第27回春季大会報告:ラウンドテーブル–D
D1:包摂的な国際開発アーキテクチャー形成に向けた新興開発パートナーとの知識共創の可能性
- 開催日時:6月27日 9:00 - 11:00
- 聴講人数:約25名
- 座長・企画責任者:亀井 温子(独立行政法人 国際協力機構(JICA))
- コメンテーター・討論者:近藤 久洋 教授(埼玉大学大学院人文社会科学研究科)、佐藤 仁 教授(東京大学東洋文化研究所)
【第一発表】新興国による開発協力:高まる重要性、未だ見えない包摂的アーキテクチャー
発表者
- 阿久津 謙太郎(独立行政法人 国際協力機構(JICA))
コメント・応答など
本発表では、新興開発パートナーによる南南協力の重要性の高まりと、非拘束で自発的かつ多様性を尊重する新しい国際開発アーキテクチャーの必要性を指摘した。それに対し、質疑では、以下のやり取りが行われた。
(質問1)南南協力・三角協力におけるJICAの貢献、それによる効果はどこまでレビューされているのか。
→(阿久津)参考文献リストにも挙げているが、2012年にJICA緒方研究所ではケーススタディレビュー(JICA緒方貞子平和開発研究所(2012)「Scaling Up South-South and Triangular Cooperation」)を発刊している。加えて、中南米地域に特化した調査が今後実施される予定。
(質問2)日本は、今後どこまで南南協力を支援していくのか、どこかで手を引くのか。
→(亀井)三角協力はこれからも続いていくと想定。リソースの制約のなかで、むしろ広域案件形成への追い風がある。「いつ独り立ちできるのか」は議論が必要だが、双方向的関係として継続していくと思われる。
(質問3)新興ドナーの増加によりプロセスが複雑化すると、受入国にとっては負担が増えるのではないか。
→(阿久津)2000年代はパリ宣言に始まる援助効果向上の議論の中、ハーモナイゼーションやアラインメントが重視され、一般財政支援が最も望ましいとまでされていたが、2010年代以降は下火になった。現在、ドナー多様化により受入国負担が再び増大する可能性があるという点はご指摘のとおり。
(質問4)①新興国との付き合いにおいて、ODAというDACの定義の中に留まっていると見えてこないものが多いのではないか。例えば、湾岸ドナーの資金協力で最大なのは中央銀行間の預け金であるし、日本とアジアの関係で言えば外貨準備のスワップ等の政策的枠組みも重要。このように、援助形態ではない取引が大きな部分を占めている。
→(阿久津)開発資金を広い流れで捉えようとする動きは、国連主導のFfD会議や、本稿で取り上げたDAC発のTOSSDもあるが、どこまで従来の伝統ドナー枠組みから脱却できているかは疑問。緒方研として今後知識共創プラットフォームを作り出していきたいと考えており、ご指摘の各国財務省の動きなど援助形態以外のものも含め、視野を広く持って考えていきたい。
【第二発表】新興開発ドナーによる開発協力の現在地:インドネシア、タイの開発協力を事例として
発表者
- 遠藤 慶(独立行政法人 国際協力機構(JICA))
コメント・応答など
本発表では、インドネシア・タイにおける新興開発パートナーの現状や援助哲学、課題等を包括的に紹介しつつ、日本がそれら新興開発パートナーとどのように協働を推進し得るかについて論じた。それに対し、質疑では、以下のやり取りが行われた。
(質問1)日本政府は開発協力においても国益を重視するようになってきているが、どれだけ現場から上がってきた声をJICAの協力に反映させられるのか。
→(遠藤)国益は二国間協力である以上、切り離せない部分ではあるが、過度な国益重視は受入国側から反発を招くリスクがある。当方が駐在しているネパールでは、中国・インドが競争的に影響力を拡大し、援助においても国益を重視した競争的な動きがあると指摘されている。日本も過度に国益重視の行動を取れば、信頼を失う恐れがある。受入国の立場に立ち、なぜ日本の技術を使う必要があるのか、丁寧に説明する必要がある。また、環境社会配慮などの面で、日本、DACの理念・規範を受入国側がどこまで受け入れられるかも論点になろう。
【第三発表】新興開発パートナーとの知識共創とサーキュラー協力 ー中南米における可能性 ー
発表者
- 鳴海 ゆきの(津田塾大学)
コメント・応答など
本発表では、中南米地域における知識循環の実践を分析し、サーキュラー協力を知識共創の分析視角として捉える意義と、JICAへの示唆を論じた。それに対し、質疑では、以下のやり取りが行われた。
(質問1)南南協力から日本が得られるメリットは何か。また技術協力では実績があっても借款ではあまり実践例を聞かない。現場ではどう考えているか。
→(鳴海)中南米向け予算は限定的であるなか、南南協力には予算を効率的に使えるメリットがある。また、第三国の経験を活用することで、受益国にとっても日本の技術をそのまま移転するより、地域の制度・文化・言語に合った形で受け入れやすい。
【指定討論者とのディスカッション】
指定討論者
- 近藤 久洋 教授(埼玉大学大学院人文社会科学研究科)、佐藤 仁 教授(東京大学東洋文化研究所)
ディスカッション総括
上記3つの報告に対して、それぞれ以下のコメントをいただいた。
近藤久洋教授(埼玉大学)
- 知識共創は、「開発知」の多極化を踏まえた新興開発パートナーとの関係構築の取組として妥当。ただし、知識共創がすべての新興開発パートナーに適合するとは言い切れない。また、新興開発パートナーの能力強化支援も重要。資金リソース不足への対応として三角協力や協調融資、制度能力の強化に向けたドナー化支援も必要。
- 上記の前提はありつつ、今後の新興開発パートナーとの知識共創を目指していく上では、被援助国から援助国に転換した経験を有し、且つDACメンバーでもある日本が多様な開発経験を繋ぐ媒介者となりうる。同時に、知の階層的序列(知識の正当性を誰が決めるのか)は今後の課題。
佐藤仁教授(東京大学)
- 中国に偏りがちな新興国ドナー研究の中で重要な意義を持つテーマであり、実務の開発協力がどのような新たな視点を提示できるのかを示すことが重要。
- その上で、新興国援助の持続性と日本の長期的関与の観点からは、①援助の持続性を支える新興国内のODAへの理解・関心の基盤の有無、②援助受入国側の視点(外交関係含め)、③タイTICAにみられる援助機関の人事・組織上の行政的制約と専門性形成の課題、④自らの開発経験の負の側面(例:大規模開発に伴う公害など)、が今後考えるべき論点として挙げられる。
総括
大野泉名誉教授(政策研究大学院大学)より次を指摘。国際開発アーキテクチャーの多元化の中で、新興開発パートナーの多様な「開発知」を持ち寄り知識共創する意義を確認できた。その際、知識の「中身」にも着目する必要があり、日本は新興開発パートナーの能力強化や、理論と実践知を往復させつつ負の経験も含めた相互学習する場づくりに貢献すべきである。
報告者(所属):大野泉名誉教授(政策研究大学院大学)
D2:アジアにおける障害児のインクルーシブな教育と就労にかかる国際的介入への考察
-ネパール、パキスタン、モンゴルの事例から-
- 開催日時:6月27日 11:15 - 13:15
- 聴講人数:約16名(対面12名、オンライン4名)
- 座長・企画責任者:高柳妙子(長崎大学)
- コメンテーター・討論者:高柳妙子(長崎大学)
【第一発表】モンゴルにおける障害者の就学・就労を支えるインクルーシブ支援システム
-環境整備・啓発・制度化の実践から見えたポイントー
発表者
- 磯部陽子(コーエイリサーチ&コンサルティング)
学会オンライン対応による、動画での発表。
コメント・応答など
ジョブコーチの支援員が手話通訳者だが、通訳だけでなく、ジョブコーチとしての専門性が必要。また、通訳者が権限を持ってしまうのではという懸念がある。同ポジションには、ろう者の家族がつくことが多い。(JETRO森氏)➡ジョブコーチは利用者の主体性を尊重する研修を受けている。また、モンゴルではジョブコーチが単体の職業として成立するだけの手当が保障されていないため、すでに障害者支援などの職を持っている人がジョブコーチを担っているという事情がある。(堀場)
【第二発表】ネパールにおけるインクルーシブ教育の構造的課題
-通常学級における知的障害児の「実質的包摂」の再検討-
発表者
- 堀場浩平(国際開発センター、広島大学大学院博士後期課程)
コメント・応答など
- 堀場発表はインクルーシブ教育がストレートには適用できないという主張であり、池田発表は当事者の声だけでなく保護者の声を重視するというものであり、障害学に対する逆説の部分がある。現場では理屈どおりに機能せず、正論である。障害児それぞれの特性に応じてカスタマイズする必要がある。(APU山形氏)
- 当事者の問題を指摘したい。教員に障害当事者が含まれていないことを懸念する。ろう児が聴児のみの学級で学ぶことで同じ障害のある児童との機会を失ってしまう。(JETRO森氏)➡発表では割愛したが、事例紹介した学校のうち、難聴の女児のいる学級にはほかにも聴覚障害のある児童が在籍している。また別の事例の学校では、リソースクラスの教員が下肢障害を有している。インクルーシブ教育の妥当性を検討するうえで当事者の問題も重視したい。(堀場)
- 西側の理屈で作られている面があるインクルーシブ教育を、別の土壌に持ち込むことに無理があるのではないか。また、インクルーシブ教育が対象としているのは通学できている障害児であり、通学すること自体に困難を抱えている児童もいるのではないか。(山口大麻田氏)➡指摘のとおりだと考える。そうした面を含めて途上国におけるインクルーシブ教育を批判的に捉えなおしたい。(堀場)
【第三発表】パキスタンにおける インクルーシブ教育推進と保護者の役割
発表者
- 池田直人(押鐘サイエンスラボ、難民を助ける会)
コメント・応答など
- 主体性における、障害児の親という視点の重要性に考えさせられた。(APU山形氏)
- 障害者権利条約のパラレルレポートの提出がゼロであることに驚いたとともに、同レポート提出にかかる強化の必要性を感じた。(JETRO森氏)
- 様々な障害のある子どもたちの集いについて不思議に感じた。同じ障害のある子どもたちで集まることが大切なのでは?(JETRO森氏)➡ろう学校・児童生徒・保護者とのつなぎ、ろう者団体とのつなぎなども取り組みもあったがうまくいっていない。現状では、障害のある子どもたちというよりも、保護者(母親)の主体性が全面に出ている集いが企画されている。(池田)
- セッション終了後の個別議論:障害者の親という視点は、親のレスパイトケアにも深く関連するテーマ。(日本福祉大小國氏)➡レスパイトケアという制度が作れないような国・地域において、非公式な親の会は、自然なレスパイトケアの場となる。(池田)
- セッション終了後の個別議論:障害児の親の会へのNGO事業の関与は?(慶応大川口氏)➡NGOのファシリテーションによって、親たちが自ら立ち上げた会であり、NGOとして登録手続きも進んでいる。障害児の親同士の繋がりは、(限局性学習障害のある子をもつ池田は)身をもって重要と感じている。(池田)
総括
今回の発表者3名は、実務者としての経験を如何に研究、そして、今後の国際開発事業に貢献できるかという視点で発表がなされ、これに関する有意義な質疑応答と議論が交わされた。特に、ろう者であり、研究及び実務面で、障害と開発における貢献者である森壮也氏(JETROアジ研)からは、障害当事者の視点で鋭い質問及びコメントがなされた。また、山形辰史氏(APU)麻田玲氏(山口大)からは、インクルーシブ教育の逆説や批判にかかるコメントがなされ、低中所得国におけるインクルーシブ教育を再考する機会が得られた。
セッション及びセッション後の参加者との議論を踏まえると、インクルーシブ教育というテーマでの研究は今後も継続して進めていくべきだと考えている。
報告者(所属):高柳妙子(長崎大学)
D3:日本の高等教育支援におけるアプローチの特性―エジプト、ケニア、スーダンの事例より
- 開催日時:6月27日 14:15 - 16:15
- 聴講人数:約20名
- 座長・企画責任者:黒川智恵美(早稲田大学)、寺野摩弓(国際教養大学)
- コメンテーター・討論者:日下部達哉(広島大学)
【第一発表】スーダン:突然難民化した大学生に対する国際支援の考察
発表者
- 黒川智恵美(早稲田大学)
コメント・応答など
本発表では、2023年4月にスーダン国内で発生した紛争を機にエジプトに強制移住した大学生を受益者として、異文化や異なる制度の下で彼らがどのように振舞い、紛争発生直後に何を必要としていたかに関して報告を行った。カイロでの継続的なフィールドワークの結果、学びを止めたくないという彼らの強い要望が、大学生自身による草の根の活動によって支えられていることが明らかになったと報告した。ボトムアップ型支援に加えて、日本のこれまでの紛争地出身の大学生への留学支援のノウハウを組み合わせた支援のあり方に関する示唆を提示した。
【第二発表】エジプト日本科学技術大学(E-JUST)プロジェクト:リベラルアーツ教育支援からみられる受益者の振舞い
発表者
- 寺野摩弓(国際教養大学)
コメント・応答など
本発表では、国際協力機構(JICA)がプロジェクトフェーズ2(2014~2019)として実施したエジプト日本科学技術大学(E-JUST)学部課程設立支援の一環として行われた、「日本型」リベラルアーツ教育導入支援について、その概念の模索、及び工学系大学におけるリベラルアーツ教育の受益側ニーズのあり方と受け入れ姿勢について振り返り、その結果として支援手法としてどのような妥当性かつ効果的な結果を生み出したかについて報告した。分析の結果、日本式リベラルアーツとは何かというリベラルアーツ教育の曖昧さが浮彫りになった一方で、本事例が教育移転論における借用から自己化への具体例となる可能性について示唆した。また、発表者自身がJICA専門家としてプロジェクトに従事していた経験もふまえ、共創を可能にするための環境づくりへの示唆も提示した。
【第三発表】受益者は「日本型高等教育」をどう経験し、再解釈するのかーE-JUST学生の語りからー
発表者
- 三宅智保(国際協力機構・エジプト日本高専プロジェクト)
コメント・応答など
本発表では、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)における学生の経験に着目し、「日本型高等教育」がどのように認識・経験されているかについて報告した。E-JUSTの理工学系学生及び卒業生10名を対象にしたデータ分析からは、学生が日本型高等教育を認識しつつも、コピー&ペーストではない固定された形での移転ではなく、現地において緩やかかつ多様な形で再解釈・再構築され、受容されているとの示唆を提示した。
【第四発表】ケニア・ジョモケニヤッタ農工大学(JKUAT)における「日本型研究室モデル」導入事例
発表者
- 十田麻衣(国際協力機構・ジョモケニヤッタ農工大学)
コメント・応答など
本発表では、日本の高等教育支援を受けるジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)を対象に、日本留学を経験した教員がいかにして「日本型研究室モデル(LBE)」をケニアの大学文化へと「翻訳」しているかについて発表した。日本での学位取得やポスドク経験を持つ教員への半構造化インタビューを実施し、教員と学生間の物理的・心理的距離の近さが確保される点などにおいて、インフォーマントらがLBEの利点に言及しつつも、物理的・環境的制約や研究機材を購入するための予算不足、新しい環境への変化に対する抵抗が課題であるとの研究結果を報告した。
総括
本発表では紛争地スーダンの若者、およびエジプトとケニアの高等教育支援事例を通じ、「日本型」教育モデルが現地に受容・適合化されるメカニズムを分析した。受益者側の「日本らしさ」の捉え方の多様性、日本モデルと現地ニーズの翻訳から生まれるハイブリッド化の過程を示唆することができ、3つの事例は日本式という共通項を共有しつつも異なる現地化のプロセスがあることが明らかになった。適合の成否は対象や文脈により異なり、これは「日本型教育」概念の曖昧さや解釈の余地が、学習・共創プロセスを可能にすることを示唆した。
討論では、まずコメンテーターより日本式教育の現地化とサステイナビリティを巡るコメントと質問があった後、活発な議論が交わされた。参加者からは、援助終了後も自走するための現場視点での持続可能性、日本式教育の定義とその評価方法、LBEが本当に日本固有のものか、日本人教員や日本の大学側への還流効果、援助からパートナーシップへの移行の重要性など、多岐にわたる質問・コメントが寄せられた。登壇者からは、トップと現場レベル双方のコミットメントの必要性、日本人の存在感やカウンターパート育成の重要性、他国留学経験者との比較から見える日本式指導の強み(丁寧な指導など)や日本の欧米諸国との文化慣習面での比較優位性、日本人教員の国際化への波及効果などが、今回の研究結果や各々のフィールドでの経験を基に、具体的な事例とともに示された。全体として、理念先行ではなく現場の実態に即した評価と、対等な関係性に基づく持続可能な協力のあり方を問う、示唆に富む議論となった。
報告者(所属):黒川智恵美(早稲田大学)
