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NL35巻2号 [2024.08]

第25回春季大会報告:一般口頭発表-D(+オンライン)

一般口頭発表

D1:持続可能性:消費者・環境配慮・エネルギー

  • 開催日時:6月15日09:30 - 11:30
  • 聴講人数:約20名
  • 座長・企画責任者:西川芳昭(龍谷大学)
  • コメンテーター・討論者:木全洋一郎(国際協力機構)、西川芳昭(龍谷大学)、楊殿閣(ソリダリダード・ジャパン)

【第一発表】「思いやり」と「思い込み」―環境配慮と組織間のギャップ比較

発表者

  • 玉村 優奈 (東京大学大学院)

コメント・応答

円借款事業における「環境社会アセスメント」「環境社会配慮事項」に関して、「《環境配慮》をめぐりどのように解釈のずれが組織・集団間で生じるか」について分析評価を報告した発表に対して、円借款事業の事業主体は相手国政府であり、各国で異なる環境社会配慮事項・アセスメント制度・方法に対してドナーとして日本の制度とコストで主体的に実施するか?相手国によるアセスメントを支援し、結果から協力事業実施を検討するか?【配慮】を検討する可能性が指摘された。

今後の議論として、必ずしも十分ではない相手国の制度・体制をどう支援していくか?(相手国の環境社会配慮の主流化へ)という問いも投げかけられた。

【第二発表】脱炭素社会における再生可能エネルギー開発の変容-風力発電事業における環境紛争と地域産業の振興を中心に-

発表者

  • 安部 雅人(東北大学)

コメント・応答

国際的に注目されている風力発電事業に関して、日本国内における風力発電事業における環境紛争と地域産業の振興について各種事例をもとに分析評価を報告した発表に対して、主要メーカーがヨーロッパ系であり、日本の地場の企業・産業へのメリットが少ないこと、住民・自治体との対話の課題、日本における代替エネルギー源として洋上風力の可能性、日本が遅れている現状と課題(陸上の問題 海上の可能性)等についてコメント・応答が行われた。

【第三発表】日本における消費者のコメ購買実態と「生き物ブランド米」に対する意識分析-「普通の生き物」ブランド米による地域農業振興と水田生態系保全の可能性-

発表者

  • Zhang Yujie
  • 池上 甲一
  • 増田 忠義(近畿大学)

コメント・応答

「コウノトリ」のような特殊な種だけでなく、「カエル」「ホタル」などの一般種も一定のラベル効果があることを評価・分析した報告に対して、支払い意志額推定が実際よりも高く出る可能性、購入実態との関係・プレミア価格の所得増加への効果・地域振興との関連をどう示すか?等に対する疑問がコメンテーターから提起され、今後さらなる分析を行う方向性が議論された。

【第四発表】「北」の倫理的消費主義に「南」の生産者はいかに対応するか:ネパールのコミュニティ森林ユーザーの事例より

発表者

  • 牧田 りえ(学習院大学)

コメント・応答

フェアトレードの実態分析から、北の倫理と南の実情の間にギャップが生じており、倫理そのものの再検討が必要であること、具体的にはEJフレームを用いた分析から対象事例では正義の欠如が示唆されたことが報告された。

コメントでは、ローカルの森林管理および自律性よりFT条件の小規模生産者組織が優先されることが明らかになった点を評価したうえで、ローカルの森林管理においてFTバリューチェーンと直接関係にないNGOの役割も精査する必要があることが指摘された。少数の受益者が補助収入減のために動員(豊富な地域資源に依存している人は実質的に排除)されている問題点が再確認された。

【第五発表】持続可能性実現のためのローカル認証の可能性と限界性:沖縄・八重山諸島のコラコラ認証

発表者

  • 斎藤 文彦(龍谷大学)

コメント・応答

八重山諸島の環境保護を目指しているローカル認証の実態を社会的連帯経済( social and solidarity economy, SSE)の視点から分析評価した報告に対して、どのように「関係性に裏打ちされた主体性の回復」への試みがあったのか?、「ローカル」への埋め込み戦略は適切だったのか?、どのような「社会的疎外」があるのか?などの疑問がコメンテーターから提起された。

現在の制度は移住者による地域振興活動の活性化であり、今後認証制度が環境保護に役立つためには、諸活動が単に量的に拡大するだけではなく、第三者認証を含む次の段階へと移行することが必要であることが提起された。

総括

セッションの総括 国際開発学会で国内事例中心のセッションが開催され、その中身がグローバルな普遍性とローカルな個別性を結ぶ内容であった。特に第3~第5報告は相互に関連しており、総合的な討論の時間がなかったことが惜しまれ、参加者間でプログラム内容が肯定的に評価されていたと考える。

報告者(所属) :西川芳昭(龍谷大学)


O:オンラインセッション

  • 開催日時:6月15日 15:00 - 17:00
  • 聴講人数:約4名
  • 座長・企画責任者:藤井広重(宇都宮大学)
  • コメンテーター・討論者:牛久晴香(北海学園大学)・関根久雄(筑波大学)

【第一発表】ガーナにおける食べ物とお金の相互扶助―中東部O 村の事例から―

発表者

  • 人見俊輝(宇都宮大学国際学部)

コメント・応答

学部生というステータスでありながら、積極的な現地での調査によって、「他者に与える/与えない」という行為が社会的な意味でどのように捉えることができるのか、興味深い主張や論点につなげている。

他方で、導き出したアウトプットに対する論拠は不十分であり、現地で調査したことが一般化を図るうえでのデータとして説得的といえるのかは疑問が残る。調査対象地域の歴史や現状について触れることも重要である。

【第二発表】ガーナ農村部学卒者の就労状況ーオンライン質問紙による追跡調査から

発表者

  • 近藤菜月(名古屋大学)

コメント・応答

ガーナの若者の実態について、キャリア形成からどのように自らを捉えているのか、アンケートや追跡調査を組み合わせながら手堅い考察が提示され、今後も、政策的な解釈に結びつけたりすることで、さらなる発展が期待される。

収集した調査結果に対し、その選択がなされた背景や報告者なりの仮説・考察についての確認が行われるとともに、アンケートという手法の特性を踏まえた検証も進めていくことの可能性についての指摘と報告者による現時点でのアイディアの共有があった。

【第三発表】 マーシャル諸島共和国における教育の質と人材開発に関する一考察

発表者

  • 川崎典子(宮崎大学)

コメント・応答

マーシャル諸島だけではなく大洋州からの人口の流出は今後も続くことが考えられるため、局地的な問題としてではなく、地域の問題として取り組むことの重要性が提起され、そのうえでマーシャルとして、どのような教育を目指し、どのような人材を育てようとしているのか考えることについての指摘があった。

また、JOCVや他国の若者ボランティアがマーシャルの教育にて活動している実態についての確認があり、コロナの影響とシニアのボランティアの実態について応答された。報告者の問題意識としてあげられた教育の受け手側の視点からさらなる研究成果の蓄積が期待される。

【第三発表】観光需要と住民生活の両立–観光需要の季節性の視点から–

発表者

  • ZHU Ningxin(立命館大学)

コメント・応答

「観光」についてどのように捉えて/定義して報告しているのか不明瞭であるため、「観光客の視線を別の対象」に逸らせることが「観光」の議論であるのか考える必要がある。その結果、提示された考察が、いわゆる当たり前の政策のようであり、そもそもなぜこれらの当たり前とも思われるアプローチが試みられてこなかったのか、報告者は明らかにしたうえで検証すべきである。この点は報告者自身が、今後の研究課題にて消費者行動や心理学からの考察を検討されている問題意識にも通ずる。

総括

セッションの総括 オンラインながら、どの報告者も熱のこもった意欲的な研究成果を披露された。他方、報告者の専門とする手法や地域などが異なる非常に多様性のあるセッションではあったが、良い意味でも悪い意味でも研究報告である以上は、「研究の質」の良し悪しが聞き手には伝わったのではないだろうか。

この点、本学会は学生の報告に対しても寛容であり、ある種の新規性を提示できればそれで良い学問領域かもしれないが、良い素材を集めても型で整理できていないとコメンテーターの負担が大きいと思われる。

しかし、本セッションのコメンテーターがかなり丁寧にかつ建設的なコメントと考えるべきポイントを整理してくださったことで、報告者にとって非常に有意義なセッションとなった。

今後は学生報告に関しては他の学会にみられるように学生部会等を作ってそちらで時間をかけて指導的議論をおこない人材育成に務めることも検討すべきであろう。

報告者(所属):藤井広重(宇都宮大学)


そのほかの座長報告(一般口頭発表)


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