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NL37巻2号 [2026.08]

『開発論の系譜』研究部会 活動報告(3年目)(2026年8月)

開発論の系譜

The Genealogy of Development Discourses
  • 代表者:大山 貴稔(九州工業大学)
  • 副代表:汪 牧耘(東京大学)

3年目となる本年度は、これまでの部会活動の蓄積を踏まえた成果の練り上げと公開に力を注いできた。1年目及び2年目には、おおむね2か月に1回の頻度で研究会を重ね、話題提供者のライフヒストリーや制度史・学説史の検討を行った。そこでは、系譜を担う人的ネットワークや、知の翻訳/媒介を担う個人の役割、日本の内/外の境界を横断する実践などの論点を掘り起こした。最終年度にあたる本年度は、こうした議論の蓄積を対外的に開かれた場で問い直すべく、対面シンポジウムの開催とその企画準備を活動の軸に据えている。これまでの活動状況および今後の予定は以下の通りである。

シンポジウム「連続と変貌——『戦後』日本の開発協力」(2026年3月26日 13:30~16:30)

東京大学駒場キャンパス18号館ホールにて、東京大学東アジア藝文書院(EAA)の主催、本研究部会の共催により、標記のシンポジウムを開催した(Zoom併催、会場30名超・オンライン50名近くが参加)。部会ではこれまで、ライフヒストリーや制度史・学説史の検討を通じて、満洲開拓・引揚げの経験と青年海外協力隊前史との連なり、『拓殖学研究』から『開発学研究』への誌名変更にみる植民地研究との再定位など、「戦後」の開発協力を戦前期から切り離して語ることの限界が繰り返し浮かび上がってきた。また昨年度には、USAIDの実質的解体を受けた緊急セミナーを開催し、制度基盤の揺らぎに対する日本社会の応答をめぐる議論も重ねてきた。本シンポジウムは、こうした目の前の変化に囚われすぎないためにあえて「戦後」という長い時間軸を設定し、思想史・建築史・開発研究という異なる分野の研究者と実務者が一堂に会して議論する場として企画されたものである。

汪牧耘氏(東京大学)は趣旨説明において、開発協力をめぐる行政・資金・言説の環境が急速に変容するなかで「安定的な観測点」をいかに確保するかという問いを提示し、学際性の実質化と、研究と実務の関係の問い直しという二つの挑戦を本企画に込めたと述べた。講演では、中野敏男氏(東京外国語大学)が満洲の植民地経営における開発の経験と戦後経済政策との人的・認識的連続を跡づけて「開発独裁と開発援助の連携」の構図を提示し、市川紘司氏(東北大学)が戦後日本建築界におけるアジアのタブー化と経済的再進出との「ズレ」を指摘しつつ、賠償・援助・振興を横断する「援助建築」の展開を分析した。佐藤寛氏(開発社会学舎)は、非対称的な構造の持続を認めつつも、アクター・手段・心構え・言葉の各次元における変化の蓄積を跡づけ、USAID解体に象徴されるパラダイムの崩壊という現在の局面を論じた。これを受けて、稲場雅紀氏(アフリカ日本協議会)が寿町・沖縄・北海道の経験を手がかりに入植者植民地主義が日本国内においても作動してきたことを、米山泰揚氏(世界銀行元駐日特別代表)が世界経済に占める日本の位置の変化を示すデータと「賠償なき協力」の含意をそれぞれ提起し、会場からの問いかけも交えた総合討論が展開された(司会・ファシリテーター:大山貴稔・崎濱紗奈氏)。

閉会にあたって司会の大山貴稔は、戦前との連続性を視野に入れる視点が三つの分野から重層的に共有されたことを「到達点」、何が変われば構造が変化したと言えるのかという問いを「争点」、援助の受け手側の主体性や内なるフロンティア、不可視化されてきたものへの注目を「盲点」として全体を整理し、本シンポジウムを「戦後」という認識枠組みを相対化する知的作業の可能性を示す場として位置づけた。部会内で積み重ねてきた議論を学外の研究者・実務家・市民に開かれた討議へと接続するとともに、次に述べる総括シンポジウムの足場を据える機会となった。詳細は以下に掲載。

https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/events/sengonihon/

https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/blog/kaihatsutobungaku-10-blog/

総括シンポジウム「『国際協力』という時代とその後——複数の源流・収斂・再編(仮)」(2026年9月27日開催予定)

部会活動期間の締めくくりとして、標記のシンポジウムを2026年9月27日(日)午後に開催すべく、現在準備を進めている(会場は東京農工大学を予定・調整中)。

本シンポジウムの趣旨は次の通りである。「国際協力」は、時代を超えて存在する自明の理念ではない。農村教育、拓殖・海外移住、探検、人類学、青年政策、学生運動、当事者運動など、異なる来歴をもつ人びとと実践が、戦後のある時期に「国際協力」という名称のもとへ集まり、制度・職業・学問・運動からなる一つの領域が形づくられた。他方で現在、安全保障や国家戦略との接続、人口減少を背景とする外国人材受入れや国内地域課題への関与が進み、「国際協力」を取り巻く条件は大きく変化しつつある。本シンポジウムでは、誰が、何が、いかなる転機を経て「国際協力」になったのかを歴史的に跡づけたうえで、この歴史的枠組みが何を可能にし、何を見えなくしてきたのかを問い直し、そこから何を受け継ぎ、何を新しい言葉と実践へ翻訳しうるのかを討論したい。

二部構成を予定しており、第一部「誰が、何が『国際協力』になったのか」では、汪牧耘氏による企画趣旨説明に続き、大山貴稔氏・松本悟氏・北野収氏が、「国際協力」と名づけられる以前の実践やそこへの多様な参入経路、異質な実践が同じ名称のもとへ収斂していく過程について報告を行う。第二部「『国際協力』はいま、どこにあるのか」では、開発協力機関の内部、国際協力人材の育成・キャリア形成、市民社会・政策形成のそれぞれの現場に携わる論者を交えたパネルディスカッションを通して、行政的には拡張しながらも規範的・職業的な求心力が問い直されつつある現在の再編を検討する(登壇者は調整中)。

本シンポジウムは、初年度以来のライフヒストリー研究、2年目に浮かび上がった人的ネットワーク・翻訳/媒介・「内外」横断の論点、そして3月のシンポジウムで検討した戦前期との連続性の議論を、「国際協力」という領域そのものの生成と再編の歴史として束ね直す試みであり、3年間の部会活動の集大成として位置づけている。あわせて、部会活動を通して得られた知見をより体系的な成果として公開していくための検討も進めていきたい。


『開発論の系譜』研究部会
代表:大山 貴稔(九州工業大学)

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