第35回全国大会のお知らせ

2024年の国際開発学会(JASID)の第35回全国大会は、人間の安全保障学会(JAHSS)の第14回年次大会と合同開催をする運びとなりました。

人間の安全保障学会との合同開催は、2019年11月に開催した第30回全国大会以来5年ぶりとなります。

2024年は能登半島地震で幕を開けました。

気候変動の影響は留まるところを知らず、感染症のリスクもなくなったわけではありません。

国内外を問わず、強制避難民は1億人を突破しました。暴力が蔓延して世界の政治的な緊張は高まっています。

日本の国際協力が70周年を迎えた今年、私たちの安全は脅かされ、持続的な開発目標(SDGs)の達成が危惧されています。

世界の不安定化は私たちの命、暮らし、尊厳に影響し、より一層脆弱な状況の中で取り残される人々を生み出します。それでは、誰一人取り残さず、一人ひとりの尊厳をしっかりと守る社会はどのように実現できるのでしょうか。

この取り組みを強化するために、国際協力はどのような役割を果たしうるのでしょうか。

今年の共催大会は、平和と繁栄に貢献することを目指す開発と、持続可能な開発の阻害要因を考察して一人ひとりの安全を守ろうとする人間の安全保障の接点となり、理論と実践の両面から活発な議論を喚起する貴重な機会です。

本共催大会では、一般口頭発表、ポスターセッション(JASIDとJAHSSでは資格や審査が異なる)、企画セッション、および、ラウンドテーブルを募集します。

皆様方の積極的なご参加を実行委員会一同、心からお待ちしております。以下、現時点の情報をお確かめ下さい。

開催概要

開催日

2024年11月9日(土曜)・10日(日曜)

開催方式

対面
(一部オンラインの可能性がありますが、口頭発表・ポスター発表・企画セッション・ラウンドテーブルでのハイブリッドはありません)

場所

  • JICA緒方貞子平和開発研究所())
  • 法政大学 市ヶ谷キャンパス(

発表申し込み期間

2024年7月30日(火曜)~2024年8月30日(金曜)

申込方法

下記の大会ホームページよりお申込みください。

  • 日本語: event/jasidjahss2024/top?lang=ja
  • 英語:guide/event/jasidjahss2024/top?lang=en

今後のスケジュール

  • 8月30日:発表申込締切・会費入金締切
  • 9月上旬:大会参加登録開始
  • 9月下旬:採否結果通知
  • 10月上旬:大会参加登録締切
  • 10月13日:報告論文提出締切

本件にかんするお問い合わせ先

国際開発学会第35回全国大会・人間の安全保障学会第14回年次大会実行委員会
共同実行委員長:松本 悟(法政大学)・武藤 亜子(JICA緒方貞子平和開発研究所)

  • jasidjahss2024 [at] gmail.com(* [at] の部分を@に修正してご使用ください)

大会組織委員会
委員長:松本悟(法政大学)




第25回春季大会:総括

総括

国際開発学会第25回春季大会は、2024年6月15日(土曜)に宇都宮大学を会場に対面(一部オンライン)にて開催し、16日(日曜)には、エクスカーションを実施しました。大会のテーマは「地域発!国際協力と共創の実践 グローバル・グローカルな人材育成」です。宇都宮大学では、教育・研究・地域貢献を有機的に活かした国内外における国際協力や共創にかかわるグローバル・グローカル人材育成を実践しており、学生や地域の方のご参加のもと、プレナリーでその一部をご紹介しました。

本大会では、口頭発表44件(オンライン4件含む)、ラウンドテーブル6件、企画セッション4件(ブックトーク含む)、ポスター発表25件の、合計79 件が採択され、当日は口頭発表43件(オンライン4件含む)、ラウンドテーブル6件、企画セッション4件(ブックトーク含む)、ポスター発表22件の、合計75件が発表されました。参加者は合計270名に達しました。当日は、実行委員会に加えて20名の学生アルバイト・スタッフが運営実施に尽力し、学生ボランティア15名、プレナリー登壇学生も含めると、総勢45名の学生が大会に関わりました。

エクスカージョンでは、「公害の原点」ともいえる足尾銅山と、日本初の完全新設LRTを訪問し、栃木県の歴史と現状から開発について考える機会を設けました。栃木県北西部ある日光市足尾町にある足尾銅山では、国際開発を議論するにあたり伝えるべき日本の経験である公害について学びました。宇都宮LRT(次世代型路面電車システム)は、永年の構想検討と大規模な工事を経て2023年に開業しました。

本大会は、会長からも「ワクワク」する大会にしてほしいという使命を頂いていました。ある参加学部学生からは、発表会場で熱のこもった議論が交わされ、研究で「ワクワク」することを理解した、と嬉しい言葉をもらいました。また懇親会でもアフリカの太鼓も加わり、参加されたみなさまから「ワクワク」されたと声をかけて頂き、会長からも「大成功ですね!」と評価頂きました。

これは、ひとえに、運営・発表・参加されたみなさまとのシナジーの結果であり、心から感謝申し上げます。さらに、今後とも本学会が、よりよい社会を視野に、国際開発並びにその研究にかかわる楽しさを、ベテランも若手も、研究者も実務者も、さまざまな障害をお持ちの方を含む多様な方々が共有できる場になり続けることを祈っています。


大会実行委員長

  • 阪本公美子(宇都宮大学)
事務局長(全体調整)
  • 藤井広重(宇都宮大学)
  • 飯塚明子(宇都宮大学)
実行委員
  • Arjon Sugit(宇都宮大学国際学部)
  • 重田康博(宇都宮大学国際学部)
  • 松尾昌樹(宇都宮大学国際学部)
  • 高橋若菜(宇都宮大学国際学部)
  • 栗原俊輔(宇都宮大学国際学部)
  • 丸山剛史(宇都宮大学共同教育学部)
  • 大森玲子(宇都宮大学地域デザイン科学部)
学生実行委員
  • 匂坂宏枝(宇都宮大学国際学研究科)
  • 福原玲於茄(宇都宮大学地域創生科学研究科)
  • 菊地翔(宇都宮大学地域創生科学研究科)
  • Frimpong Andrew Charles(宇都宮大学地域創生科学研究科)
  • Polgahagedara Don Pubudu Sanjeewa(宇都宮大学地域創生科学研究科)

Summary

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そのほかの第25回春季大会報告ページ

  • 第25回春季大会:総括
  • 第25回春季大会:Summary(English ver.)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表B
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表C
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表D(+オンライン)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表F
  • 第25回春季大会報告:企画セッション
  • 第25回春季大会報告:ラウンドテーブル
  • 第25回春季大会報告:ブックトーク
  • 第25回春季大会:プレナリー
  • 第25回春季大会:ポスターセッション
  • 第25回春季大会:エクスカーション



第25回春季大会報告:一般口頭発表-B

一般口頭発表

B2:危機と移動の複線経路:移民・難民・避難民

  • 開催日時:6月15日12:45 - 14:45
  • 聴講人数:約50名
  • 座長:柏崎 梢(関東学院大学)
  • コメンテーター・討論者:柏崎 梢(関東学院大学)、山口 健介(東京大学)、田中 雅子(上智大学)

【第一発表】「現代奴隷制」言説に関する考察―タイの人身取引の事例から

発表者

  • 齋藤 百合子(大東文化大学)

コメント・応答

山口委員より、「現代奴隷制」という認識が関係機関のみならず企業の評価リスクなど社会的に広がるなか、その言葉の持つ辛烈さが改めて強調されるとともに、本論文における被害者を「他者化」することの問題提起が確認された。

植民地時代を経て、現代社会におけるこれらの言説は、結局オリエンタリズムでありその視点から批判されるべきであるとコメントがなされた。さらに、研究の展開として自身が「加害者」であり相手が「被害者」である立場から、その関わりの難しさが指摘されると同時に、地域研究としての可能性が言及された。

発表者からは調査対象者との関わり方の難しさと重要さについて、経験をもとに振り返られ、地域研究としての展開について前向きに検討する旨回答がなされた。

【第二発表】長期化・複雑化する危機下における難民の学習戦略と経路―タイ・チェンマイにおけるミャンマー難民・移民へのライフヒストリーインタビュー調査に基づいて

発表者

  • 小松太郎(上智大学)

コメント・応答

山口委員より、本論の主旨が確認されるとともに、ミャンマー難民・移民の若者にとって、「教育」そのものが希望の源泉となり、出身国での発展への貢献することを前提として学習が動機づけられていることと、タイその他の国への包括を強調することの関連性に関して問いが投げかけられた。

同時に、本調査対象がチェンマイ大学在住というエリート層といえる若者であり、危機的状況下にあるその他大勢の「難民」との違いを受け、上記の包摂の議論を誰をどこまでに展開するのか質問がなされた。

発表者からは対象者の位置付けの説明がなされるとともに、長期的な難民・移民へのアプローチにつながる可能性と、今後の分析の深化の必要性が回答された。

【第三発表】伝統的住民自治組織による災害避難民受入れ機能―インドネシア・バリ州の2017年アグン火山災害時におけるカランガスム県のバンジャールに焦点を当てて

発表者

  • 坂根 徹(法政大学)

コメント・応答

柏崎委員より、伝統的な住民自治組織バンジャールの施設機能における、日常と非日常の関係の重要性が確認されるとともに、被災者の避難先でのケアの重要性に焦点を当てることの意義が示された。

そのうえで、施設の機能が、避難者受入れプロセスや、受入れ後の対応にどのように関わってくるのかが問われた。また、本事例の位置付けと、今後の展望について確認がなされた。

発表者からは、本事例は特異なケースではなく比較的同様の機能や対応が他バンジャールでもなされてきたこと、そして受け入れのキャパシティとしての人数や期間などの具体について回答がなされた。

【第四発表】ブータン人海外移住者のコミュニティ京成と自己認識の変化―移民システム論からの分析―

発表者

  • 佐藤 美奈子(京都大学)

コメント・応答

田中委員より、「家族」の範囲として数世代にわたるつながりが確認されたとともに、ネパールの事例とともに、女性の留学者や就労者の存在について、そして家庭言語の使い分けについて、問いがなされた。

また、オーストラリアで展開するブータン人の当事者団体について、出国にいたるまでの出身地域別の経緯が明らかになったことから、そうした同郷人団体の有無や意義についてもコメントがなされた。また、出国者の多さから、移民ではなく「脱出」してとらえ、それに対する政府の対応について追求していくことの重要性が投げかけられた。

発表者からは、聞き取り調査からの個別事例の説明とともに、女性や同郷出身者の存在について回答がなされた。また、これまで対応がみられないブータン政府の姿勢について言及された。

【第五発表】「失踪」者の日本入国からベトナム帰国後の軌跡―人間開発の側面から捉える

発表者

  • 加藤 丈太郎(武庫川女子大学)

コメント・応答

田中委員より、本論文が取り上げている「失踪」という言葉は日本側の他称であり、本人たちがどう自称として称しているのか、そしてそれらを日本にいる技能実習生や帰国後の生活において、どのように捉えられているのかを把握する重要性が、ネパールの事例紹介とともに指摘された。

また、「失踪」に限らず移動において、選択肢の自由度がどの程度であるかが重要で、今回取り上げられたようなケースを人間開発としてとらえることの再検討が投げかけられ、元「失踪」者など帰還者の組織による「連帯」や「集団的エンパワーメント」といえるような取り組みの有無や、検討事例を増やす必要性が示された。

発表者からは、聞き取りの内容には多様な側面がありそれらをより丁寧に分析していくとともに、検討事例を増やし、自己実現のための人間開発として捉えていくべきか、より検討を重ねていく意向が回答された。

総括

セッションの総括 移民・難民・避難民の現場の声に裏付けられた、時宜を得た貴重な発表が揃ったセッションであった。

特に奴隷、難民、「失踪」者など、予断を許さぬ危機的事態を、どう捉え考えていくか、いち関係者として私たちにも突きつけられる議論もなされたのは意義深く、研究の意義を再確認する機会となったと思われる。予備分析や検討途中の面もあったが、その後の研究の展開に寄与する機会になったと発表者からコメントが寄せられた。

コメンテーターからの指摘や投げかけに伴う議論が充実した反面、セッション時間内に収めるために、フロアからの質疑応答の時間が最終的にとれなかったのは反省点である。セッション後、発表者を囲んで活発な話し合いがなされていた。

報告者(所属):柏崎 梢(関東学院大学)


B3:グローバル開発の地殻変動:地政対立・国際機関・ SDGs

  • 開催日時:6月15日 15:00 - 17:00
  • 聴講人数:約30名
  • 座長・企画責任者 :谷口 美代子(宮崎公立大学)、大山 貴稔(九州工業大学)
  • コメンテーター・討論者:大平 剛(北九州市立大学)、植松 大輝(立命館大学)

【第一発表】中国の国際開発協力における先進国ドナーとの co-financeの特徴 ー 米 Aid Data最新 統計、 ADBへの聞き取りに基づく分析

発表者

  • 石丸 大輝(国際協力機構)

コメント・応答

植松会員から主に以下のコメントがあった。まず、現在、中国は供与額で行くと世界銀行を超えて、最大の国際協力機関となっており協調融資も増えている。こうしたなか、二国間協調よりも多国間協調が増えているのはなぜか。

これに対しては、協調融資する相手側の視点が重要なのではないか。たとえば、欧米であれば人権や少数派の扱いなどについてはコンディショナリティとするので中国とは相いれないことが二国間協調の案件の伸びにつながらないのではないか。また、中国側がどのように二国間と多国間の協調融資を使い分けているかについて分析することは有効である。

世界銀行はCofinanceの経験が豊富であるために中国側からすれば取引費用が低く、双方に受け入れやすい。こうしたコメントに対して石丸会員からは、今回の報告では、多国間協調の方が二国間協調よりも多い理由については掘り下げていないが、二国間の場合、協調する相手側からすると中国と協調することは国内向けに政治的配慮から難しい。

この点、日本と韓国が二国間協調で多いが、大規模案件が多いので協調に見える面が大きく、積極的に協調を推進しているわけではない。受け手に関する視点というのは現在JICA研究所で実施中であるために、そこで対応したい。

【第二発表】SDGs完全達成に向けた超富裕層の社会的責任と地球市民運動の課題

発表者

  • 岡野内 正(法政大学)

コメント・応答

植松会員からは以下のコメントがあった。SDGとの関係で考えてみると、232の指標を掲げているが、当初は242の指標だった。すなわち、10の指標が重複していたためにそれが削減されたということであるが、達成する意図をもって指標を設定したのかは疑問である。

仮に完全達成したとしても、経済成長=貧困削減=格差解消とならないということはデータの側面から見ても明らかであり、今のやり方を続けていても貧困削減にはつながらないという危機感からすれば、本発表で提案された新たな富の分配という視点は意義深い。

こうしたデータ上の問題などはこの問題にかかわるコミュニティが共有すべきことである。岡野内会員からは、SDGは妥協の産物であるがそれはそれで貴重な妥協である。しかし、それでは限界があるので、資本主義に依拠して分配する仕組みを作ろうというのが本報告の主旨であり、国家だけでなく、NGOの役割などもにも注視すべきとの応答があった。

【第三発表】サステイナビリティとグローバルヘルス〜世界保健機関( WHO)と国連気候変動枠組 条約( UNFCCC)締約国会議( COP)における「気候と健康」に関する合意形成

発表者

  • 勝間 靖(早稲田大学)

コメント・応答

大平会員から主に以下のコメント・質問があった。まず、気候と健康について国連側(WHO)でイニシアティブをとったのは、WHO事務局長のマーガレット・チャンによるところが大きいがなぜか(2021年、2023年の転機になったのは?)。

次に、「緩和」と「適応」という概念を用いて、WHOと気候変動パネル2つの機関が同じ方向に向かうようになったのは興味深い。最後に、「Sustainability」とタイトルにあるためにその定義の厳密性が必要なのではないか?これに対して勝間会員からは、①イニシアティブのきっかけになった理由については、ヨーロッパ加盟国からの強いイニシアティブがあったこと、②特にCOPグラスゴー会合(2021)ではイギリスが周到に準備し、同政府はパリ協定を真剣に進めるために保健セクターを取り込むことが必要と考えていたことなどの回答があった。

そのうえで、UAEで、環境大臣と保健大臣が初めて会合を実施したという意味で、「緩和」と「適合」が出会ったという大平会員の解釈は妥当であることが述べられた。Sustainabilityの厳密性に対しては、地球を脅かしているという意味で用いたが、今後その定義については深く分析を行う。

【第四発表】FOIPの枠組みで変容する日本援助-「会心のヒット」なのか「底辺への競争」なのか

発表者

  • 近藤 久洋(埼玉大学)

コメント・応答

大平会員からは主に以下のコメント・質問があった。まず、日本のODAの安全保障化は、安倍政権下ではなく、民主党政権下でもすでに政策として提示されていた。

次に、ロシア・中国が国際秩序を揺るがしているという指摘だが、現在のアメリカも内側から秩序を壊しているといえるのではないか。また、イギリスからアメリが軍事利用するために貸与しているディエゴガルシアでは、アメリカは住民を強制移住させている。こうしたアメリカの矛盾をどのように理解するのか。さらに、FOIPを同志国が受け入れているといった議論であるが、そういった解釈は適切か。すなわち、ASEANや太平洋諸国にみられるように途上国側もしたたかに両者を天秤にかけるなどしたたかな側面もあるのではないか。

これに対して、近藤会員からは、①ASEANに関してはASEANとASEAN諸国では、FOIPに関して前者は好意的であるが、後者に関しては国によって対応は異なるために区別してみていく必要があること、②アメリカのシンクタンク関係者によると、途上国側のFOIPに対する評価として、中国だけに依存することがない選択肢ができたという点、などが補足された。いずれにしても、現段階では深い考察まで至っていないため、今後、指摘の点も踏まえて改善していくとの応答があった。

【第五発表】紛争影響国における国連の人道・開発・平和の連携(トリプルネクサス)の実践可能性に 関する考察 ーイエメンでの人道・環境危機回避のための SAFERタンカー原油移送オペレーション を事例として

発表者

  • 槌谷 恒孝(東京大学大学院総合文化研究科 人間の安全保障プログラム)

コメント・応答

谷口からは報告の意義や着目点が説明されたうえで、主に以下のコメント・質問として以下の点が指摘された。まず、先行研究レビューがなく、学術研究としての位置づけが不明である。

次に、これまでのトリプルネクサス(人道・開発・平和)から想定される構成要素(紛争・暴力・自然災害)とは異なるために、そのことは前段で規定したほうが分かりやすい。そのうえで、構成要素が違った場合の再現性とその正当性について説明が必要である。

さらに、トリプルネクサスの課題として指摘されてきたのが人道支援の中立性であるが、これに対しては言及がなかったのはなぜか?

槌谷会員からは、①先行研究からの位置づけからは今後の修正過程で明示していく、②構成要素が異なる点は示すが、制度化には一定の進展があるために再現性は確保されると考える、③人道支援の中立性については、字数により含めなかったが指摘の通、④これらの点については今後修正過程で参考にしたいとの応答があった。

総括

本セッションでは、国際情勢が流動化する中、本学会の学際的なアプローチの特性を反映してか、計量経済、国際保健、社会学、紛争・平和研究など多様な学術領域で、研究テーマも、①中国の国際開発協力と先進国ドナーとの協調融資、②気候変動と保健に関する国際合意形成(国際レジーム)、③日本の外交・安全保障政策と開発援助、④人道・開発・平和のトリプルネクサスの有効性(イエメンの事例)と多岐にわたるものであった。

こうした多様なアジェンダセッティングの中にあり、一貫して発表者が目指しているものは、複合的危機を抱える国際社会が、国際開発をとおしてどのように貧困削減・格差の是正、さらには福祉(ウェルビーイング)の向上、平和と安定した社会の実現ができるのかという点であった。

その中でもキーワードとなるのは、対立と協調、格差と(公正な)分配である。たとえば、近藤会員の発表では、FOIPは対中戦略として描かれているのに対して、石丸会員の報告では、中国は先進国ドナーと二国間・多国間協調を行っていることが指摘されている。

また、国際秩序の危機や米国の秩序の内側からの崩壊などが指摘される中でも、勝間会員の報告では国際保健では気候と保健という新たな国際レジーム、槌谷会員の報告では、人道・開発・平和のネクサスによる集団的利益の実現といった面も国際協調も一定程度機能していることが明らかとなった。

こうした議論は、米中対立が先鋭化し、特にロシアによるウクライナ進攻後のリアリズムが影響力を増す言論空間において、リベラリズムの有効性も損なわれていないことを示すものとして指摘することができる。国際的な対立が深まることによって政治化された議論が横行する中、研究者として適切かつ慎重な情報データの分析や解釈の妥当性・信頼性を担保することの重要性を改めて認識した。

残念な点をひとつ指摘したい。本セッションは、5つの発表があり、発表者の皆様には事務局から指示があったように、15分の発表とその後の質疑応答5分ということでお願いしていた。タイムキーパーも機能しており、発表者も制限時間を厳守していただいたが、結果的にはフロアーからの質疑応答を受けることができなかった。そのため、今後、2時間のセッションを組む場合に、最大4人までとすると、発表者と参加者双方の満足感が得られるのではないかと思われる。

報告者(所属):谷口 美代子(宮崎公立大学)
大山 貴稔(九州工業大学)


そのほかの座長報告(一般口頭発表)

  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表B
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表C
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表D(+オンライン)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表F

そのほかの第25回春季大会報告ページ

  • 第25回春季大会:総括
  • 第25回春季大会:Summary(English ver.)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表B
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表C
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表D(+オンライン)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表F
  • 第25回春季大会報告:企画セッション
  • 第25回春季大会報告:ラウンドテーブル
  • 第25回春季大会報告:ブックトーク
  • 第25回春季大会:プレナリー
  • 第25回春季大会:ポスターセッション
  • 第25回春季大会:エクスカーション



第25回春季大会報告:一般口頭発表-C

一般口頭発表

C1:公的領域の編成:選挙・リーダーシップ・国民意識

  • 開催日時:6月15日 09:30-11:30
  • 聴講人数:約20名
  • 座長・企画責任者:小山田 英治(同志社大学)
  • コメンテーター・討論者:小山田 英治(同志社大学)、栗田 匡相(関西学院大学)、大平 和希子(上智大学)

【第一発表】選挙不正への公務員の介入に関する分析:インドネシアにおける票の買収

発表者

  • 東方 孝之(ジェトロ・アジア経済研究所)

コメント・応答

インドネシアにおける公務員による票の買収を村と区レベルに分類し、クライエンテリズムの側面より選挙不正への関与を定量的に明らかにしている。

コメンテーターからは民主化後に発生したクライエンテリズムに関する本研究は先行研究であるインドネシア議会選挙結果を取り上げたMartinez-Bravoを踏襲した形の分析であるものの、そこには新たな研究意義があるとしている。

また本研究で用いられたサンプルはジャワ島のみのため、インドネシア全土で行政区と村の公務員の選挙不正とクライエンテリズムの現状、さらには単発型のクライエンテリズムの様相、金品以外の買票行動などをより明らかにすることにより研究のインパクトも大きくなるのではとあった。

【第二発表】1991年複数政党制再導入後のケニアにおける政治的代表―キクユ・ポリティクスにおける「持てる者」と「持たざる者」との相克―

発表者

  • 平野 雄太 (京都大学)

コメント・応答

本発表は、冷戦後の多民族国家における資源分配の問題に対する解決策に関して示唆を得るため、1991年の複数政党制選挙再導入後のケニアにおける政治的代表制について検討する。具体的にはケニア政界の覇権を握り続けた民族集団キユク人政治家2名(ポール・ムイテと、ムワイ・キバキ元大統領)を文献と聞き取り調査を通じて分析している。

キバキがキクユ・コミュニティ全体を政治的に代表している政治家であるが故に、有権者が自身に半ば盲目的にでも投票してくれさえすれば、同コミュニティへの優先的な資源分配が確約されるという。対してムイテは、キバキら大物キクユ政治家が実際に政治的に代表するのは一部の富裕なキクユ人のみであり、キクユ・コミュニティ全体へは資源は分配されないと言う。

両者の主張の食い違いは、①部分代表をめぐる是非とその「部分」の範囲、②認識上の「公共領域」の範囲、の二点をめぐる両者の認識的相違に起因すると結論付けている。それに対し、アフリカや他国の事例の比較の必要性、アフリカが変遷している中における本研究の位置づけ、政治史的手法で現研究を深化させることもありなどといったコメントがでた。

【第三発表】途上国工業化の失敗に関する考察:国家指導者による「野心的な」工業化ビジョンとその後の製造業部門の停滞と減速局面の変遷

発表者

  • 天津 邦明 (慶應義塾大学)

コメント・応答

本発表は、戦後途上国で現実の工業部門と乖離した野心的工業化ビジョンが打ち出された中、工業化の初期段階でビジョンと現実との乖離を縮小できた国はその後工業化に成功する一方、縮小できなかった国は長期にわたる工業化の停滞に陥ったという博論の仮説の中で、対象国を工業化の成功国と失敗国に仕分けし、ビジョン下の「野心的な」工業化を推進した国と「無残な結末」になった分析部分に焦点にあてたもの。

コメンテーターからは、このビジョンに焦点をあてさらに深めると有用な研究となるという前提で、ビジョンがどのように工業化に関わり、因果関係の証明になっているのか、研究対象時期は歴史的に国際政策が内向きになった時期でもあり、対象国以外の国のデータを取った上で、因果関係を含めさらに深い研究をするのが良いのではないかなどのコメントがでた。

【第四発表】Reforms in Public Sector for Curbing Corruption in Bangladesh

発表者

  • Monirul ISLAM (Yokohama National University)

コメント・応答

バングラデシュにおける公共セクター汚職の要因と解決策について発表している。コメンテーターからは、バングラデシュの汚職対策における市民社会との連携は良好であり、政府の諸制度はすでに構築されているものの、長年汚職は削減されていない。

その主たる理由は機能的な汚職対策機関の不在と汚職と闘うための強い政治的意志の欠如である。現大統領は元汚職対策委員長であり、それを通じて汚職を削減させるリーダーシップを発揮するか、汚職取締機関を政治的に濫用するかは大統領次第であると説明があった。

【第五発表】The challenges of nation building and citizenship education in Madagascar: A reflection on the plural identities of Malagasy people

発表者

  • Andriamanasina Rojoniaina RASOLONAIVO (Osaka University)

コメント・応答

マダガスカルにおける国家建設を歴史から紐解き、学校教育がそれにどのような貢献を及ぼしているか考察したもの。他民族、過去の植民地化、劣悪な統治制度が国家建設を歴史的に挑戦的なものとし、教育を通じても複数存在するアイデンティティを一律そして平等に推進することの困難性について報告している。

それに対し、農村民は国家アイデンティティ自体について十分な知識と理解がないのでは、さらには国家アイデンティティを国家レベルで議論できるのか疑問であるというコメントがあった。これに対し、確かに農村民は意識をしていないとの回答があった。

総括

セッションの総括 本セッションでは「公的領域の編成:選挙・リーダーシップ・国民意識」の共通テーマのもと、アジア(インドネシア、バングラデシュ)、アフリカ(ケニア、マダガスカル他)における国別研究を計5名の発表者が政治学、公共政策学、教育学、経済学、歴史学などの分野を中心にそれぞれ報告がされた。

発表者は実務家、修士・博士課程の院生など入り混じったものであり、3名が日本語、2名が英語での発表となった。東方会員と天津会員は定量分析を用い、Rasolonavivo会員、平野会員、Islam会員はインタビューと文献調査を通じての研究成果発表であった。

各発表者は15分、コメンテーターは5分の配分であった。時間の関係上、フロアからの質疑応答時間を設ける余裕はなく、各自発表とコメンテーターのコメント、そしてそれに対する簡単な回答のみと限定的なものとなった。

セッションは進行過程において日英2カ国でそれぞれ同じ説明をする必要性もあり、想定外に時間を有した。遠方より足を運んで来られた発表者にとってはセッションに参加していた会員との間で意見交換の場が設けられなかったことは残念であるが、コメンテーターの有意義なコメントや助言に基づき研究を深化させてもらいたい所存である。


C2:教育の開発的効果:幼児・就労・現地性

  • 開催日時:6月15日 12:45 - 14:45
  • 聴講人数:約30名
  • 座長・企画責任者:川口 純(慶応義塾大学)
  • コメンテーター・討論者:川口 純(慶応義塾大学)、大塲 麻代(帝京大学)、小川 未空(大阪経済大学)

【第一発表】自主学習教材による認知能力と技能スキルの改善:インドネシアとモロッコの職業訓練校における社会実験の成果より

発表者

  • 栗田 匡相(関西学院大学)

コメント・応答

コメント、質問:職業訓練は一般に研修費用も高い中で本事業は非常に費用対効果も高いと拝察した。単に学習内容を教え込むだけでなく、学習習慣を身に付けることで自己研鑽の持続性も効果として考えられる。

質問は2点で、①自己学習の課題の1つとしてどうしても「ばらつき」が大きくなりやすいのではないかと懸念する。つまり、やる人はやるけど、やらない人はやらないということが往々にしてあるのではないか。本ご発表では男女差、年齢差、ばらつきが無さそうに見えるが何か工夫、仕掛けがあったのか、どうか教えて頂きたい。

回答:不真面目な参加者ももちろんいるが、全体的に定期的なモニタリングをするなどの工夫をしていた。
② 数学の学力と技能スキルの関係性について:数学の学力が伸びたこと自体が技能スキルが伸びることに直結したのか、もしくは学習の“過程”自体にも価値があったのか。

回答:認知能力の伸長だけでなく、非認知能力の伸長もあったと考えられる。そこを切り離して議論することは難しいが、相乗効果があると考えられる。

【第二発表】マラウイの就学前教育における保育者の自発的な教育実践

発表者

  • 谷口 京子(広島大学)

コメント・応答

コメント、質問:就学全教育に対する関心の高まりに対し、実際の教育状況についてほとんどデータがない現状において、複数の教育施設を実際に訪問したうえで、保育者やコミュニティの関係者へのインタビューを行ったほか、丁寧な授業観察により、実際の現状を明らかにした興味ビ回報告であった。

質問は主に2人で、①誰がなぜ、どのような目的で保育者となるのか、②教育施設の目的はどこにあるのか、教えて頂きたい。

回答:①コミュニティに貢献したいという思いが強い。30代の保育者については、学校を終えたものの就職先が見つけられない場合にボランティアとして勤務していることが多い。また、育児をしていて、午前中だけボランティアをするという事例もみられる。特に30代については入れ替わりが非常に多かった。②就学率が50%程度であるため、小学校も特に就学前教育施設に大きな期待をしているわけではない。

【第三発表】Parental Involvement in Early Childhood Development and Child Outcomes in Vietnam: A Household fixed-effects analysis

発表者

  • Jean-Baptiste SANFO (The University of Shiga Prefecture)
  • Keiichi OGAWA (Kobe University)
  • TRUONG Thu Ha (Vietnam National University)

コメント・応答

Comments: The importance of parental involvement in early childhood development has been pointed out in the past, but this study was significant in that it shared new knowledge about the importance of involvement by other family members. Questions were raised in relation to: (1) the definition of ‘involvement’, (2) gender differences in school readiness, and (3) the linkage between involvement and school readiness. The presenter appropriately responded to all the questions that there were some limitations in findings due to the nature of the study.

【第四発表】The Pathway from Education to Work in Madagascar: Focusing on Young People from a Favorable Environment

発表者

  • Fanantenana Rianasoa Andriariniaina (Osaka University)

コメント・応答

Comments: Since knowledge of transition from schooling to work in developing countries is still limited, this study provided important findings, which were based on a field study. Questions were raised in relation to: (1) the local definition of ‘successful transition’ and (2) the extent of difficulty in getting a job for those who do not have network or support from family members etc. The presenter responded that the stability was an important perspective, however, further research would be needed to explore the local definition and to answer to the second question.

【第五発表】University Practices and Lecturers’ Perceptions on Integrating Industry-Related Skills in Pre-service Training for TVE Teachers: The Case of a Ghanaian University

発表者

  • Andrew Charles FRIMPONG(Utsunomiya University)

コメント・応答

Comment: Qualitative interviews with lecturers at universities that train TVE teachers bring to light divergent views on the pros and cons of increasing practical subjects; results of the study are suggestive for other countries, asking whether TVE should emphasize pedagogy or practical experience. Questions include, first, how differences of opinion about the importance of practical subjects arise, and second, what are the plans for future research. As for the answers, regarding the first, we obtained that in ordinal senior high schools, pedagogy is emphasized, while in purely vocational training institutions, practical experience tends to be emphasized. Regarding the second, related to the first, the importance of clarifying to each school about its needs was mentioned.

総括

全体総括は時間の関係もあり、実施していない。日本語と英語が混在する難しいセッションではあったが、精力的な研究発表とコメンテーターの質の高いコメント、質問により、充実したセッションとなった。

教育の「効果」を如何に把捉するのか、非常に難しい課題であるが、意欲的な研究発表がなされ、フロアの参加者とともに議論を深めることが出来た。効果を「結果」で捉えるのか、「成果」で捉えるのか、前提や定義に若干の揺らぎが確認されたことは今後の課題としたい。

報告者(所属):川口純(慶応義塾大学)


C3:貧困へのアプローチ:社会的態度・民間センター・デジタル化 “Approaches to Poverty with regard to societal attitudes, the private sector, and Digitization ”

  • 開催日時:6月15日 15:00-17:00
  • 聴講人数:約45名
  • 座長・企画責任者:新海尚子(津田塾大学)Naoko Shinkai (Tsuda University)
  • コメンテーター・討論者:石戸光(千葉大学)、池見真由(札幌国際大学)、加治佐敬(京都大学)、新海尚子(津田塾大学)

【第一発表】“Regional Educational Disparities in China: A Dagum’s Decomposition of the Gini coefficient“

The first presenter, Mr. Li Feng at Chuo University presented on the effect of the hukou system on education inequalities in China. He examined the Gini inequalities of four subgroups, Rural Hukou, Urban Hukou, Rural Hukou converted to Urban Hukou, and Rural Hukou living in the urban areas, using the 2017 CHIFS (China Household Finance and Southwest University), and decomposed those inequalities based on the Dagum’s decomposition methods. Then, he concluded that inequalities between subgroups contributed a lot to the entire education inequality in China and stressed the influence of the hukou system in education inequalities.

発表者

  • Li Feng (Chuo University)

コメント・応答

The commentator of this paper, Naoko Shinkai at Tsuda University, praised the rather novel application of the well-established decomposition methods, which are often used for income inequalities, to the important dimension of the society, such as education. She then asked the interpretation of the overlapping part of the decomposed Gini coefficients in education inequalities and additional regional differences in some characteristics of education, such as high school completion rates, enrollment rates in private and public schools, other than the average years of schooling among subgroups.

【第二発表】“Shaping societal attitudes towards the impoverished: the role of aporophobia indicators”

The second presenter, Dr. Octasiano Miguel Valerio Mendoza at Universitat Ramon Llull, introduced the fairly new concept regarding poverty, aporophobia, the fear or rejection of the poor and the newly developed indicators to acquire the degree of aporophobia at various levels, Macro, Meso-macro, and Micro. He demonstrated the relationship between aporophobia and key socioeconomic variables, such as income per capita, income inequality, religiousness, the level of education, political system etc. at the country level. He also exhibited the result at the micro level and stated that females and the youth are less likely to be aporophobic.

発表者

  • Octasiano Miguel Valerio Mendoza (Universitat Ramon Llull)

コメント・応答

Professor Ishido discussed this paper. He made a compliment to him, saying that this paper made a great contribution to the research on poverty. Then, he raised some points, such as the application of a Principal Component Analysis to sort out key dimensions, such as a possibility of fear of poverty infection, and the need of disentangling rational parts from possibly irrational components of the fear of the poor.

【第三発表】“The Role of the Private Sector in Poverty Reduction-Analysis of Case Study in Africa”

The third presenter, Ms. Hiromi Inami at the JDI, presented on the private sector’s role in poverty reduction in Africa. She reviewed articles on business and poverty in international development and identified important factors for poverty reduction, such as job creation, income generation, infrastructure development, and access to basic services. She interpreted these factors in the trickle-down economies and inclusive growth models. She concluded that the role of the private sector in poverty reduction in Africa is quite large and yet an effective governance mechanism is crucial.

発表者

  • Hiromi INAMI (JDI)

コメント・応答

Professor Ikemi, the commentator assigned for this paper, raised three points: the clear definition of poverty reduction is missing in the paper; the private sector’s contributions can be compared with the other roles played by different institutions, such as governments and NGOs; the original contribution of this paper should be articulated.

【第四発表】”What do micro-enterprises exist for? The profitability context of micro-enterprises in Sri Lanka”

The fourth presenter, Mr. Sanjeewa at Utsunomiya University made a presentation on micro-enterprises in Sri Lanka and the effect of financial and non-financial components on the stagnation of micro-enterprises. He applied the mixed method. First, he presented the result of the quantitative analysis, based on the primary data of micro-enterprises in four regions in Sri Lanka. He concluded that the age of owners, firm age, and total liabilities influence the firm profitability significantly. In terms of the qualitative analysis, he found that household activities and cash inflow were the main purpose of the establishment of micro-enterprises and making profits may not be the main.

発表者

  • Sanjeewa POLGAHAGEDARA Don PUBUDU (Utsunomiya University)

コメント・応答

Professor Ikemi discussed this paper. She asked about the increase in employment in the informal sector in Sri Lanka, which may not have been produced by micro enterprises and the contribution of family micro enterprises to the whole economy. She also asked what may solve the liquidity traps of micro enterprises in Sri Lanka.

【第五発表】

The fifth presenter, Mr. Shunji Oniki at the Japan International Research Center for Agricultural Sciences, shared his research findings on the digital divide in agriculture in Ethiopia. He applied the mixed method to investigate the way of dissemination of agricultural techniques/skills, such as the proper amount of fertilizer, when not all the farmers have digital devices. He selected two provinces where the literacy rates and the prevalence rates of mobile phones are about 50%. Based on the focus group discussions, although he found a possibility of using mobile phones to disseminate agricultural techniques, he concluded that the degree of agricultural extensions is unclear. Then, he applied the ordered probit model to the primary data of randomly selected farmers in those provinces. He concluded that altruistic motivation has a stronger and significant effect than the financial motivation on agricultural extension.

発表者

  • Shunji Oniki (JIRCAS)

コメント・応答

Professor Kajisa was assigned to make comments on this paper. He stressed the importance of the characteristics of crops and geographical location in agricultural extension and asked for more explanation in those aspects. He also suggested the interactive term of the financial motivation and altruistic motivation to observe the substitutability between those motivations. He also raised the point on the compatibility of agricultural information.

総括

After all the presentations and comments by discussants, a floor discussion was made as much as time allowed. All the presentations were rich in content and provided good opportunities for further research. About forty-five people attended the session. I am grateful for all the presenters, discussants, participants, and the 25th JASID Spring Conference Organizers for having enabled this fruitful session.

報告者(所属):Naoko Shinkai (Tsuda University)


そのほかの座長報告(一般口頭発表)

  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表B
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表C
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表D(+オンライン)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表F

そのほかの第25回春季大会報告ページ

  • 第25回春季大会:総括
  • 第25回春季大会:Summary(English ver.)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表B
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表C
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表D(+オンライン)
  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表F
  • 第25回春季大会報告:企画セッション
  • 第25回春季大会報告:ラウンドテーブル
  • 第25回春季大会報告:ブックトーク
  • 第25回春季大会:プレナリー
  • 第25回春季大会:ポスターセッション
  • 第25回春季大会:エクスカーション



第25回春季大会報告:一般口頭発表-D(+オンライン)

一般口頭発表

D1:持続可能性:消費者・環境配慮・エネルギー

  • 開催日時:6月15日09:30 - 11:30
  • 聴講人数:約20名
  • 座長・企画責任者:西川芳昭(龍谷大学)
  • コメンテーター・討論者:木全洋一郎(国際協力機構)、西川芳昭(龍谷大学)、楊殿閣(ソリダリダード・ジャパン)

【第一発表】「思いやり」と「思い込み」―環境配慮と組織間のギャップ比較

発表者

  • 玉村 優奈 (東京大学大学院)

コメント・応答

円借款事業における「環境社会アセスメント」「環境社会配慮事項」に関して、「《環境配慮》をめぐりどのように解釈のずれが組織・集団間で生じるか」について分析評価を報告した発表に対して、円借款事業の事業主体は相手国政府であり、各国で異なる環境社会配慮事項・アセスメント制度・方法に対してドナーとして日本の制度とコストで主体的に実施するか?相手国によるアセスメントを支援し、結果から協力事業実施を検討するか?【配慮】を検討する可能性が指摘された。

今後の議論として、必ずしも十分ではない相手国の制度・体制をどう支援していくか?(相手国の環境社会配慮の主流化へ)という問いも投げかけられた。

【第二発表】脱炭素社会における再生可能エネルギー開発の変容-風力発電事業における環境紛争と地域産業の振興を中心に-

発表者

  • 安部 雅人(東北大学)

コメント・応答

国際的に注目されている風力発電事業に関して、日本国内における風力発電事業における環境紛争と地域産業の振興について各種事例をもとに分析評価を報告した発表に対して、主要メーカーがヨーロッパ系であり、日本の地場の企業・産業へのメリットが少ないこと、住民・自治体との対話の課題、日本における代替エネルギー源として洋上風力の可能性、日本が遅れている現状と課題(陸上の問題 海上の可能性)等についてコメント・応答が行われた。

【第三発表】日本における消費者のコメ購買実態と「生き物ブランド米」に対する意識分析-「普通の生き物」ブランド米による地域農業振興と水田生態系保全の可能性-

発表者

  • Zhang Yujie
  • 池上 甲一
  • 増田 忠義(近畿大学)

コメント・応答

「コウノトリ」のような特殊な種だけでなく、「カエル」「ホタル」などの一般種も一定のラベル効果があることを評価・分析した報告に対して、支払い意志額推定が実際よりも高く出る可能性、購入実態との関係・プレミア価格の所得増加への効果・地域振興との関連をどう示すか?等に対する疑問がコメンテーターから提起され、今後さらなる分析を行う方向性が議論された。

【第四発表】「北」の倫理的消費主義に「南」の生産者はいかに対応するか:ネパールのコミュニティ森林ユーザーの事例より

発表者

  • 牧田 りえ(学習院大学)

コメント・応答

フェアトレードの実態分析から、北の倫理と南の実情の間にギャップが生じており、倫理そのものの再検討が必要であること、具体的にはEJフレームを用いた分析から対象事例では正義の欠如が示唆されたことが報告された。

コメントでは、ローカルの森林管理および自律性よりFT条件の小規模生産者組織が優先されることが明らかになった点を評価したうえで、ローカルの森林管理においてFTバリューチェーンと直接関係にないNGOの役割も精査する必要があることが指摘された。少数の受益者が補助収入減のために動員(豊富な地域資源に依存している人は実質的に排除)されている問題点が再確認された。

【第五発表】持続可能性実現のためのローカル認証の可能性と限界性:沖縄・八重山諸島のコラコラ認証

発表者

  • 斎藤 文彦(龍谷大学)

コメント・応答

八重山諸島の環境保護を目指しているローカル認証の実態を社会的連帯経済( social and solidarity economy, SSE)の視点から分析評価した報告に対して、どのように「関係性に裏打ちされた主体性の回復」への試みがあったのか?、「ローカル」への埋め込み戦略は適切だったのか?、どのような「社会的疎外」があるのか?などの疑問がコメンテーターから提起された。

現在の制度は移住者による地域振興活動の活性化であり、今後認証制度が環境保護に役立つためには、諸活動が単に量的に拡大するだけではなく、第三者認証を含む次の段階へと移行することが必要であることが提起された。

総括

セッションの総括 国際開発学会で国内事例中心のセッションが開催され、その中身がグローバルな普遍性とローカルな個別性を結ぶ内容であった。特に第3~第5報告は相互に関連しており、総合的な討論の時間がなかったことが惜しまれ、参加者間でプログラム内容が肯定的に評価されていたと考える。

報告者(所属) :西川芳昭(龍谷大学)


O:オンラインセッション

  • 開催日時:6月15日 15:00 - 17:00
  • 聴講人数:約4名
  • 座長・企画責任者:藤井広重(宇都宮大学)
  • コメンテーター・討論者:牛久晴香(北海学園大学)・関根久雄(筑波大学)

【第一発表】ガーナにおける食べ物とお金の相互扶助―中東部O 村の事例から―

発表者

  • 人見俊輝(宇都宮大学国際学部)

コメント・応答

学部生というステータスでありながら、積極的な現地での調査によって、「他者に与える/与えない」という行為が社会的な意味でどのように捉えることができるのか、興味深い主張や論点につなげている。

他方で、導き出したアウトプットに対する論拠は不十分であり、現地で調査したことが一般化を図るうえでのデータとして説得的といえるのかは疑問が残る。調査対象地域の歴史や現状について触れることも重要である。

【第二発表】ガーナ農村部学卒者の就労状況ーオンライン質問紙による追跡調査から

発表者

  • 近藤菜月(名古屋大学)

コメント・応答

ガーナの若者の実態について、キャリア形成からどのように自らを捉えているのか、アンケートや追跡調査を組み合わせながら手堅い考察が提示され、今後も、政策的な解釈に結びつけたりすることで、さらなる発展が期待される。

収集した調査結果に対し、その選択がなされた背景や報告者なりの仮説・考察についての確認が行われるとともに、アンケートという手法の特性を踏まえた検証も進めていくことの可能性についての指摘と報告者による現時点でのアイディアの共有があった。

【第三発表】 マーシャル諸島共和国における教育の質と人材開発に関する一考察

発表者

  • 川崎典子(宮崎大学)

コメント・応答

マーシャル諸島だけではなく大洋州からの人口の流出は今後も続くことが考えられるため、局地的な問題としてではなく、地域の問題として取り組むことの重要性が提起され、そのうえでマーシャルとして、どのような教育を目指し、どのような人材を育てようとしているのか考えることについての指摘があった。

また、JOCVや他国の若者ボランティアがマーシャルの教育にて活動している実態についての確認があり、コロナの影響とシニアのボランティアの実態について応答された。報告者の問題意識としてあげられた教育の受け手側の視点からさらなる研究成果の蓄積が期待される。

【第三発表】観光需要と住民生活の両立–観光需要の季節性の視点から–

発表者

  • ZHU Ningxin(立命館大学)

コメント・応答

「観光」についてどのように捉えて/定義して報告しているのか不明瞭であるため、「観光客の視線を別の対象」に逸らせることが「観光」の議論であるのか考える必要がある。その結果、提示された考察が、いわゆる当たり前の政策のようであり、そもそもなぜこれらの当たり前とも思われるアプローチが試みられてこなかったのか、報告者は明らかにしたうえで検証すべきである。この点は報告者自身が、今後の研究課題にて消費者行動や心理学からの考察を検討されている問題意識にも通ずる。

総括

セッションの総括 オンラインながら、どの報告者も熱のこもった意欲的な研究成果を披露された。他方、報告者の専門とする手法や地域などが異なる非常に多様性のあるセッションではあったが、良い意味でも悪い意味でも研究報告である以上は、「研究の質」の良し悪しが聞き手には伝わったのではないだろうか。

この点、本学会は学生の報告に対しても寛容であり、ある種の新規性を提示できればそれで良い学問領域かもしれないが、良い素材を集めても型で整理できていないとコメンテーターの負担が大きいと思われる。

しかし、本セッションのコメンテーターがかなり丁寧にかつ建設的なコメントと考えるべきポイントを整理してくださったことで、報告者にとって非常に有意義なセッションとなった。

今後は学生報告に関しては他の学会にみられるように学生部会等を作ってそちらで時間をかけて指導的議論をおこない人材育成に務めることも検討すべきであろう。

報告者(所属):藤井広重(宇都宮大学)


そのほかの座長報告(一般口頭発表)

  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表B
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  • 第25回春季大会報告:一般口頭発表F

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第25回春季大会報告:一般口頭発表-F

一般口頭発表

F1:生活圏との接触:水・衛生・建築

  • 開催日時:6月15日 9:30 - 12:30
  • 聴講人数:約30名
  • 座長:樋口倫代(名古屋市立大学)
  • コメンテーター・討論者:樋口倫代(名古屋市立大学)・吉村輝彦(日本福祉大学)

【第一発表】ジンバブエにおける生理用品の廃棄方法をめぐる課題

発表者

  • 小塩若菜(大阪大学大学院)

コメント・応答

ジンバブエでも使い捨て生理用品が普及してきている。適切な廃棄のためには、タブー、恐れ、行動規範など文化的要因と環境への配慮のバランスが課題となることを示した。

  • 人目につかないようにしたいという点と、環境汚染をできるだけ少なく廃棄するという点では、熱効率がよい焼却処分が理想であるように思うが、そのような理解でいいか?
    →そうかもしれないが、一部の富裕層エリアを除いてごみ収集のシステムが機能しておらず、住民には認知されているが、諦められている。
  • 学校の月経についての授業で、文化的な側面も教えているのか?
    →月経のしくみなど、生物学的な知識の教授が中心となっていて、文化的な側面はほとんど教えられていない。

【第二発表】トイレの普及は乳幼児の命を救うか?:カンボジアの事例

発表者

  • 山田浩之(慶應義塾大学)

コメント・応答

トイレ利用と子どもの死亡に関連があることは知られているが、因果関係は明らかではない。また、世帯を分析単位とすると、外部性が考慮されない。国勢調査のデータを用いて、村の傾斜角度を操作変数として、村単位の分析をすることにより、トイレ利用が5歳未満児死亡率に影響があることを示した。

  • 分析の単位が村では大きすぎないか?谷があると1つの傾斜で村の実態を反映できないのではないか?
    →村は半径300mを想定していて、現地の観察との齟齬はない。カンボジアは平坦な土地柄であり、1つの村内で複数の傾斜があることは考え難い。
  • 高地に貧困世帯が多いなどはないか?
    →カンボジアはそうではない。

【第三発表】バングラデシュの政府所有地に居住する住民の水利用の変化とその要因―南西沿岸部農村を事例として

発表者

  • 山田翔太(立教大学)
  • 田中志歩(広島大学)

コメント・応答

バングラデシュのある農村を対象にした水利用に関する調査から、住民の飲料水源として、池ではなく、井戸が利用されており、水源利用の方法は、状況変化に伴って変化していく可能性を明らかにしたものである。

  • 水源利用を変えていく背景としてどのようなことがあり、どのように変えていくのか。
  • 水利用については、飲料水源としての利用以外にも、排水等もあり、全体としてはどうなっているのか。

→排水等も含めて、これからはバングラデシュ農村の水環境及びその利用状況を包括的に捉えていく必要がある。

【第四発表】開発途上国における建設支援の課題―バングラデシュにおける避難所及び住宅建設支援の事例

発表者

  • 宮地茉莉(関西大学)

コメント・応答

バングラデシュにおける避難所及び住宅建設支援の事例について、「物的支援」「知的資源」「人的資源」の枠組みを援用することで、建設支援の今後の課題を明らかにしたものである。

  • 「ドナー主導」と「コミュニティ指導」、「ウチ」と「ソト」、「支援する人」「支援される人」という二元的な捉え方でいいのか。別の視点から捉え直すことで、従来の枠組みを超えて、見えてくることがあるのではないか。
    →事例を、分類する際に、二項対立的な発想になってしまっており、この枠組みに入りきらない要素をもっと丁寧に拾っていく必要がある。

【第五発表】How Ethnic Minorities have Maintained a Traditional Community House in Central Vietnam: A study of 15 years after Constriction

発表者

  •  飯塚明子(宇都宮大学)
  • 田中樹 (摂南大学)

コメント・応答

ベトナムのあるエスニックコミュニティにおける伝統的なコミュニティハウスが、建設後15年間どのように維持されてきたのかの実態を明らかにしたものである。

– 15年と言いながらも、近年の取り組みが中心であり、全体像が見えにくい。
– 新たな動きや変化があった時に、なぜそのようなことが起こったのかを含めてそのプロセスが気になる。
– コミュニティハウスの取り組みだけではなく、地域に与える様々な影響やインパクトとしてはどのようなものがあったのか。

→この取り組みを多様な観点から見ていく必要がある。

総括

セッションの総括 衛生、建築に関する幅広い発表があった。衛生、建築のいずれも、文化や広義での環境など社会的要因が大きく影響する。衛生においては疾病や死亡の削減、建築においては生活の質向上や安全をめざすことになるが、住民のリアリティにおいてはそれだけではない。

文化社会的背景と持続可能な衛生環境、建築について、それぞれの専門分野を越えて、活発なディスカッションができた。特に、大学院生や若手研究者の発表、コメントが多かったことを特記したい。自分にとってのこれまでの枠組みを改めて相対化していくこと、そして、分野を越えて、多様な視点を持つことで、これまで見えてこなかったことが見えてくることがある。

生活圏、そして、そこで暮らす人々の視点から捉え直すことで、今後、広がりを持った議論が展開されることを期待したい。

報告者(所属):樋口倫代(名古屋市立大学)、吉村輝彦(日本福祉大学)


F2:危機管理と知識創造のマネジメント

  • 開催日時:6月15日 12:45 - 13:45
  • 座長:華井和代(東京大学)
  • コメンテーター:斎藤文彦(龍谷大学)、大山貴稔(九州工業大学)

【第一発表】低頻度で大規模な自然災害に対する脆弱性の定量化とその変遷の国際比較

発表者

  • 絹川グリボスタン(東京大学新領域創成科学研究科国際協力学専攻)

コメント・応答

データ分析方法と、分析結果から得られる示唆についてコメンテーターおよびフロアの参加者から質問とコメントが寄せられた。

データ分析方法に関しては、低・中・高所得国のカテゴリー分けは時期によって変わるのか、気候変動の影響は考慮されているのか、国の所得が増えると災害による経済損失は自然と増えるので、その変化をどう計算するかなどの質問があり、発表者はデータの詳細を説明したうえで、時代の変化に沿った大規模災害への脆弱性の変化が国によって異なることや、国による経済水準の差によって脆弱性に差が見られることを指摘し、今後詳細を検討すると説明した。

一方、分析結果から得られる政策的示唆や一般化の可能性、国レベルのみならず地域レベルでの比較などの研究の汎用性についても質問と期待が寄せられ、発表者は今後の発展の可能性を述べた。

【第二発表】ボランティア事業における非政治性と平和部隊の隊員管理-冷戦下のラテンアメリカ地域での経験から

発表者

  • 河内久実子(横浜国立大学)

コメント・応答

コメンテーターおよびフロアの参加者から、なぜ隊員の管理に注目したのか、非政治性をめぐる組織と構成員の認識のずれはどのような問題の表出なのか、アメリカの内政と外交および任国の政治にどのような影響を持ったのか、非政治性を3つに分けることで見えてくる特性は何か、隊員の訓練マニュアルなど組織の価値基準で書かれやすいものではなく、個人が書いた文書の中ではどう描かれたのか、他国の国際ボランティアでも同様の事例があるのか、という質問が寄せられた。

発表者は、隊員の手紙などの資料も分析したことを説明し、イラク戦争などの介入に平和部隊のOBOGが反対声明を出すなど、アメリカの世論を引っ張る力があることを説明し、政治性を縛ることは冷戦期には意味があったかもしれないが、現在は送り出し国に影響を与えているかもしれないとの見解を示した。

また、日本の青年海外協力隊は60年代初頭の平和部隊の訓練のマニュアルを入手したが、実際の協力隊の訓練内容に反共産主義教育重視という視点は反映しなかったと述べた。

【第三発表】愛知用水期成同盟によるTVA(テネシー川流域開発公社)の開発思想の需要と展開-「愛知用水の久野庄太郎」の『躬行者』を手がかりとして―

発表者

  • 柴田英知(歩く仲間)

コメント・応答

コメンテーターから、TVAの開発思想の日本による受容という観点からすると愛知用水の開発はどのように位置づけられるか、愛知用水の文化運動に注目する背景として、「文化を流す」とは何を意味するのか、民衆の参加によって愛知用水ができた後、関与した人々はどうなっていったのか、との質問が寄せられた。

発表者は、日本の内務省が戦時中にTVAの開発思想を取り入れたときに民主主義という観点は欠けており、民主主義の観点が注目されるようになったのはリリエンソールの本が日本で紹介された戦後復興のときであったこと、および日本(の)デンマークという土壌があったことを説明したうえで、詳細については引き続き検討が必要であると述べた。

「文化」の意味については今後の研究を待つこと、そして、愛知用水の担い手のうち、技術者たちは水資源公団(現水資源機構)や民間会社などで活躍し、地元の農民リーダーたちは愛知用水土地改良区のメンバーとして現場で活躍していると説明した。最後に参加者および座長から、本研究を開発学の研究にしていくうえでの助言が寄せられた。

【第四発表】効果的な情報技術導入による組織開発と知識創造プロセス~パキスタン国パンジャブ州上下水道管理能力強化プロジェクト(フェーズ1、2)を事例とした知識創造理論による考察~

発表者

  • 佐藤伸幸(日本テクノ株式会社)
  • 河田卓(株式会社ナレッジノード)
  • 林俊行(ニイカ・エナジー・コンサルタント)

コメント・応答

コメンテーターおよびフロアの参加者から、データベースの作成・活用が暗黙知から形式知に変化するプロセスおよび、水道局内のそれぞれの階層の人々が物事を理解するロジックの違いについて質問が寄せられた。

発表者は、暗黙知が共同化→表出化を経て形式知(連結化)に変わっていくプロセスを説明した。また、階層によって考えていることは全く異なり、必ずしも全体がイメージできない職員による現場情報の説明をもとに、幹部職がイメージした内容で指示をしていたところに、データベースができたことでデータをもとにして議論ができるようになったことを再度説明した。

さらに、組織が動かない原因として、一人ひとりの能力がつながっていないことが問題だったところ、データベースを上手く使うことで職員は仕事が楽になり、データの使用によって異なる階層の職員の知がつながったことを説明した。

総括

セッションの総括  災害のデータ分析、平和部隊の非政治性、愛知用水の文化運動、パキスタンでの知識創造プロセスという多様な主題での発表が集まったセッションであったが、データや資料の分析から得られる示唆をより大きな開発の文脈にどう位置付け、理解するかという点については共通した議論があり、フロアからの質問も活発に寄せられて充実したセッションになった。

コメンテーターの大山会員、斎藤会員には丁寧に報告論文を読み込んで重要なコメントを提供してくれたことに感謝したい。

報告者(所属): 華井和代(東京大学)


そのほかの座長報告(一般口頭発表)

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第25回春季大会報告:企画セッション

座長報告:企画セッション

A2:大メコン圏(GMS)南部経済回廊における連結性強化の進捗と課題

  • 開催日時 6月15日12:45 - 14:45
  • 聴講人数:約30名
  • 座長・企画責任者:花岡 伸也(東京工業大学)
  • コメンテーター・討論者:藤村 学(青山学院大学)・松丸 亮(東洋大学)

【第一発表】メコン地域南部経済回廊設計方針の変遷

発表者

  • 小泉 幸弘(国際協力機構)

コメント・応答

  •  GMS経済回廊およびアジアハイウェイ網の進展を時系列に整理しているのは有益な情報、実際に走ってみての評価は、ユーザー視点として興味があるとのコメント。
  • 国道1号線無償区間でJICAがADB調査を見直した際の住民移転問題への対応を含む教訓について質問。プロジェクト実施に際しての住民の合意形成、移転対象家屋の最小化、移転補償費算出の際の単価設定、問題が生じた際の異議申し立て機能の設置など、ADBやNGOからのヒアリングも踏まえて対応してきたと回答。
  • 近年の中国支援高速道路などプロジェクトに対し、日本の「質の高いインフラ」からのアドバスはあるか、中国支援のプノンペン~ホーチミン高速道路に対するJICAのスタンスについての質問。前者について初期費用だけでなくライフサイクルコストの考えが重要であること、後者について、上位計画たるマスタープランで高規格道路の必要性を打ち出しており、それと整合性が図られていることが重要、個々には財政負担であったり環境社会配慮であったり、それらを注視していきたいと回答。
  • 「走りやすさ」という主観をどのように定量化し、客観化するか、これにチャレンジしてほしい、施工時の品質や、供用開始からの期間、その間の維持管理体制による違いなど設計思想以外の要因についてコメント。

【第二発表】 バベット(カンボジア)・モクバイ(ベトナム)国境の越境交通の現状と改善活動 ~JICA カンボジア物流システム改善プロジェクトの活動として~

発表者

  • 小林 謙一(国際協力機構)

コメント・応答

  • 調査成果を手際よい図表に整理していることから内容もわかりやすく、パイロットの成果も明確かつ課題も同時に示されており、興味深いとのコメント。
  • 調査結果から「片荷」状態であることが明らかになったが、カンボジア側で空コンテナが滞留しているのかとの質問。同国境を利用するトラック車両や運転手、コンテナは全てベトナム側手配によるものであり、カンボジア入国後、その日のうちにベトナム側に帰っているため、カンボジア側での空コンテナ滞留は見られないことを回答。
  • 国境オープンは24時間なのか、そうでないなら24時間化の可能性はあるのかという質問。同国境は朝6時から夜10時までのオープンであること、タイ・マレーシア国境では過去に24時間化の実験がされたが、深夜早朝時間帯は利用者が少なく、非効率であるため、24時間営業は継続されていないとの情報があること等回答。
  • トラックの到着時間を分散させる対策の導入が難しいのかという質問。時間の分散化は有効な方策であり、混雑時間帯を印刷するなど見える化して利用者に通知することを関係者と協議したことを回答(ただし、大多数のトラックの動きは、午前中にベトナムからカンボジア側へ、夕方にカンボジアからベトナムへという動きであるため、分散化には限界があることも説明)。

【第三発表】貿易円滑化措置の適用に関するアジア・アフリカの比較研究 ~制度面での連携性~

発表者

  • 徳織 智美(国際協力機構)
  • 根岸 精一(国際協力機構)

コメント・応答

  • アフリカ大陸での「制度上の」地域経済統合の歴史がASEANのそれより古いという事実は意外で、両者の比較考察は貴重、両者を強化するような知見も見えてきているので興味深いとのコメント。
  • そもそも動機に違いがある場合(地域統合と経済統合)、経済連携・統合といった点に着目して比較研究をする際の留意点はという質問。政治・外交的動機に基づく地域統合へのイニシアチブと、経済成長・経済開発への動機に基づく経済連携・統合と、出発点や目標がそれぞれの地域経済共同体により異なるものと理解。従って、各地域及び共同体が何を志向しているのかを注意する必要がある旨回答。
  • アフリカがEUをモデルとして「制度上」の統合でASEANに少し先んじたものの、域内物流・貿易・投資・ヒトの移動など「事実上」はASEANが先行しているのかという質問。域内貿易は2023年のUNCTADの統計では、アフリカが15%、ASEANが22.3%であり、ASEANの域内投資は全FDI()の12.3%。アフリカの全FDIは45Billion USDであるが域内投資は不明。アフリカの域内投資は不明なるも、貿易量及びFDI量はアフリカと比較してアジア地域の方が優位。ヒトの移動に関しては、ASEANでは熟練労働者のみ。アフリカのEACの場合、EAC パスポートがあれば域内を自由に移動ができ、ビザなしで6 か月まで滞在可能。ECOWAの場合も、ECOWASパスポートがあればビザなしで90日まで滞在可能等、ヒトの移動に関してはアフリカの一部の地域の方が先行と回答。

【第四発表】ODA による経済回廊整備が与えた民間企業の投資決定への影響分析 ~南部経済回廊でのインタビューを踏まえた考察~

発表者

  • 島野 敏行(国際協力機構)

コメント・応答

  • コロナ禍、ミャンマーのクーデター、米中対立激化、ウクライナ戦争などの影響があるなか、ODAによるメコン地域の連結性強化に向けてWin・Win条件を探るために本件のような経済回廊ごとの地道なステークホルダー調査の積み上げは貴重、「連結性」タスクチームによる柔軟な調査研究に期待とのコメント。
  • 域内経済の所得水準向上に伴い、企業立地は従業員の福利厚生や生活水準を考慮する必要があることを踏まえ、ニュータウン的インフラ整備の公的支援のあり方を研究する必要があるのではないかとの質問。交通指向型開発が注目を浴びているが、工業団地など製造業の後押しを行うためにも、面的な一体開発をいかに進めていくかを産官学で研究し、政策提言を行うことも一案。特に、今後の経済動向を踏まえ、インドを中心とした南アジア圏で更なる製造業の強化を進めるためには、民間企業が進出しやすいビジネス環境をソフト・ハードの両面及び住環境等の都市圏の開発とともに検討し、日本が官民一体的に開発を進めていくことが必要と回答。

総括

セッションの総括 企画者および発表者は、2023年10月にGMS南部経済回廊をホーチミンからバンコクまで2つの国境を越えて実走したメンバーである。

南部経済回廊の課題について、この実走の経験を踏まえ、それぞれの専門の立場からハードからソフトまで分野横断的に発表した結果、コメンテーターおよび聴講者から多数の興味深いコメントとそれに対する応答があり、大変充実した内容のセッションとなった。

本セッションを通じて、ある事象に対する課題の多様性とその解決方法には様々なアプローチがあることも示唆できたと言える。

報告者(所属):花岡 伸也(東京工業大学)


A3「足尾銅山問題を通じて開発を考える」

  • 開催日時:6月15日15:00 - 17:00
  • 聴講人数:約60名
  • 座長・企画責任者:重田康博(宇都宮大学)
  • コメンテーター・討論者 :髙橋若菜(宇都宮大学)

【第一発表】「足尾銅山開発の光と影を考える」

発表者

重田康博(宇都宮大学)

コメント・応答

多文化公共圏センター:
足尾継承の責務に、国際開発学の継承

  • 問題提起:歴史に学び、将来をどう展望するのか
  • 国家、市場、市民社会の図が起点

匂坂報告:
フレーミングから健康被害を始め、市民社会の視線が抜けていることを指摘

【第二発表】 「語り継ぐ足尾―「光と影」の継承―足尾町内の展示施設から―」

発表者

匂坂宏枝(宇都宮大学)

コメント・応答

展示施設のコンテンツ比較から、「光」に偏りがあり、さらに煙害以外の「影」が抜け落ちていることを指摘した。

その上で、宇都宮大学多文化公共圏センターでは「語り継ぐ足尾」という冊子を制作し、足尾銅山の「影」に注目していることを紹介した。

  • 質問:足尾銅山の「影」の部分で、可視化されていないものにはどういうものがあるのか?
  • 質問:住民自らが「影」を隠したがることも他の公害である。そのような状況で、「影」を残すにはどのような課題があり、どのように乗り越えられるのか?
  • 意見:隠したい企業側と明らかにしたい被害者側との二項対立のジレンマがある。
  • 質問:足尾町では「光」を選択して展示しているのであり、それはフレーミングではないのではないか。
  • 質問:誰が「影」を展示するべきなのか。

【第三発表】「田中正造と足尾銅山鉱毒問題―田中正造の憲法論を中心に―」

発表者

三浦顕一郎(白鴎大学)

コメント・応答

著書「田中正造と足尾鉱毒問題 土から生まれたリベラル・デモクラシー」から、(国家の責任)をどう考えるか。足尾銅山の問題は、「善と悪」の問題ではなく、開発における「光と影」の問題なのである。その「光と影」の双方を継承し普遍性を追求することが重要である。

  • 田中にとって政治とは、人民を幸福にする営みであり、政治家とはそうした営みに奉仕する人間であった。
  • 田中は政府の役割、責任を追求し続けた人物である。
  • 質問:不都合な歴史の不可視化を望む主体は誰か。
  • 質問:(重田報告にあった)国家・市民 社会・企業の中にある公共圏の役割をどのように考えるか。

総括

セッションの総括 ・本企画セッションは、2日目の足尾エクスカーションの前段階として行われた。
まず企画責任者の重田からは、本企画セッションのテーマ「足尾銅山問題を通じて問題を考える」の全体の概要、論点、期待される効果の説明を行い、3人の登壇者の紹介を行った。

  • 最初の重田報告は、「足尾銅山の光と影を考える」というテーマで、足尾銅山の意義、宇都宮大学の多文化公共圏センターの活動、今後の課題、特に公共圏の役割について説明した。
  • 第二の匂坂報告は、「語り継ぐ足尾―「光と影」の継承―足尾町内の展示施設から―」というテーマで、銅山の光と影のその継承の状況を報告し、公害経験の継承に関する先行研究を示した。さらに足尾町内の展示施設の光と影の展示状況についてフレーミングによる分析、考察をした。結論として、煙害へのフレーミングの問題点、足尾町の影の継承に向けての課題を実証した。
  • 第三の三浦報告は、「田中正造と足尾銅山鉱毒問題―田中正造の憲法論を中心に―」というテーマで、田中正造の鉱毒問題追及の論理(所有権、生命)、憲法と生命、正造にとっての憲法論議を紹介した。
  • それを受けて、討論者の髙橋会員の方から、国家、市場、市民社会における公共圏のあり方とその役割、足尾の影の可視化における課題についてコメントがあった。

以上の通り、本企画セッションでは、足尾銅山問題を通じて開発の光と影を検証したが、困難な公害問題を可視化し解決するためには、鉱毒被害にあった住民たちの救済のために、国家、市場、市民社会がそれぞれ協議し、合意形成を行い、共存・共生できる公共圏の形成を目指していくことが必要であろう。

報告者(所属):重田康博(宇都宮大学)


B1「日本型協力」の本質を問う-日本による国際協力の意味と役割に関する多面的検討

  • 開催日時 6月15日9:30 - 11:30
  • 聴講人数:約90名
  • 座長・企画責任者:山田肖子(名古屋大学)
  • コメンテーター・討論者:山形辰史(立命館アジア太平洋大学)

【第一発表】「日本型」開発協力の一考察-翻訳的適応の視点から

発表者

  • 大野泉(政策研究大学院大学)

コメント・応答

大野発表では、日本自身の産業開発や開発協力の経験をもとに、外国知識を導入する際に受容側が社会に内在的な視点でその内容を「翻訳的に適応」していくプロセスに着目し、日本型協力のモデルを検討した。大野発表では、日本の開発経験を共有するプロセスで、受け手の現地側が自らの制度・文化的やニーズに合わせ、翻訳的に学ぶ、その移転過程にこそ欧米型の国際協力にない日本型の特徴があるとみなした。

【第二発表】「日本型インフラ協力」とは?-日本によるインフラ協力の特徴と新たな価値付け

発表者

  • 松本勝男(国際協力機構)

コメント・応答

松本発表では、日本のODAの歴史からその協力モデルの特徴を抽出し、それを、国際協力によって、日本の経済安全保障にも貢献しつつ、支援対象国及び地域の開発課題に応えるインフラ支援の6つの特徴(借款、計画から運営維持管理まで一貫した支援、国境を跨る広域開発への貢献、日本独自の経験を多機関が連携して提供)を提示した。

【第三発表】日本の国際協力におけるNGO・「市民社会」の周縁化とその影響-社会開発における「日本型協力」の陥穽

発表者

  • 稲場雅紀(アフリカ日本協議会)

コメント・応答

稲場発表は、市民社会の立場から様々な政策策定プロセスに関わった経験をもとに、「日本型協力」という表現がもつ制約や違和感を論じた。「日本ならではの国際協力はない、もし日本にしかできないなら他国には移転できない」という強いメッセージとともに、むしろ普遍的で数値化できる課題に対する貢献の意義を指摘した。また、市民社会が周縁化されていることが、ネガティブな意味で日本型ともいえるとの指摘もあった。

【第四発表】「日本型教育」輸出の課題と可能性-ブランド・ナショナリズムを超えて

発表者

  • 興津妙子(大妻女子大学)

コメント・応答

興津発表は、文部科学省の「日本型教育の海外展開(EDU-Portニッポン)」事業に参加した団体の報告書等の分析をもとに、「日本型」とラベルを付けることによって表出する日本の国際協力当事者の自己認識と、支援される側についてのイメージの変化を論じた。このEdu-Port事業は、関わった人々が他者と交流する中で自己認識が問い直されることによって、日本の教育が相対化され、問い直される(還流する)効果を持つと指摘した。

総括

セッションの総括 「日本型」国際協力とは、まさに古くて新しいテーマだが、あまりにいろいろな場面で使われたために、何を意味しているのかも共通見解はない。本セッションは、象徴的に用いられる「日本型」という言葉を入口にすることで、その背後にある国際協力の理念や課題認識について議論することを目指した。
3つの発表に共通したキーワードである「日本型」につき、何か具体的で移転可能で客観的に測れる実態を持ったものなのか、それともそれはあくまでも価値観を曖昧に括ったイメージ的なものなのかについて、見解が分かれた。

大野発表では、日本の開発経験が移転されるプロセスに日本型の特徴を見出したのに対し、松本発表では、日本のODAの歴史からその協力モデルの特徴を抽出し、それを、国際協力によって、日本の経済安全保障にも貢献しつつ、支援対象国及び地域の広域的な開発課題に応えるインフラ支援の特徴を抽出した。稲場は日本型という言説の幻想を突き、興津は日本型協力が、むしろ日本の関係者の自己認識と日本の課題への気づきにつながると指摘した。また、指定討論者の山形からは、「日本型という表現は、日本企業が海外進出するための方便として用いられることが多いような気がする」、「日本型経済論や日本型経営論の文献蓄積の延長線上に日本型国際協力論があるのか、それとも国際協力に関する日本型は、そうした企業展開の議論とは別個なのか」といった質問が提起された。

このように「日本型」に対する立ち位置、論点の組み立て方は異なる一方、3名の発表者は、それぞれ援助側としての日本と被援助者の相互性を日本型の一つの特性として挙げている点で共通していた。ただし、その相互性をプロジェクト実施過程での現場レベルの人間関係の中に見出す比較的ミクロな視点(大野)もあれば、援助戦略としての日本と被援助国・地域の双方にとって利益のある協力という視点(松本)もあり、相互性を論じる位相にも広がりが見られた。興津が、日本型の国際協力を語ることの効果として、ミクロレベルの変化に焦点を当てつつも、それを協力対象の人々や社会ではなく日本に見出した視点は、参加者から賛同の声があった。

また、こうした日本型ありきでその内容をとらえようとする立場に対し、「日本型」というと、これまで【国益 VS. 人道】の二項対立的な議論に収れんしがちであったが、そもそも援助国としての日本の独自性を主張することに意味を見出さず、普遍的に達成するべき価値を目指すべきという指摘もあり(稲場)、これも参加者からはセッション中もその後も賛同の声が寄せられた。

それぞれ、専門の観点からの重厚な蓄積に基づいた発表だったが、それだけに議論の時間が足りず、このセッションで発信しようとしたことを参加者がそれぞれ咀嚼し、論じ合うための別の場が必要という印象であった。しかし、朝いちばんのセッションにも関わらず、満室の参加者を得て、事後にも様々な感想をいただき、思考を刺激する機会になったのであれば開催した意義があったかと思っている。

報告者(所属): 山田肖子(名古屋大学)


そのほかの第25回春季大会報告ページ

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第25回春季大会報告:ラウンドテーブル

D2:ここから始める「デジタル技術の国際開発への活用」

  • 開催日時:6月15日13:45 - 15:45
  • 聴講人数:約15名
  • 座長・企画責任者:狩野 剛(金沢工業大学)
  • コメンテーター・討論者:高田 潤一(東京工業大学)・森 泰紀(同志社大学)

【第一発表】ここから始める「デジタル技術の国際開発への活用」導入

発表者

  • 狩野 剛(金沢工業大学)

コメント・応答

ICTがWell-beingに資するものなのかは、ICT活用による悪いところをいかに捉え消していくかが重要。現在のSNSなどはフェイクニュースなどが相次いでいるが、これはエコシステムの構造的問題があり、放置した方が企業が儲かってしまう仕組みなどが根本な点としてある。

【第二発表】Good Practice and Bad Practice

発表者

  • 内藤 智之(神戸情報大学院大学)

コメント・応答

ICT4Dに適する人材、ゼネラリスト・スペシャリストのどちらが望まれるかのなどについての質問に対し、これしかできない人というがスペシャリストならば、そのような人が固まっても何もできない。間に入るゼネラリストは調整のスペシャリストにいもなりえる。

生成AIは雇用を奪うのか?という点については、最新技術が搾取構造を加速させる可能性がある。逆にいうと、適切な政策を適切な時代に施すことによって国は発展する。ただ、それは学術的にまだ研究は進んでいないので研究を進めていく。

【第三発表】デジタルはローカルなものづくりを加速する

発表者

  • 山田 浩司(長岡造形大学)

コメント・応答

3Dプリンターでどこまで作れるのかという質問に対し、データを持ってきさえしてくれたら3Dプリンターでなんでも作れる。そのくらいオープンソースでクラウド上にはデータが溢れている。一方、それをリミックスして機能追加・デザイン変更したい、と思った時にはハードルが上がる。

知財に関する質問に対し、知財をどうするか、という点はFab academyなどで公開する際に問われる。前に利用したソースコードがあるならば、それを明確にしてオープンソースにするか、どうかを選ぶ。

総括

セッションの総括  ICT技術の国際開発への応用に関する入門セッション的な位置付けで開催したが、知財、人材の考え方、最新技術など多様な質問が活発に議論された。一方、プレゼントピックとしては広くなりすぎた印象はあり、次回以降では応用編として具体的なプロジェクト・課題にふぉーかすしたものであってもよいと感じた。

報告者(所属):狩野 剛(金沢工業大学)


 D3:多極化する世界で漂流する日本 ―開発協力大綱とこれからの国際協力―

  • 開催日時 6月15日 15:00 - 17:00
  • 座長・企画責任者:島田剛(明治大学)

【第一発表】「ODAの安全保障化 ver.2」のもとでの2023年開発協力大綱―「理想主義のソフト・ロー」から「リアリズムの戦略」へー

発表者

  • 志賀 裕朗(横浜国立大学)

コメント・応答

志賀裕朗の論文は、開発協力大綱の改定により、ODAと国益の関係が根本的に変わったと論じている。その背景には次のような変化がある。90年代には「国益」とは主に経済的国益であったが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降、国際テロに対応する国家安全保障が国益として新たに浮上した。

志賀はこれを「ODAの安全保障化ver.1」と呼んでいる。これに対し、2010年代以降に「ODAの安全保障化ver.2」化が進展したとしている。これは、ver.1においては安全保障の脅威がテロ組織であったのが、その脅威の対象が中国等の主権国家へと変質したと分析している。つまり国益が経済的国益からテロ対策(自国をテロから守る)へ、そして、伝統的な国家安全保障(他国の軍事的侵略からの防衛)へと変わってきたということだ。

その上で、リアリズムの観点から日本の現在の ODAが日本の安全保障の目的に沿っているか、被援助国の利益になっているか実例にもとづき分析している。取り上げられているのはフィリピンなど「同志国」への「海上保安能力強化支援」である。志賀はこの支援について、国際的な緊張が高まることにより海上保安と国防の区別が曖昧になってきている現状では、海上保安組織へのODAは軍事的な意味を持つ危険性があると指摘している。

このことは、実質的な軍事援助であるOSA の目的を達成するために、ODAとの連携が目指されていることを考えれば、そう理解されるであろうとも述べている。志賀はさらに、こうして安全保障化されたODAは、関係国を「安全保障のジレンマ(Security Dilemma)」に陥れることにより、軍拡スパイラルにまきこみ、地域全体を不安定化させる危険性があると警告している。

志賀は、こうした動きと並行してそれまで日本が外交上、推進してきた「普遍的価値」も変化したと指摘している。2000年代半ばに日本が提唱し「自由と繁栄の弧」構想は、東欧から旧ソ連諸国、そして北東アジアに至る地域を「自由と法の支配」による地域にするというものであった。そこで目指されていたのは、この地域の各国の国内における民主主義や法の支配、人権の定着であった。

しかし、開発協力大綱がその一部に組み込まれた「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific: FOIP)構想」では、中国の「力による現状変更の試み」に対し法の支配に基づく自由な国際秩序の維持を重視する方向に転換した。志賀は日本が重視する「普遍的価値」の重点が「国内における法の支配」から、「国際的な法の支配」に移されたと指摘している。この転換とはつまり、被援助国の国内での民主主義や方の支配を重視するという「理想主義」から、中国の台頭という「国際環境の変化への対応」を優先する「リアリズム」へ変わったということだ。

そして、こうした変化は、援助政策が二重基準(ダブル・スタンダード)に陥る危険があるとしている。これは、対中戦略上重要な「同志国」であるフィリピンなどには人権侵害などがあっても援助を継続し、本来、援助を必要としている国が、安全保障上の重要性の低さから援助が減額される、あるいはストップするという逆転が起こる可能性のことだ。これはつまり、国家安全保障戦略にも開発協力大綱にも書き込まれている「人間の安全保障」が遵守される場合もあるが、日本の国家安全保障が優先される場合もあるということだろう。

志賀は、リアリズムの名のもとにODAが国家安全保障の道具となっていく今こそ、法の支配の要諦である「歯止め」として、大綱を単なる「ガイドライン」のようなものではなく、原理や原則にもとづく理想主義の「ソフト・ロー」にすることを提案している。そして、そのことが大綱を英語のChaterの名に値するものにすると論じている。

【第二発表】Win-Win言説の幻と開発協力大綱―ティンバーゲン定理、中位投票者定理、文明の使命感による考察

発表者

  • 山形 辰史(立命館アジア太平洋大学)

コメント・応答

山形論文は、パレート効率、ティンバーゲン定理や中位投票者定理などの経済学の分析フレームワークを使用しながら開発協力大綱を読み解いている。特に興味深いのは、中位投票者定理を用いた分析だ。国内的に援助に対して関心がない、あるいは国内を優先すべきであるという意見が増えている。こうした中で「援助に無関心な人々」に国際協力の意義を語りかけようとするあまり、ある意味ではそれが行き過ぎてしまい、国益だけが全面に押し出されるという結果が示される。

中位投票者定理は二つの対立する考え方がある際に、その真ん中(中央値となる中位投票者)の意見が社会的に選択されるというものだ。真ん中を取り込むために、意識的に国益を推すが、結果的に国益だけが全面に出てしまい、本当は人道目的で援助に関わっている人たちが背景に下がってしまうという問題が分析されている。

これにより、あたかも国益だけが国際協力の意義であるかのように矮小化されてしまうと言うのだ。さらに、援助―被援助関係が上下関係であるべきではないとの反省が、Win-Winという形で奇妙なことにも国益志向の議論と結びつきやすいという点も指摘されている。

ではどうすればよいのだろうか、山形はティンバーゲン定理から2個の目標には2個以上の政策が必要であると議論している。つまり、ODAという政策1つで援助受け入れ国とドナー国の国益の双方が得るというのは難しいということだ。さらに言えば、援助国側が援助から国益を得るためには別な政策を準備する必要があると議論している。

山形は具体的に次の2点を提言している。1つは途上国の支援を目標にする支援と安全保障や日本企業支援は分けて役割を明確にすべきだという点だ。もう一つは、援助供与国(日本)の利益を基準に援助を実施すべきではないという点である。つまり、本来は別々である政策目標をODAの中に押し込んでしまったという点に問題を見出しており、政策を分けるべきだという議論である。

【第三発表】NGOから見たODA/開発協力大綱の改定―これまでの改定にNGOはどう関わり、何を主張し、どんな結果を生んだのか?

発表者

  • 大橋 正明(恵泉女学園大学、聖心女子大学)

コメント・応答

大橋の論文は、松NGOの立場から関わってきた経験から書かれている。大橋自身が2014年の大綱改定の際の有識者懇談会メンバーであった。そして、今回の有識者懇談会でNGOは次の4点について主張したと述べられている。第1に国益および安全保障が強調されすぎているという点、第2に非軍事原則が形骸化してしまっているという懸念だ。第3に人権デューデリジェンスを含めること、第4にNGOを通じた支援の国際的水準までの引き上げ、である。

この大橋論文の特に重要な点はNGOが求めてきたのは民主的コントロールのより根本である「ODA基本法」であり、「大綱」ではないという点だ。法律となれば、国会を通じた国民のチェックアンドバランスが可能になるが、大綱だけではそれが可能にならないからだ。

この点は行政学的にも国内事業と比較しODAは予算の規模に反して、チェックアンドバランスが少ないという歪んだ構造になっている。今回の大綱の改訂は、そもそものそうした基本法がない状況のもとで行われたものだ。その中では本来あるべき市民・NGOの参加が十分ではなかったということが大橋論文では指摘されている。

総括

本セッションの各論文については、国際開発研究第33巻第2号に掲載予定である。

報告者(所属):島田剛(明治大学)


E1:New Dynamics of the ‘Global South’: How are Developing Countries Proactively Interacting with China?

  • 開催日時:6月15日9:00 - 11:30
  • 聴講人数:約20名
  • 座長・企画責任者:麻田玲(山口大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)

【第一発表】New Dynamics of the ‘Global South’: How are Developing Countries Proactively Interacting with China?

発表者

  • 麻田玲(山口大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)
  • 北野尚弘(早稲田大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)
  • 今井夏子(JICA緒方貞子平和開発研究所)
  • 志賀裕朗(横浜国立大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)

コメント・応答

Global South側のエージェンシーを、その地域出身の研究者らによって明らかにした研究として会場参加者より高い評価を得た。

他方で、本研究が対象7カ国における中国の開発・投資事業を扱っているが、これが日本の開発事業を扱った場合にGlobal South側のエージェンシーの発揮に変化が起きうるのか否かについての質疑や、エージェンシーをどのように測るのか、また対中認識調査の結果に対しては、アフリカ諸国の一部で高まる反欧米感情が、親米の日本に与えうる影響についてなど、会場とのディスカッションが非常に活発なラウンドテーブルとなった。

報告者(所属): 麻田玲(山口大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)


E2:グローバルな指標の再検討―誰をどこまで包摂し、非対称性・標準化に気づけるか―

  • 開催日時:6月15日 12:45 - 14:45
  • 聴講人数:約36名
  • 座長・企画責任者:Wu Jingyuan(東京大学大学院)
  • コメンテーター:小林 誉明(横浜国立大学)
  • 司会:玉村 優奈(東京大学大学院)

【第一発表】グローバル課題の時代に、グローバル化は必然的か?―環境指標と地域環境協力の行方―

発表者

  • Wu Jingyuan(東京大学大学院)

コメント・応答

Wu会員は、どのような環境指標集(EIS)があるかをフレームワークごとに整理し、「環境共同体」と呼ばれる東アジアで、なぜ地域環境指標集がつくられていないかを3つの背景(①環境協力枠組みの脆弱性②データ取得・公開・共有の制約③指標設定の公平さの問題)から説明し、各国が模索してきた打開策としてのグローバル化の潮流を述べた。発表者はフロアへ「指標のグローバル化は、地域指標の不在を補うことができるのか?」と問いを投げかけた。

コメンテーターの小林会員からは、「グローバルな指標で何が悪いのか?」「ローカルの範囲は何か?」と問われ、Wu会員は、どのレベルの言説変化に着目するかを重視し、酸性雨の例をあげながら、拘束のための指標を超えて、やキャパシティビルディングを促す使い道があり、指標をどのように使うか話題喚起した。フロアからは、「政府の動向も関与するなかで、将来的にどのような世界をつくりたいか」と問われ、Wu会員は、比較可能性による差別の発生と、指標に対抗する力の発生への注意喚起をしつつ、国でなく草の根レベルの環境協力やより多様なアクターの包摂・協働の重要性を説明した。

【第二発表】配慮を法制度化すること―環境社会配慮から―

発表者

  • 玉村 優奈(東京大学大学院)

コメント・応答

玉村会員からは、A.センやマブーブル・ハックが寄与した人間開発指数が国際社会と開発事業に与えた影響、世界銀行が公開した世界開発指標の項目を検討し、何をはかるかを改善することが、「改善の罠」に陥る可能性を指摘した。

改善の罠は、開発事業において意図せざる結果を生み続ける制度的問題を指摘する際にも使われる。玉村会員は世界銀行が環境社会配慮政策を導入した後、日本・ADB・AIIBに伝播するも、政策改定と異議申立案件が生じ続けていることを指摘した。フロアへ「環境社会配慮はどの程度まで法制度化すべきか?法制度化の不可侵領域はあるか?」と問いかけた。

コメンテーターの小林会員からは、「誰がどんな価値基準で指標を使うか?」と疑問が投げられた。フロアからは「法律で規定すべきか」という疑問が投げかけられた。それに対し、玉村会員からはそもそも環境社会配慮政策内の異議申立制度を利用する際の情報や戦略、技術、協力者や有識者との繋がり等の環境が異なるため、それらのギャップを埋める方策として、国内法、国際法といった法的根拠が必要な場合があること、所属するコミュニティの差異や被害者の声をあげる/られない/たくない違い、政策の前提が間違っている場合にどこまで気づき、どのように組織が法制度を通して「配慮」を実施できるのかと話題喚起された。

【第三発表】グローバルな指標の再検討―発達障害のつくられ方を例に―

発表者

  • 八郷 真理愛(横浜国立大学大学院)

コメント・応答

八郷会員からは、国際的診断基準(DSM-5)を通して「発達障害」がどのようにつくられるかの背景が説明された。国ごとにADHD患者率を比較し、高・中・低所得国と有病率に関係はなく、国・地域によって特性をどう捉えるか、「普通とされる個性」と発達障害の個性の違いに差があることを示唆した。八郷会員はフロアへ「なぜ私たちは人間の不完全性を不幸としているのだろうか?」と欧米中心につくられた国際的診断基準の妥当性に疑問を投げかけた。

コメンテーターの小林会員からは、指標と基準の違いについて、特に「基準」は基準(Standard)/Criteria/水準/規格が含まれると整理したうえで、混同しないよう注意喚起と測定の基準は複数あっていいのではないかとコメントされた。フロアからは、「障害の当事者だから不幸を感じるわけではない」「福祉・サービスを享受するひとつのカテゴリだ」という声があがった。

八郷会員は、精神病院で自身のトラウマを治してもらえないショックを語り、「発達障害」にカテゴリ化して解決しようとする問題を指摘し、いつ・どこで・誰が・どのように「診断基準」を使用するかに着目することの重要性を説いた。

フロアからの「将来的にどういう世界をつくりたいか」という質問には、よりよい社会のためには基準も必要だが、部分的な問題を全人類に適合しようとすることは問題だとこたえた。また、フロアから「発達障害の児童増加による教育現場での指導の困難さ」があげられ、八郷会員は助け合いには複数のレイヤーがあり、「障害」があることで得られる恩恵も留意しつつ、その枠組みが必要か問いかけた。

総括

セッションの総括  グローバル社会、世界市民、「誰一人取り残さない」といった開発事業が目指す理念の共同体はますます拡大し、それに伴うように技術や「はかり」も増え続けている。そこで覆い隠された不平等や差別の構造に切り込む形で、発表者から話題喚起された。このラウンドテーブルは、発表者やコメンテーター、フロアという役割に縛られず、異なる背景の差異に自覚的になりながら、意見を交わす場になった。発表者の研究を動機づける思いを基に、研究のアイデアの芽を皆で育み、今起きていることを再考する場として、これからのラウンドテーブルの新たなあり方を示した点は意義がある。

本ラウンドテーブルの事後アンケートでは、「どんな気づきが得られたか」という質問に対し、「普段何気なく使っている指標というものに対する疑問や疑いの目を持つきっかけになった」、「発表者からの問いかけはいずれもこれまで考えたことがなかった」、「指標の活用・悪用・限界、仕組みのなかで例外への対応」、「小林先生の3人のお話を整理された表が印象的で情報整理に課題意識を持っていたので参考にする」といった意見が寄せられた。

意見・感想では、「若手の方が議論しているのを見て、自分も仕事や勉強を頑張ろうと思った。」という声も寄せられ、フロア・発表者・コメンテーターが双方向的に議論する場になったが、「自由討論時間がちょっと短かった」という意見もあり、議論が盛り上がったからこそ発言する機会をどのように確保するかが今後の課題である。

報告者(所属):玉村優奈/Wu Jingyuan(東京大学大学院)


E3:「若手による開発研究」研究部会セッション若手研究者が育つための国際開発学会大会とは?-質疑応答セッションのグランドルール創造を手段として

  • 開催日時:6月15日 15:00 - 17:00
  • 聴講人数:約15名
  • 座長・企画責任者:森泰紀(同志社大学大学院)
  • コメンテーター・討論者:澤正輝(ラーニングビレッジ)

【第一発表】

発表者

  • 神 正光(名古屋市立大学大学院)

コメント・応答

今回の報告では、「次世代を牽引する若手像」について私が社会人として実務で取り組んでいる内容と若手研究者として取り組んでいる内容の重複する部分について整理を行い、オーディエンスも含めて内容の深化を行った。

事実わたしは、社会人として災害ボランティアと被災地のコーディネートならびに仮設住宅のヒアリングをはじめとするコミュニティ構築支援と研究活動を行っている一方、研究活動では途上国の自然災害と貧困との関係や、自然災害と社会資本との関係などを研究している。両者において共通していえることは人々の厚生に貢献しているということである。

つまり、今回の報告とオーディエンスとの議論の結果、私の思う「次世代を牽引する若手像」とはより良い社会をイメージし、その実現に向けて研究や実務などの何かしら努力ができる人だと思う。事実、国際開発という学問はいまやSDGsという言葉の普及もうけて専門性が今後ますます重要になっていくものと考えられている。

そのプロセスの中で、学際的な国際開発学の専門性の深化をさらに行い、それを実務レベルまで落としこみ、草の根レベルで支援を行うことができる若者が増えていくことによって、次世代の国際開発学ならびに社会はよりよい学問分野へと移り変わっていくと信じている。

【第二発表】

発表者

  • 八郷真理愛(横浜国立大学大学院)

コメント・応答

今回のラウンドテーブルでは、「次世代を牽引する若手像」について、国際開発分野の研究をしている一大学院生としての意見を発表した。「次世代を牽引する」ためには、「次世代を牽引した後の目的」をしっかり持つことが必要不可欠で、世界中の人々と「開発のあるべき姿」「開発した先の目的」を共に議論し、世界の中の自分自身の役割を考え、出来ることはなんでもやってみる姿勢が必要で、その意味での「自分づくり」が必須である、という旨の発表を行った。これに対し、「なぜ若手などの年代によって区切る必要があるか」などのコメントをいただいた。多様な年代の参加者からの意見をもとに、若手としての強みがたくさんある一方で、どのような世代であれ、より良い世界の実現の為に、あるべき開発の姿を探し求め、これを実現するために、世代間の交流の活発な仕組みづくりが必要であるという結論に至った。

【第三発表】

発表者

  • 橋本 武龍(京都大学大学院)

コメント・応答

今回の研究部会での議論を通じて、批判的思考が未来を見据えた研究開発においていかに重要かを再認識しました。特に、以下の3つの観点から批判的思考を深化させることが必要だと感じています。

1. 論理的・合理的思考:事実に基づき、論理的に推論する能力を養うことが、誤った情報を見極め、正しい決断を下す上で不可欠です。

2. 目標思考的思考:目標に向かっての戦略を立てる際、現状分析と将来予測を行いながら最適な選択を追求する思考スタイルが求められます。

3. 内省的・熟慮的思考:自己の考えや決定に対して、客観的かつ批判的に評価を下し、必要に応じて修正を加える柔軟性が重要です。

これらの観点を踏まえ、新たな研究やプロジェクトにおいて、望ましい未来の姿を描くための新しい視野を切り開くことが、次世代を牽引する若手研究者にとっての使命となります。将来に向けての革新的なアプローチが、より良い社会の実現に繋がると確信しています。

総括

セッションの総括 本ラウンドテーブルは、若手が次世代を牽引するために必要なスキルと意識を高める場として設計されました。今回のセッションでは、内発的動機を育むことの重要性が強調され、参加者は在りたい姿や目指すべき方向性を明確にすることの価値について深く掘り下げました。

参加者は、「次世代を牽引する若手像とは何か」という問いかけを通じて、自己の研究と社会的役割を反省する機会を持ちました。また、質の高い対話を実現するために、外部の専門家を招聘し、様々な視点から意見を交換することで、学術的な見識を広げることができました。このプロセスは、若手が自らの研究を社会に適用し、より大きな影響を与えるための理解と技術を深めるための場を提供したと考えています。

さらに、このラウンドテーブルは、異なる世代や分野の研究者間の対話を促進し、国際開発学会の枠を超えた協力と理解を深める場となりました。このような対話を通じて、参加者は多様な視点を統合し、持続可能な発展への貢献を模索しました。

結果として、本ラウンドテーブルは若手が直面する現代の課題に対応し、未来に向けて自らの在り方・生き方を思考する機会を提供しました。参加された皆さんがこの経験を通じて、さらに成長し、それぞれの道で新たな一歩を踏み出すことを心より願っています。

報告者(所属):森泰紀(同志社大学大学院)


F3:地政的言説に狭間に目を向ける——メコン地域をめぐる開発協力の事例から

  • 開催日時:6月15日15:00 - 17:00
  • 座長・企画責任者:大山 貴稔(九州工業大学)
  • コメンテーター・討論者:キム ソヤン(ソガン大学)・汪 牧耘(東京大学)

【第一発表】FOIPという言説/実践の基本構造——開発協力における海の安全保障化と陸の連結性

発表者

大山 貴稔(九州工業大学)

コメント・応答

大山会員からは、本ラウンドテーブルが前提とする基本状況の説明が行われた。地政的言説が国際的に流布している現状を念頭に置き、その一端を担う「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の形成と展開に焦点を当て、それがメコン地域における開発協力政策に及ぼした影響を整理する報告であった。

陸地ではASEAN由来の連結性概念を軸にインフラ整備支援に力が注がれるようになり、海洋では中国の海洋進出に抗して開発協力の安全保障化が進んだ傾向を指摘して、事業配分の内実に分け入って分析する意義について論じられた。

これを受けてフロアからは、①かつてタブーだった「地政学」という言葉を使うのはなぜか、②言説と実態の関係をどのように理解しているか、③事業配分とはどういうことか、などの質問が投げかけられた。大山会員からは、①すでに政策を枠づける言説として流布している以上、その形成と展開を辿って現在進行中の変化を適切に理解したい、②本報告で取り上げた面に関しては言説が実態に影響を及ぼすベクトルが強い、③ODA見える化サイトから事業費だけでなく分野課題や協力地域などをデータ化して分析する構想がある、などの応答がなされた。

【第二発表】開発協力研究という「狭間的実践」̶̶中国における日本の開発協力大綱の捉え方を事例に

発表者

汪 牧耘(東京大学)

コメント・応答

汪会員の報告はFOIP構想を念頭に置いた開発協力大綱の改定(2023年6月)に焦点を当て、日本政府が競合相手と位置づける中国側でそれがどのように捉えられてきたのかを学術文献データベース(CNKI)を用いて明らかにするものであった。

具体的には、中国国内では上述の大綱改定自体が関心を集めるには至っておらず、新大綱を取り上げた数少ない研究・報告も安全保障が分析軸とされていると論じられた。そのうえで、このような状況下で開発協力の実務者レベルの日中対話は職能範囲の超えない「局所的最適」な情報交換になっており、開発協力をめぐる好ましい言説が生み出される兆しがあったとしても、時勢によって簡単に覆されてしまう可能性があると問題提起がなされた。

これを受けてフロアからは、①同じ中国でも社会科学院には日本研究に従事する人も多いのではないだろうか、②開発協力の実務レベルで日中間ではタブーになっている対話があるのではないか、などの質問が投げかけられた。

汪会員からは、①社会科学院の中国人研究者は安全保障を軸に開発協力大綱を捉えている、②政治的関係に緊張感があるなかで、中国側実務者による発言と彼らの日本理解を同一視することには慎重になる必要がある、③言説分析の死角はもちろん意識すべきだが同時に研究そのものの限界も意識する必要がある、などの応答がなされた。

【第三発表】地政・地経学的競争という言説の狭間——メコン地域における開発協力を事例に

発表者

キム ソヤン(ソガン大学)

コメント・応答

第1報告、第2報告を踏まえつつ、キム会員はメコン川を取り巻く開発協力の現状について報告した。特にトランプ政権になって米国が東南アジアへの関与を強めて以来、メコン川の水資源ガバナンスに関する知識生産過程では米中の地政的・地経的緊張が影響を及ぼすようになり、気候変動やタイのような東南アジア地域内アクターたちの開発や投資などの諸要因は脇に置かれ、メコン川干ばつの責任を中国のダム建設に帰する言説が広まった経緯を詳らかにする報告であった。

GeopoliticsとGeo-economicsの研究潮流を見渡しながら、それらを前景化させた政策枠組みの設定だけではドナー側の一方通行的な開発協力を強めることになり、そこでは現地の草の根アクターが等閑視されていることも指摘された。

これを受けてフロアからは、①メコンという地域表象のあり方が歴史性を帯びていることをどのように捉えているか、②言説と実態の関係をどのように理解しているか、③初めから中国が抜けている「メコン流域」や「インドシナ・メコン地域」のような言葉をよりクリティカルに使うべきではないのか、などの質問が投げかけられるとともに、メコン地域で生じている諸現象についての情報交換が行われた。

キム会員からは、①地域表象の歴史性も意識はしていたが紹介された文献を踏まえて理解を深めていきたい、②政策言説に汲み取られていない現象やそうした言説が引き起こした現象ながらも意識化されていないことに光を当てつつ、地政的・地経的緊張に安易に絡めとられないような研究を構想したい、③地域表象のポリティクスを意識しながら大勢の追認にならないように自分たち研究の矛先を見定めたい、などの応答がなされた。

総括

これらの報告と質疑応答を通して、メコンと名指されたり名乗られたりする地域がいかに歴史的かつ重層的に形成されてきたのかを改めて意識することとなった。

地政的言説が席巻する2010年代以降の状況に限ってみても、少なくともFOIPに関してはロシアへの意識やASEANの地域構想など、中国の一帯一路だけでない様々な要素が流れ込んだ言説/実践となっていた。

その一方で、開発協力の実務者レベルでは日米と中国のあいだで高まる地政的・地経的緊張が前景化しており、そのことが中国と日本の間では開発協力の実務者レベルのコミュニケーションを職務の範囲に絞った形式的なものとしたり、メコン川を取り巻く状況についての知識生産を一面的なものにする傾向が出てきたりと、緊張の高まりが抜き差しならぬ影響を及ぼしてきた様子が浮かび上がった。

そこから際立って感じられたのは、開発協力が帯びた国際公共政策的な性質であった。国際機関のアジェンダや各国政府が掲げる政策だけでなく、各国の開発協力事業及び実務者、そしてその影響を直に受ける現地のステークホルダーなどを広く視野に入れなければ、開発協力の現在地がどのように形づくられているのかを理解することは難しい。

日米や中国が掲げる政策レベルの地政的言説が国際的に流布するなかで、メコン地域のステークホルダーや開発協力事業の実態など、そこに還元されない現象について断片的ながらも議論することができ、次なる調査と考察に向けた手がかりを得る貴重な機会となった。

報告者(所属):大山 貴稔(九州工業大学)


そのほかの第25回春季大会報告ページ

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第25回春季大会:プレナリー

地域発! 国際協力と共創の実践~グローバル・グローカルな人材育成

大会プログラム最後の企画として開催されたプレナリーセッションは、「地域発! 国際協力と共創の実践~グローバル・グローカルな人材育成」と題して、宇都宮大学における人材育成の取り組みについての実践報告が行われた。

国際学部における地域発のグローバル/グローカル人材育成と共創の実践

(宇都宮大学国際学部 清水奈名子)

中村真国際学部長による挨拶のあとで、清水奈名子国際学部附属多文化公共圏センター長より、国内外のグローバルな課題の解決のために、国や地域の枠を越えて多様な背景をもつ人々が協働し合意形成を行うことができる場所としての「多文化公共圏」を構想し、創造していくことを目的として、2008年4月に発足した多文化公共圏センターにおける研究・教育・社会貢献への取り組みについて説明が行われた。

「内なる国際化・地域連携」、「国際協力・グローバル課題」、「異文化理解」の3分野を重点として、複数のプロジェクトを同時に運営していること、学内外の多様なアクターとの協働・共創によって新たな社会構想を模索する実践的な取り組みが続けられてきたことが紹介された。

その意義としては、首都圏ではない地方社会から見えるグローバル・グローカルな構造的問題を把握できる点があげられたが、課題としては日本の経済力低下によって学生たちが困窮しており、海外渡航の機会を確保することが年々困難になっていること、また大学運営に市場原理が導入された結果、社会問題に取り組むための時間と資源の先細りといった問題が発生していることが指摘された。

宇都宮大学における人材育成と国際交流の実践

(宇都宮大学留学生・国際交流センター 飯塚明子)

本発表では、宇都宮大学が全学で行っている人材育成と国際交流に関する2つの事業概要を紹介しました。1つ目は、アフリカの6大学と地域社会の持続的発展に貢献する高度専門的人材の育成を目的とする、世界展開力強化事業「アフリカの潜在力と日本の科学技術融合によるSDGs貢献人材育成プログラム」についてです。

本事業で実施しているオンラインの国際大規模講義や、アフリカ4か国の学生と研究者との交流を通して、新しい国際共同教育体制を構築しています。

2つ目は、大学近くの陽東地区で行っている留学生と地域の防災まちあるきの実践についてです。(留)学生が地域の危険な場所や避難所や交番などの役に立つ場所についてまちあるきを通して学び、防災意識を向上し、地域の方々にとっては、留学生と交流し、多様な視点を学ぶ機会となっています。

国際的な人材育成に向けたインタラクティブ・ティーチングの実践

(宇都宮大学国際学部 藤井広重)

「国際的な人材育成に向けたインタラクティブ・ティーチングの実践」では、宇都宮大学の藤井広重会員から、国際的な人材育成を図るために、戦略的な視座に立脚した教育の必要性について報告があった。

とりわけ、具体的な取り組みとしては、国際人道法の模擬裁判大会やロールプレイ大会に出場し、机上の学問を実践に結びつけることで、学生達が自己の学びを現実に即して活用する視点を養い、自らの当たり前を疑う機会を提供することの重要性が強調された。

その後、これまでに藤井広重研究室で学んだ5人の登壇者(福原玲於茄, 菊地翔, 榊原彩加, Hagiya Yukari, アティラナシル)が、国連機関や国際NGOでのインターンシップ、また、在外公館の専門調査員としての職務につながった学生時代の経験について紹介することで多様なインタラクティブ・ティーチングの事例を提示した。

グローバル・サウスとの共創

(宇都宮大学国際学部 阪本公美子)

CMPSの事業のひとつであるグローバル・サウスの事業において、学生参加と社会貢献が有機的につながり人材育成につながっている事例を紹介した。

「在来知・食・健康」プロジェクトでは、科学研究費研究課題「SDGs時代・将来世代のアフリカ在来知」(基盤研究A)の現地調査の研究分析・学会ポスター発表に参加した人見俊輝(宇都宮大学国際学部)は、自らからの研究にビジョンやそれに対する刺激を受け、ガーナ留学においてフィールド調査を実施し、本大会でも研究発表を実現し、自らの将来を見据えた研究に繋がっている。

『ニョタのふしぎな音楽』の絵本づくりと贈呈のクラウド・ファンディングに参加した森裕翔(同)は、この活動がガーナへの交換留学や部活運営にも活かされた。三浦優希(同)も、積極性や主体性を発揮するきっかけとなり、学生団体代表やイベント企画にもつながり、ガーナ留学においても、アフリカで生活するということやガーナ北部での現地調査につながり、現地でも活躍している日本人との出会いでさらなる人材育成につながっている。

地域での読み聞かせを行ってきた伊藤綾音(同)は、自らのアフリカの知識を再確認するとともに、子どもたちに伝える工夫することを学んだ。地域で活躍中の小野寺さちえ氏(宇大卒、爽菜農園)は、太鼓を交えた絵本の読み聞かせを地域の小学校全学年に実現してきたが、実際に会場で実演してくれた。

フロアから

最後にフロアからは、人材育成に関して「栃木県のグローカル・グローバルな課題と、他の地方に共通する課題の違いは何か」、「首都圏・大都市圏ではない場所で、国際協力・開発を学ぶ・研究することには、どのような意味があるか」、「卒業・修了後に宇都宮に拠点を置く学生はいるか、またどんな仕事についているのか」、「全学レベルでアフリカとの学生交流に取り組んでいるのが印象的だ」、「異なる地域の学生同士が学び合うことが目的であるならば、成績の評価などによって背後にある非対称性を再生産するのではないか」など、多様な観点からの質問・コメントが寄せられた。

また防災まち歩きの取り組みについても、「まち歩きの地域や住民はどのような経緯で、どのように選定したのか」「防災まち歩きや地区避難訓練を踏まえて、外国人に対する住民の認識に何らかの変化があったのか、また他の自治体や地域への波及はないのか」といった質問が寄せられた。プレナリーの参加者は約200人にのぼり、多くの会員・非会員の参加者の熱心な参加をえて、無事に終了することができた。

(清水奈名子・飯塚明子・藤井広重・阪本公美子)


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第25回春季大会報告:ブックトーク

A1・ブックトーク

  • 開催日時:6月15日 9:30 - 11:30
  • 聴講人数:約15名
  • 座長・企画責任者:学会誌編集委員会ブックトーク担当(佐藤寛(開発社会学舎)、島田剛(明治大学)、汪牧耘(東京大学)、道中真紀(日本評論社))
  • コメンテーター・討論者 報告者(著者):小松太郎(上智大学)、加藤(山内)珠比(京都大学)、汪牧耘(東京大学)、佐藤寛(開発社会学舎)
  • 報告者(編集):Alice Xie(Springer)、河上自由乃(Springer)、髙橋浩貴(法政大学出版局)、小林祐太(ワン・パブリッシング)、
  • 討論者:黒田一雄(早稲田大学)、伊藤紀子(拓殖大学)、近江加奈子(国際基督教大学)、大橋正明(聖心女子大学)

【第一発表:書籍】Taro Komatsu (2024) Education and Social Cohesion in a Post-conflict and Divided Nation: The Case of Bosnia and Herzegovina , Springer

発表者 報告者(著者)

小松太郎、Alice Xie、

討論者

黒田一雄

コメント・応答

本書は、90年代に凄惨な民族間紛争を経験した旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナを事例に、筆者の20年以上の研究成果を基に、教育が社会的結束の促進にいかに寄与しうるかを論じるものである。

発表者は、コロナ禍を含む2021年から2022年にかけて執筆し、新たなデータや考察を加えて本書を構成したという。具体的には、研究協力者や関係者の発言、ボスニア上級代表へのインタビュー、オンライン協働学習(COIL)の実践報告、批判的思考に関する考察、ノンフォーマル教員研修の研究成果などが新たに盛り込まれた。

本書の学術的貢献として、紛争が多発する現代世界における教育の役割、国際社会の関与の在り方、そして多文化社会における教育の意義が挙げられた。編者からは、出版社の事業展開を中心に紹介を行い、本書とこれまでの取り組みとの関連を紹介した。

討論者は、これらの知見を、日本の将来的な多文化共生にも示唆を与えうるものとして、本書を高く評価し、「人権・公正のための教育」「開発のための教育」「平和のための教育」を架橋する本書の役割を強調した。特に注目すべき点として、極端な多文化教育は共存に悪影響を及ぼす可能性があるという著者の指摘や、多視点アプローチに基づく歴史教育のプロジェクトの必要性に言及した点が挙げられた。

【第二発表:書籍】Kumiko Sakamoto, Lilian Daniel Kaal, Reiko Ohmori, Tamahi Kato (Yamauchi) eds. (2023) Changing Dietary Patterns, Indigenous Foods, And Wild Foods: In Relation to Wealth, Mutual Relations, and Health in Tanzania , Springer

発表者 報告者

加藤(山内)珠比・阪本公美子・大森玲子、河上自由乃(Springer)

討論者

伊藤紀子

コメント・応答

本書は、サハラ以南アフリカにおける食パターンの多様性と変容、および健康との関連性を包括的に分析した研究成果である。著者らは、タンザニアの4つの特徴的な地域を事例として、その実態を詳細に調査している。

特に注目すべき点は、経済成長に伴う格差拡大や食の近代化が進む中で、栄養不足と過剰栄養の二重負荷という世界的な問題に対して、野生食物や在来食の健康への寄与を明らかにしたことである。本書の出版過程について、著者らは科研費研究の集大成として企画を立案し、Springerの査読を経て出版に至った経緯を説明した。

編集上の工夫として、多数の共著者を擁しながらも一冊の書籍としての一体感を保つため、全章に共通の著者を配置したことが挙げられた。

Springerの編者からは、電子出版によるアクセス情報の詳細な把握が経営戦略に寄与していること、多様な販売ルートを通じて幅広い読者層へのアプローチが可能になったことが報告された。

討論者は本書の学術的意義として、アフリカにおける喫緊の課題である栄養不足人口の増加に対する最新のデータに基づく分析、国際的な成果還元の実現、エビデンスに基づく効果的な栄養改善・国際協力実践への示唆、そして査読付き学術論文を含む高品質な研究成果の読みやすい英語での発信を評価した。

【第三発表:書籍】汪牧耘(2024)『中国開発学序説: 非欧米社会における学知の形成と展開』法政大学出版局

発表者 報告者

汪牧耘、髙橋浩貴

討論者

近江加奈子

コメント・応答

著者は、博士論文をもとに改定された本書が、既存の開発学における欧米中心主義的傾向に対する批判的考察を提示し、非欧米社会の知的営為の一例として中国の開発学の意義を解明する試みであると説明した。

著者は執筆過程における課題として、用語定義の困難さ、研究者としての視点の変化と書籍構成の整合性、そして中国人研究者として日本における中国研究の発信方法に関する葛藤を挙げた。

編者からは、本書の出版経緯や編集過程における工夫が紹介された。特筆すべき点として、財団からの助成獲得が出版決定の重要な要因となったこと、構成の変更や日本語表現の調整、著者によるイラストの効果的な活用などが挙げられた。

また、本書がアジア研究・近現代史研究の新たな領域を開拓する可能性が示唆された。討論者は、本書の新規性と学術的意義を高く評価した。特に、中国の開発実践ではなく開発「学」を研究対象とした点、開発学という分野の脱植民地化を問う試みの重要性が強調された。

さらに、「開発経験の伝達可能性」に関する普遍的価値の探求、西洋の「理念先行型」と中国の「現場順応型」という二項対立的言説の再考、そしてこれらの議論が日本の文脈にも適用可能であることが指摘された。

【第四発表:書籍】奈良裕己/まんが、佐藤寛/監修(2023)『まんがとクイズでよくわかる! なるほど 「SDGs」 』ワン・パブリッシング

発表者 報告者

佐藤寛、小林祐太

討論者

大橋正明

コメント・応答

など 発表者は監修者として、編集者、漫画家との協働を通じて17のゴールそれぞれについて、プロット作成から最終的な作画に至るまでの詳細なプロセスを紹介した。

この過程で、小学生向けのメッセージの在り方、データの収集力、各関係者の専門性、そして「わかりやすさ」と「本質的な問題」のバランスの取り方など、多くの学びがあったことが強調された。

編集者は、本書誕生の背景として、小中学生向け教育ポータルサイトでのSDGs関連コンテンツの需要の高さが指摘した。また、難解なテーマを子どもたちが自分事として捉えられるような工夫や、想定読者とその保護者へのアンケート実施など、読者層を意識した取り組みが紹介した。

討論者は本書の特色を評価しつつ、より広い文脈でSDGsの実践と理念について問いを投げかけた。特に、日本におけるSDGsの広範な認知と実践が、Agenda 2030が目指”Transforming our world”との関係が問われた。個々の取り組みが単発的なものにとどまらず、政治経済システム全体の変容につながる可能性や、持続不可能性の構造的原因の直視と共有の重要性が強調された。

 

総括

セッションの総括 本ラウンドテーブルは、個人研究の成果、編著書の制作過程、博士論文の出版、さらには若年層向けの学術的内容の発信など、幅広いトピックが取り上げられ、学術研究の発信を多様な側面から議論された。

討論者による対象文献への言及は、概して肯定的な姿勢が顕著であり、議論も活発であった。一方、聴衆との相互作用は限定的であり、議論が内側に閉じている側面が観察された。

今後の課題として、批判的視座の導入とそれに基づく議論の深化が提案できる。開催の時間帯や会場の配置などの物理的要因が、参加者の動員に負の影響を与えた可能性が考えられるが、企画の申請段階からより詳細な情報提供も必要であろう。

具体的には、各書籍の概要や、想定される参加者にとっての有用性を明確に文章化し、事前に潜在的な聴衆に明示することが提案したい。これらの知見は、学術研究の成果発信と学会運営の両面において、より効果的なコミュニケーション戦略の構築に寄与するものと考えられる。

報告者(所属): 汪牧耘(東京大学)


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第25回春季大会:ポスターセッション

25件採択されたポスターうち、以下22件が当日発表をした(発表タイトルは登録の通り)。

The following 22 poster presentations were made out of the 25 accepted presentations (Titles are as the initial registration).

ポスター発表:大学会館

[1P101-25-01] 企業のサステナビリティ活動が従業員のロイヤリティに与える影響ー「アクション」から「共感」を生むメカニズムー

Impact of Corporate Sustainable Activities on Employee Loyalty: Mechanisms for generating “empathy” from “ action”

*佐藤 雄太1、*新谷 和実1 (1. 東京大学大学院)

[1P101-25-02] 洋上風力関連産業における多角化:欧州の持続可能性移行論のレビュー

Diversification in Offshore Wind Related Industries: A Review of European Sustainability Transition Theory

*美和 恭平1、*白 申逸1、*渡部 煕1、*田嶋 智1 (1. 東京大学)

[1P101-25-04] Reevaluating the Relocation of Indonesia’s Capital: Contradictions in the Sustainable Development Reevaluating the Relocation of Indonesia’s Capital: Contradictions in the Sustainable Development

*ARJON Sugit1 (1. Utsunomiya University)


[1P101-25-05] A Comparative Study of Japan and Korea’s Aid for Trade

*CHOI WONJUN1 (1. Waseda University)


[1P101-25-06] スラムの若者は政治といかにかかわるか:ザンビアの鉱業都市の事例

Analysis of Political Engagement by Youth in a Slum: The Case of a Mining City in Zambia

*西村 航成1 (1. 京都大学)


[1P101-25-07] Challenges and Prospects of Wheat Production in Kenya: Focusing on Small-Scale Wheat Farmers in Narok County, the Largest Wheat Producing County

*Yuki SATO1, Fredrick Charles Odhiambo2 (1. Utsunomiya University, 2. Jomo Kenyatta University of Agriculture and Technology)


[1P101-25-08] タンザニアにおける食事の風景を題材とした子どもの絵に見られる地域差と特徴的表現

Regional difference and characteristic expression from children’s pictures of dining scenery in Tanzania

*株田 昌彦1、*中村 真1、*出羽 尚1 (1. 宇都宮大学)


[1P101-25-09] How do school children perceive eating from the wild and at home in southeast Tanzania? From pictures of wild food, food items, and dining scenery

*Kumiko SAKAMOTO 1, *Polgahagedara Don Pubudu Sanjeewa 1, Yukiko Kikuchi 1, Toshiki Hitomi 1, Masahiko Kabuta1, Makoto Nakamura 1, Takashi Izuha 1, Reiko Ohmori 1 (1. Utsunomiya University)


[1P101-25-10] Food habits and perception of school children in urban and semi-urban Morogoro, Tanzania

*Tamahi KATO1, Kumiko Sakamoto2, Yukiko Kikuchi2 (1. Kyoto University, 2. Utsunomiya University)


[1P101-25-11] マラウイ初等教育における世帯内意思決定と児童の就学:妻方居住に焦点を当てて

An Analysis of Intrahousehold Decision-Making on Children’ s Schooling in Malawi Primary Education: Focused on Matrilocal Settlements

*石井 雄大1 (1. 神戸大学大学院)


[1P101-25-12] ウガンダにおける現地の言語リテラシーと小学校低学年の生徒の学業成績との相関関係の分析

An Analysis of the correlation between Local Language Literacy and Lower Grades Students’ Academic Achievement

*Ehab Tasneem1 (1. 神戸大学)


[1P101-25-13] An Analysis of the Relationship between Menstrual Hygiene Management and Girl’s Academic Achievement in Primary Education in Uganda -Case Studies in the Wakiso, Mukono and Jinja Districts-

*Mayuko MIZUKURE1 (1. Kobe University Graduate School of International Cooperation Studies)


[1P101-25-15] Analysis of the Influence of Teacher Absenteeism on Students’ Academic
Achievements in Six Southeast Asian Countries

*Htet Myet AUNG1 (1. GSICS, Kobe University)


[1P101-25-17] Analyzing the Influence of Home Language on Primary Students’ Academic Achievements in Lao PDR

*Jiling YAO1 (1. Kobe University)


 [1P101-25-18] An Analysis of ICT Usage in Teaching and Learning on Secondary School Students’ Academic Achievement in Cambodia.

*Siyu LYU1 (1. Kobe University)


[1P101-25-19] Influences of Private Tutoring and Teacher Quality on Academic Achievement in Secondary Education in Cambodia

*郭 潤婧1 (1. 神戸大学大学院)


[1P101-25-20] カンボジアにおける高等教育選択過程と家族の関与

Higher Education Choice Process and Family Involvement in Cambodia

*藤原 真美1 (1. 神戸大学大学院)


[1P101-25-21] Heterogeneous Effect of Pre-primary School Attendance on Child Development in Bangladesh

*Kohei UNO1 (1. Kobe Univ.)


[1P101-25-22] Moderating Role of Parental Socioeconomic Status on the Relationship between Parental Involvement and Children’s Foundational Literacy and Numeracy (FLN) Skills in Bangladesh

*Rakibul HASSAN1 (1. Kobe University)


[1P101-25-23] An analysis of the Influence of Child Labour on School Attendance and Educational Attainment of Primary and Secondary School Children in Bangladesh

*Mubin Khan Afridi1 (1. Kobe University)


[1P101-25-24] An Analysis of Household Factors and its Implications on the Foundational Learning Skills of Primary School Students of Bangladesh

*Sheikh Rashid Bin ISLAM1 (1. Kobe University)


[1P101-25-25] Education Level, Income and Happiness Index in Urban Area: Evidence from Jakarta, Indonesia

*Yuniasih PURWANTI1 (1. GSCIS, Kobe University)


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第25回春季大会:エクスカーション

オプション1:「足尾銅山問題を通じて開発を考える」

2024年6月16日(日曜)08:30~17:00

於:足尾銅山観光―古河歴史館―植佐食堂(講話:上岡健司氏)―朝鮮人強制連行犠牲者慰霊塔―中国人殉難烈士慰霊塔―(車窓より:簀子橋堆積場―足尾銅山精錬所―足尾植林現場)―松木渓谷
担当・案内:重田康博(国際学部)、匂坂宏枝(大学院博士課程)、佐藤佑樹(大学院修士課程)

本エクスカーションは、足尾銅山から栃木県の開発問題を知り、日本の開発問題の歴史と現状、そして国内の足尾の問題をグローバルな問題とつなげることを目的として、2024年6月16日に実施された。参加者は、38名(内担当者・案内人3名、欠席者1名除く)であった。

朝8時15分宇都宮駅東口に集合し、8時30分にバスが出発した。梅雨時で天気が心配されたが、晴天に恵まれた。バスの中では、趣旨説明の後、各自参加者の紹介を行い、経験豊かな研究者・企業人から若手の研究者・留学生が参加した。

10時に足尾町に到着し、A班とB班に分かれて、「足尾銅山観光(銅山坑道)」、「古河足尾歴史館」を訪問した。銅山坑道内では参加者は熱心に展示物を見て回り、歴史館では長井一雄名誉館長の説明を聞いたが、この歴史館に代わり、2025年5月には古河市兵衛記念センター・古河機械金属株式会社により「足尾銅山記念館」が開館される予定である。

11時30分からの昼食では上岡健司足尾銅山簀子(すのこ)橋ダム安全対策協議会会長の簀子橋堆積場の問題等を聞き、移動した。その後、細い山道を通って第2次世界大戦中に足尾銅山で亡くなった朝鮮人強制連行犠牲者慰霊碑、中国人殉難烈士慰霊塔を見学したが、初めての方も多く上岡会長の参加者説明を熱心に聞いていた。

最後に、足尾植林現場を通って、煙害激甚地である松木渓谷を訪問し、上岡会長の説明を聞き、全員で記念撮影を行った。

その後、宇都宮に向かい、バスは無事予定通り17時に宇都宮駅東口に到着し、解散した。

今回の足尾エクスカーションでは、終了後アンケートを行い、16名から回答を得た。アンケート結果(アンケートまとめ:匂坂宏枝)は、以下の通りであった。

最初の「印象に残った見学場所はどこですか?(複数回答可)」という質問では、最も多かったのは「上岡氏による簀子橋堆積場等」(16名、100%)、「松木村跡」(16名、100%)、次いで「古河足尾歴史館」(12名、75%)、「朝鮮人強制連行犠牲者慰霊碑」(12名、75%)、3番目は「足尾銅山観光」(11名、68.8%)、「中国人殉難烈士慰霊塔」(11名、68.8%)であった。

次の質問「足尾銅山を起源とする問題の今後の課題について、お考えがあればお書きください」については、以下の主な意見があった。

  • 観光資源としての活用
  • 緑の再生で煙害問題が風化
  • 足尾銅山の海外の事例と比較
  •  影の部分を可視化するのは「研究者」
  • 今後勉強会や研究会などへ参加希望
  • 足尾、水俣、福島に共通する資本主義の問題に関する経済学者の取り組み
  • 声をあげることの重要性
  • 堆積場のように現在進行形の課題を多くの人に周知

最後に、今回の国際開発学会「足尾銅山エクスカーション」を通じて感じたのは、上記の意見にもある「研究者」が現場を伝えることの意義である。

簀子橋堆積場や松木村跡の煙害地域の植林の問題の様に、まだ足尾銅山問題が終わっていないにも関わらず、100年の歴史の経過で問題が風化してしまい、「光」の部分の記憶だけが残り「影」の部分が消えていく可能性がある。

近代化や開発の「光」と「影」の記録を可視化していくのは、「研究者」の役割である。

今後国際開発学会の中に「足尾銅山鉱毒問題研究会(仮称)」などを開催し、足尾鉱毒問題を学び、この問題を日本や世界に伝えていきたいと考えている。

図:足尾銅山エクスカーションアンケート結果(まとめ:匂坂宏枝)

エクスカーション オプション2:「日本初の完全新設LRTとコンパクトシティ」

2024年6月16日(日曜)10:00~12:00

於:交通未来都市うつのみやオープンスクエアおよび宇都宮ライトレール車両基地
担当・案内:栗原俊輔(国際学部准教授)、宇都宮おもてなし隊メンバー:春日明人(国際学部3年)、宮ひより(国際学部2年)、與那嶺悠(国際学部2年)

日本では75年ぶりとなる、完全新設の路面電車である宇都宮ライトレールは、宇都宮市および芳賀町にて深刻化する通勤時の渋滞解消や少子高齢化社会におけるコンパクトシティを目指すために2023年に開業した、いわゆるLRT(Light Rail Transit)と呼ばれる次世代型路面電車である。

参加者20名は、宇都宮市が運営している交通未来都市うつのみやオープンスクエアにて、路面電車を街づくりの軸とした宇都宮市のネットワーク型コンパクトシティとLRTの位置づけについて、宇都宮市LRT整備課安保氏より伺った。参加者からの多くの質問とともに、参加者同士も宇都宮市の担当の方々も含めた活発な議論が行われた。その後、実際にLRTに乗車して、郊外の車両基地を見学し、エクスカーションを終了した。

第25回春季大会実行委員長
阪本久美子


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第25回春季大会「優秀ポスター発表賞」選考結果

藤原真美会員に優秀ポスター発表賞を、石井雄大会員・Sheikh Rashid Bin ISLAM会員・Wonjun CHOI会員に優秀ポスター発表奨励賞を授与

第25回春季大会において優秀ポスター発表賞ならびに優秀ポスター発表奨励賞を下記のとおり授与しました。

受賞者名と報告タイトル

優秀ポスター発表賞(1名)

藤原真美会員

カンボジアにおける高等教育選択過程と家族の関与
Higher Education Choice Process and Family Involvement in Cambodia

優秀ポスター発表奨励賞(3名)

石井雄大会員

マラウイ初等教育における世帯内意思決定と児童の就学:妻方居住に焦点を当てて
An Analysis of Intrahousehold Decision-Making on Children’s Schooling in Malawi Primary Education: Focused on Matrilocal Settlements

Sheikh Rashid Bin ISLAM会員

An Analysis of Household Factors and its Implications on the Foundational Learning Skills of Primary School Students of Bangladesh

Wonjun CHOI 会員

Does Korea’s Aid for Trade promote Trade expansion and Export sophistication in recipient countries?

講評

25件のポスター報告応募があり、選抜等を経て22件の報告が行われました。ポスター報告数は、昨年の大会に並ぶ多さです。私はほぼすべてのポスター報告を拝聴しました。

イノバティブなトピックに関する意欲的な報告が多数見られたことは非常に高く評価できます。しかしながら、初期段階の分析結果を報告しているケースが多く見受けられました。

早期にフィードバックをもらうということは、ポスター報告の趣旨には必ずしも反しないとは思いますが、今後はさらに深堀りした、インサイトに富む分析結果の報告を期待したいと思います。

また、ポスター報告が特定の大学院に大きく偏っています。このこと自体は全く問題ではないものの、より広く皆さんの報告チャレンジを奨励したいと思います。 実際の評価に関しては、評価者ができるだけ多くのポスター報告に参加し、各報告に対して必ず複数名の評価者が評価を行いました。

各人の評価結果は全体会議で共有され、慎重な討論の上で受賞作が決定されました。


賞選考委員会
委員長 澤田康幸(東京大学)




企画運営委員会からのおしらせ(2024年8月)

企画運営委員会は、国でいえば、内閣官房のような存在です。つまり、学会活動を活性化し、よりよい研究交流を行うための方針や仕組みを企画立案したり、そのために必要な情報や知恵を集めたりするところです。

年2回行われる学術大会に、子育て中の会員が参加しやすくなるための支援策を明確にしました。これまでも支援は行っていましたが、大会開催校/団体の環境によって、対応が毎回異なり、予測可能性が低いため大会参加の計画が立てにくいとの指摘がありました。下記のサイトに大会での子育て中会員への支援内容を掲載しましたので、ご確認ください。すべての大会で、キッズスペースは必ず設置し、大会参加のために民間の託児サービスを利用される会員に、託児費用助成制度(一大会・会員一人当たり5,000円まで)もあります。

また、企画運営委員会では、研究部会・支部の申請受付や運営サポートを行っています。本学会は1600名以上会員がおり、年2回の大会だけでは、研究者間での接点を深め、相互に刺激を与えあうには十分ではない可能性があります。そこで、関心を共有する会員が主体的に提案するグループでの活動を支援するのが支部・部会への助成制度です。

2024年3~7月は、研究部会・支部が裾野の広い学会員の参加と交流を従来にも増して促進するよう、規定や募集要項、ウェブサイトの見直しを行いました。

7月15日に2025年度の研究部会・支部の公募を締め切り、9件の研究部会の申請がありました(支部の継続申請は書類確認中)。研究支部・部会の活動がしやすくなるよう、運営面での見直しも順次行っていきます。

学会の魅力を上げ、多くの人が参加したくなるためのアイディアをお持ちの方は、企画運営委員会にお寄せください。

企画運営委員会
委員長:山田肖子(名古屋大学)




学会誌編集委員会からのお知らせ(2024年8月)

すでにお気づきの方もおられると思いますが、J-stageに書評など、これまで掲載されなかったカテゴリーの原稿も掲載するようになりました。

過去の号に掲載された原稿についても、今年度の予算の範囲内で遡って掲載しています。今年度の予算内で対応できなかった原稿についても、来年度以降、少しずつ遡っていく予定です。

今回、刊行した1号は、開発協力大綱をテーマにした特集となりました。これについては、冒頭の「特集によせて」の原稿でその趣旨について書いておりますので、ぜひご覧ください。

また、今回は「フィールドワークの作法 - 開発経済学編」という特集を掲載しました。学際的な学会であり、フィールドワークのやり方、作法に大きな違いがあるため、フィールドワークの仕方の比較のためにもこうした企画を考えてみました。

フィールドワークのコツは、実際にやってみないとなかなか分からないことも多いです。私自身も多くの先生方とフィールドワークに同行させていただいた経験が、自分がフィールドワークをする際に活きています。

今後は、文化人類学など他の分野でも同様の企画をしてみたいと考えています。 また、今回は研究ノート、調査研究報告、書評も充実した内容のものとなりました。

書評対象の図書についても随時受け付けています。編集事務局へご連絡いただければ、書評対象として検討させていただきます。

学会誌編集委員会
委員長:島田剛(明治大学)




グローバル連携委員会からのお知らせ(2024年8月)

『韓国国際開発学会(KAIDEC)夏季大会への代表派遣について』

国際開発学会(JASID)は、韓国国際開発学会(KAIDEC)との間で、お互いの年次大会に代表者を派遣する交流を続けてきました。

今年度は、2024年6月14~15日にソウル国立大学校で開催されたKAIDEC夏季大会(Summer Conference)に、サムレト ソワンルン会員(埼玉大学)と池田真也会員(茨城大学)がJASIDを代表して参加してきてくださいました。

この大会の様子について、両会員がご寄稿くださった所感を、下記に掲載いたします。

1.サムレト ソワンルン会員(埼玉大学)

「Financial Literacy Among Microfinance Borrowers: Its Importance and Determinants from a Household Survey in Cambodia」について報告を行いました。

広い会場でしたが、フロアはほぼ満席でした。韓国対外経済政策研究院(KIEP)のJeonghwan Yu氏(討論者)をはじめ、フロアの方々と有益な議論ができました。学会後も討論者から連絡を頂き、さらに建設的なコメントを頂戴しました。

学会のランチやディナーでは、他の参加者と交流し、意見交換をすることができました。このような素晴らしい機会を頂き、感謝しております。

2.池田真也会員(茨城大学)

「A Development Pattern of Traditional Channels with Contract Farming: Insights from the Modernization of Vegetable Markets in Indonesia」というタイトルで報告しました。

ほぼ満員の聴衆が当日は集まり、予定されたセッション時間を超過するほど熱心な議論が交わされました。

討論者(Dr. Hyojung Lee, E&S Consulting)が開発実務家だったこともあり、韓国国際協力団による農産物流通開発プロジェクトの経験からのコメントが印象的でした。

また、ディナーなどで他の発表者やKAIDEC関係者と交流でき、大変有意義な時間を過ごすことができました。このような機会をいただき、心より感謝申し上げます。

サムレト会員と池田会員におかれましては、学期中の校務等でご多忙のなかにもかかわらず、韓国での大会にご出席くださり、KAIDECの皆さんと実り多い交流を行っていただき、誠にありがとうございました。

この場を借りて、心よりお礼申し上げます。

グローバル連携委員会
委員長:北村友人(東京大学)




第4回「国際開発論文コンテスト」選考結果(2024年8月)

国際開発に関心を持つ学部生の人材育成を目的とする「第4回国際開発論文コンテスト」について報告致します。

募集概要

募集期間

2024年3月1日~24日(前年秋の学会誌及び学会メーリングリストで広報)

応募状況

応募論文13編(2編が英文)。

2024年3月時点の所属大学は、国際基督教大学(ICU)、大阪大学、お茶の水女子大学、関西学院大学、上智大学、津田塾大学、早稲田大学。

審査結果

それぞれの応募論文を複数の委員で審査した結果、以下の通りとなった。

最優秀論文賞

該当者なし

優秀論文賞

4編(順不同)

伊藤凪沙・安戸乃彩・泥谷結友(早稲田大学)

“Does Health-Related ODA Help Improve Health Outcomes in Developing Countries?”

保健分野におけるODAの効果について、乳児死亡率、HIV有病率、マラリア発症率、結核という4つの指標を視野に入れ、実証的な検証が困難とされてきたODA効果の計量分析(二元配置固定効果推定法や二段階最小二乗法)を用いて作業した意欲的な論文である。

分析結果として、ODAは乳児死亡率とマラリア発症率を減少させる可能性が高く、また、HIV有病率に対して有意な正の相関関係を持ち、さらにODA効果は、国の所得水準やガバナンスレベルにより異なることを明らかにした。

本論文での問題意識の明確さ、多くの先行研究を渉猟している点、そして自身の研究の限界を認識し今後の課題を提示している点など評価された。他方、審査委員からは議論や結論が一般的な考察にとどまっているとの指摘もあった。

大岩祐生・坂下純平他(関西学院大学)

「マダガスカル農村における農業開発:農業技術普及とネットワークの役割」

途上国の農業開発における“持続可能な援助体制”の整備を推進するため、マダガスカル農村地における世帯間の繋がりを表す“社会的ネットワーク”が果たす役割に焦点を当て、19村1073世帯を対象に調査研究を行い、調査結果に基づき今後の援助体制のありかたを検討している。

調査の結果、ネットワーク中心性が高い世帯ほど、①米の農業生産性が向上、②JICAプロジェクトであるPAPRIZ 導入の意思により積極的、③信用制約が存在しない世帯はマイクロセービング加入により積極的、といったことを明らかにしている。

本研究の着眼点は社会的ネットワークであり、世帯主と配偶者での方向性の違いや動態的なネットワーク変遷等、ネットワークの異質性を用いた分析を行っていないことは課題として挙げられるものの、調査結果を基に、援助の効果と既存の援助体制に対する検討作業を行う精力的な論文となっている。他方、審査委員からはリサーチクエスチョンが不明瞭、ネットワーク中心性等の重要概念の定義がわかりにくいなどの指摘があった。

大谷理香(お茶の水女子大学)

「タイにおける都市難民が直面する貧困:バンコクのモン難民コミュニティの事例から」

難民条約未批准国に居住する都市難民(タイのモン難民)に焦点を当て、彼らが直面している貧困の実態を明らかにした上で、就業機会・食・住環境・教育・医療の5つの観点から都市難民の実像を明らかにし、不公平な労働待遇、語学の壁や日常生活の不備の中、彼らが日々葛藤している姿を描き出している。

同時に彼らの持つレジリエンス、すなわち「自助」や「共助」の様相も説明しており、その中において国際社会こそが「公助」の責任を果たし、排斥されてきた都市難民たちを包摂していくべきことを強調しており、賛同できる論文となっている。

審査委員からは、5つの観点からの調査はそれぞれ重要な項目であり、すべてを本論文で詳細に掘り下げることは難しく、分野を絞っての議論の必要性や当事者からみた観点も考慮するのも一案であるという意見もでた。

難民条約未批准国はどのように難民を受け入れ許容しているか、そしてそのような国に住む都市難民はどのような生活を余技なくされているのか、バンコクのモン難民に焦点をあてることにより、彼らの直面するさまざまな不平等や困難性を明らかにした意味は大きく、評価できる内容である。

太田朝弓(お茶の水女子大学)

「カンボジアの社会的養護における脱施設化政策のこれから:「教育環境孤児」の突付ける問題」

カンボジアにおける児童養護施設における脱施設化政策の課題を先行研究のレビューとオンラインでのアンケートによって浮き彫りにし、政策によって生じてしまう教育環境孤児への対応の困難性を適切に指摘した論文である。

脱施設化として、既存の資源と地域コミュニティを重視する支援のあり方を提案し、「教育環境孤児」の問題を国際協力において数値に翻弄されない姿勢の重要性を訴えている。

問題の社会的意義はもちろんのこと、学部学生の執筆する論考として、サンプルの偏りやインタビュー調査人数の少なさは否めないが、実情の把握と議論の充実がはかれていることは高く評価された。定性的な分析のみならず、教育環境孤児となってしまった子ども達の認知・非認知能力などの調査を同時に子ども達へ行うことで、より多角的な検証が可能となるであろう。

表彰等

春季大会での表彰は実施せず、受賞者には賞状と記念品を郵送し、規定の基づく研究奨励金を授与する。

受賞者の声については、次号のニュースレターで掲載する予定。

人材育成委員会
委員長:小山田英治(同志社大学)




総務委員会からのお知らせ(2024年8月)

1.2025年度年会費減額について

2024年10月1日時点で70歳未満の正会員、学生会員が対象で、自己申告制となります。

2024年10月1日時点で年齢が70歳を超える正会員は本制度とは別の減額制度(1万円→5000円)が適用されるため、この制度の申請対象外となります。

申請にあたっては2023年度および2024年度の会費支払いが完了していることが条件となります。

減額の適用を希望する方

申請期間内の申請が必要です。下記期間外の申請は受け付けません(締切厳守)。

ただし、会費請求時点で特別な理由が起きた場合には、例外的に減額をすることがあります。

対象者

正会員:

常勤職を有していないため経済的に困窮を極める正会員を対象に、年会費(1万円)を半額(5000円)に減額します。

学生会員:

経済的困窮を極める学生を対象に、年会費(5000円)を2000円に減額します。

申請期間

2024年8月15日(木曜)~9月15日(日曜)〔予定〕

申請方法

申請受付フォームのURLを記載したMLを、申請受付開始日に(8月15日を予定)に配信します。希望者はMLに記載されている手順に従って申請期間内に申請してください。受付締切後に常任理事会で審査を行ない、結果を10月に通知いたします。

2.学生会員の資格確認

学生会員に対して、毎年8~9月に学生会員の資格確認を実施しています。

以下のいずれかに該当する学生会員は下記の申請期間内に10月1日以降も学生であることがわかる証明書(学生証のコピー等)を以下の手順で提出してください。

対象者

  • 会員マイページにアップロードされている学生証に記載の有効期限が【2024年9月末】以前の方。
  • 会員マイページの最終学歴>卒業・修了(予定)年月が【2024年9月末】以前の方。

申請期間

2024年8月15日(木曜)~9月15日(日曜)〔予定〕

申請方法等

申請受付フォームのURLを記載したMLを、申請受付開始日に(8月15日を予定)に配信します。

対象の会員はMLに記載されている手順に従って申請期間内に申請してください。

2024年10月1日以降でなければ最新の学生証をアップロードできない方は、申請フォームを通じて提出が遅れることを申請期間中に本部事務局までお知らせください。

9月末時点で本部事務局が10月1日からの学籍を確認できなかった学生会員は、新年度(10月)より自動的に会員種別が正会員に切り替わります。

それに伴い、年会費が5000円から1万円となります(会費の請求は2025年4月初旬に行う予定です)。

指導教員の方々へお願い

留学生かどうかにかかわらず、学生会員は学会の制度や仕組みについて不案内な方も少なくありません。

ご自身の指導学生が学生会員として在籍している方は、学生会員の資格継続手続きについて、ご指導をお願いいたします。

3.会員種別の変更

新年度から会員種別の変更が生じる場合、手続きが必要な場合がございます。

以下のURLに記載されている会員種別に関する条件について今一度目を通して頂き、学生会員は学生会員としての資格を満たしているかどうかご確認をお願い致します。

学生会員資格の適用条件

以下のURLをご確認ください。

学生会員→正会員への変更

ご自身の会員マイページに掲載の学生証ファイルの削除と所属先情報の更新をお願いします。

そのうえで、学生資格の確認申請受付フォームにて次年度は正会員に種別変更する旨を申請してください。

申請受付フォームは、そののURLを記載したMLを、申請受付開始日に(8月15日を予定)に配信します。

正会員→学生会員への変更

学生会員としての条件を満たしており、2025年度(2024年10月1日以後)の会員種別を学生会員に変更したい会員は「2.学生会員の資格確認」を読み、学籍の証明手続を行なってください。

なお、社会人学生には、正会員での所属をお願いしています。

申請期間

2024年8月15日(木曜)~9月15日(日曜)〔予定〕

申請方法

「2.学生会員の資格確認」に準じます。

同じ申請フォームで受付しますので、MLの読み落としがないようご注意ください。

4.休会申請の受付

本学会では2023年度より休会制度を導入し、連続して最大4年間休会することが可能となっています。

休会期間中は会員サービスが休止となり、学会誌やMLの送付停止、大会での応募や発表ができません。

また、理事候補者選挙の被選挙権および投票権も停止されます。

休会制度については以下のサイトをご覧ください。

休会制度

対象者

名誉会員を除く全会員種別が対象

申請にあたっては2023年度および2024年度の会費支払いが完了していることが条件

申請期間

2024年8月15日(木曜)~9月15日(日曜)〔予定〕

申請方法

申請受付フォームのURLを記載したMLを、申請受付開始日に(8月15日を予定)に配信します。希望者はMLに記載されている手順に従って申請期間内に申請してください。

5.年会費の滞納による退会処分について

国際開発学会では、年会費の滞納が2年続いた会員は理事会で退会処分とすることとなっています。

対象者に対して、8月中旬に封書で郵便振替用紙を送付しますので、未払い会費を速やかにお支払いください。

なお、未払い会費に対する国際開発学会の請求権は退会処分後も存続いたします。

退会を希望する際は未払い会費をご精算のうえ、退会手続きをお願いいたします。

退会後の未払い会費の取扱いについて

以上につき、ご不明な点等がございましたら、本部事務局までご連絡ください。

第12期 総務委員長・関谷雄一(東京大学)
第12期 本部事務局長・星野晶成(名古屋大学)




横浜支部(2024年8月)

横浜支部 2024年度上半期活動報告

1.JICA×YNU連携講座「現場から考える国際開発協力(2023年度)」との共催で、学部学生および修士課程学生による「卒論・修論発表会」を実施した。

  • 日時:2024年3月30日(土曜)13時〜18時
  • 方法:Zoomによるオンライン開催。

報告者および発表タイトルは以下のとおり。

  1. 中村心寧「神奈川県丹沢山域における生物多様性普及のための意識調査-生物文化多様性に着目して―」横浜国立大学4年
  2. 橋本武龍「震災復興と農村社会の持続可能性―福島県南相馬市における農業大規模化施策と小農の存続をめぐって―」高崎経済大学4年
  3. 村瀬悠「価値創造志向フェアトレードの展開 ―日本のフェアトレード運動を事例に―」横浜国立大学4年
  4. 八郷真理愛「発達障害のつくられ方―個性と障害の境界線をめぐる人々の認識と国際的診断基準のギャップ―」横浜国立大学修士2年

2.上記のほかに、支部構成員のあいだで日常的に情報交換を行った。

とりわけ、来年8月に横浜で開催予定のTICAD(アフリカ開発会議)第8回会合へ向けての横浜市との連携事業についての相談等を実施中。


横浜支部
支部長:志賀裕朗(横浜国立大学)




東海支部(2024年8月)

活動報告:2023年10月から2024年6月

 1.国際開発学会東海支部(JASID東海)・国際ビジネス研究学会中部部会 共催講演会

「現地での事業展開を通して見たインド・中国ビジネス比較‐現地法人設立・経営の経験より‐」

  • 講師:武藤 裕幸 氏(愛知大学大学院中国研究科、元豊田自動織機)
  • 司会:林 尚志 (南山大学)
  • 日時:2023年(令和5年)10月7日(土曜)16:05~17:05
  • 開催方法:対面のみで開催
  • 場所: 中京大学名古屋キャンパス センタービル8階0805教室

2.2023年度国際開発学会若手部会主催(国際開発学会東海支部共催)

「若手のための開発研究アイデアソン」

  • 日時:2024年3月16日(土)9:30~17:00
  • 開催方法:対面
  • 場所:名古屋大学大学院国際開発研究科

【午前の部】

日本語セッション)

(1)9:30~10:05
(1)山田翔太 立教大学 異文化コミュニケーション学部/日本学術振興会 特別研究員P D
「バングラデシュにおける飲料水供給と開発援助-資源に対する介入者と地域の視点に着目して-」

(2)10:05~10:40
小松勇輝 大阪大学大学院
「コートジボワールにおける初等教育の質と非認知能力の涵養プロセス 学校教育と徒弟制で形成される自己効力感に着目して」

(3)10:40~11:15
八郷真理愛 横浜国立大学大学院
「発達障害のつくられ方―個性と障害の境界線をめぐる人々の認識と国際的診断基準のギャップー」

(4)11:15~11:50
鈴木彩莉 名古屋大学大学院
「一時的移民から永住者へ 日本におけるインドネシア出身のスキル向上の旅」

(英語セッション)

(1) 9:30~10:05
Abraham Emil Salazar Lugo (Nagoya University)
A Safer Japan for Foreign Residents: An Analysis of the Disaster Preparedness Information Ecosystem in Aichi Prefecture

(2) 10:05~10:40
ECHEVARRIA BARRIGA Cesar Diego (Nagoya University)
Pilgrimage and Politics during the COVID-19 Pandemic: A Case Study of the 2021 Kumbh Mela in Haridwar 20min presentation

【午後の部】

13:15~13:35
若手部会の説明と午後の説明

13:55~15:20
円卓会議(若手研究者による意見交換会)

15:30~17:00
交流会

3.国際開発学会東海支部(JASID東海)・国際ビジネス研究学会中部部会 共催講演会

「アジアでのビジネスマネージメント&コミュニケーションスタイルについて:台湾・香港・タイランド・中国」

  • 講師:山田 正人氏(元資生堂麗源有限公司(北京)総経理)
  • 日時:2024年(令和6年)4月20日(土曜)16:05~17:05
  • 場所:オンライン(Zoom)にて開催
  • 司会:林 尚志(南山大学)

東海支部
代表:梅村哲夫(名古屋大学)
副支部長:染矢将和(名古屋大学)
副支部長:林尚志(南山大学)




京滋支部(2024年8月)

活動報告

京滋支部では、若手研究者を主な対象に、春季大会・全国大会への発表と大学の枠を超えた研究協力を促すことを目的に、研究成果・計画報告、交流会を実施している。

2024年度は4月20日(土曜)に、立命館大学朱雀キャンパスにて、学生会員(博士前・後期課程)およびPD、助教レベルの会員による13の研究成果および中間報告が行われた。

発表者の所属は主に関西地区の5大学(神戸大学を含む)で、本支部の趣旨である域内外の研究者交流に資するものと思料する。

なお外国人会員の活動については、京滋支部地域の各大学院所属の留学生に対し入会勧誘を行い、上記報告会への参加、発表を促している。

4月の報告会では、8件の発表が外国人によるものであった。また6件の発表が女性によるものであった。


京滋支部
支部長:渡邉松男(立命館大学)




関西支部(2024年8月)

関西支部:2024年度6月末活動報告

2024年度、関西支部ではハイブリットによる定期的な研究会の開催を計画しました。

本支部が開催する研究会では、国際開発・国際協力に関するさまざまな分野の専門家を招聘し、現在世界的な問題となっているコロナ禍、また、コロナ後における国際開発・国際協力に関する議論を精力的に展開していくことを目的としています。

上記活動に基づき、2023年11月から2024年6月までに実施された研究会についてご報告させていただきます。

【第168回研究会】2023年11月23日(木曜)9:30-10:30(英語)

発表テーマ:

EGRA/EGMA as an Initiative to Realize SDGs 4.2: Cambodian Case

発表者:

Dr. Sitha Chhinh, Senior Researcher, Education Research Council, MOEYS, Cambodia

討論者:

Dr. Sam Sideth Dy, Secretary-General of the National Committee for Life-Long Learning/Deputy Director-General for Education, Ministry of Education, Youth and Sport (MOEYS), Cambodia

参加人数:

36名(対面15名、オンライン21名)

概要:

本研究会では、カンボジア教育スポーツ省のSitha Chhinh博士を招聘し、「EGRA/EGMA as an Initiative to Realize SDGs 4.2: Cambodian Case」をテーマに講演をしていただいた。Sitha博士はカンボジアにおいて、初等教育をはじめとした各教育レベルへの就学率は上昇しているものの、それらに所属する生徒の90%近くがLearning Povertyの状態にあることを言及した。

そのうえで、教育の質の低さを問題提起し、その背景として資格を有した教員の不足、学習時間の不足、学習教材の不足等を挙げ、それらを解決する方法として、EGRA/EGMAの学習を義務付ける必要性があることを述べた。

その一方で、その学習教材の導入にはコストがかかること、教員が指導法を正しく学ぶ必要性があることを課題として指摘した。そして、EGRA/EGMAの実践には政府、教員、家庭すべての協力と理解が必要であると結論付けた。

また、今後の展望として、リモート学習の活用を中心とした生徒の学習の多様化が、場所や時間の制限を無くし、生徒の学習時間・学力の向上に有効であると述べた。講演後は、教育の質を中心に多岐にわたる論点について活発な議論が行われた。本研究会はSitha博士の講演並びにその後の議論を通じてカンボジアにおけるEGRA/EGMAの展望と課題について深い知見を得ることができた大変意義深い研究会となった。

【第169回研究会】2023年11月23日(木曜)8:30-9:30(英語)

発表テーマ:

Recent Reforms in Teacher Development in Cambodia

発表者:

Dr. Sam Sideth Dy, Secretary-General of the National Committee for Life-Long Learning/Deputy Director-General for Education, Ministry of Education, Youth and Sport (MOEYS), Cambodia

討論者:

Dr. Sitha Chhinh, Senior Researcher, Education Research Council, MOEYS, Cambodia

参加人数:

36名(対面15名、オンライン21名)

概要:

本研究会では、カンボジア教育スポーツ省次長のSam Sideth Dy博士を招聘し、「Recent Reforms in Teacher Development in Cambodia」をテーマに講演をしていただいた。Sideth博士は教員の質を向上させることは、学校教育におけるアクセスの改善だけでなく、教育内容の質的向上に資することを言及した。

一方で、基礎教育の普及が進みつつある中で、カンボジア中等教育レベルにおける修了率が低いことを挙げ、これらはカンボジアにおける学習成果向上を妨げてしまう可能性を示唆した。教員採用や教員養成に関する政府の政策や現状、教員配置や教員の給料などを中心に多岐にわたる論点について活発な議論が行われた。

本研究会はSideth博士の講演並びにその後の議論を通じてカンボジアにおける教員養成改革の展望と課題について深い知見を得ることができた大変意義深い研究会となった。

【第170回研究会】2024年1月30日(火曜)17:00-18:30(英語)

発表テーマ:

Changing Landscape of Aid and the World Bank

発表者:

Mr. Yasuaki Yoneyama, World Bank Special Representative, Japan, World Bank Tokyo Office

参加人数:

45名(対面25名、オンライン20名)

概要:

本研究会では、世界銀行東京事務所駐日特別代表の米山泰揚氏を招聘し、「Changing Landscape of Aid and the World Bank」をテーマに講演をしていただいた。米山氏はまず初めに公的資金の流れに関する動きや、過去数十年間の間に援助の流れがどのように変化してきたのかについて言及した。

加えて、こうした援助のあり方が変貌する中、世界銀行がどのように関与していくのか、ドナーや被援助国にとってどのような意味を持つのか、援助効率に与える影響についても示唆した。

日本の援助政策のあり方、中国の巨大経済圏の影響などを中心に多岐にわたる論点について活発な議論が行われた。本研究会は米山氏の講演並びにその後の議論を通じて変貌する援助の今後の展望と課題について深い知見を得ることができた大変意義深い研究会となった。

【第171回研究会】2024年2月1日(木曜)15:30-17:00(英語)

発表テーマ:

Emerging Country of “Global South” Bangladesh as a Model Case

発表者:

H.E. Mr. Kiminori Iwama, Ambassador Extraordinary and Plenipotentiary, Bangladesh, Embassy of Japan in Bangladesh

参加人数:

48名(対面25名、オンライン23名)

概要:

本研究会では在バングラデシュ日本国大使館・岩間公典特命全権大使を招聘し、「Emerging Country of “Global South” Bangladesh as a Model Case」をテーマとした講演を行った。岩間大使は、「今回の講演ではバングラディシュと日本の二国間関係に焦点を当てる。途上国には共通する課題や事例が多いため、講演内容を自分の国に帰った時に生かしていただきたい。」と述べた。

初めに、バングラディッシュの背景として、基礎情報、経済状況、外交、過去10年に直面した課題についてお話頂いた。特筆すべき点として、バングラディシュは2022年まで毎年6~7パーセントの経済成長を続けており、グローバルサウスと西洋諸国との関係を繋ぐ国として、戦略的に外交関係を築いていることが挙げられた。

その後、日本との二国間関係と題し、二国間関係の開始、これまでの二国間関係、2023年の戦略的パートナーシップ、地域全体に影響を与える国の平和と持続性、2024年の総選挙、今日の経済状況、外交政策についてご説明いただいた。

日本は独立2年後というかなり早い段階でバングラディシュとの外交関係を開始し、開発援助としてJICA青年海外協力隊の派遣(JOCV)や政府開発援助(ODA)を通して50年以上開発援助を行ってきた歴史があるとした。

2023年からは戦略的パートナーシップとして、双方に有益な関係性を築くべく、あり得るべき経済連携協定(EPA)に向けた共同報告書を作成した。このように、本研究会は岩間大使の講演及びその後の議論を通じてバングラディッシュの情勢や日本とバングラディシュの二国間関係について知見を深める意義深い機会となった。

【第172回研究会】2024年4月12日(金曜)17:00-19:00(英語)

発表テーマ:

The Impact of Environmental Factors, Technological Access, Public Safety, and Public Health Outcomes in East Java Province, Indonesia: Methods of Moment Quantile Regression Analysis

発表者:

Ms. Yessi Rahmawati, Assistant Professor, Faculty of Business and Economics, Airlangga University

参加人数:

33名(対面28名、オンライン5名)

概要:

本研究会では、エアランガ大学のYessi Rahmawati助教授を招聘し、「The Impact of Environmental Factors, Technological Access, Public Safety, and Public Health Outcomes in East Java Province, Indonesia: Methods of Moment Quantile Regression Analysis」をテーマとした講演を行っていただいた。

Yessi Rahmawati助教はまず、気候変動や自然災害といった近年の環境問題についてどのような取り組みがなされているのかについて言及し、その中でも都市緑地化が環境問題の解決を考える上で重要な規定因であることを強調した。

次に、インドネシアのEast Java県の地理学的な特性や犯罪率の高さ、そして都市緑地化が比較的進んでいる現状を述べた上で、都市緑地化と保健分野の成果との関係性についてBiopsychosial Pathways theoryとMultiple Deprivation theoryの2つの理論の観点から議論を展開された。

実証的な分析結果では、都市緑地化、技術へのアクセス、犯罪率と保健分野の成果の関係性には統計的に有意な差があることを明らかにし、今後のインドネシアにおける保健分野における政策を示唆した。質疑応答ではインドネシアにおける都市緑地化の現状や今後の展望についてなどの多くの質問が挙がり、多くの知見を深める有意義な研究会となった。

【第173回研究会】2024年4月18日(木曜)17:00-19:00(英語)

発表テーマ:

Making externally funded reforms stick: Challenges and approaches of international cooperation agencies

発表者:

Professor Gita Steiner-Khamsi is the (designated) William Heard Kilpatrick Professor of Comparative Education at Teachers College, Columbia University, New York.

参加人数:

157名(対面52名、オンライン105名)

概要:

本研究会では、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジのGita Steiner-Khamsi教授を招聘し、「Making externally funded reforms stick: Challenges and approaches of international cooperation agencies」をテーマとした講演を行っていただいた。

Steiner-Khamsi教授はまず、教育改革の中でも教育財政、教育の分権化、学校レベルでの説明責任といった教育の質向上ための根幹となる改革の重要性について言及する一方、経年変化や段階的な廃止の観点からも課題が山積していることを強調された。

次に、ドナーや政府間での協力を通じた援助の有効性の向上と、それに伴う制度化・組織化の促進についての議論を展開し、アジア開発銀行(ADB)を事例とした政策転換のためのプロジェクト形成や教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)を例としたカリキュラム改革、政策の形成、遂行、評価のローカリゼーション化といったアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の事例など、国際協力に関係する援助主体の取り組みを正の側面と負の側面の両方の観点から述べられた。

最後に、質疑応答では援助主体の途上国に適した財政的支援のあり方、学校の権限委譲、国々間における教育政策の功績の共有や教育の地方分権化に関する今後の展望についてなどの多くの質問が挙がり、多くの知見を深める有意義な研究会となった。

【第174回研究会】2024年4月20日(土曜)13:00-15:00(英語)

発表テーマ:

Climate Change and Vulnerability Assessment in Bangladesh

発表者:

Professor Maksud Kamal, Vice Chancellor, University of Dhaka

参加人数:

105名(対面35名、オンライン70名)

概要:

本研究会では、ダッカ大学のMaksud Kamal学長を招聘し、「Climate Change and Vulnerability Assessment in Bangladesh」をテーマとした講演を行っていただいた。Maksud Kamal学長はまず気候変動と地球温暖化がそれぞれどのように定義され、どのようなメカニズムで関係しているのかについて言及した。

次に、気候変動に関する国際レベルの協定として、気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)について概説し、温室効果ガス排出国や産業別の排出量の実態に加え、海上レベルの上昇、異常気象、健康被害など地球温暖化が今後どのような影響をもたらすのか、科学的な知見から意見を述べられた。

続いて、バングラデシュを事例として、同国が直面している人口過密や食糧確保などの社会経済の課題と河野氾濫や干ばつなどの自然環境の問題を詳細に指摘し、こうした課題克服のための取り組みや事例を提示した。加えて、バングラデシュの国家戦略の一つであるデルタ計画を例に、環境問題と経済成長という二つの相反する状況をどのように維持していくのか中長期戦略や今後の国策のあり方、国際協調の重要性を述べられた。

最後に質疑応答では、先進国や途上国といった立場の異なる国々間の環境問題に対する考え方や取り組み方、バングラデシュと近隣諸国間の協調についての活発な議論が展開され、地球温暖化や気候変動について国際レベル、国家レベル、個人レベルで成すべきあり方に関する知見を得ることができた大変貴重な研究会となった。

【第175回研究会】2024年5月30日(木曜)15:00-17:00(英語)

発表テーマ:

Transition of Vietnam’s Water Governance toward Sustanability

発表者:

Dr. Seungho Lee, Professor, Graduate School of International Studies, Korea University

参加人数:

35名(対面30名、オンライン5名)

概要:

本研究会では、高麗大学のSeungho Lee教授を招聘し、「Transition of Vietnam’s Water Governance toward Sustanability」をテーマとした講演を行っていただいた。

Seungho Lee教授はまず研究対象国であるベトナムがドイ・モイ政策による経済成長を遂げた東南アジア諸国のうちの一国である一方、同国において気候変動問題が深刻化していることへの危惧を示し、同問題への対処法としてベトナムにおける各アクター間を通じた水資源管理のあり方の重要性を強調した。

実際に、ベトナムにおける韓国国際協力団(KOICA)の水資源情報管理に関するプロジェクトがどのような目標や戦略に基づいて行われてきたのかについて説明がなされた。

次に、ベトナムにおける水資源管理の現状と直面している課題を挙げ、これまで水資源管理に関する法律や規則がトップダウンによって導入されてきたことを指摘し、水資源管理の規律に関してどのような改革がなされてきたのか詳細に述べられた。

最後に、ベトナムにおける水資源管理の政策形成に加え、どのように政策を遂行していくのか、水資源についての情報担保のあり方や同分野への国家予算が不十分であること、さらには政策形成過程への市民関与がなされていないことを課題点として、今後の政策提言をなされた。

質疑応答では、水資源管理に関する喫緊の課題や近隣諸国との関係からみる水資源管理、民主主義体制と社会主義体制下の官民連携のあり方について活発的な議論が展開され、ベトナムにおける水資源管理の変遷についての知見を深めることができた大変貴重な研究会となった。

【第176回研究会】2024年6月20日(木曜)15:00-17:00(英語)

発表テーマ:

Global Development Challenges and the Role of the World Bank

発表者:

Mr. Hideaki Imamura, Dr. Keiko Inoue, Mr. Koichi Omori (World Bank)

参加人数:

67名(対面35名、オンライン32名)

概要:

本研究会では、世界銀行の今村英章氏(世界銀行本部 日本代表理事)、井上景子氏(世界銀行本部 南アジア地域総局 教育プラクティス・マネジャー)、大森功一氏(世界銀行 東京事務所 上級対外関係担当官)を招聘し、「Global Development Challenges and the Role of the World Bank」(グローバルな開発課題と世界銀行の役割)をテーマとしてご講演いただいた。

まず、今村理事がご登壇され、SDGsの17の目標の達成状況に触れながら、「極度の貧困を撲滅し、『繁栄の共有』を促進する」という目標のもと、世界銀行が財政的支援を必要とする途上国と財政市場とをどのように繋いでいるのか説明がなされた。

また、世界銀行の被援助国であった日本が重要なドナー国の一つとなった歴史に触れる一方、世界銀行における日本人職員の占める割合が低いことに対して危惧を示された。次に井上氏がご登壇され、「Why invest in people?」というテーマのもと、どのような子ども達に投資する必要があるのか、なぜ南アジアを支援することが重要なのか、なぜ教育に投資しなければならないのかということについて、人的資本の観点から論じられた。

その際、経済開発の推進力としての人的資本の影響力を強調されるとともに、自分自身の人生に投資することの重要性を説かれた。最後に大森氏がご登壇され、YPP (Young Professional Program) やJoint Japan/WB Graduate Scholarship program (JJ/WBGSP)など、世界銀行が提供する入行の機会をご紹介された。

参加学生へのメッセージとして、自身の経歴がTerms of References (ToR)に合致せずとも、早い段階でどのような募集があるのか、どのようなスキルが求められるのかを把握することの大切さを強調された。質疑応答では、開発協力における世界銀行の中立的な立場のあり方や、限りある資源の中での教育の量と質の両立の難しさ、魅力的なCurriculum Vitae (CV)の書き方について活発な議論が展開された。

国際社会における世界銀行の役割について知見を深め、世界銀行の職員として国際社会に貢献する将来を見据えることができた大変貴重な研究会となった。

【第177回研究会】2024年6月26日(水曜)17:00-19:00(英語)

発表テーマ:

Global Water Crisis – How to manage water better?

発表者:

Dr. Toru Konishi, Visiting Professor, Tokyo Metropolitan University/ Former Senior Water Resource Economist, World Bank

参加人数:

26名(対面21名、オンライン5名)

概要(日本語):

本研究会では、東京都立大学客員教授で元世界銀行シニア水資源エコノミストの小西徹博士を招聘し、「Global Water Crisis – How to manage water better?」という題目で世界の水資源をめぐる問題について講演を行っていただいた。

小西博士はまず、世界全体の水資源のうち飲料水として使用可能なのは僅か4%しか存在しないことを指摘し、水資源に関する基本的な情報についてデータを示しながら解説された。次に、水資源の問題と他の分野における開発問題との関係性について言及し、持続可能な開発目標(SDGs)達成のための喫緊の課題が水資源問題であることを強調した。

また、水資源に関する問題は分野横断的であり、経済学、工学、社会学、公共政策学などの複合的な観点から問題を捉えることの重要性を示唆した上で、パキスタンやラオスを事例とし、これらの国々が直面している洪水災害の現状や地域特有の問題について説明した。

さらに、小西博士自身の実務経験に基づいて、世界銀行が実施してきた水資源プロジェクトを紹介し、水資源に関連する問題は、世界銀行のような国際機関と草の根活動をしているNGOなどの他のアクターでは捉え方が全く異なることを指摘した。

講演後には参加者との活発な質疑応答が行われ、多岐にわたる学生の質問に対して、小西博士が豊富な知識と経験に基づきながら自身の見解を述べられた。世界全体で環境問題が深刻化する中、水資源問題が複数の国家間に共通する重要な課題であり、それらの問題を理解するためには分野横断的な知識や視点が必要であることを学ぶ大変貴重な研究会となった。


関西支部
支部長:小川啓一(神戸大学)
副支部長:關谷武司(関西学院大学)




広島支部(2024年8月)

原稿提出なし


広島支部
支部長:市橋 勝(広島大学)




『移住と開発』研究部会(2024年8月)

『移住と開発』研究部会:活動報告

本研究部会は2024年度において、全国大会でのラウンドテーブルと2回の研究会を開催した。

回を重ねるごとに賛同人が増え、2024年7月8日時点で27名になった。

 

全国大会ラウンドテーブル

『外国人技能実習制度を通じた技能移転をめぐる課題と可能性:ベトナムにおける社会的ニーズと技能実習生の生活戦略』

  • 日時:2023年11月12日(日曜)15:00-17:00
  • 形式:対面
  • 会場:上智大学四谷キャンパス紀尾井坂ビルB104
  • 参加者:約30名

プログラム

司会:生方 史数(岡山大学)

趣旨説明

二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)

報告1:「ベトナム⼈元技能実習⽣における技能移転と将来設計」

加藤 丈太郎(武庫川女子大学)

報告2:「ベトナムの農業をめぐる社会的ニーズと技能実習生の生活戦略としての技能移転」

二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)

報告3:「介護分野におけるベトナムへの技能移転の課題と可能性――『移民力』の視点から」

比留間 洋一(静岡大学)

討論:

佐藤 寛(開発社会学舎)

本ラウンドテーブルのねらいは、①日本が、過疎地域が「選ばれ続ける」ために、「技能移転」による魅力増進の可能性を探ること、②技能実習生の最大の送出国であるベトナムに着目し、当該国社会や技能実習生当人のニーズを検討すること、および③「技能移転」の実現に向けたプロセスや現状をふまえつつ、今後の課題を考察することにあった。報告者3人は、ベトナムにおける調査をもとに、その成果をそれぞれ論じた。

この全国大会が開催されたころ、政府の有識者会議より、近日中に、技能実習制度に代わる新しい外国人労働者の受け入れ制度の概要が示される予定であることが発表されたばかりであった。そうしたタイミングでもあったことから、活発な議論が展開され、多くの示唆を得ることになった。

とりわけ、「技能移転を考える際に、技能実習生の送り出し社会のコミュニティ開発を視野に入れるべきではないか」という指摘は貴重であり、本研究会がこれから取り組むべきテーマのひとつとなった。今後、新制度の方向性を睨みつつ、日本社会が外国人労働者から「選ばれ続ける」ための道筋を検討していきたい。

第1回研究会

日本への移住経験は発展途上国社会にどのような影響を及ぼす(した)のか

  • 日時:2024年2月12日(月・祝)14:00-16:30
  • 方法:対面を中心としたZoomとのハイブリット形式
  • 会場:武庫川女子大学 中央キャンパス 中央図書館棟6階 C601教室
  • 参加者数:対面23名、オンライン約50名

プログラム

「移住と開発」研究部会 研究会の始動にあたって

生方 史数(岡山大学)

報告1:「『失踪』からのベトナムへの帰還―元技能実習生における主体性」

加藤 丈太郎(武庫川女子大学)

報告2:「介護労働に従事する移住女性の生活戦略」

二階堂 裕子(ノートルダム清心女子大学)

モデレーター:

佐藤 寛(開発社会学舎)

ベトナム人技能実習生の「失踪」が社会課題として盛んに報道されている。しかし、「失踪」者がいかなる「主体性」をもって日本で生きていたのか、また、ベトナムに帰国後、どのように生活を営んでいるのかは十分に明らかにされていない。加藤報告は、2023年8-9月にベトナムで行ったインタビューの結果を元に、元ベトナム人技能実習生がたどった軌跡を「主体性」の観点から検討した。

再生産労働の国際分業とともに国際移動の女性化が進行するなか、日本国内の急速な少子高齢化と労働力不足の深刻化を背景に、介護施設で就労する外国人女性が増加の一途を辿っている。

二階堂報告では、中国地方の介護施設で働くミャンマー人女性に焦点を当てて、彼女たちがどのような動機から日本での就労を選択したのか、また、この経験をどのように捉え、いかなる将来展望を抱いているのかについて検討した。

参加者アンケート(n=18)では、参加者に5段階評価で感想を問うた。非常によかった(11名)、よかった(6名)、ふつう(1名)という結果であった。自由記述からは「いろんな角度からものを見ることの大切さと面白さと可能性を感じました」、「『開発』そのものについても考えて良いのではないか」といった声が聞かれた。後者の声について、今後の研究に活かしていく。

第2回研究会

中国から日本への労働移動の教訓を探る

  • 日時:2024年6月2日(日曜)14:30-16:30
  • 方法:対面を中心としたZoomとのハイブリット形式
  • 会場:JICA東京
  • 参加者数:対面20名、オンライン約25名

プログラム

概要紹介

石丸大輝(国際協力機構 東・中央アジア部 東アジア課)

結果報告

荒木 憲(アイ・シー・ネット株式会社)

モデレーター

佐藤 寛(開発社会学舎)

中国から日本への労働移動には長年の蓄積があり、就業形態の中心は技能実習から技人国等に移行し、定住化が進むなど多様化している。ベトナム等からの受入れにも、同様の変化の兆しが見られる。そこで、中国から日本への労働移動の変遷や現状、好事例を収集し、他国からの人材受入れ支援に資する教訓の抽出を試みた。

なお、諸外国(韓国、ベトナム、フィリピン等)から中国への労働移動についても調べており、中国の受入国としての側面についても併せて紹介した。

参加者アンケート(n=15)では、参加者に5段階評価で感想を問うた。非常によかった(12名)、よかった(3名)という結果であった。参加者からは「設計のしっかりした立派な調査で大変勉強になりました」、「理論的な背景と仮説の議論をもっと強調してもいいのではないか」という声も聞かれた。後者の声は、当初、私たちが研究部会2年目(2024年10月から)に計画している内容とも合致しており、方向性を確認する機会ともなった。


『移住と開発』研究部会
代表:加藤 丈太郎(武庫川女子大学)




『ICTと国際開発(ICT4D)』研究部会(2024年8月)

「ICTと国際開発」研究部会:活動実績報告

2024年6月 春季大会

ここから始める「デジタル技術の国際開発への活用」の導入として狩野会員(金沢工業大学)からイントロ、内藤会員(神戸情報大学院大学)からGood Practice and Bad Practiceの発表、そして山田会員(長岡造形大学)からデジタルはローカルなものづくりを加速するというタイトルで発表があった。

討論者の高田会員(東京工業大学)、森会員(同志社大学)、そして会場参加者と以下のような議論がなされた。

ICTがWell-beingに資するものなのかは、ICT活用による悪いところをいかに捉え消していくかが重要。現在のSNSなどはフェイクニュースなどが相次いでいるが、これはエコシステムの構造的問題があり、放置した方が企業が儲かってしまう仕組みなどが根本な点としてある。

ICT4Dに適する人材、ゼネラリスト・スペシャリストのどちらが望まれるかのなどについての質問に対し、これしかできない人というがスペシャリストならば、そのような人が固まっても何もできない。間に入るゼネラリストは調整のスペシャリストにいもなりえる。生成AIは雇用を奪うのか?という点については、最新技術が搾取構造を加速させる可能性がある。逆にいうと、適切な政策を適切な時代に施すことによって国は発展する。ただ、それは学術的にまだ研究は進んでいないので研究を進めていく。

3Dプリンターでどこまで作れるのかという質問に対し、データを持ってきさえしてくれたら3Dプリンターでなんでも作れる。そのくらいオープンソースでクラウド上にはデータが溢れている。一方、それをリミックスして機能追加・デザイン変更したい、と思った時にはハードルが上がる。知財に関する質問に対し、知財をどうするか、という点はFab academyなどで公開する際に問われる。前に利用したソースコードがあるならば、それを明確にしてオープンソースにするか、どうかを選ぶ。

全体総括としては、ICT技術の国際開発への応用に関する入門セッション的な位置付けで開催したが、知財、人材の考え方、最新技術など多様な質問が活発に議論された。一方、プレゼントピックとしては広くなりすぎた印象はあり、次回以降では応用編として具体的なプロジェクト・課題にフォーカスしたものであってもよいと感じた。

2024年5月 研究会 /話題提供者:狩野剛(金沢工業大学)

Lessons Learned from EdTech Integration during the COVID-19 Pandemic: Socio-technical Case Analyses of Bhutan and Nepalというタイトルで、研究部会およびJASID会員向けに勉強会を開催した。

2024年4月 内部ミーティング

春季大会でのラウンドテーブル提案に向けたコンテンツの企画を行なった。

2024年3月 内部ミーティング

研究部会メンバーの自己紹介、今後の活動予定について意見交換を行った。

2024年2月 研究会/ 話題提供者:外山健太郎(ミシガン大学教授)

研究部会およびJASID会員向けに研究会を開催。

ミシガン大学 情報学部の外山健太郎教授(Prof. Kentaro Toyama, School of Information, University of Michigan)を講師にお招きした研究会を金沢工業大学虎ノ門キャンパスとオンラインのハイブリッドで2024年2月22日に開催。外山教授はこの研究会のテーマであるICT4Dの先駆者のお一人であり、元Microsoftのエンジニアでありながら、インドのMicrosoft Research立ち上げに尽力した経験を持つ。

タイトルは「ICTと国際開発 これまでのICTD分野の研究を振り返って」ということで、同分野のこれまでの議論の歴史や教訓について、幅広く取り上げていただいた。プレゼンの中では「これまでのICT4D分野の研究の合意点」として以下の4つが挙げられた。

  1. ICTが社会経済界開発のためになる可能性はある
  2. ICTの影響はプラスにならない場合が多い
  3. ICTの影響の多くは、人と組織に依存する
  4. 効果があるICTのデザインはコンテキストによる

そしてその後に、外山教授の提唱する「増幅の法則(Theory of amplification)」や「生成AIによる影響」について事例とともにご説明いただいた。

2023年11月 JASID全国大会(上智大学)

発表者の3名(岡崎会員、功能会員、狩野会員)から、インドのiKure社の概要、共同研究の概要といった背景説明があった。

そのあと、引き続き発表者より、インドにおける医療機器の現状や新興国・途上国での医療機器ビジネスの難しさなどについて解説があった。そして、ソーシャルビジネスにおける研究の貢献可能性として、工学系研究者・民間企業・投資家・社会科学系研究者・現地大学・住民という各ステークホルダーの視点から見える共同研究における貢献可能性について説明があった。

発表の後、討論者や会場の参加者からの活発なコメント・質問が行われた。今後の共同研究推進に向けた主な助言は以下の通り。

  • 現地の視点として医療サービスを提供するiKureからの情報を主としているようだが、エンドユーザの声をきちんと拾い上げるべき。例えば、遠隔医療への抵抗感、医者・看護師による信頼の違い、文化・宗教的なハードルなどについてきちんと情報を集めるべき。
  • 研究による外国人・外国資金の介入によって、ソーシャルビジネスの持続性に悪影響が出ないように気をつけた方が良い。特にこの共同研究の出口はどうなるのかと言った点は事前に先方とも意識合わせをしておく必要があると考えられる。

『ICTと国際開発(ICT4D)』研究部会
代表:狩野 剛(金沢工業大学)




『SDGs を問い直す』研究部会(2024年8月)

One of the major events for this study group was the realization of round table session at the annual conference that took place in November 2023. We had five presentations in English, focused on case studies on African political economy.

This study group aims to develop the research on SDGs toward 2030, as the successor of precedent SDGs research groups of JASID: on ‘Sustainable Development and SDGs’ and ‘Resilience of Development and SDGs’.

Based on these perspectives, the research group plans to 1) conduct case studies of the regions, such as Africa, Asia and Pacific, and Latin America, 2) organize academic sessions and publish articles and books in English.

Preparation for the publication were developed through formal and informal study meetings and seminars, which took place in Ritsumeikan University (November 2023, February 2024) and Waseda University (May 2024).


『SDGs を問い直す』研究部会
代表:大門(佐藤)毅(早稲田大学)




『開発論の系譜』研究部会(2024年8月)

活動報告「開発論の系譜」研究部会

「開発論の系譜」研究部会では、おおむね2か月に1回の頻度でオンライン研究会を行ってきた。活動1年目ということで部会設置時の賛同者による話題提供を中心としながらも、時には部会の外からも話題提供者を招いて問題の所在を具体化するための議論を重ねてきた。これまでの活動状況及び今後の予定は以下の通りである。

第1回研究会(2023年12月3日 14:00~17:00)

大山貴稔「『日本の開発学』をめぐる政治的風景——北岡伸一JICA理事長による近代化論の復権」と汪牧耘さんの「『開発論の系譜』をどう辿るか——これまでの(私の)試行錯誤」という2つの話題提供をもとに議論を行った。

「日本の開発学」の現在地を踏まえつつ、そこに連ならない系譜も含めて跡づける意義を意識化するようなやりとりがあり、国際開発学会の設立前から継承されてきた開発知の所在についての情報交換も行われた。

第2回研究会(2024年3月3日 14:00~17:00)

キム・ソヤンさんの「英国(を中心とした「西欧」)開発論に視る(幾つかの)認識論的な変化とそれらの現実的問題点について」と木山幸輔さんの「歴史学、人権、開発——ごく断片的に」という2つの話題提供をもとに議論を行った。

日本だけでなくイギリスやドイツなどでも開発研究を取り巻く認識論的な変化が進んでいる状況を確認しつつ、国際開発に関わる知識生産/実践におけるデコロニアルのあり方や、人権という概念を題材にして歴史的分析から規範的構想へと橋渡しする道筋などについて考察する回となった。

第3回研究会(2024年5月4日 14:00~17:00)

大橋正明さんの「インドとバングラデシュは私の先生」という話題提供をもとに議論を行った。学生運動やインド滞在といった大学時代の活動にはじまり、NGOシャプラニールにおけるバングラデシュ駐在員や事務局長などの活動、そのほか日本赤十字社駐在員や大学教員時代に重ねられた経験など、大橋さんのライフヒストリーを通して国際開発との関わりを深めていく一つの歴史的経路について考察する回となった。

第4回研究会(2024年7月21日 14:00~17:00)

松本悟さんの「開発学の『もうひとつの系譜』の試行/思考」という話題提供をもとに議論を行った。

家庭環境にはじまり管理教育に違和感を抱いた高校時代までの来歴や、日本学生協会(ISA)やAsian Student Association(ASA)、東南アジア青年の船などの大学時代の活動、日本国際ボランティアセンター(JVC)でラオスに駐在した時期に感じた違和感など、松本さんのライフヒストリーを示していただいた上で、ISA大阪や大学外の自主ゼミなど国際開発の現在につらなる人や知識のネットワークの一端について考察する回となった。

第5回研究会(2024年9月に実施予定)

北野収さんに話題提供をしていただく予定。

 

上述した部会活動を通して、国際開発と名指されてきたものを捉えるにあたっていくつかの共通の足場が見えてきた。

ひとつは、開発論というときに政府や国際機関などを主軸とした「大きな物語」や、個人の動機や創意工夫などを主軸とした「小さな物語」に焦点が当たりがちな状況に対し、その中間に広がる人間関係のネットワークや資金の流れなどに目を向けて開発論が生み出されたコンテクストを丁寧に読み解いていくことの重要性である。

これに加えて、国際開発学会の設立前から今でいうところの国際開発に携わってきた方々の話題提供の機会を設けられたことにより、それらの人々のなかで当時広く読まれた文献や大きな役割を担ったキーパーソン、学知に汲み取られてこなかった系譜なども見えてきた。

これらの手がかりを活かしながら、国際開発という歴史性を帯びた概念ないし実践の存立基盤を探り当てるような議論を次年度も続けていきたい。


『開発論の系譜』研究部会
代表:大山 貴稔(九州工業大学)




『国際教育開発における実務と研究の架橋』研究部会(2024年8月)

2024年度活動実践期報告書

1. 研究部会の目的

本研究部会では、国際教育開発における実務と研究を架橋し、双方向から国際教育開発という分野を捉え直すことを目的として、①若手を中心とする実務者と研究者の対話の機会を設けて相互理解を深めること、また、②実務者と研究者の協働によって、これからの国際教育開発の構想を提示すること、の2点の取り組みを行う。

本研究部会の立ち上げに先立ち、主にJICAを中心とする実務者と、途上国の教育研究をしている研究者による勉強会を2022年度より実施してきた。そこでの対話を通して、研究者側はJICAを単体のアクターと捉える傾向があり、その中で実務に携わる実務者の想いや葛藤に十分に目を向けて来なかったことや、逆に、実務者側は、研究者が生み出す知見や批判的検討を実務の中で十分に活かしきれていないことなど、実務(者)と研究(者)の間には「すれ違い」があることが明らかになってきた。

そこで、本研究部会を立ち上げ、より広く実務・研究に携わる会員を巻き込みながら、なぜ・どのように実務(者)と研究(者)がすれ違ってきたのか、また、そもそもこの「すれ違い」は克服すべきものであるのか、という点も含めて、国際教育開発における実務と研究の架橋を実務(者)と研究(者)の双方の視点から検討することによって、これからの国際教育開発という分野のあり方・関わり方を構想したい。議論の成果は書籍として整理し、広く世に問う。

2. 2024年度の活動

2023年11月:全国大会(上智大学)にてラウンドテーブルを実施

「国際教育開発のシングル・ストーリーを乗り越える:実務者と研究者の出会い直しに向けて」と題し、ラウンドテーブルを実施した。

研究者3名、実務者3名からの発表を受け、双方からのディスカッサントによる討論、および会場参加者との意見交換を実施した。NLでの実施報告は以下の通り。

本企画は、国際教育開発における実務と研究を架橋し、双方向から国際教育開発という分野を捉え直すことを目的として、特に、若手を中心とする実務者と研究者の相互理解を深めるための対話の機会として企画した。2022年度から実施してきた勉強会での議論を通して、研究者側はJICAを単体のアクターと捉える傾向があり、その中で実務に携わる実務者の想いや葛藤に十分に目を向けて来なかったことや、逆に、実務者側は、研究者が生み出す知見や批判的検討を実務の中で十分に活かしきれていないことなど、実務(者)と研究(者)の間には「すれ違い」があることが明らかになってきた。

そこで、本企画では、この「すれ違い」の背景に、国際教育開発に関わる人々の葛藤や戸惑い、願いなどの個人的な語りが覆い隠されてきたことがあるのではないかとの仮説に基づき、これへの反省から議論を進めた。特に、国際教育開発の中で「研究(者)」と「実務(者)」のそれぞれについて生み出されてきた、一方的で固定的なイメージ(シングル・ストーリー)を批判的に捉え、国際教育開発の語りを具体化・複数化するところから始める必要があること、また、「語られること」だけでなく「語られないこと」にも注意を払い、シングル・ストーリーが何を可能にし、何を不可視化してきたのか、議論を深めることに留意し、いわゆる研究者と実務者双方から計6名が登壇し、討論者も双方から計4名が登壇して、議論を進めた。

発表者からは、実務や研究に携わることになった背景・想いに加えて、それぞれが抱える葛藤や喜びが共有され、双方の顔を見て、想いをも含めて「出会う」「出会い直す」ことの重要性が確認された。また、コメンテーターからは、やっていることの中身からは、実務(者)と研究(者)の境界は極めて曖昧なものであるにもかかわらず、それぞれが敢えて立場性を意識する/させる関係の中ですれ違いが起きているのではないかとの指摘があった。

会場からは、国際教育開発の「現場」をどう捉えていけば良いかとの指摘や、教育は明確なゴールがない(あるべきでないとも言える)分野だからこそ、「良い教育とは何か」についての対話を継続的に行なっていかなければならないのではないか、との指摘があった。

今年度より、本ラウンドテーブルのメンバーが中心となって研究部会「国際教育開発」を発足させることから、実務者・研究者の出合い直しや自分自身との出会い直しを促すために、引き続き対話を続けていきたい。

2024年2月:河口湖にて研究合宿を実施

2月10日・11日に、上智大学河口湖ハイムにて研究合宿を実施した。

2月10日は、ラウンドテーブルに続いて研究者、実務者双方からの発表と討論をおこない、それぞれの立場から国際教育開発への期待や葛藤を交流した。

2月11日は、研究部会としての今後の活動方針とスケジュールについて議論した。研究部会チームでのJICA共創枠への応募内容や、本研究部会の取り組みを論文化・書籍化していくことについて話し合った。

2024年6月:慶應義塾大学にて研究会を実施

6月3日に、研究者6名、実務者4名(+オンライン参加者)が参加して研究会を実施した。

『国際開発研究』で特集を組むことを目指し、小グループに分かれて議論してきたことを発表し討議した。午後は、JICA共創枠の事業内容・進め方について話し合った。

2024年6月:名古屋大学にて研究会を実施

6月28日に、研究者6名、実務者6名(オンライン参加を含む)および一般参加者約10名にて、研究会を実施した。

当研究部会の関心やこれまでの活動内容についての紹介の後、実務と研究を行き来している発表者2名より、なぜ双方を行き来することになり現在その立場にあるのか、その位置取りには国際教育開発のなかの教育という部分が影響を与えたのか、その影響はどのようなものか、などについて発表した。

最後に、以上の点などをふまえて、国際教育開発の研究と実務という主題の論点を先行研究との接続線のもとに整理し、ありうべき差異と関係について、一般参加者も交えて議論した。


『国際教育開発における実務と研究の架橋』研究部会
代表:荻巣 崇世(上智大学)




『若手による開発研究』研究部会(2024年8月)

『若手による開発研究』研究部会 活動報告

活動最初年度である本年度は、第34回全国大会におけるラウンドテーブル発表に加えて、 名古屋大学における対面イベントと、6回のオンライン研究会を開催しました。

全国大会でのラウンドテーブルでは、それぞれ異なるバックグランドを持つ若手が集まる本研究部会の特徴を生かし、「次世代を牽引する若手像とは何か」という問いかけを通じて、自己の研究と社会的役割をリフレクションする機会を持ちました。

名古屋大学における対面イベントは、 学生の研究発表能力の向上を目指すとともに、関連領域の研究者との議論を通した情報交換の場を提供することを目的としました。

支部大会レベルで行われていた修士・博士論文の報告会を若手部会がリーダーシップをとって開催することにより、それまで報告で終わっていた学会の研究活動をより活性化させ、各々の研究の情報交換や、交流の場を持つことができました。

対面での活動ができたことで、 若手メンバー同士の交流を促進するという研究会の目標もある程度達成することができました。

多くの方々にサポートしていただき、本研究部会の活動を継続することができております。サポートしていただいている皆様に心から感謝申し上げます。


『若手による開発研究』研究部会
代表:森 泰紀(同志社大学)




『ジェンダーと開発』研究部会(2024年8月)

「ジェンダーと開発」研究部会:第2年次の活動報告

「ジェンダーと開発」研究部会は、実務者と研究者が活動報告や情報共有、調査や啓発活動のためのアプローチなどを紹介することにより、ジェンダーと開発を考えるうえでの課題や可能性について検討することを目的に、2022年8月より活動をしてきました。

主な活動は、月例の勉強会の開催及び開発学会大会での企画セッションの開催です。学会誌の特集号作成に向けた準備も始めています。

2年次となる2023年度は、代表として部会を率いてくださってきた田中由美子先生の訃報からのスタートになりました。研究部会としてパネルセッションにおいて、田中先生の追悼パネルを開発学会での業績と共に掲示させていただきました。

さらに、事務局と有志メンバーが、2023年12月23日に開催された「田中由美子さんを偲ぶ会」の実行委員会として関わりました。

また、2023年11月の第34回大会において、研究部会メンバーによる企画セッション「危機への対応とジェンダー―ジェンダー関係はどう危機と関係したか?」を開催しました。

「コロナ禍におけるバングラデシュ女性のマイクロファイナンスの利用」、「農家のリスクと機会への対応におけるジェンダーによる違い~ナイジェリア南西部オグン州を事例として~」、「母子家庭の母親たちの生存戦略―カラーチー市の「路上」で働く「ベンガリー」の女の子の母親たちの語りから―」、「北東シリア自治区の奇跡!?―ジェンダー主流化開発および<女性・平和・安全保障>アジェンダの視点から見たロジャヴァ革命体制(2012~)」について発表後、研究部会メンバーがコメンテーターを務め、企画セッションのテーマである「危機」を、社会的に構築された危機と状況的な危機の視点で4人の報告内容を分析しました。

女性が直面している危機は複合的であり、危機への対応がジェンダー関係にどう影響をあたえ、また既存のジェンダー関係が危機への対応にどう影響したか、相互に見ていく必要性を指摘されました。

その後、フロアも交えて議論をおこないました。この内容について、特集号での発表を準備しています。

初年次から実施している月例の勉強会(第3金曜日にZoom開催)を継続して開催し、メンバーの研究報告を通じて、研究部会の方向性の検討や、ジェンダーに関する課題のアップデートをおこなっています。

月例勉強会の参加者は12~15人程度で、発表者、司会者、記録者を順番に担当し、質疑応答を含めた記録を残しています。毎回1時間半程度ですが、毎月オンラインで集まることで、お互いの研究関心を知り、発表や質疑応答から刺激を受け、活発な月例勉強会となっています。

今年度は、議題によっては公開型で実施をすることで、積極的に学会員や一般への情報共有をおこなっています。2024年7月には招聘講師により「量的調査におけるジェンダー視点の取り入れ方」についての公開研究会を、ハイブリット形式で予定しています。

2024年度の勉強会のテーマ(2年次実績)

  • 10月20日:企画セッション発表者による発表内容の検討
  • 1月19日:ブータンにおける仏教学校の社会包摂
  • 2月16日:トークセッション「ガザについて」
  • 3月15日:タンザニアの混合粥加工女性グループの発展とローカル経済の関わり
  • 4月19日:メディアにおける女性エンパワメントー南スーダンの女性ジャーナリストの事例(公開)
  • 5月17日:バングラデシュにおける社会的連帯経済
  • 6月21日:NGOジェンダー主流化ワーキンググループの活動紹介と連携の可能性(公開)
  • 7月19日:招聘講師による公開研究会「量的調査におけるジェンダー視点の取り入れ方」(予定)

3年次にあたる2025年度には、2023年11月の第34回大会で実施した企画セッション「危機への対応とジェンダー」の議論を深化させ、特集号への掲載を目指しています。

また、2024年11月の第35回国際開発学会において、有志による企画セッションを開催予定です。さらに、第3金曜日にオンラインで開催する月例勉強会も継続する予定です。

招聘講師による公開研究会も、開催する予定です。

ご興味のある方は、事務局までご連絡ください。


『ジェンダーと開発』研究部会
事務局:本間まり子(早稲田大学)