第25回春季大会報告:一般口頭発表-C
一般口頭発表
C1:公的領域の編成:選挙・リーダーシップ・国民意識
- 開催日時:6月15日 09:30-11:30
- 聴講人数:約20名
- 座長・企画責任者:小山田 英治(同志社大学)
- コメンテーター・討論者:小山田 英治(同志社大学)、栗田 匡相(関西学院大学)、大平 和希子(上智大学)
【第一発表】選挙不正への公務員の介入に関する分析:インドネシアにおける票の買収
発表者
- 東方 孝之(ジェトロ・アジア経済研究所)
コメント・応答
インドネシアにおける公務員による票の買収を村と区レベルに分類し、クライエンテリズムの側面より選挙不正への関与を定量的に明らかにしている。
コメンテーターからは民主化後に発生したクライエンテリズムに関する本研究は先行研究であるインドネシア議会選挙結果を取り上げたMartinez-Bravoを踏襲した形の分析であるものの、そこには新たな研究意義があるとしている。
また本研究で用いられたサンプルはジャワ島のみのため、インドネシア全土で行政区と村の公務員の選挙不正とクライエンテリズムの現状、さらには単発型のクライエンテリズムの様相、金品以外の買票行動などをより明らかにすることにより研究のインパクトも大きくなるのではとあった。
【第二発表】1991年複数政党制再導入後のケニアにおける政治的代表―キクユ・ポリティクスにおける「持てる者」と「持たざる者」との相克―
発表者
- 平野 雄太 (京都大学)
コメント・応答
本発表は、冷戦後の多民族国家における資源分配の問題に対する解決策に関して示唆を得るため、1991年の複数政党制選挙再導入後のケニアにおける政治的代表制について検討する。具体的にはケニア政界の覇権を握り続けた民族集団キユク人政治家2名(ポール・ムイテと、ムワイ・キバキ元大統領)を文献と聞き取り調査を通じて分析している。
キバキがキクユ・コミュニティ全体を政治的に代表している政治家であるが故に、有権者が自身に半ば盲目的にでも投票してくれさえすれば、同コミュニティへの優先的な資源分配が確約されるという。対してムイテは、キバキら大物キクユ政治家が実際に政治的に代表するのは一部の富裕なキクユ人のみであり、キクユ・コミュニティ全体へは資源は分配されないと言う。
両者の主張の食い違いは、①部分代表をめぐる是非とその「部分」の範囲、②認識上の「公共領域」の範囲、の二点をめぐる両者の認識的相違に起因すると結論付けている。それに対し、アフリカや他国の事例の比較の必要性、アフリカが変遷している中における本研究の位置づけ、政治史的手法で現研究を深化させることもありなどといったコメントがでた。
【第三発表】途上国工業化の失敗に関する考察:国家指導者による「野心的な」工業化ビジョンとその後の製造業部門の停滞と減速局面の変遷
発表者
- 天津 邦明 (慶應義塾大学)
コメント・応答
本発表は、戦後途上国で現実の工業部門と乖離した野心的工業化ビジョンが打ち出された中、工業化の初期段階でビジョンと現実との乖離を縮小できた国はその後工業化に成功する一方、縮小できなかった国は長期にわたる工業化の停滞に陥ったという博論の仮説の中で、対象国を工業化の成功国と失敗国に仕分けし、ビジョン下の「野心的な」工業化を推進した国と「無残な結末」になった分析部分に焦点にあてたもの。
コメンテーターからは、このビジョンに焦点をあてさらに深めると有用な研究となるという前提で、ビジョンがどのように工業化に関わり、因果関係の証明になっているのか、研究対象時期は歴史的に国際政策が内向きになった時期でもあり、対象国以外の国のデータを取った上で、因果関係を含めさらに深い研究をするのが良いのではないかなどのコメントがでた。
【第四発表】Reforms in Public Sector for Curbing Corruption in Bangladesh
発表者
- Monirul ISLAM (Yokohama National University)
コメント・応答
バングラデシュにおける公共セクター汚職の要因と解決策について発表している。コメンテーターからは、バングラデシュの汚職対策における市民社会との連携は良好であり、政府の諸制度はすでに構築されているものの、長年汚職は削減されていない。
その主たる理由は機能的な汚職対策機関の不在と汚職と闘うための強い政治的意志の欠如である。現大統領は元汚職対策委員長であり、それを通じて汚職を削減させるリーダーシップを発揮するか、汚職取締機関を政治的に濫用するかは大統領次第であると説明があった。
【第五発表】The challenges of nation building and citizenship education in Madagascar: A reflection on the plural identities of Malagasy people
発表者
- Andriamanasina Rojoniaina RASOLONAIVO (Osaka University)
コメント・応答
マダガスカルにおける国家建設を歴史から紐解き、学校教育がそれにどのような貢献を及ぼしているか考察したもの。他民族、過去の植民地化、劣悪な統治制度が国家建設を歴史的に挑戦的なものとし、教育を通じても複数存在するアイデンティティを一律そして平等に推進することの困難性について報告している。
それに対し、農村民は国家アイデンティティ自体について十分な知識と理解がないのでは、さらには国家アイデンティティを国家レベルで議論できるのか疑問であるというコメントがあった。これに対し、確かに農村民は意識をしていないとの回答があった。
総括
セッションの総括 本セッションでは「公的領域の編成:選挙・リーダーシップ・国民意識」の共通テーマのもと、アジア(インドネシア、バングラデシュ)、アフリカ(ケニア、マダガスカル他)における国別研究を計5名の発表者が政治学、公共政策学、教育学、経済学、歴史学などの分野を中心にそれぞれ報告がされた。
発表者は実務家、修士・博士課程の院生など入り混じったものであり、3名が日本語、2名が英語での発表となった。東方会員と天津会員は定量分析を用い、Rasolonavivo会員、平野会員、Islam会員はインタビューと文献調査を通じての研究成果発表であった。
各発表者は15分、コメンテーターは5分の配分であった。時間の関係上、フロアからの質疑応答時間を設ける余裕はなく、各自発表とコメンテーターのコメント、そしてそれに対する簡単な回答のみと限定的なものとなった。
セッションは進行過程において日英2カ国でそれぞれ同じ説明をする必要性もあり、想定外に時間を有した。遠方より足を運んで来られた発表者にとってはセッションに参加していた会員との間で意見交換の場が設けられなかったことは残念であるが、コメンテーターの有意義なコメントや助言に基づき研究を深化させてもらいたい所存である。
C2:教育の開発的効果:幼児・就労・現地性
- 開催日時:6月15日 12:45 - 14:45
- 聴講人数:約30名
- 座長・企画責任者:川口 純(慶応義塾大学)
- コメンテーター・討論者:川口 純(慶応義塾大学)、大塲 麻代(帝京大学)、小川 未空(大阪経済大学)
【第一発表】自主学習教材による認知能力と技能スキルの改善:インドネシアとモロッコの職業訓練校における社会実験の成果より
発表者
- 栗田 匡相(関西学院大学)
コメント・応答
コメント、質問:職業訓練は一般に研修費用も高い中で本事業は非常に費用対効果も高いと拝察した。単に学習内容を教え込むだけでなく、学習習慣を身に付けることで自己研鑽の持続性も効果として考えられる。
質問は2点で、①自己学習の課題の1つとしてどうしても「ばらつき」が大きくなりやすいのではないかと懸念する。つまり、やる人はやるけど、やらない人はやらないということが往々にしてあるのではないか。本ご発表では男女差、年齢差、ばらつきが無さそうに見えるが何か工夫、仕掛けがあったのか、どうか教えて頂きたい。
回答:不真面目な参加者ももちろんいるが、全体的に定期的なモニタリングをするなどの工夫をしていた。
② 数学の学力と技能スキルの関係性について:数学の学力が伸びたこと自体が技能スキルが伸びることに直結したのか、もしくは学習の“過程”自体にも価値があったのか。
回答:認知能力の伸長だけでなく、非認知能力の伸長もあったと考えられる。そこを切り離して議論することは難しいが、相乗効果があると考えられる。
【第二発表】マラウイの就学前教育における保育者の自発的な教育実践
発表者
- 谷口 京子(広島大学)
コメント・応答
コメント、質問:就学全教育に対する関心の高まりに対し、実際の教育状況についてほとんどデータがない現状において、複数の教育施設を実際に訪問したうえで、保育者やコミュニティの関係者へのインタビューを行ったほか、丁寧な授業観察により、実際の現状を明らかにした興味ビ回報告であった。
質問は主に2人で、①誰がなぜ、どのような目的で保育者となるのか、②教育施設の目的はどこにあるのか、教えて頂きたい。
回答:①コミュニティに貢献したいという思いが強い。30代の保育者については、学校を終えたものの就職先が見つけられない場合にボランティアとして勤務していることが多い。また、育児をしていて、午前中だけボランティアをするという事例もみられる。特に30代については入れ替わりが非常に多かった。②就学率が50%程度であるため、小学校も特に就学前教育施設に大きな期待をしているわけではない。
【第三発表】Parental Involvement in Early Childhood Development and Child Outcomes in Vietnam: A Household fixed-effects analysis
発表者
- Jean-Baptiste SANFO (The University of Shiga Prefecture)
- Keiichi OGAWA (Kobe University)
- TRUONG Thu Ha (Vietnam National University)
コメント・応答
Comments: The importance of parental involvement in early childhood development has been pointed out in the past, but this study was significant in that it shared new knowledge about the importance of involvement by other family members. Questions were raised in relation to: (1) the definition of ‘involvement’, (2) gender differences in school readiness, and (3) the linkage between involvement and school readiness. The presenter appropriately responded to all the questions that there were some limitations in findings due to the nature of the study.
【第四発表】The Pathway from Education to Work in Madagascar: Focusing on Young People from a Favorable Environment
発表者
- Fanantenana Rianasoa Andriariniaina (Osaka University)
コメント・応答
Comments: Since knowledge of transition from schooling to work in developing countries is still limited, this study provided important findings, which were based on a field study. Questions were raised in relation to: (1) the local definition of ‘successful transition’ and (2) the extent of difficulty in getting a job for those who do not have network or support from family members etc. The presenter responded that the stability was an important perspective, however, further research would be needed to explore the local definition and to answer to the second question.
【第五発表】University Practices and Lecturers’ Perceptions on Integrating Industry-Related Skills in Pre-service Training for TVE Teachers: The Case of a Ghanaian University
発表者
- Andrew Charles FRIMPONG(Utsunomiya University)
コメント・応答
Comment: Qualitative interviews with lecturers at universities that train TVE teachers bring to light divergent views on the pros and cons of increasing practical subjects; results of the study are suggestive for other countries, asking whether TVE should emphasize pedagogy or practical experience. Questions include, first, how differences of opinion about the importance of practical subjects arise, and second, what are the plans for future research. As for the answers, regarding the first, we obtained that in ordinal senior high schools, pedagogy is emphasized, while in purely vocational training institutions, practical experience tends to be emphasized. Regarding the second, related to the first, the importance of clarifying to each school about its needs was mentioned.
総括
全体総括は時間の関係もあり、実施していない。日本語と英語が混在する難しいセッションではあったが、精力的な研究発表とコメンテーターの質の高いコメント、質問により、充実したセッションとなった。
教育の「効果」を如何に把捉するのか、非常に難しい課題であるが、意欲的な研究発表がなされ、フロアの参加者とともに議論を深めることが出来た。効果を「結果」で捉えるのか、「成果」で捉えるのか、前提や定義に若干の揺らぎが確認されたことは今後の課題としたい。
報告者(所属):川口純(慶応義塾大学)
C3:貧困へのアプローチ:社会的態度・民間センター・デジタル化 “Approaches to Poverty with regard to societal attitudes, the private sector, and Digitization ”
- 開催日時:6月15日 15:00-17:00
- 聴講人数:約45名
- 座長・企画責任者:新海尚子(津田塾大学)Naoko Shinkai (Tsuda University)
- コメンテーター・討論者:石戸光(千葉大学)、池見真由(札幌国際大学)、加治佐敬(京都大学)、新海尚子(津田塾大学)
【第一発表】“Regional Educational Disparities in China: A Dagum’s Decomposition of the Gini coefficient“
The first presenter, Mr. Li Feng at Chuo University presented on the effect of the hukou system on education inequalities in China. He examined the Gini inequalities of four subgroups, Rural Hukou, Urban Hukou, Rural Hukou converted to Urban Hukou, and Rural Hukou living in the urban areas, using the 2017 CHIFS (China Household Finance and Southwest University), and decomposed those inequalities based on the Dagum’s decomposition methods. Then, he concluded that inequalities between subgroups contributed a lot to the entire education inequality in China and stressed the influence of the hukou system in education inequalities.
発表者
- Li Feng (Chuo University)
コメント・応答
The commentator of this paper, Naoko Shinkai at Tsuda University, praised the rather novel application of the well-established decomposition methods, which are often used for income inequalities, to the important dimension of the society, such as education. She then asked the interpretation of the overlapping part of the decomposed Gini coefficients in education inequalities and additional regional differences in some characteristics of education, such as high school completion rates, enrollment rates in private and public schools, other than the average years of schooling among subgroups.
【第二発表】“Shaping societal attitudes towards the impoverished: the role of aporophobia indicators”
The second presenter, Dr. Octasiano Miguel Valerio Mendoza at Universitat Ramon Llull, introduced the fairly new concept regarding poverty, aporophobia, the fear or rejection of the poor and the newly developed indicators to acquire the degree of aporophobia at various levels, Macro, Meso-macro, and Micro. He demonstrated the relationship between aporophobia and key socioeconomic variables, such as income per capita, income inequality, religiousness, the level of education, political system etc. at the country level. He also exhibited the result at the micro level and stated that females and the youth are less likely to be aporophobic.
発表者
- Octasiano Miguel Valerio Mendoza (Universitat Ramon Llull)
コメント・応答
Professor Ishido discussed this paper. He made a compliment to him, saying that this paper made a great contribution to the research on poverty. Then, he raised some points, such as the application of a Principal Component Analysis to sort out key dimensions, such as a possibility of fear of poverty infection, and the need of disentangling rational parts from possibly irrational components of the fear of the poor.
【第三発表】“The Role of the Private Sector in Poverty Reduction-Analysis of Case Study in Africa”
The third presenter, Ms. Hiromi Inami at the JDI, presented on the private sector’s role in poverty reduction in Africa. She reviewed articles on business and poverty in international development and identified important factors for poverty reduction, such as job creation, income generation, infrastructure development, and access to basic services. She interpreted these factors in the trickle-down economies and inclusive growth models. She concluded that the role of the private sector in poverty reduction in Africa is quite large and yet an effective governance mechanism is crucial.
発表者
- Hiromi INAMI (JDI)
コメント・応答
Professor Ikemi, the commentator assigned for this paper, raised three points: the clear definition of poverty reduction is missing in the paper; the private sector’s contributions can be compared with the other roles played by different institutions, such as governments and NGOs; the original contribution of this paper should be articulated.
【第四発表】”What do micro-enterprises exist for? The profitability context of micro-enterprises in Sri Lanka”
The fourth presenter, Mr. Sanjeewa at Utsunomiya University made a presentation on micro-enterprises in Sri Lanka and the effect of financial and non-financial components on the stagnation of micro-enterprises. He applied the mixed method. First, he presented the result of the quantitative analysis, based on the primary data of micro-enterprises in four regions in Sri Lanka. He concluded that the age of owners, firm age, and total liabilities influence the firm profitability significantly. In terms of the qualitative analysis, he found that household activities and cash inflow were the main purpose of the establishment of micro-enterprises and making profits may not be the main.
発表者
- Sanjeewa POLGAHAGEDARA Don PUBUDU (Utsunomiya University)
コメント・応答
Professor Ikemi discussed this paper. She asked about the increase in employment in the informal sector in Sri Lanka, which may not have been produced by micro enterprises and the contribution of family micro enterprises to the whole economy. She also asked what may solve the liquidity traps of micro enterprises in Sri Lanka.
【第五発表】
The fifth presenter, Mr. Shunji Oniki at the Japan International Research Center for Agricultural Sciences, shared his research findings on the digital divide in agriculture in Ethiopia. He applied the mixed method to investigate the way of dissemination of agricultural techniques/skills, such as the proper amount of fertilizer, when not all the farmers have digital devices. He selected two provinces where the literacy rates and the prevalence rates of mobile phones are about 50%. Based on the focus group discussions, although he found a possibility of using mobile phones to disseminate agricultural techniques, he concluded that the degree of agricultural extensions is unclear. Then, he applied the ordered probit model to the primary data of randomly selected farmers in those provinces. He concluded that altruistic motivation has a stronger and significant effect than the financial motivation on agricultural extension.
発表者
- Shunji Oniki (JIRCAS)
コメント・応答
Professor Kajisa was assigned to make comments on this paper. He stressed the importance of the characteristics of crops and geographical location in agricultural extension and asked for more explanation in those aspects. He also suggested the interactive term of the financial motivation and altruistic motivation to observe the substitutability between those motivations. He also raised the point on the compatibility of agricultural information.
総括
After all the presentations and comments by discussants, a floor discussion was made as much as time allowed. All the presentations were rich in content and provided good opportunities for further research. About forty-five people attended the session. I am grateful for all the presenters, discussants, participants, and the 25th JASID Spring Conference Organizers for having enabled this fruitful session.
報告者(所属):Naoko Shinkai (Tsuda University)
そのほかの座長報告(一般口頭発表)
- 第25回春季大会報告:一般口頭発表B
- 第25回春季大会報告:一般口頭発表C
- 第25回春季大会報告:一般口頭発表D(+オンライン)
- 第25回春季大会報告:一般口頭発表F