第27回春季大会報告:ブックトーク
I1:JASIDブックトーク
- 開催日時:6月27日 9:00 - 11:00
- 聴講人数:約25名
- 座長・企画責任者:佐藤寛(開発社会学舎)、島田剛(明治大学)、汪牧耘(東京農工大学)、道中真紀(日本評論社)
- コメンテーター・討論者:高野久紀(京都大学)、高橋和志(政策研究大学院大学)、友松夕香(法政大学)、橋本憲幸(山梨県立大学)
【第一・第二発表:書籍】
高橋和志・樋口裕城・牧野百恵/編『実証から学ぶ開発経済学』有斐閣、2025年12月刊行
高野久紀/著『開発経済学:実証経済学へのいざない』日本評論社、2025年4月刊行
発表者
- 高橋和志(政策研究大学院大学)、長谷川絵里(有斐閣)
- 高野久紀(京都大学)、道中真紀(日本評論社)
コメント・応答など
第一発表『実証から学ぶ開発経済学』と第二発表『開発経済学』は、共に開発経済学のテキストでありながら、難易度(初学者向け/中上級向け)や形式(多人数執筆/単著)は異なり、興味深い比較対象である。そこで、この2冊は続けて報告を行い、報告者同士が相互にコメントし、質疑応答は2冊まとめて行った。
『実証から学ぶ開発経済学』は、『テキストブック開発経済学』(アジア経済研究所編、1997年初版)の後継版として、研究の第一線で活躍する中堅・若手研究者を中心とした多人数執筆のオムニバス形式はそのままに、近年の開発経済学の主流であるミクロ実証研究を中心に最新の研究成果までを体系的に収録した、初学者向けの教科書である。編者の高橋会員の報告では、17人の執筆者間で全体の一貫性・レベル感の統一が課題となったため、執筆初期から研究会方式で内容のすり合わせを実施し、オンライン全体会議で各章の構成や役割を調整し、さらに1〜2か月に1回のペースで原稿を読み合わせ、執筆者同士が直接コメントし合う体制を通して、教科書としての整合性と最新性を両立した工夫が紹介された。担当編集者の長谷川氏の報告では、本書が中堅私大の学生や開発の現場の実務家を読者対象としており、実際に中堅私大を中心として多くの大学で採用されていることなどが紹介された。高野会員のコメントでは、筆者が異なることを感じさせない章間の統一感を高く評価する一方、教科書とするならもう少し研究手法のフレームワークや標準的な理論を説明してほしかったという要望、さらに、本書が『開発経済学』と補完的であるという指摘がなされた。
『開発経済学』は、隔月刊誌『経済セミナー』連載の単行本化であり、開発経済学の主要テーマを扱いながら、各分野の論文を読みこなすために必要な経済理論と実証分析の方法を体系的に学べる、中上級向けの教科書である。著者の高野会員の報告では、本書は学部レベルから始めて開発の実証研究論文の8割程度は理解できるようになることを企図したこと、教科書として分かりやすさと正確性を重視した一方で、分量の制約のため構成や各章の説明を何度も変更する苦労をしたことなどが紹介された。担当編集者の道中会員の報告では、社内会議突破のため著者の所属大学以外の大学での教科書採用を事前に取り付けたなど、原稿編集以外で編集者として果たした役割が紹介された。高橋会員によるコメントでは、本書が単著ゆえに全体を通して同一の視点からの体系的な解説が可能となったことを高く評価した。また『実証から学ぶ開発経済学』と『開発経済学』の違いを丁寧に比較検討したうえで、この2冊が「競合ではなく相互補完」と結論付けた。
質疑応答では、数学的に複雑化していく開発経済学を、経済学専門ではない人がどこまで学ぶべきかという問題提起がなされた。また、初学者向けの書籍企画におけるボトルネックが議論された。
【第三発表:書籍】杉田映理・四方篝・小國和子・新本万里子/編著『月経とフィールドワーク:実践ブック』、古今書院、2026年6月刊行
発表者 報告者
杉田映理(大阪大学)、小國和子(日本福祉大学)、関秀明(古今書院)
コメント・応答
本書は、海外のみならず国内でも野外活動など広い意味でのフィールドワークを行う際の、月経対処をめぐるコンパクトなハンドブックである。編著者の杉田会員・小國会員による報告では、海外研修の安全の手引きや健康管理のハンドブックは数多く存在するものの月経についてはほとんど触れられていないが、事前に情報を得て準備しておくべきことは多く、当事者の女性のみならず引率者や男性参加者も月経についてともに学び、ともに考えることで、渡航中の活動や月経に留まらないお互いへの配慮が可能になるという本書の意義が紹介された。また、4人の編著者と担当編集者が密なやりとりをしながら、総勢17名による本書をまとめ上げた過程も紹介された。担当編集者の関氏の報告では、編者4人が強い熱意をもって丁寧に編集作業に取り組んだエピソードに加え、関氏がこれまでに担当した国際協力関係の書籍やその背景についても紹介された。友松会員によるコメントでは、ご自身のアフリカでのフィールドワークにおけるご苦労や、現地で生理用品がどのように処理されているのかの実態なども詳細に紹介された。質疑応答では、月経のある年代の女性だけでは書籍として読者対象が狭いのではないかという指摘もあったが、むしろこの本を当事者のみならず男性や引率者が読むことで、月経について相互に理解を深めたりオープンに語り合ったりするきっかけになれば望ましいという議論に発展した。
【第四発表:書籍】田中雅子・坂本光代/編著『移動する子どもたちのことばの教育:多様なアクターによる母語・継承語教育の現在と未来』、明石書店、2025年11月刊行
発表者
田中雅子(上智大学)、黄唯(明石書店)
コメント・応答
本書は、日本で暮らす外国にルーツを持つ子どもたちの言語活動や言語教育について捉え直すことを目的とした書である。編著者の田中会員による報告では、本書が国際シンポジウムの講演や国際交流プロジェクトの調査結果、映画制作記録などをもとに執筆され、寄稿者も応用言語学、移民、南アジア地域、国際規範の研究者に加え、移民の子どもの母語・継承語教育の実践者、送り出し国の教員、映画監督、多言語図書館の運営者など多岐にわたるという特徴が紹介された。また、「ちょっと」↔「いっぱい」、「ちゃんと」↔「いいかげん」は対比概念ではなく相補概念であるとして「ちょっと性」を前向きに捉える意義や、「外国にルーツをもつ子どもの教育=日本語教育」だけでは「同化」の強制につながりうることに警鐘を鳴らすといった、本書の役割が示された。担当編集者である黄氏の報告では、書籍のメッセージを伝えるためにカバーデザインは重要であり、本書においても編者・イラストレーター・デザイナー・出版社の間で議論を重ね、学術書としての落ち着きと読者の親しみやすさの両立を極限まで追求したエピソードなどが紹介された。橋本会員によるコメントでは、本書の内容が精緻にレビューされるとともに、「言語活動における『ちょっと性』の積極的評価と母語ないし継承/繫生語の保障の関係をどう考え、いかに両立を図るか」「移動する子どもたちに何語を教えるか、を誰が決めるか」といった問いが示された。
総括
今回も著者と担当編集者のみなさまに、書籍の企画から刊行に至るまでの経緯や、執筆のモチベーション、苦労や工夫の数々を語っていただき、知的刺激にあふれた充実したセッションとなりました。限られた報告時間で密度濃い発表をいただいた報告者のみなさま、書籍を丁寧に読み込みご自身の研究や体験に照らして深く鋭いコメントをくださった討論者のみなさま、台風のなか朝一番のセッションに足をお運びくださったフロア参加者のみなさまに、深く感謝申し上げます。オンライン参加者のみなさまには、Zoomの接続がうまくいかずご不便をおかけしたことをお詫び申し上げます。
報告者(所属): 道中真紀(日本評論社)
