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NL37巻2号 [2026.08]

第27回春季大会報告:ラウンドテーブル–A

A1:グローバル時代のインフラ開発とインパクト評価―新たに求められる機能と役割―

  • 開催日時:6月27日 9:00 - 11:00
  • 聴講人数:約20名
  • 座長・企画責任者:徳永達己(拓殖大学)
  • コメンテーター・討論者:宮内洋平・武田晋一(拓殖大学)山田英嗣・徳織智美・根岸精一(国際協力機構)、高村伸吾(立命館大学)花岡伸也(東京科学大学)、伊藤誠治(ニュージェック)

【第一発表】企画の背景・問題関心・問い、先行研究に対する批判的検討と本研究発表の位置付け、企画趣旨の解説

発表者

  • 徳永達己(拓殖大学)

発表内容

AIやデジタル分野の目覚ましい発展により、スマートシティに代表されるインフラ技術は加速度的に進化を遂げている。一方で、グローバル化による社会ネットワークの相互依存性の高まりとその脆弱性も指摘され、インフラに対する安全性の確保も大きな社会問題となっている。RTでは、「効率性」や「経済成長」を果たす経済活動の拡大に留まらず、コミュニティにおける伝統的な維持管理技術の再評価も含め、持続可能性や強靭性(レジリエンス)の観点より、グローバル時代に相応しい質の高いインフラ開発のあり方や新たな機能と役割の理解を深める。

【第二発表】アフリカにおける日本型都市計画技術の導入 ―ダルエスサラームの公共交通指向型都市開発(TOD)より―

発表者

  • 宮内洋平(拓殖大学)/コメンテーター:花岡伸也(東京科学大学)

発表内容

近年、アフリカは急速な都市化を経験しており、交通渋滞、大気汚染、上下水道の整備、廃棄物処理、住宅問題などの複数の都市問題に直面しており、アフリカ諸国の政府は、都市問題の解決や経済効果を念頭に置いた都市開発の促進を目的に、長らく時代遅れと認識されてきたマスタープラン(M/P)を熱心に策定している。特筆すべきは、JICAがアフリカにおける都市M/P策定の大半を担っていることである。JICAはM/P策定を開発援助の重要な構成要素と認識し、他のドナーと比較して比類のない予算を執行し、質の高いM/Pを策定してきた。地方政府やコミュニティへの強い関与が、この分野における他のドナーとの差別化を促している。

コメント・応答

M/Pは、パーソントリップ(PT)調査など都市開発に必要なデータを整備することも重要な成果の一つである。

【第三発表】コンゴ民主共和国(DRC)における河川物流インフラの編成 ―ポストコンフリクト社会における水上輸送技術の導入と展開―

発表者

  • 高村伸吾(立命館大学)/コメンテーター:伊藤誠治(ニュージェック)

発表内容

コンゴ民主共和国(DRC)では、長期にわたる紛争と国家統治能力の低下によってインフラ開発は著しく停滞し、人々は徒歩交易や河川交通を基盤とした多様な流通実践を展開した。こうした状況のなかで、近年とりわけ重要性を増しているのが河川輸送である。DRC北東部に位置するチョポ州では、閉塞した車両輸送を補完する形で水上輸送技術の導入と展開が進められてきた。これらの草の根的な物流網の形成は、国家主導のインフラ開発が停滞するなかで、人々の移動と交易活動を支える現実的な流通基盤として急速に拡大している。本発表では、紛争終結前後に生じたチョポ州の水上輸送技術の変遷を跡づけつつ、人々の移動性と日常実践がいかに河川物流インフラの編成へと結実しているのかを明らかにする。

コメント・応答

制約条件の大きい環境下において、住民が試行錯誤を通じてインフラ整備を進める事例は参考になる。

【第四発表】インフラ事業のインパクト評価とフィードバックに関する最近の動向

発表者

  • 山田英嗣(国際協力機構)/コメンテーター:花岡伸也(東京科学大学)

発表内容

近年の交通インフラをはじめとするインフラ事業は、データや分析手法の進歩、研究・実務両面での関心の高まりを背景として、多様なインパクト評価研究が発表されている。交通インフラ分野のインパクト評価研究の最新動向を概観したうえで、JICAの運輸交通分野事業842件の事前評価表と、国際的なインパクト評価データベース(3ie)に収蔵の487本の論文を対象に、自然言語処理や機械学習を活用した比較分析の結果を紹介した。

コメント・応答

実務と学術研究の間には一定の重なりが存在する一方、注目する成果や教訓、用いる語彙には差異もみられることが示され、事業形成段階で既存エビデンスを積極的に活用する重要性が議論された。

【第五発表】地域統合プロセスが物理的・制度的連結性の進展に与える影響:東部アフリカ共同体(EAC)と大メコン圏(GMS)の比較分析

発表者

  • 徳織智美(国際協力機構)/コメンテーター:①伊藤誠治(ニュージェック)、②根岸精一(国際協力機構)

発表内容

これまで、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の拡大を通じて、関税障壁の引下げが進められてきたが、近年の米国による追加関税措置に代表される保護主義的政策の再燃や地政学的リスクの高まりを背景に、関税率が低下し続けるという前提は揺らぎつつある。このような状況下で、これまで以上に国境手続、制度運用、関係機関間連携といった非関税障壁の改善が喫緊の課題となっており、単一国による取組にとどまらず、地域統合の進展を通じた物理的・制度的連結性の強化は、引き続き、JICAが支援している国・地域の優先課題として位置付けられている。本研究では、地域統合プロセスそのものが、物理的連結性および制度的連結性の形成・深化に与える影響を明らかにすることを目的とする。そのため、JICAが重点的に支援する東部アフリカ共同体(EAC)と大メコン圏(GMS)を対象とし、それぞれの主要物流回廊であるEAC北部回廊およびGMS南部経済回廊をケーススタディとして取り上げ、両地域における連結性の進展状況を比較分析する。

コメント・応答

地政学的な緊張やパンデミック対応を踏まえた非関税障壁の新たな捉え方と、東部アフリカの北部回廊と大メコン圏の南部回廊のそれぞれの発展の形態に基づく支援の在り方について議論した。

【第六発表】住民参加型インフラ整備(LBT)における組織化と継続の諸条件―タイ北東部・ノンコー村と日本・長野県下條村の事例比較から―

発表者

  • 武田晋一(拓殖大学国際学部)

発表内容

インフラ予算の不足を補う「住民参加型インフラ整備」は、単なるコスト削減策を超え、コミュニティの結束を強める重要な手段となっている。タイ王国東北部ノンコー村(住民の寄付と出稼ぎ技術を活用した「共助」型)を主事例とし、日本の長野県下條村(行政が資材を支給し住民が施工する「建設資材支給事業」型)との比較を通じて、事業の組織化と継続性の確保に向けた諸条件を検討した。特に、ノンコー村の成功モデルをいかに周囲の地域へと広げていくかという視点から、両事例の知見を融合した新たな仕組みの可能性を提示した。

コメント・応答

JICAが2017年に出版した地方創生リソースハンドブックで例示された住民参加の在り方について引用し、日本における広域連合の仕組みやホンジュラスでのJICA支援での実践のケースを紹介した上で、技術力の維持を含めた持続的な住民参加型インフラ整備(LBT)の在り方について議論した。

総括

①社会が直面する社会課題を解決するための端緒となる糸口を見出していくこと、②国家レベルから身近なインフラに至るまで開発に向けたモデル事例と示唆を得ることを目的として活発な議論が行われ、知見を深めた。

報告者(所属):徳永達己(拓殖大学)


A3:ODAレピュテーションの実証研究:信頼構築に対するODA効果可視化の試み

  • 開催日時:6月27日 14:15 - 16:15
  • 聴講人数:約60名
  • 座長・企画責任者:長辻貴之(JICA緒方貞子平和開発研究所)
  • コメンテーター・討論者:室谷龍太郎(JICA)、大石晃史(JICA緒方貞子平和開発研究所)

【第一発表】ODAレピュテーションの実証研究:信頼構築に対するODA効果可視化の試み

発表者

  • 折田朋美(JICA緒方貞子平和開発研究所)

コメント・応答など

発表者からODAの評判(レピューテーション)の実証分析のための分析枠組みについての説明と論点が提示された。これに対し討論者から、ODAにはDual Accountabilityという側面があり、ドナー国の人々と被援助国の人々に対する説明責任を有するため、ODAの実施がどのようにODAのレピュテーションにつながっていくかの経路を示すことの重要性についてコメントがあった。また、別の討論者からは、ODAが信頼・評判の強化に資することを示した先行研究との違いについての質問があり、フロアからは、評判という言葉ではなく、なぜレピュテーションという言葉を使うのかという質問があった。これらの質問に対し、発表者からは、信頼構築や評判強化に至る要因や経路を分析することにより、より良いODAの在り方に関する具体的な示唆を得られると期待している、経営学やメディア論をカバーする先行研究に基づき、レピュテーションという言葉を使用している、という応答があった。

【第二発表】Measuring Perception of ODA in Donor Countries: Cases of the U.S. and France

発表者

  • 長辻貴之(JICA緒方貞子平和開発研究所)

コメント・応答など

発表者から、サーベイ調査を用いた市民によるODA理解度とODAの評判の関係についての分析結果の説明があった。討論者から、ODAの支持や政治的な支持に至るまでの経路、そしてODA、対外援助、開発協力といった言葉の違いの重要性についての質問があった。また、討論者からは被援助国からの評価と他ドナーからの評価の比較の妥当性についても質問があった。発表者からは、統計分析を使用する研究内容であるため、研究手法上はODAの支持や政治的な支持に至るまでのメカニズムを説明することに難しさがあるものの、理論的な説明箇所でメカニズムは説得的に描く必要があるとの応答があった。また、それぞれの意図にあわせ選択しているが、ODA、対外援助、開発協力といった異なる用語の使用によって、サーベイ調査の結果が変わる可能性は排除できないとの応答もあった。

【第三発表】ニュースメディアを通じた開発協力レピュテーションの測定

発表者

  • 阪本拓人(東京大学)

コメント・応答など

発表者から、量的テキスト分析を用いたODA受取国における対ドナー認識・評価測定についての論点が提起された。討論者から、分析に使用しているインドネシアとケニアの新聞会社の選択理由、SNS等の情報についての質問があった。討論者からは、感情測定のスケールの直感的な理解や解釈についても質問があった。発表者からは、地域研究者や先行研究からの情報に基づき中立的な報道をする新聞会社を選択しており、研究の実施可能性という点で現時点では新聞記事のみを対象とし分析を実施しているが、今後サンプルを大きくし分析を続けていくとの応答があった。

【第四発表】ODA Policy and Voter Behavior

発表者

  • 長辻貴之(JICA緒方貞子平和開発研究所)、 鈴木淳平(駒澤大学)

コメント・応答など

発表者から、ODA供与額の変化が、ODAの評判を通じて、政権支持率に影響を与えるという論点が、ランダム化比較実験(RCT)の結果とともに提起された。討論者から、第二発表へのコメントとまとめた形で、経路や言葉の違いの重要性についての質問があった。また、討論者から、Loss Aversionの理論の一貫性、他の政策領域への示唆、質問票内の質問順序の影響についての質問があった。発表者からは、Loss Aversionの理論の一貫性を持った説明の重要性の再認識、ODAと他の政策領域との違いについて説明があり、フロアからの質問に対して、それぞれの国の特性も踏まえた上で分析を継続していくという応答があった。

総括

本ラウンドテーブルでは、まず発表者から、ODAの評判(レピューテーション)の実証分析のための分析枠組み、サーベイ調査によるドナー国におけるODA理解度とODAの評判の関係、量的テキスト分析による被援助国における対ドナー認識・評価測定、RCTによるODA供与額の効果分析について論点の提起があった。その後、発表者、討論者、フロアの間で活発な議論が行われた。

二名の討論者からは、Dual Accountabilityという側面からのODA、ODAへの支持や評判・政治的な支持に至るまでのメカニズム、ODAの信頼・評判の先行研究との違い、感情測定のスケールの直感的な理解等に関するコメントがあった。フロアからは、時宜を得たテーマを扱っており且つ挑戦的で重要な研究であるとのコメントがあった。あわせてフロアからは、レピュテーションの主観性をどの程度前提するかとの議論や、ODAのレピュテーションを考える際には市民及びODAの関係者の双方の観点が重要であるという指摘もあった。これらを受け、発表者からは、研究を実施する際には、それぞれの国の置かれた特性も重視しつつ、市民や行政官等の多くのアクターの視点も入れ研究を進めていくとの応答があった。

報告者(所属):長辻貴之(JICA緒方貞子平和開発研究所)


「第27回春季大会」報告ページ

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