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NL37巻2号 [2026.08]

関西支部(2026年8月)

関西支部

関西支部 2026年度7月末活動報告書

2026年度、関西支部では、ハイブリッド形式による定期的な研究会を開催しました。本支部が主催する研究会では、国際開発・国際協力に関するさまざまな分野の専門家を招聘し、ジェンダー、防災・レジリエンス、ウェルビーイングの向上といった現代社会における重要課題を背景に、教育、経済、環境など幅広い分野を対象とした議論を活発に展開することを目的として活動しております。上記活動に基づき、2025年11月から2026年7月までに実施した研究会についてご報告いたします。

第185回研究会【日時:2026年6月4日(木)16:00-18:00】【言語:英語】

発表テーマ:The Changing Landscape of International Development and the Role of the World Bank

発表者:Eduardo Velez Bustillo博士 神戸大学大学院国際協力研究科客員教授、元世界銀行東アジア・太平洋地域およびラテンアメリカ・カリブ海地域教育セクターマネージャー

参加人数:61名(内、対面51名、オンライン10名)

概要:本研究会では、神戸大学大学院国際協力研究科客員教授であり、元世界銀行東アジア・太平洋地域およびラテンアメリカ・カリブ海地域教育セクターマネージャーであるEduardo Velez Bustillo博士を講師に迎え、「The Changing Landscape of International Development and the Role of the World Bank」をテーマに講演が行われた。本講演では、1980年代以降の国際開発の潮流を踏まえ、現在の開発課題がどのように複雑化しているのか、またその中で世界銀行の役割がどのように変化しているのかについて説明がなされた。博士は、近年の世界銀行において、教育と貧困削減を結びつける重要な戦略的課題として雇用創出が位置づけられていることを説明した。そのうえで、教育サービスの拡充は人的資本形成の重要な要素であり、人々の技能を高め、より良い雇用へのアクセスを可能にすることで、貧困削減や経済成長につながると述べた。一方で、教育そのものは気候変動やパンデミックのような越境的脅威ではないものの、そうした危機によって大きな影響を受ける分野であることも指摘された。教育システムの停滞や崩壊は、人的資本の形成を阻害し、長期的な開発リスクを高める要因となる。そのため、教育は単独のセクターとしてだけでなく、より広範な開発課題と密接に結びついた分野として捉える必要があると説明された。また、世界銀行は従来、戦後復興や貧困削減を目的とした大規模融資を中心に活動してきたが、現在では気候変動、地政学的競争、デジタル化、債務問題、移民、パンデミック、地域開発銀行や民間資本市場の影響力拡大など、より複雑で相互に関連する課題に直面している。そのため、今後の世界銀行には、インフラ整備や貧困削減のための融資機関にとどまらず、各国が複雑なグローバルな変化に対応することを支援する、より柔軟な機関へと適応していくことが求められると説明された。質疑応答では、世界銀行の国際開発における役割の変化、教育と雇用の関係、気候変動やパンデミックといったグローバルな課題への対応などに関して意見交換が行われ、参加者にとって国際開発を取り巻く環境の変化と世界銀行の今後の役割について理解を深める貴重な機会となった。

第186回研究会【日時:2026年6月19日(金)16:00-18:00】【言語:日本語・英語】

発表テーマ: AI時代に教育開発は存続するのか

発表者:關谷武司教授 関西学院大学国際学部国際学科

参加人数:59名(内、対面49名、オンライン10名)

概要:本研究会では、関西学院大学国際学部国際学科の關谷武司教授を講師に迎え、「AI時代に教育開発は存続するのか」をテーマに講演および参加型ワークショップが行われた。急速に発展する人工知能(AI)やロボット技術が、教育、雇用、国際開発に与える影響について議論が行われた。教授は、生成AIの登場以降、AI技術が飛躍的に進歩し、知的労働だけでなく身体性を備えたロボット(Embodied AI)へと発展している現状を紹介した。特に、AIを搭載したヒューマノイドロボットの実用化と低価格化が進むことで、多くの職業が代替される可能性があり、従来の雇用構造の変容から教育の役割そのものが大きく変化する可能性があると指摘した。また、目標達成のために自律的に行動するAgentic AIの発展により、事務職や営業職など幅広い業務の自動化が進み、人間の労働市場に大きな影響を及ぼす可能性についても説明された。さらに、ワークショップの導入として、人的資本論をはじめとする教育開発を支える理論的背景の歴史や、AIの発展が教育と労働市場の関係にもたらす影響について体系的に整理された。教育を人的資本への投資と捉え、その成果として経済成長や所得向上を期待する人的資本論は、これまで教育開発政策や国際援助の重要な根拠となってきた。しかし教授は、AIによる労働代替が進む社会では、教育と雇用、教育と経済成長を結び付ける従来の前提が揺らぐ可能性があると指摘した。そのうえで、AI時代における教育開発の意義について問題提起がなされた。これまで教育開発は人的資本の形成を通じて貧困削減や経済発展に貢献するものと考えられてきたが、AIが人間の能力を代替する社会においては、その目的や役割を再検討する必要があるとされた。特に、途上国における労働力供給を前提とした開発モデルが変化する可能性や、教育投資の社会的・経済的意義をどのように再定義するかが重要な課題として示された。ワークショップでは、AI時代に求められる教育のあり方、教育開発研究の今後の方向性、国際教育協力の役割などについて活発な意見交換が行われた。参加者にとっては、AI技術の進展が教育や開発援助の前提をどのように変化させるのかを考えるとともに、教育開発分野が今後どのような価値を提供していくべきか、自分たちの将来のキャリアについて理解を深める貴重な機会となった。

第187回研究会【日時:2026年6月23日(火)17:00-19:00】【言語:英語】

発表テーマ:The Impact of Least Developed Countries (LDCs) Graduation on Economy: Evidence from Lao PDR

発表者:Phouphet Kyophilavong博士 ラオス国立大学副学長、同大学経済経営学部教授

参加人数:62名(内、対面52名、オンライン10名)

概要:本研究会では、ラオス国立大学副学長であり、同大学経済・経営学部教授を務めるPhouphet Kyophilavong博士を講師に迎え、「The Impact of Least Developed Countries (LDCs) Graduation on Economy: Evidence from Lao PDR」をテーマに講演が行われた。本講演では、ラオスが後発開発途上国(Least Developed Countries: LDC)のカテゴリーから移行することに伴い、同国経済にどのような影響が生じうるのかについて説明がなされた。LDCカテゴリーからの移行は、国家としての自尊心の向上や、外国直接投資を呼び込む環境の整備といった肯定的な側面を有する一方で、特恵的市場アクセスの喪失、譲許的な政府開発援助や融資の減少、金融コストの上昇、さらには外国直接投資の減少といった負の影響を伴う可能性があることが指摘された。特にラオスは、公的債務の高さ、経済ショックに対する脆弱性、持続的な不平等といった課題を抱えており、LDCカテゴリーからの移行後の円滑な移行に向けて、慎重な政策対応が求められることが示された。また、本講演では、Dynamic GTAPモデルを用いた分析に基づき、LDCカテゴリーからの移行がラオス経済に与える影響について検討された。具体的には、LDCカテゴリーから移行しない場合をベースラインとし、特恵関税の喪失、生産性の低下、外国直接投資および政府開発援助の減少などを想定した政策シナリオとの比較を通じて、GDP、厚生、産業別生産、家計所得、労働需要、賃金、輸出入への影響が分析された。分析結果として、ラオスのLDCカテゴリーからの移行は、同国経済に対して全体として負の影響を及ぼす可能性があることが示された。具体的には、GDPや厚生の低下、多くの産業における生産の減少に加え、家計所得、労働需要、賃金にも悪影響が生じる可能性があるとされた。特に、繊維・衣服部門や重工業部門における労働需要の減少が大きく、2035年までに労働賃金にも大幅な低下が生じる可能性が示された。また、貿易面では、タイ、中国、ベトナム、インドなど主要な貿易相手国との輸出入が大きく減少する可能性があることが説明された。そのうえで、LDCカテゴリーからの移行による負の影響を緩和するためには、輸出入市場の多様化、輸出成長に向けた外国直接投資の促進、貿易円滑化の推進、二国間貿易や自由貿易協定の促進が重要であることが示された。質疑応答では、LDCカテゴリーからの移行がラオスの貿易・投資・援助に与える影響、人的資源政策との関連、地域経済統合や貿易円滑化を通じた政策対応などに関して意見交換が行われ、参加者にとってラオス経済が直面する移行期の課題と、持続的な経済発展に向けた政策対応について理解を深める貴重な機会となった。

第188回研究会【日時:2026年6月25日(木)17:00-19:00】【言語:英語】

発表テーマ:Climate Change and Environmental Security in the South Pacific

発表者:Raelyn Lolohea Esau博士 トンガ国立大学経営・公共政策学部長、同学部教授

参加人数:47名(内、対面37名、オンライン10名)

概要:本研究会では、トンガ国立大学経営・公共政策学部長であり、同学部教授を務めるRaelyn Lolohea Esau博士を講師に迎え、「Climate Change and Environmental Security in the South Pacific」をテーマに講演が行われた。講演ではまず、南太平洋地域における気候変動問題の現状について説明がなされた。教授は、同地域において、温室効果ガス排出量が極めて少ないにもかかわらず、気候変動の深刻な影響を受けていることを指摘し、気候変動が人々の生活や生計に直接影響を及ぼす喫緊の課題であることを強調した。続いて、小島嶼開発途上国(SIDS)が抱える脆弱性と環境安全保障上の課題について紹介された。高潮やサイクロンによるインフラ被害、海岸侵食、淡水資源の塩水化に加え、食料・水安全保障の悪化や気候移住、文化的アイデンティティの喪失など、人間の安全保障に関わる問題が深刻化していることが説明された。また、ツバルを事例として気候変動と移住の問題について議論が行われた。計画的移住は教育や就労機会の拡大につながる一方で、文化的アイデンティティの維持という課題も伴うことが紹介され、海面上昇による浸水被害がすでに住民生活へ影響を及ぼしている現状が共有された。さらに、海面水温や海面水位の上昇、海洋酸性化の進行、強力なサイクロンの増加などの科学的データをもとに、気候変動が生態系や食料安全保障、生計手段に与える影響について説明がなされた。加えて、太平洋島嶼国による対応と国際社会との連携についても紹介された。各国は国家適応計画の策定や国際的な政策提言を進めるとともに、地域協力を通じて気候変動への対応を強化している一方、資金不足やアクセスの困難さなどの課題も抱えていることが説明された。そのうえで、気候変動時代における南太平洋地域の将来について問題提起がなされた。教授は、適応策や国際協力の強化によって持続可能な発展の可能性が残されている一方で、温暖化の進行によっては大規模な移住や国家存続に関わる深刻な影響が生じる可能性があると述べた。また、再生可能エネルギーやブルーエコノミーなど、新たな発展の機会についても言及した。質疑応答では、環境問題を「安全保障」の観点から捉える意義や、国際的な気候資金の課題について議論が行われた。教授は、気候変動が環境問題にとどまらず、人々の生活や国家の存続に関わる包括的な課題であることを改めて強調した。参加者にとっては、気候変動が環境問題のみならず、人間の安全保障や国家主権、移住、開発、国際協力と密接に関わる課題であることを理解するとともに、持続可能な開発や国際協力のあり方について考える貴重な機会となった。

第189回研究会【日時:2026年7月9日(木)16:00-18:00】【言語:英語】

発表テーマ:World Bank’s Operation in Ukraine

発表者:中田志郎博士 世界銀行シニア・エコノミスト

参加人数:34名(内、対面27名、オンライン7名)

概要:本研究会では、世界銀行シニア・エコノミストの中田志郎博士を講師に迎え、「World Bank’s Operation in Ukraine」をテーマに講演が行われた。本講演では、ロシアによる侵攻によって大きな影響を受けたウクライナの高等教育を取り巻く状況を踏まえ、世界銀行が進める復興支援プロジェクトの概要と、その実施における課題について説明がなされた。紛争の長期化により、大学施設や教育環境が被害を受けるだけでなく、学生や教職員の避難・移動、教育活動の中断など、高等教育の継続にさまざまな困難が生じていることが紹介された。そのような状況下においても学生の学習機会を確保するため、被害を受けた教育施設や教育環境の復旧に加え、オンライン教育を含む柔軟な教育提供体制を整備し、高等教育機関の機能を維持することが重要であることが示された。また、復興支援は紛争下における短期的な緊急対応にとどまるものではなく、中長期的な高等教育制度の再建と改革を見据えて進める必要があることも説明された。具体的には、大学の運営能力の強化や教育の質の向上を図るとともに、将来的な危機が生じた場合にも教育活動を継続できる、より強靱な高等教育制度を構築していくことの重要性が指摘された。さらに、こうしたプロジェクトの実施にあたっては、刻々と変化する治安状況、地域によって異なる被害の程度、学生・教職員の避難、限られた財源など、紛争下特有の制約に対応する必要があることが示された。あわせて、世界銀行には、資金面での支援のみならず、復興過程における政策形成や制度整備を支え、緊急支援から持続的な教育システムの再建へとつなげていく役割が求められていることが示された。質疑応答では、紛争が継続する中で大学教育をいかに維持するか、復興支援において世界銀行が果たす役割、限られた資源の中で支援の優先順位をどのように設定するか、また緊急支援と長期的な高等教育改革をどのように両立させるかなどについて意見交換が行われた。参加者にとって、ウクライナの高等教育が直面する課題と、紛争下から復興期にかけて国際機関が果たす役割について理解を深める貴重な機会となった。

第190回研究会【日時:2026年7月10日(金)17:00-19:00】【言語:英語】

発表テーマ:The Impact of Chinese Non-Tariff Measures on Lao Agricultural Product Export to China

発表者:Vadsana Chanthanasinh博士 ラオス国立大学経済経営学部長、同学部准教授
参加人数:28名(内、対面19名、オンライン9名)

概要:本研究会では、ラオス国立大学 経済・経営学部 学部長・准教授のVadsana Chanthanasinh博士を講師に迎え、「The Impact of Chinese Non-Tariff Measures on Lao Agricultural Product Export to China」をテーマに講演が行われた。本講演では、中国がラオス産農産物に適用する非関税措置(Non-Tariff Measures: NTMs)、特に衛生植物検疫措置(SPS)および貿易の技術的障害(TBT)が、ラオスの対中農産物輸出に与える影響について説明がなされた。ラオスはASEAN・中国自由貿易地域などを通じて関税上の優遇措置を受けている一方、関税の削減に伴い、品質・安全基準などの非関税措置への対応がより重要になっていることが指摘された。分析では、2013年から2020年までのHSコード6桁レベルの農産物データを用い、非関税措置の適用状況を示す頻度指数およびカバレッジ比率と輸出額との関係が、固定効果モデルによって検証された。その結果、中国の実質GDP、非関税措置の適用、SPSに関する二国間合意が、ラオスの対中農産物輸出額と有意に関連する一方、頻度指数およびカバレッジ比率自体については統計的に有意な影響が確認されなかった。また、ラオスの主要な対中輸出農産物として、バナナ、トウモロコシ、スイカ、タピオカ粉、もち米などが紹介され、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響により輸出の伸び率が低下したことも示された。講演の最後には、輸出前に関税優遇措置を確認すること、政府が事業者に関連情報を普及すること、国際基準を満たす農産物の生産を促進すること、さらに中国との協議を通じて優遇対象品目や技術支援を拡大することの重要性が示された。質疑応答では、ラオスの生産者や輸出事業者が直面する基準遵守上の課題、アジアにおける輸出先としての中国と日本の違い、政府による情報提供や技術支援などについて意見交換が行われ、参加者にとってラオスの農産物輸出拡大に向けた課題と政策対応について理解を深める貴重な機会となった。

第191回研究会【日時:2026年7月15日(水)16:00-18:00】【言語:英語】

発表テーマ:A climate-resilient water supply system in Kyrgyzstan: Focusing on Bishkek

発表者:Seungho Lee博士 高麗大学国際大学院長、同大学国際学部長および教授

参加人数:19名(内、対面15名、オンライン4名)

概要:本研究会では、高麗大学国際大学院長および同大学国際学部長を務めるSeungho Lee博士を講師に迎え、「A Climate-Resilient Water Supply System in Kyrgyzstan: Focusing on Bishkek」をテーマに講演が行われた。本講演では、気候変動によって深刻化するキルギスの水資源管理上の課題について、統合水資源管理(Integrated Water Resources Management: IWRM)およびSDG指標6.5.1を分析枠組みとして説明がなされた。キルギスでは、2005年水法典に基づく河川流域管理や関係機関の整備が進められてきた一方、省庁間の縦割り、資金不足、水質汚染に対する規制の弱さ、利害関係者間の対立などが課題として指摘された。2023年のIWRM実施度は100点中38点にとどまり、特に資金面の評価が低いことが示された。また、同国の水利用の約94%を農業部門が占める一方、老朽化した灌漑施設によって輸送中の水損失が生じていることや、氷河融解、洪水、干ばつ、熱波の増加が、水供給、農業、水力発電および経済活動に影響を及ぼしていることが説明された。さらに、2005年水法典、国家水戦略2040、河川流域管理機関の設置、2023年以降の水資源関連組織の再編など、近年の制度改革についても紹介された。ビシュケクの事例では、都市の飲料水供給が地下水に大きく依存していること、水道網から約22%の水が失われていること、下水処理施設を含むインフラの老朽化、低く設定された水道料金、人口増加や都市化による需要拡大などが取り上げられた。特に2023年には、降水量の減少や地下水位の低下を背景として深刻な水不足が発生し、夜間の断水や住民による抗議に至ったことが示された。講演の最後には、水道料金制度の見直し、施設更新への投資拡大、スマートメーターなどの先端技術の導入、気候変動に対応した法制度・組織体制の整備、都市部と農村部の水・衛生サービス格差の縮小、住民や女性を含む多様な利害関係者の意思決定への参加が重要であるとの政策的示唆が示された。質疑応答では、水資源管理のガバナンスにおいて多様な利害関係者の意見や利害をどのように調整するか、インフラ更新に必要な資金を国内財源や国際協力によっていかに確保するか、都市周縁部や農村部におけるサービスへのアクセスをどのように改善するかなどについて意見交換が行われ、参加者にとって気候変動下の持続可能な水供給システムと水ガバナンスのあり方について理解を深める貴重な機会となった。

以上です。


関西支部
支部長:小川啓一(神戸大学)
副支部長:關谷武司(関西学院大学)

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