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NL35巻2号 [2024.08]

第25回春季大会報告:企画セッション

座長報告:企画セッション

A2:大メコン圏(GMS)南部経済回廊における連結性強化の進捗と課題

  • 開催日時 6月15日12:45 - 14:45
  • 聴講人数:約30名
  • 座長・企画責任者:花岡 伸也(東京工業大学)
  • コメンテーター・討論者:藤村 学(青山学院大学)・松丸 亮(東洋大学)

【第一発表】メコン地域南部経済回廊設計方針の変遷

発表者

  • 小泉 幸弘(国際協力機構)

コメント・応答

  •  GMS経済回廊およびアジアハイウェイ網の進展を時系列に整理しているのは有益な情報、実際に走ってみての評価は、ユーザー視点として興味があるとのコメント。
  • 国道1号線無償区間でJICAがADB調査を見直した際の住民移転問題への対応を含む教訓について質問。プロジェクト実施に際しての住民の合意形成、移転対象家屋の最小化、移転補償費算出の際の単価設定、問題が生じた際の異議申し立て機能の設置など、ADBやNGOからのヒアリングも踏まえて対応してきたと回答。
  • 近年の中国支援高速道路などプロジェクトに対し、日本の「質の高いインフラ」からのアドバスはあるか、中国支援のプノンペン~ホーチミン高速道路に対するJICAのスタンスについての質問。前者について初期費用だけでなくライフサイクルコストの考えが重要であること、後者について、上位計画たるマスタープランで高規格道路の必要性を打ち出しており、それと整合性が図られていることが重要、個々には財政負担であったり環境社会配慮であったり、それらを注視していきたいと回答。
  • 「走りやすさ」という主観をどのように定量化し、客観化するか、これにチャレンジしてほしい、施工時の品質や、供用開始からの期間、その間の維持管理体制による違いなど設計思想以外の要因についてコメント。

【第二発表】 バベット(カンボジア)・モクバイ(ベトナム)国境の越境交通の現状と改善活動 ~JICA カンボジア物流システム改善プロジェクトの活動として~

発表者

  • 小林 謙一(国際協力機構)

コメント・応答

  • 調査成果を手際よい図表に整理していることから内容もわかりやすく、パイロットの成果も明確かつ課題も同時に示されており、興味深いとのコメント。
  • 調査結果から「片荷」状態であることが明らかになったが、カンボジア側で空コンテナが滞留しているのかとの質問。同国境を利用するトラック車両や運転手、コンテナは全てベトナム側手配によるものであり、カンボジア入国後、その日のうちにベトナム側に帰っているため、カンボジア側での空コンテナ滞留は見られないことを回答。
  • 国境オープンは24時間なのか、そうでないなら24時間化の可能性はあるのかという質問。同国境は朝6時から夜10時までのオープンであること、タイ・マレーシア国境では過去に24時間化の実験がされたが、深夜早朝時間帯は利用者が少なく、非効率であるため、24時間営業は継続されていないとの情報があること等回答。
  • トラックの到着時間を分散させる対策の導入が難しいのかという質問。時間の分散化は有効な方策であり、混雑時間帯を印刷するなど見える化して利用者に通知することを関係者と協議したことを回答(ただし、大多数のトラックの動きは、午前中にベトナムからカンボジア側へ、夕方にカンボジアからベトナムへという動きであるため、分散化には限界があることも説明)。

【第三発表】貿易円滑化措置の適用に関するアジア・アフリカの比較研究 ~制度面での連携性~

発表者

  • 徳織 智美(国際協力機構)
  • 根岸 精一(国際協力機構)

コメント・応答

  • アフリカ大陸での「制度上の」地域経済統合の歴史がASEANのそれより古いという事実は意外で、両者の比較考察は貴重、両者を強化するような知見も見えてきているので興味深いとのコメント。
  • そもそも動機に違いがある場合(地域統合と経済統合)、経済連携・統合といった点に着目して比較研究をする際の留意点はという質問。政治・外交的動機に基づく地域統合へのイニシアチブと、経済成長・経済開発への動機に基づく経済連携・統合と、出発点や目標がそれぞれの地域経済共同体により異なるものと理解。従って、各地域及び共同体が何を志向しているのかを注意する必要がある旨回答。
  • アフリカがEUをモデルとして「制度上」の統合でASEANに少し先んじたものの、域内物流・貿易・投資・ヒトの移動など「事実上」はASEANが先行しているのかという質問。域内貿易は2023年のUNCTADの統計では、アフリカが15%、ASEANが22.3%であり、ASEANの域内投資は全FDI(224.2BillionUSD)の12.3%。アフリカの全FDIは45Billion USDであるが域内投資は不明。アフリカの域内投資は不明なるも、貿易量及びFDI量はアフリカと比較してアジア地域の方が優位。ヒトの移動に関しては、ASEANでは熟練労働者のみ。アフリカのEACの場合、EAC パスポートがあれば域内を自由に移動ができ、ビザなしで6 か月まで滞在可能。ECOWAの場合も、ECOWASパスポートがあればビザなしで90日まで滞在可能等、ヒトの移動に関してはアフリカの一部の地域の方が先行と回答。

【第四発表】ODA による経済回廊整備が与えた民間企業の投資決定への影響分析 ~南部経済回廊でのインタビューを踏まえた考察~

発表者

  • 島野 敏行(国際協力機構)

コメント・応答

  • コロナ禍、ミャンマーのクーデター、米中対立激化、ウクライナ戦争などの影響があるなか、ODAによるメコン地域の連結性強化に向けてWin・Win条件を探るために本件のような経済回廊ごとの地道なステークホルダー調査の積み上げは貴重、「連結性」タスクチームによる柔軟な調査研究に期待とのコメント。
  • 域内経済の所得水準向上に伴い、企業立地は従業員の福利厚生や生活水準を考慮する必要があることを踏まえ、ニュータウン的インフラ整備の公的支援のあり方を研究する必要があるのではないかとの質問。交通指向型開発が注目を浴びているが、工業団地など製造業の後押しを行うためにも、面的な一体開発をいかに進めていくかを産官学で研究し、政策提言を行うことも一案。特に、今後の経済動向を踏まえ、インドを中心とした南アジア圏で更なる製造業の強化を進めるためには、民間企業が進出しやすいビジネス環境をソフト・ハードの両面及び住環境等の都市圏の開発とともに検討し、日本が官民一体的に開発を進めていくことが必要と回答。

総括

セッションの総括 企画者および発表者は、2023年10月にGMS南部経済回廊をホーチミンからバンコクまで2つの国境を越えて実走したメンバーである。

南部経済回廊の課題について、この実走の経験を踏まえ、それぞれの専門の立場からハードからソフトまで分野横断的に発表した結果、コメンテーターおよび聴講者から多数の興味深いコメントとそれに対する応答があり、大変充実した内容のセッションとなった。

本セッションを通じて、ある事象に対する課題の多様性とその解決方法には様々なアプローチがあることも示唆できたと言える。

報告者(所属):花岡 伸也(東京工業大学)


A3「足尾銅山問題を通じて開発を考える」

  • 開催日時:6月15日15:00 - 17:00
  • 聴講人数:約60名
  • 座長・企画責任者:重田康博(宇都宮大学)
  • コメンテーター・討論者 :髙橋若菜(宇都宮大学)

【第一発表】「足尾銅山開発の光と影を考える」

発表者

重田康博(宇都宮大学)

コメント・応答

多文化公共圏センター:
足尾継承の責務に、国際開発学の継承

  • 問題提起:歴史に学び、将来をどう展望するのか
  • 国家、市場、市民社会の図が起点

匂坂報告:
フレーミングから健康被害を始め、市民社会の視線が抜けていることを指摘

【第二発表】 「語り継ぐ足尾―「光と影」の継承―足尾町内の展示施設から―」

発表者

匂坂宏枝(宇都宮大学)

コメント・応答

展示施設のコンテンツ比較から、「光」に偏りがあり、さらに煙害以外の「影」が抜け落ちていることを指摘した。

その上で、宇都宮大学多文化公共圏センターでは「語り継ぐ足尾」という冊子を制作し、足尾銅山の「影」に注目していることを紹介した。

  • 質問:足尾銅山の「影」の部分で、可視化されていないものにはどういうものがあるのか?
  • 質問:住民自らが「影」を隠したがることも他の公害である。そのような状況で、「影」を残すにはどのような課題があり、どのように乗り越えられるのか?
  • 意見:隠したい企業側と明らかにしたい被害者側との二項対立のジレンマがある。
  • 質問:足尾町では「光」を選択して展示しているのであり、それはフレーミングではないのではないか。
  • 質問:誰が「影」を展示するべきなのか。

【第三発表】「田中正造と足尾銅山鉱毒問題―田中正造の憲法論を中心に―」

発表者

三浦顕一郎(白鴎大学)

コメント・応答

著書「田中正造と足尾鉱毒問題 土から生まれたリベラル・デモクラシー」から、(国家の責任)をどう考えるか。足尾銅山の問題は、「善と悪」の問題ではなく、開発における「光と影」の問題なのである。その「光と影」の双方を継承し普遍性を追求することが重要である。

  • 田中にとって政治とは、人民を幸福にする営みであり、政治家とはそうした営みに奉仕する人間であった。
  • 田中は政府の役割、責任を追求し続けた人物である。
  • 質問:不都合な歴史の不可視化を望む主体は誰か。
  • 質問:(重田報告にあった)国家・市民 社会・企業の中にある公共圏の役割をどのように考えるか。

総括

セッションの総括 ・本企画セッションは、2日目の足尾エクスカーションの前段階として行われた。
まず企画責任者の重田からは、本企画セッションのテーマ「足尾銅山問題を通じて問題を考える」の全体の概要、論点、期待される効果の説明を行い、3人の登壇者の紹介を行った。

  • 最初の重田報告は、「足尾銅山の光と影を考える」というテーマで、足尾銅山の意義、宇都宮大学の多文化公共圏センターの活動、今後の課題、特に公共圏の役割について説明した。
  • 第二の匂坂報告は、「語り継ぐ足尾―「光と影」の継承―足尾町内の展示施設から―」というテーマで、銅山の光と影のその継承の状況を報告し、公害経験の継承に関する先行研究を示した。さらに足尾町内の展示施設の光と影の展示状況についてフレーミングによる分析、考察をした。結論として、煙害へのフレーミングの問題点、足尾町の影の継承に向けての課題を実証した。
  • 第三の三浦報告は、「田中正造と足尾銅山鉱毒問題―田中正造の憲法論を中心に―」というテーマで、田中正造の鉱毒問題追及の論理(所有権、生命)、憲法と生命、正造にとっての憲法論議を紹介した。
  • それを受けて、討論者の髙橋会員の方から、国家、市場、市民社会における公共圏のあり方とその役割、足尾の影の可視化における課題についてコメントがあった。

以上の通り、本企画セッションでは、足尾銅山問題を通じて開発の光と影を検証したが、困難な公害問題を可視化し解決するためには、鉱毒被害にあった住民たちの救済のために、国家、市場、市民社会がそれぞれ協議し、合意形成を行い、共存・共生できる公共圏の形成を目指していくことが必要であろう。

報告者(所属):重田康博(宇都宮大学)


B1「日本型協力」の本質を問う-日本による国際協力の意味と役割に関する多面的検討

  • 開催日時 6月15日9:30 - 11:30
  • 聴講人数:約90名
  • 座長・企画責任者:山田肖子(名古屋大学)
  • コメンテーター・討論者:山形辰史(立命館アジア太平洋大学)

【第一発表】「日本型」開発協力の一考察-翻訳的適応の視点から

発表者

  • 大野泉(政策研究大学院大学)

コメント・応答

大野発表では、日本自身の産業開発や開発協力の経験をもとに、外国知識を導入する際に受容側が社会に内在的な視点でその内容を「翻訳的に適応」していくプロセスに着目し、日本型協力のモデルを検討した。大野発表では、日本の開発経験を共有するプロセスで、受け手の現地側が自らの制度・文化的やニーズに合わせ、翻訳的に学ぶ、その移転過程にこそ欧米型の国際協力にない日本型の特徴があるとみなした。

【第二発表】「日本型インフラ協力」とは?-日本によるインフラ協力の特徴と新たな価値付け

発表者

  • 松本勝男(国際協力機構)

コメント・応答

松本発表では、日本のODAの歴史からその協力モデルの特徴を抽出し、それを、国際協力によって、日本の経済安全保障にも貢献しつつ、支援対象国及び地域の開発課題に応えるインフラ支援の6つの特徴(借款、計画から運営維持管理まで一貫した支援、国境を跨る広域開発への貢献、日本独自の経験を多機関が連携して提供)を提示した。

【第三発表】日本の国際協力におけるNGO・「市民社会」の周縁化とその影響-社会開発における「日本型協力」の陥穽

発表者

  • 稲場雅紀(アフリカ日本協議会)

コメント・応答

稲場発表は、市民社会の立場から様々な政策策定プロセスに関わった経験をもとに、「日本型協力」という表現がもつ制約や違和感を論じた。「日本ならではの国際協力はない、もし日本にしかできないなら他国には移転できない」という強いメッセージとともに、むしろ普遍的で数値化できる課題に対する貢献の意義を指摘した。また、市民社会が周縁化されていることが、ネガティブな意味で日本型ともいえるとの指摘もあった。

【第四発表】「日本型教育」輸出の課題と可能性-ブランド・ナショナリズムを超えて

発表者

  • 興津妙子(大妻女子大学)

コメント・応答

興津発表は、文部科学省の「日本型教育の海外展開(EDU-Portニッポン)」事業に参加した団体の報告書等の分析をもとに、「日本型」とラベルを付けることによって表出する日本の国際協力当事者の自己認識と、支援される側についてのイメージの変化を論じた。このEdu-Port事業は、関わった人々が他者と交流する中で自己認識が問い直されることによって、日本の教育が相対化され、問い直される(還流する)効果を持つと指摘した。

総括

セッションの総括 「日本型」国際協力とは、まさに古くて新しいテーマだが、あまりにいろいろな場面で使われたために、何を意味しているのかも共通見解はない。本セッションは、象徴的に用いられる「日本型」という言葉を入口にすることで、その背後にある国際協力の理念や課題認識について議論することを目指した。
3つの発表に共通したキーワードである「日本型」につき、何か具体的で移転可能で客観的に測れる実態を持ったものなのか、それともそれはあくまでも価値観を曖昧に括ったイメージ的なものなのかについて、見解が分かれた。

大野発表では、日本の開発経験が移転されるプロセスに日本型の特徴を見出したのに対し、松本発表では、日本のODAの歴史からその協力モデルの特徴を抽出し、それを、国際協力によって、日本の経済安全保障にも貢献しつつ、支援対象国及び地域の広域的な開発課題に応えるインフラ支援の特徴を抽出した。稲場は日本型という言説の幻想を突き、興津は日本型協力が、むしろ日本の関係者の自己認識と日本の課題への気づきにつながると指摘した。また、指定討論者の山形からは、「日本型という表現は、日本企業が海外進出するための方便として用いられることが多いような気がする」、「日本型経済論や日本型経営論の文献蓄積の延長線上に日本型国際協力論があるのか、それとも国際協力に関する日本型は、そうした企業展開の議論とは別個なのか」といった質問が提起された。

このように「日本型」に対する立ち位置、論点の組み立て方は異なる一方、3名の発表者は、それぞれ援助側としての日本と被援助者の相互性を日本型の一つの特性として挙げている点で共通していた。ただし、その相互性をプロジェクト実施過程での現場レベルの人間関係の中に見出す比較的ミクロな視点(大野)もあれば、援助戦略としての日本と被援助国・地域の双方にとって利益のある協力という視点(松本)もあり、相互性を論じる位相にも広がりが見られた。興津が、日本型の国際協力を語ることの効果として、ミクロレベルの変化に焦点を当てつつも、それを協力対象の人々や社会ではなく日本に見出した視点は、参加者から賛同の声があった。

また、こうした日本型ありきでその内容をとらえようとする立場に対し、「日本型」というと、これまで【国益 VS. 人道】の二項対立的な議論に収れんしがちであったが、そもそも援助国としての日本の独自性を主張することに意味を見出さず、普遍的に達成するべき価値を目指すべきという指摘もあり(稲場)、これも参加者からはセッション中もその後も賛同の声が寄せられた。

それぞれ、専門の観点からの重厚な蓄積に基づいた発表だったが、それだけに議論の時間が足りず、このセッションで発信しようとしたことを参加者がそれぞれ咀嚼し、論じ合うための別の場が必要という印象であった。しかし、朝いちばんのセッションにも関わらず、満室の参加者を得て、事後にも様々な感想をいただき、思考を刺激する機会になったのであれば開催した意義があったかと思っている。

報告者(所属): 山田肖子(名古屋大学)


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