第24回春季大会セッション報告(プレナリー、ポスター発表)
[PL] プレナリーセッション
[PL-01] 世代間のつながりとサステイナビリティ – 何を引き継ぎ、何を見直し、次世代に何を手渡していくのか
登壇者1
工藤尚悟(国際教養大学国際教養学部グローバルスタディズ領域・准教授)
“Role of Intergenerational Ties in Sustainability: What to Sustain, What to Revise, and What to Pass Across Generations?”
登壇者2
Divine Fuh(Director of Institute of Humanities in Africa, Associate Professor at the Department of Anthropology, University of Cape Town)
“Making New Dances: Sustainability Thinking and the Opportunity for Decolonial Japanese Thought”
登壇者3
千葉加恵子(国際教養大学国際教養学部グローバルコネクティビティ領域・准教授)
“What Should We Sustain? Voices from Local Women”
登壇者4
丸山英樹(上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科・教授)
“The Role of Non-formal Education in Enhancing Sustainability”
- ファシリテーター:近江加奈子(国際基督教大学アーツ・サイエンス研究科博士課程)
セッションサマリー
1987年に持続可能な開発が提唱され、一世代ほどの時間がこの概念を軸とした開発パラダイムとして経過してきている。本セッションは、持続可能な開発概念の中心にある、世代間のつながり(intergenerational ties)に焦点を当て、開催地である秋田の風土、アフリカにおける脱植民地化の動きと日本文化、農村社会における女性の声、そしてノンフォーマル教育の枠組みにおけるサステイナビリティについて、各登壇者より報告があった。
はじめに工藤より、グローバルに語られる持続可能な開発概念において目標とされる項目がローカルの文脈で解釈されるとき、そもそも人と自然の関係性が個別の地域性に依拠しており、そのときに風土という自然感に注意を払う必要があるという問題提起をした。
その上で、先行世代から何を継承し、現行世代において何を見直し、将来世代に何を手渡していくべきなのかについて、専門や拠点とする場所の異なる3名の登壇者より報告をしてもらった。
ケープタウン大学のFuh准教授は、アフリカにおける脱植民地化の議論を日本の文脈に当てはめ、日本文化に固有な表現の中に見出しながら、サステイナビリティを批判的に検討する必要性を主張した。
特にある部族においてあらゆる種類のダンスの模倣が得意だった女性の話を紹介し、その部族において誰も彼女自身のダンスを見たものがいなかったという比喩を用いて、自らの文化に固有な言葉を用いることの重要性を挙げた。
千葉准教授は、秋田の民俗や女性の暮らしに焦点を当てた文化人類学的なフィールドワークを元に、国内地方の農山村において女性の声が如何に文化的に隠されたものとされてきたのかを示した。
伝統的な社会におけるジェンダーロールの再考を論じると同時に、先行世代から現行世代への民俗文化の継承の重要性と困難さを指摘した。
丸山教授は、教育におけるフォーマル・インフォーマル・ノンフォーマルの違いを明確にしつつ、それぞれのフォーマットの教育スタイルがどのようにサステイナビリティに貢献しうるのかについて論じた。そのなかでもノンフォーマル教育の視点からの考察を共有してもらった。
会場からは、異なる専門性を持つ研究者が協働するときに、どのように個々の持つ認識論の違いを乗り越えていくのかや、農村社会において隠された声(hidden voice)とされてしまいがちな女性の意見を拾い上げる仕組みをどのように構築しうるのか、国内大学院に固有な研究室文化における先輩と後輩の間における世代間のつながりについての指摘など、世代間とサステイナビリティに限らず、国内外の文脈を広く捉えた質問が出された。
今大会の開催地である秋田は、人口減少と高齢化が全国で最も早いペースで進んでおり、世代間のつながりを通じた資源や文化の継承が重要な課題となっており、こうしたテーマを、普段は途上国の現場を飛び回る研究者や実践者の方々と議論する機会を当地の秋田で持つことができた意味は大きい。
途上国においても出生率の低下と長寿化の傾向はすでに確認されており、人口減少と高齢化が将来的に国際協力や開発学においても重要なテーマとなると予測される。
こうした国内地方が抱える課題への解決策を見出す手続きのなかで、途上国とつながりながら論点を整理し、双方向に学び合いながら対応を模索していくような、新たな関係性の構築が示唆されるセッションとなった。
報告者:工藤尚悟(国際教養大学)
[P1] ポスター発表
[P1-01] 国際協力における社会的インパクト評価のあり方検討〜財源基盤のない組織が評価を実践するために〜
佐藤 夢乃(関西学院大学大学院)
[P1-02] 自治体ネットワークによる持続的な能力向上と技術の普及をめざす開発協力のマネジメント~「タイ国の自治体ネットワークによるコミュニティベース統合型高齢者ケア普及プロジェクト」の事例整理~
鈴木 知世(国際教養大学学部生、タイ国の自治体ネットワークによるコミュニティベース統合型高齢者ケアプロジェクトコーディネーター)、山口 佳小里(国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部主任研究官)、沖浦 文彦(東京都市大学都市生活学部教授)
[P1-03] 怒りと情熱—世界銀行内部に残された知恵—
玉村 優奈(東京大学)
[P1-04] ショックを用いる貧困表象の道徳的・政治的悪性に関する一考察:貧困表象への留意のために
木山幸輔(筑波大学)
[P1-05] 「愛知用水の久野庄太郎」の地域総合開発思想-愛知用水と愛知海道の関係性に着目して
柴田 英知(歩く仲間)
[P1-06] 開発途上国における課題解決能力向上に着目した教育支援に関する研究-ネパール公立学校の中学生を対象として-
三笘 源(九州大学大学院)
[P1-07] Exploring Teacher’ s Perception of Play-Based Learning in ECE: A Case Study of Bangladesh
Kohei UNO(Graduate School of International Cooperation Studies)
[P1-08] An Analysis of Home-based Discipline on Children’ s Foundational Learning Skills in Malawi
Chang SUN(Kobe Univ.)
[P1-09] An Analysis of the Effect of a School Violence on Learning Achievement in Primary Education in Colombia
Rika SUGIURA(Kobe University)
[P1-10] An Analysis of Community Participation and Learning Achievement: A Case of Kenyan Primary Education
Yuka FURUTANI(Kobe University)
[P1-11] Analysis of Household Educational Expenditure under Free Pre-primary Education Policy in Kenya
Ayumu YAGI(Graduate School of International Cooperation Studies, Kobe University)
[P1-12] Analysis of Short-term and Mid-term Association between Early Childhood Education and Academic Achievement in Uganda
Kaori Uchiyama(Kobe University)
[P1-13] Influence of School Autonomy on Learning Achievement in Senegal: Multilevel Analyses Using PASEC Surveys
Yudai ISHII(Kobe University)
[P1-14] タンザニアの学童の野生食物・食品群摂取と健康―中部・南東部内陸/海岸沿い3村の事例から
阪本 公美子(宇都宮大学国際学部)、人見 俊輝(宇都宮大学国際学部)
[P1-15] 里地里山の多面的な評価基準に関する一考察~中山間地で実践される維持・管理の取り組み事例を通じて~
根岸 宏旭、徳永 達己(拓殖大学)
[P1-16] 東アジアにおける環境大気モニタリングネットワークの比較評価
竹内 友規、藤江 幸一、迫田 章義(放送大学)
[P1-17] ベトナム北部・中部・南部の持続可能なライフスタイルに関する定性調査
吉田 綾(国立研究開発法人国立環境研究所)