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NL37巻2号 [2026.08]

第27回春季大会報告:一般口頭発表-F

一般口頭発表

F1:国際協力事業のマネジメントと説明責任:事業評価・実施効率・国内理解の再構築

  • 開催日時:6月27日 9:00 - 11:00
  • 聴講人数:30〜50名程度
  • 座長: 米原あき(明治大学)
  • コメンテーター・討論者:藤谷健(国際基督教大学)、本田利器(東京大学)

【第一発表】JICA事業評価で用いられているレーティング・フローチャートの指標化の試み:CES型関数の応用から

発表者

  • 山形辰史(立命館アジア太平洋大学)

コメント・応答

本発表では、現在JICAで使われているレーティング・フローチャートの二つの問題点(説明力の弱さ、操作性の低さ)を克服するための方法として、CES関数を活用した評価手法が提案された。CES関数を用いることにより、①現行のフローチャートのなかで使われている評価4項目にどのような重みづけが与えられていた/いるのかが説明可能になり、②補完性・弾力性・荷重割合の各パラメータが評価分析の操作可能性を高め、③従来のレーティング・フローチャートでは分析ができず総合評定が付けられなかった案件についても評価の対象にできることが、試論的な分析の結果と共に示された。この報告に対して、技術論的に興味深く評価実務に対する貢献が期待できる研究であるというコメントと、報告された試行的な分析結果に関する質問がなされ、実用化に向けての実効可能性を感じさせる質疑応答が展開された。

【第二発表】フィリピン・マニラ首都圏の洪水対策へのJICAの支援:各種支援プロジェクトの発展を踏まえた考察

発表者

  • 坂根 徹(法政大学)

コメント・応答

本発表では、自然災害リスクの高い国のひとつである、フィリピンに対する水害支援プロジェクトの実績に注目した、プロジェクト報告書のメタ分析についての研究報告がなされた。特にマニラ首都圏の洪水リスクに焦点化し、JICAの「事業評価案件検索」および外務省の「国別援助実績」「無償資金協力実績」「プロジェクト方式技術協力案件実績」の報告書データから関連する報告書タイトルを抽出し、いつ頃からどのような支援が行われていたのかを概観した。この報告に対して、報告書のメタ分析に向けた基礎研究として今後の発展を期待したいというコメントと、その発展の方向性についての質問がなされた。今回の報告はタイトル検索に留まっていたが内容への踏み込みが必要なのではないかという点、他の国際機関の傾向との比較分析も可能なのではないかという点、タイトルから直接読み取れない案件(教育案件の中の防災教育の一部など)をどのように扱うのかという点、そしてメタ分析を行う際のAIの活用可能性等が指摘された。

【第三発表】開発途上国インフラ事業における実施効率の要因分析:援助吸収能力・オーナーシップ・プロジェクトマネジメントの役割

発表者

  • 桂井太郎(法政大学/国際協力機構)

コメント・応答

開発途上国支援に於ける大型インフラ事業の多くが予算・工期・便益の点で十分な効率性を達成していないことをふまえ、インフラ事業の実施効率にかかる実証研究がなされている。しかし、その多くは、コスト超過など費用面の実施効率に焦点をあてており、時間効率性に着目しているものは少ない。本発表は、このような現状をふまえ、JICAの2010年度から2024年度までの事後評価報告書にある円借款で支援した開発途上国のインフラ整備事業を対象として、その時間効率性を分析したものである。この分析により、公共投資が急に拡大する局面においては、平均的な遅延率が高まることに加えて、大幅な遅延の発生確率も高くなる一方、重大な環境・社会への影響が想定される事業においては、遅延が縮小し、また大幅遅延の発生確率も抑制されることが確認された。また、自己負担率が高い場合や本邦コンサルタントが関与している場合には、大幅な遅延の発生可能性が低下する傾向も確認された。これらの定量的な結果は有意義で貴重である一方、この結果を、「援助吸収能力・オーナーシップ・プロジェクトマネジメントの役割」という要因に関する確実な示唆として具体化するためには、今後、個々の事例ごとの要因を分析していくことも重要であるというコメントがあった。

【第四発表】国際協力事業における「国民の理解形成」のあり方:JICAホームタウン構想の情報発信を事例に

発表者

  • 安戸乃彩、山本優布、川崎尚人、佐々木結 (東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻)

コメント・応答

本発表は、2025年8月にJICAが発表した「アフリカ・ホームタウン構想」の炎上・撤回事例を分析し、国際協力事業における情報発信の構造的問題を考察したものである。構想の内容自体は既存事業の延長だったが、「移民受け入れ促進」等の誤情報がSNS上で急拡散した。研究はContext Collapse・欠如モデル・社会的正当性リスクの三つの枠組みを用い、国際協力への関心層を暗黙の受け手として設計された情報発信が、非関心層に届いた際に文脈の空白を生み誤解を招いたと分析した。炎上後の訂正対応も欠如モデル的発想にとどまっており、「参加モデル」への構造的転換の必要性が提言された。コメンテーターからは①SNSのアルゴリズムが感情的反応を増幅・収益化するアテンション・エコノミーの構造のもとでContext Collapseはほぼ必然的に生じており、本事例を現代メディア環境の構造的問題として捉える視座が求められる②「参加モデルへの転換」を実践的にするには、外務省とJICAにまたがる政策・実施の二重構造やJICA内部の組織的縦割りといった「送り手側の構造的制約」に踏み込み、転換の主体と責任の所在を明確にすることが課題として残る、といった指摘がなされた。参加者からは、関係自治体への抗議電話が業務に支障をきたしたことが撤回の決定的要因ではないかとの見方が示された。

総括

近年、評価や説明責任に対するニーズが高まると同時に、それらの質や信頼性に対する視線も一層厳しさを増している。そのような風潮の中で、本セッションでは、評価の信頼性を高めるための技術的な課題(第一発表)、評価報告書からメタ分析を通して得られる示唆をどのように活用していくのかという課題(第二発表)、いかにしてプロジェクトの実効性を高めるのかという実践上の課題(第三発表)、そして一般国民に対する情報発信という広義の説明責任に関する課題(第四発表)という非常に包括的な観点から、「国際協力事業のマネジメントと説明責任」について議論を深めることができた。対面オンライン問わず、ご参加下さったすべての皆さまに改めて感謝したい。

報告者(所属):米原あき(明治大学)

 

「第27回春季大会」報告ページ

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