第26回春季大会報告:ラウンドテーブル

C2:国際協力に若者の活力を取り入れるために:外務省・JICAからの視座
- 開催日時:6月21日11:10 - 13:10
- 聴講人数:約25名
- 座長・企画責任者:山形辰史(立命館アジア太平洋大学)、原昌平(国際協力機構)
- コメンテーター・討論者:小山田英治(同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科)、森泰紀(一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム)、河野敬子((一社)海外コンサルタンツ協会)
【第一発表】国際協力に若者の活力を取り入れるために:外務省からの視座
発表者
- 原田貴(外務省)
コメント・応答
近年では、「国際化」や「外国語活動」が公教育に明確に位置づけられている。高等教育においても、特にSDGsや持続可能な開発を取り入れる動きが活発になっている。総じて日本の若者の内向き傾向がみられるものの、現実は二極化か。国際協力に関係する公的部門は人材確保の困難に直面している。対照的に民間部門は活発な求人の状態である。公的部門の国際協力に対する関心は年々低下しているように見える。この流れに抗するために、今後は、国際協力の脱制度化が必要ではないか。国際協力のあり方が変わりつつある中、我々が若者に提示できる魅力とは何なのだろうか。
【第二発表】外務省における国際協力の仕事
発表者
- 松浦直子(外務省)
コメント・応答
外務省では、どのような部署で、どのような職種の人たちが働いているのか。毎日、どのような流れで仕事を行っているのか。外務省は、様々な形で若手にアプローチしている。国際協力を職業としたい人にとって、外務省への
就職は魅力的に思えるかが問われている。実は、外務省国際協力局職員のキャリアパスは多様である。多様な入り口から外務省勤務への接近が可能である。国際協力局以外でも、JPO派遣制度、「平和構築・開発における人材育成事業」、「内閣府国際平和協力本部による国際平和協力研究員制度」といった外務省内外のキャリア形成支援プログラムがある。限られた国際協力人材の獲得競争をするというより、志望者の裾野・絶対数を増やしたい。
総括
議論された点をいくつか挙げておく。
- 若者が安定志向になり、労働条件などの待遇面への懸念で、官庁やJICA志望が停滞しているのではないか。
- 若者の関心が以前より、国内に向いているのではないか。また、短期間での成果・成長実感等を求める傾向が強くなっているのではないか。
- 今も海外での機会に意欲のある若者はいるので、国際協力の魅力や価値観をもっと伝えるべきだ。本来国際協力の仕事は複雑でチャレンジングで楽しいものがだが、国際協力の関係者(中の人)がそれをもっと積極的に伝えていくべき。
- (北大の学部生の方々)幼少のころから、国際社会の課題に応えるような人材になりたいと思っている。むしろ、どうやって職に就けるか、大学院に行くべきか、などについて知りたい。
- 学会として、若者向けのイベントを増やすとか、キーワードを替える(「貧困」から「イノベーション」へ)とかすべきではないか。
- これまで国際協力に興味を持たなかったかもしれない層にも訴えかける企画(セレブリティ動員)とかもしてみているのだが..
- 外国人材の活用も有効ではないか。
- 任期付きのポストでも、やり甲斐がある仕事が任せられる、ということをアピールすべきだ。
- 土木や医療以外の理系人材も、対象にできないか。
- 「疲れた大人」ではなく、「ああいう人になりたい」というロール・モデルを見せることが重要だ。
報告者(所属):山形辰史(立命館アジア太平洋大学)
C3:人間の安全保障とデジタル化:国際開発におけるデジタル化の事例および提言
- 開催日時 6月21日 14:10 - 16:10
- 座長・企画責任者:内藤智之(神戸情報大学院大学)
- コメンテーター・討論者:島田剛(明治大学)、岡崎善朗(早稲田大学)
【第一発表】JICA 緒方研究所「人間中心のデジタル化」研究会(2024年度)実施結果概要と教訓の共有
発表者
- (登壇順)
- 内藤智之(神戸情報大学院大学)
- 宮下良介(JICA ガバナンス・平和構築部)
- 梶野真由奈(JICA 緒方研究所)
- 狩野剛(金沢工業大学)
- 福原一郎(JICA 情報システム部)
- 宮原千絵(お茶の水女子大学)
- 竹内海人(JICA 緒方研究所)
コメント・応答
【1.岡崎コメンテーター】 本件 RT で発表された JICA 研究所による新規性あふれる研究枠組みに対し、特に開発途上国における普遍性や一般化を追求していくためには、技術的な側面から以下の3点が重要と考えられる ― 1「データの安全性」と「信頼される技術」、2「壊れない技術」と「引き算の美学」、3「使いこなせるデジタル化」 ― これらはいずれも人間中心のアプローチとして不可欠な視点であり、人々の尊厳と安全を最優先する持続可能な開発を追求するためには、発表された事例研究からの教訓にもあるとおり、重要な視点として今後も研究を掘り下げていくべく価値があると思料する。
【2.島田コメンテーター】 まず、当該研究会に多忙な現役 JICA 職員が各部署から多く参加し、研究者と協働しながら限定的な期間で新規性のあるテーマに果敢に取り組んだことに対し、率直に敬意を表したい。人間の安全保障(HS)が国際開発の文脈に導入されて以来、社会開発の視点が強まってきている。その中で、今回共有あった当該研究会の実施結果概要(公開報告書含む)において、今後のさらなる研究発展のためにも、いくつか不明瞭と思われた点をあえて指摘したい ― 1「人々」という言葉が使われるが、それは誰なのか。「誰を守る」ことを価値として本研究は分析を進めたのか、少々わかりづらい。かつて緒方貞子氏が「水平的不平等」に対する注目の重要性を指摘したが、この点についても研究会はどう捉えていたのか。2HS の文脈から「エンパワメント」についても着目されているが、もう少し分析の深堀が必要ではないか。エンパワメントは本来もっと強い意味を有していると思料。3「DX」とはデジタル化によってもたらされる社会的な変革の結果であるため、本研究会でも DX としてのマクロなインパクトがどこにあったのか、研究会としてはどのように考察したのか知りたい。
(※ 以下、フロア聴講者からの質問・コメント)
【3.山田浩司氏(前長岡造形大学)】「人々」は単なる受益者ではなく「共創のパートナー」だと思料する。技術の世界では「技術の民主化」という表現があり、最たる形がオープンソース化であり、この点についても当該研究会の議論に挿入されると良いと思料する。
【4.藤田雅美氏(国立健康危機管理研究機構)】近年、GAFAM の世界的な席巻に代表される「テクノ封建制」という表現がある。このようなマクロ状況がある中で、対抗軸としてマクロ、メゾ、ミクロのそれぞれのレベルで何を打ち出していくべきか。その対抗軸として「デジタルの民主化」があると思料し、ここに「エンパワメント」があると思料する。
【5.高田潤一氏(東京科学大学)】 デジタル技術でオープンされているものは多く、マイクロソフトのウィンドウズですらソースコードが公開されているが、そのソースコードを使える人は限られる。コメンテーターからも触れられた通り「DX」とはデジタル化を通じた社会変革の長期的な効果であるため、本研究ではそのような長期的な効果をどのように期待しているのか。
【6.発表者グループからの応答(まとめて記載)】
●様々な御指摘に深謝。JICA 研究所の取り組みとして、1年間という期間で、HS とデジタル化という難しい掛け算を紐解く作業は、概念が整理されている先行研究もほとんど存在しないことから、率直に試行錯誤の連続であった。
●例えば、「人々」をどう定義するかは、研究会の中でも当初から議論があった。デジタル公共インフラ(DPI)のような公的な装置は、必ずしもデジタル弱者に平等に恩恵を与えることが出来ていない現状もあるが、本研究会では現状を把握し、それが根拠あるデータや報告として共有されているものを丁寧に拾い集め、その現状に対してHS の視座から将来への教訓を導き出し得るのか、というアプローチを採用した。したがい、御指摘いただいたような様々な点に不足が残っていることは研究会としても認識しており、仮に研究会の議論を継続していくことが出来れば、ぜひ次なるステップとして御指摘の点を含めた深堀をしていきたいと考えている。
●誰を守る視点で分析するのか、技術の進化をどのように俯瞰するのか、開発途上国への技術適用に関して人間中心のアプローチをどのように一般化していくのか/し得るのか、デジタル化を通じた社会変容の長期的効果の価値をどのように計測するのか、これらを総合的に考えていくと、行き着く先のひとつには社会制度として「人間中心のデジタル化」を位置づける試み、すなわち必要なルール化・法制化などの面についても広く現状を把握し、あるべき姿を論じる試みが次なるステップとしては必要になるとも、研究会メンバーとしては考えている。
総括
本 RT は、HS とデジタル化という、両分野ともに国際開発の文脈において比較的新しい側面でありながらも、時代の潮流から国や地域を問わず必然的に様々な場面で交差してきているテーマをあえて野心的に取り上げたJICA 緒方研究所が、昨年度に設置した研究会の結果概要を公開し、国際開発学会メンバーの皆様から多角的に御意見・御指摘を賜ることを主たる目的として企画したセッションであった。当該目的は、ご多忙な中でも事前に丁寧に研究会資料を精読いただいた両コメンテーターからの素晴らしい御意見・御指摘、およびフロア参加
者からも示唆に富む貴重な御意見・御指摘を賜ることが出来、企画の思惑通りに達成することが出来た、と企画したグループ一同は率直に感じている。今回の御意見・御指摘を踏まえ、当該研究会で明らかになった点をさらに深堀りし、可能な限り国際開発学会に関連する何らかの将来機会において、進化した研究結果を公開共有し、新たな知見として広く開発関係者に還元することを目指したい。
報告者(所属):内藤智之(神戸情報大学院大学)
D2:開発と「包摂の危機」:集団的想像力の限界からの目覚め
- 開催日時:6月21日 11:11 - 13:11
【第一発表】開発と「包摂の危機」ー集団的想像力の限界からの目覚めー
発表者
- 玉村優奈(東京大学大学院)
- 松本悟(法政大学)
- ベルコウィッツ メリサンダ(中京大学)
- 岡庭尚代(東京大学大学院)
- 八郷真理愛(横浜国立大学大学院)
D3:How can the cross-national/regional adoption of policy instruments solve common social problems? : A Comparison of Southeast Asia and Latin America
- 開催日時:6月21日 14:10 - 16:10
- 聴講人数:約5名
- 座長・企画責任者:Naoko Shinkai(Tsuda University)
- コメンテーター:Aya Okada(Nagoya University)
【第一発表】The Relationship between Social Development and Economic Development, Exploring Regional Variations in the Sustainable Development Goals
発表者
- Naoko Shinkai(Tsuda University)
コメント・応答
Firstly, Naoko Shinkai shared the results of examination on the nexus of social development and economic development and regional variations in the Sustainable Development Goals (SDGs) and individual goals with special emphasis on social dimensions. She identified regional characteristics in the proximity of economic progress and demonstrated the elasticity of economic development as well as the causal relationships of different dimensions of development by region, in the panel-data analyses. Professor Okada, as the commentator, praised first and raised four points of concerns, the validity of poverty measurements used in the study, the importance of country analyses, level effects vs. growth effects, the importance of a time lag in the relationship between education and economic development. The presenter responded that country effects and growth effects were, to some extent, incorporated in the analyses by nature, but the measurement issues need to be reassessed.
【第二発表】Rethinking poverty discourse in the Philippines: Cross-regional Policy Evidence and Strategic Frameworks
発表者
- Maria Kristina Alinsunurin(The University of the Philippines, Los Baños)
コメント・応答
Secondly, Professor Maria Kristina Alinsunurin presented on the need for reconsideration of policy instruments in tackling poverty in the Philippines and proposed a new approach for cross-regional policy implementation and strategic frameworks. She underlined the limitation of the traditional development approach by sharing the results of the thorough analyses on existing poverty reduction approaches and outcomes. Then, she emphasized the need of rights-based integration of policy instruments for poverty reduction.
Professor Okada congratulated her on the excellent study first, then raised three points for further consideration. Those are the issue of operations of rights-based approach, possible bottlenecks which can be emerged from inter-regional gaps in the social structures, and the principle of governance, which is already advanced. The presenter responded that after decentralization in the Philippines, the existence of regional gaps in poverty is evident and the integration in policy implementation is a key.
【第三発表】The impact of foreign direct investment on the agricultural exports in the Greater Mekong Subregion
発表者
- Thath Rido(The Royal University of Phnom Penh)
コメント・応答
Professor Thath Rido presented on the impact of foreign direct investment (FDI) on the agricultural exports in the Greater Mekong Subregion (GMS). He shared the results of the panel-data analysis to examine the effect of agricultural FDI on agricultural exports, based on the data of the GMS between 1995 and 2023 . He found that not only agricultural FDI but also government effectiveness and human development enhanced agricultural exports and emphasized the complementarity of agricultural FDI.
Professor Okada highlighted the importance of his study first and raised three points for reviews, the difference between the value, which agricultural FDI has, and that of other conventional FDI in the manufacturing sector, possible patterns of variations in agricultural exports, and the influence of the uniqueness of the agricultural products on the outcome of the analysis.
The presenter replied that due to the limitations of data, patterns of products-based FDI and exports are hard to capture, however, the practice of the complementarity of agricultural FDI and agricultural exports by traders from neighboring countries are usually observed in reality.
【第四発表】Adapting Tokkatsu for Latin America: A Quasi-Experimental Study of Behavioral and Belonging Outcomes in Peruvian Classrooms
発表者
- Jakeline Lagones(Kansai Gaida University)
コメント・応答
Lastly, Professor Jakeline Lagones presented on “Adapting Tokkatsu for Latin America: A Quasi-Experimental Study of Behavioral and Belonging Outcomes in Peruvian Classrooms“. She demonstrated the impact of the application of three Japanese school practices in the Peruvian secondary school as the change in the socio-emotional skills, based on a DiD model and shared the results of mediation analyses, which showed the relationship between a sense of belonging and socio-emotional skill changes.
Professor Okada expressed the significance of her study, first, and commented on the broadness of Tokubetsu Katsudou and the disparities in implementations across and within schools. She also asked for clarifications of the index used in the study. The presenter explained the activities which she selected for her study and the adoption of the index.
総括
Although the number of the participants in this session was small, we had a fruitful and intensive discussion on development issues. I am thankful to all presenters, commentators, and participants in-person of this session, who enabled this roundtable session to happen.
Last but not least, I would like to also extend my appreciation to the organizing committee of the 26th JASID Spring Conference and the JASID headquarter.
報告者(所属):Naoko Shinkai(Tsuda University)
E1:アジアの脆弱層における子どもたちの教育とウエルビーング
- 開催日時:6月21日 9:00 - 11:00
- 聴講人数:約12名
- 座長・企画責任者:高柳妙子(東京女子大学)
- コメンテーター・討論者:高柳妙子(東京女子大学)
【第一発表】インフォーマル・リサクルにおけるケガのリスクと移民労働者が抱える保健衛生の課題~インドネシア共和国バンタル・グバンを事例に~
発表者
- 佐々木俊介(早稲田大学)
コメント・応答
-Puskesmusがウェイスト・ピッカーに使われない理由をもう少し詳しく教えていただきたい。ぜひ、Puskesmusでも聞取りをされて位はいかがでしょうか。(国立社会保障・人口問題研究所、林氏)
➡返答:保険制度が変わっている最中であること、そもそもスラム街ではPuskesmusに行こうという発想がないこと、利用する気がないということが挙げられる。今後、Puskesmusへの訪問と聞取りは検討したい。
-廃棄物処理の効果は?子どもの働きは?(東京大学、関谷氏)
➡返答:ウェイスト・ピッカーによってリサイクルできているのは全体の廃棄物の2%であり、生ごみを除けば6.6%、プラスチック系俳句物については13.4%をリサイクルできており、それなりに貢献している。ただし、環境負荷が高いリサイクル方法であり、環境汚染を予防しているかとは言えない。家計を支える子もおり、平均すると収入は家計収入の30%になっている。しかし、世帯内における労働者の人数にかかわらず平均世帯収入は大きな変化をしないため、子どもが働き労働者が3人居る世帯では、家計収入に対するそれぞれの寄与が30%程度になっている可能性が高い。
【第二発表】障害児の就学のリスク対応における保護者の思い-パキスタンKP州の事例-
発表者
- 池田直人(難民を助ける会:AAR Japan)
コメント・応答
-コメント:モンゴル・スリランカのOOSC(Out of School Children)に関するJICA事業においては、就学の課題は、社会的な理由ではなく、物理的な理由が挙げられており、今回の発表内容とは違いがみられる。教育の質が下がるという理由で、IE学校に入ってほしくないという親、教員がいた。他方、過去の研究においては学力には影響はないとされている。解決策としてどう考えられるか。(早稲田大学、黒田氏)
➡返答:物理的な要因により学校に通えないという事例も確かに存在する。対象地のアボタバード、ハリプールでは、日本の県レベルの人口でありながら、公立学校が1000校以上あり、同じ数の私立学校、さらにはマドラッサー(宗教学校)やノンフォーマル教育学校も存在する。つまり、学校が近くにあるということであり、通学における物理的な問題は少ない。通えないという問題は、受け入れてくれる学校が遠くにしかなかったり、高学年の兄・姉が通う遠い中学校の近くにある小学校にいっしょに通わせようとするという場合もある。
-出生率の地域差はどのような状況か。(国立社会保障・人口問題研究所、林氏)
➡返答:人口ピラミッドは低年齢で広がり度合いが小さくなっている。20年以上前に、イスラマバードでは1夫婦に子どもは2人という状況が見られたが、地方、例えばKP州の仕事の同僚は子どもが10人いた。バローチスターン州などでは子が多く、国全体として一人の女性が出産する子の数が3,4名となっている状況がある。
-パキスタン独特の障害の種類がなにかあるのか。いとこ婚などが原因となっているのか。(林氏)
➡返答:過去のJICA事業で実施した調査では、障害者1500名、非障害者5000名を対象として、対象者の親がいとこ婚であるかどうか聞取りしたが、ほとんど差が見られず、両者とも65%程度だった。他方、ある種の障害、例えば、筋ジストロフィーや聴覚障害の中には、いとこ婚により発生率が高いという事例が見られた。また、ポリオの発症がある世界で2か国のうちの一つであり、調査では年に数ケースと言われても、実際にはもっと多いのではという話もある。
-父親の役割は。(林氏)
➡返答:親の会の代表が母親であり、メンバーに母親が多いため、同じ会の父親と意見が衝突することもある点、AAR事業がファシリテートする研修や会議は平日の日中のため、仕事にでている父親が参加できない時間帯であることなどの理由もあり、父親の積極的な参加がない。ただし、父親が通勤時に子どもを学校に送ったり、同地で男性の職業で多いドライバーなどは自由な時間を使えるため、子どもの送迎時間をとることができるというケースも散見される。
-障害者に対する政府による社会保障はあるのか。社会福祉師などはいるのか。(林氏)
➡返答:ベナジール・インカム・サポート・プログラムという、障害児者に対しては補装具や給付金を提供する事業があるが、課題として、このサービスを受けるための条件となっている障害者証の入手において、申請を拒否されるケースが多いことがAAR Japan事業で判明した。この解決のために、UNICEFが実施する児童保護プロジェクトと連携している。
-障害児の親の会はもともと存在していて、AARがこれを強化したのか(東京大学、関谷氏)
➡返答:存在していなかった。障害児と親たちの中には、家族・親族・地域に支えられている場合、支えられていない場合が混在しており、保護者間にはとくにつながりがなかった。障害児の家族の団体は、20年以上前からその必要性が訴えられており、パキスタンでの自身のJICA事業での経験を踏まえて、AAR Japanのインクルーシブ教育事業の教員研修などに加えて、障害児の親の会の形成支援と強化を盛り込んだ。
総括
(セッション冒頭に以下を説明)
SDGsのスローガンは、「誰一人とり残さない」である。特に、目標4:質の高い教育をみんなに、とともに、低中途上国の子どもに焦点を当てた場合、様々な問題があります。当事者主導による学校安全教育政策、管理体制、学校と地域の協働連携活動等の実態を把握する必要があるが、学術的に明らかになっていません。今回は、脆弱層における子どもたちの教育とウエルビーングについて調査・研究を実施する研究チームメンバーが、それぞれの事例を発表します。最初に、インドネシアの事例、次にパキスタンの事例についてです。
報告者(所属):高柳妙子(東京女子大学)
E2:地域からSDGsを問い直す:多様な視点によるトランスフォーメーションの可能性
- 開催日時:6月21日11:10 - 13:10
- 座長・企画責任者:大門怜央(早稲田大学/中部圏社会経済研究所)
- コメンテーター・討論者:木全洋一郎(国際協力機構)
【第一発表】茨城からSDGを問い直す:グローバル化する地域と健康・人間の安全保障
発表者
- 野田真里(茨城大学/名古屋大学(客員))
コメント・応答
発表者の地元である茨城県大洗町の新型コロナ禍対応について、フィールドワーク等で得られたデータに基づいて分析した。「脆弱な人々」である外国人(特に多数を占めるインドネシア人)の健康・人間の安全保障が日本人(特に高齢者等脆弱な人々)を含む地域社会全体の問題であり、SDGsの「誰一人取り残さない」は理念にとどまらず、まさに実践的課題であることを論じた。本研究は「すべての人々が安全になるまでは、誰も本当に安全にはならない」(A.J. モハメッド、国連事務次長)を示す実践例として、SDGsを地域から問い直すうえでの重要な研究である等、活発なコメントや質疑応答がなされた。
【第二発表】デジタルノマドとデュアルライフ
発表者
- 大門怜央(早稲田大学/中部圏社会経済研究所/名古屋大学(客員))
コメント・応答
発表者が兼務する中部地域とくに能登半島地震の被災地を事例に新たな地域社会のアクターとしてのデジタルノマドについて分析がなされた。石川県輪島市の地元女性起業家等の先進的取り組みの実績と課題について報告があり、活発な議論を行った。今後につき、地域からSDGsを問い直すうえで能登半島地震の被災地は重要な事例であり、復興プロセスを活かした関係人口の創出、Z世代の役割、地域への愛着を活かした学び等について活発なコメントや質疑応答がなされた。
【第三発表】社会的連帯経済の視点から誰も取り残さないトランスフォーメーションを考える
発表者
- 藤田雅美(みんなのSDGs/みんなの外国人ネットワーク(MINNA)/国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際医療協力局)
コメント・応答
深刻化する地球規模課題へのグローバルな取り組みであるSDGsそれ自体が危機に瀕しており、次の様な問い直し・批判さらされていることを分析した。即ち1) 没落した中間層の不満と、それを利用する反SDGsポピュリズム、2) 気候変動対策の「痛み」の不平等、3) 地政学的変動を背景にした反国際協調・自国第一主義、4) 技術進歩への過度な信頼とSDGs軽視、5)「エリートの空言、偽善」としてのSDGs、「SDGsウォッシュ」、6) SDGsの表層的・断片的実施と相互連関の軽視、7) 成長主義と経済中心主義への内在的批判である。社会連帯経済(SSE)は民主的/参加的な運営に基づく人間や環境を重視した経済活動として、地域に根差した自主管理のアプローチから、こうしたSDGsの限界を乗り越える可能性について活発に議論がなされた。
キム会員からは、①地域表象の歴史性も意識はしていたが紹介された文献を踏まえて理解を深めていきたい、②政策言説に汲み取られていない現象やそうした言説が引き起こした現象ながらも意識化されていないことに光を当てつつ、地政的・地経的緊張に安易に絡めとられないような研究を構想したい、③地域表象のポリティクスを意識しながら大勢の追認にならないように自分たち研究の矛先を見定めたい、などの応答がなされた。
【第四発表】森林ガバナンスとSDGs
発表者
- 三次啓都(北海道大学(客員)/国際熱帯⽊材機関/国際協力機構)
コメント・応答
SDGsを問い直すうえでの、森林の重要性、現在の課題、森林と地域社会や関与について、グローバルとローカルを繋ぐ視点から分析がなされた。欧州連合(EU)における森林デュー・ディリジェンス(DD)、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻等による森林サプライチェーンへの影響、森林と気候変動等のホットイシューにつき、地域の視点も踏まえつつ活発な議論がなされた。今後につき、森林を軸にローカルとグローバルを結びSDGsを問い直すうえで、次の議論がなされた。地域資源の管理者として地域社会の関与を増やし、地域と国内の関係において森林環境税が繋ぐ制度として有望であり、また、地域と海外の関係については、グローバルな炭素市場の枠組み等が重要。炭素の議論では市場や国家のイニシアティブが大きく、いかに地域社会の関与を確保するかが課題となる。その際、地域と市場や国家を仲介する者の存在が不可欠であり、その仲介者として、地域に根ざす大学が役割を果たせる可能性が高い。
総括
コメンテーターとしてご登壇いただいた木全洋一郎(JICAブータン事務所長)は陸前高田市、札幌市、帯広市でも勤務経験があり、SDGsの地域展開のエキスパートであり、次の3つの論点から活発に議論をリードいただいた。即ち、論点1「地域」の視点でとらえたSDGとして、地域社会の将来のために、地域に根差した現在進行形での取り組みが既に「SDGs」といえるのではないか。論点2 地域から捉えたSDGs実現するためのウチとソトについて、関係構築はどのようなものか。そして、論点3地域から捉えたSDGsを実現・持続発展させるための海外を含めた地域間連携の可能性について、グローバルな視点からローカルの課題を捉え直すことと、ローカルな先進事例からグローバルな取り組みへのヒントを得る(学び直し)ことは相互に関係しており相乗効果を生むことが出来るのではないか等である。
本ラウンドテーブルを主催した「SDGsを問い直す」研究部会のベースとしての業績『SDGsを問い直す』(野田編、2023)では、日本の地域からのSDGs展開についても論じている点が特徴である。今回のセッションでも各地域の実情等をふまえてたSDGsの問い直し等について、活発な意見が出された。これまで、当研究部会ではアフリカ、南アジアについてセッションを行っており、ポストSDGsも見据えつつ、地域別・テーマ別にSDGsを問い直す研究を進められれば幸いである。また、当セッションに続き開催された「E3 国際開発と国内地域開発との共創を考える」とは相互に関連が深く、双方のセッションの企画者・登壇者が互いのセッションに出席し議論に参加する等のシナジー効果も生まれた。SDGsにより国際開発は途上国と先進国の両方での研究・実践が求められている。本セッションに関連して、「国際開発と地域開発」は当学会における主要なテーマとして、今後の研究の深化が望まれよう。
報告者(所属):野田真里(茨城大学/名古屋大学(客員))
E3:国際開発と国内地域活性化との共創を考える―「地域×国際エクスカーション企画」in 高知県本山町を例として―
- 開催日時:6月21日 14:10 - 16:10
- 座長・企画責任者:梶英樹(高知大学)
- コメンテーター・討論者:木全洋一郎(国際協力機構(JICA))、工藤 尚悟(国際教養大学)
【第一発表】国際開発と国内地域活性化との共創を考える
発表者
- 梶英樹(高知大学)
コメント・応答
梶会員は、2024年に社会共創委員会が主催した高知県本山町へのエクスカーション実施後に当該地域内で起こった国際化の取組みの兆しが生まれた変化をケースに、日本の中山間地域において、国際開発関係者と日本の地域づくり人材が接合し、共創することで、日本の地域課題解決や価値創造していく課題や展望について問題提起を行った。エクスカーション後の変化要因として、①地域が国際開発領域と接合する新しいインパクトの創出、②地域と国際をつなぐコーディネーターが地域側に存在していたこと、③地域活性化を行う国際開発経験者間の価値共有化、を示した。
これに対して木全会員から、地域と国際の横断人材に求められる能力は、広い視野(国際)から捉える地域の課題・価値・可能性を広げられること、地域の中で新たな取り組みを起こす創造力、多様なアクターをつなぐ力「継ぐ繋ぐコミュニティ」が指摘された。
また、工藤会員からは、国際開発学会で国内地域活性化を議論する意義は、人口減少対策やコミュニティ存続といった従来の地方創生策という文脈を超えて、国際及び地域の双方に新たな視点が得られるということ、国内地域が「国際」という視点を持つことで(またその逆もしかり)、開発の本質を探究し議論する場の醸成にあることが指摘された。
【第二発表】1.国際開発学会のエクスカーション企画 in 高知県本山町受け入れ側(本山町)の視点として 2.国際と地域を領域横断する人材キャリア活用の課題と展望
発表者
- 荒川彩(本山町役場)
コメント・応答
荒川氏は、国際開発学会社会共創委員会主催のエクスカーション企画の受け入れ側(本山町)の視点から、国際開発の視点を地域に活かす際の課題、及び今後の展望について発表した。地方創生にとっての国際開発協力に関しては、政策が示す外国人支援などの多文化共生推進、人口減少の抑制、単に人手不足の解消による地域活性化と経済産業振興のための多文化共生推進と狭く捉えられる傾向にあることが課題と指摘された。本山町で国際開発(協力)を進めるということは、単に外国人を支援する/されるという関係から、共に学びあいながら双方向性・共創性のある協力が必要であると指摘された。
また、地域と国際をつなぐコーディネーター人材の観点から、領域横断人材のキャリア活用の課題と展望について、国内地域側に国際経験が評価されるポストの募集の増加や、国際経験をポジティブに捉える風土の醸成など、地域側の受入れ体制の強化、国際経験を持つ地域人材側からの発信の拡大が必要と提案があった。
これに対して木全会員から、国内地域にとって国際は、課題、市場、資源が国際につながる接点であるものの、「国際化」や「多文化共生」だけを取り上げてイシューとすることは問題であるとし、日本の地域と国際開発の課題の同時代性が、双方の価値共有化を生み出し、双方によって「共創」される価値とその環流を生み出すと考えることが重要であると指摘された。
【第三発表】本山町汗見川地域の取組み
発表者
- 野尻萌生(集落活動センター汗見川)
コメント・応答
野尻氏からは、社会共創委員会が主催したエクスカーションの訪問地である高知県本山町汗見川地域の受け入れ側の視点から、当該集落地区の現状と課題、及び集落活動センター汗見川の取組みを紹介した。汗見川地域では、数多くの視察・研修受け入れを行っている。一方、当該地区は国際化が進んでいる訳ではないが、多言語化されていない環境の中でも訪問外国人への対応ができている。その背景として、数十年間住民自身による地域活動を続けてきたこと、地域全体での多様な価値観の受容、そして新しい挑戦を積極的なこと等を通じて、“オープンな集落“を実現してきたことがあることを示した。また、野尻氏自身も学生時代、参加したNGOでタイの農村地域で小学校を拠点に、教育支援や地域開発に取り組んでいた。このような経験から、持続可能性について関心を持ち、この問題意識は日本の過疎問題とも共通するものと捉えていた。
これに対して木全委員及び会場フロアから、横断人材としての自身の「立ち位置」に留意していることは何かとの質問に対し、世代間をつなぐ横断人材として、持続可能な地域活動のためには、収益事業化と仕組みづくりが必要であることはもちろんであるが、過度な利益追求によって集落住民自身の疲弊をもたらしては意味がないため、「できるときに、できる人は、できることを」のほどよいバランスを大事にしている。またその言葉を汗見川地域の地域づくりの合言葉として共有を徹底していると示された。
なお、上記に加えて、JICA東京の渋谷氏より、JICAの国内事業の調査報告として、「JICA市民参加協力事業を中心とした国内事業の地域の国際化・活性化への貢献度にかかる調査」報告書の紹介があった。
総括
人口減少・少子高齢化が進む日本の過疎地域において、現在高知県本山町での生じている変化を起点に、特に現場の視点から国際開発と日本の地域づくりが接合することの意義、課題及び展望について様々な観点から議論された。国際開発の視点と国内地域再生の視点を持つ者の同志の交流や議論の意義は、従来の地方創生策や開発アプローチを超えて、開発に関するより本質的な議論を呼び起こすことができることが挙げられる。
このことは、国際開発経験者が国内の地方創生に果たすことができる役割、逆に国内地域関係者が国際開発の視点を持つことで果たせる役割が、単に多文化共生や観光振興といった狭い領域に留まらず、様々な分野・領域で結合できる可能性に気づくことにあると言える。つまり、互いに学び合う中で広い視野(国際)から捉えることで他分野・他領域とつなげ、新たな課題解決アプローチの創出や価値の創造と可能性を広げられることと言える。
このような結合を生み出す役割としての地域と国際開発領域の横断人材、ないしコーディネーター人材の存在が重要な役割を果たし得る。地域におけるコーディネーターは、会場フロアからの指摘のとおり、言わば、地域活性化における「町医者」、「総合診療医」のような立場で地域に寄り添い、既存の地域資源や専門人材、そして国際開発などの領域・空間をもつなぎ、創造力を持って新たな価値創造に寄与していく。そのような存在を生み出す環境や体制を地域と国際開発双方の領域からより多く生み出し、環流を広げることによって新たな共創が生み出されるのではないだろうか。
報告者(所属):梶英樹(高知大学)
F1:アグロエコロジーから開発を再考する
- 開催日時:6月21日 9:00 - 11:00
- 座長・企画責任者:池上甲一(近畿大学)、牧田りえ(学習院大学)
- コメンテーター・討論者:池上甲一(近畿大学)、牧田りえ(学習院大学)、西川芳昭(龍谷大学)、小谷博光(人間環境大学)、受田宏之(東京大学)
【第一発表】アグロエコロジーを参照軸とした国際農業農村開発におけるタネのシステム研究
発表者
- 西川芳昭(龍谷大学)
コメント・応答
すでに出版した書籍に基づき、タネのシステム研究をアグロエコロジーの視点から再評価する試みについて発表した。コメンテーターからは、種子供給のフォーマルか、インフォーマル(ローカル)かという分類意義に焦点を当て、地方自治体や民間企業も関与している日本のインフォーマルな種子供給が開発途上国にどこまで適用可能か、また、環境と社会の変革にかかわる「運動」というアグロエコロジーの側面がフォーマル・インフォーマルな種子供給にどのように反映されるのか、という問いが出された。途上国では政府機能が弱いために社会運動が発展したという経緯があり、アグロエコロジーの多面性の中に運動と種子供給との関係性も内包される可能性が示唆された。
【第二発表】「参加型」有機認証とアグロエコロジー:先行研究のレビューより
発表者
- 牧田りえ(学習院大学)
コメント・応答
緒に就いたばかりの研究テーマを探究していく上で、今後の方向性について助言をもらうことを目的とした発表だった。コメンテーターからは、第三者認証とは異なる「参加型」ならではの役割を明確にすること、特に、何を認証するのか(認証の対象が生産物ではなく生産者になるのか)、第三者認証が用いている認証ラベルが「参加型」でも必要になるのか、について掘り下げる必要性が提案された。上記西川会員の発表で一つの焦点となったフォーマル・インフォーマルの議論は、インドではNGOが始めたPGS(「参加型」有機保証システム)と並行して政府主導のPGSが始まっている事実を踏まえ、「参加型」有機認証においても応用可能な分析視点になり得ることが示唆された。
【第三発表】アグロエコロジー的開発から組織運営を考える:フェアトレード商品を扱う農協に着目して
発表者
- 小谷博光(人間環境大学)
コメント・応答
複数のフェアトレード認証を取得し、成功をおさめているパラグアイの砂糖生産組合について、リーダーシップとフェアトレード・プレミアムの運営に焦点を当てて発表した。コメンテーターからは、同農協を調査対象に選んだ理由、外部機関からの資金援助の有無、有機認証面積のうちサトウキビ栽培に使われていない耕地(全体の5割以上)の利用状況について質問があり、砂糖販売量が生産量を上回っている背景には組合員以外からもサトウキビを買い取ることにより販売の安定化を図っている可能性が示唆された。発表者は、ドイツからの資金援助があったことを明かした。さらなる調査を進めると共に、先行研究と比較しつつ、フェアトレード研究、リーダーシップ論等の議論に参画していくことが期待される。
【第四発表】地元リーダーの育成:アグロエコロジーの貢献とは
発表者
- 受田宏之(東京大学)
コメント・応答
メキシコの事例に基づき、アグロエコロジーの実践に取り組むことで地元の食・環境・社会の変革を担うリーダーが育成されるというアグロエコロジーのもう一つの利点について発表した。コメンテーターは、リーダー育成の面そのものよりも、有機農産物価格と慣行農産物価格との差が、生産費用の差(有機農業にかかる手間)に加え、より環境と社会を公正にするための社会的連帯費用を含むべきという発表者の主張に焦点を当て、これを高く評価した。すべての費用を価格に反映できない現実の制約があるが(「参加型」有機認証を受けた農産物価格も抑えざるを得ない)、本来はこの価格差に含まれるべき隠れた費用(不健康な食生活から来る健康被害、温暖化ガス等の環境被害、生産者の貧困といった社会的被害)を明るみに出す必要性が確認された。
総括
「アグロエコロジーと食農システム」研究部会のメンバーを中心に開いた本ラウンドテーブルでは、座長による基本概念の整理に続き、生命の根幹となるタネ、アグロエコロジーを実践する方法としての「参加型」有機認証とフェアトレード認証、アグロエコロジーを他の目的(人材育成)に活用する可能性、4つのトピックに焦点を当て、交互に発表者とコメンテーターを務めた。発表者たちはこの包括的な概念を現場でいかに具現化していくかに関心を持っており、互いの発表から触発され、新しい着想を得ることができた。また、フロアから、アグロエコロジーとアグロインダストリーは対立概念なのか、という基本的な問いが出されたことにより、大地から始まる営農に焦点を当てるアグロエコロジーと認証等を用いて食の安全を確保しようと考える食品業界との交流も重要な研究課題になり得ることを再確認した。
報告者(所属):牧田りえ(学習院大学)
F3:変化のただ中にあるアフリカの若者たち:その葛藤と社会変容の可能性
- 開催日時:6月21日 14:10 - 16:10
- 座長・企画責任者:斎藤文彦(龍谷大学)、今井夏子(JICA緒方研究所)
【第一発表】南アフリカの社会的企業にみる若者たちの葛藤と希望
発表者
- 斎藤文彦(龍谷大学)
コメント・応答
本報告は、南アフリカのケープタウン郊外の旧タウンシップにて活動するSilulo Ulutho Technologiesという社会的企業の担い手に焦点をあてた。2004年創業のSiluloは、創業者Luvuyo Raniのストーリーが広く知られているが、現場では20代のサポートスタッフらが重要な役割を担っている。彼女たちは高学歴で、創業者の理念に共鳴し、困難な地域社会に貢献することにやりがいを感じている一方で、課題も抱えている。一つの組織で解決できない根深い課題には、異なる社会的企業同士の協力が不可欠であり、それが「ubuntu」の精神の具体化につながるのではないだろうか。やり取りでは、20代の女性スタッフは未婚か既婚か、子どもはいるかといった質問があった。
【第二発表】農村起業の経験ー南アフリカの若者の語りから
発表者
- 近江加奈子(東洋大学)
コメント・応答
本発表では、南アフリカ・クワクワ地域の農村出身若者によるリターン・マイグレーションと起業経験について報告した。都市生活を経て出身地への帰属意識を強めた彼・彼女らは、地域貢献を動機に地元で起業するが、農村社会に残る劣等感や嫉妬、インフラ不足などの困難にも直面していた。逆カルチャーショックとも言える地域社会との摩擦を乗り越える中で、同世代のピアサポートの重要性も浮き彫りとなった。討論では、若者のエージェンシー発揮においてウブントゥ思想が拠り所となっている可能性が示され、他地域と比較する視点が提起された。
【第三発表】不確実性の高い労働市場環境下におけるキャリア形成:ガーナ農村部の学卒者へのオンライン調査から
発表者
- 近藤菜月(名古屋大学)
コメント・応答
本報告は、ガーナ農村部の学卒者を対象にしたオンライン調査とフォーカルグループに基づき、不確実な労働市場環境下で若者がどのように将来を展望し、行動しているかを明らかにした。就労機会の不透明さゆえに、目的合理的な選択が難しい一方で、若者たちは状況に応じ柔軟に複線的な投企行為を取る姿が見られた。会場からは、仕事への動機が利他的である可能性についての問いがあり、実際に報告者が調査を行う農村部では、個人的栄達よりもコミュニティ還元に結びつけられるキャリア観が強い印象があることを述べた。
【第四発表】アフリカにおける青年の政治的認識について:ザンビア・コッパーベルト州の事例
発表者
- 西村航成(京都大学)
コメント・応答
本報告は、ザンビア・コッパーベルト州の都市貧困層の若者を対象に、政治認識とその形成要因を考察した。1991年の民主化以降の政治的暴力やパトロン・クライアント主義の経験により、若者は依然として政治への不信を抱いており、その認識は、旧政権側による陰謀論的な言説によって再生産されている可能性が示唆された。若者支援制度が活用されにくい背景に関する質問に対しては、人治から法治への移行過程にみる制度運用の困難を示す例として、貧困層にとって過度なアカウンタビリティ要求が障壁となっている考察を共有した。
【第五発表】ケニア、ナイロビ市内のスラム地域の若者たちの法的経験と法意識:フィールド調査結果からの考察
発表者
- 荒井真希子(JICA緒方研究所)
コメント・応答
本発表では、ナイロビのスラム地域に住む若者の聞き取り調査を通じて、彼らが日常的に経験している差別と不正義の態様を明らかにし、法への期待と失望の狭間で揺れ動く若者の法意識について報告をした。スラムでは、警察による恣意的な逮捕や暴力など、特に若年男性に対する構造的な抑圧が深刻である。若者たちの語りからは、一方では法や公権力に対する強い不信を抱えつつも、他方で、自分自身は日常的に法を尊重し遵守して生活しようとしている、スラムの若者たちの意識と実態が浮き彫りになった。
【第六発表】構造的脆弱性の中から生まれる創発的エージェンシー:ケニア都市スラムにおける若者の実践から見えるもの
発表者
- 今井夏子(JICA緒方研究所)
コメント・応答
本発表では、ナイロビのスラム地域に暮らす若者らを対象に、孤独感、回復力、主体性を軸とした質的調査を通じ明らかとなった次の三つの課題を報告した。第一に、構造的排除による自らの無力さの自己責任化。第二に、公的な制度整備によるアクセス格差の拡大がもたらす若者のさらなる周縁化。第三に、制度的障壁→現状依存→仲間との共苦経験→現状変革への意識醸成、という複層的な過程の中で形成される創発的エージェンシーの三点である。以上の点から、制度と現場の乖離から生まれる若者の主体性を捉え直す視座を提示した。
総括
本ラウンドテーブルでは、構造的な不平等や社会的排除のもとで揺れ動くアフリカの若者たちが、自己実現と社会変革を模索する中でどのように決断し、行動を起こしているのかという主体的実践に注目した。彼らの行動は単なる生存戦略にとどまらず、仲間とのつながりや日常の実践を通じて、自らの存在意義を見出し、現状の打破や社会の変容を目指す主体性の現れとして捉え直すことができる。制度の周縁に置かれてきた若者たちは、しばしば政策的支援の枠組みから取りこぼされてきたが、むしろ、アフリカ社会におけるフォーマルとインフォーマルな制度的境界の曖昧さが、彼らの主体性を駆動する契機になっているという視点が浮き彫りになった。
一方で、調査を通じて得られる語りが、研究者に対して意図的に構築された「求められる語り」として現れる可能性にも留意すべきとの指摘もあり、当事者の声をどう読み解くかという研究倫理上の課題が示唆された。また、政策決定者が社会的弱者の実態を十分に把握していない現状に対し、制度と現場の断絶をどう埋めていくかが今後の重要なテーマになり得る点も共有された。
こうした議論を踏まえ、今後の検討に資する視座として次の三点が浮かび上がった。第一に、若者のエージェンシーを、葛藤や期待、不安の中で揺れ動きながら形成される多層的なものとして捉える視点、第二に、自らの実践と他者とのつながりを通じて変化を生み出そうとする主体性を、いかに支え広げられるかという課題、第三に、制度の不在や不完全さそのものが、若者の実践を生み出している逆説的状況への着目を通じ、制度と社会変革の関係を再考する必要性である。本ラウンドテーブルで新たに浮き彫りになったこれらの課題や視点を踏まえ、今後も、本テーマについての議論を継続して深めてまいりたい。
報告者(所属):今井夏子(JICA緒方研究所)