第27回春季大会報告:一般口頭発表-C
一般口頭発表
C3:「共」に創る教育の場:情報共有・共生・アイデンティティの実践知
- 開催日時:6月27日 14:15 - 16:15
- 聴講人数:約20名
- 座長: 川口 純(慶應義塾大学)
- コメンテーター・討論者:川口 純(慶應義塾大学)、石原伸一(広島大学)
【第一発表】Information-sharing, community participation, and institutional trust: Exploratory research on school management in Madagascar
発表者
- Takao Maruyama(JICA)
コメント・応答
本研究はマダガスカルの学校運営委員会(SMC)を対象に、SMCによる地域社会への「情報共有」が住民の「学校運営への参加」および「SMCへの制度的信頼」との関連を検証することを目的とした探索的研究である。学校教育に対する住民参加が重要なことは広く合意を得ているものの、何がどの様に効いて学校教育が改善されるのか、その中身は明らかになっているとは言えない。その様な状況下にあって、本研究は実証的に影響を明らかにしようと試みる有意義な研究であった。特に、今回の発表では、情報共有と制度への信頼度に相関関係があることが報告されたが、今後、いかに因果関係があるかを実証していくのかについて質疑応答がなされた。また、情報共有を促進するには何が必要なのかという実践的な観点についても議論が深まった。
【第二発表】Development in People’s Hands: Relational Trust, Moral Economies, and Human-Scale Sustainability in Uganda’s School Feeding Programs
発表者
- Yoonjung KIM(International Christian University)
コメント・応答
教育の分権化が進められるウガンダにおいて、学校給食プログラムの持続性に着目した研究である。学校関係者・コミュニティへのインタビュー、参与観察により、組織の制度化の側面よりも、校長のコミュニティへの日々の働きかけの影響が大きく、コミュニティの経済状況によって一時的に休止したり、再開したりというプロセスがおきている様相について明らかにし、開発における持続性を単線的に二者択一でとらえるのではなく、コミュニティの関係的信頼の中で循環的なプロセスとしてとらえるべきとの考察があった。今後、さらに理論的に考察を深めていくことが期待されるとのコメントがあり、調査対象校の選考基準やコミュニティで学校給食プログラムが停滞したときにどのように再活性化していくのかなどの質問がよせられ、活発な質疑応答が行われた。
【第三発表】マラウイにおける地域運営型就学前施設の運営 ―長期的分析から―
発表者
- Thida Mech (Graduate School of Economics, Department of Economics, Teikyo University)
コメント・応答
既存研究の多くが過去を振り返る「後向き研究」であるのに対して5年間をかけて行われた「前向き調査」により実施された貴重な実証研究である。最貧国のマラウイの地方において地域運営型就学前施設がどの様に持続・運営されているかという「変化のプロセス」や「因果メカニズム」を追いかけている点、および5つの施設の多様な展開を詳細に比較分析している点が学術的・実践的にも意義深い研究である。特に、事業と結果(考察)の因果関係について好循環と悪循環のサイクルを明示されたのが分かりやすく、示唆的であった。その上で、本事業の介入が、各コミュニティの既存権力構造や協力体制とどのように相互作用したのか、また初期条件が大きく異なる5つの施設において、当該条件はどの様に影響しているのかについて議論が深められた。
【第四発表】Revealing National Identities-in-Practice through Teachers’ Curriculum Unpacking in Junior High School Citizenship Education in Mindanao
発表者
- Melanie Joy Gunio(International Christian University / University the Philippines)
コメント・応答
本研究はフィリピンのミンダナオで異なる文脈の中学校の社会科教員がナショナルアイデンティティをどのように認識しているかについて質的に分析した研究である。分析の結果、異質性の高い学校の教員は異なる考えと折り合いをつけていくことを重要と認識しているが、同質性の高い学校の教員は多数派の文化への順応の認識が示されているとの報告があった。本結果から、国のカリキュラムにおいてナショナルアイデンティティが強調されているが、現場では必ずしも社会的包摂につながっておらず、結果的に排除を助長することにつながっているのではないかとの考察があった。質疑応答では、調査対象教員の選定方法、授業でとりあげたトピック、ミンダナオ出身でない研究者が調査することの影響など多くの質問がよせられ、活発な意見交換が行われた。
総括
本セッションでは4つの報告がなされ、いずれも実証的な分析を基にした質の高い研究発表であった。一般的に言われている言説を所与のものとせずに、ブラックボックスの中身に切り込んでいくような意欲的な研究発表であった。指定討論者からは事前に準備された意義深い質問がなされ、いずれの発表者も真摯に応答している様子が確認された。参加者も最後のセッションにも関わらず、総計で20名程の参加があり、闊達な質疑応答がなされた。4本の発表とも今回の発表で終わりという研究ではなく、今後、ますます発展、展開が期待される研究であり、今回の質疑応答の内容が今後に活かされていくことが予期されるセッションとなった。
報告者(所属):川口 純(慶應義塾大学)、石原 伸一(広島大学)
