『移住と開発』研究部会 2025年度(2025年10月-2026年9月)活動報告
『移住と開発』研究部会
- 代表者:加藤 丈太郎(明治学院大学)
- 副代表:生方 史数(岡山大学)、二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)
「移住と開発」研究部会とは
移住と開発が相互に結びつきを強めている旨をNyberg-Sorensen, N et al.(2002)はThe Migration-Development Nexusという語と共に表す。SDGsにおいても「移民」が具体的に言及されるようになった。日本社会においても、コロナ禍を契機にJICAやNGOなど国際開発に携わってきた組織が日本国内に暮らす移民を新たに支援する動きが広がっている。
しかし、日本においては移民研究と開発研究はこれまで別個に発展しており、相互の結びつきは弱かった。そこで、移民研究者と開発研究者が集い、自由に議論を行うためのプラットフォームとして、2023年10月に本研究部会を立ち上げた。
2025年度(2025年10月-2026年7月)活動報告
本研究部会では、2025年10月から2026年7月までの期間に、全国大会でのラウンドテーブルと1回の研究会を開催した。研究部会設立3年目にあたる今期は、東南アジアと日本をつなぐ移住者の経験に焦点をあて、技能移転、ケイパビリティの拡張、送り出し社会への開発効果を具体的な事例から検討した。また、2026年9月13日(土)には、第6回研究会を開催し、これまでの活動を総括する予定である。
全国大会ラウンドテーブル
「移住と開発」研究の架橋に向けて―東南アジアと日本をつなぐ移住者の例に学ぶ
日時 2025年11月30日(日)12:40-14:40
形式 対面
会場 広島大学IDEC棟203
参加者 21名
報告1
「技能移転とケイパビリティの拡張を可能とするには―ベトナムに帰国した元技能実習生のケーススタディから」
加藤丈太郎(明治学院大学)
報告2
「帰国したベトナム人介護福祉士による祖母の介護に関する事例研究:ミクロな実践プロセスが映し出す「移住と開発」の可能性」
比留間洋一(静岡大学)
報告3
「技能実習生送出国の地方自治体による国際労働移動の推進―フィリピン・ベンゲット州の農業振興に向けた戦略」
二階堂裕子(ノートルダム清心女子大学)
コメンテーター
佐藤 寛(開発社会学舎)
本ラウンドテーブルでは、三つの実証研究を通じて、移住者が日本で獲得した技能・知識・社会関係が、帰国後の生活や送り出し社会においてどのように再構築されるのかを検討した。
加藤報告では、ベトナムに帰国した元技能実習生の職業経路をたどり、技能だけでなく、ブルデューの資本概念を媒介にケイパビリティの変化を可視化した。討論では、技能実習制度の成果を評価することが制度の構造的問題を覆い隠す危険性に注意しつつ、個人の動機、専門性、実習内容と帰国後の仕事との産業的連続性が技能移転を左右することが確認された。また、リクルート段階で給与や勤務地に加え、将来展望や技能活用の意図を含めたマッチングを行う必要性、研修施設・宗教施設・職場ネットワークなど複数の場を通じて形成される社会関係資本の重要性が指摘された。
比留間報告では、日本で介護福祉士として働いたベトナム人女性が、帰国後に祖母を介護する過程を取り上げた。コメントでは、事例研究における「発見」の重要性が強調され、身体的な介護技術だけでなく、心のケアの不足を見いだした点が注目された。また、日本で得た介護の知識や実践について、ケアの方法、器具、心構えなどの項目ごとに、移転できるものと移転しにくいものを整理する必要性が示された。
二階堂報告では、フィリピン・ベンゲット州の地方自治体による国際労働移動の推進を、農業振興との関係から検討した。質疑では、外国人労働者と地域住民の関係には就労先社会の歴史的・文化的背景が影響しうること、技能移転を実現するためには、就労先企業が送り出し社会にとって有益な技能・知識を理解する必要があることが指摘された。さらに、送り出し社会のニーズを把握し、その情報を就労先企業と共有する仕組みの不在が課題として挙げられた。
三報告はいずれも限定されたケースに基づくものではあるが、事例を丹念に追うことで、制度、地域、家族、個人の主体性が交差する社会過程を可視化した。個別のケースを「例外」として扱うのではなく、社会構造を照らし出す入口として分析することが、「移住と開発」研究を架橋するうえで重要であることが共有された。
第5回研究会
日時 2026年6月6日(土)13:00-17:00
方法 対面を中心としたZoomとのハイブリッド形式
会場 ノートルダム清心女子大学 セント・ヨゼフホールB棟2200 JB
報告1
「還流人材による技能移転の可能性―ベトナム人技能実習生を事例に」
二階堂裕子(ノートルダム清心女子大学)
Truong Buu Diep(岡山大学農学部4年生)
ベトナム人元技能実習生(ベトナムからオンライン参加)
ベトナム人技能実習生の元就労先農家
報告2
「インドネシア人技能実習生の移住経験とケイパビリティ」
ワオデ ハニファー イスティコマー(ソシエタス総合研究所研究員)
第5回研究会では、ベトナムとインドネシアの技能実習生をめぐる二つの報告が行われた。
第1報告では、二階堂会員とTruong Buu Diep氏に加え、ベトナム人元技能実習生とその元就労先農家が登壇した。ベトナムの事例を対象に、「還流人材」による技能移転の可能性を、帰国者側と受け入れ側の双方を含む構成で検討した。特に、元技能実習生が日本での経験を活用し、帰国後に農業経営を展開している現状をふまえて、それを実現させた条件を多面的に議論した。こうした学術研究会の場に、元技能実習生とその就労先事業者が参加して論点を提示する機会は稀有であることもあり、活発な質疑応答が行われた。
第2報告では、ワオデ ハニファー イスティコマー氏が、インドネシア人技能実習生の移住経験をケイパビリティの視点から取り上げた。ワオデ氏は、日本での就労志向が、費用やジェンダー化された労働市場といった構造的要因だけでなく、家族の経験や期待といった社会的影響によっても形成されることを論じた。さらに、現行の特定技能制度が、インドネシアの就労希望者にとって、必ずしも長期滞在は合理的選択とはならない可能性を指摘した。本報告をふまえて、今後の育成就労制度が孕む課題をめぐり、議論が展開された。
二つの報告を並べることで、技能実習を日本滞在中の就労経験に限定せず、帰国後の技能活用と、移住経験が本人にもたらす変化の双方から捉える構成となった。全国大会で扱った技能移転、ケア、地方自治体の役割と合わせ、移住者個人と受け入れ側・送り出し側の関係を横断的に考える機会となった。
第6回研究会(予定)
日時 2026年9月13日(日)14:00-16:45
方法 簡易なハイブリッド形式(対面+オンライン)
会場 明治学院大学 社会学部付属研究所 多目的ルーム(定員24名)
第1部(14:00-15:10)
「移住労働者の児童の就学促進事業」成果報告
岩品雅子(笹川平和財団)
第2部(15:20-16:45)
「移住と開発」研究部会総括
加藤丈太郎・二階堂裕子・比留間洋一
第6回研究会では、第1部において「移住労働者の児童の就学促進事業」の成果報告を行う。第2部では、加藤丈太郎、二階堂裕子、比留間洋一が「移住と開発」研究部会の活動を総括する予定である。
以上
『移住と開発』研究部会
代表:加藤 丈太郎(明治学院大学)
