神田外語大学)、島田剛(明治大学)という構成で、2022年12月4日(日)12:45-14:45、明治大学リバティタワー1F1012教室にて開催した。参加者は20名程度であった。

日本の人口は2008年の1億2,808万人がピークで、その後は減少プロセスに入り、コロナ禍もあって、 2021年10月1日には、前年比64.4万人減となった。64.4万人という減少数は、鳥取県人口(55万人)を上回り、ほぼ島根県人口(66万人)に匹敵する規模となっている。

少子高齢化を特徴とする人口減少は日本だけではなく、中国や韓国などの東アジア諸国でも起きている。2022年7月に発表された『国連人口推計』は、中国の人口は2021年に14億2000万人でピークを迎え、2022年からは人口減少プロセスへ入り、2052年に13億人を割り込み、半世紀後の2078年には10億人を下回ると推定されている。また韓国は、2021年に合計特殊出生率が世界最低の0.81となり、人口減少が深刻化している。

人口減少問題は日本や東アジア地域にみられる個別的あるいは特殊的な社会的課題ではない。いま起きている人口減少は人類史的現象であり、人類史の大きな転換点であることが、近年の世界の人口研究によって明確になってきた。

ワシントン大学の研究グループは、2020年に医学雑誌Lancetに発表した論文で、2064年に世界人口は97億3千万人でピークを迎え、その後は減少へ転換するとした。ホモ・サピエンス登場から30万年、永く続いてきた人類の膨張が終わりにさしかかっている。人口増加を前提につくられた経済社会システムの限界が明らかになり、新たな社会のデザインが問われている。

本RTでは、人類社会が人口減少・縮小社会へ転換することが、サステナビリティ研究や国際開発協力にとって何を意味し、どのような転換への「備え」が必要なのかを論じた。特に、途上国の開発問題や気候変動などの長期的課題への影響や日本の地域社会の持続性について議論した。

(報告:松岡俊二)


C-12.開発経験は共有可能か
——日中韓にみる「セマウル運動」を事例に

「ODAの歴史と未来」研究部会

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:汪牧耘(東京大学)

本企画は「ODAの歴史と未来」研究部会の一環として、開発・援助研究の暗黙的な前提である「経験共有の可能性」を問い直すものである。具体的には、1970年代に始まった「セマウル運動」の経験がどのように日中韓で論じられてきたかを検討し、「経験共有の不可能性」を踏まえた知識生産のあり方を考察した。

当日、発表者の3人(チョン・ヒョミン氏・近江加奈子氏・汪牧耘氏)は、「セマウル運動」の展開とそれをめぐる日中韓における議論の系譜を共有し、開発経験の価値化・知識化とその共有は常に一種の政治性が伴うことを再確認した。

援助供与国が自国の開発経験を体系的にまとめる過程で起きる経験の取捨選択を批判・評価するのではなく、さらに「自らの経験をどう共有するか」を思考するのみならず、「自らの経験に対する他の見方をどう発掘するか」という問いに学問的な光を与えることが重要ではないかと提案した。

討論者(キム・ソヤン氏・志賀裕朗氏)のコメントは議論をさらに前進させた。特に、「知識実践」と「知識共有」の違い、外部者の眼差しと経験の相互作用や、欧米的な開発知の「匿名性」を踏まえたアジア・アフリカという枠の有効性などといった論点は、本企画の思考を精緻化していくための足場となりうる。

ディスカッションにおいて、松本悟氏、佐藤仁氏、柳原透氏から貴重なコメントを頂いた。特に、経験を(「外部」も含めて多様な視点で」)蓄積し、そして「経験を持つ側」と「その経験を欲しがる側」を結ぶ必要性を示した実践的な視点は示唆に富む。

また、経験共有の役割が“inspiration”を通して果す可能性に関する指摘も目に鱗であった。今後は、経験の受け止め方をより多くの事例から検討し、開発を推し進めてきた人びとの知性と感情を理解するための観測点となる研究へと、本企画を発展していきたい。

(報告:汪牧耘)


C-13.社会的連帯経済(SSE)の国際動向と日本の動き

「社会的連帯経済」研究部会

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:古沢広祐(國學院大學)

本RTは、前々日に開催された公開プレ企画の内容を共有するかたちで進められた。報告3名、(1)「ILO総会における社会的連帯経済の動向について」(高崎真一・ILO駐日代表)、(2)「社会的連帯経済の国内動向とILOとの連携について」(伊丹謙太郎・法政大学)、(3)「国際動向との関連で研究部会の研究会取り組み(中間総括)」(古沢広祐・國學院大學)、討論者(池上甲一・近畿大学)とともに、SSEの現状と今後について議論した。

ここでは、プレ企画内容について中心的に紹介したい。 「SSEの役割と可能性を議論」公開イベント概要が、ILO駐日事務所ニュース記事(2023/01/04)でよくまとまっているので以下紹介する。

・・・・「社会的連帯経済(SSE)と国際労働機関(ILO)の最近の動き」が12月2日にあり、ILO企業局プログラム・マネジャーのシメル・エシムが基調報告を行いました。学界や協同組合・政府の関係者、労働組合などからおよそ100人が参加しました。

イベントは、貧困、危機、不平等などの世界的な課題に取り組む手段として、SSEが世界で注目を集める中、日本でさらにSSEを認知してもらい、その可能性を話し合うために開催されました。

基調報告に立ったエシムは、2022年6月の第110回ILO総会で採択されたディーセント・ワークとSSEに関する決議 を紹介しつつ、アジア太平洋地域にはSSEに関する法的枠組みがほとんどないものの、SSEの価値や原則は各地域の文化に根差していると指摘。コミュニティー型の自助グループや協同組合、アソシエーション、相互扶助組織など同地域のSSEに触れつつ、過去20年間にインド、インドネシア、日本、タイ、韓国などで発展してきた社会的企業の役割についても強調しました。  

連合の西野ゆかり氏は、フリーランスや配達などを単発で請け負う「ギグ・ワーカー」、個人事業主を含む全ての労働者を支援する連合の取り組み「Wor-Q(ワーク)」を紹介。団体生命共済や総合医療共済など共済制度を通じた支援について説明しました。

ILO駐日代表の高﨑真一は、「SSEが目指す『社会正義の実現』はILOの設立理念に合致する」と話し、駐日事務所の長年の取り組みとして、アフリカの協同組合のリーダーを日本に招へいする研修プログラム を紹介しました。今回のイベントは12月3日、4日に開かれた国際開発学会第33回全国大会の一環で、オンラインと会場参加を組み合わせて開催されました。・・・・

https://www.ilo.org/tokyo/lang–ja/index.htm

関連情報

(報告:古沢広祐)


C-14.水産協力におけるブルーエコノミーの有効性

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45
  • 企画責任者:河野敬子(一般社団法人海外コンサルタンツ協会:ECFA)
  • 司会:本田勝(JICA)
  • 討論者:松丸亮(東洋大学)

発表者

  • 三国成晃(JICA) 
  • 世古明也(アイ・シー・ネット株式会社)
  • 寺島裕晃(アイ・シー・ネット株式会社) 
  • 馬場治(東京海洋大学)

実務者からの情報発信強化及び、研究者との交流によるODAの質的改善を目的としたECFAとJICA共同セッションは2018年より開始し5年目を迎えた。

三国氏は「ブルーエコノミーとその推進に向けたJICAの戦略」について発表した。JICAでは、グローバルアジェンダの協力方針の一つに水産資源/沿岸生態系、漁村/沿岸コミュニティ及び地場産業のそれぞれの便益を同時に創出するコベネフィット型の協力アプローチである「島嶼国の水産ブルーエコノミー振興」を掲げている。

これまでのJICA技術協力プロジェクト、パイロット活動、本邦研修などの経験を「ツールボックス」に入れて共有することでより効率的・効果的な支援ができるのではないかとの提案があった。

世古氏は「バヌアツ国豊かな前浜プロジェクト」について発表した。資源管理方策とコミュニティ支援方策を連動させる連結方策を含めた総合的なアプローチにより、活動のバランスをとることで、住民による自主的な資源管理と経済活動の多様化、それを支援する行政を目指した。

寺島氏は、「カリブ島嶼国での重要魚介類のナーサリーグラウンド造成と観光サイトとしての利用」について発表した。重要水産物あるロブスターを安価に増殖させ且つ観光資源にも貢献する試行が行われているが、コミュニティ組織強化や安価な人工魚礁の制作、観光業との連携など課題が山積している。

馬場氏は、日本の取組みとして「水産業普及指導員とその役割」について発表した。指導員制度は、直接漁業現場に出向いて漁業者と対話をすることで現場の課題を行政ルートでくみ上げる役割を担っており、内発的優良事例の発掘と普及に貢献している。開発援助でも、そのような事例を探し出す能力・行政システムとして本制度の移転に意義があるのではないかと紹介した。

ラウンドテーブルでは、知見共有のための「ツールボックス」等のアイデアや、現地の方にとってのプロジェクト参加のインセンティブ作りや巻き込み方法等コミュニティ開発に関わること、魚礁の設置や漁船が増えることのデメリットといった環境保全に関わること等、幅広いテーマでのディスカッションを行った。

(報告:河野敬子)


C-15.JICA国際協力事業における評価の枠組みとプロセスへの着目について

  • 2022年12月4日(日曜) 12:45 ー 14:45 1114(オンライン発表)
  • 企画責任者/司会:佐藤真司(国際協力機構)
  • 討論者:伊藤晋(新潟県立大学)

発表題目と発表者

  1. 「JICA事業評価の概況と最新課題~プロセスの視点を中心に~」
    古田成樹(国際協力機構)
  2. 「新事業マネジメント方式(クラスター事業戦略)の導入及び評価の枠組み検討について」
    丸山真司・山岡麻美(国際協力機構)
  3. 「ザンビア国現職教員研修制度支援を通じたキャパシティ・ディベロップメントにかかるプロセスの分析」
    伊藤治夫(株式会社アイコンズ)・山口恵里佳(国際協力機構)

本セッションでは、JICA国際協力事業評価における評価の今後の方向性及びあるべき姿に関する議論を深めるため、プロセスへの着目をキーワードに3つのテーマについて5名の報告者からの話題提供を受け、討論者・参加者を交えた議論が行われた。

冒頭、本ラウンドテーブルの企画者である佐藤より、ラウンドテーブル企画の背景、目的について説明した。最初の発表として、古田成樹氏より、JICA事業評価の昨今の取り組みを俯瞰する報告がなされた。

特にJICA事業評価基準の改訂(2021年度)に関し、新たに、事業実施中の対応過程等の視点を取り入れるなど、新規・類似案件の計画・実施に向け、より良い教訓の抽出・活用の促進に取り組んでいる状況について概観が共有された。

つづいて、丸山真司氏、山岡麻美氏より、グローバル・アジェンダ、クラスター事業戦略と呼ばれる目的・目標及び重点取組の設定を通じた包括的な事業マネジメントの最新状況と、当該戦略事業の評価手法の検討にかかる論点が報告された。

その後、伊藤治夫氏、山口恵里佳氏より、ザンビアにおける現職教員研修制度支援を通じたキャパシティ・ディベロップメントについて、DAC評価項目とは異なる視点で、事業のプロセスを当事者の語りから振り返りながら、今後の類似事業の形成・実施に向けての教訓が報告された。

報告の後、参加者からJICAにおけるインパクト評価の実施状況やクラスター事業戦略におけるシナリオのモデル化と受益国における開発計画の関係性に関する質問が寄せられ、指定討論者である新潟県立大学の伊藤晋会員からは、プロセスにも焦点を当てた評価をしていきたいとの点は評価できるとしつつ、事業評価に投入できる資源は限定的なため評価の合理化が必要だろうとのコメントがなされるなど活発な議論が展開された。

(報告:佐藤真司)


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