第27回春季大会報告:一般口頭発表-E
一般口頭発表
E1:学びの質をいかに担保するか:途上国における教育介入の実証的検証
- 開催日時:6月27日 9:00 - 11:00
- 聴講人数:38名(内、16名がオンライン参加)
- 座長: 小川 啓一(神戸大学)
- コメンテーター・討論者:吉田和浩(広島大学)、小川啓一(神戸大学)
【第一発表】Open Learning Ecology in STEM Education: A Case of Two High Schools in Egypt
発表者
- Eiman Yassin(The University of Tokyo)
コメント・応答
吉田会員からは、social justiceがOpen Learning Ecology(OLE)の形成・促進にどのように関わるのかを明確にする必要があるとの指摘があった。また、2校の事例からOLEを一般化したモデルとして提示できるのか、単に個別事例の特徴を示したものにとどまっていないかとの質問があった。加えて、調査対象校のサンプリング方法や、成功事例のみを対象としている可能性についても説明が求められた。さらに、先行研究を踏まえた仮説検証型のアプローチも有効ではないかとの助言があり、定義や用語の使い分けについても整理すべきとのコメントがあった。これに対し、Eiman会員からは、本研究はOLEの概念構築を目的とした探索的研究であり、今後さらなる事例を蓄積して検証を進める考えであるとの説明があった。また、Ke会員からは、なぜSTEM教育を対象としたのかとの質問があり、Eiman会員は、エジプトのSTEM高校はOERやOEPを積極的に導入しており、OLEを検討する上で適切な事例であると回答した。
【第二発表】PNGの僻地における構造化教科書の学習改善効果:ランダム化比較試験による検証
発表者
- 田口晋平(拓殖大学)
コメント・応答
小川会員からは、RCTを用いる意義や、実務者の観点を研究に取り入れる重要性についてコメントがあった。また、「PNG」や「僻地」という表現の使い方、ゴイララ地区の地域的特徴について、より丁寧に説明する必要があるとの指摘があった。さらに、ベースラインとエンドラインでサンプル数が減少している点、女子の得点の変化、JICAによる試験問題作成にバイアスが生じる可能性について質問があった。吉田会員からは、教科書配布以外にどのような介入が行われているのかとの質問があった。石原会員からは、算数・理科に関する先行研究の中で、ジェンダー差をどこまで議論できるのか、もともと男子の得点が高い可能性をどう考えるのかとの指摘があった。これに対し、田口会員は、介入内容やテスト作成の経緯、サンプル減少への対応を説明するとともに、ジェンダー差についてはベースライン時点の差も踏まえて慎重に解釈する必要があると応答した。
【第三発表】ミャンマー連邦共和国におけるカリキュラム改革が児童の学力向上に与えた影響に関する研究
発表者
- 牟田博光(国際開発センター)
コメント・応答
小川会員からは、カリキュラム改革が教育現場でどのように実施されているのか、また、学習成果には就学前教育の経験も影響している可能性があるとの指摘があった。吉田会員からは、カリキュラム改革によって教員の指導方法がどのように変化したのか、実際には授業改善が十分に進んでいない可能性について質問があった。これに対し、牟田会員は、改革の実施状況や授業実践の現状を説明した。荒木会員からは、クーデター前後の就学状況の違い、都市・農村間の差異、さらにクーデター後に児童が学校へ戻ることができた背景について質問があり、牟田会員は社会的・制度的要因を説明した。さらに、田口会員からは、新型コロナウイルス感染症の影響下でも学力が向上した理由について質問があり、牟田会員は、留年の影響はあるものの、学習機会そのものが失われたわけではなく、分析では年齢を統制して検討する必要があると回答した。
【第四発表】ICT環境と学校支援体制が生徒の学習者特性に与える影響―ガーナの2校を事例とした「探索的依存」の適応戦略に着目して―
発表者
- 北朱莉(上智大学)
コメント・応答
吉田会員からは、発表前半で扱った統計分析について、家庭でのICT利用状況だけでなく学校におけるICT利用の実態も考慮すべきではないかとの指摘があった。また、仮説は先行研究に基づいて設定したものか、ICTの有無だけでなく具体的な利活用の状況も分析する必要があるとの助言があった。さらに、分析で扱う「エラー」が何を指すのか、操作方法が分からないことによるものか、高度な課題への対応によるものかについて質問があった。八木会員からも、エラーは質問紙への回答上のものか、それともパソコンや端末の操作上のものか、生徒へのインタビュー内容も含めて明確にすべきとのコメントがあった。これに対し、北会員は、本研究でいうエラーはパソコンや端末操作におけるエラーを指しており、その定義を研究の中でより明確に示していきたいと説明した。
総括
ディスカスタントによる建設的なコメントや助言に加え、セッションフロアからも活発に質問や意見が寄せられ、セッション全体として実りある議論が展開された。本セッションは、発表者ならびに参加者双方にとって研究の視点を広げ、今後の研究の進展に繋がる有意義な機会となった。
報告者(所属):小川啓一(神戸大学)
E2:管理される身体と解放への視座:移民・労働市場・性搾取から問う権利の再構築
- 開催日時:6月27日 11:15 - 13:15
- 聴講人数:約20名
- 座長:勝間 靖(早稲田大学/国際連合大学)
- コメンテーター・討論者:上野 貴彦(都留文科大学)、佐藤 裕(都留文科大学)、勝間 靖(早稲田大学)
【第一発表】「児童労働のない州」宣言に向けて:インド、タミル・ナドゥ州の挑戦と課題
発表者
- 中村 まり(ジェトロ・アジア経済研究所)
コメント・応答
児童労働の温床と言われたタミル・ナドゥ州のシバカシのマッチ・花火産業へは、児童労働監視の強化など様々な介入が行われ、大きな改善が見られたと言われている。しかし、法規制の監視が届きにくいインフォーマルな雇用形態や家庭内労働を利用し、依然として危険な作業に子どもを従事させている実態が指摘されている。タミル・ナドゥ州政府は、これらの課題に対して州独自の教育政策をもとに、「教育の質への不信感」や「隠れた児童労働への経済的誘因」に対して具体的かつ細やかな施策で立ち向かおうとしている。例えば、産業界からのニーズをくみ上げたスキル教育専門コースの拡充、「中途退学」を防ぐため学生を抱える家庭への直接給付の拡大、学校給食支給を拡大した「州知事の朝食スキーム」などが報告された。
佐藤裕会員(都留文科大学)からのコメントおよび質問として以下があった。中央政府ではなく州政府レベルでの動きに注目しながら、女性たちの草の根の動きに注目したところに意義がある。タミル・ナドゥ州の政策を支えた政党の価値観はどのようなものか? また、ドラヴィダ・モデルと児童労働撤廃の動きとは、どのように繋がっているのか?
【第二発表】継続する性搾取と「被害者」支援―人身取引対策をめぐる開発学の批判的考察
発表者
- 齋藤 百合子(明治学院大学)
コメント・応答
人身取引は国際犯罪組織だけでなく企業活動における人権侵害の形態としても発生しており、混在移動や特殊詐欺、国内移送における低年齢化した性的搾取など、その形態は複雑化している。女性や子どもの性搾取は継続・増大しているにもかかわらず、性売買をめぐる「強制/自発」「被害者/主体」「子ども/大人」といった二分法的議論により、「被害者」支援のあり方をめぐる議論は十分に深まっていない。二分法に回収されない「被害者」概念を再考する。その上で、日本におけるタイ人少女の保護を事例としながら、性搾取に遭った人びとの回復支援のあり方と、支援に関わる研究者・実践者のポジショナリティを問い直そうとした。
勝間靖会員(早稲田大学)からのコメントおよび質問として以下があった。報告者が指摘する「人身取引」規範そのものの限界というよりは、国際規範の国内的実施の問題ではないのか。また、人身取引が国際組織犯罪の一環としてトランスナショナルに起こるので、一国による国内的実施だけでは難しい現状から、地域における多国間協力が不可欠ではないか。また、開発の歴史的な文脈における負の側面だけで捉えられるか? 特殊詐欺を含む新しい国際組織犯罪が、デジタル技術を駆使するなか、どのような対策を考えるべきなのか。
【第三発表】権利行使を阻む「労働者適格性」:フィリピン―日本労働移動回廊におけるリプロダクティブ・ジャスティス
発表者
- 田中 雅子(上智大学)
コメント・応答
フィリピン―日本間の労働移動回廊における技能実習生の妊娠をめぐる裁判事例を手がかりに、移民の生殖の権利がどのような制約を受けているのかを検討した。日本で技能実習生として働いていたフィリピン人女性が、妊娠を理由に中絶や帰国を求められて起こした裁判を事例に、移民に求められる「労働者適格性(fit for work)」が生殖に関する権利行使をどのように阻んでいるかリプロダクティブ・ジャスティスの視点から問うた。移民女性が「労働者としての適格性」を求められる一方で、生殖に関する権利行使が制度的に制約されている構造を明らかにし、労働移動政策をリプロダクティブ・ジャスティスの視点から再検討する必要性を提示した。
上野会員(都留文科大学)からのコメントとして以下があった。マタハラを超えて、妊娠しない身体が「労働者適格性」とされる現状が明らかとなった。移民と開発が交差する議論における「再生産」の移動管理への組み込みとして捉えられる。討論者の研究として、モロッコ女性のスペイン南部ウエルバでのいちご農業への従事にあたって、子どもを母国に残して出稼ぎすることは、母国へ帰国させる効果が期待されていることが紹介された。報告者の事例との違いを示しながら、国際比較研究の重要性が指摘された。
【第四発表】ケニアの大規模花き農園における労働実践と技能形成
発表者
- 久保田 ちひろ(同志社大学)
コメント・応答
ケニアの花き産業は、国際市場へ高品質な切り花を安定供給する主要拠点となっており、地域社会において重要な雇用創出機会を提供している。大規模農園における作業工程は、効率化の観点から細分化されているが、制度上は非熟練労働として一括りにされることが多い。本研究は、選別や収穫は高度な認知スキルを要する熟練実践であり、そこでの女性労働者は花の個体差に応じた瞬時の判断を積み重ねることで生産性を維持していること、技能習得は形式的な研修以上に作業現場での評価や同僚からの学びといった状況的学習に依存していることを示した。途上国の農業労働を、高度な技能形成の場として再評価した。
佐藤裕会員(都留文科大学)からは、人的資本論やジェンダー論の視点から、若年層の女性は搾取されているのか、それともスキルを向上させているのか、という質問があった。また、エチオピアでは、農園は化学肥料や農薬によって使い物にならなくなってしまうことから、環境の視点から批判されていることが指摘された。
勝間靖会員(早稲田大学)は、調査対象のサンプリングについて質問した。ケニア花き園芸協会(KFC)には100近い会員企業があるが、どのように調査対象の農園を選択したのか? オランダに本部がある農園を調査対象とすることに、何か意味があるのか? オランダにおける切り花の作業と違いは出ているのか?
総括
四つの発表は、それぞれにインドにおける児童労働、タイから日本への子どもの人身取引、フィリピンから日本への女性の技能実習生、ケニアの切り花農園における女性労働者と、研究対象が異なっていた。しかし、脆弱な状況に置かれた人びとを、権利の視点から捉えようとしたところに共通点があった。
報告者(所属):勝間 靖(早稲田大学)
E3:教育的投資から社会の変容へ:高度人材・レジリエンス・地域能力がつむぐ発展の軌跡
- 開催日時:6月27日 14:15 - 16:15
- 聴講人数:約20名
- 座長: 池見真由(札幌国際大学)
- コメンテーター・討論者:池見真由(札幌国際大学)、津曲真樹(北海道教育大学)
【第一発表】社会的交換理論からみた国際学術協力のメカニズム:インドネシア人博士卒業生と日本人教員の協働関係を事例として
発表者
- 梅宮直樹(上智大学)
コメント・応答
梅宮会員の発表では、科学技術分野の本邦大学とUGM・ITBの間の学術協力を事例として、日本留学を起点とした日本とインドネシアの学術協力のメカニズムを明らかにする研究報告がなされた。本研究では、半構造化インタビュー調査結果を基に、両国それぞれにおける促進要因と阻害要因に着目し、報酬とコストの交換、博士留学や信頼形成が果たす役割などの観点から考察が行われた。コメンテーターの津曲会員より、グローバルノース・グローバルサウス間ならではの国際学術協力のメカニズムとは何か、また、個々の研究者間の国際学術協力が多面的・多層的な組織間のものに移行するにはどのような力学が作用しているのかなど、本研究の将来的な期待に基づく質問や助言がなされ、各コメントに対する質疑応答が行われた。
【第二発表】Seeds of Development: How can ODA scholarships create long term
発表者
- James Kaizuka(Japan International Cooperation Agency)
コメント・応答
In this presentation, Mr. Kaizuka presented research findings on the long-term impact of the ABE Initiative based on interviews with 21 alumni. He argued that scholarship programs should be evaluated in terms of their long-term development potential rather than immediate outcomes, emphasizing the importance of sustained support and career progression in maximizing development impact. The commentator, Ms. Tsumagari, asked what the key answer to the research question was and whether additional post-scholarship support could further enhance long-term development outcomes.
【第三発表】北方圏におけるレジリエンス‧アントレプレナーシップ教育の移転条件と制度的適合性の分析
発表者
- 加藤知愛(北海道大学)
コメント・応答
加藤会員の発表では、先行研究で個別に論じられてきた防災教育・起業家教育・復興支援研究の手法を、北方圏の制度条件と接続し、日本型レジリエンス・アントレプレナー教育の展開可能性を、移転条件と制度的適合性の観点から明らかにする研究報告がなされた。本研究では、北方圏への展開は制度条件に応じて再設計されるべきであり、日本と北方圏の教育機関が教育内容を共同設計し、北極域沿岸の脆弱地域の人材育成に適用するモデルが有効であることが示された。コメンテーターの池見会員からは、北方圏を対象に分析されている「重点産業領域」と「制度的適合性」という分析枠組を、気候変動の影響を強く受ける他の地域や災害危機対策の強靭性が弱い他の国にも応用できる可能性や、北方圏との共同作業から日本が学び、日本の教育プログラムの改善や高度化がし得るような知見などについてのコメントがあり、肯定的な応答がなされた。
【第四発表】コミュニティ‧ツーリズムの形成過程における観光教育の役割―ベトナム‧ランソン省の事例から―
発表者
- 安藤勝洋(山梨県立大学)
コメント・応答
安藤会員の発表では、ベトナム北部ランソン省を事例とし、コミュニティ・ツーリズムの担い手を育成する教育システムを理論・実践の両面から明らかにする研究報告がなされた。本研究では、JICA草の根事業の実践を通じて、コミュニティ・ツーリズムの担い手育成に寄与するフォーマル(学校)・ノンフォーマル(青年団・少年隊)・インフォーマル(地域)教育が相互に接続する地域実践型教育システムが確認され、観光教育はコミュニティ・ツーリズムを形成するためのシステムの一部としてこの3つの教育を接続する教育媒介としての役割が見出されたことを提示した。コメンテーターの池見会員およびフロアからは、青年団のような組織が存在しない地域であった場合この教育システムはどのように成立し得るか、地域文化を観光資源として活用することによって文化の変容や商業化が生じる可能性についてはどうか、地方教育とは何かなどのコメントがあり、質疑応答が展開された。
総括
本セッションでは、4つの発表を通して、留学・学術交流・教育実践といった教育的投資が、高度人材の育成や組織・地域の能力形成を経て、持続可能な社会変容へとつながるプロセスが多角的に議論された。各発表では、その効果を高める制度設計や国際協働、地域との連携の重要性が示され、全体として本セッションのテーマでもある高度人材・レジリエンス・地域能力がつむぐ発展の軌跡を様々な事例から検証し、将来の展望に繋がる有意義な知的共有の場となった。
報告者(所属):池見真由(札幌国際大学)
