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NL33巻1号 [2022.02]

2021年度「国際開発学会賞」選考結果

岩原紘伊会員、小山田英治会員の著書に、2021年度学会賞を授与

第31回全国大会(金沢大学(オンライン):2021年11月20・21日)において、岩原紘伊会員の著書『村落エコツーリズムを作る人々:バリの観光開発と生活をめぐる民族誌』(風響社 2020)に奨励賞を、小山田英治会員の著書『開発と汚職:開発途上国の汚職・腐敗との戦いにおける新たな挑戦』(明石書店 2019)に、賞選考委員会特別賞を授与しました。

応募くださった皆様、誠にありがとうございます。選考委員一同、応募作から多くのことを学ばせていただきました。学会賞の趣旨は、会員の研究を励ますことにあります。会員の皆様には、ご自身の研究を、さらに磨き高めていくための機会として、ご活用いただけましたら幸いです。

学会誌掲載論文以外は、応募されなければ選考対象となりません。2022年度にも多くの皆様からのご応募をお待ちしております。

賞選考委員会
委員長:三重野文晴(京都大学)


選評1

奨励賞:
岩原紘伊 『村落エコツーリズムを作る人々:バリの観光開発と生活をめぐる民族誌』(風響社2020)

作品は、バリ島という世界的な観光地におけるCommunity-based Tourism(CBT)を題材に、観光の対象となる「慣習村」(アダット)へのNGOや外部社会からの働きかけの作用を論じたものである。CBTを題材としながらも、それの舞台となる「慣習村」そのものより、NGOなどの外部社会との「仲介者」の行動とその影響に焦点をあてるという独創的な着想に基づく研究である。

長期の参与観察と広範な先行研究のサーベイに基づきながら、そのグローバルな文脈、スハルト体制期以降の国内政治の文脈、ジャワを中心とするインドネシア社会とバリ社会の関係の文脈を明らかにした上で、NGOや村内の知識人など、外部社会と「慣習村」をつなぐアクターの功績と課題とを丁寧に解き明かした研究である。

その中心的な結論は、NGOや村内の知識人などの「仲介者」が、もともとは権威主義体制との折り合いをつけながら広い活動を実践あるいは試行してきた経緯があり、その後グローバルな環境変化や国内政治環境の変化に適応するために、題材としてCBTの実践を「発見」したこと、それを反映して活動は外部社会におけるCBTの価値や諸々の近代的社会概念を「慣習村」に「翻訳的」に持ち込む形をとり、それが「慣習村」内におけるCBTやコミュニティーのあり方についての解釈を形成したというものである。

本作品は文化人類学の立場からの研究であるが、人類学的な開発研究としても、地域研究としても読みごたえがあり、従来のツーリズム研究、例えば経営学や経済学などのから観光を論じた研究にはない視覚と情報を提供している。

社会開発の手段としてのCBTが「仲介者」によって地場のコンテキストにどのように「翻訳」されたか、という視点は斬新である。その視点のもとで、豊富な先行研究レビューに基づいて、CBTをインドネシアの伝統的なアダット・コミュニティーの盛衰に引き付けおり、対象地域の文脈にしっかりと落とし込むことに成功している。この独創性と強い帰納的考察の両立は高く評価できる。

本作品の記述の高い完成度の一方で、分析は少数の事例を扱ったケースタディーが中心ではあるので、一般化には相当に慎重であるべきとも感じられる。その点、選考委員からは、インタビューから登場する主要なアクターの意図をかなり断定的に解釈・記述する傾向も窺われ、考察実証について粗削りな部分も残るという意見もあった。素晴らしい若手研究者の登場を喜び、今後の一層の活躍を期待したい。

(三重野文晴)


選評2

賞選考委員会特別賞:
小山田英治 『開発と汚職:開発途上国の汚職・腐敗との戦いにおける新たな挑戦』 (明石書店 2019)

 経済開発下の汚職・腐敗という大きなテーマについて、1990年代以降の議論や先行研究を総括し、途上国の現状や国際社会のこれまでの取組みを評価した上で、5ヶ国の事例を分析し、国際開発の政策問題として包括的に論じたものである。

本作品では、経済発展下の汚職・腐敗の問題について、その実態、開発への影響、さらにはそれを抑止する政策について豊富な先行研究を盛り込んで論じられる。また、5ヶ国のケースでは、それぞれの国の経験が詳細に分析され、現場の視点からの汚職の課題が整理され、わかりやすく示されている。

汚職・腐敗という多岐にわたる論点をもつ国際開発の一大テーマに対して、詳細かつ網羅的で、理論と実践のバランスのとれたこの著作は、この分野にとって、いわば「ありそうで、なかった」待望の総合解説書である。

本作品は、壮大な研究展望ともいうべきものであるので、選考委員からは、既存の情報や研究の紹介が中心で、著者独自の研究によって著者独自の知見を目指す要素は必ずしも多くはなく、本賞たる「学会賞」の対象とは性格が異なる、という意見もあった。一方で、この一冊が日本の国際開発分野の研究や実践について計りしれないほど大きな助けとなることは間違いない。その点、賞選考委員会特別賞にまさに相応しい作品である。

(三重野文晴)

*受賞者による受賞の言葉は、次号ニューズレターに掲載します。

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