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NL37巻2号 [2026.08]

第27回春季大会報告:一般口頭発表-G

一般口頭発表

G1:農業開発のリアリティ:技術・制度・市場と地域社会の適合性を問う

  • 開催日時:6月27日 9:00 - 11:00
  • 聴講人数:約20名
  • 座長: 伊藤香純(名古屋大学)
  • コメンテーター・討論者:伊藤香純(名古屋大学)、石川晃士(玉川大学)

【第一発表】インドネシア稲作農村における農業生産技術変化と食料消費

発表者

  • 伊藤紀子(拓殖大学)

コメント・応答

有機SRIという技術そのものではなく、技術が地域社会や食文化、市場とどのように関わりながら定着・衰退したのかを長期的に分析しようとされている点が、本研究の大きな特徴であり、特に、有機米が地域料理との適合性や消費者の嗜好、地域市場との結び付きの弱さによって地域に十分定着しなかったという知見は、技術普及を考える上で重要な示唆を与えている点、コメントがなされた。

本研究にて有機SRIが定着しなかった要因として、①普及ネットワークの弱体化、②労働・コスト、③市場、④食文化が示されたが、最も重要な要因はどれだと思われるか。また、通常の農業技術普及がトップダウンで実施されているのに対して、有機SRIの普及はボトムアップであったとの報告であったが、普及方法と技術定着との関係はどうか、といった質問が出された。さらに、有機SRIで栽培されたコメが伝統食の味や食感とマッチしない、という調査結果について、SRIという栽培技術と、有機という栽培方法、そして栽培に用いられているコメの品種を分離した要因分析が望ましいとのコメントが会場から出された。

【第二発表】バリ小規模コメ農家の所得向上の要因分析

発表者

  • 中島百合子(早稲田大学社会科学総合学術院)

コメント・応答

本研究は、インドネシア・バリ島の慣習的灌漑組織「スバック」が維持されている農村を対象に、小規模コメ農家の生産性および農業所得の向上要因を解明する試みである。分析の結果、生産性向上に最も必要な要因は、農地面積や適正な年齢などの環境条件に加え、潜在的な販売可能性や生産コストなどの生産条件であることが示された。また、オーガニック農法の実践や自家消費量の増加は、生産量を減少させる要因として確認された。質疑としては、分析方法や解釈の限界に対する質問、オーガニック農法の短期的な効果と長期的な効果の検証、生産量が48歳という年齢で最大化する理由の背景などが挙げられた。目的が生産性及び農業所得の向上要因の解明とある中で、分析では生産量が説明変数として扱われている点、生産量と所得向上(副業など)との関係、特に生産量向上がどの程度、所得向上に結び付くかという点、等が不明確な部分の質問も挙がった。特に農地面積の影響の分析に関しては、生産量でなく、生産性で評価する必要性も挙げられる。今後は、販売方法の多様化による生産量や販売価格への影響の検証、より詳細なデータを収集の上で、時系列比較をすることが望ましい等のコメントが会場から出された。

【第三発表】チュニジアにおける柿バリューチェーン構築の妥当性

発表者

  • 黒川基裕(高崎経済大学)

コメント・応答

本研究は、チュニジア北西部ベジャ県のウエシュタタ地域で伝統的に栽培されている渋柿に着目し、その適正な栽培・加工技術を導入することで、地域振興と農家所得向上を図る可能性を検証したものである。従来からの地域資源である渋柿に着目し、単なる農産物生産ではなく、加工・販売・ブランド化まで含めたバリューチェーン構築を提案している点が興味深く、またDAC評価基準を用いて開発プロジェクトとしての妥当性を多面的に検討している点も評価できる。そのうえで、市場規模の検討、加工センターの採算性、柿の安定供給、ブランド化戦略、地域雇用の拡大に対する下記のコメント、質問が挙げられた。

地元での官能評価のみならず、実際の市場での継続的な需要の検証の必要性、売上増加の試算は示されていたが、加工コストや流通コストを含めた収益性を示す必要性(製造コスト、加工センター独自での黒字運営の可能性、損益分岐点と生産量の関係)、将来の加工事業を見据えた、十分な原料供給のための生産量の見通しの提示、それに関連する気候変動の影響への対応が、現時点では見えてきていない。市場規模の検証、加工センターの採算性の評価、ブランド構築戦略がビジネス展開には重要であるので、それらをしっかり検証したうえで事業化を進める事で説得力のあるプロジェクトになるのでは、というアドバイスも挙がった。

【第四発表】Determinants of Farmers’ Participation in Agricultural Cooperative: Evidence from Smallholder Farms in Quang Ninh, Vietnam.

発表者

  • Viet Van Le(岡山大学)

コメント・応答

This study was recognized for its policy relevance and practical significance in identifying the factors influencing farmers’ participation in agricultural cooperatives in Vietnam. The findings provide useful empirical evidence for understanding cooperative development in the context of agricultural modernization and rural transformation.

During the discussion, attention focused on the relationship between the quantitative analysis and the case study. It was suggested that clarifying the role of the case study—whether to validate the regression results, explain the underlying mechanisms, or provide contextual background—would strengthen the coherence of the research design. A clearer explanation of how the qualitative and quantitative approaches complement each other would further enhance the study’s academic contribution.

総括

本セッションでは、インドネシア、チュニジア、ベトナムを対象とした4件の研究報告を通じて、農業技術、生産性向上、市場・バリューチェーン、農業協同組合など、多様な視点から農業開発について議論が行われた。

議論を通じて、新しい技術や制度の導入そのものではなく、それらが地域の自然環境や文化を含む社会・経済条件、さらには農家のニーズや行動とどのように適合しているか、その背景や要因を明らかにすることの重要性が、持続的な農業・農村開発や生計向上を考える上で改めて示された。また、質疑応答では、用語の定義や概念整理、研究手法に関する議論が活発に行われた。農村研究では多様な学問分野が交わることから、農業分野の専門用語や概念を明確に定義・共有することの重要性が改めて確認された。

機器接続やZoom対応に時間を要したため、4件の発表全体を総括する時間は十分に確保できなかったものの、本セッションは個々の研究成果を共有するだけでなく、国や地域を超えて農業開発の共通課題や相違点について活発な意見交換を行う貴重な機会となった。

報告者(所属):伊藤香純(名古屋大学)、石川晃士(玉川大学)


G2:共有資源管理の持続可能性と社会制度:水・森林をめぐる規範・技術・共同体の連関

  • 開催日時:6月27日 11:15 - 12:15
  • 聴講人数:約60名
  • 座長:佐藤仁(東京大学)
  • コメンテーター・討論者:佐藤仁(東京大学)、本間まり子(早稲田大学)

【第一発表】バングラデシュ村落給水施設における協同O&Mの成立条件

発表者

  • 門上綾(株式会社地球システム科学/大阪大学)

コメント・応答

バングラデシュ村落部における給水施設の維持管理の持続性に関する研究である。オストロムらのコモンズ研究を参照しながら、持続の条件を現場レベルで明らかにしようとした。特に宗教を含む対外的な関係が共同管理の成否に影響する点が強調された。これに対して討論者からは、対象地域の文脈において、給水施設=共有資源であるという思い込みがあるのではないかとの批判が加えられ、地域の文脈や歴史的背景に関する掘り下げた調査が必要であるとの指摘がなされた。

【第二発表】バングラデシュの少数民族における飲料水を中心とした生活状況 ーチッタゴン丘陵地帯の外に居住するジュマの事例ー

発表者

  • 山田翔太(名古屋市立大学大学院)

コメント・応答

バングラデシュのチッタゴン丘陵地帯における水資源アクセスに関する研究で、ロヒンギャ難民の流入といった条件も視野にいれながら、井戸の掘削や維持管理をめぐる社会状況についての調査結果が報告された。これに対して指定討論者からは、丁寧な現地調査を高く評価するコメントがあった一方で、開発学会での発表として、もう少し比較の軸が示されてもよかったのではないかとの指摘があった。

【第三発表】From Water Scarcity to Water Security: Community Based rainwater Harvesting for Household Wellbeing in Zanzibar

発表者

  • Mussa Ramadhan Haji and Hidetoshi Kitawaki(Toyo University)

コメント・応答

The paper argues that community-based rainwater harvesting can shift Zanzibar households from chronic water scarcity toward water security, especially where groundwater and piped-water systems are unreliable or vulnerable. It frames rainwater harvesting not only as a technical fix but as a locally governed wellbeing strategy: improving access, reducing household burdens, and contributing to SDG 6 through community-based development. Discussion centered on why rainwater harvesting can be treated as “alternative” even when local people already possess the willingness to harvest it. Additionally, the discussant pointed out that the paper’s review section is weak and requires better framing to clarify its academic contribution.

【第四発表】社会林業の再考:ケニアと日本の40年にわたる林業協力の成果と教訓

発表者

  • 清水正(タックインターナショナル)

コメント・応答

ケニアにおいてJICA専門家の渡辺桂氏が始めた社会林業の試みが、40年間の時間を経て、どのように継承されたのかを検討した報告。清水正氏・本庄由紀氏の報告は、日本が1985年からケニア半乾燥地で進めてきた社会林業協力を、単なる植林技術移転ではなく、人材育成・制度形成・研究機関強化・信頼関係づくりの過程として再評価するものである。成果として、KEFRIの能力向上、乾燥地樹種メリアなどの技術開発、社会林業から気候変動対策・地域協力への展開が示される一方、教訓として、地域の実践知を生かしながら長期的に共創する協力の重要性が強調された。議論は、暗黙知が容易に形式知に転換されてしまうことで、かえって暗黙知が矮小化されることにつながらないか、あるいは、そもそもケニア政府が社会林業アプローチを採用した背景などについての質問が提示された。

総括

60名以上の聴衆の参加を得て、活発な意見交換が行われた。英語と日本語の発表がまざるのは、英語話者にとっては他の報告者との絡みができず申し訳ない印象であった。冒頭の二つの報告は、たまたまバングラデシュの水問題であったために、相互の補いあう内容をもっていた点で、討論者の問題提起に助けられながら議論を深めることができた。最後の発表については、暗黙知と実践知の関係について、さらなる討論が必要であったが、残念ながら時間切れとなった。総じて、充実したセッションとなった。

報告者(所属):佐藤仁(東京大学)


G3:自律的発展をめぐる思想と空間:主体性の存在論からプレイス・ベース・アプローチまで

  • 開催日時:6月27日 14:15 - 16:15
  • 聴講人数:約25名
  • 座長: 佐藤 峰(名古屋大学大学院国際開発研究科)
  • コメンテーター・討論者:牧野耕司(東京女子大学現代教養学部 国際社会学科教授)、佐藤 峰(名古屋大学大学院国際開発研究科)

【第一発表】「現地主体の開発」の欺瞞と現地の主体性の存在論的基盤
―開発におけるパターナリズムとその正当性に関する哲学的試論―

発表者

  • 佐野 耕至(東京大学/株式会社JIN)

コメント・応答

コメンテーターからは以下の通りコメント:「本論は、論者が援助実務者として多くの現場のリアリティに触れ醸成した深い問題意識を、アカデミアの視点から一定の回答を得ようとした試みと理解される。根源的な問いを独自の論点で論じた洞察深い内容。一方、発表者自身も気づいている通り、本稿は抽象的であまり具体的ではない。具体的なイメージとして、タンザニアの稲作プロジェクトの資金の使途決定が男性から女性に移るプロセスなどを紹介。リサーチクエスチョンへの切り口としては、ナッジ(肩を押す)を主張する行動経済学なども参考になるのではないか。フロアからは、「どうして存在論なのか」、「参加の意味を深めればいいのではないか」、あるいは「CollectivenessとIndividualismが混同しているのではないか」「人類学を中心に議論されている存在論的転回やANT(マルチスピーシーズ)の議論なども参考にしては」といった意見や質問がなされた。

【第二発表】内発的発展論の再考察
―グアテマラ・マヤ「女性の織り手たちの全国運動」におけるキー・パースンとフォロワーの語りに着目して―

発表者

  • 保延弘美 (埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程)

コメント・応答

コメンテーターからは評価できる点として3点(現地とのラポール、植民地支配という文脈での内発的発展論の展開、フォロワーへの着目)を述べた上で、以下の通りコメントをした:

  1. 事例の深掘りの必要性:例えば、AFEDESの形成過程、アンへリーナの「アイコン」としての台頭プロセス、「フォロワー」かつ「ローカルリーダー」のA氏より「より下層」の多様な語りの差異への着目。機織りをすることの身体的な作用や意味、そして世界観を理解するためのマヤ語の習得など、文脈を深く理解することがまず大事。
  2. 言表の奥の世界を「読む」こと:例えば「織る」ことの両犠牲(先住民社会内部のジェンダー差異など)など、多面的に解釈をすることが重要ではないか。
  3. 分析枠組み:鶴見和子の時代の「近代的な設定(二項対立的・強いリーダー)」に影響された内発的発展論と枠組みや定義を、事例分析に「そのまま」使用する意義と限界は?「ポスト構造主義的理論」も参考にして、枠組みを改変することが博士論文では理論的貢献としても求められるのではないか。

フロアからは「対象者へのインタビューが、結論を導き出す誘導的なものではなかったのか」という意見も出された。

【第三発表】Bridging the gap between disciplinary boundaries:
Place-based development in regional studies and international development studies

発表者

  • Sara KAIZUKA (Mejiro University)

コメント・応答

コメンテーターからは以下の通りコメント:「今年4月に2025年実績として世界のODAの約4分の1が消滅し、史上最大の削減との発表がOECDからなされた。この局面で、本論は、Place based developmentの重要性と、援助の透明性と効率性を十分向上しなければ、日本のODAやEUのCohesion policyは米国の二の舞になるとの警句はきくべきものがある。本稿では、ODAとEU Cohesion policyを比較分析し、ODAの自助努力(self help)の考え方はEUのPlace based developmentと共通点があると看過したことなどは、独自性として評価。一方、conclusionでも、Place based developmentの面で濃淡はあるものの、ODAとEU Cohesion policyは共通点があると繰り返しており、また透明性と効率性の改善が重要で終わってしまっているのは、少し物足りない。なおEUは実は米国に次ぐ巨大ドナーであり、EU内ではなく、途上国に多額の援助を実施。EU Cohesion policyのみならず、こちらも分析してはいかがか。また冒頭申し上げた、世界のODAの衝撃的な削減の要因は、各ドナーの財政問題、ナショナリズムの台頭、ウクライナ戦争とトランプ政権により刺激を受けた防衛費の拡大という構造的なものである、この面の分析も今後やってみるのもいいかも」。フロアからは、「EU Cohesion policyと日本のODAという全く異質な政策を比較するのは有効か?」といった意見もなされた。

総括

一般セッションではあったが、「存在や主体のありようをどう捉えるか」、「調査研究における文脈的理解の重要性」「政策の種類を超えた共通点と相違点の模索」など、開発学や人文社会科学の通底するテーマが話し合われた。またフロアからの鋭い知的貢献もあり、特に博士課程(D1)にいる会員には、今後の研究の枠組みを形成する上で非常に参考になったのではないかと思う。院生部会などでも、是非活発に話し合っていってもらえれば良いと思うトピックが多かった。また、ロジスティックスでいえばハイフレックスになり会場にいる会員とオンラインの会員が分かれたが、運営上はQ&Aが聞き取りにくいこと以外は、ほぼ問題はなかった。

報告者(所属):佐藤峰(名古屋大学国際開発研究科)


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