第27回春季大会報告:ラウンドテーブル–F
F2:南アジアで活躍できる人材とは何か
―実務と地域研究の架橋による人材育成モデルの検討―
- 開催日時:6月27日 11:15 - 13:15
- 聴講人数:20名
- 座長・企画責任者:日下部尚徳(立教大学)、田中志歩(立教大学)
- コメンテーター・討論者:渡辺周(大阪大学)、市口知英(JICA)、安藤裕二(JETRO)、狩野哲郎(伊藤忠商事)
【第一発表】問題提起および調査報告:南アジアで活躍する人材要件
発表者
- 日下部尚徳、田中志歩(立教大学)
コメント・応答など
バングラデシュで中長期の滞在経験をもつ日本人実務者6名への半構造化インタビューをもとに、現地で求められる力を整理した。分析から、①相手の立場や距離感を読み、信頼を実務の資源とする「関係構築能力」、②日本側の基準を維持しながら現地の慣習・人間関係に応じて運用する「制度適用能力」、③宗教・文化・階層・歴史を踏まえる「文脈理解力」、④長期滞在の不確実性やストレスに対応する「自己調整能力」が示された。
これらは事前研修だけで完成する固定的スキルではなく、現地の人々との相互関係、失敗、責任ある判断、振り返りを通じて形成される実践知である。語学・地域情報の提供に加え、現場経験、事例共有、内省の機会を組み合わせ、暗黙知を組織内で継承する必要性が提起された。
【第二発表】経営学からみたグローバル人材と文化的知能
発表者
- 渡辺周(大阪大学)
コメント・応答など
経営学における人材能力研究と、文化的に多様な環境で効果的に行動する能力を示す「文化的知能(Cultural Intelligence)」の研究動向が紹介された。一方、既存概念は個人内の能力や態度に偏り、現地との関係構築、本社と現地の調整、制度差への対応など、実務で必要となる具体的行動を十分に捉えていないと指摘された。
優れた実務家の事例を蓄積し、「相手に応じて何を見て、どのように話し方や行動を変えているのか」を抽出することが、人材要件の明確化と育成モデルの構築につながるとの問題提起がなされた。
【第三発表】実務経験からみた南アジアで現場を動かす力
発表者
- 市口知英(JICA)、安藤裕二(JETRO)、狩野哲郎(伊藤忠商事)
コメント・応答など
市口氏は、一般的な国際協力の知識・技能に加え、地域への関心と愛着、共感と対話、キーパーソンを見いだす力、変化に柔軟かつ粘り強く対応する力、日本と現地・制度と現実をつなぐ橋渡し能力が重要であると論じた。若手を早期に現地へ送り、責任ある判断を経験させるとともに、分野別人材だけでなく「地域人材」を組織的に育成すべきとの提案があった。
安藤氏は、英語を基礎としつつ、ベンガル語の習得が信頼形成、情報収集、文化的背景の理解を深めると説明した。また、全面的に現地化するのではなく、日本側の強みと現地の発想・実行力の差異を生かすこと、相手国への敬意、情熱と継続的なコミットメントが実務成果を左右すると述べた。
狩野氏は、工場改革や財閥との事業形成の経験から、役職や階層を越えて現場の全員と対話すること、互恵的な課題解決、情熱と粘り強さ、幅広く深い人的ネットワークが重要であると指摘した。リスク管理を行いつつも、短期的利益より長期的信頼を優先する姿勢が南アジアでの事業を支えるとまとめた。
総括
討論では、南アジアで必要な能力には他地域にも共通する要素がある一方、その能力が現れる具体的な行動や関係調整の方法には地域固有性があることが確認された。現地生活への適応にはおおむね3か月、得た知識や人脈を業務で活用するには少なくとも半年程度が一つの目安となり、再赴任や長期経験が仕事の質を高めるとの意見が示された。
語学については、公式業務では英語が基盤となる一方、現地語は必須条件ではないものの、信頼形成、文化理解、非公式情報へのアクセスに大きな効果をもつと整理された。また、日本の常識を絶対視せず相手への敬意をもつこと、現地化し過ぎず双方の差異を資源として活用することが重要である。
人材育成では、①基礎的な語学・地域理解、②早期の現地派遣と現地の人々との協働、③裁量と責任を伴うOJT、④失敗事例を含む振り返りと共有、⑤地域経験を正当に評価し、他地域・他分野にも展開できるキャリアパス、を一体的に設計する必要がある。今後は実務家の事例をさらに収集・分析し、選抜、事前研修、現地経験、内省、組織的継承までを含む人材育成モデルへ発展させることが課題として共有された。
報告者(所属):田中志歩(立教大学)
