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NL33巻2号 [2022.05]

2021年度「国際開発学会賞」受賞者からのことば

2021年度「国際開発学会賞」 学会賞(奨励賞)/(特別賞)を受賞して

第31回全国大会(金沢大学(オンライン):2021年11月20-21日)において、岩原紘伊会員の著書『村落エコツーリズムを作る人々:バリの観光開発と生活をめぐる民族誌』(風響社 2020)に奨励賞を、小山田英治会員の著書『開発と汚職:開発途上国の汚職・腐敗との戦いにおける新たな挑戦』(明石書店 2019)に賞選考委員会特別賞を授与しました。

受賞者からの言葉を掲載いたします。なお、授賞作の選評については、ニューズレター前号(33.1)をご覧ください。

受賞の言葉 岩原 紘伊

この度は、拙著『村落エコツーリズムをつくる人びと――バリの観光開発と生活をめぐる民族誌』を2021年度国際開発学会奨励賞に選んでいただきまして、心よりお礼申し上げます。

本書は、2018年3月に東京大学大学院総合文化研究科に提出した博士論文を加筆・修正し、出版したものです。本書の舞台であるインドネシアのバリ島は、近年マスツーリズム開発よる社会・環境への負の影響が国内外から指摘されるようになっており、持続可能な観光の実現が地域社会内部でも意識されるようになっています。

本書はそうしたなか、マスツーリズムに代わる別様の観光のあり方として注目されているコミュニティベースト・ツーリズム(CBT)が、現地の環境NGOやその協力者たちによって、どのようにプロジェクト化され、バリのローカルな社会に導入・適用されているのかを描写しました。

今日 CBT は、発展途上国を中心に国際機関やNGOといったアクターによって参加型開発として多数プロジェクト化されており、地域や国境を越えた現象となっています。同時にCBTに関する研究も増えてきていますが、多くは事業としてのCBT運営の成功や失敗、そしてその要因となる地域社会の内情に焦点が当てられがちで、CBTをローカルな社会へ持ち込むアクターの存在や役割は後景化されてきました。

それに対し本書は、約 2 年にわたりバリのローカル環境NGO やその協力者の活動の内側に入り、参与観察を実施して得られたデータをもとに、CBT が村落社会へと導入されていく現場において、そのオルタナティブな形態が誰によってどのように移入され、当該コミュニティの事情に応じて調整・修正されていくのかを考察しました。

新型コロナウィルス感染症の世界的な流行によって、マスツーリズムを主体とする観光活動が当面困難となるなか、小規模な観光形態が注目されるようになっています。ポスト・コロナ時代の観光活動において、CBTがプロジェクト対象地域の発展にどのような役割やインパクトを持つのか注視して研究を進め、国際開発をめぐる研究の発展に少しでも貢献できるよう精進してまいります。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。


受賞の言葉 小山田 英治

この度は、拙著『開発と汚職―開発途上国の汚職・腐敗との闘いにおける新たな挑戦』に対し、2021年度国際開発学会特別賞を付与して頂き、誠にありがとうございました。

本書は、主に開発途上国並びに新興国の汚職問題を開発の側面から取り上げ、汚職や政府腐敗がどの程度市民や国家開発に影響を与えるか明らかにした上で、政府や市民社会、企業、国際社会の汚職との闘い、そしてその成果はどうなっているのか等を考察し、5か国の事例を通じて各国政府による反汚職政策の様子を描きだしております。

汚職研究の多くは、政治学、刑法学そして行政学上の他研究との関連において行われており、クライエンテリズムやレント・シーキング研究などは別途行われていたものの、一研究分野としては確立しておらず、学術研究テーマとして長い間蚊帳の外となっておりました。その背景には、汚職は一個人の行為で道徳的問題である、そして贈賄・収賄者双方がともに事実を隠蔽するため、研究は困難であるとの理由でした。

また、援助との関係では汚職は国内問題のため、それ自体を議論することは国内干渉となりタブー視されておりました。しかし、1990年代以降、汚職は国家開発を大きく損なわせる要因、そしてそれは構造的かつ国境を超える問題であると認識され、国内問題だけでは取り扱うべきでないというコンセンサスに至り、国際社会全体で汚職と闘うべき機運が高まってきました。

途上国開発との関連で見れば、近年の汚職研究は、制度派経済学を中心とした、ガバナンス研究の枠組み内におけるものが多く、本書でも主に途上国ガバナンスの側面から議論展開をしております。

本書では汚職研究の文献を意図的に多く引用し、途上国の汚職の区分、構造と実態、汚職対策において何が有効的なのか、そして汚職は本当に削減できるのか等、国際開発と絡めて多面的に議論致しました。本書が少しでも途上国開発研究の貢献材料となればと幸いに存じます。

賞選考委員会
委員長:三重野文晴(京都大学)

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