第25回春季大会報告:ラウンドテーブル

D2:ここから始める「デジタル技術の国際開発への活用」

  • 開催日時:6月15日13:45 - 15:45
  • 聴講人数:約15名
  • 座長・企画責任者:狩野 剛(金沢工業大学)
  • コメンテーター・討論者:高田 潤一(東京工業大学)・森 泰紀(同志社大学)

【第一発表】ここから始める「デジタル技術の国際開発への活用」導入

発表者

  • 狩野 剛(金沢工業大学)

コメント・応答

ICTがWell-beingに資するものなのかは、ICT活用による悪いところをいかに捉え消していくかが重要。現在のSNSなどはフェイクニュースなどが相次いでいるが、これはエコシステムの構造的問題があり、放置した方が企業が儲かってしまう仕組みなどが根本な点としてある。

【第二発表】Good Practice and Bad Practice

発表者

  • 内藤 智之(神戸情報大学院大学)

コメント・応答

ICT4Dに適する人材、ゼネラリスト・スペシャリストのどちらが望まれるかのなどについての質問に対し、これしかできない人というがスペシャリストならば、そのような人が固まっても何もできない。間に入るゼネラリストは調整のスペシャリストにいもなりえる。

生成AIは雇用を奪うのか?という点については、最新技術が搾取構造を加速させる可能性がある。逆にいうと、適切な政策を適切な時代に施すことによって国は発展する。ただ、それは学術的にまだ研究は進んでいないので研究を進めていく。

【第三発表】デジタルはローカルなものづくりを加速する

発表者

  • 山田 浩司(長岡造形大学)

コメント・応答

3Dプリンターでどこまで作れるのかという質問に対し、データを持ってきさえしてくれたら3Dプリンターでなんでも作れる。そのくらいオープンソースでクラウド上にはデータが溢れている。一方、それをリミックスして機能追加・デザイン変更したい、と思った時にはハードルが上がる。

知財に関する質問に対し、知財をどうするか、という点はFab academyなどで公開する際に問われる。前に利用したソースコードがあるならば、それを明確にしてオープンソースにするか、どうかを選ぶ。

総括

セッションの総括  ICT技術の国際開発への応用に関する入門セッション的な位置付けで開催したが、知財、人材の考え方、最新技術など多様な質問が活発に議論された。一方、プレゼントピックとしては広くなりすぎた印象はあり、次回以降では応用編として具体的なプロジェクト・課題にふぉーかすしたものであってもよいと感じた。

報告者(所属):狩野 剛(金沢工業大学)


 D3:多極化する世界で漂流する日本 ―開発協力大綱とこれからの国際協力―

  • 開催日時 6月15日 15:00 - 17:00
  • 座長・企画責任者:島田剛(明治大学)

【第一発表】「ODAの安全保障化 ver.2」のもとでの2023年開発協力大綱―「理想主義のソフト・ロー」から「リアリズムの戦略」へー

発表者

  • 志賀 裕朗(横浜国立大学)

コメント・応答

志賀裕朗の論文は、開発協力大綱の改定により、ODAと国益の関係が根本的に変わったと論じている。その背景には次のような変化がある。90年代には「国益」とは主に経済的国益であったが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降、国際テロに対応する国家安全保障が国益として新たに浮上した。

志賀はこれを「ODAの安全保障化ver.1」と呼んでいる。これに対し、2010年代以降に「ODAの安全保障化ver.2」化が進展したとしている。これは、ver.1においては安全保障の脅威がテロ組織であったのが、その脅威の対象が中国等の主権国家へと変質したと分析している。つまり国益が経済的国益からテロ対策(自国をテロから守る)へ、そして、伝統的な国家安全保障(他国の軍事的侵略からの防衛)へと変わってきたということだ。

その上で、リアリズムの観点から日本の現在の ODAが日本の安全保障の目的に沿っているか、被援助国の利益になっているか実例にもとづき分析している。取り上げられているのはフィリピンなど「同志国」への「海上保安能力強化支援」である。志賀はこの支援について、国際的な緊張が高まることにより海上保安と国防の区別が曖昧になってきている現状では、海上保安組織へのODAは軍事的な意味を持つ危険性があると指摘している。

このことは、実質的な軍事援助であるOSA の目的を達成するために、ODAとの連携が目指されていることを考えれば、そう理解されるであろうとも述べている。志賀はさらに、こうして安全保障化されたODAは、関係国を「安全保障のジレンマ(Security Dilemma)」に陥れることにより、軍拡スパイラルにまきこみ、地域全体を不安定化させる危険性があると警告している。

志賀は、こうした動きと並行してそれまで日本が外交上、推進してきた「普遍的価値」も変化したと指摘している。2000年代半ばに日本が提唱し「自由と繁栄の弧」構想は、東欧から旧ソ連諸国、そして北東アジアに至る地域を「自由と法の支配」による地域にするというものであった。そこで目指されていたのは、この地域の各国の国内における民主主義や法の支配、人権の定着であった。

しかし、開発協力大綱がその一部に組み込まれた「自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific: FOIP)構想」では、中国の「力による現状変更の試み」に対し法の支配に基づく自由な国際秩序の維持を重視する方向に転換した。志賀は日本が重視する「普遍的価値」の重点が「国内における法の支配」から、「国際的な法の支配」に移されたと指摘している。この転換とはつまり、被援助国の国内での民主主義や方の支配を重視するという「理想主義」から、中国の台頭という「国際環境の変化への対応」を優先する「リアリズム」へ変わったということだ。

そして、こうした変化は、援助政策が二重基準(ダブル・スタンダード)に陥る危険があるとしている。これは、対中戦略上重要な「同志国」であるフィリピンなどには人権侵害などがあっても援助を継続し、本来、援助を必要としている国が、安全保障上の重要性の低さから援助が減額される、あるいはストップするという逆転が起こる可能性のことだ。これはつまり、国家安全保障戦略にも開発協力大綱にも書き込まれている「人間の安全保障」が遵守される場合もあるが、日本の国家安全保障が優先される場合もあるということだろう。

志賀は、リアリズムの名のもとにODAが国家安全保障の道具となっていく今こそ、法の支配の要諦である「歯止め」として、大綱を単なる「ガイドライン」のようなものではなく、原理や原則にもとづく理想主義の「ソフト・ロー」にすることを提案している。そして、そのことが大綱を英語のChaterの名に値するものにすると論じている。

【第二発表】Win-Win言説の幻と開発協力大綱―ティンバーゲン定理、中位投票者定理、文明の使命感による考察

発表者

  • 山形 辰史(立命館アジア太平洋大学)

コメント・応答

山形論文は、パレート効率、ティンバーゲン定理や中位投票者定理などの経済学の分析フレームワークを使用しながら開発協力大綱を読み解いている。特に興味深いのは、中位投票者定理を用いた分析だ。国内的に援助に対して関心がない、あるいは国内を優先すべきであるという意見が増えている。こうした中で「援助に無関心な人々」に国際協力の意義を語りかけようとするあまり、ある意味ではそれが行き過ぎてしまい、国益だけが全面に押し出されるという結果が示される。

中位投票者定理は二つの対立する考え方がある際に、その真ん中(中央値となる中位投票者)の意見が社会的に選択されるというものだ。真ん中を取り込むために、意識的に国益を推すが、結果的に国益だけが全面に出てしまい、本当は人道目的で援助に関わっている人たちが背景に下がってしまうという問題が分析されている。

これにより、あたかも国益だけが国際協力の意義であるかのように矮小化されてしまうと言うのだ。さらに、援助―被援助関係が上下関係であるべきではないとの反省が、Win-Winという形で奇妙なことにも国益志向の議論と結びつきやすいという点も指摘されている。

ではどうすればよいのだろうか、山形はティンバーゲン定理から2個の目標には2個以上の政策が必要であると議論している。つまり、ODAという政策1つで援助受け入れ国とドナー国の国益の双方が得るというのは難しいということだ。さらに言えば、援助国側が援助から国益を得るためには別な政策を準備する必要があると議論している。

山形は具体的に次の2点を提言している。1つは途上国の支援を目標にする支援と安全保障や日本企業支援は分けて役割を明確にすべきだという点だ。もう一つは、援助供与国(日本)の利益を基準に援助を実施すべきではないという点である。つまり、本来は別々である政策目標をODAの中に押し込んでしまったという点に問題を見出しており、政策を分けるべきだという議論である。

【第三発表】NGOから見たODA/開発協力大綱の改定―これまでの改定にNGOはどう関わり、何を主張し、どんな結果を生んだのか?

発表者

  • 大橋 正明(恵泉女学園大学、聖心女子大学)

コメント・応答

大橋の論文は、松NGOの立場から関わってきた経験から書かれている。大橋自身が2014年の大綱改定の際の有識者懇談会メンバーであった。そして、今回の有識者懇談会でNGOは次の4点について主張したと述べられている。第1に国益および安全保障が強調されすぎているという点、第2に非軍事原則が形骸化してしまっているという懸念だ。第3に人権デューデリジェンスを含めること、第4にNGOを通じた支援の国際的水準までの引き上げ、である。

この大橋論文の特に重要な点はNGOが求めてきたのは民主的コントロールのより根本である「ODA基本法」であり、「大綱」ではないという点だ。法律となれば、国会を通じた国民のチェックアンドバランスが可能になるが、大綱だけではそれが可能にならないからだ。

この点は行政学的にも国内事業と比較しODAは予算の規模に反して、チェックアンドバランスが少ないという歪んだ構造になっている。今回の大綱の改訂は、そもそものそうした基本法がない状況のもとで行われたものだ。その中では本来あるべき市民・NGOの参加が十分ではなかったということが大橋論文では指摘されている。

総括

本セッションの各論文については、国際開発研究第33巻第2号に掲載予定である。

報告者(所属):島田剛(明治大学)


E1:New Dynamics of the ‘Global South’: How are Developing Countries Proactively Interacting with China?

  • 開催日時:6月15日9:00 - 11:30
  • 聴講人数:約20名
  • 座長・企画責任者:麻田玲(山口大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)

【第一発表】New Dynamics of the ‘Global South’: How are Developing Countries Proactively Interacting with China?

発表者

  • 麻田玲(山口大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)
  • 北野尚弘(早稲田大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)
  • 今井夏子(JICA緒方貞子平和開発研究所)
  • 志賀裕朗(横浜国立大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)

コメント・応答

Global South側のエージェンシーを、その地域出身の研究者らによって明らかにした研究として会場参加者より高い評価を得た。

他方で、本研究が対象7カ国における中国の開発・投資事業を扱っているが、これが日本の開発事業を扱った場合にGlobal South側のエージェンシーの発揮に変化が起きうるのか否かについての質疑や、エージェンシーをどのように測るのか、また対中認識調査の結果に対しては、アフリカ諸国の一部で高まる反欧米感情が、親米の日本に与えうる影響についてなど、会場とのディスカッションが非常に活発なラウンドテーブルとなった。

報告者(所属): 麻田玲(山口大学/JICA緒方貞子平和開発研究所)


E2:グローバルな指標の再検討―誰をどこまで包摂し、非対称性・標準化に気づけるか―

  • 開催日時:6月15日 12:45 - 14:45
  • 聴講人数:約36名
  • 座長・企画責任者:Wu Jingyuan(東京大学大学院)
  • コメンテーター:小林 誉明(横浜国立大学)
  • 司会:玉村 優奈(東京大学大学院)

【第一発表】グローバル課題の時代に、グローバル化は必然的か?―環境指標と地域環境協力の行方―

発表者

  • Wu Jingyuan(東京大学大学院)

コメント・応答

Wu会員は、どのような環境指標集(EIS)があるかをフレームワークごとに整理し、「環境共同体」と呼ばれる東アジアで、なぜ地域環境指標集がつくられていないかを3つの背景(①環境協力枠組みの脆弱性②データ取得・公開・共有の制約③指標設定の公平さの問題)から説明し、各国が模索してきた打開策としてのグローバル化の潮流を述べた。発表者はフロアへ「指標のグローバル化は、地域指標の不在を補うことができるのか?」と問いを投げかけた。

コメンテーターの小林会員からは、「グローバルな指標で何が悪いのか?」「ローカルの範囲は何か?」と問われ、Wu会員は、どのレベルの言説変化に着目するかを重視し、酸性雨の例をあげながら、拘束のための指標を超えて、やキャパシティビルディングを促す使い道があり、指標をどのように使うか話題喚起した。フロアからは、「政府の動向も関与するなかで、将来的にどのような世界をつくりたいか」と問われ、Wu会員は、比較可能性による差別の発生と、指標に対抗する力の発生への注意喚起をしつつ、国でなく草の根レベルの環境協力やより多様なアクターの包摂・協働の重要性を説明した。

【第二発表】配慮を法制度化すること―環境社会配慮から―

発表者

  • 玉村 優奈(東京大学大学院)

コメント・応答

玉村会員からは、A.センやマブーブル・ハックが寄与した人間開発指数が国際社会と開発事業に与えた影響、世界銀行が公開した世界開発指標の項目を検討し、何をはかるかを改善することが、「改善の罠」に陥る可能性を指摘した。

改善の罠は、開発事業において意図せざる結果を生み続ける制度的問題を指摘する際にも使われる。玉村会員は世界銀行が環境社会配慮政策を導入した後、日本・ADB・AIIBに伝播するも、政策改定と異議申立案件が生じ続けていることを指摘した。フロアへ「環境社会配慮はどの程度まで法制度化すべきか?法制度化の不可侵領域はあるか?」と問いかけた。

コメンテーターの小林会員からは、「誰がどんな価値基準で指標を使うか?」と疑問が投げられた。フロアからは「法律で規定すべきか」という疑問が投げかけられた。それに対し、玉村会員からはそもそも環境社会配慮政策内の異議申立制度を利用する際の情報や戦略、技術、協力者や有識者との繋がり等の環境が異なるため、それらのギャップを埋める方策として、国内法、国際法といった法的根拠が必要な場合があること、所属するコミュニティの差異や被害者の声をあげる/られない/たくない違い、政策の前提が間違っている場合にどこまで気づき、どのように組織が法制度を通して「配慮」を実施できるのかと話題喚起された。

【第三発表】グローバルな指標の再検討―発達障害のつくられ方を例に―

発表者

  • 八郷 真理愛(横浜国立大学大学院)

コメント・応答

八郷会員からは、国際的診断基準(DSM-5)を通して「発達障害」がどのようにつくられるかの背景が説明された。国ごとにADHD患者率を比較し、高・中・低所得国と有病率に関係はなく、国・地域によって特性をどう捉えるか、「普通とされる個性」と発達障害の個性の違いに差があることを示唆した。八郷会員はフロアへ「なぜ私たちは人間の不完全性を不幸としているのだろうか?」と欧米中心につくられた国際的診断基準の妥当性に疑問を投げかけた。

コメンテーターの小林会員からは、指標と基準の違いについて、特に「基準」は基準(Standard)/Criteria/水準/規格が含まれると整理したうえで、混同しないよう注意喚起と測定の基準は複数あっていいのではないかとコメントされた。フロアからは、「障害の当事者だから不幸を感じるわけではない」「福祉・サービスを享受するひとつのカテゴリだ」という声があがった。

八郷会員は、精神病院で自身のトラウマを治してもらえないショックを語り、「発達障害」にカテゴリ化して解決しようとする問題を指摘し、いつ・どこで・誰が・どのように「診断基準」を使用するかに着目することの重要性を説いた。

フロアからの「将来的にどういう世界をつくりたいか」という質問には、よりよい社会のためには基準も必要だが、部分的な問題を全人類に適合しようとすることは問題だとこたえた。また、フロアから「発達障害の児童増加による教育現場での指導の困難さ」があげられ、八郷会員は助け合いには複数のレイヤーがあり、「障害」があることで得られる恩恵も留意しつつ、その枠組みが必要か問いかけた。

総括

セッションの総括  グローバル社会、世界市民、「誰一人取り残さない」といった開発事業が目指す理念の共同体はますます拡大し、それに伴うように技術や「はかり」も増え続けている。そこで覆い隠された不平等や差別の構造に切り込む形で、発表者から話題喚起された。このラウンドテーブルは、発表者やコメンテーター、フロアという役割に縛られず、異なる背景の差異に自覚的になりながら、意見を交わす場になった。発表者の研究を動機づける思いを基に、研究のアイデアの芽を皆で育み、今起きていることを再考する場として、これからのラウンドテーブルの新たなあり方を示した点は意義がある。

本ラウンドテーブルの事後アンケートでは、「どんな気づきが得られたか」という質問に対し、「普段何気なく使っている指標というものに対する疑問や疑いの目を持つきっかけになった」、「発表者からの問いかけはいずれもこれまで考えたことがなかった」、「指標の活用・悪用・限界、仕組みのなかで例外への対応」、「小林先生の3人のお話を整理された表が印象的で情報整理に課題意識を持っていたので参考にする」といった意見が寄せられた。

意見・感想では、「若手の方が議論しているのを見て、自分も仕事や勉強を頑張ろうと思った。」という声も寄せられ、フロア・発表者・コメンテーターが双方向的に議論する場になったが、「自由討論時間がちょっと短かった」という意見もあり、議論が盛り上がったからこそ発言する機会をどのように確保するかが今後の課題である。

報告者(所属):玉村優奈/Wu Jingyuan(東京大学大学院)


E3:「若手による開発研究」研究部会セッション若手研究者が育つための国際開発学会大会とは?-質疑応答セッションのグランドルール創造を手段として

  • 開催日時:6月15日 15:00 - 17:00
  • 聴講人数:約15名
  • 座長・企画責任者:森泰紀(同志社大学大学院)
  • コメンテーター・討論者:澤正輝(ラーニングビレッジ)

【第一発表】

発表者

  • 神 正光(名古屋市立大学大学院)

コメント・応答

今回の報告では、「次世代を牽引する若手像」について私が社会人として実務で取り組んでいる内容と若手研究者として取り組んでいる内容の重複する部分について整理を行い、オーディエンスも含めて内容の深化を行った。

事実わたしは、社会人として災害ボランティアと被災地のコーディネートならびに仮設住宅のヒアリングをはじめとするコミュニティ構築支援と研究活動を行っている一方、研究活動では途上国の自然災害と貧困との関係や、自然災害と社会資本との関係などを研究している。両者において共通していえることは人々の厚生に貢献しているということである。

つまり、今回の報告とオーディエンスとの議論の結果、私の思う「次世代を牽引する若手像」とはより良い社会をイメージし、その実現に向けて研究や実務などの何かしら努力ができる人だと思う。事実、国際開発という学問はいまやSDGsという言葉の普及もうけて専門性が今後ますます重要になっていくものと考えられている。

そのプロセスの中で、学際的な国際開発学の専門性の深化をさらに行い、それを実務レベルまで落としこみ、草の根レベルで支援を行うことができる若者が増えていくことによって、次世代の国際開発学ならびに社会はよりよい学問分野へと移り変わっていくと信じている。

【第二発表】

発表者

  • 八郷真理愛(横浜国立大学大学院)

コメント・応答

今回のラウンドテーブルでは、「次世代を牽引する若手像」について、国際開発分野の研究をしている一大学院生としての意見を発表した。「次世代を牽引する」ためには、「次世代を牽引した後の目的」をしっかり持つことが必要不可欠で、世界中の人々と「開発のあるべき姿」「開発した先の目的」を共に議論し、世界の中の自分自身の役割を考え、出来ることはなんでもやってみる姿勢が必要で、その意味での「自分づくり」が必須である、という旨の発表を行った。これに対し、「なぜ若手などの年代によって区切る必要があるか」などのコメントをいただいた。多様な年代の参加者からの意見をもとに、若手としての強みがたくさんある一方で、どのような世代であれ、より良い世界の実現の為に、あるべき開発の姿を探し求め、これを実現するために、世代間の交流の活発な仕組みづくりが必要であるという結論に至った。

【第三発表】

発表者

  • 橋本 武龍(京都大学大学院)

コメント・応答

今回の研究部会での議論を通じて、批判的思考が未来を見据えた研究開発においていかに重要かを再認識しました。特に、以下の3つの観点から批判的思考を深化させることが必要だと感じています。

1. 論理的・合理的思考:事実に基づき、論理的に推論する能力を養うことが、誤った情報を見極め、正しい決断を下す上で不可欠です。

2. 目標思考的思考:目標に向かっての戦略を立てる際、現状分析と将来予測を行いながら最適な選択を追求する思考スタイルが求められます。

3. 内省的・熟慮的思考:自己の考えや決定に対して、客観的かつ批判的に評価を下し、必要に応じて修正を加える柔軟性が重要です。

これらの観点を踏まえ、新たな研究やプロジェクトにおいて、望ましい未来の姿を描くための新しい視野を切り開くことが、次世代を牽引する若手研究者にとっての使命となります。将来に向けての革新的なアプローチが、より良い社会の実現に繋がると確信しています。

総括

セッションの総括 本ラウンドテーブルは、若手が次世代を牽引するために必要なスキルと意識を高める場として設計されました。今回のセッションでは、内発的動機を育むことの重要性が強調され、参加者は在りたい姿や目指すべき方向性を明確にすることの価値について深く掘り下げました。

参加者は、「次世代を牽引する若手像とは何か」という問いかけを通じて、自己の研究と社会的役割を反省する機会を持ちました。また、質の高い対話を実現するために、外部の専門家を招聘し、様々な視点から意見を交換することで、学術的な見識を広げることができました。このプロセスは、若手が自らの研究を社会に適用し、より大きな影響を与えるための理解と技術を深めるための場を提供したと考えています。

さらに、このラウンドテーブルは、異なる世代や分野の研究者間の対話を促進し、国際開発学会の枠を超えた協力と理解を深める場となりました。このような対話を通じて、参加者は多様な視点を統合し、持続可能な発展への貢献を模索しました。

結果として、本ラウンドテーブルは若手が直面する現代の課題に対応し、未来に向けて自らの在り方・生き方を思考する機会を提供しました。参加された皆さんがこの経験を通じて、さらに成長し、それぞれの道で新たな一歩を踏み出すことを心より願っています。

報告者(所属):森泰紀(同志社大学大学院)


F3:地政的言説に狭間に目を向ける——メコン地域をめぐる開発協力の事例から

  • 開催日時:6月15日15:00 - 17:00
  • 座長・企画責任者:大山 貴稔(九州工業大学)
  • コメンテーター・討論者:キム ソヤン(ソガン大学)・汪 牧耘(東京大学)

【第一発表】FOIPという言説/実践の基本構造——開発協力における海の安全保障化と陸の連結性

発表者

大山 貴稔(九州工業大学)

コメント・応答

大山会員からは、本ラウンドテーブルが前提とする基本状況の説明が行われた。地政的言説が国際的に流布している現状を念頭に置き、その一端を担う「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の形成と展開に焦点を当て、それがメコン地域における開発協力政策に及ぼした影響を整理する報告であった。

陸地ではASEAN由来の連結性概念を軸にインフラ整備支援に力が注がれるようになり、海洋では中国の海洋進出に抗して開発協力の安全保障化が進んだ傾向を指摘して、事業配分の内実に分け入って分析する意義について論じられた。

これを受けてフロアからは、①かつてタブーだった「地政学」という言葉を使うのはなぜか、②言説と実態の関係をどのように理解しているか、③事業配分とはどういうことか、などの質問が投げかけられた。大山会員からは、①すでに政策を枠づける言説として流布している以上、その形成と展開を辿って現在進行中の変化を適切に理解したい、②本報告で取り上げた面に関しては言説が実態に影響を及ぼすベクトルが強い、③ODA見える化サイトから事業費だけでなく分野課題や協力地域などをデータ化して分析する構想がある、などの応答がなされた。

【第二発表】開発協力研究という「狭間的実践」̶̶中国における日本の開発協力大綱の捉え方を事例に

発表者

汪 牧耘(東京大学)

コメント・応答

汪会員の報告はFOIP構想を念頭に置いた開発協力大綱の改定(2023年6月)に焦点を当て、日本政府が競合相手と位置づける中国側でそれがどのように捉えられてきたのかを学術文献データベース(CNKI)を用いて明らかにするものであった。

具体的には、中国国内では上述の大綱改定自体が関心を集めるには至っておらず、新大綱を取り上げた数少ない研究・報告も安全保障が分析軸とされていると論じられた。そのうえで、このような状況下で開発協力の実務者レベルの日中対話は職能範囲の超えない「局所的最適」な情報交換になっており、開発協力をめぐる好ましい言説が生み出される兆しがあったとしても、時勢によって簡単に覆されてしまう可能性があると問題提起がなされた。

これを受けてフロアからは、①同じ中国でも社会科学院には日本研究に従事する人も多いのではないだろうか、②開発協力の実務レベルで日中間ではタブーになっている対話があるのではないか、などの質問が投げかけられた。

汪会員からは、①社会科学院の中国人研究者は安全保障を軸に開発協力大綱を捉えている、②政治的関係に緊張感があるなかで、中国側実務者による発言と彼らの日本理解を同一視することには慎重になる必要がある、③言説分析の死角はもちろん意識すべきだが同時に研究そのものの限界も意識する必要がある、などの応答がなされた。

【第三発表】地政・地経学的競争という言説の狭間——メコン地域における開発協力を事例に

発表者

キム ソヤン(ソガン大学)

コメント・応答

第1報告、第2報告を踏まえつつ、キム会員はメコン川を取り巻く開発協力の現状について報告した。特にトランプ政権になって米国が東南アジアへの関与を強めて以来、メコン川の水資源ガバナンスに関する知識生産過程では米中の地政的・地経的緊張が影響を及ぼすようになり、気候変動やタイのような東南アジア地域内アクターたちの開発や投資などの諸要因は脇に置かれ、メコン川干ばつの責任を中国のダム建設に帰する言説が広まった経緯を詳らかにする報告であった。

GeopoliticsとGeo-economicsの研究潮流を見渡しながら、それらを前景化させた政策枠組みの設定だけではドナー側の一方通行的な開発協力を強めることになり、そこでは現地の草の根アクターが等閑視されていることも指摘された。

これを受けてフロアからは、①メコンという地域表象のあり方が歴史性を帯びていることをどのように捉えているか、②言説と実態の関係をどのように理解しているか、③初めから中国が抜けている「メコン流域」や「インドシナ・メコン地域」のような言葉をよりクリティカルに使うべきではないのか、などの質問が投げかけられるとともに、メコン地域で生じている諸現象についての情報交換が行われた。

キム会員からは、①地域表象の歴史性も意識はしていたが紹介された文献を踏まえて理解を深めていきたい、②政策言説に汲み取られていない現象やそうした言説が引き起こした現象ながらも意識化されていないことに光を当てつつ、地政的・地経的緊張に安易に絡めとられないような研究を構想したい、③地域表象のポリティクスを意識しながら大勢の追認にならないように自分たち研究の矛先を見定めたい、などの応答がなされた。

総括

これらの報告と質疑応答を通して、メコンと名指されたり名乗られたりする地域がいかに歴史的かつ重層的に形成されてきたのかを改めて意識することとなった。

地政的言説が席巻する2010年代以降の状況に限ってみても、少なくともFOIPに関してはロシアへの意識やASEANの地域構想など、中国の一帯一路だけでない様々な要素が流れ込んだ言説/実践となっていた。

その一方で、開発協力の実務者レベルでは日米と中国のあいだで高まる地政的・地経的緊張が前景化しており、そのことが中国と日本の間では開発協力の実務者レベルのコミュニケーションを職務の範囲に絞った形式的なものとしたり、メコン川を取り巻く状況についての知識生産を一面的なものにする傾向が出てきたりと、緊張の高まりが抜き差しならぬ影響を及ぼしてきた様子が浮かび上がった。

そこから際立って感じられたのは、開発協力が帯びた国際公共政策的な性質であった。国際機関のアジェンダや各国政府が掲げる政策だけでなく、各国の開発協力事業及び実務者、そしてその影響を直に受ける現地のステークホルダーなどを広く視野に入れなければ、開発協力の現在地がどのように形づくられているのかを理解することは難しい。

日米や中国が掲げる政策レベルの地政的言説が国際的に流布するなかで、メコン地域のステークホルダーや開発協力事業の実態など、そこに還元されない現象について断片的ながらも議論することができ、次なる調査と考察に向けた手がかりを得る貴重な機会となった。

報告者(所属):大山 貴稔(九州工業大学)


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