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NL35巻2号 [2024.08]

第25回春季大会報告:一般口頭発表-F

一般口頭発表

F1:生活圏との接触:水・衛生・建築

  • 開催日時:6月15日 9:30 - 12:30
  • 聴講人数:約30名
  • 座長:樋口倫代(名古屋市立大学)
  • コメンテーター・討論者:樋口倫代(名古屋市立大学)・吉村輝彦(日本福祉大学)

【第一発表】ジンバブエにおける生理用品の廃棄方法をめぐる課題

発表者

  • 小塩若菜(大阪大学大学院)

コメント・応答

ジンバブエでも使い捨て生理用品が普及してきている。適切な廃棄のためには、タブー、恐れ、行動規範など文化的要因と環境への配慮のバランスが課題となることを示した。

  • 人目につかないようにしたいという点と、環境汚染をできるだけ少なく廃棄するという点では、熱効率がよい焼却処分が理想であるように思うが、そのような理解でいいか?
    →そうかもしれないが、一部の富裕層エリアを除いてごみ収集のシステムが機能しておらず、住民には認知されているが、諦められている。
  • 学校の月経についての授業で、文化的な側面も教えているのか?
    →月経のしくみなど、生物学的な知識の教授が中心となっていて、文化的な側面はほとんど教えられていない。

【第二発表】トイレの普及は乳幼児の命を救うか?:カンボジアの事例

発表者

  • 山田浩之(慶應義塾大学)

コメント・応答

トイレ利用と子どもの死亡に関連があることは知られているが、因果関係は明らかではない。また、世帯を分析単位とすると、外部性が考慮されない。国勢調査のデータを用いて、村の傾斜角度を操作変数として、村単位の分析をすることにより、トイレ利用が5歳未満児死亡率に影響があることを示した。

  • 分析の単位が村では大きすぎないか?谷があると1つの傾斜で村の実態を反映できないのではないか?
    →村は半径300mを想定していて、現地の観察との齟齬はない。カンボジアは平坦な土地柄であり、1つの村内で複数の傾斜があることは考え難い。
  • 高地に貧困世帯が多いなどはないか?
    →カンボジアはそうではない。

【第三発表】バングラデシュの政府所有地に居住する住民の水利用の変化とその要因―南西沿岸部農村を事例として

発表者

  • 山田翔太(立教大学)
  • 田中志歩(広島大学)

コメント・応答

バングラデシュのある農村を対象にした水利用に関する調査から、住民の飲料水源として、池ではなく、井戸が利用されており、水源利用の方法は、状況変化に伴って変化していく可能性を明らかにしたものである。

  • 水源利用を変えていく背景としてどのようなことがあり、どのように変えていくのか。
  • 水利用については、飲料水源としての利用以外にも、排水等もあり、全体としてはどうなっているのか。

→排水等も含めて、これからはバングラデシュ農村の水環境及びその利用状況を包括的に捉えていく必要がある。

【第四発表】開発途上国における建設支援の課題―バングラデシュにおける避難所及び住宅建設支援の事例

発表者

  • 宮地茉莉(関西大学)

コメント・応答

バングラデシュにおける避難所及び住宅建設支援の事例について、「物的支援」「知的資源」「人的資源」の枠組みを援用することで、建設支援の今後の課題を明らかにしたものである。

  • 「ドナー主導」と「コミュニティ指導」、「ウチ」と「ソト」、「支援する人」「支援される人」という二元的な捉え方でいいのか。別の視点から捉え直すことで、従来の枠組みを超えて、見えてくることがあるのではないか。
    →事例を、分類する際に、二項対立的な発想になってしまっており、この枠組みに入りきらない要素をもっと丁寧に拾っていく必要がある。

【第五発表】How Ethnic Minorities have Maintained a Traditional Community House in Central Vietnam: A study of 15 years after Constriction

発表者

  •  飯塚明子(宇都宮大学)
  • 田中樹 (摂南大学)

コメント・応答

ベトナムのあるエスニックコミュニティにおける伝統的なコミュニティハウスが、建設後15年間どのように維持されてきたのかの実態を明らかにしたものである。

– 15年と言いながらも、近年の取り組みが中心であり、全体像が見えにくい。
– 新たな動きや変化があった時に、なぜそのようなことが起こったのかを含めてそのプロセスが気になる。
– コミュニティハウスの取り組みだけではなく、地域に与える様々な影響やインパクトとしてはどのようなものがあったのか。

→この取り組みを多様な観点から見ていく必要がある。

総括

セッションの総括 衛生、建築に関する幅広い発表があった。衛生、建築のいずれも、文化や広義での環境など社会的要因が大きく影響する。衛生においては疾病や死亡の削減、建築においては生活の質向上や安全をめざすことになるが、住民のリアリティにおいてはそれだけではない。

文化社会的背景と持続可能な衛生環境、建築について、それぞれの専門分野を越えて、活発なディスカッションができた。特に、大学院生や若手研究者の発表、コメントが多かったことを特記したい。自分にとってのこれまでの枠組みを改めて相対化していくこと、そして、分野を越えて、多様な視点を持つことで、これまで見えてこなかったことが見えてくることがある。

生活圏、そして、そこで暮らす人々の視点から捉え直すことで、今後、広がりを持った議論が展開されることを期待したい。

報告者(所属):樋口倫代(名古屋市立大学)、吉村輝彦(日本福祉大学)


F2:危機管理と知識創造のマネジメント

  • 開催日時:6月15日 12:45 - 13:45
  • 座長:華井和代(東京大学)
  • コメンテーター:斎藤文彦(龍谷大学)、大山貴稔(九州工業大学)

【第一発表】低頻度で大規模な自然災害に対する脆弱性の定量化とその変遷の国際比較

発表者

  • 絹川グリボスタン(東京大学新領域創成科学研究科国際協力学専攻)

コメント・応答

データ分析方法と、分析結果から得られる示唆についてコメンテーターおよびフロアの参加者から質問とコメントが寄せられた。

データ分析方法に関しては、低・中・高所得国のカテゴリー分けは時期によって変わるのか、気候変動の影響は考慮されているのか、国の所得が増えると災害による経済損失は自然と増えるので、その変化をどう計算するかなどの質問があり、発表者はデータの詳細を説明したうえで、時代の変化に沿った大規模災害への脆弱性の変化が国によって異なることや、国による経済水準の差によって脆弱性に差が見られることを指摘し、今後詳細を検討すると説明した。

一方、分析結果から得られる政策的示唆や一般化の可能性、国レベルのみならず地域レベルでの比較などの研究の汎用性についても質問と期待が寄せられ、発表者は今後の発展の可能性を述べた。

【第二発表】ボランティア事業における非政治性と平和部隊の隊員管理-冷戦下のラテンアメリカ地域での経験から

発表者

  • 河内久実子(横浜国立大学)

コメント・応答

コメンテーターおよびフロアの参加者から、なぜ隊員の管理に注目したのか、非政治性をめぐる組織と構成員の認識のずれはどのような問題の表出なのか、アメリカの内政と外交および任国の政治にどのような影響を持ったのか、非政治性を3つに分けることで見えてくる特性は何か、隊員の訓練マニュアルなど組織の価値基準で書かれやすいものではなく、個人が書いた文書の中ではどう描かれたのか、他国の国際ボランティアでも同様の事例があるのか、という質問が寄せられた。

発表者は、隊員の手紙などの資料も分析したことを説明し、イラク戦争などの介入に平和部隊のOBOGが反対声明を出すなど、アメリカの世論を引っ張る力があることを説明し、政治性を縛ることは冷戦期には意味があったかもしれないが、現在は送り出し国に影響を与えているかもしれないとの見解を示した。

また、日本の青年海外協力隊は60年代初頭の平和部隊の訓練のマニュアルを入手したが、実際の協力隊の訓練内容に反共産主義教育重視という視点は反映しなかったと述べた。

【第三発表】愛知用水期成同盟によるTVA(テネシー川流域開発公社)の開発思想の需要と展開-「愛知用水の久野庄太郎」の『躬行者』を手がかりとして―

発表者

  • 柴田英知(歩く仲間)

コメント・応答

コメンテーターから、TVAの開発思想の日本による受容という観点からすると愛知用水の開発はどのように位置づけられるか、愛知用水の文化運動に注目する背景として、「文化を流す」とは何を意味するのか、民衆の参加によって愛知用水ができた後、関与した人々はどうなっていったのか、との質問が寄せられた。

発表者は、日本の内務省が戦時中にTVAの開発思想を取り入れたときに民主主義という観点は欠けており、民主主義の観点が注目されるようになったのはリリエンソールの本が日本で紹介された戦後復興のときであったこと、および日本(の)デンマークという土壌があったことを説明したうえで、詳細については引き続き検討が必要であると述べた。

「文化」の意味については今後の研究を待つこと、そして、愛知用水の担い手のうち、技術者たちは水資源公団(現水資源機構)や民間会社などで活躍し、地元の農民リーダーたちは愛知用水土地改良区のメンバーとして現場で活躍していると説明した。最後に参加者および座長から、本研究を開発学の研究にしていくうえでの助言が寄せられた。

【第四発表】効果的な情報技術導入による組織開発と知識創造プロセス~パキスタン国パンジャブ州上下水道管理能力強化プロジェクト(フェーズ1、2)を事例とした知識創造理論による考察~

発表者

  • 佐藤伸幸(日本テクノ株式会社)
  • 河田卓(株式会社ナレッジノード)
  • 林俊行(ニイカ・エナジー・コンサルタント)

コメント・応答

コメンテーターおよびフロアの参加者から、データベースの作成・活用が暗黙知から形式知に変化するプロセスおよび、水道局内のそれぞれの階層の人々が物事を理解するロジックの違いについて質問が寄せられた。

発表者は、暗黙知が共同化→表出化を経て形式知(連結化)に変わっていくプロセスを説明した。また、階層によって考えていることは全く異なり、必ずしも全体がイメージできない職員による現場情報の説明をもとに、幹部職がイメージした内容で指示をしていたところに、データベースができたことでデータをもとにして議論ができるようになったことを再度説明した。

さらに、組織が動かない原因として、一人ひとりの能力がつながっていないことが問題だったところ、データベースを上手く使うことで職員は仕事が楽になり、データの使用によって異なる階層の職員の知がつながったことを説明した。

総括

セッションの総括  災害のデータ分析、平和部隊の非政治性、愛知用水の文化運動、パキスタンでの知識創造プロセスという多様な主題での発表が集まったセッションであったが、データや資料の分析から得られる示唆をより大きな開発の文脈にどう位置付け、理解するかという点については共通した議論があり、フロアからの質問も活発に寄せられて充実したセッションになった。

コメンテーターの大山会員、斎藤会員には丁寧に報告論文を読み込んで重要なコメントを提供してくれたことに感謝したい。

報告者(所属): 華井和代(東京大学)


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